今回は少しだけ長めです
それではどうぞー!
「なにやってたのよ…遅すぎるわよ…」
「…屋敷の周りに随分と頑丈な結界が張ってあってなァ、壊すのに時間掛かっちまった」
一方通行は僅かに視線を下にずらして血塗れで死んでいる幽々子を一瞥した
(すまねェ…)
心の中で謝罪の言葉を述べると紫の襟元を掴んで幽々子ごと真後ろに放り投げた。計算通り、妖忌の腕へすっぽりと収まるように受け止められた
「なにするのよ!」
「『あれ』封印するンじゃねェのか」
『あれ』とは西行妖のことである。先程の攻撃で一方通行をターゲットにしたようだ
「でも封印する準備も何も…」
「ほらよ」
一方通行が投げ渡したのは一冊の古ぼけた本だった
「なによこれ」
その書物の表紙には『人死使妖縛之法』と書かれていた。それを見ただけで紫は察した
「あれを封印するための方法が載っている。俗に言う禁術だがな…そろそろあれも動き出す。俺が引き付けるからその間に上手くやれ、できなかったら殺す」
つまりそれは西行妖を封印するために幽々子の死体を使えということだ
「…わかったわ」
ザワッ!!
先程よりも遥かに多い枝が一方通行を串刺しにせんと驚異的なスピードで迫ってくる
「…」
一方通行はその場から動かずに影で創った無数の武器で枝を払っていく
(あれは周りの生命力を奪う、なら反射に頼らねェ方がいいだろうな。万が一反射膜を貫通してきたら死は避けられねェ)
「あれ…お兄様は今まで影をあのように使ったことはなかったのに…」
(やはり気づいておったか)
一方通行の能力は攻撃を防ぐ物でも捕縛に使う物ではない。本来の使い道は一方通行の類いまれなる頭脳に記憶されたそれぞれの武具を想像、及び複製して様々な戦況に応じて使い分け、それを手も使わずに無数の武器を操って攻撃する。攻撃こそ最大の防御とはよく言ったものである
「俺の影はあくまでも影でしかない。生命力もクソもない、このままじゃあお前のジリ貧だぞ」
オ…オ…オォ
西行妖も諦めが悪い、切られた枝を再生すると既に封印するための準備に入っていた紫を狙うようにしたようだ
「ハッ、精々足掻いて見せろよ三下ァ!」
しかし一方通行がそれを許すわけがない、紫の影から武器を精製すると紫の周囲を数百本の影の剣飛び回り、生命力を奪う恐々の枝を凪ぎ払う
「さっさとしろ、アイツもそろそろ本気で来る頃だ」
「うるさいわね、集中できないじゃない!もう少しかかるから待ってなさい!」
準備に時間が掛かるのも無理はない、なにしろあれだけ膨れ上がった妖力を封印しようとするならそれなりに大規模な結界を張らなければならない。それに加えて友である幽々子を礎にするのだ、普通ならとっくに発狂していてもおかしくはないのにい未だ正気でいられるのは流石は大妖怪といったところか
(不味いな、いくらアイツでももう少し時間が掛かるか…)
グワッ!
手数で駄目ならばと西行妖は数百本の枝を一纏めにすると紫や一方通行もろとも潰そうと大木並みに太くなった枝を降り下ろしてきた
「チッ!」
一方通行は更に数百本の武器を創造して防ぐが受け止めきれない。次々と壊されていき、武器の盾はあっという間に突破されたが一方通行は二本の刀を創造し、耐久力を極限まで増幅させると枝を受け止めた
「ガッ!!」
オォオオォオ…!
ベクトル変換も使っても防ぎきれない。徐々に地面が陥没していき、遂に刀もミシミシと嫌な音が聞こえてきた
「嘗めてンじゃねェぞ…三下がァ!」
ザンッ!
