あきらちゃん、頑張れ!
驚きのあまり大きく見開いた目をぱちくりさせるあきらを、立花姉妹は可愛いと思う。
何故だろう。胸がドキドキして、頬が熱くなる。
それを見て、日菜佳はニヤニヤが止まらない。
「こんにちは」
そのとき、店の戸がガラガラと開いた。
「いらっしゃいま・・・あら、明日夢くん!」
来客の正体に、あきらは飲んでいた緑茶を思わずこぼしてしまう。
どうも、と頭をぺこりと下げると、明日夢の目はあきらを捕らえた。
「よかった、ここにいるんじゃないって思ってたんだ」
明日夢は鞄から取り出したプリントを手渡した。
「ホームルームのすぐ後、先生が配るの忘れてたとかで持ってきたんだ。あきらさん、急いで帰っちゃったから、貰ってないでしょ?」
明日夢はそう言って微笑みかけるが、当のあきらは立花姉妹との会話を思い出し、頬を赤らめる。
「ちょうどよかった。あきら、明日夢くんを誘いなさい」
あきらの耳元で、香須実が囁いた。
「えぇっ、そんな・・・」
「そうですよ、自分から誘わなくてどうするんですかぁ」
日菜佳がガッツポーズでエールを送ってくれる。
「おーっと、魔化魍の資料の整理の途中だったんだ」
「あ、私も洗い物しなくちゃ・・・」
いかにもわざとらしく立花姉妹は席を離れ、テーブルには明日夢とあきらだけが取り残された。
店内では老人のグループが談笑しており、時折楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「いやー、それにしても、あきらさんって大変だよねぇ」
明日夢は学校の外では、あきらのことを下の名前にさん付けで呼ぶ。
「鬼の修行で勉強できなかった分を取り戻して、今習ってる単元もよくできてるじゃない?俺なんかとても・・・」
「あの」
明日夢の言葉を遮って、あきらは口を開いた。
「え、何?」
駄目だ、話し始めたはいいが、肝心な本題を切り出せない。顔が熱い。火が出そうだ。
そこへ、日菜佳が二人の前に吉備団子とお茶を持ってやって来た。
「はい。これは私から、若いお二人へのおごりですよ~」
「あれ、日菜佳さん、洗い物は・・・」
「明日夢くん、黙って食べましょうね?」
優しい口調とは真逆の視線に、明日夢はビクッとして、慌ててお茶を啜る。
立ち去るとき、日菜佳は口を「頑張って」と動かしながら、吉備団子を指差した。
あきらは一瞬不思議そうに首を傾げたが、明日夢と吉備団子とを見比べ、何かに気づくと、思わずプッと吹き出した。
「え、何、どうしたの?俺の顔に何か?」
不思議そうに尋ねる明日夢。
かつてヒビキはその頬をマシュマロのようだと言ったが、こうして見比べると、団子にも似ている。あきらは日菜佳の言いたいことを理解した気がした。
「あの、安達くん」
あきらは恥ずかしそうに少し俯いて話している・・・ように見えたが、実は、彼女の目はハッキリと、目の前の吉備団子を捕らえていた。
大丈夫、吉備団子相手なら、デートにも誘える。
「あの、その・・・。もしよかったら、明日、一緒に何処か、遊びに行きませんか?」
言えた!
「え!?」
明日夢は驚きのあまり、口に含んだお茶を少し吹き出してしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
あきらが慌てて布巾でテーブルと明日夢の制服を拭く。
「ご、ごめん、有難う。でも、俺と?一体どこに・・・」
そのとき、明日夢の肩に香須実がポンと手を置いた。手には映画のチケットが2枚握られている。
「この映画、二人で見てきたら?イブキくんと行くつもりだったんだけど、彼も忙しいのよ」
香須実がくれたのは、学園もののラブコメ映画のチケットだった。
確かに、高校生の二人には相応しいとも言える。
「あの、どうですか、映画・・・?」
あきらが尋ねる。その目は、吉備団子ではなく、ハッキリと明日夢を捕らえていた。
「うん、俺でよければ、いいよ。病院のバイトもないし」
女の子から二人で出かけようと誘われたにも関わらず、明日夢はいつもと変わらぬ様子で頷いた。
「よかったぁ~」
ホッと胸を撫で下ろし、正していた姿勢をどっと崩してあきらは背もたれに寄りかかった。
「映画かぁ、入学前に持田と二人で行ったとき以来だなぁ。楽しみだね」
あきらの前でも、明日夢は平気でひとみの話をする。
きっと、安達くんは誰に対してもこんな感じなんだ。私も持田さんも、特別な存在なんかじゃない。
ふと横に目をやると、店の奥から「家政婦は見た」のポーズでこちらを覗き込んでいる立花姉妹が、ガッツポーズをしていた。
あきらが明日夢くんをデートに誘う回でした。
明日夢くんは師匠のヒビキさんに似て、恋愛に関しては鈍感なんじゃないかと思って書きました。出演者のインタビュー対談でも、明日夢くんは恋愛に鈍感だということが語られていたので。
さて、ここからの続き全然考えてないけど、どうしたものか・・・。
閲覧有難うございました。