宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 茉莉香とチアキは、クリスティア王女と共に、辺境の新しい自治国家、ブルック王国の自治条約調印式に参列するため、同王国に出張しました。
 茉莉香は、到着した途端、ブルック王国の三王子から白い百合の花を贈られます。何気なく笑顔で受け取った茉莉香ですが、回りの様子が何かおかしい・・・。
 チアキはチアキで、ブルック王国のアメリア王女から、「男」をめぐって決闘を申し込まれてしまいますが、・・・。
 クリスティア王女は、ブルック王国の実力者である長女バレンシア王女とともに、弟たちや妹たちを気遣う「姉」の立場の苦しさを嘆きあいながら酒を酌み交わし、話は大いに盛り上がります。二人の会話は、銀河帝国の秘密に近づいていきますが・・・。
 
 


第十章 ブルック王国

10-1 ブルック星系 

 

 ここは銀河系の辺境部、ブルック星系と新しく呼ばれるようになった星々の空間である。

「まもなく、ブルック星系の指定された座標の通常空間に復帰します。」

 機動空母グランドマザーは、時空トンネルを出て、待ち受けるブルック王国の船団の前に静かに姿を現した。

「ほう、これが銀河帝国の新兵器か。でかいなあ、この中に大型の新戦艦を三隻も積んでいるって、話じゃないか。」

 ブルドッグ宇宙開発株式会社の社長にして、新しいブルック王国の国王となる、ビル・ブルックが言った。

 「ブルドッグ」は、宇宙海賊時代の彼のあだ名だった。

 海賊家業から足を洗って、可住惑星の開拓、資源惑星での鉱山経営などの宇宙開発の仕事を始めるにあたって、彼は、自分のあだ名を会社名にした。

 やがて、開発は成功し、星系内の社員数が百数十万人という一大企業群になった。もちろん、星系内の住民は、大半が彼の会社の社員かその家族である。

 彼の経営する企業へは、銀河中央の経済界から、業務提携や航路開設の提案から、企業買収の提案まで、彼の成功を利用しようという誘いが数多くあったが、彼は総て拒否した。

 そのあと、銀河帝国からビル・ブルックにとっても予想外、というより願ってもない提案があった。

 すなわち、帝国がブルックに対して王国として自治を認める代わりに、ブルックは、航路開設やミルキーウエイのステーション建設を認めるという提案だった。彼の開拓した星系は、今後の資源開発が有望視される銀河系外縁部の星団への航路上にあるので、帝国にとっても彼の協力が必要というのが、その理由だった。

 ブルックにとって、いつの日か王様になり自分の王国を築くのが若いときからの夢であったので、帝国の提案を断る理由は無かった。

 なお、彼は、王国の名前も『ブルドッグ』にしようとしたが、彼の長女に大反対されて、本名のブルックとしたと言われている。

 

 

10-2 ブルック王国 宮殿船

 

 やがて、クリスティア王女たち一行の乗った連絡シャトルが、ブルック王国の宮殿船にドッキングした。

 帝国軍の制服を着たクリスティア王女を先頭に、茉莉香、チアキの両副官、帝国の官僚や軍人の一行が、ブルック王ビルとその家族の出迎えを受けた。

 クリスティア王女に、出迎え役の子供たちから歓迎の花束が贈られ、王女が笑顔で子供たちに応じた。 

 

「歓迎セレモニーと自治条約調印式を船の大広間で行います。こちらへどうぞ。」

 ブルック王が、クリスティア王女を先導した。銀河帝国一行が、これに続いた。

 その時、ブルック王の息子3人が、茉莉香に駆け寄り、それぞれが自分の名を名乗って白い百合の花を茉莉香に差しだした。

「ジョージです」「トムです」「エバートです。」

「どうか、お受け取りください。」と三人声を合わせて言った。

「あ、あ、ありがとう。」

 茉莉香は、びっくりしたものの、歓迎のしるしと思って受け取り、三人に満面の笑顔を返した。

 こういう大舞台で茉莉香から放たれる、華やかなオーラに包まれた笑顔だった。

 

「やったぁ。受け取ってもらったぞ~~~!!」

 3人の息子は、そう叫ぶと、それまでの緊張した雰囲気を破って、大広間に向かってバタバタと走って行った。大喜びでスキップして、天井に頭を打ち付けそうな勢いだった。

「フフフ、男の子って、大きくなっても、子供みたいなところがあるんだなあ。」

茉莉香は、そう思って微笑んだ。 

 

