宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編- 作:gonzakato
チアキと一緒に帝国女学院への進学を決めます。
そして、帝国海賊として生きていく覚悟を固めていきます。
そう言う進路を決めていくなかで、一緒に進む事を選ぶ者もいれば、分かれていく者もいます。なかでも、ケインは・・・
加藤梨理香も自分の道を進んでいきますが、帝国の依頼でパラベラム号に乗ってマンチュリア人の星団に潜入することを茉莉香に告げます。
そして、母親として、父親ゴンザエモンと結婚した経緯や分かれて船を下りた理由、そして茉莉香にかけた思いを明かします。
アニメで殆ど語られなかったこのエピソードを書いてみました。
なお、マンチュリア人の歴史は、「補章 恐怖の大王の伝説」(第12話)をご覧下さい。
16-1 銀河帝国王宮クリスタル・パレス(クリスタルスター)
この日、茉莉香はクリスティア王女に呼ばれて、銀河帝国の王宮クリスタル・パレスへ向かった。
クリスタルスターにある地上の王宮は、練習航海の時に外から眺めただけで、実際に中に入るのは、初めてだった。
ギルバートが運転する帝国軍のコミューター車は、王宮からかなり離れたところで、強制的に自動運転に切り替えられた。ここから王宮側のコントロールにより、コミューター車は地下道に入り、複雑で迷路のような道を進んで、王宮付近の地下駐車場に止まった。
そこで、茉莉香とギルバートは、男3人女2人の屈強な兵士の出迎えを受けた。
その中から進み出てきた女性士官が茉莉香に敬礼して、言った。
「特別警護隊のホワイト大尉です。まずは、加藤大佐を第二王女殿下の下へお連れするように言われております。」
「加藤茉莉香です。お出迎え、ありがとうございます。ご伝言、承知しました。」
茉莉香も敬礼した。
ユーロクラシック調の高い柱が並ぶ王宮の廊下を、女官に先導され5人の警護隊に囲まれて、茉莉香とギルバートは進んでいった。
そして、第二王女の部屋に通された。警護隊は部屋の外で待機している。
チアキは、豪華な応接セットに座って、待っていた。
「やあ、チアキちゃん、久しぶり。
ところで、あの私への警備、なんかすごいことになっているわね。」
チアキと話すときの茉莉香の口調は全く変わらない。
「何、言ってるのよ。
その原因を作ったのはあなたでしょ。
先日の模擬演習の結果、聞いたわよ。
聖王家のローズガーデン号を捕虜にして、ミルキーウエイを経由して、レッドクリスタル星系に進入。
帝国軍中央基地に攻め込んで、人工時空震で第一艦隊を撃破。
さらにクイーン・オブ・パイレーツに体当たりして、白兵戦までやろうとしたんですってね。
結果はあなたの大勝利。」
「ナハハ・・。もう知ってるの。」
「その結果にショックを受けて、要人警備の強化が決まったんですってよ。
なにせ、この九百年間、たとえ、シミレーションであっても、旗艦のクイーン・オブ・パイレーツまで攻め込んだ軍隊はいなかったらしいから、参謀本部は相当なショックを受けたらしいわよ。
しかも、貴方の相手が、帝国軍のエース、ミニッツ大佐と知って、二重のショックを受けたらしいわよ。
さすが、海賊の娘だってね。
本当に、うちの軍隊、油断してるというか、マッタク、なってないわよ。
母さんに『思い上がるな』って、叱られた訳よね。
まあ、警備強化の対応が早いだけ、マシかもしれないけれど。」
「それで、今日は、司令官に呼ばれてるんだけど、その前にチアキちゃんのところへ行くように言われたんだけど・・。私に、なにか、用があるの?」
「それなんだけど、茉莉香、進学、どうするの。まだ決めてないんでしょ。」
「うん。まだ決めかねている。」
「だったら、私と一緒に帝国女学院の家政学部特別コースに進学しなさいよ。
そのコースは、今のところ学生は私だけなんですって。
でも、私一人じゃ、大学に行ってるような気分にならないし、せっかく大学行くなら、茉莉香もいっしょに進学すれば、なにかと便利じゃない。」
「チアキちゃん、それって、お姫様コースじゃないの・・。」
「そうかもしれないけど、いいじゃないの。
もともと、二人で見習いやろうって副官に誘ったのは茉莉香の方だし、その続きのようなものよ。」
「いや~、それとこれとは・・・。」
「それに茉莉香、あなた、何も決めていないと大変なことになるわよ。
今日呼ばれたのは、何の用事か知っているの?」
チアキはギルバートの方をちらりと見て、席を外すように言った。
彼が部屋の外に出てから、チアキは言った。
「ズバリ、縁談よ。その準備のために、すでにあなたの気持ちが決まっているかどうか、確かめようというのよ。
あなた、ギルバートさんと結婚すると、決めているの?」
「ええ? 私?
