宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 M-8801星団への遠征が決まりました。
 しかし、たう星系では、別のキナクサイ雰囲気が漂っています。マンチュリア軍の新兵器による攻撃が、海明星を襲うのではないかと予想されていました。
 これに対して、銀河帝国は新鋭戦艦で迎えうちます。ウルスラも、艦載機のパイロットとして出陣し、大活躍します。
 一方、入院したジェシカを心配して、ヒルデとヨット部の一年生が見舞いに行きます。そこで、予想外の出来事がおこります。
 また、遠征を目前に控え、茉莉香、チアキ、サーシャ、グリューエルの四人は、お茶をしながら、この戦争の背景に「宇宙では男女の出会いがない」という厳しい現実があることを知りますが・・・!?

 

 


第十九章 たう星系の決戦

19-1 新鋭戦艦ベンケイ号ブリッジ(銀河帝国軍たう星系駐留軍艦隊)

 

 帝国軍参謀本部は、M-8801星団への遠征を女王が決定したことをうけて、作戦計画の練り直しに大忙しだった。しかも百年ぶりの女王親征とあって、軍人たちは張り切っていた

 その参謀本部の同僚たちを横目で見ながら、ミニッツ大佐は、新鋭戦艦ベンケイ号に乗って、たう星系駐留軍の指揮を執るため帝都を離れた。

 それは、彼は、自分からこの駐留軍の指揮を執ることを志願したからである。なぜなら、彼は、今回のマンチュリア人との戦いでは「たう星系」で最も激しく、かつ注目すべき戦いがおこなわれると予想していたからである。

 たう星系駐留軍艦隊の旗艦、新鋭戦艦ベンケイ号ブリッジでは、ミニッツ大佐が遠ざかる帝国軍中央基地を見ながら、つぶやいていた。

「正面から戦っても勝てないのだから、敵の狙いは、帝国に恥をかかせ、銀河系を混乱させることだと思う。

 俺が敵将なら、そのためには帝国に協力的な自治国家を攻撃して、見せしめとするのが一番効果的と考えるな。政治的には、帝国と自治国家の関係を動揺させ、さらにヒガン共和国への脅しになるからだ。軍事的にも、自治国家は最新の重力兵器に対する防衛が手薄で、攻撃しやすいからな。」

ミニッツの話を聞いて、副官の青年が尋ねた。

「その通りだと思いますが、なぜ、第一の攻撃目標が、『たう星系』なのでしょうか。」

「それは、たう星系には第二王女殿下を始めとする例の三人娘が暮らしているからだ。

だから、私の予想通り、敵は、必ず、たう星系にやってくる。

 しかも、必ず必殺の重力兵器を使ってくる。

 重力兵器を備えた宇宙船同士が初めて交戦するのだ。この経験は、軍事史上極めて重要だ。」

「おっしゃる通りですね。

 しかし、大佐。仮に自治国家を攻撃できたとしても、戦争全体では、一時の時間稼ぎに過ぎません。それが戦略的にどれほど意味を持つのでしょうか。」

「それは、情報不足で、私にもよくわからない。

 しかし、古来からの格言にもあるが、『戦争は政治の手段』に過ぎないのだから、ヤツラの真の目的は軍事的な勝敗以外のところにあるのだろう。

 先月の帝国軍の最高首脳会議で宰相がおっしゃったことは、急所を突いていたと私も思う。

 まあ、われわれとしては、キャプテン茉莉香との対戦に学んで、敵がズル賢く、ヤンチャに立ち回ってきても、それ以上にやんちゃに立ち回って、さっと敵の『グビネッコ』を押さえて生け捕りにしてしまうことだ。

 今度は負けないぞ。」

「ハハハ、そうですね。」

 

 

19-2 帝国軍最高首脳会議

 

 海明星がテロリストに襲われる一か月ほど前のことである。帝都の王宮で開かれた帝国軍最高首脳会議は、M-8801星団への作戦計画案をめぐって、紛糾した。

 