 しかし、茉莉香は、王女一行と一緒に大広間に入っていくと、どこか雰囲気が違うことに気づいた。

 ブルック王国の人々の視線が自分に集中している。

歓迎の花束を持った王女より、白い百合の花を3本持った自分の方が注目を集めているのだ。

 しかし、すぐに、歓迎セレモニーとして、大広間に掲げられた銀河帝国の国旗の前で一行は整列し、国歌「永遠なる銀河帝国」の演奏が始まってしまい、その理由をチアキに聞くこともできなかった。

 茉莉香は度胸を決めて、笑顔を絶やさず、ときおり茉莉香の方をチラチラと見る王の息子たちにも、さわやかな笑顔を返していた。

 

やがて、大広間の中央に置かれたテーブルで、ビル国王とクリスティア王女による自治条約の調印が行われた。

そして、大広間に掲げられた銀河帝国の国旗が、帝国軍の兵士により降ろされ、代わりに、ブルック王国の兵士によりグルック王国の国旗が掲げられ、国歌が演奏された。

 そして、ブルック王が、王国の樹立を宣言し、大広間は歓声につつまれた。

その後も歓迎行事は一時間ほど続き、ようやく一行は王宮へ案内され、休憩となった。貴賓室に通された、王女、茉莉香、チアキの三人は、ようやく一息ついた。

 

「ねえ、チアキちゃん。

 さっき、この国の女官の人が、私がもらった百合の花を永久保存加工するからと言って持って行ったけど、この国は百合の花をそんなに大切にするの?」

「ええ~~! 茉莉香、知らなかったの。

 ・・・・大変。」

 チアキは言った

「ワハハハ・・・・

 いつものようにニコニコしているから、何か変だとは思ったが、知らなかったとはなぁ。」

 クリスティア王女が笑った。

「茉莉香、この国では、男の子が女の子に白百合の花を贈るということは、結婚の申し込みをするという意味よ。」

 チアキが言った。

「でも、ヘンだよ。三人一緒だったよ。」

「大丈夫。この王国の結婚法では、結婚はあくまで契約だから、平等に愛せるなら何人とでも自由に結婚できるそうだ。

茉莉香はすごいなあ、王子三人と同時に結婚できるぞ。」

 クリスティア王女が笑った。

「ええ~~~~!じゃあ、受け取ったら、結婚承諾ってことになるの。」

「さすがに、それはないそうだ。

贈られた女の子が、手編みのもの、たとえばマフラーとか膝掛とかをお返しに送れば、それが、結婚の承諾のしるしだそうだ。」

 クリスティア王女が言った。

「はあ~~~。ひと安心。私、そういう手芸、やったことないし。」

 茉莉香はため息をついた。

「大丈夫よ。

 マミに頼んで作ってもらえばいいのよ。バレたりしないわよ。」

 チアキが言った。

「私はそういうことを言ってるんじゃないの。

 チアキちゃん、ひどいよ。」

「フフフ・・。」

 

 やがて、大広間で歓迎の宴会が始まった。

 ブルック王国の宴会は、大広間に巨大かつ豪華な絨毯を敷き詰め、そのうえでいくつかのグループごとに車座に座って行われる。

 これは、大草原を旅する遊牧民がテントの中で客人をもてなしたというビル国王の祖先の風習が起源とされている。もちろん、国王一族の女性たちも参加している。

 クリスティア王女、茉莉香、チアキの三人は、ブルック王国の王族たちの輪の中に座った。このグループは古代からの伝統に従って酒を飲まないグループだった。未成年の茉莉香とチアキがいることを考慮されたのだろう。お茶を飲みながら、料理などが振る舞われた。

 

 やがて、男たちによる『戦士の踊り』が始まった。

 来客を歓迎するため、宴席で披露されるのも、古代からの伝統とされている。

 太鼓や笛の勇壮な伝統的音楽に合わせて、大広間の中央に、古代の甲冑や冠をつけた十数人の男たちが、隊列を組んで進んできた。男たちは、手に大きくて厚い刃を持つ刀や斧を持っている。よく見ると、男たちのうち、最前列の三人は、茉莉香に白百合の花を捧げた王子たちだった。

