デートの日の朝って、緊張しますよね(汗)
快晴の空から射し込む陽射しに目を覚ました少女・天美あきらは、ハンドバッグの中身の点検をしていた。もうこれで三度目になる。
昨日の夕方、明日夢とのデートを取り付けた後、あきらは香須実に連れられて繁華街へと買い物に繰り出した。
そういえばと、香須実があきらの私服について考えたのである。思い返せば、香須実の記憶の中にあるあきらの私服といえば、修行の際に着るようなものばかりだったからだ。
鬼の弟子を辞めてから、休日をまるまる運動に使うこともなくなったので、多少はオシャレをするようにはなっていたが、あまり気合いを入れたおめかしはしていなかった。
まさか、修行のときと同じ服装でデートするつもりなのかと、半ば強引に香須実に連れ出されたのだった。
香須実は繁華街をまるで自分の庭であるかのように熟知しており、スタイリッシュな服の店や可愛らしい服の店、高級ブランド店からリーズナブルな庶民派の店まで、いくつもの店を梯子した。
思えばあきらはイブキの元に引き取られてから、買い物を楽しんだ経験がなかった。いつも一人か、もしくはイブキと一緒に、安い店で安い服を適当に選んで買うだけ。
だって着る場所が山や川なんだもん、オシャレしたって仕方ない。そう思っていた。
だから今、あきらはウキウキした気分でパジャマを脱ぎ、昨日香須実に買ってもらったチェック柄のワンピースに着替えた。
ワンピースを着るなんて何年ぶりだろう。少なくとも、両親を失ってからは着たことがなかった。チェックの柄も自分には新鮮に感じられて気に入っている。
同じく昨日香須実に買ってもらった靴を履き、玄関の扉を開いた。
暗かったあきらの部屋に、光がどっと射し込んだ。
「あれ、あきら?」
マンションを出てすぐのところで、あきらはイブキに出会った。
何故か目を丸くするイブキにあきらは首を傾げるが、すぐに自分の服装のせいだと気づく。
「へー、流石は香須実さんのコーディネートだ。うん、すっごく似合ってるよ」
思えば、誰かから外見を褒められるのも久々だった。
それが純粋に嬉しいことだということを、あきらは思い出す。
「フフッ、有難うございます。イブキさんも、相変わらずすっごくカッコいいですよ」
ジャージをスタイリッシュに着こなし、汗をかいているところを見ると、朝のジョギングの帰りといったところか。
「ハハッ、実はこのジャージも香須実さんに選んでもらったんだ。・・・それより、今日は大事な日なんだろ?」
イブキは両手をポンとあきらの肩に置き、ニッと笑ってみせた。
恐らく、香須実か日菜佳から事情は聞いているのだろう。
「緊張するかもしれないけど、笑顔が大切だよ?」
何故だろう。イブキには、人を落ち着かせる力がある。勇気が湧いてくる気がする。
「・・・ハイ!」
あきらはイブキの真似をしてニッと笑うと、ぺこりと一礼してから再び歩き始めた。
「もぉ、なんで起こしてくれないんだよ!?」
大切な日に限って、男は朝寝坊をする。特に、明日夢はその典型的な例だった。
「だから、起こしたわよ。アンタがベッドから出てこなかったんでしょ?」
明日夢の母・郁子が珈琲を啜りながら答える。安達家では定番の会話だ。
「もぉ~!」
明日夢は衣装ケースからパーカーを2枚引っ張り出し、郁子の前で合わせてみた。
「どっちが女の子ウケいいかな?」
「う~ん、右ね」
「じゃあ、このズボンは?」
「断然左ね」
明日夢のコーディネートを見届けた郁子は再び珈琲の入ったマグカップに口をつけ、テレビに目をやった。
しかし、すぐに目を丸くして明日夢を見る。
「アンタ、服装なんて気にしてどうしたの!?」
「別に、どうもしないけど・・・」
「何処行くの?」
「映画」
「誰と?」
「友達と」
「女の子ウケがどうとか言ってたわね。その友達、女の子でしょ。それも、ひとみちゃんじゃない」
ぎくり、あきらと出かけることがばれてもなんら問題はないはずだが、なんだか気恥ずかしい気分だ。
「うん、そうだけど・・・」
明日夢は小さく頷いた。
「アンタ、いつの間にそんなモテるようになったのよ?」
郁子は目をキラキラ輝かせながら詰め寄ってくる。
「モテるのはいいけど、ひとみちゃんにはちゃんと断ったの?」
「いや、別に持田とはそんなんじゃ・・・」
「一人の人間として言わせてもらうけどね、浮気は最低よ!?」
「だから、そんなんじゃないって!」
不機嫌そうに行ってきますと言うと、明日夢は急いで出ていった。
「ふーん、あの子がねぇ。流石、私が惚れた男の息子だわ」
待ち合わせ場所の駅。
あきらは不安そうな表情で腕時計を見ていた。
待ち合わせの時刻を過ぎて15分。
遅いなぁ、安達くん。
連絡を試みたが、電話には出ないし、メールも返信がない。
何かトラブルに巻き込まれていなければいいけれど。
不安になって、ふと空を仰いだ。
はい、明日夢くんはやっぱり大事な日に寝坊します。ヒビキさんと 出会ってもそこは変わってないのなぁ。
ここから先、本当にアイディアがないんですけど、どうしましょう・・・?
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