ギルバートさんは、私には何も言わないし、そんな話はお母さんや弁天丸にも来ていないし・・・。
それに、私はまだ高校生で、結婚なんて考えるような年齢ではないというか、
まだそんな気分ではないし・・・。」
「茉莉香、あなた、自分の結婚に女王陛下の許可が必要という話、軽く考えてはだめよ。 それ自体、王族並みの扱いだし、実際に、王族になってもおかしくないってことよ。
それに、あなたの結婚の許可を実際に仕切るのは、ローガーデンクラブの会長であるアンドレア公爵夫人のエカテリーナ様よ。」
「ああ、あの人ね。会ったことある。」
「あの人、茉莉香を気に入ってるみたいだから。
あなたがギルバートさんと結婚すると決めているならいいけど、何も決められずにふらふらしていると、王族との縁談をセットされるかもしれないわよ。」
「ええ~~~!それって、本当?」
「だって、聖王家は、婿や嫁に時代の流れに沿って優秀な人材を受け入れてきたからこそ、銀河系の王として君臨できた訳よ。テオドラ皇后みたいにね。」
「あの、金貨の女神様ね。」
「そうよ。だから、今の時代なら、あなたが選ばれてもおかしくないわよ。
それに、あなたが王家に嫁げば、私も姉さんも母さんもずっとあなたがそばに居てくれるんだから、大歓迎だしね。」
「でも、私なんか、お姫様ってガラじゃないよ。海賊の娘だし・・・。」
「私だって、海賊の娘よ。」
「そりゃ、そうだけど・・・。」
「だから、結婚の決心がまだつかないなら、せめて進学先だけでも決めて、将来のことをしっかり考えてますと、アピールしないとね。
のんびり、うかうかしてて、王族との縁談が着たら、断れないわよ。」
「はあ~~~。私たち、まだ18歳だよ。」
「もう18歳と見る人もいるのよ。サーシャだって、縁談がいっぱい来て、大変だって言ってたでしょ。・・・」
「はあ~~~。チアキちゃん、助けて・・。」
「だから言ってあげてるのよ。
それから、茉莉香。」
「なに?」
「『ちゃん』じゃない。」
茉莉香は、チアキの部屋を出るとつぶやいた。
「チアキちゃん、帝国軍のことを『うちの軍隊』って言ったよね。
もう立派な王女様なんだね。フフフ・・・
でも、性格は変わってないなあ。『一人じゃ寂しいから、一緒に進学して欲しい』って言わないんだもの。フフフ・・・。
でも、私もしっかりしないとなあ・・・。」
茉莉香は、モーガン家でもらった赤い球を掌に乗せて、その中に輝く星を見つめた。
茉莉香は、つぎに王宮内のクリスティア王女の部屋に向かった。
茉莉香は、女官に先導されて、ギルバートや警護隊に伴われ、王宮の廊下を進んでいく。
すれ違う来客の人々は、堂々とした行列の中心が、帝国軍の新しい軍服を着た少女と知って驚き、茉莉香に視線を合わせていく。
そして、
『ああ、あのキャプテン茉莉香だ』
と、人々は納得して、すれ違っていく。
帝国軍の高官たちは、連れ違う茉莉香と敬礼を交わしていく。
やがて、向こうから小さい女の子を連れた夫婦を中心にした人々が歩いてきた。
「白薔薇家の次期当主、ニコライ殿下ご一家です。」ギルバートがささやいた。
茉莉香たちは道を譲るため、廊下の絨毯のわきに下がり、臣下の礼を取った。
夫婦がにこやかに笑顔で答え、通り過ぎようとしたときに、連れの小さな女の子が茉莉香を見つけて立ち止って、言った。
「そのコスプレ、よくお似合いよ。
あなたも、キャプテン・マリーが大好きなのね。私も大好きなのよ。
私も今度、あなたのような、キャプテン・マリーの衣装を作ってもらうんだ。
ウフフ。いいでしょう。」
「あああ・・・、ごめんなさいね、キャプテン・茉莉香でいらっしゃいますよね。
娘は、テレビドラマ『宇宙海賊キャプテン・マリー』に夢中なんですのよ。」
すこしあわてて、妃殿下が茉莉香に説明した。
「お母様、キャプテン・マリカではなくて、キャプテン・マリーですわよ。」
「ああ・・・はい、はい。」
「キャプテン・茉莉香、失礼しました。
でも、いい機会だから、娘と一緒に写真を撮らせてください。
娘にはあとでよく言っておきますよ。もう少し大きくなったらね。」
ニコライ殿下が、微笑みをうかべて言った。
「承知いたしました。」
茉莉香が答え、四人は記念写真に納まった。
グロリア姫は、映画『宇宙海賊キャプテン・マリー』に主演して人気を集め、次いで子供向けテレビドラマ『宇宙海賊キャプテン・マリー』に主演して、銀河系の小さな女の子にとってあこがれのヒロインとなっている。
したがって、子供たちにとって、宇宙海賊キャプテン・マリーは、原作のモデルであるキャプテン・茉莉香をしのぐ知名度を獲得するまでになっていた。
このような事情は、逆に、大人たちの間では、モデルとなったキャプテン茉莉香の評価が高くなるという結果をもたらした。
ニコライ殿下は振り返って、遠ざかっていく茉莉香一行を見て言った。
「あれが、公爵夫人お気に入りのキャプテン茉莉香ですか。
それにしてもモーガン卿の息子となかなかお似合いのカップルではないでしょうか。 もう付け入るスキはないようですね。」
「いえいえ。
あの子の今の輝きは、あの子自身から発するもので、恋の炎から発するものではありませんわ。あの子はまだ恋に落ちてはいませんよ。」
茉莉香の後姿を見て、妃殿下が言った。
「そうですか。ではまだチャンスはあると・・・。」
「フフフ・・。これからが楽しみですわ。」
さらに宮廷の廊下を進んだところで、茉莉香は意外な人たちと出会った。
「あつ、梨理香さん、こんなところで何しているの!?」
向こうから歩いてきたのは、加藤梨理香と宇宙海賊『鉄の髭』だった。
「あ!やっぱり王宮で茉莉香に会えたねえ。うれしいよ。
お前、今、何してるんだい。」
「司令官に呼ばれたから・・。」
「そうか、そうだったね。第一艦隊司令官の副官になったんだよな。
その軍服姿、なかなか似合うじゃないか。
それにしても帝国軍の大佐かぁ。立派になったねえ。こんなに大勢の人をひきつれて。
あ、みなさん、茉莉香の母です。
娘がいつもお世話になっています。お礼を申し上げます。」
梨理香は、実に愛想よく、頭を下げた。
「ナハハハ・・・。
あっ、鉄の髭さん、お久しぶりです。」
「やあ、キャプテン茉莉香。
・・・そちらは、モーガン中尉ですね。初めまして、鉄の髭です。」
