宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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茉莉香とチアキは、18歳の誕生日を迎えます。
 茉莉香の誕生日に、ヨット部員達が集まりお誕生日のパーティを開いてくれました。
 チアキの誕生日にも同じようにお誕生日のパーティが開かれるはずでしたが、父ケンジョーから海賊ショーの仕事が入ったという連絡で中止になりました。それは、チアキを名指しして、この日に出演を求める仕事の依頼でした。
 チアキの海賊デビューに掛ける父の気迫に驚き、かつ感謝しながら、チアキは豪華客船に乗り込んで、営業を始めますが、そこで予定にない剣の勝負を女海賊たちから挑まれます。
 その三人目には、探していた母親と同じ名前の女海賊アンドロメダが現れます。
 その正体は・・・・。
 チアキは、誕生日に、ついに母親にめぐり合います。


第十二章 茉莉香とチアキ 十八歳の誕生日

12-1 加藤茉莉香宅 (海明星)

 

「カンパア~~~イ!」

「カンパア~~~イ!」

 海明星の加藤茉莉香の家のリビングでは、ヨット部のメンバー全員が集まって、茉莉香のお誕生日のパーティが開かれていた。

「お待たせしました。バースデーケーキの登場です。」マミとハラマキが遅れて入ってきた。

「これ、ハラマキの手作りなの?」

「そうよ。なかなかでしょ。」

「うん、すごくきれいで、おいしそう。」

「じゃあ、歌、いきましょう。」ウルスラがローソクに火をつけながら、言った。

 

 ハッピ バースデー トウ ユー

 ハッピ バースデー トウ ユー

 ハッピ バースデー ディア マリカ

 ハッピ バースデー トウ ユー

 

 歌が終わると共に、茉莉香がロウソクを吹き消した。それに対して、また拍手が続いた。

「茉莉香、お誕生日おめでとう。これは、私からのプレゼント。」

「私からも、これ。」

皆が、お誕生日プレゼントを渡した。 

「ありがとう。うわー、これ欲しかったんだあ・・・。」

 茉莉香は、包みを開けて、歓声を上げていた。

「茉莉香、あなたには帝国海賊の人たちも、お誕生会か何かをやってくれるって聞いたよ?」

 チアキが言った。

「わあー、すごい。海賊のお誕生会ってどんなのですか?」

 一年生たちが目を輝かせて聞いた。

「いやいや、お誕生会ではなくて、成人式。

 普通は、海賊の子として生まれた時に名付け親を決めて、その人がその子の後援者となるシキタリなんだけど、私の場合はそういう機会がなかったので成人式の時にまとめてやるという話らしいよ。」

「いよいよ、本物の帝国海賊だね、茉莉香さんも。」

 サーシャが言った。

 

「茉莉香、大丈夫?

 海賊の成人式の場合は、海賊らしく派手にバカ騒ぎをするらしいわね。

 スカーレットさんは、あんなオヤジたちのバカ騒ぎなんか付き合ってられないと言って、あきれてたわよ。」

 チアキは笑った。

「ナハハハ・・・。まあ事務局は弁天丸が中心で、私は祝ってもらう方なので、何も聞いてなくて・・・。」

「なにか、面白そうですね。」

 グリューエルが好奇心満々で聞いた。

 

 今日は、グリューエルとヒルデは、マミの作ったコッキー・シャネル風のメイド服を着ている。ヒルデは、やっとメイド服を着る機会が出来たので、嬉しそうにパーティのメイドとして動き回っている。

「いやー、私には全然、相談が無くて、サプライズと言うことになってるのよ。

 長老さんたちは準備ですごく盛り上がっているらしいんだけど、何をやるつもりなのかなあ、ナハハハ・・・。

 まあ、この宇宙時代に幽霊海賊なんか出てこないと思うけど・・。

 それはそうと、アイちゃん、今年のネビュラカップ、がんばってね。」

 茉莉香が言った。

 