 音楽に合わせて、剣道の型のような基本動作をし、刀や斧を振り回す。

 全員の動きがぴたりと揃って、しかも切れが良い。

 重い刀をすばやく振り回し、しかも一瞬で静止する。

 全員が静止したポーズも見事にそろっている。

 しだいに太鼓のリズムが速くなり、それにつれて男たちの動きも早くなる。しかし、まったく乱れない。男たちの体に汗が流れ、筋肉が躍動する。

 

「すごいなあ。王子さんたち、さっきは少し子供っぽかったのに・・・・。」

 茉莉香もこうつぶやいて、王子たちの男らしさを見直した。

「そうね、茉莉香のおかげね。

 男の子って、女の子に認めてもらうと自信をつけて、ぐんぐん伸びるのよ。」

 チアキが言った。

「へえ~~。チアキちゃん、そういう経験あるんだ。」

 茉莉香が微笑んだ。

「なによ。あるわけないじゃない。一般論よ、一般論。ジュブナイルのお約束じゃないの。」

 チアキは、少し顔を赤くした。

「へ~~。フフフ・・・」

 茉莉香は信じていないようだった。

 

 やがて、音楽が一段と大きくなり、踊り手一同の興奮が最高潮に達した。

「おお~~~!」

 男たちは歓声を上げ、剣を正眼に構えて、きめのポーズを作り、踊りは終わった。

「うわあ~~~」

 大きな歓声が上がった。

 踊りが終わると、三人の王子たちが王族の席の輪の中に、それも真っ先に茉莉香のそばにやってきた。

「おつかれさま~~~。戦士の踊り、とても素晴らしかったです。」

 茉莉香は、自分でお茶を注いだカップを王子たちに渡して、踊りを誉めた。

 それを聞いた王子たちは、とてもうれしそうに茉莉香と話し始めた。

 

 チアキは、その様子を微笑しながら見ていたが、すぐに彼らの周りを大勢の若い女性たちが取り巻いていることに気付いた。

 チアキには、彼女たちが茉莉香を見る視線がしだいに険しくなっていくような気がした。

「茉莉香、あっちからも呼ばれているわよ。」

 頃合いをみて、チアキはそう言って茉莉香を人垣の中から引っ張り出した。

「どうしたの、チアキちゃん?」

「あれを見なさいよ。」

 チアキの目線の向こうでは、大勢の女性たちが王子たちを囲んでワイワイと大騒ぎを始めていた。

 王子たちも、女性たちも、とても楽しそうだった。

「そっかあ。これでいいんだね。」

「うん。さあ、私たちは少しお仕事よ。」

 

 チアキは、茉莉香と一緒に、同行してきた銀河帝国の官僚や軍人たちがいる輪の中に入って行った。そこには、ブルック王国の官僚や軍人たちもいた。

「どうも~~~、お疲れ様でした。」

「来た、来た。『メイド』の土産のキャプテン茉莉香と、『ちゃんじゃない』のお嬢様。」

 少し酔っぱらった帝国軍人たちが、大喜びで迎えてくれた。

「ええ~~? 何、あれ。どうして知っているの?」茉莉香がチアキに聞いた。

「この間の公爵様とのやり取り、全艦隊に同時中継されていたらしいわよ。

 もう知らないから。」

 チアキが言った。

 

 二人がこんな話をしている間に、帝国軍人たちが同席のブルック王国の人たちに事情を説明したらしく、あちこちで笑い声が上がっていた。

 そして、いつものように、茉莉香を中心に話がはずんでいく。

 その後、チアキは大広間を回っていたカメラマンを呼んで、同席の人々と記念写真を撮ってほしいと依頼した。

 茉莉香やチアキを囲んで記念写真をとる様子を見て、茉莉香の周りにますます大勢の人が集まってきた。

 

 その時、チアキにブルック王国の執事の人が告げた。

「銀河帝国の王女殿下が、チアキ様をお呼びです。」

 チアキは、クリスティア王女の元に戻った。

 そこには、ブルック王国の王女たちも一緒にいた。

「お呼びでしょうか。」

「ああ、国王陛下がお前に会いたがっておられたのでね。」

「初めまして、というべきでしょうか。チアキ・クリハラ様。

 ビル・ブルックです。

 こちらは、長女のバレンシア、次女のアメリアです。」

「チアキ・クリハラです。初めまして。

 あのーー、国王陛下、チアキとお呼びください。」

「では、チアキ様と呼ばせて頂きます。

 チアキ様、お美しく、立派におなりになられた。

 お会いできて、うれしいです。」

「え? 陛下は、以前に、私に会われたことがあるのですか?」

「はい、お父上のケンジョー・クリハラ様とは海賊時代からの付き合いでございます。

 チアキ様が、まだ赤ん坊のころにお会いしました。」

 