 まず、帝国軍ヤマシタ参謀総長がM-8801星団への作戦計画案について、説明した。

「以上のように、帝国との和平を拒否しM-8801星団に籠ったマンチュリア人は、依然として帝国に敵意を抱いております。

 しかも、旧宇宙マフィアの開発した重力兵器を保有している疑いがあります。これを放置しては、帝国への脅威は日増しに大きくなるばかりです。

 参謀本部としては、この脅威に対しては早期の対処が必要と考えまして、本日ご説明する作戦計画を立案いたしました。

 大局的に見れば、銀河帝国とM-8801星団のマンチュリア人との戦力差は極めて大きいと存じます。艦隊同士の正面対決では、結果は明らかでございます。

 このため、作戦計画立案にあたっては、マンチュリア人の側が、奇襲も含めどのような戦い方をすると予想するかが、重要となります。

 参謀本部としては、マンチュリア人はM-8801星団に立てこもりつつ、他方で時空トンネルを使って小惑星を帝国の主要星系、とりわけ帝都に打ち込んでくると予想しております。

 この小惑星弾による奇襲への対抗策としては、現在開発中の重力兵器に対応する機能を備えた新戦艦による拠点防衛で臨みますが、防御一辺倒では限界があります。

 そこで遠征艦隊が、時空トンネルを使って一気にM-8801星団まで跳躍飛行し、重力兵器を使用して敵の本拠地を一気に叩くことが適切かと存じます。遠征艦隊は24時間で目的を達します。早期の先制攻撃こそ最大の防御です。」

 

 ヤマシタ参謀総長は自信を持って説明した。

 しかし、珍しく、リシュリュー宰相が発言した。

「それでは、900年前と同じようにマンチュリア人の星を滅ぼしてしまうことになるが、それに銀河帝国としてはどういう政治的意義があると思うのか。

 星ひとつを滅ぼすような戦いを、正義の戦いだと国民にどう説明するのだろうか。

 今の時代は、900年前のような銀河系の戦国時代とはちがうのではないか。」

 これに対して、ヤマシタ参謀総長は答えた。

「マンチュリア人が、古代からの身分制社会を維持し、下等階級の人々を虐待していることは、歴史的にも今日でも明らかです。

 また、銀河帝国に敵意を抱いていることも多くの証拠があります。

 彼らが帝国の大義、「聖王家の下の自由と平等」の敵であることは明らかだと存じます。」

「その主張は正しいが、少し古くさいキャッチフレーズであり、現代の国民の胸に響かないのではないか。

 むしろ、圧倒的な銀河帝国の軍事力を見せることによって、サハリン博士のような帝国軍批判に同調する国民が増えるのではないか。また、環境派の言うように、『民力休養』という名の、軍事費削減による減税要求にも賛成者が増えるだろう。」

「しかしながら、帝国の内政上の配慮より、敵の軍事的脅威の方が大きいと存じます。

 一度でも重力兵器による攻撃を受ければ、犠牲者は数十億人にも達します。」

 