「ありがとうございます。」

 アイ・星宮が答えた。

「今年の選手選考レースは、激戦だったよね。一位から五位までのタイム差は5秒くらいしかなかったってね。

 一年生の実力がすごいわね。」

「そうなんです。結果は、上位三人が昨年通り、ナタリアさん、ヒルデさん、と私の三人で、4、5位は、一年生のジェシカさんとメリーさんでした。

 でも、今年は、団体戦もあるので、5人出場できます。よかったです。」

 アイが言った。

「昨年の中等部ヒューゴカップ優勝に続いて、団体戦の優勝を狙います。」

 ジェシカが言った。

「すごい、すごい、その意気よ。そうこなくちゃ。」

「それで、来年の部長は、ナタリアで決まりなの?」

「そうです。みんなの意見は決まっています。」

「みんながそういってくれるなら、私がやるつもりです。正式就任はもう少し先ですが。 私が部長になったら、お前ら、ビシビシしごくぞ~~。」

「おお~~~!」

 

 ナタリアの言葉に、元気な一年生たちが右拳を突き上げて応じた。

「あと、先輩方の追い出し航海も企画を考えていますので、お楽しみに。」

 ナタリアが言った。

「アハハハ、そうよね。もう、そういう時期なのよね。

 そういえば、クリス先生、今頃、帝都の王宮でどうしているかなあ。」

 窓の外、海明星の青い空を見上げて、茉莉香が言った。

 

「チアキちゃん、クリス先生っていえば、ウルスラから聞いたよ。

 射撃の命中率を競って賭けをしたらチアキちゃんが勝って、先生が罰ゲームに王宮のダンス・パーティに5回出席するんだってね。」

 リリイが話に加わってきた。

「だって、先生の方は、私が負けたらチョコパフェ3か月禁止って言ったんだよ。

 ひどいでしょ。私、もー、必死だったよ。」

 チアキは、ダンス・パーティの方から話題をそらそうとした。

「ハハハ、でもチョコパフェっていえば、この間のランプ館でのアレ、感動的だったね。」

「なに? 私が一人でチョコパフェを食べたこと?」

「またまた・・・話をそらす。プロポーズですよ、プロポーズ。」

 リリイは笑って、チアキの話題転換を封じた。チアキのチョコパフェによる話題転換作戦は『やぶ蛇』だったようだ。

 

「ああ、あれ・・・。あれは、彼が調子に乗って一方的に言ってきただけよ。私、何とも思っていないし・・・。」

 チアキは、顔を赤くしつつも、ツンとして精いっぱい何事もないように振る舞っている。

「そう?

 今年の三年生の婚約一番星は、チアキちゃんだってもっぱらの評判だよ。

 昔は卒業即結婚っていう先輩も珍しくなかったらしいけど、最近は進学が大半で、婚約ですら5、6年に1人あるかどうかって話だから、チアキちゃん、注目の的よ。」

「カマ、かけないでよね。何も出ないわよ。ほんと。」

「だって、ダンス発表会の後の噂では、チアキちゃんがここまで行くと予想した人は無かったよ。

 プロポーズの話を聞いたダンス部の部長は、ショックで三日も学校休んだっていう噂よ。」

「リリイ、いい加減なこと言わないでよ。

 ホント、何もないんだから。」

 やはり、チアキは、精いっぱい何事もないように振る舞っている。

 

 

12-2 宇宙海賊船バルバルーサ

 

 宇宙海賊船バルバルーサは、まもなく目的の船を電子戦により捕捉し、海賊行為に移ろうとしていた。

 しかし、ブリッジのチアキはすこし沈んだ気持だった。

 それというのも、今日は18歳の誕生日。

 この日は、茉莉香たちヨット部員が茉莉香の家でチアキのお誕生会を開いてくれるというので、楽しみにしていた。

 