 ビル国王は、ケンジョーと自分が若い頃からとても仲がよく、一緒に仕事をしたり、遊んでいたという話をした。

 その話を聞いていて、チアキが言った。

「ところで、それほどの、父の古くからのご友人ならばこそ、お伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか。」

「なんでしょうか。」

「私の母をご存知ですか?

 赤ん坊のころに生き別れて、私は母を知らないんです。」

「・・・・残念ですが、私がお会いした時には、もうケンジョウが一人であなたを育てていました。

 あなたのお母さんが仕事に出かける時に、この子を大人になるまで自分が命がけで育てると約束したと言っていましたよ。」

 王は、チアキの質問に、少し考え、間を置いてから答えた

 

「そして、つい2か月ほど前に帝国からの使者を連れて私のところにケンジョーが来ましてね。

 その時にも昔の話をしましたが、今年でもう18歳におなりになるのですね。

ケンジョウが自慢していました。良い娘になったと。

 それで、ぜひ一度、お会いしたくなりましてね。」

「こちらこそ、お会いできて光栄です。」

「チアキ、帝国の使者とは、エドワード・ドリトルだ。

 ブルック王国独立の話をまとめたのも、彼だ。」

クリス王女が言ったが、チアキは恥ずかしかったので、エドワードについて詳しい話を聞きたいと言いだせなかった。

 

 その後も、ケンジョーとブルック国王との若かりし頃の話が続いた。

 チアキの父・ケンジョーと、ブルック国王のビルと、もう一人の海賊の三人が「三バカトリオ」と自称して、毎晩飲んで、喧嘩して、賭け事をして、時にはヤバイ仕事もして、飲み過ぎて金が足りなくなると借金までして、毎晩大騒ぎを繰り返していた頃の話だった。

 そして、王が席を外し、クリスティア王女とバレンシア王女が話し始めた。

 二人は同じ年頃の王女同士のためか、意気投合したようだ。

 

 その時、アメリア王女がチアキに内緒でささやいた。

 アメリア王女は小柄で、チアキより年下の中学生くらいと思われた。

「チアキ様、内密のお話がありますので、こちらへいらしていただけませんか。」

 二人は、大広間からでて、王女の自室に向かった。

 

 アメリア王女の自室に入ると、王女はいきなり態度を変えた。

「チアキ、決闘だ。剣を取れ。」

 といって、一本の剣をチアキに投げてきた。

「何よ、これは?」

 チアキは、理由が分からず、驚いた。

「ぐずぐずしているのなら、こちらからいくぞ。」

 王女は、真剣を抜いて、チアキに切りかかってきた。

 チアキは、理由も分からずに相手はできないので、王女の剣をやり過ごしていた。

 幸い、王女の剣はそれほど鋭くなく、チアキは軽々とよけることができた。

 

「ばかもの~~~~~!!」

 そう叫ぶ声が聞こえ、突然、王女の部屋のドアが開き、ブルック国王が飛び込んできた。

 そして、剣を抜いているアメリア王女の頬を平手で強くはり倒した。

 たまらず、王女は床に倒れてしまった。

「オヤジのばか! 私だって命がけなのよ。」

 そう言って、王女は寝室に飛び込み、閉じこもってしまった。

「チアキ様、申し訳ございません。

 本来ならこの場で娘を手打ちにしてお詫び申し上げるところでございます。

 しかしながら、どうか、今日の良き日に免じて、我王国が銀河帝国へ永遠の忠誠をお誓い申し上げておりますことに免じて、娘の命だけはお助けください。」

 国王は、チアキにひざまずいて許しを乞うた。

 

「陛下、お立ちください。

 如何なる理由があろうとも、王が私のような者に対して、そのような振る舞いをなさってはいけません。」

 チアキも膝をついて、ブルック国王の手を取って立ち上がらせようとしたが、王は頑として立ち上がらなかった。

「陛下、私を大広間にお連れください。

 王女様が私に決闘を挑んだ訳をお聞かせ願えませんか。」

 チアキはそう言って、とにかくこの場を離れることにした。

 