「へえー、この人がモーガン中尉・・・。
初めまして、加藤莉里香です。娘がお世話になっています。
ふつつか者ですが、これからもよろしくお願いします。」
「ギルバート・モーガンです。初めまして。こちらこそ、お嬢様にお世話になっております。これからも、よろしくお願します。」
「それで、梨理香さん、王宮に何の用なの?」
「いやあ、私は初めて来たんだけど、すごいところだねえ、銀河帝国の王宮は。
茉莉香、実はねえ、この鉄の髭が、帝国海賊の免許を返上して、辺境宇宙に行って資源開発事業をやると決めたんだ。
昔から、こいつは、大事なことはいつも勝手に決めるんだけどね。
それで、お世話になった女王陛下や第一王女様にご挨拶に行くというので、私もついてきたんだ。
最後に一度くらい茉莉香が仕えている銀河帝国の王宮を見てみたかったしね。」
「『最後に一度』って・・・、もしかして、梨理香さんも、一緒にどこか遠いところへ行っちゃうの?」
「ああ、そうだよ。わたしもパラべラム号のクルーだしね。」
「ええ! お母さん、そんなこと今、初めて聞くよ。どういうことなの・・・。」
茉莉香は動揺して、声が大きくなった。
「驚くのは無理もないねえ。
まあ、ここじゃ、お前ともゆっくり話はできないだろうから、今度、お前が家にいる時に詳しく話すよ。ここのところ、いろんなことがあったしねえ。
じゃあな・・・。」
「お母さん! ちょっと待って!」
加藤梨理香と鉄の髭は、茉莉香が呼び止めているにもかかわらず、王宮の廊下を歩いて遠ざかって行った。
歩きながら、梨理香は鉄の髭に言った。
「本当にこれでいいのかい。何も言わないままで。」
「ああ。『新しい酒は新しい革袋に入れろ』・・・。」
「ぷつ・・、何を言ってるんだい。また訳のわからないことを。
まあ、娘が予想以上に立派になっちまったので、今更ってことだろう。
しかし、あの子が、さっさと玉の輿に乗って、大邸宅の奥様とかお城の奥方様にすんなり収まるとは思えないけどね。
女王陛下からアンドロメダ遠征隊に参加するようにと誘われると、弁天丸に乗って喜んで付いていったりするのかなあ。
それにしても、もう、私たちが茉莉香にしてあげられることは、ほとんど無いだろうねえ。
お前さんの作った、加藤茉莉香に関する不可侵協定も、もう用済みだしなあ。
あの子には、女王陛下や帝国海賊の八長老が後見人としてにらみを効かしてるからね。」
「ああ。」
「まあ、こんなところで、そっけなく別れを言えたのは、むしろ幸いだったかもしれな いね。・・・ハハハ。」
そう言って、梨理香は、茉莉香が歩いて行った廊下を振り返り、そしてシャンデリアが輝く銀河帝国の王宮の天井を見上げた。
「ここが銀河の中心か。
茉莉香。遠いところへ行ってしまったのは、お前の方だよ。」
海賊達もそれぞれの道を征く。
茉莉香は、クリスティア王女の部屋に着き、控室に通され、呼び出しを待った。
そこへ公爵夫人エカテリーナが何気なく入ってきた。
「あら、茉莉香さん、お久しぶり。」
『キター~~!』と茉莉香は一瞬、身構えた。チアキが警告したとおりに、聖王家との縁談を茉莉香に勧めようとしにきたのだろうか。
「お久しぶりでございます。」茉莉香とモーガンは立ち上がって、敬礼をした。
「どうぞ、お坐りなさい。どう、このごろ海賊家業は?」
「いやあ、それは、ぼちぼちです。」
「こちらの方は?」
「こちらは、ギルバート・モーガン中尉でございます。帝国軍では私付きの秘書官ですが、ご存じ帝国海賊モーガン卿の御長男でいらっしゃいます。」
「あら、あなたがメイフラワーさんのお孫さんね。初めまして。」
「はじめてお目にかかります。ギルバート・モーガンでございます。」
「お坐りなさい。こう見ると、お二人はなかなかお似合いのカップルですね。」
公爵夫人の口から出た言葉は、茉莉香の予想外だった。
てっきり、聖王家主催のパーティにでも誘われて、事実上のお見合いをするように勧められるものと予想していたからだ。
予想外の言葉に、茉莉香は何と答えようか戸惑った。
「ハハハ・・・。いえいえ、そんなことをおっしゃられても・・・ギルバートさんにご迷惑が・・・。」
そういって、茉莉香は苦笑しながら、ギルバートを見た。
その時、茉莉香の懐中時計型通信機が鳴った。もちろん弁天丸からの通信であるが、こんな時に出るわけにもいかないので、呼び出し音を切ろうと茉莉香はポケットに手を突っ込んだ。
『え~~と、懐中時計はたしか・・・。』
茉莉香は焦ってしまい、呼び出し音のスイッチがなかなか切れなかった。仕方が無いので、ポケットの中のものをまとめてつまみ出した。
すると、懐中時計といくつかの紙切れと一緒に、赤い玉も出てきた。
「あら、その赤い宝玉はスタールビーかしら。鮮やかな色といい、中心の星の輝きといい、大きさといい、なかなかの逸品ね。
茉莉香さん、これは、どなたかに頂いたものかしら。」
「あ、あ、はい。頂きました。
ギルバートさんの御祖母様、メイフラワー様から頂きました。
な、な、悩んだときはこれを見て占うと良いとおっしゃってました。」
なぜか、茉莉香は口ごもってしまった。
そして、茉莉香は赤い玉を掌に大切そうに載せて、夫人に見せた。
「やっぱり、『モーガンの赤』ね。そうなの。よかったわね。
あら、茉莉香さん、王女様がお呼びのようですわよ。」
公爵夫人は、女官が茉莉香を呼びに来たのを見て、言った。
「失礼いたします。」
茉莉香とギルバートは立ち上がって、敬礼した。
二人の後姿を見ながら、公爵夫人はつぶやいた。
「フフフ、加藤茉莉香。ますます欲しくなったわ。
彼女の気持ちはまだ固まっていないようだし、モーガン家のメイフラワーには負けられませんからね。」
クリスティア王女の部屋は、以前のようなメイドの『控室』ではなく、銀河帝国の第一王女が本来使う豪華な部屋だった。
「いよ~う、来たね。まあ、かけなさい。
おーい、紅茶を三つ。」
そう言うクリスティア王女の姿は、笑顔にあふれ、そして全力で働いている人が発する輝くオーラに包まれていた。
「来てもらったのは、茉莉香、おまえの進路のことだよ。
知っているかもしれないが、妹のチアキは帝国女学院大学の家政学部特別コースに進む。
そこでだなぁ、お前も一緒に特別コースに進学してくれないか。