 ところが突然に、父ケンジョーから、その日にチアキを名指しした仕事が入ったという連絡があったため、中止になってしまったからだ。

 チアキにとって、自分の名前で海賊ショーにデビュー出来るのは、確かにうれしい。初出演の時は、茉莉香の代役だったからだ。

 しかも、今は、自分も帝国海賊のキャプテンだから、「キャプテン・チアキ」と堂々名乗ってもウソじゃない。

 営業の相手は、新造の超豪華客船ローズ・ガーデン号という銀河帝国船籍の船。

 また、いつのものようにヒマな金持ちがいっぱい乗っているのだろうが、デビューの舞台としては申し分ない。

 しかも、父ケンジョーの今回のショーに対する気合の入れ方はすさまじい。娘のデビューだからか、船員への演技指導も熱が入っている。自分のすべてを教えよう、伝えようという意気込みが感じられる。

 衣装もすべて新調された。今日のチアキは、黒を基調としたクラシックな船長服を着て、肩に帝国海賊の印である黄金の髑髏をつけている。

 この船長服が、父のものより、はるかに豪華な衣装であることは、一目でわかった。この服にかける父の思いが痛いほどチアキにはわかった。

 

 これが大人になるということだろうか。子供のころは、海賊ショーで父が張り切っているのを見ると、自分もうれしくて、ウキウキしていたものだった。

 だが、今日は、少し違和感がある。

 その正体がわからないまま、チアキは営業に突入しようとしていた。

 

「電子戦、終了。」

「ドッキングブリッジ、連結します。」

 チアキは、ドッキングブリッジのドアの前に、白兵戦用の防護服を着て、ケンジョーと並んで立っった。バルバルーサでは、海賊営業のショーといえども、実戦並みにというケンジョーの考えに従って、防護服を着て、相手の船内に乗り込む。

 父と並んでみると、チアキは言うべき言葉を思い出した。

「お父さん、今日で、私は18歳です。

 今日まで育ててくれて、本当にありがとうございます。感謝しています。

 ノーラ、バルバルーサのみんなも、本当にありがとうございます。」

「・・・・」

 ケンジョーは何も言わなかった。顔も横を向いたままだった。

 しかし、父の気持ちは伝わってきた。

 もちろん、既にヘルメットを装着した防護服を着ており、誰もヘルメットを外して、涙をふくわけにはいかないが・・・。

「与圧確認。間もなく、ドアが開きます。」

 ドアが開き、相手の船に乗り込む道が確保された。

「よし、突入。」チアキが号令をかけた。

 

12-3 豪華客船ローズ・ガーデン号

 

 チアキたちが防護服を脱いで衣装を整え、客船の大広間に到達すると、大広間の照明が落とされた。

「きゃー!」

「うわー、海賊が、来たんじゃないの。」

 正面の大きな扉が少しずつ開き始める。空いた扉の隙間から、明かりがさし、水蒸気が白い煙となって漂ってきた。

 闇に隠れて、十人ほどの人影が大広間の正面扉の前に整列し、正面階段の中央にチアキが立った。

 そして、チアキにスポットライトが集中する。

「オーホホホ。

 宇宙海賊船バルバルーサ、キャプテン、チアキ・クリハラよ。

 この船は今、我々に乗っ取られたわよ。」

「来た、来た。キャプテン・チアキ様よ。」

「チアキ様、きれい。」

「いよー、いいぞ、いいぞ」

「やっぱり、娘海賊は華やかでいいなあ。」

 乗客たちから歓声が飛ぶ。

 チアキが海賊の名乗りを上げると同時に、左右に並んだバルバルーサの海賊たちにもスポットライトが当てられていく。その中にケンジョーもノーラもいる。

 今日の出演者には、派手な色のバンダナを身に着け、手に手に大きく光輝く蛮刀や古式ライフルを持った船員たちもいるかと思えば、士官のような制服に身を包んだ軍人風の海賊も並んでいる。それぞれに古代からの海賊というおとぎ話のイメージを大切にした格好である。

