宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編- 作:gonzakato
茉莉香達は、追いかけてくるテロリストと必死に戦いながら、囚われたジェシカを救いに行きます。しかし、彼女を発見した途端、グリューエルが銃を構えて彼女を狙います。ジェシカの正体は・・・?
ようやく一難去った茉莉香達ですが、事態は急展開。チアキが襲われたことに激怒した女王は、帝国軍にテロリスト、マンチュリア族の本拠地への大遠征を命じます。
遠征は女王自らが軍を率います。チアキにも出動命令が下り、弁天丸も帝国軍と一緒に遠征に加わることになります。
次回は、遠征とは別に、海明星周辺で行われる「たう星系会戦」を書きたいと思います。
18-9 『地下迷宮』の通路上(白鳳女学院地下の旧植民地連合軍司令部跡)
イリーナは、手元の情報端末を見ながら、薄暗い地下通路の中を、皆を先導して進んでいった。
情報端末には、敵味方を識別した赤と緑の光点が通路上を動いている様子が表示されている。
「あ、行き止まりだ。確か、昔の先輩が作った『地下迷宮』の地図では、ここは真っ直ぐ地下の司令部跡に続いているはずだったけど・・・。」
ナタリアが、走りながらつぶやいた。
「よくご存知ですね。ここは最近、改修されて、迷路のような複雑な回廊になったんです。
さあ、こちらに曲がりますよ、みなさん。」
イリーナも走りながら言った。
「いつ、そのような改修工事が行われたのですか。私たちは全く知りませんでした。」
グリューエルも、迷路のような地下通路を走りながら聞いた。
「公爵様の反乱で学校が休校になっている間ですよ。
その間に星系軍は、銀河系規模の内戦に備えて地下司令部の再整備を計画したのです。 この時に、地下通路は、白兵戦を想定したセキュリティ対策強化のため、複雑な迷路のように改修されたんです。
もっとも、司令部本体の方は、コンピュータなどの設置に膨大な費用が掛かるので予算折衝が長引いている間に公爵の反乱が終わってしまい、結局、再整備は中止になったそうですが。」
「私たちが練習航海に行っている間ですね。
でも、そんなことを良くご存知ですね。秘密が漏れているんでしょうか。」
茉莉香も走りながら聞いた。
「いや、校長先生からお聞きしました。
お嬢様たちを守るためにと、ご協力いただきました。この情報端末も校長先生から頂いたものですよ。」
イリーナが答えた。
「校長先生って、やっぱり、顔が広いなぁ。」
「校長先生は、現役の情報部員だった時代から、私たちの旧組織にとって『手ごわい相手』だったそうです。
だから、お若いころから、『魔女』というニックネームで呼ばれていたそうですよ。」
「やっぱり。ナハハ・・・。」
茉莉香は苦笑いした。
茉莉香と話しながら、イリーナは情報端末を見て考えている。
「思ったより敵の動きは速いですね。このままでは、追いつかれて後ろから狙撃される恐れがあります。
この先の迎撃ポイントで、迎え撃つしかないでしょう。」
「え!? 銃撃戦をやるんですか?
私たち、銃なんか打ったことがないんですが・・・。」
ハラマキやリリイは、怖そうな声を出した。
グリューエルとナタリアも、驚いて声が出ない。
「大丈夫ですよ。銃撃は私一人でやります。そのために私が来たんですから。」
イリーナが答えた。
「あなた一人に銃撃戦をさせるなんで、そんなわけにいかないでしょう。
私もやるわよ、海賊だから。」
茉莉香が言った。
「茉莉香ひとりに押し付けるわけにいかないでしょう。」
チアキも言った。
「そうですよ。イリーナ、みんなで乗り切らないと。」
サーシャも言った。
「私も帝国軍人のタマゴだからね。」
ウルスラも言った。
イリーナはさらに進んで、ある地下通路の角で、立ち止まった。
「ここです。ここが白兵戦用の迎撃ポイントです。」
イリーナは、廊下の天井や床に向けて、通信端末を操作した。
すると、たちまち天井や床から分厚い壁がせり出してきて、銃撃用のわずかなスキマを残して、通路をふさいでしまった。壁からは、武器庫のようなものがせり出してきた。
「お嬢様。ここから、通路の向こうの角を曲がって現れた敵を狙撃します。照明は暗いので、暗視用のゴーグルをお付け下さい。
それから、皆様の武器は少し威力が弱いので敵の防護服を破れないかもしれません。武器庫にある軍用ブラスターをお使いください。
システムの情報では、追っ手のテロリスト兵士は、三人です。
サーシャ様は、お持ちのガンマ線ブラスターで、兵士の起爆装置を狙ってください。
他の皆様は、兵士の足を狙ってください。
敵の足を止めて、我々を追跡できなくすればいいのです。殲滅は必要ありません。」
「わかったわ。いくわよ。」
茉莉香もゴーグルをつけながら言った。
結局、茉莉香、チアキ、サーシャ、ウルスラとイリーナの五人が銃を構えて、敵の兵士を待ちかまえた。
「グリューエルさん。
このガンマ線ブラスターは、人間爆弾にされた兵士を放射線で倒すためのものではありませんよ。起爆装置を無効化して、その兵士に生きのびるチャンスを与えるものなんですよ。
これで攻撃をあきらめてくれるといいのですが・・。」
サーシャは、緊張して銃を持った少女たちを見つめるグリューエルに言った。
そして、持ってきた拳銃タイプの小銃型のガンマ線ブラスターをグリューエルに渡して、言った。
「これを持っていてください。
グリューエルさんなら、人間爆弾にされた人を救うために引き金を引くことができるはずですよ。
たとえ、他の人がためらう場合でも。」
「間もなく来ます。三人の人影が見えたらすぐに撃ってください。」
ドカドカと、人が走る音が近づいてきた。
人影が見えた途端、チアキの手元の情報端末には、爆発物を検知したことを示す赤いランプがついた。
キューン、キューン、キューン・・・
少女たちは壁の隙間からいっせいに射撃した。
銃撃が終わってみると、二人の兵士が床に倒れ、足を抑えている。しかし、残りの一人は、撃たれた足を引きずりながら、通路の角まで引き返して隠れてしまった。
「一人、撃ち漏らしたわ。三人目は、起爆装置の無効化ができなかったわ。」
サーシャが言った。
「そのようね。赤いランプが点滅し始めたわ。」
チアキが言った。
「いけません。みなさん、すぐここを離れましょう。
30秒以内に爆発します。」
イリーナがそう言うと、情報端末を操作して、壁の隙間を閉鎖し爆発に備えた。
「ええ!? 爆発!?」
少女たちは、一斉に走った。全力で走った。
グワーン!