 それまで会議の様子をじっと聞いていた第一艦隊司令官クリスティア王女が言った。

「参謀総長、すでにマンチュリア人は、宰相が指摘するような世論工作をして帝国の内 政をかき回そうとしているが、貴官はこれは何のためだと考えるのか。

 これも帝国と戦うための準備だというなら、あまりに遠回りというか、迂遠なやり方 ではないか。」

 これを受けて、リシュリュー宰相が、議題を外れた雑談を始めた。

「軍事的な解決策以外の方法を考えているのでしょうか。

 予想がつきませんが・・・。

 ちょっと話が行き詰りましたかなあ・・・。

 そういえば、殿下。きょうはあの娘をお連れになっておられませんな。あの娘がいれば、ちょっと違う、面白いことを言うのではないかと・・・ハハハ。」

「キャプテン茉莉香のことかな。今、高校卒業目前だから、できるだけ学校に行かせて いるのだが・・・・。

 そうだなあ、茉莉香には驚くよなぁ。

 初めて茉莉香をグランド・マザーに乗せた時、追ってきた宇宙マフィアの艦隊にどう対処するか意見を聞いたことがあったな。

 その時、茉莉香は即答でこう言ったよ。

 『逃げましょう。』とね。

 それも、相手が自分の判断で追跡をあきらめるような逃げ方をしてほしいと言った よ。

 それを聞いた艦長のハヤマ准将が、高く評価していたな。こちらの手の内を明かさ ないで、事態を処理するには、最適な答えだってね。」

「ハハハ・・・マッタク、なんてことを言うのでしょうね。

 グランド・マザーに乗っているのに、逃げましょうと言ったのですか・・・。

 海賊の娘は面白いことを言いますねえ・・・。

 帝国の大艦隊にも匹敵する戦力を有する、銀河系最強の機動空母ですよ。・・・グランド・マザーは。・・・ハハハ」

 リシュリュー宰相は、大きな声を出して笑った。

 同席していた軍人たちも笑っていたが、ミニッツ大佐は笑えなかった。軍人の盲点を突かれたような気がしたからだ。そして、リシュリュー宰相は、第一王女に茉莉香の話をさせるために、わざわざ雑談のふりをして話題を変えたのかもしれないとすら思った。

 『相変わらずの、タヌキ親父。いや、実にずる賢いワルだ。』

 ミニッツ大佐は、宰相の発言を聴きながら、そう思った。

 

 その時、女王が発言した。

「銀河系の辺境部や外延部などの治安維持では、何か問題は起きていないのか。」

 第七艦隊司令官が答えた。

「お尋ねの辺境情勢でございますが、最近、銀河系外延部からヒガン星団への航路一帯において、奴隷売買その他の違法ビジネスが盛んになっていると言われております。このため、各星系の警察だけでは取締りの手が足りないので、帝国軍にも応援をしてほしいと言う要望が増えております。

 帝国軍の仕事ではないと断っているのですが、依頼は多くなっております。警察サイドでは旧宇宙マフィアが復活したのではないかという恨み節も出る始末です。」

 これに、山下参謀総長が反応した。

「なるほど、奴隷売買については、マンチュリア人が主な奴隷の供給源といわれております。帝国軍がこれを一斉摘発すれば、M-8801星団遠征への世論工作にもなるかもしれません。」

 リシュリュー宰相がすかさず言った。

「取締りならば、ヒガン共和国との共同作戦とするよう進言いたします。

 銀河辺境の無法者どもにも、旧宇宙マフィアが『法と正義』を守る側についたということを教えてあげましょう。

 それには、ヒガン共和国軍への軍事援助を惜しまないことですな。

 最近の自治国家の軍部は、なかなか帝国軍の言うことを聞かないそうですが、ヒガンの連中を手なづけるなら、今がチャンスですぞ。」

 宰相の皮肉たっぷりの発言のあと、女王が会議を取りまとめた。

「では、ヒガン共和国と共同して、奴隷売買の取り締まりを行うよう、帝国軍に命ずる。 せっかくの宰相の助言だ。これまで、かれらは宇宙船の入手や修理にも苦労してきたと聞いているから、この際、支援を惜しまないように。

 時空トンネルを使う攻撃に対する防衛策も直ちに実行だ。対象は帝国の主要星系でよいが、海明星のある『たう星系』も加えるように。

 M-8801への遠征計画は一時保留で、私の預かりとする。だが、いつでも作戦を発動できるように参謀本部は検討を続けるように。以上だ。」

 

 会議は終わった。参謀本部の作戦提案がそのまま了解されなかったことは、異例だった。

 しかし、帝国軍は、奴隷売買の取り締まりに参加するメリットにすぐ気が付いた。

 ヒガン星団から銀河系外延部の空域は、アンドロメダ航路予定空域であり、しかも、銀河帝国軍にとっても未踏の宇宙であるので、取り締まりを通じて、その実地調査とM-8801星団遠征の予行演習を兼ねた活動ができるからである。