 それぞれに歓声があがり、興奮が増してゆく。

 海賊たちは、チアキを先頭に大広間に進み出た。

 いきなり、チアキが船の天井めがけて、ビーム・ガンを連射した。

「ひやーー!」

 大広間に悲鳴とそして歓声があがる。

 しだいに照明が明るくなっていく。

「いまのは、もちろん威嚇よ。船の安全には支障はないわ。

 では、いつもの注意を言うから、よくお聞き。

 私の指示に従う限り、皆さんの安全は保障するわ。

 おとなしくこちらの言うことを聞けば、無事な身体と、本日デビューするキャプテン・チアキさまの指揮する宇宙海賊に襲われたという、歴史的な自慢話を持ってかえることができるわよ。

 さあ、私に文句のある者はいるかい、いなければ、金品、貢物をお出し。

 早くしな。」

 

 その時、チアキより年上の若い女性が、剣を持って現れた。

「お待ちなさい、私は、宇宙海賊キャプテン・マリーよ。

 宇宙海賊キャプテン・チアキ、あなたに決闘を申し込みます。

 私が勝ったら、乗客の皆さんの金品に手を付けず、しっぽを巻いて帰りなさい。

 いざ、勝負!」

「キャー!」

「マリー様あ! がんばって! 」

 歓声が上がる。

「なによ。名前からして、誰かのパクリじゃないの。

 あんた、誰?。」

「フフフ、私の正体が分かったら、誉めてやるよ。」

「ホント、命知らずのコスプレ女ねえ。私は本物の海賊よ。どうなっても、知らないわよ。かかってらっしゃい。」

「それは、こちらの台詞だ。」

 キャプテン・マリーは、そういうと剣を上段に構えて、チアキに近づき、剣を振り下ろした。

 連続技が繰り出されるが、ひとつひとつの動きがカッコイイ。

 

「マリー様は、わたくしを見てくださったわ。わたくしだけを・・・。

 ああ!」

 アンドレア公爵家の四女シルビア姫がいつものように、夢見る表情で言った。

「シルビア、何度言ったらわかるの。

 貴方の感覚、ちょっとおかしくない?」

 公爵家の次女ゴールディアが、あきれて言った。

「ゴールディアお姉さま、シルビアには、いつものことです。

 この間までは、茉莉香さま一筋だったでしょ。これも、そのうち熱が冷めますよ・・・。

 もっとも、茉莉香さんと違って、グロリアお姉様は怖いから、シルビアが飛び出さないように押さえていないといけませんわ。」

 公爵家の三女サファイア姫が、シルビア姫の腕を捕まえながら、言った。

「サファイアお姉様、あの方は、私の愛するキャプテン・マリー様です。

 グロリアお姉様じゃありません。」

「ア~~~、ハイ、ハイ。」

 サファイア姫は仕方なく、答えた。

 

 チアキは、キャプテン・マリーの剣をはじき返すと、切り返した。

「なかなかの剣さばきね。でも、打撃が軽いわね。練習不足、パワー不足ね。

 さあ、今度は、こっちからいくわよ。」

 チアキの渾身の打撃が、連続技で繰り出される。

 たまらず、キャプテンマリーは、後退を余儀なくされている。

 

 つばぜり合いで近づいたとき、チアキは宇宙海賊キャプテン・マリーの体から、さわやかでかつ甘い香水の香りが漂ってくるのに気が付いた。

「この香り、どこかで嗅いだことがあるわ。・・・

 どこかしら。・・・・」

 チアキは、記憶をたどって、考えた。

『そうか、こいつは、このあいだのカマトト姫か。

 いつの間にか、茉莉香のキャラを盗んで、カッコイイ女の子にバケたわけね。

 ほんと、魔女というあだ名は本当だったわね。』

 

「わかったわ、あなたの正体。あなた、グロリア姫様でしょう。」

「フフフ・・・」

 

 その時、また一人、仮面の女海賊が現れた。

「そこまで。

 交代だ。

 キャプテン・マリーの剣では、チアキには通用しないよ。

 キャプテン・チアキよ。私が誰だかわかるかな。

 さあ。キャプテン・マリーに代わって、私が決闘の相手だ。」

 女海賊の声は、仮面に仕込まれた発声装置から出ているらしく、その正体を隠していた。

「それにしても、変な声。うるさいわねえ。

 とにかく、キャプテン・チアキ様が、まとめて相手になってやるわよ。」

 