やがて背後で大きな爆発が起こった。
「キャーッ! 」
爆風が、後ろから少女たちの髪を吹きあげていく。
「大丈夫です。もうすぐ、旧司令部跡です。そこまでいけば、味方がいるはずです。」
18-10 白鳳女学院正門前(海明星)
「王女と帝国軍は、この星から出て行け!」
「出ていけ!」
「海明星を戦争に巻き込むな!」
「戦争反対!」
デモ隊が口々に叫んでいる。白鳳女学院の正門前は、環境過激派のデモ隊が押し寄せて道をふさぎ、車両の通行ができなくなるなど大混乱していた。
帝国軍の警備隊は姿を見せず、海明星行政府の警察と学校のガードマンが規制にあたっている。
というのも、デモ隊は武器を持たず、プラカードや旗を掲げているだけなので、警備のガードマンや警察により、学園内にデモ隊が侵入するのを防ぐだけの規制しかできないと思われたからだ。
デモ隊は『校長に会わせろ』、『抗議声明を受け取れ』と騒ぎ、容易に退去しないので、正門前は混乱が続いていた
ドカーン、パン、パン、パン。ドカーン!
その時、正門西側の丘陵地から爆発音や銃の発砲音が聞こえてきた。
白鳳女学院は小高い丘陵地の上にあり、正門前まで丘陵地を上る道が通じているが、その両側の丘陵斜面は、公園や学校の運動場として整備されている。
正門の西から少し離れたところには管理事務所のような小屋が立っていたが、爆発や発砲はそこから聞こえてきた。
見ると、小屋の前に止まっていた警察の装甲車が火を噴いて煙を上げている。
黒い防護服姿の人たちが、銃を撃ちながら、小屋を襲っている。
これに対して、警察が反撃しているが、軍用の高性能な武器には歯が立たず、何人か倒され、残りの警官は退却してしまった。
やがて、黒い人影は小屋に突入していった。
すると今度は、それを追うように、迷彩色の防護服姿の軍人たちが、銃を撃ちながら小屋に突入していった。
実は、この小屋は、白鳳学園の地下にある旧植民星連合軍の司令部への入り口のひとつであった。そして、そこから最初に侵入したテロリストが、地下通路で茉莉香たちが出会った三人だった。
突然、激しい銃撃戦を間近で見せつけられたデモ隊の人々は驚愕した。
すでに、一部の人々は銃声に驚いて、逃げはじめていた。
誰かが逃げはじめると、デモ隊はパニックに陥って、皆が正門前から逃げて行った。
他方、テロリストの襲撃を受けて、星系軍と帝国軍の警備部隊は、一斉に動き出した。
そして、警備部隊は、あちこちから侵入しようとしていたテロリストの軍団を一斉に捕捉していた。不思議なことに、白鳳女学園に侵入したテロリスト集団は防護服を着ているにもかかわらず、射撃の精度も低く、あっという間に追い詰められた。
しかも、彼らの近接戦闘能力は極めて低かったため、警備部隊による格闘戦で簡単に取り押さえられてしまった。もちろん、起爆装置も簡単に無効化された。
「爆発の危険がないか、もう一度、チェックしろ。」
そして、警備部隊の軍人たちは、尋問のためにテロリストの頭部のマスクを外させてみて、驚きの声を上げた。
「ええ!? みんな子供か?」
「男の子だけかと思えば、女の子もいるな。見たところ、せいぜい高校生くらいか。」
「どうりで、軍人としての訓練ができていないはずだ。」
「それよりも、これはおかしいだろう。みんな同じ顔をしているぞ。」
「これが、噂のマンチュリア軍のクローン兵士なのか・・・・。」
18-11 『地下迷宮』の通路上(白鳳女学院地下の旧植民地連合軍司令部跡)
茉莉香たちは、テロリストの襲撃を退けて、ようやく旧植民地連合軍司令部跡の大ホールに近づいていた。
この時、地上にいたテロリストは既に逮捕され、残るは、既に地下に侵入したテロリストだけとなっていたが、茉莉香たちはまだそれを知らなかった。
「茉莉香さん、情報端末を見ると、地下に侵入している敵は、あと二組ですね。
いずれも、私たちと同じところ、旧司令部跡の大ホールを目指して進んでいます。」
「それはまずいわね。
ホールには、他の生徒たちが大勢避難しているでしょ。そこへ私たちが加わると、敵の攻撃がホールに集中する結果になるわね。
いいわ。そろそろ、私たちのやり方で戦いましょう。作戦通りにね。」
茉莉香は言った。
「はい。」
