用意をすると僕と小雪はいつも通りに家を出る。礼儀正しく品行方正に「行ってきます」は忘れないで。その後に聞こえる素っ気ない「行ってらっしゃい」を聞きたくて。
今日もいつも通りの晴れ晴れとした天気で心の中まで透けて見られそうな程の、強烈な太陽光が僕達を貫いているようだ。実際貫いていたら僕達は溶解でもしていそうなものだが。
「………荷物…忘れてない?」
小雪が何時ものように僕に話しかけてくる。朝の人通りの少ない通学路では聞こえるのは鳥の鳴き声や風の吹く音位なものであり、小雪からしたら少しばかり気不味いのかもしれない。僕からしたら全く話さなくても害はないのだが、可愛い妹から話しかけられたならそれに応えるのが兄としての義務である。否、権利である…!
確か無いはずだよ?僕は毎日寝る前、108回は見直してねるからね。
「………兄さんはおバカなの?」
あらら、僕の渾身のボケには気付けなかったらしい。僕の発言に不安を覚えているのか僕の表情を伺っているが背の問題によって、否、背のおかげにより上目遣いに近い形で僕の事を見てくる妹を見る事が出来た。役得役得。
大丈夫だよ。と答えながら小雪の頭を軽く撫でてあげると、大人しく撫でさせてくれる為に学校に着くまでずっと撫でてしまった。何度か止めるように目線で訴えかけられたがそれは黙殺した。朝の内に癒しを貰って置かないと学校になど行けたものではない。
校門に着くと、まだ朝早いためか生徒の数がちらほら見える程度で非常に通りやすくなってた。校門に掲げられている立派な大理石?大理石は白い気がするけどそのような真っ黒な石の塊で出来た学校名【×星学園】……いつも通り僕には最初の一文字が見えない。見えなかったとしても大して害はないからいいのだが。
下駄箱で小雪と残念ながら、遺憾ながら別れると二階にある自分の教室である2-2に向かう。小雪は一年生であるから一階の奥の教室だが、僕は二年である為にわざわざ小雪と階を隔てなくてはならない。
そんな何時もの恨み辛みを心の内で誰とも無しに呟いていると首に突然衝撃を加えられた。
「おっはよっ!××!」
あぁ、おはよう。朝からハイなのは何時もの事だからもう気にしたりはしないけど、毎度毎度首に抱き付いてくるのは何でなのかな?首が折れるよ?それに男同士でそんな事をやってるとあっちの気があると思われるよ?
「おいおい、そんなことを今更言うのか?一年の頃からこんな感じだっただろ。あっちの気?いやいや、俺はしっかりとしたノーマル!お姉さん系の人がとってもタイプなんだよなぁ。」
昇降口で話すような事ではない事をベラベラと捲し立てるのはこいつの悪い所だ。この如何にもスポーツが得意みたいなのを絵に描いたようなトゲトゲ頭の名前は佐々木 正義。なんとも偉大な名前だがそれに見合ったように不条理が大嫌いと言った好青年である。
昔から僕はこんな風にされていた、か。覚えておかないと。相手の言葉を忘れないように何度も頭の中で繰り返しながら正義と一緒に階段を登ろうとした時、一人の女の子が戸惑っているように辺りを見回していた。
大丈夫?何処に行きたいの?出来うる限り親切に聞いてみると、相手が僕の声に反応して此方を向くと驚愕、困惑、怒り、殺意、顔色が一瞬にして変わっていったのがみてとれた。相手は眉が少し上がっただけなのに何で僕は.......このこの感情がよめたんだ?
「………職員室です。」
「職員室なら一階の昇降口から突き当たって右だぜ。」
正義は何も感じていない様に場所を的確に教えては人懐っこい笑顔を相手に向けていた。
「ありがとうございます。……………た。」
相手は僕達にというか明らかに正義の方に会釈をすると凛とした姿勢で歩いていってしまった。僕は何か悪い事でもしたのだろうか.......?それにしても、なんでこんなにあの子が気になるんだろう.....。そして、今.....何かを言っていたような。
「かははっ、嫌われちまったみたいだな?転校生かー、すげぇ別嬪さんだったな?俺告白しようかなー。」
正義のおちゃらけた言葉に少しばかり思考に耽っていた自分を叩き起こすと「絶対に無理だよ。」しっかりと断言して希望を絶ってあげた。それでも諦めていないようだし、まぁ好きにさせるとしよう。
その後はたわいもない話をしながらホームルームまで時間を潰していた。これからも変わらない一日が始まると信じて。