あいつは、自分一人ではイヤだと言い出しかねないからな。その点、お前といっしょなら、チアキも安心だ。」
「それは、チアキちゃんからも聞いています。私、お勧めのように帝国女学院大学の家政学部特別コースに進学したいと思います。
チアキちゃんからその話を聞いたときには、正直迷っていたんですが、私、この赤い玉を見つめていて思ったんです。
チアキちゃんと一緒に銀河の真ん中に出てきたのですから、これからもできるだけ一緒に進みたい。だから、大学も一緒に進もうと思いました。」
「そうか、ありがとう。
で、その宝玉は、モーガンの赤か。」
「ええ?ご存じなんですか。」
「お前、また、何も知らないで受け取ったんだろう。ハハハ・・」
「やっぱり、そうなんですか。」
「おい、モーガン中尉、あとでちゃんと教えてやれよ。お前の責任だぞ。」
「はい、承知しました。」
「でも、よかったよ。茉莉香も進学を決めてくれて。これで、三人目もあつまる。」
「ええ!? 私たち二人じゃないんですか?」
「ハハハ、茉莉香。こういう時に必ず出てくる誰かさんを、忘れてはいないかなぁ。
おお~~い。もう隠れていなくてもいいよ。」
「ま、まさか、あの子のことじゃないでしょうね・・・」
「こんにちは、茉莉香さん。また、ご一緒できますね。
それに、今度は同級生ですよ。」
茉莉香の予想通り、衝立の向こうから現れたのは、グリューエルだった。
「よかったよ。茉莉香とチアキだけじゃ、ちょっと危なっかしいけど、グリューエルが いれば安心だからね。」
クリスティア王女は笑った。
『司令官は私たちのことをなんだと思っているんだろうか・・・。ナハハ・・・』
茉莉香は、内心でそう思い、苦笑いした。
そして茉莉香は、グリューエルに向かって言った。
「グリューエル。あなた、まだ中学生でしょう。どうして大学に一緒に入れるの?」
茉莉香がそういうと、グリューエルは、セレニティ王国の紋章が付いた豪華な書類ケースに挟まれた、一枚の重々しい書類を茉莉香に見せた。
そこには、次のように書いてあった。
『大学入学資格証明書』
「私は、茉莉香さんの行くところ、どこへでもついていきますわよ。そのために、この証明書だって、ちゃんと学力試験に合格して頂いたのですよ。」
グリューエルは満面の笑みを浮かべた。
グリューエルも彼女の航路(みち)を征く。
16-2 弁天丸船長室
次の仕事へ向かう弁天丸の船長室では、茉莉香がいろいろなことを思いだして、気持ちの整理をしようとしていた。
『モーガンの赤』と呼ばれるスタールビーの大きな宝玉は、予想通り、ギルバートの祖母がモーガン家に嫁いだ時に夫から送られたものだった。モーガン一族の女は、代々赤いルビーの宝石を身に着けるものとされており、その中でも祖母の宝玉は特に有名なもので、代々の女から受け継がれているものだった。
つまり、それを茉莉香に譲ったのは、祖母は茉莉香にモーガン家に嫁いでくれることを望んでいるという証だった。
そして、もちろんこの話を茉莉香に説明してくれた後で、ギルバート・モーガンは茉莉香に結婚を申し込んだ。プロポーズは高校を卒業してからと思ってこれまで控えていたとも言われた。
「やっぱり、そうかぁ。
ギルバートさんは私の先生だから、私、先生と生徒はそういう関係ではないと思ってたんだけどなぁ。そうすると・・・。はぁ~~」
茉莉香は、掌のスタールビーの宝玉を見つめて、ギルバートの話を思い出し、ため息をついた。
その時に、船長室のドアを誰かがノックした。
「ちょっと、いいかしら。」
ミーサだった。
「なに? 用事かしら?」
「いえ、ねぇ。茉莉香がなにか考え込んでいるようだから・・・。」
「はあ~~~。わかりますかぁ。」
「そりゃ、見てれば分かるわよ。」
「実はねぇ・・・・・」
茉莉香は、先日からのクリスタル・スターでの出来事をミーサに話した。
モーガン家を訪ねて赤い宝玉をもらい、ギルバートから結婚を申し込まれたこと、そして、宮廷の廊下で梨理香と鉄の髭に会い突然別れを告げられたこと、宮廷でエカテリーナ公爵夫人に会ったこと、チアキやグリューエルと一緒に帝国女学院進学を決めたことなどを一気に話した。
「それにねえ、この間、帝国軍の司令部で模擬戦をしたでしょ。」
「ずいぶん派手にやったそうね。おかげで、弁天丸の中まであなたの特別警護部隊がついてくることになったじゃないの。」
「ハハハ、それはともかく、その経験から、私、思ったんだ。
これからは重力制御推進方式の船でないと仕事にならないって。」
「そうねえ。この間の実験も危ないところだったしねえ。」
「でしょう。これからも海賊家業を続けようと思えば、弁天丸二世号の建造を本気で考える必要があるわよね。
幸い、私の帝国海賊の免許は、船の新造を禁止していないでしょ。」
「そうね、加藤茉莉香に関する勅令を順守することって以外は、無条件だものね。」
「そうでしょ。」
「でも、この頃は、この辺で海賊家業に見切りをつけようとする人もいるけどね。」
「そうかぁ。この辺で見切りかぁ。・・・でも、私は嫌だな、そんなの。」
「茉莉香の気持ちは、はっきりしているのね。」
「そうだよ。だって、私は海賊だもの。今までも、これからも、ずっと。」
「茉莉香。ここで海賊家業に見切りをつける人は、これから何をしようって考えているか知ってるかしら?」
「知らないよ、そんなの。」
「実は、今ねえ、そういう海賊たちの間では、銀河帝国のフロンティア(辺境)拡大政策に乗っかって、辺境宇宙の開発に乗り出そうっていうヤツが多いのよ。成功すれば、ブルドッグの奴みたいに『俺の王国』ができるってね。」
「あ、そうかぁ・・・。鉄の髭さんもそう考えているのかぁ。」
「そういうこと考えているのは、海賊だけじゃないわよ。聖王家の男たちも、暇つぶしをして人生を過ごすよりは楽しいだろうって、大勢、出かけていくらしいわ。」
「そうなんだ・・・。ブルック王国も実際は大変そうだけどね。」
「いい機会だから独断で言うけど、茉莉香、本当は知ってるんでしょ? 鉄の髭は・・・。」
「言わないで。ミーサ。
私、分かったんだ。今の私は自分の成すべき事をしていれば良いってね。
チアキちゃんのお母さんのように、その時が来れば向こうからやってくるでしょう。
でも、それまでは、私は、私。