「それで、向こうさんも同じところを目指していると言うことは、このセキュリティシステムの画面は、向こうさんも見ているってことでしょう。」
茉莉香が言った。
「なるほど。情報がもれているのか・・。ありうるわね。」
チアキが言った。
「それで、情報が漏れているなら、それを利用して、向こうさんを引っ張りまわしてあげましょう。
そのためには、えーーっと・・・・」
茉莉香は情報端末の画面に示された、地下通路の迷路を眺めながら、作戦を考え始めた。
この時、即座にグリューエルが答えた。
「茉莉香さん、こういう作戦はどうでしょうか。」
グリューエルは情報端末の画面を指差しながら、説明した。
「この道の先を左に曲がって、旧住居区画の中を通って、私たちがもとのヨット部部室に戻ろうとしているように見せかけます。
そうすると私たちの後から追いかけてきた、このひと組は、元に戻って私たちを待ち伏せようとするはずです。もう一組も私たちを追いかけるでしょう。
そこで、私たちが逃げるためにあちこちの通路を閉鎖したように見せて、待ち伏せ予定地点をここしかないようにします。」
「それで、私たちはどうするの。そこで戦うの?」
「いいえ。それは警備隊にお任せしましょう。
どうせ、そこまで戻れば、更にあとから追いかけてくる警備隊と対面して戦闘になるでしょうから。」
「いいわ。その作戦でいきましょう。」
茉莉香が言った。
「ええ!? その作戦って、海明星の軍が管理するこの地下基地のセキュリティ・システムをハッキングして、偽のデータを表示させるってことですよね。」
イリーナが驚いた。
「そうよ。」
「そんなの、アリですか? 味方同士じゃありませんか!?」
「アリなのよね。困ったことに。
たう星系軍も帝国軍もお互いに協力しているはずなのに、肝心のところは縄張り意識があってね。たう星系軍も、セキュリティ・システムの重要なところは帝国軍には教えないのよね。
だから、ハッキングが必要なわけ。」
「本当ですか?
我々ヒガン共和国軍と帝国軍は、いままでは最大の宿敵でしたが、今はとても良い協力関係にありますよ。」
イリーナは、まだ信じられないと言う表情だった。特殊部隊の隊員と言っても、見かけ以上に、生真面目な性格なのだろう。
「そうね。
でもね、あなたの身元だって、海明星行政府は、本当のことを知っていたかもしれないけれど、帝国軍には教えなかったのよ。
だから、私も知らなかったのよ。
たぶん、情報が漏れることを警戒していたんだと思うけどね。
お互い様でしょ・・・フフフ。」
茉莉香が言った。
「できました。動かします。」
グリューエルが言った。
すると、情報端末の画面上に表示された緑の点の塊が、次の角を左に回って、元のヨット部室の方へ引き返そうとしているように、動き出した。
同時に、逃げ出したと見せかけるため、背後から追いかけにくいように、通路が次々閉められた。
通路の閉鎖は実際に行われた。ヨット部員の移動が偽の情報と気づかれないためである。
この動きに対応して、二組の赤い点が、ヨット部員の移動を追いかけるように動き出した。
「さあ、これで敵は罠にかかったわよ。次はどうしましょうか?」
「茉莉香さん。二組目の敵が動いた後に、緑の点がひとつ、この部屋に残されています。 どうやら、味方の誰か一人が、この部屋に置き去りにされたようです。」
グリューエルが、画面に表示された地図を指差しながら言った。
「これって、ジェシカじゃないの?」
チアキが言った。
「ジェシカさんかどうか、わかりません。
このシステムは個体識別まではできませんので。」
グリューエルが答えた。
「茉莉香、助けに行こうよ。」
チアキが言った。
「危険です。おやめください。」
イリーナが止めたが、チアキはこう言った。
「ジェシカは、ヨット部員、私たちの友達よ。見捨てることはできないわ。」
「グリューエル。この先をこういうふうにジグザグに曲がって行けば、この部屋にたどり着くのよね。」
茉莉香が、情報端末に示された通路を指でたどりながら、進路を聞いた。
「そうです。」
「じゃあ、行こう。」
茉莉香も言った。
茉莉香たちヨット部員は、ジェシカがいると思われる部屋に向かった。部員達は、イリーナが先頭に立って、安全を確かめながら、地下通路を慎重に進んでいった。