 二人目の仮面の女海賊が剣を打ち込んできた。

「コイツ、強い。 

 ・・・ううう・・」

 二人は激しい攻防を繰り返して、大広間を動き回った。

 剣と剣がぶつかり合う、カン高い金属音が大広間に響き渡った。

 その真剣勝負に、あちこちから悲鳴と歓声が上がった。

 やがて、二人は向き合って止まった。二人の額に汗が浮かび、息が荒くなっている。

「もういいでしょ。

 先生、というか司令官、打ち込みのパターンがいつもの練習通りですよ。

 だから、最初の一振りで、あなたが誰か、正体がわかりましたよ。」

 二人目の女海賊も、口元に笑いをうかべた。

 

 そこへ、三人目の仮面の女海賊が現れた。

「フフフ・・・そこまでだね。

 今日はチアキのお誕生日だから、このくらいにしな。

 さあ、今度は私が相手だ。」

「私はキャプテン・チアキよ。あなたは誰?

 これは、海賊同士の決闘よ。名を名乗りなさい。」

「では。名を名乗ろう。

 私の名は、アンドロメダ。宇宙海賊アンドロメダだ。

 さあ、キャプテン・チアキ、勝負だ。」

 

「アンドロメダ! 」

 

 チアキは、ついにアンドロメダと名乗る女海賊に巡り合った。

「アンドロメダさん。一つ聞かせてください。

 あなたは、すっと前からその名前を名乗って、海賊をしていたのですか。」

「ああ、そうだよ。お前が生まれる前からさ。」

 アンドロメダが登場した時から、チアキの後ろに控えていたケンジョー・クリハラが片手片膝をついて頭を下げ、臣下の礼を取っていた。バルバルーサの船員たちも、船長にならった。

 チアキは、探していた人がいきなり現れた驚きで、ケンジョーたちの行動に気づく余裕もなく、ただ立ち尽くしていた。

 

「それにしても、チアキの女海賊姿は、本当に可愛いなあ。

 お前も頑張らないと、チアキに先を越されるぞ。フフフ。」

 海賊アンドロメダは、二人目の女海賊を見て、微笑んだ。

「フン。妹に先を越されたとしても、それが何ですか。

 私は私です。

 だいたい、今日やっと18歳になる娘が結婚を申し込まれたと聞いて、手放しで大喜びする親の方がおかしいです。

 普通の親は、早すぎると言って、止めるでしょう。

 そんなバカな親の顔が見たいものですね。」

 相変わらず、負けず嫌いの女海賊が、口をとがらせて言った。

「いいのかい。」

「どうせ、そのおつもりで、母上は、皆さんをお呼びになったのでしょ。」

 負けず嫌いの女海賊は、微笑みながら、そう言った。

「フフフ、では、バカな親の顔をお見せしよう。」

 もうこの場にいる人々には、この人が誰か、明らかだった。

 

 仮面の下から、銀河帝国の女王、アンが姿を現した。

 だれも声を上げず、沈黙が支配した。

 

「チアキ、長い間待たせて済まなかった。私がお前の母親だ。」

 

 チアキは、いろいろな思いが同時にこみ上げてきて、とっさに言葉が出なかった。

 もちろん探し求めていた母に巡り合った喜び、お母さんと呼んで母の胸に飛び込みたいという気持ちが湧き上がってきた。

 他方、小さい時から、母を慕いながら母の不在を寂しく思う気持ちすら押さえつけてきた自分が、いとおしかった。哀れだった。

 いくら詫びを言われても、簡単に母を許せないとも思った。

 やがて、チアキは剣を取った。

「もお~~。長い間、小さい子供を放り出して、寂しい思いをさせておいて、このバカ親!」

 チアキは剣を振りかざして、女王に突進した。

 女王も剣を抜いて、チアキの打ち込みに応じた。

 キ~~ン!と音を立てて、チアキの振りかざした剣が弾き飛ばされ、チアキの体もはじかれた。

「もう一度、もお~~~済まんの一言で許すもんか! この~~~!」

 再び、チアキの剣と体がはじかれた。

「もう一度、この~~~、ばか~~~~、お母さんのばか~~~~!!」

 チアキは、涙を流しながら、また突進していった。

 