 バレンシア王女は、大広間に戻ってきた国王とチアキの様子を見て言った。

「やっぱり、アメリアのヤツ、やったな。」

「何をしたのだ。」クリスティア王女が聞いた。

「チアキ副官に決闘を申し込んで、オヤジが止めに入ったのだろう。」

「なぜだ。チアキが失礼なことをしたのか。」

「いや、原因はオトコだ。」

「オトコ? 誰のことだ。」

「エドワード・ドリトルだ。」

「彼が、どうして決闘の原因になるのだ。」

 

「あなたも知っている通り、先月に自治条約の交渉で最後の詰めをしようと、彼がここに乗り込んできたときのことだ。

 その時、父は銀河経済界のプリンスが来るというので、私を彼に紹介しようと思っていた。

 まあ、私としても写真で彼を見るとなかなか良い男だったので、ちょっと期待して、手編みのひざ掛けを用意して彼の到着を持っていたのさ。」

「それって、女の側から渡してもいいのか・・・。」

「もちろん、そうだ。

 今は、古代世界とは違うぞ。

 それに、現代ではかなり儀礼的なものになっていて、それほど気にする必要はない。」

「それで、渡したのか?」

「いや、それなんだが、私が彼に紹介されてひざ掛けを渡そうとしたときに、アメリアのヤツがそれを横取りして、ドリトル氏に渡そうとしたのだ。

 その時のアメリアは、『ど、ど、どうじょ』と言って、セリフをかんでしまうほど緊張して真剣な様子だったな。

 私も驚いて、その時はアメリアに文句を言う気になれないほどにな。」

「ええ! それでどうなったのだ。」

「その後が、予想外の展開だった。

 儀礼的なものと承知して、彼も受け取ると思ってみていたのだが、なんと、ドリトルのヤツが受け取りを断ったのだ。

 『私には、心に決めた人がいる。その人以外考えられない。』と言ってな。」

 

「ええ~~!!

 面白いヤツだ。

 それで、姫はどうしたのだ。」

「目に涙をいっぱい浮かべて、寝室に飛び込んで、閉じこもったさ。」

「当然だろうな。」

「ああ、今思えば、あれがあいつの初恋だったかもしれない。

 しかし、物語の世界でも、初恋はハッピーエンドではない方が多いからな。」

「それと、チアキとどうつながるんだ。」

「それが、条約交渉の時に、ドリトルは、自分の会社の船ではなく、なぜか、チアキのオヤジの海賊船バルバルーサに乗ってここにやってきたと言っただろう。

 チアキのオヤジとうちのオヤジとは昔馴染みだから、オヤジの奴は条約交渉を私にまかせっきりにして、毎晩、チアキのオヤジとよく飲んでいた。

 ドリトルもいっしょだった。

 私もアメリアも時々宴席に同席していたが、宴席では、例の三バカトリオの愉快な話の他に、チアキの話がよく出ていた。

それで、チアキの話をする時のドリトルの顔が、実にうれしそうでね。

 これを見たアメリアは、ドリトルの思い人は、チアキに違いないと思いこんで、彼を巡って、チアキに決闘を申し込んだという訳さ。

そういうわけだから、アメリアの失恋に免じて、許してやってほしい。」

 

『まあ、一杯』

とバレンシア王女がクリスティア王女に酒を注いだ。

 二人は、先ほどから差し向かいでワインを飲んでいた。

「わかった。私からもよく言っておく。アメリア姫のために乾杯だ。」

 二人は、乾杯のたびにグラスを鳴らし、ともに飲み干した。

「ところで、国王が話しておられた三バカ海賊の三人目は、女ではないのか。

 それがチアキの母親ではないのか。」

「貴方もそう思うのかな。私も父にそれを尋ねたことがあるが、父は違うと言っていた。

 でも、そんな馬鹿騒ぎを続けた理由については、三人目の海賊は身内を亡くして、とても悲しんでいたので、気持ちが晴れるまで一緒に思いっきり遊んでバカをやったと言っていたな。」

「『身内を亡くした』と・・ 」

 クリスティア王女は、しばらく沈黙し、そして言った。

「国王は、そう言っていたのか・・。フフフ、心優しい海賊の男達に乾杯だ。」

「私もそう思うよ。バカな男達に、乾杯。」

 