弁天丸で、自分のなすべきことをするだけよ。」
「あなたも、船乗りになったわね。」
「そうだよ。私は、今までも、これからも、弁天丸船長加藤茉莉香だよ。」
「そうね。それでいいわよね。
どうかしら、少し気持ちの整理はついたかしら。」
「うん、ありがとう。ミーサ。」
「ところで、私が王宮にいる時に、弁天丸から通信の呼び出し音が鳴ったけど、あれ、何の用だったの? 後で折り返しの連絡をして用件を聞くのを、すっかり忘れてたんだ。」
「ええ?そんな通信していないわよ。
そもそも、王宮の中って、通信電波がつながらないんでしょ。」
「たしかに・・・・。
ええ?! じゃあ、あれは誰から?」
「フフフ・・・。
茉莉香、『モーガンの赤』の中には、死んだ帝国海賊の魂が封じ込められているって噂、知ってる? スタールビーの星の輝きは、その魂の輝きなんだって。
それに、現代のホラー映画では、幽霊が電話をかけるのは、常識よ。フフフ・・・」
「もう~~~! そんな話、やめてよね。」
茉莉香は両耳を押さえて、ミーサに言った。
「この間のこと、私、まだ怒ってますからね。わたしが怖い話は苦手だって知ってて、 あんなシナリオを書いたのは、やっぱりミーサでしょ。」
「ホホホ、どうかしらね。」
16-3 弁天丸ブリッジ
呼び出し音の謎は解けぬまま、茉莉香は船長室を出て、ブリッジへ向かった。
途中、船員室の方から、にぎやかな騒ぎが聞こえてきた。
「それ、猪、鹿、蝶、と来た。また、俺の勝ちだな。」ケインの声が聞こえる。
「また、負けたあ・・。」クーリエの声も聞こえる。
タバコと酒のにおいが鼻を突き、茉莉香はその前を急いで通り過ぎた。
海賊がタバコ、特に葉巻を吸うのは『海賊の伝統文化の尊重と伝承』のためというのが、海賊の愛煙家の主張であり、喫煙は弁天丸でも認められていることである。
しかし、ケインが葉巻を吸っている姿を見るのは、茉莉香は初めてだった。
茉莉香は、ブリッジに戻るとクルーの皆を呼んで、重力制御推進方式の弁天丸二世号を新造するつもりであることを告げた。
具体的な船の設計は、シュニッツアーがほかのクルーの要望も聞いて、造船会社と相談して詰めていくように指示した。
「百年ぶりの新造船、今度は高出力転換炉だぁ。
もう寿命切れの阿号、吽号ともお別れと思うと少し寂しいけどね。
でも、わくわくするなあ。
よし、いっちょうやるかぁ!」
「造船会社は、やっぱり、ステープル重工業だろう。
船長、社長に掛け合って安くしてもらってよ。」
「いや、この頃、他社も頑張ってると聞いたよ。」
「この弁天丸って、どこの会社が作ったの?」
「作った会社は、とっくにつぶれてると聞いたわよ。百年前だものねえ。」
「時空ナビをいれるなら、あたしのデスクは、この際に直してほしいところがいっぱいあるのよね。」
「時空ナビを入れると、未知の宇宙を航海するスリルが無くなって面白くないわよ。
それで、この際、ブリッジに水晶玉を設置したらどうかしら。
時には運を天に任せて航海するのもスリル満点よ。」
みな、茉莉香の話を聞いて、張り切っていた。
「あれ、そういえば、まだケインが来ないわねえ。
どうしたの、さっきは賭け事に勝って元気そうだったじゃないの。」
茉莉香が言った。
「一応、今は休暇中よ。」
「船に乗ってるのに休暇をとっているなんて、なによ、それ。」
「それなんだけどね、茉莉香。また悩み事を増やして、悪いんだけど・・・。」
ミーサが茉莉香のそばに来て、小声で言った。
「なに?」
「実は、ケインが弁天丸をやめたいって、言ってるのよ。」
「やめる?
どうして! 理由は何? 何か不満でもあるの?」
茉莉香は突然の話に驚いた。
「いやあ、前から考えていたらしいんだけど、船を降りて大地の上で働きたいそうよ。」
「船を降りる? ケインが? 本当に?
あの人、根っからの船乗りだって自分から言ってたじゃないの。」
「そうね。どういうことかしら。」
茉莉香は、先ほどケインが賭け事をしていた船員室に向かって駆け出した。
「ケイン! ケイン! いるんでしょ。」
ケインがいるはずの船員室は、酒とたばこの臭いが充満していた。
少し息をつめて、茉莉香はその部屋に飛び込んだ。
ケインは眠っていた。大きないびきをかいている。髭も伸びて、服も着替えていないようで、少し荒んだ印象だ。
以前のケインは、決してこんな姿は見せなかった。少なくとも、弁天丸の操舵手として、そして白鳳女学院の先生として茉莉香の前に登場したときには・・・。
「ケイン! ケイン! 起きなさい。起きなさい。聞こえてないの!」
茉莉香が何度か名前を呼ぶと、ケインは薄目を開けた。
「なんなのよ、この生活。ケインらしくないじゃない。」
「そうですか、俺はもともと、こんな人間ですよ。海賊なんだから。」
「そんなのおかしいわよ。あなたらしくない。
それに、弁天丸を辞めるって、なによ。地上に降りるってなによ。
あなたは、根っからの船乗りじゃなかったの。」
「いやあ、宇宙の海も変わるし、この際、もともと憧れてた地上での暮らしを始めてみようかと思いましてね。・・・もう決めましたよ。牧場でカウボーイも良いかなって。」
ケインはまた眼を閉じて寝転んでしまった。その姿は、船長ともう話すことはないと言う拒絶の態度に見えた。
「ケイン・・・・」
茉莉香がしょんぼりして去った後に、ケインの前にミーサが現れた。
「あまり上手なやり方ではないわね。」
「そうかい?
でも、俺がここに来た時には想像もしなかったようなことが、いっぱい起きたからね。そのなかで、御嬢さんは、立派になったよ。予想以上にね。
だから、おれが、御嬢さんにしてあげられることは、もうこれしかないと思ってね。」
「だから、男は勝手なのよね。自分一人で格好つけて。」
「フフフ・・・。
それで、ミーサは、これからどうするんだい。せっかく辺境に来て、気ままに暮らしていたのに。」
「私はこの船の船医だからね。船の行くところへ行くわよ。どこへでもね。」
「そうかい。シュニッツアーも同じ気持ちなのかい?」
「似たようなものよ。核恒星系にもどるには、良い潮時かも知れないと言ってるわ。」
「他のみんなも、着いていくのかい。」
「あたりまえよ。だって、弁天丸のクルーですもの。
それで、あんたはどうするの?