 もちろん、その時、参謀本部の軍人たちは、そのわずか1か月後に、チアキが襲われたことに激怒した女王がM-8801星団遠征を命じるとは、予想もしていなかった。

 

 

 19-3 新鋭戦艦ベンケイ号ブリッジ(たう星系駐留軍艦隊)

 

「司令官、タッチ・アンド・ゴーの訓練を始めます。」

「よし、はじめろ。」

 ミニッツ大佐が命令した。

 たう星系駐留軍艦隊がおこなっている「タッチ・アンド・ゴー」の訓練は、ベンケイ号の艦載機として装備されている小型宇宙船を使って、敵の宇宙船を攻撃するものであった。

 これは、グラントクロスのような大型戦艦が艦隊規模の大船団を相手に行う「タッチ・アンド・ゴー」と比べれば、はるかに小規模なものだった。しかし、パイロットたちにとっては、これこそ本当の「タッチ・アンド・ゴー」であった。

 

「いくよ。タッチダウン!」

 ウルスラが4機編隊のトップを切って通常空間に突入し、標的艦の目標をビームで射撃して、また亜空間に消えていく。後続の3機も、同じように射撃して、消えていく。

 編隊は何度も何度もタッチ・アンド・ゴーを繰り返した。

「アブラモフ少尉。そろそろ終わります。他のパイロットが疲れてきましたから。」

「了解しました。では帰艦します。」

 

「どうだ。射撃成績は?」

「相変わらず、アブラモフ少尉が命中率95%以上で、トップです。他のパイロットは、命中率が70%程度ですから、彼女はケタ違いの腕前です。」

「ということは、照準の自動補正装置はほぼ完成レベルと言うことだな。あとはパイロットの腕前しだいということか・・。

 それにしても、ウルスラ君はすごいなあ。

 うちのエース級のパイロットをまったく寄せ付けない、こんなすごい成績を軽々と出すんだからなあ。

 本当に、彼女は士官学校入学前の女子高生なんだろうかなあ。 ハハハ 」

 ミニッツ大佐は満足げに笑った。

 ウルスラは、帝国軍内では、先の公爵の反乱の実戦経験から、ハヤマ准将の「秘蔵っ子」と高く評価されていた。

 そのウルスラがミニッツ大佐の船に乗りくむのは、もちろんミニッツ大佐が望んだからだった。

 これは、公式には帝国軍の人事に過ぎないが、ミニッツ大佐はわざわざ自分でハヤマ准将に非公式に了解とアドバイスを得ようとした。

 これに対してハヤマ准将は、一つだけアドバイスをした。

『一つだけ、アドバイスさせて欲しい。

 ウルスラが戦う動機、理由をきちんと彼女に理解させることだよ。それが彼女が力を出せる条件だ。

 彼女は大切な人材だから、大事に育てて欲しいからね。』

 これが、アドバイスだった。プロの軍人としては、まだまだ精神的に未熟な彼女がその力を発揮するには、戦う動機、理由が大切だからだ。

 その点、今回の海明星駐留軍の戦いは、彼女の故郷・父母・友人を守る戦いであり、彼女にとって理解しやすいものであった。

 さらに、ミニッツ大佐は、婚約者であるブラウン中尉もわざわざ駐留艦隊に呼び寄せて、ウルスラの精神が安定するように配慮していた。

 

 

19-4 ランプ館(新奧浜市)

 

 先日のテロリストの襲撃で、ヨット部の部室が破壊されたため、ヨット部のメンバーは、今日はランプ館に集まってお茶をしている。

 