 チアキが突進を繰り返しているうちに、ケンジョーを始めとするバルバルーサのクルーは、大広間から風のように立ち去って行った。

 

 何度目かの突進のあと、女王がチアキの剣を奪って放り投げ、チアキをしっかりと抱いた。

「チアキ・・・・。」

「お母さん・・・・・。」

 二人は、そのまましばらく動かなかった。

 

 やがて、大広間の照明が明るくなった。それと同時に、ホールに集まっていた人々の本当の姿が現れた。

 それまで、男女の一般乗客の姿をしていた人々が、ふっと消えて、美しいドレスや宝石を身にまとった女性たちの姿が現れた。

 その中から一人の年配の女性が二人の前に進み出た。

 

「そろそろ始めてよろしいでしょうか、陛下。」

 女王がうなずくのを確認して、その女性は、チアキに対してカーテシーの礼をして言った。

「初めまして、殿下。

 聖王家の女性たちで構成いたしますローズガーデンクラブの会長を務めております、エカテリーナでございます。

 当クラブへのお越しを心より歓迎申し上げます。

 では、古くからの習わし通りに、殿下のお誕生日のお祝いを始めさせていただきます。

 みなさん、殿下の前に運んでください。」

 

 公爵夫人が指図すると、ウエイターたちが、大きな、大きな誕生日ケーキを、これまた大きなワゴンに乗せて、チアキの前に運んできた。もちろん、18本のロウソクに火が灯っている。

 そして、出席者全員が、女王とチアキの二人を囲んで、歌い始めた。

 

 ハッピ バースデー トウ ユー

 ハッピ バースデー トウ ユー

 ハッピ バースデー ディア プリンセス チアキ

 ハッピ バースデー トウ ユー

 

 歌が終わると共に、チアキがロウソクを吹き消した。それに対して、また拍手が続いた。

 

「チアキ、お誕生日おめでとう。

 これは、私からチアキに誕生日のプレゼントだ。

 天井を開け放って見せよ。」

 

 女王がそう言うと、再び照明が暗くなった。

 やがて、大広間の天井が開き、宇宙空間の星空が見えてきた。

 そして、星空の中から、鮮やかなピンク色の流線型の船が近づいて、ドッキング体勢に入ってくるのが見えてきた。

 

「どうだ。これが、チアキの船だ。名前は、ローズ・アロー2号。

 重力制御推進方式で飛ぶ、最新型の超光速巡洋艦だ。」

「はあ・・・。これが、私の船。私も茉莉香のように本当の船長さんになるのね。」

 チアキは、わくわくする気分で、どんどん近づいてくる新鋭艦の姿を眺めた。

 

 と同時に、入れ替わりに遠ざかってゆくバルバルーサの姿があるのに、気が付いた。

 オヤジはどこへ行くというのかと、女王に振り返って問いかけようとしたとき、女王が小さな声で言った。

「ケンジョーのことは後で話そう。」

 

「チアキ、お誕生日おめでとう。

 次は私からのプレゼントだ。」

 クリスティア王女が言った。

 もう仮面は脱ぎ捨てているが、海賊衣装のままである。

「これを見てほしい。

 これは、チアキの一番大好きな写真だよね。」

 王女は、一枚の写真を大広間の空間に大きく拡大して、見せた。

 それは、赤ん坊のチアキがケンジョウに抱かれた写真だった。赤ん坊のチアキは、満面の笑顔を浮かべつつ、抱っこをせがんでいるかのようにカメラの側へ手を伸ばし、身を乗り出している姿であった。