あと少しと言うところまできた時、リリイが言った。
「情報端末では、敵は向こうへ行っちゃたと表示されてるんでしょ。
もう敵はいないから、もう大丈夫よ。急ぎましょう。」
そう言って、リリイはイリーナを追い越して、地下通路の角を曲がろうとした。
「危ないです。リリイさん、下がってください。」
イリーナがリリイを引っ張って、地下通路の角から引き戻した。
その時、ブラスターの熱線が、リリイの今までいた空間を貫いた。
「敵だ。隠れて狙撃している。」
「どこにいるの。
こっちの情報端末には表示されていなかったわ。」
「なはは・・・。ハッキングはお互い様ってことかしら。」
茉莉香が苦笑いをした。
「厄介なことになったわね。」
チアキが言った。
「まかせてちょうだい。このブラスターなら、壁越しにでも攻撃できるわよ。」
サーシャがそう言って、ガンマ線ブラスターの出力を最大に調整した。
サーシャは、地下通路の角から敵の様子を窺った。敵も地下通路の角に隠れているらしい。それならと、サーシャは、敵の隠れているあたりで、起爆装置の埋め込まれた腹部を狙って、ブラスターの引き金を引いた。
キューン、キューン、キューン・・・。
敵がうめき声をあげたり、倒れる音が聞こえた。
すかさず、イリーナが突進して、ガンマ線ブラスターで腹部を撃たれて苦しんでいる三人の敵をなぎ倒し、武装解除した。
テロリストは白兵戦用の防護服を着ているにもかかわらず、格闘戦となると驚くほど弱く、簡単に倒されてしまった。
チアキは手元の情報通信端末を見て、起爆装置が機能を停止していることを確認した。
茉莉香は銃を構えながら、左右を見わたし、耳を澄ました。
そして言った。
「よし。付近に敵はいないわ。安全を確認。行きましょう。」
今度は茉莉香を先頭にして、ヨット部一行は通路を慎重に進んで、誰かが置き去りにされている部屋のドアを開けた。
18-12 地下迷宮の小部屋(白鳳女学院地下の旧植民地連合軍司令部跡)
部屋の中には、椅子に縛りつけられたジェシカが、一人でいた。
「ジェシカ! 大丈夫?」
茉莉香が言った。
チアキやサーシャは、ホッとした顔をしてジェシカを見つめていた。
「よかったよ。ジェシカが生きていたよ。よかったね。」
ナタリア、ウルスラ、ハラマキ、リリイが、喜びの声を上げた。
「あ、私を助けに来てくれたの?」
しかし、茉莉香たちを見たジェシカは、うれしいような、悲しいような複雑な表情をした。
「そうですよ。あなたを助けに来ました。」
グリューエルはそう言ったにもかかわらず、ジェシカの前に進み出て、彼女に銃を突きつけた。
グリューエルの顔には、今にも引き金を引いて、彼女を打とうという強い気迫があふれていたが、彼女は震える両手で拳銃を握り、とても緊張している様子だった。
「ああ、グリューエル。何するのよ、ジェシカは私たちの友人、味方よ。」
茉莉香は、あわてて止めに入った。
「茉莉香さん、邪魔しないでください。私は・・・。」
グリューエルは、悲壮な表情で引き金を引いた。
キューン。
青白い光線が、ジェシカの腹部を突き抜けた。
彼女はそのショックで気絶してしまった。
グリューエルの撃った銃は、サーシャから託された小銃タイプのガンマ線ブラスターだった。
発砲を止めるためグリューエルに近づこうとした茉莉香は、チアキの持った情報端末に赤い光が点滅していることに気が付いて、立ち止まった。
そして、あわてて、『みんな、逃げて!』と警告を発しようとしたが、すぐに光の点滅が消えたことにも気が付いた。
「チアキちゃん、・・・人間爆弾。」
茉莉香は、チアキを見て、かろうじてそれだけ言った。
「そうね。ジェシカの顔を見た時に、ついほっとして、爆発物検知器を確認するのを怠ったわ。
これが、マンチュリアの暗殺用生体兵器ね。まったく、恐れ入ったわ。」
チアキが言った
「爆発まで30秒なんて、再会を喜んでいたらあっという間に過ぎるものね。
ほんと、グリューエルがいなかったら、みんな、やられていたわ。
ありがとう。」
茉莉香はそう言って、グリューエルを見た。
本当は笑顔で礼を言いたかったが、緊張して硬い表情のままだった。
「はあ、どうも・・・・。」
グリューエルも緊張に震え、落ち着かない声で答えた。
「それで、ジェシカは大丈夫なのでしょ?