「それにしても、チアキと一緒に大広間に戻ってきたときのブルック王の様子はおかしかったぞ。本当に顔色を失っていたぞ。」

「そうだあ。この話は、普通は、聖王家の王女であるあなたに言えることではないが、ここまで親しくなったのだから、あえて言おう。聞いてほしい。

 帝国軍の実質的な司令官であるあなたのために、乾杯」

「わたしこそ、ブルック王国の実質的な支配者であるあなたのために、乾杯」

 二人は、少し真剣な顔をしてグラスのワインを飲み干した

 

「聞いてほしい。父に限らず、銀河系の人々は、いま女王陛下の動静に注目し、緊張している。恐れていると言った方が良いだろう。

 つまり、反乱を治めて宿敵を倒し、絶対的な指導力、権力を握った女王陛下が、これから何をするかということだ。」

 バレンシア王女が言った。

「なるほど、聖王家の歴史で言えば、恐怖の大王と呼ばれた、あのユスティアン大王のように、反対派への弾圧を始めることを恐れているのだろうか。」

 クリスティア王女が言った。

「さすが、あなたは聡明な人だ。そのとおり。

 女王陛下は、『恐怖の大王』になるのではないかと、みな恐れている。

 女王陛下の人生を振り返れば、そうなる可能性、積もり積もった怨念はいくらでもあろう。」

「だが、私は、母上はユスティアン一世のような『恐怖の大王』にはならないと思っている。

 彼と最も違うところは、彼とテオドラ皇后との間に生まれた王子は当時まだ一歳だったが、母上の子である私はもう成人していることだ。

 子供の行く末を不安に思う必要はない。

 私はそう信じている。あなたはそう思わないか。」

「貴方に関してはそうだろうなぁ。

 でも、危険なのは貴方だけではないと父は思っている。」

「そういうことか。

 私だけではなく、チアキや茉莉香に危害が加えられると、やはり『恐怖の大王』が降臨すると思っているのか。」

「父はそう思っているようだ。」

「さっきも言ったが、私は、母上は恐怖の大王にはならないと思う。

 私の妹分も、もうすぐ大人になるからね。」

「私もそう願いたい。

 そう願って、女王陛下のために乾杯。」

「私も、母上の平穏を願って乾杯。」

 

「ところで、チアキとドリトルの関係は、本当なのか。」

「チアキはまだ17歳で、彼のことも将来のことも何も決めていないし、決める気にもならないだろう。それが偽りのない、現状だと思う。」

「そうだろうなあ。では、チアキ姫のために乾杯だ。」

 乾杯と言うたびに、二人は、グラスを飲み干している。もう何杯飲んだだろうか。

「そして、ドリトル氏のために乾杯だ。」

 

「それで、アメリアのことがあったから、今回、弟たちが加藤茉莉香に花を捧げる時に何が起こるか心配だったんだが、期待以上の展開で本当に礼を言う。」

「フフフ、茉莉香は白百合の花を贈られる意味は知らなかったそうだ。」

「それで、あの対応とはすごいな。

 弟たちにとっては、彼女は女神だな。

 銀河系でも有名な人気者、キャプテン茉莉香に一人前の男と認められて、すっかり自信をつけたようだ。礼を言う。

 キャプテン茉莉香のために乾杯」

「いやいや、王子たちの踊りもとても立派だった。よく鍛えられている。茉莉香がほめていたのも当然だ。

 王子たちのために乾杯。」

「それに見ただろう。一族の若い女たちが、茉莉香に激しく対抗意識を燃やしていたのを。昨日まで弟たちを『ガキっぽい』と低く評価してたのに、茉莉香が現れると豹変して・・・。

 見ていて、おかしかったよ。」

「ああ、私も見ていたよ。

 それも、王子たちにとっては良かったじゃないか。

 ブルック王国の若い女たちのために乾杯。」

「ありがとう。ところで、銀河帝国のおかげで、私も王女となったわけだ。

 まずは、銀河帝国のために乾杯。」

 