影で精製された大剣が西行妖の束ねた枝を切り裂いた。その途端にあれだけ動いていた西行妖が何事もなかったかのようにピタリと動きを止めてしまった
「…死んだのか?」
「…死ンだなら妖力を感じなくなる筈だ」
妖力は未だにこの屋敷中に溢れかえっている、薄くなった感じはない
(なに考えてやがる…隙を見て攻撃しようと考えているなら不用心過ぎる。構えすら取らないってことは…っ!)
不意に後ろから殺気の混じった妖力を感じ取り、一方通行は上に飛び上がった。先程まで一方通行が立っていた場所に鋭い斬撃が放たれる
「…っ!」
「そんな…クロ!」
『…』
攻撃してきたのはクロだった。普段の天真爛漫な雰囲気とは全く別物、恐ろしく静かで憎悪に満ちた表情で此方を睨み付けていた
(付喪神のクロが妖力を持っているわけがねェ…てことは)
「オマエ、西行妖か?」
『そうだ…この娘は…保険…として用意…しておいたのだが…よもや…使うことになる…とは思わなかった』
クロの声であり、クロの物ではない音が響き渡る
「保険だと?」
『最初に…妖力を放出した…ときに自身…の妖力を混ぜ…ておいたのだ…この…娘は最後の…最後まで抵…抗していた…がな』
つまりクロはいままで必死に西行妖の支配に抵抗していたのだ
「クロ!私がわからないの!?」
『無駄だ…この娘の…意識はとうに…食らい…つくしてやった…死ぬ…ことはあっても…目覚める…ことはない』
「テメェ…死ぬ覚悟は出来てンだろォなクソ野郎がァ!!」
『フフフ…殺すか?構わんが…この…娘ごと…斬ることに…なるぞ』
「っ!」ギリリ
常人は受けただけで死ぬような殺気をぶつけられても西行妖はヘラヘラと嗤うだけ、しかも体はクロということが厄介だった
「駄目ですお兄様!クロを傷つけないでください!」
「………」
『ククッ…やはり…口だけの…でまかせか』
西行妖が手を上げると今まで動かなかった桜の木が動き始め、此方に無数の枝を向けてきた。そのうちの一本がクロの首に突きつけられた
『さて…取引といこうか…この娘の意識と…体は返してやる…代わりに…白髪の坊主…お前の体を…よこせ』
「………」
「…お兄様?」
一方通行は動かない、喋りもしない、ただ俯いて立っているだけだった
『沈黙は…肯定と…受けとるぞ』
手を降り下ろすと一斉に一方通行の周りを枝が取り囲み、たちまち一方通行の姿は見えなくなってしまった
「お兄様!」
『フッ…馬鹿め…』
西行妖の意識は黒い靄となって一方通行に乗り移るためにクロから離れていった、その瞬間
「ガァァァァァァァァ!!」
凄まじい咆哮と共に一方通行が閉じ込められている筈の枝の中からどす黒い『何か』が黒い靄を叩き潰さんと飛び出してきた
『チィッ!』
西行妖の意識は間一髪の所で避けた
ズルリ
不気味な音をたてながら一方通行と思わしき者が這い出てきた。なぜ思わしきと言うのかというと、一方通行は黒い何かに取り込まれており、普段の白さは全く伺うことはできない。ただ真っ赤な瞳だけが爛々と輝いている、まるでこの世のものではない何かが怒り狂っている感じに周りは震え上がった
『なんだ…この力は…どこから…出てきた?』
「お兄様…?」
「なんと…」
「ん…兄ちゃん…?」
(私、あんなのに喧嘩売ってたのね…これからはイタズラするの止めようかしら…)
狂気の赤い双眼と切り裂くような殺気、近くにいるだけで心臓が止まりそうになるほど重圧のかかる妖力は場にいる全てのものを支配した
『ふ…ふざけるなぁ!』
西行妖は再び一方通行を攻撃するが一方通行は避けようとも迎撃しようともしない、ただ少しだけ首を傾けて西行妖を見ているだけ。その姿は不気味と言うしかない
「お兄様、危ない!」
『死ねぇ!』
ズブッ!