死んじゃいないよね。」
リリイが聞いた。
「たぶん大丈夫。今は、気を失っているだけよ。
爆弾を取って、治療を受ければ、直るわよ。きっと。」
サーシャが答えた。
ヨット部一同がようやくほっとしたところで、警備隊の人たちが部屋に入ってきた。
「皆様、ご無事でしたか。」
「こちらは大丈夫です。
それから、この縛られている生徒は、マンチュリアの工作員でした。いま、起爆装置を無効化したところですが、注意してください。」
イリーナが答えた。
「地下に侵入した敵はどうなりましたか。まだ交戦中ですか?」
茉莉香が聞いた。
「はっ。すべて制圧しました。テロの鎮圧はこれで完了です。」
警備隊の指揮官らしい人が、茉莉香に向かって敬礼して言った。茉莉香のことを知っているようである。
「ありがとうございました。」
茉莉香も敬礼して、答えた。
そのとき、応急手当てを受けて、ジェシカが意識を回復した。
「ジェシカ! 大丈夫?」
ナタリアが言った。
「ああ、部長。すみません。部室を壊してしまいました。」
ジェシカが詫びた。
「そんなことはいいよ。あなたも治療を受ければ大丈夫だそうだから。
心配しないで、病院へ行ってね。」
ナタリアが言った。
「はあ、でも、もう、どうでもいいんです。私のことは・・・。」
ジェシカが、元気なく答えた。
「ねえ。一つ聞かせてよ。
あの脅迫状を私たちに出したのは、あなたでしょ?」
チアキが聞いた。
「そうですよ。チアキ先輩たちがこの星を出ていけば、私たちが命令されたテロも中止になるのかなって、思ったものですから・・・・。」
「あなた、独断で脅迫状を出したの?」
「そうですよ。
テロが中止になれば、私も、このまま学校に通って普通に暮らせるかなと思って。
だって、お父さん・お母さんの時代も、その前のおじいさん・おばあさんの時代も、何も命令の来ない平和な時代が続いていたのに、私の時になって命令が来るなんて・・。
そんなこと・・・。
せめて、あと一年あれば、私も部長になって、あのオデット二世号の船長席に座れるのになあって、思ったものですから・・・。」
ジェシカはそう言いながら、涙を流していた。
「ジェシカ、まだ諦めてはだめよ。やり直せばいいのよ、私のように。」
サーシャが言った。
その言葉に対しては、ジェシカは黙って、ただ首を振るばかりだった。
そして、やがて、沈黙してしまった。
『これは、精神的なショックや疲労のためだ』として、衛生兵は彼女をそっとしておくように言った。
18-13 白凰女学院校庭(海明星)
地下迷宮の戦いを終えたヨット部員一行と警備隊は、拘束されたジェシカを連れて、エレベーターで地上へ上がった。
地上の管理棟正面の広場では、生き残ったテロリスト達が拘束され、固まって座らされていた。
彼らは、高校生くらいの若い男女であった。みな何も言わず無表情であり、人間らしい意思や感情が無いように思われた。
警備隊は、ジェシカもテロリスト達と一緒に座らせたが、改めてジェシカの顔を眺めて、皆、驚いている。
「この生徒は、テロリストの女の子達と同じ顔をしているではないか。」
「この子も、やはりマンチュリアのクローン人間に間違いない。」
「予め潜入しているヤツがこの子だとは・・・。」
「しかもヨット部の副部長をしていたとは、驚いた。」
「この子は、いつごろから潜入工作員として活動していたのですか?ご存知ですか。」
スカーレットが、ヨット部員に聞いた。
「白凰女学院には中等部時代に転校してきましたよ。」
ウルスラが言った。
「そうですね。
でも、ステープル家がクリスタルスターに住んでいた頃から、正確には彼女よりも前に、彼女のお父様、お母様の時代から、我が家に出入りしていたそうですよ。」
サーシャが言った。
「そんな前から・・・。」
スカーレットが驚いた。
それ以上、サーシャは何も言わなかったが、ヨット部員達には、マンチュリア人が以前からステープル家を監視していた理由は、理解できた。
練習航海で宇宙大学を見学したときに、サーシャの両親達「伝説のカップル」の恋物語を知ったからである。
つまり、サーシャの実母ロッテとステープル家の養母ミーシャが実の姉妹で、しかもロッテが宇宙マフィアの大ボス、レイ・レオニーニの妻だったという秘密の事情を知っているからである。
しかし、広場ではもうひとつの驚きが広がっていた。
拘束されていたマンチュリアのクローン人間達が、ジェシカに強い興味を示したからだ。ジェシカが自分達と同じクローン人間だと分かったようだ。
みな、それまでの無表情が一転して、食い入るように彼女を見つめていた。
やがて彼女と同じ顔をしている女の子の一人が、地面に座った姿勢のまま、ジェシカににじり寄った。そして、縛られた両手でジェシカの着ている制服を触ったり、顔を近づけてジェシカの体のにおいをかいだりし始めた。
その間、ジェシカは何も言わず、じっとしていた。
そして、その女の子は、うっとりとした表情を浮かべて、他のクローン人間に言った。
「モニニチミチイカ。キイクマトニナ、ナイミトノキナ・・・」