本当にカウボーイになるつもり?
それとも、アイツのところへ戻るつもりなの? 」
「アイツのところへ戻るとは、まだ決めてないよ。
俺も少し、気ままに休暇を過ごしたいからね。
じゃあ、御嬢さんのこと、よろしく頼むぜ。」
ケインはまた眼を閉じて寝転んでしまった。
弁天丸のクルーたちも、それぞれの航路(みち)を征く。
16-4 加藤邸(海明星)
茉莉香は、海明星の自宅で、約束通りに電話してきた母の梨理香と話していた。
「えーっと、梨理香さんの言うとおりに、帝国軍のハイレベルの秘話通信にセットしたよ。
それで、ねえ、梨理香さん、いったいどうなってるの?」
「いやあ、転職するって言ってただろう。
そこへ、たまたま、海賊船パラベラム号からお誘いがあってね。
まあ、乗ってみることにしたわけだよ。」
「梨理香さん、海賊船だからあの船に乗ったんでしょ。
でも、あの船、帝国海賊を止めちゃうんでしょ。せっかく、スゴイ重装備の船を新しく作ったのに、すぐに止めちゃなんて・・・。訳がわかんないなあ。
どうして止めちゃうの? どうして海賊より辺境の資源開発の方を選ぶの?
私だったら、海賊を続けると思うよ。」
「いやあ、あんな重武装の海賊船を作ったのは、鉄の髭のヤツが、公爵様が反乱を起こせば銀河系内のあちこちでドンパチが始まると見込んで、その際に帝国側についてひと儲けしようと考えたからだけどね。
それが、お前も知ってのとおり、すっかり当てが外れてなあ。
あんな重武装の船、平和な時代じゃぁ『お荷物』で、維持費だけでも大変なんだよ。お金持ちの帝国軍なら、そんなの、どうってことないけど、こっちは民間の海賊船だからねえ。維持費を稼ぐのも、大変でなぁ。
それで、もうここらで海賊家業に見切りをつけて、辺境の資源開発でも始めるかって事になったんだ。
その点、弁天丸はうまく稼いだねえ。公爵のお宝をがっぽり頂いたそうじゃないか。」
「ナハハ・・・。そこは頑張りましたからね。
でも、梨理香さん、辺境って、どこに行くの?」
「場所は、もう目星をつけている。
その辺のところは、ヤツは頭の切り替えが早いからね。
ヒガン星団のさらに先、アンドロメダ航路予定地域上にある、M-9801って球状星団を目指すんだがね。」
「へえ~~~ヒガン星団のさらに先。ずいぶん遠いところだねぇ。」
「ああ。最初、私も聞いたときはびっくりしたがねえ。
でも、ヤツは抜け目がなくてさあ。
銀河帝国の補助金を利用しようってことまで考えているのさ。
お前も知っての通り、アンドロメダ大遠征のための、航路予定空域の調査と、中継地点の開拓は、女王陛下直々の最重要課題だからね。民間船がその予定空域で行う事業には、がっぽり補助金が出るのさ。
もっとも、そんなトンデモナイところまで行って惑星開発事業をしようっていう者は、海賊のような命知らずの連中だけだがねえ。」
「ナハハ・・・。『命知らず』って、自分で言うなんて・・・。
でも、もうそこまで決まっているんだね。
梨理香さん、知らせてくれてありがとう。
新しいお仕事にチャレンジするんだね。
惑星開発って、大変なんでしょう。歴史の授業でも、宇宙移民がおこなう惑星開発ってリスクが多くって大変だったって教えられたよ。
でも、がんばってね。」
「何、言ってるんだい。
大事な話はこれからだよ。」
茉莉香は、緊張した。「鉄の髭」の話が出るのかと思ったからだ。
しかし、梨理香が話したことは、予想外の深刻なものだった。
「実はなあ。M-9801に行く途中には、M-8801って星団があってね。船はその星団に寄る予定なんだ。」
「はあ・・・? でも、どうして?」
「そこは、宇宙マフィアを脱退した少数派の一団が、密かに住み着いているらしいんだ。
そいつらは、銀河帝国との和平条約にも反対していたそうだ。だから、和平後は宇宙マフィアから脱退すると言って、連絡を絶ったようだ。
加えて、そこの奴らは、とっても秘密主義でなあ。宇宙マフィア主流派の奴らでもその星団の内情がよく分からないんだってさ。
だから、M-9801に行くついでに、M-8801の奴らの様子を探って来いっていうお仕事を帝国から依頼されているのさ。もちろんギャラは、たんまり頂くんだけどね」
「でも、わかんないなあ・・・。
宇宙マフィアって、銀河帝国と和平条約を結んだんでしょ。
おまけに、そんな辺境の人たちの動向なんて、そんな小さなことを、わざわざ銀河帝国が気にする必要があるの?」
「常識からいえば、そうだよ。
でもなあ、そいつらは、マンチュリア星人の末裔らしいんだ。」
「ええ~~!?
マンチュリア星の人って、戦争で滅んだんじゃなかったの。たしか千年前に。」
「ああ、九百年前にな。
でも、その時すでに出発していた宇宙移民船に乗っていた連中が、宇宙マフィアの仲間になって生き残ったらしいんだ。
それで、宇宙マフィアがヒガン星団の開発を始める際に、近くで密かに自分たちのための惑星開発を始めたってことらしい。」
「へえ~~~。苦労したんだねえ。
それなら、その人たちも、そこで静かに暮らさせてやれば、いいじゃないの。
それで、『メデタシ、メデタシ』じゃないの。
なにも、わざわざ、梨理香さんたちが、ちょっかい出しに行かなくとも。」
「ハハハ、面白いことを言うねえ。
本当にそうなら、それもひとつのハッピーエンドだよなあ。
でも、茉莉香、困ったことに、奴らは、いまでも銀河帝国に強い恨みを持っているらしいんだよ。」
梨理香は、少し真剣な顔つきで言った。
「ええ~~~!? いまでも、銀河帝国相手にまた戦争をしようって考えてるの?