 画像を操作しつつ、王女は話を続けた。

「チアキは母の写真を一枚も持っていないと言っていたが、私は、この写真の中に母上の姿が映っているのではないかと思った。

 そこで、写真を分析して、探した。

 その結果、面白いことが分かった。

 この写真は、普通の3D写真ではない。惑星探査用の高精度カメラで撮られたもので、惑星軌道上から地上の小さなものを判別できる極めて高い解像度がある特殊な写真だ。

 ならば、たとえば、赤ん坊のチアキの瞳に母上の姿が映ってはいないかと思い、画像を拡大してみた。

 しかし、お前の瞳に映った画像は、下手な細工で意図的に消されていて、判別できなかった。

 このとおりだ。」

 王女はチアキの瞳の画像を拡大して見せた。

 

「ところが、ケンジョーの瞳には、カメラを構えるバルバルーサ副長ノーラの姿がはっきり映っていた。

 しかし、その隣には誰もおらず、宇宙船の壁が映っているだけだった。

 こちらは完璧な画像のように見えた。この画像がそうだ。」

 王女はケンジョーの瞳の画像を拡大して見せた。

 

「でも、これは、不自然だろう。

 赤ん坊のお前をよく見ると、お前はノーラではなく、ノーラの隣の方へ手を伸ばしているのだからね。

 それで、ノーラに事情を話して、聞いたのさ。

 そして、元の写真は、彼女が厳重に保管していたことがわかった。

 それがこれだ。 」

 

 同じように見える写真が大広間の空間に映し出された。

 そして、赤ん坊のチアキ、さらにチアキの瞳が、しだいにクローズ・アップで映し出された。

 

「おお~~~~~。」

 

 大広間に集まっている女性たちから、期せずして声が上がった。

 彼女たちは、その画像に誰が映っているか、一目でわかった。

 チアキの黒い瞳の映像の中に、一人の美しい女性が、満面の笑みをたたえてチアキの方を見つめ、そしてチアキを抱きかかえようと手を伸ばしている姿が映っていた。

 髪の色はブロンドだったが、その人の目鼻立ちは、チアキによく似ていた。

 それは、若き日のアン王女の姿だった。

 

 チアキは、自分の瞳に映っていた母の姿を見つめていた。

 もちろん、赤ん坊のころの記憶はない。

 しかし、この写真の中で、自分は母に見つめられているという直感は、間違いなかったことが分かって、ただ、ただ、うれしかった。

 

「ありがとうございます。あの・・・」

 

 チアキは、クリスティア王女にそこまで言うと、涙がこぼれてきて、言葉が続けられなかった。

「泣くんじゃない。チアキ。お前らしくないよ。」

「私は泣いてなんかいません。何言っているんですか。」

「それを泣いてるっていうんだ。」

「泣いてるのは、貴方の方です。」

「私は泣いてなんかいるもんか。この通り、笑っているぞ。」

 そういうクリスティア王女の目も涙でいっぱいだった。

 

「あらあら、姉妹だけあって、性格も似ていらっしゃいますね。」

 そう言って、元公爵夫人は、女王を見て微笑んだ。

「フン。クリスティアのヤツ。

 私の若い時の写真をひっぱり出してきて、余計な恥をかかせよって・・・。」

 女王はそう言ったが、彼女の目も涙でいっぱいになっていた。

 公爵夫人は、やはり親子だけあって性格も似ていると思ったが、何も言わず、にっこりほほ笑んだ。

 

 その後もパーティは延々と続いた。

 まず、銀河帝国聖王家の伝統に則った正装に着替えた女王親子三人は、ローズガーデンクラブの盛大な晩さん会に臨んだ。

 銀河系の星々からえりすぐった至高の美食の数々につづいて、デザートは「海明星風テョコレートパフェ」であった。チアキが喜んだことは言うまでもない。

 

 その後、女王親子三人は、別室に移り、聖王家の各家族ごとに出席者からあいさつを受けた。二人の王女を両脇に従えた女王は、聖王家の女性たちからのお祝いにうれしそうに答えていた。

 とりわけ、反乱の首謀者であった公爵家のエカテリーナ夫人、長女のグロリア姫を始めとする四姉妹と女王一家三人との、本当に楽しそうなやり取りは、他の出席者の気持ちを安どさせた。