 すでに相当な量のワインを飲んでいるにもかかわらず、この後、バレンシア王女は真剣な表情で話し始めた。

「王国の樹立はオヤジの若いころからの夢で、今、オヤジは大喜びだ。

 しかし、・・・王女として育ったわけでもない私には、この地位は責任が無限に重すぎるように感じられる。

 私は、これまでブルドッグ宇宙開発株式会社の専務取締役として会社の経営に参画していたが、その方がずっと気が楽だと思う。会社なら赤字にならないようにすれば良いだけで、経営に熱意を失えば株式を譲渡して会社から逃れられる。

 同じように、共和制の指導者なら、任期が終われば仕事は終わりだ。

 しかし、世襲の王国ではそうはいかない。王や王族は、国民に無限の責任を永久に負い続けるように感じられる。

 私は、王族としての責任、王の後継者としての責任をどう受け止めればいいのだろうか。そうはおもわないか。」

 

「なるほど、そういう見方もあるね。

 逆に言えば、その指導者が子々孫々まで無限の責任を負う覚悟を持っていることこそ、民主共和制よりも王制が勝っている点なのだがね。

 そこに、宇宙開拓時代になって王政が至るところで復活してきた理由がある。

 なにせ、宇宙移民の航海や宇宙開拓では、誤った選択は移民団全員の命に関わる。

 誤った選択により生命の危険に直面すれば、多数決や根回しで決めたからと言っても何の慰めにもならない。

 民主共和制で選ばれたリーダーが決めたとしても、人々は決断した当時のリーダーの任期が過ぎていようが、誤りの責任を追求した。

 リーダー本人だけでなく、その子孫までも責めた。

 そうなると民主共和制は機能を失い、有能なリーダーを選出できなくなってしまった。

 そして、絶対王政が復活した。」

 

「それは歴史の授業で習って、知ってはいるが・・。

 そうはいっても、実際にどうやって無限の責任を負う覚悟を身につけたらいいのか?」

「そこが難しい。」

「そうだろう。生まれついた時からそう言われて育った者にはまだ当然のことかもしれないが、そうでないものはどう考えたらいいのだろうか。

 それで、失礼なことを言わせていただくと、事情があって、あなたも王女として育ったわけではないと聞いている。

 そのあなたが、突然に王女となってその責任をどう感じたのだろうか。

 クリスティア、私の今後の人生のために、貴方の思いを聞かせてほしい。」 

 

「フフフ、まずはブルドッグ宇宙開発株式会社のために乾杯。

 バレンシア、貴方もあの時の私と同じような気持ちなんだなあ。

 私も母に連れられて銀河帝国に来たとき、その組織のあまりの大きさと帝国について自分がなにも知らないことに驚いたよ。

 もちろん、自分が帝国を支配できるようになれるのか自信もなかった。帝国は自分がいなくとも動き続けるのだから、帝国には自分の居場所がないとすら思ったものさ。」

「なるほどなあ。私も辺境地域で育ったから、核恒星系の賑わいを始めて見たときは驚くというより怖かったよ。

 その中心である王宮にいきなり入るのだから、当惑するのは当然だろう。

 貴方の気持ちはよくわかる。」

 

「ありがとう。あのころ自信を失った私は、理由も無く周囲の人間に反抗していた。

 今思えば恥ずかしい限りだが・・・。

 ところが、ある日、開発中の新戦艦グランド・クロスの試作機を見学させてもらった時に私の運命を変える事件が起こった。

 見学気分で勧められてグランド・クロスの操縦席に座ったところ、コンピューターが反応し、戦艦が自動的に起動し始めたのだ。

 それは、帝国軍でも数少ない、新戦艦のパイロットの適性者として、私が認識されたことを意味していた。」

「自動的に動くとは、どういうことだ。パイロットの認証が必要だろう。」

「自動認証で可能だそうだ。

 聖王家の血を引く者であることを自動判別するようだ。」

「それは、ある意味では試されたのではないか。

 本物の王女かどうか。」

「そうかも知れないが、私にとっても、そんなことはどうでも良かった。

 むしろ、自分がパイロットの適正者としての能力があると認められたことがうれしかったのだ。

 以来、私は新戦艦の操縦訓練に没頭した。

 これだけが唯一自分の存在意義を示せると思ったからだ。

 そして、私の戦闘能力を帝国の皆に見せつけてやろうと、たった一人で勝手に海賊船を襲いに出かけたのだ。」

 