そんなの勝てるわけないし、そもそも、九百年前の恨みをまだ持ち続けて、復讐しようっていう気持ちが、わかんないなあ。
当時の人はとっくに死んじゃって、今は何世代も後の人たちでしょ。」
「それは、恨む側の人たちだって、九百年の間、恨みを忘れないように努力してきたのだろうね。」
「なに、それ? 九百年も千年も恨みつづける努力って、そんなのアリなの?」
「『銀河帝国への恨みを忘れるな』って、何世代も教育され続けてきたんだろうなあ。
茉莉香、教育ってものは、結構、恐ろしいもんだよ。
お嬢様を育てるだけが、教育じゃないんだよ。
『教育』って名前でも、実は『昔の恨み』を煽って、戦争を起こすのが目的というのもあるんだ。」
「はあ~~~。わかんない。
どうして、そんなに恨み続けなきゃいけないの?
未来に向かって、幸せに生きることを選ばないの?」
「そうだなあ。マンチュリア星人は、銀河帝国に負けて、自分たちの誇りを無くしたんだろうねえ。
なにせ、『諸人類の自由と平等を実現する正義』の味方である帝国軍と戦ってふるさとの星を滅ぼされてしまったんだからね。まるで、滅ぼされて当然の『悪の一味』にされてしまったんだからね。
残ったのは恨みだけで、これを忘れちまったら、自分が自分でなくなっちまうと思っているんだろうかねえ。」
「そこまでいくと、むしろかわいそうになってくるね。もっと自由に生きればいいのに。
でも、梨理香さん、本当に大変なところへ行くんだね。
ホントに、気を付けてね。まあ、梨理香さんなら大丈夫だと思うけど。
はあ~~~。」
茉莉香は、ため息をついた。
「何、落ち込んでるんだい。
大事な話は終わっちゃいないよ。まだ、これからだよ。」
「ええ!? もっと大変な話があるの?」
「ああ、茉莉香。
なあ、ヤツラもバカじゃない、戦争しても銀河帝国に勝てないという現実は分かってる。でも、恨みは晴らしたい。
そこで何をすると思うかい?」
「ええ~~~?
まさか、テロをやろうっていうの? そんな、誰の得にもならないことをやって、何になるの。」
「ヤツラの損得勘定は、ヤツラしかわからないさ。
茉莉香、よくお聞き。恨みを晴らすために狙われるのは、誰だと思うかな?」
「それは、まず第一に、銀河帝国の女王様かなあ」
「そうだなぁ。第一のターゲットはそのとおりだろう。でも、実際には、王宮の中で厳重な警備に囲まれているだろうから、狙うのは難しいよなあ。
では、その次のターゲットは?」
「ええ? 梨理香さん、何が言いたいの?」
「茉莉香、ヒントをやろうかい?
歴史上の人物で、ヤツラが最も恨みを抱くのは、もちろん、ヤツラの星を滅ぼした銀河帝国の王ユスティアン一世とテオドラ皇后だろう。
でも、二人ともすでに死んでいるから、ユスティアン一世の代わりとしては、今の女王陛下を狙うだろう。
では、テオドラ皇后の代わりとして狙われるのは、誰だろうかな。」
「ええ? 女王陛下は独身だから、夫はいないしなあ・・・・。
テオドラ皇后と言うと、あの金貨の女神様だということしか知らないけどなあ。
・・・・・
あ! ま、ま、まさか、
チアキちゃんが狙われるって言うの」
すでにチアキは第二王女として銀河系の国民に広く知られており、特にその容貌と性格から「カワイイ姫様」として、人気が出ていた。そして、『ゴールデン・プリンセス』というニックネームがついた。
つまり、海賊の娘から銀河帝国の王女と言うシンデレラ・ストーリーに加えて、黒髪ロングの風貌とあいまって、横顔が金貨の女神・テオドラ皇后に最近よく似てきたと言われているからである。
従って、テオドラ皇后が憎い人たちが、その末裔であり、風貌まで似ている青バラ家の娘、チアキが第二のターゲットだと考えても不思議ではなかった。
「まあ、そういうことだ。
こいつは、帝国軍や警察の関係者が一致した意見だ。
彼女はお前の親友だろう。茉莉香、頼んだぜ。姫様を守ってやってくれ。
パラべラム号が動き出すと、ヤツラも焦って動き出すかもしれんからね。」
「待ってよ、梨理香さん。
その話は、本当かなあ。帝国軍の人からは何も聞いてないよ。」
「お姫様だけでなく、お前にまでその話が伝わっていないのは、卒業までのあとしばらくの間、海明星で、楽しい時間を過ごさせてやりたいという女王陛下の『親心』かも知れないねえ。
実際には、その間が一番危ないんだけどなあ。」
「ええ!? ・・・」
「そこで、茉莉香。
お前、覚悟はできているんだろうね。
帝国海賊キャプテンとしての大人の覚悟だよ。
私は、それが聞きたくて電話したんだよ。」
「わかってる。
覚悟って、命懸けで守るってことだよね。公爵様の反乱の時にも、帝国海賊の兵隊さんたちが、チアキちゃんの盾になって大勢死んだよ。」
「そうだよ。さすが私の娘だねえ。分かってるじゃないか。うれしいねえ。
でも、それだけじゃないよ。」
「ええ? それだけじゃないって・・・・。」
「たとえば、奴らが私たちを人質にして、お前に裏切りを迫ってきたときにはどうするかな。」
「梨理香さんたちを人質に・・・。」
「これから奴らの本拠地に乗り込むのだから、そんなことも起こりうるさ。」
「そんなこと・・・・。」
「ほかにも考えられるよ・・。私とか、お前の親しい人たちが裏切り者になってお前の前に現れたら、お前はどうするかな。」
「まさか、私にその人たちを・・・。」
「ああ。帝国海賊キャプテンとして、弁天丸船長として、お前は、『撃て』と命じる覚悟があるかい。」
「やっぱり、そうかぁ。
帝国海賊って、そういう覚悟を決めた人たちなんだねえ。」
「帝国海賊として、親子代々、王家に仕えるってことはそう言うことだよ。茉莉香。
言っとくけど、私は自分が裏切り者になったり、お前を裏切り者にするくらいなら、自分の命なんか惜しくないからね。
覚えといておくれ。」
「・・・わかった。お母さん、覚えておく。