 話題の中心は、もちろんチアキ姫の女海賊ぶりであった。

 あいさつは長時間に及んだ。

 出席者の誰もが、聖王家の反乱が血なまぐさい惨劇にならずに、収まるという喜びでいっぱいだった。

 それまで、ローズガーデンクラブの人々、つまり聖王家の女性達は、女王が「恐怖の大王」となり、公爵の反乱に味方した聖王家の王族を粛正するという血の惨劇になることを恐れていたからだった。

 

 女王親子三人は、パーティ終了後、艦内のセント・ローヤルルームに引き上げた。

 女王は、疲れた様子を見せる娘二人に目もくれず、TV電話をかけ始めた。女王がアドレス帳も見ずに、番号を入力したところをチアキが見たら、きっと驚いただろう。

 

 やがて、バルバルーサのブリッジに立つケンジョーとノーラが、画面に映った。

「やあ。今日は、私の願いをきいてくれて、本当にありがとう。礼を言う。」

「なにをおっしゃいます。陛下の御意、当然でございます。」

 父の声を聴いて、チアキが電話のそばへ飛んできた。

「オヤジ。」

 チアキの声を無視して、女王は話を続けた。

「やはり、行ってしまうのかい。」

「はい。船乗りには、なによりも自由が大切。私も自由な航路(みち)を選びますから。」

 ケンジョーは少し身を乗り出して、言った。

「なあ、私も女海賊アンドロメダもお互いに約束を果たした。

 アンドロメダはヤバイ仕事が済んだら必ず帰ってくると、私はチアキが立派な大人になるまで命がけで育てるとね。

 そうだろう。」

 画面の中のケンジョーは、チアキの方を見て言った。

「チアキ、お前は今日で18歳。もう立派な大人になった。

 チアキ、あとはお前の人生だ。お前の自由に決めればいい。

 俺のことは心配しなくていい。

 俺も俺の人生を自由に生きる、船乗りの男らしくね。」

「そうだろうなぁ。やっぱり、お前は船乗りだなぁ。」

「オヤジ、どこへ行くんだ。おい・・・。」

「チアキ、幸せにな。エドワードはいい男じゃないか、私も気に入っているぜ。」

「オヤジ、いきなり何を言うんだ。私は何も・・・」

 チアキは顔を赤くして反論しようとした。

「ノーラ、今までの礼を言う。本当にありがとう。

 そして、ケンジョーも自由なら、お前も自由だ。」女王が言った。

「ノーラ、大切な写真を長い間守ってくれて、本当にありがとう。幸せにな。」

 いつの間にか背後にいたクリスティア王女がそういうと、無口なノーラの口元が少し微笑んだように思われた。

「では、これで、お別れのごあいさつとさせて頂きます。

 チアキ、探さないでくれ。

 お前はお前の進むべき道を行け。

 じゃあな。」

「おい、オヤジ!! オヤジ!! ・・・ 」

 チアキは目に涙をいっぱいにためて、何度も叫んだが、答えは返ってこなかった。

 ケンジョーとノーラは画面の向こうで一礼した。

 それを最後に、通信は切れた。

 

 その夜のうちに、聖王家の女性達からの「あなただけに秘密の話」が、光より速く銀河帝国内に広まって行った。

 それは、恐怖の大王の代わりに第二王女が現れたという、帝国の女性達にとってこれ以上ない程、興味深いニュースだった。

 

 翌日、銀河聖王家は、第二王女、チアキ殿下の存在を公表した。父親の名前は公表されなかった。

 同日、海明星行政府及び銀河帝国に、宇宙海賊船バルバルーサの廃業届が、ひっそりと提出された。

 

 

 




 ついにここまで、投稿できました。
 作者としては、チアキの母親は誰?という答えを書くのが、執筆の動機の一つでした。もちろん、モーレツ宇宙海賊ファンの皆様にとっては、予想通りの答えかも知れませんが、いかがでしょうか。
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