それを聞いた他のクローン人間の女の子たちも、ジェシカの回りに集まってきて、生き生きとした表情で、口々に何かしゃべっている。
男の子のクローン人間たちも、ジェシカを見つめ、お互いに何か話し出した。その顔には明らかに感情や意思が表れていた。
警備隊員やヨット部員には、クローン人間達が何を言っているか分からなかった。
しかし、表情や動作から、ジェシカに対して、憧れのような気持ちを抱いていることがうかがえた。
「ねえ、イリーナ。あの子達が何を言っているか、分かりますか?」
茉莉香が聞いた。
「だいたい、わかります。
彼らは、マンチュリア語、それも下等身分専用の言葉で話しています。
ジェシカさんのことを
『良いにおいがする』とか、
『綺麗な服だ』とか、
『王族のような暮らしをしている』とか、
『私も、死ぬまでに一度で良いから、この子のような暮らしがしてみたかった。』とか、口々に言っています。」
それを聞いていたチアキが言った。
「この子達も、同じ人間なのよ。
むしろ、この子達にこんなことをさせたヤツラこそ、許せないわ。」
チアキの言葉に続けて、グリューエルが言った。
「でも、この人達は、いったいどうなるのでしょうか。
チアキさんを狙ったことは明らかなんですから・・・。」
グリューエルは、言葉に詰まった。つまり、『銀河聖王家に対する不敬罪により死刑になるのが当然・・・。』という言葉を最後まで言うことが出来なかったからだ。
「そうね。母上に恩赦をお願いしてみるわ。
この子達は自分の意思ではなく、洗脳教育でテロリストになったのでしょうからね。
イリーナ、この子達に伝えてください。
私から貴方たちを死刑にしないように女王陛下に働きかけることと、
銀河帝国の下では総ての国民は平等であり、貴方たちもジェシカのように学校に行けるようになると、伝えて下さい。」
チアキは言った。
「承知いたしました。寛大な御心遣い、感謝申し上げます。」
イリーナは、片膝をついて片手を地面につけ、深く頭を下げ、軍人としての最高の敬意をチアキに示した。イリーナも、目の前のクローン人間達に深い同情の気持ちを持っていたことが、その敬意の表し方にうかがえた。
イリーナがチアキに片膝をついて敬意を示したところは、クローン人間達も見ていた。
チアキが王女であることを理解したと思われた。
しかしイリーナの話を聞いて、彼らは驚くと言うより、呆然として信じられないという表情をした。
「信じられないのかなあ。無理もないわね。
スカーレットさん、この子達の治療はどうするのですか。」
「はい、チアキ様。
この後すぐに、けがの治療、体内の爆発物の除去手術と放射線障害の検査をすることになるでしょう。
たぶん、どの子も生命の危険は無いと思われますが、医師にお任せ下さい。
その後は、おそらく、洗脳を解除するための治療になるでしょう。」
「そうね。お願いします。」
テロは鎮圧され、白凰女学院は落ち着きを取り戻しつつあった。
正門前では、テロ鎮圧の知らせを聞いて、生徒の親たちが迎えに現れていた。みな、無事な我が子の顔を見て安心した様子であった。
そこで、ヨット部一行もようやく家路につこうとした。
「チアキちゃん、無事におさまって良かったね。」
「そうね。茉莉香、良かったね。サーシャ、イリーナ、ありがとう。」
「いえ、こちらこそ。」
「グリューエルさんもありがとう。ジェシカを救えたのは、貴方の決断でしたよ。」
「いえいえ、どういたしまして。」
そうやって、ヨット部一行がホットしていると、キアキの携帯端末が鳴った。
「はい。チアキです。」
と、チアキが応えた。
「お母様。・・・・・・・
はい、こちらからご報告すべきところ、わざわざお電話頂き、ありがとうございます。
ご心配をお掛けました。私は無事です。ケガもしておりません・・・・
はい、テロは鎮圧されました・・・
それでお願いがございます。テロリストの少年少女達のことですが・・・・
ああ、はい。そうですか。ありがとうございます。」
チアキは、茉莉香に向かってウインクして、OKのサインを出した。恩赦が認められると聞いたのであろう。
だが、その後は、チアキの表情は緊張感に溢れ、口調が重くなった。
「ええ!? ・・・・
はい。分かりました。
ご命令に従い、遠征艦隊に合流するため、ただちに出発します。・・・・
はい。加藤大佐にも、弁天丸で合流するように伝えます。
その他には・・・・
はい、分かりました。伝えます。」
チアキは、通信を切って、茉莉香と顔を見合わせた。
「チアキちゃん・・・。始まるの。」
「そうよ。母さんは、マンチュリア人に対して本気で怒っているわよ。」
「第四次マンチュリア戦役ですか・・・。」
「そうね。M-8801星団への遠征が決定されたそうよ。
それも、銀河帝国の女王が自ら軍を率いるという、100年ぶりの親征だそうよ。すでに帝国軍に動員が命令されたそうよ。」
「それで、私の弁天丸も・・・。」
「そうよ。
今回は、姉さんは帝都で留守番ですって。女王の後継者、帝国のNO.2だからね。
代わりに、私が副司令官としてグランドマザーに乗って、旗艦のクイーン・オブ・パイレーツと一緒に行くようにと命令が下ったわ。