思い出してみると、モーガン家の女の人たちも、シャキッとした人たちだったものなぁ。
誰かに感じが似ているって思ったんだけど、そういうところは、梨理香さんに似ているんだ。」
茉莉香は、真剣な表情で梨理香を見返した。
「ありがとうよ。お前とこういう話ができる日が来たなんて、うれしいよ。」
「ありがとう。お母さん。」
そう言って、緊張を緩め、ほっとため息をついた茉莉香に、梨理香は言った。
「まだ、大事な話があるんだよ。気を抜くんじゃないよ。」
「ええ? まだ話があるの。」
茉莉香は、再び緊張した。
「帝国海賊キャプテンとして、弁天丸船長として、お前にはもうひとつ大事な責任、果たすべき役割があるんだよ。
わかってるかい?」
「命懸けで王家を守るってこと以外に、まだ、何かあるの・・・。」
「ああ、親子代々、王家に仕え、船を守るには、跡継ぎが必要だよ。わかってるだろう。」
「わかってるけど・・・。
弁天丸の方は、重力制御推進方式の新型船、弁天丸二世号の建造を考えてるんだけど・・・。これからも海賊ができるようにと思ってね。
でも、私の方は、まだ高校生で、18歳で、来年はチアキちゃんとグリューエルと一緒に女子大に行こうとしているし、船長の仕事だってやることがいっぱいあって、とてもまだ、地上に降りて結婚とか婚約とか考える気分じゃないと言うか・・・。」
茉莉香は、顔を赤くして俯き加減に話し始めた。
「へえー。弁天丸二世号かい、やるじゃないか。
あの『ろくでなし』も、旧式の弁天丸じゃ、いずれ限界が来るっていうんで、ああいう船を作ったんだが、すっかり時代に乗り遅れちまったなあ。
けど、お前さんは違うねえ。
お前さんは、新しい時代の海賊だよ。うれしいねえ。
フフフ。でも、あっちの方はまだ娘のまんまかぁ・・・。
覚悟が決まっているわけじゃないのかい。」
「もお~。お母さん! 何を言ってるの。
お母さん、私のことをからかってるの・・・。」
頭の中のどこかでスイッチの入った茉莉香は、少し怒って、声が大きくなってきた。
「そんな訳、ないだろう。めったに出来ない親子の大事な話さ。」
「私は私です。その時が来たら、自分でちゃんと決めます。ほっといてください。」
茉莉香は、言葉は丁寧だが、精いっぱいの反抗的な口調で言った。
「そうかい・・・。わかったよ。
で、モーガン卿の息子と付き合ってるのかい。」
梨理香は、興味深そうに、笑顔で聞いた。
「お母さん! 私が誰とお付き合いしようと、しまいと私の勝手です。
口を挟まないでください。」
「そんなこと言ったって・・・。
私はお前の母親だから・・・。
最後にモーガン家にご挨拶でもしておこうかと思って・・・・。」
「もおー! お母さん、
そういう余計な『おせっかい』はしないでください。」
「それとも、ブルドックの息子の方が良いのかい?
オヤジのブルドックの奴は、私らは昔から顔なじみでなあ・・・。
お前がその気なら、私も応援しようかと・・・。
で、三人のうち、誰が気に入っているんだい?
長男のジョージかい?
次男のトムかい?
三男のエバートかい?」
「も~~! お母さん、それも余計な『おせっかい』です。」
「ええ~~~? そうかい?
親としては、当たり前じゃないかなぁ。
それとも、いまどきの娘は、みんな、そういう考えなのかい?」
「も~~ お母さんったら!
当たり前じゃないですかぁ。」
それからしばらくの間、急にフツーの母親らしいことを言い出した梨理香は、茉莉香の地雷を踏み続け、どこにでもあるフツーの母娘のような「会話」が続いた。
梨理香は、「『ろくでなし』と違って、母親の自分には、まだ茉莉香にしてあげられることがある」と思って、柄にもなくこういう行動に出たのだが、茉莉香の反応は梨理香にとっては予想外だった。
そして、茉莉香は反撃に出た。
それは、これまで聞きたくても聞けなかったことだった。
「ねえ、梨理香さん。いい機会だから聞いておきたいんだけど、梨理香さんは私のお父さんとどうして一緒になったの?
どこが気に入ってたの?
そして、どうして別れたの?
なぜ、船を降りて、海明星で私を生んで育てたの?
こういうこと、今まで、何にも話してくれなかったじゃないの。私のことを聞く前に、自分のことを話してよ。」
「う~~ん。そいつは、今でも思い出すと蹴っ飛ばしてやりたいことがたくさんあったんだがねえ~~。・・・・」
梨理香は、少し考えた末に、一気に話し出した。
「茉莉香、簡単に言うとねえ、私もゴンザエモンも、船の中で生まれて船の中で育ったのさ。そして、小さいころから『お前たち二人は夫婦になって弁天丸の後を継ぐんだ』って言われて育ってきたってことだ。
その時は大して疑問も持たずに、そうなっちまったんだが、お前がお腹の中にいる時に、分かったんだ。
私は、緑の大地の上の暮らしに憧れてたんだってね。
だから、この子は、緑の大地の上で生んで育てて、自分で自由に人生を選ばせたいって思ったんだよね。」
「そうだったの。
でも、お父さんはそれをどう思ったの?喧嘩別れしたの?」
「そりゃ、いろいろあったさ。
でも最後には、少し笑って送り出してくれたよ。
『実は、俺もそういう暮らしに憧れてたよ。お腹の子をよろしく頼む。』って、言ってね。
おまえのために了解したんだよ。」
「そうかあ、緑の大地の上の暮らしって、実は船乗りの人たちが憧れるものなんだね。
そういえば、サーシャも、ケインも、同じようなことを言ってたなあ。」
それからしばらくの間、二人は茉莉香の子供時代の話を楽しそうに語り合った。
そして、別れの挨拶をした。
「だいぶ長い話になったなあ。
じゃあ、茉莉香、達者でなあ。
お前が本当に立派になったので、私はうれしいよ。」
「うん、ありがとう。お母さんも、元気でね。」
この日を境に、茉莉香は母のことを「梨理香さん」とは呼ばなくなった。
内容がわかりやすいように、改題しました。
茉莉香の進路が少しづつ、見えてきます。