「兄…ちゃん」
『は…ははは!何だ…見かけ倒し…じゃないか…?』
西行妖は違和感を感じた。普通刺されたなら血の1滴や2滴落ちてもおかしくない、だが一方通行からは血が流れない。なぜか手応えも感じない、それどころか
『貫通していない…!?』
明らかに体の厚み以上の長さの枝が刺さっている筈なのに貫通していない
『くっ!』
慌てて枝を一方通行から引き抜くが、刺さっていた部分が綺麗さっぱり無くなっていた
「…」
グリン!
物凄い勢いで一方通行が首だけを西行妖の意識へ向けた
『ひ…!』
西行妖は逃げようとするが一方通行の背中から出てきた翼のようなものに捕まってしまった
『やめろ…離せ!』
「キヒ…ヒヒヒキヒギャハハハハ!!」
一歩、また一歩と一方通行が狂った笑い声を上げながら近づいていく。その一歩は西行妖の残りの寿命と言っても過言ではなかった
「ヒヒ…」
『やめろぉぉぉぉ!!あぁぁあぁあぁぁ!!』
グシャッ!グチャバキッ!
「ひっ…」
思わず耳を塞ぎたくなるような音をたてながら潰し、引き千切り、切り裂く。だが不思議なことに意識のはずであるのに大量の鮮血が飛び散っていた
「なぜ…血が?」
「…西行妖は数多の人の命を吸って生まれた妖怪だと聞いておる、恐らくあの意識は霊体などといった類いではなく、複数の意識が固まってできた一種の肉体のようなものなのだろう」
その会話の中でも一方通行は殺すのを止めない。漆黒の体は双眼と同じく真っ赤に染まり、この上なく楽しそうな表情を浮かべて殺し続けた
『が…あ…』
数多の命が集まってできた西行妖は一回や二回殺された程度では死なないが、徐々に西行妖の意識が薄くなってきた
『くく…最後の最後で…私の勝ちだ…次に目を覚ましたら…貴様らから…呪い殺して…くれる』
そう言って意識は消え、桜の花弁は一斉に散っていった。西行の封印が完了したようだ
「終わったわ…」
「だが…」
そう、一方通行が元に戻っていない。西行妖が封印されると今度は此方を睨み付けていた
「次は私達が標的ということかしら」
「しかし、勝てる要素がありませんぞ」
なんとかして一方通行を止めようと紫と妖忌が策を練っている中、二人の間をユキが通りすぎていった
「駄目よユキ、戻りなさい!」
「大丈夫です、私はお兄様を信じています」
「アァァァァァァァァ!!!」
一方通行は背中の噴出物を物凄い勢いでユキへ降り下ろした。誰もがそこにはグチャグチャになった肉塊が出来上がるだろうと思っていたが
ガキィィィン!
ユキに触れる一歩手前で全てを破壊する物体が止まった。ユキに今の一方通行を止めることはできるわけがない、すなわち
「一方通行が…止めたの…?」
「ガァァァァァ!!」
再び降り下ろすが届かない、横に凪ぎ払うが当たらない。その姿はまるで何かに苦しんでいるようにも見えた
「アァァァァァ!?ガァァァァ!!」
一際大きく振りかぶり、叩きつけるがユキのサイドをすり抜けて当たらなかった。それを境に一方通行の動きが嘘のようにピタリと止まってしまった
「…」
「お兄様…もう…敵はいませんよ」
「…」
一方通行の周りから黒い何かは霧散していき、糸が切れたようにユキに倒れこんだ。一方通行を受け止めたユキは少しだけよろけてしまったがしっかりと一方通行を抱き締めた
「お帰りなさい、お兄様…」
今回はここまでです
次回は…う~ん…みょんな女の子でも出そうかな…?
それではまた次回!