弁天丸も、グランドマザーに合流よ。」
「わかりました。陛下のご命令に従い、出動致します。」
茉莉香も敬礼した。
そして、茉莉香は弁天丸に連絡を取り始めた。
そして、チアキはサーシャに言った。
「それから、サーシャ。あなたも遠征艦隊に随行して欲しいと、陛下がおっしゃっているわ。」
「私も、ですか・・・。」
「ええ。『グランマがあなたに会いたがっている』と伝えて欲しいとおっしゃっていたわ。」
「グランマ、ですって。陛下がそうおっしゃったのですか・・・。」
「そうよ。どこのグランマか、私には分からないけど。
でも、サーシャにそう言えば分かるって、おっしゃっていたわ。」
「・・・そうですか。・・・分かりました。
でも、父と母に言っておかないと・・・。」
サーシャは、硬い表情で父母に連絡を取り始めた。
『大丈夫よ。お母さん、私は必ず帰ってくるから。必ず帰ってくるから・・・・』
サーシャはそう言って、同じ言葉を何度も繰り返し話していた。
更に、ウルスラにも連絡が入った。
「あ! ダーリン。・・・・。
心配してくれてありがとう。・・・
うん。こっちは大丈夫。王女様も茉莉香も、みんな無事だよ。
それよりも、帝国軍は大変なことになったね。・・・・
情報が早いって?それは、こっちにも情報入ってるからね・・・
ええ!? ・・・・
私も・・・・。
分かりました。そちらに合流します。」
ウルスラは、電話の後に、チアキと茉莉香に敬礼して言った。
「小官は、帝国軍の海明星駐留艦隊に合流して、この星を守る任務に就きます。」
こういう時でも、ウルスラの表情は、とても明るい。
まるで、デートに行くようなくらいに・・・。
軍関係の話が一段落するのを待っていたかのように、グリューエルが言った。
「あの~~~茉莉香さん。私も・・・・。」
「グリューエルはダメだよ。危ないよ。」
「でも、私は茉莉香さんと一緒に行きたいんです。」
「だから、これは帝国軍のお仕事だから・・・。貴方は軍人ではないし・・・。」
「でも・・・。私は・・・。」
「茉莉香、いいかげんに押し問答はやめて、乗せてあげなさいよ。」
見かねて、チアキが口を挟んだ。
「いや、それは・・・ちょっと・・・」
「もう・・・。茉莉香が、自分で決められないなら、私が決めてあげるわよ。
グリューエルを弁天丸に乗員として乗せるのと、密航されてやむなく乗せるのと、どっちらか、茉莉香の好きな方を選びなさいよ。」
キアキが言った。
「ナハハハ・・・。どっちもなあ・・・。」
茉莉香は、苦笑いしていた。
「ありがとうございます。」
グリューエルの笑顔が輝いた。
まもなく、白凰女学院の校庭の上空に、チアキのローズアロー2号が静かに姿を現した。たう星の日光を反射して、船の前方につけられた銀河聖王家のエンブレムが、遠目からもひときわ輝いて見える。船は、重力制御推進方式のため、ジェットの噴射もなく、飛行船のように静かにふんわりと空中にうかんでいる。
人々は、地上から船を見上げて、ローズアロー2号の巨大さに驚いた。チアキ専用の船と聞いていたので、人々はもっと小さい船を想像していたからだ。
しかし、ローズアロー2号は全長が約200メートルであり、学院の校舎と見比べるとその巨大さがよく分かった。
もっとも、ピンク色に塗られているといっても、れっきとした帝国軍の超高速巡洋艦であるので、そのくらいの大きさは、当然と言えば当然だが・・。
やがて、連絡シャトルが、静かに運動場に降り立ち、チアキ、茉莉香、サーシャ、イリーナ、グリューエルを乗せていった。茉莉香とグリューエルは、チアキの船でいったん海明星の衛星軌道上に上ってから、弁天丸に乗り移る予定だ。
「いってらっしゃい。
ヨット部のことは、お任せください。」
ナタリアがそう言い、リリイ、ハラマキ、ウルスラも加えた四人が見送った。
その後に、ウルスラも、迎えのシャトルがやって来て、行ってしまった。
18-14 ブリッジ(宇宙海賊船弁天丸)
「いやあ、やっと弁天丸まで帰って来ましたねえ。
ほっとしましたね。」
船長席に座った茉莉香が、お茶を飲みながら言った。
「そうですね。
家に帰ってきた気分ですね。」
補助席に座ったグリューエルも、お茶を飲みながら言った。
「あらあら、お姫様にそう言って頂けるとは、うれしいですね。」
ミーサが、カップに自分のお茶を注ぎながら言った。
そうはいうものの、弁天丸のブリッジでは、お茶を飲んでいるこの三人以外のクルーは忙しく働いていた。
みな、M-8801星団への遠征に参加するための準備で大忙しだった。
今も、ルカが、帝国軍の航路情報局との間で、厳しい口調でやり合っている。ルカが仕事の話をしているのも珍しいが・・・。
「・・・・ええ!?
時空トンネルで行くから、途中の航路情報は無くても良いですって!?
あなた、何言っているの。
船乗りが最後に頼れるのは、自分の船だけよ。
自力で帰還できるのに十分な航路情報が無ければ、万が一の時はどうするのさ!
さっさと、アンドロメダ予定航路の星図と重力分布図と・・・みんな出しなさい!
ええ!?
民間船、特に海賊船にはそんな機密データは出せないというの・・!?