「無茶をしたなあ。オテンバの姫様に乾杯。」

「ああ、乾杯。今思っても、本当に無茶をした。危うく、死ぬところだった。

 それで、私が襲った海賊船の中に茉莉香の弁天丸もいた。

 あいつの船は性能が圧倒的に劣るにもかかわらず、巧妙な操船で私から逃げおおせた。

 さらに、茉莉香の弁天丸やチアキの父の船バルバルーサを含めた10隻の海賊船と決戦をしたのだが、私の完敗だった。プライドはズタズタ。」

 

「陛下はなんとおっしゃられたのか。」

「母上は、私が無事に帰ってきたことを喜んでいた。とても心配したと言っていた。

 そのことが私はうれしかった。

 まあ、いい年をして反抗期だったのかも知れないな。

 でも、それからだよ、親子が素直に話せるようになったのは。

 母上に乾杯だ。」

 

「女王陛下に乾杯。その後、茉莉香とはどうしたのだ。」

「それで、海賊狩りの時に会った茉莉香に興味を覚えて、海明星にある茉莉香の学校の教師として潜入して、再会したのだ。

 素顔の茉莉香は、天然というか、何をやっても実に楽しそうで、気負いがなかった。

 あいつは宇宙に出てみたかったから、急死した父の跡を継いで海賊船に乗っただけだと言っていた。

 海賊家業は結果オーライとも言っていたな。

 驚いたよ。」

「そうか、なるほど。茉莉香に乾杯。」

 

「乾杯。私は、茉莉香と出会ったことで、目が覚めたよ。肩の力が抜けて、悩まなくなった。

 今は茉莉香もチアキも私の副官としてそばにいるからね。楽しいよ。

 公爵の反乱の時もふたりは命がけで一緒に戦ってくれたよ。心強かった。

 それに、二人と一緒にいると、退屈しないなあ。

 でも、二人ともまだまだ世間知らずなところがあるから、私が育ててやらないといけないし・・・まるで本物の妹みたいだけどなあ。

 そういうわけで、力まず、気負わず、やっていくことさ。

 貴方のために、ブルック王国のために、乾杯。」

 

「なるほど、そういう仕掛けか。では、クリスティア王女のために乾杯しよう。

 それで、なあ、クリスティア、お前はもう立派になって、大丈夫だろう。

 だから、私に加藤茉莉香をくれ。副官にするから。」

「だめだ。まだまだ私には必要だ。」

「それじゃあ、しばらく加藤茉莉香を貸してくれるだけでもいい。しばらくしたら、お前に返すから。」

「まずは、王国の最有力後継者とされる貴方のために乾杯しよう。

 それで、バレンシア、いくら貴方の頼みでも、ダメなものはダメ。」

「まずは、銀河帝国の後継者である貴方のために乾杯しよう。

 それでは、貸すのもだめなら、弟の嫁にくれ。

 茉莉香の好みでどの弟を選んでも良い。茉莉香を嫁にした弟に王国を嗣がそう。

 茉莉香は、王国の皇后だ。

 これなら文句はないだろう。

 茉莉香皇后陛下のために乾杯だ。」

「なんだって。う~~~ん。まず、バレンシア王女のために乾杯しよう。

 それでも、答えは、何が何でも、だめだ。茉莉香は譲らない。

 バレンシア、知っているか。加藤茉莉香を手元に置くとたいへんなんだぞ。

 おいしいところは、みんな茉莉香に持って行かれる。

 決して茉莉香には悪気は無いんだが、結果として常にそうなる。

 それなのに、私は、あいつの姉貴分だから、我慢しないといけない。

 今回だって、ユリの花はみんな茉莉香のところへ行ってしまっただろう。一本ぐらい私の所へ来てもいいのに・・・・。」

 

「だからこそ、言っている。まず、クリスティア王女のために乾杯。

 なあ、クリスティア、お前、加藤茉莉香をいつまでも手元に置いておくと、姉貴分なのに、茉莉香に先を越されるぞ。

 だから、私に加藤茉莉香をくれ。」

「何を言っている。まず、バレンシア王女のために乾杯。

 それは、お前も一緒だぞ。お前の所に茉莉香が行っても、お前が先を越されるだけだ。 問題の本質的解決にはなっていない。

 とにかく、答えは、何が何でも、だめだ。茉莉香は渡さない。」

 

 その夜、二人の乾杯と茉莉香をめぐる交渉は続いたが、合意には至らなかったという。

 

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