いいわよ。船長に言いつけるから・・・。
・・・・・・・
わかればいいのよ・・・。
最初から素直にそう言いなさい。」
電話を切ったルカが、いらだっている。
「ほんとに、航路情報局の『役人』は、民間船には威張るんだから・・・。
そのくせ、弁天丸の船長がキャプテン茉莉香だと気付いた途端に、一転してペコペコしちゃってさあ・・・。急に態度を変えるなんて。
腹立つわ・・・。」
クルーはみんな真剣だった。
勝手知った『俺の海』と違って、ヒガン星団やM-8801星団までのアンドロメダ予定航路は、航路情報が不十分で危険がいっぱいの、海賊にとっても『未知の海(未踏の宇宙)』だったからだ。
ブリッジがこのような大騒ぎを繰り返している間に、百目がネットニュースを見て、叫んだ。
「あ~~~、パラべラム号が警察の手入れを拒否して、逃げたって、ニュースで言っているぞ。」
「え!? なにそれ。パラべラム号がなにをしたの?」
茉莉香が聞いた。
「奴隷売買だって・・・。こりゃ、やばいなあ・・・。」
「ええ! 鉄の髭さん、いったい何をやってたの?」
それは次のようなニュースだった。
『 奴隷商人摘発される!
銀河帝国とヒガン共和国政府は、共同して、ヒガン星系から銀河系外延部までの空間を航行する宇宙船に対して、大規模な臨検を行ったことを公表しました。
この臨検は、この一帯を中心に密かに行われていた奴隷売買を摘発するためのものです。臨検によって50隻以上の宇宙船が奴隷売買にかかわったとして、船長らが逮捕されました。そして、宇宙船からは奴隷として売買された大勢の人々が発見され、両国政府はこれらの人々を保護しました。
これらの人々は、奴隷として売買するために人工的に生み出された、いわゆるクローン人間といわれています。現在、両国政府はその製造元を突きとめようと、捜査を続けています。
このクローン人間については、この後の特集で、詳しくお伝えします。
なお、臨検を拒否して逃亡した船も数多くあり、両国政府はその船名を公表しました。
その船名は、ネバーランド号(船長キャプテンフック)、旧帝国海賊船・パラべラム号(船長鉄の髭)、・・・・。』
「うわ~~。ひどいわねえ。
マンチュリア人によるクローン人間製造って、軍事用だけかと思っていたけど、奴隷売買までやってたのね。」
茉莉香は驚いた。母からの情報もあったので、鉄の髭のことは心配しなかった。
「そうね。さすがに、ここまでくると『悪の王国』って感じね。
でも、私としては、旧宇宙マフィアの主流派が、銀河帝国と組んで、旧宇宙マフィアの少数派であるマンチュリア人と対立する構図になっているのが、面白いわ。
時代は、どんどん変わっていくのねえ。」
ミーサが言った。
「でも、ニュースでは、『マンチュリア』の名前が出ていないわね。
とっくにわかっているんだから、発表すればいいのに。なぜかしら。」
「茉莉香さん、これは情報戦でしょう。」
グリューエルが言った。
「情報戦?」
「そうです。
M-8801星団への遠征に向けた戦いは、もう始まっているのではないでしょうか。
まず、この報道をきっかけにして、マスコミによる、クローン人間に関する報道合戦が始まるでしょう。
その結果、マスコミによって、マンチュリアの名前や、あの国の人倫に反した、おぞましい実情が報道されるでしょう。
そうやって、遠征の意義を国民に理解してもらうことが狙いではないでしょうか。
マンチュリア人だって、環境派の人々を使って、帝国軍を批判するキャンペーンを行っていたでしょう。
その対抗策でしょうね。」
グリューエルが言った。
「それなら、うちの学校を狙ったテロも報道されてもいいと思うんだけど、こっちはニュースになっていないよねえ。
そうでしょう、ねえ、百目。」
茉莉香は、百目に聞いた。
「白鳳女学院のことは、何も報道されていませんよ。船長、不思議ですね。」
百目が答えた。
「そういえば、ウルスラが言ってたけど、帝国軍の駐留艦隊が海明星の防衛任務に就いているんですってね。
重力兵器にも対抗できる最新鋭の戦艦が来ているらしいわよ。
チアキちゃんは、自分たちの護衛じゃないかって、言ってたけど。」
「ええ! それは初めて聞いた。」
シュニッツアーが話に割り込んできた。
「ええ? それって、秘密だったの?」
今度は茉莉香が驚いた。
「この界隈を担当する第七艦隊に新型戦艦が配属されること自体が、異例ですよ。
どういうことなのか、調べてみましょう。」
シュニッツアーがそう言って、第七艦隊の司令部に連絡を取り始めた。
「そっかあ。ここいら、やっぱり田舎だものねえ・・・。」
茉莉香がつぶやいた。
「船長、分かりましたよ。
かなり異例ですね。
駐留艦隊は、第一艦隊から直々に派遣された、新型戦艦の三隻です。
しかも、司令官は、参謀本部のミニッツ大佐だそうですよ。」
「ええ!? あの人なの・・・。
まさか、模擬戦で私に負けて、左遷されたとか・・・。」
茉莉香が、気の毒そうに、恐る恐る言った。
「ハハハ、まさか、それはないでしょう。あの人、帝国軍のエースよ。」
ミーサが笑った。
「それじゃ、なぜ、エースさんがこんな田舎に来るの?
ふうむ、やっぱり・・・・」
そう言って、しばらく考えて、茉莉香は話を続けた。
「・・・なんか、キナクサイ。」
「正解。やっと、言えたわね。」
ミーサが微笑んだ。
「私だって、18歳。もう大人なんですからね。このくらいは言えて、当然です。」
茉莉香は、胸を張った。
『フフフ・・・茉莉香さんって、ほんとに可愛いですね。』
そう思って、グリューエルが微笑んだ。