「あーあ、チアキちゃんも、茉莉香も、ウルスラも、サーシャも行っちゃったわね。」

 ハラマキが言った。

「どうなるんでしょうね。」

 アイ・ホシミヤが言った。

「ニュースでは、戦争のことは何も言ってませんね。」

 ヤヨイが言った。

「それどころか、先日の、白凰女学園がテロリストに襲撃された事件すら、何も報道がありませんね。

 生徒達のうわさ話では、『娘にキズがつく』とか言って、親たちがマスコミに圧力掛けて報道を握りつぶしたと言われてますが・・・。

 白凰女学院は、校長だけでなく、親たちもすごいのですね。」

 ナタリアが言った。

「でも、いったい、私たちにどういう傷が付くというのかしら・・ねえ。」

 リリイが言った。

「ハハハ・・・・」

 皆が一斉に笑い出した。

「まあ、軍としては、学校の地下の旧植民地連合軍司令部跡をマスコミに公開したくないのでしょうね。

 それに、学校としても、生徒の中にテロリストの手引きをした者がいるという事実は隠したいんでしょうね。」

 ナタリアが言った。

「そうですよね。ジェシカのためにもそうして欲しいよね。」

 一年生達が声を合わせて行った。

「そう言えば、ジェシカはどうしてるかなあ。元気かなあ。

 ねえ、ヒルデ。ジェシカが今どうしているか、情報は無いの?」

 リリイが聞いた。

「セレニティ軍筋の話では、郊外のステープル記念病院に入院しているらしいですよ。

 そこの、星系軍が厳重に警戒している病棟に、隔離状態で入院しているらしいです。

 彼女は、事件直後から、相当なショックを受けて、口をきかなくなっていたそうですね。

 いまでも、軍や警察の取り調べの時だけでなく、医者や看護師とも口をきかないそうですよ。すでに、爆発物を取り出す手術は終わり、放射線障害の治療も、順調に進んでいるらしいんですがね。

 軍関係の情報では、洗脳が解けないと言われているそうです。」

 ヒルデが言った。

「そうなのよね。口をきかなかったのよね。心配だなあ。」

 リリイが言った

「先輩達は事件の当事者ですからね。

 先輩達に対する気持ちの整理が付かないんでしょうね・・・・。

 そうだ。ヒルデ、あなたと私たち一年生でお見舞いに行きませんか。」

 一年生のヨット部員達が言い出した。

「でも、面会の許可が下りるでしょうか。」

「そこは何とか、みんなの親のコネで・・・ね!」

「そうそう、コネは使わなくっちゃ。」

「それに、ヒルデ。貴方が一緒ならば、彼女も心を開くかも知れないわよ。

 なんといっても、貴方は彼女のプリンセスなのだから・・・。

 それに、私たちも、ジェシカと一緒に中等部時代にヒューゴ杯で優勝したメンバーなんですからね。」

「そうですわねえ。

 優勝したときのジェシカさんの言葉、いまでも覚えておりますよ。

 『生まれてきた良かった。うれしい。』って、おっしゃってましたね。」

 ヒルデもそう言って微笑んだ。

「そうそう、あの時の笑顔は本物だったよ。」

「よし。では、プリンセスと我ら一年生でお見舞いに行こう。」

「賛成!!」

 

 

19-5 海明星ステープル記念病院(海明星・たう星系)

 

 新奧浜市の郊外にあるこのステープル記念病院も、歴代ステープル家の寄付で建てられたものである。

 街の中にある総合病院と違い、ここは高度かつ専門の治療を行う病院である。だから、ここには、長期療養を要する難病や大ケガの患者や、伝染病患者等の隔離病棟で治療を要する患者が入院している。

 この病院に、ジェシカも含め、白凰女学院を襲ったテロリスト達が入院している。病院の周囲は、今も、軍による警戒が続いている。

 ある日の午後、白凰女学院のヨット部一年生達とヒルデは、面会に訪れた。面会には、キャサリン小隊長始め、セレニティ軍の警備隊も同行した。

「なんか、すごい病院。警戒が厳しいね。」

「そんなところに、良く面会の許可が下りたね。」

「治療も手詰まりなので、良い刺激になるかもしれないと許可が下りたそうですわ。」

「そうだといいね。」

 看護師の案内で、一行はジェシカのいる病棟へ向かった。

 

 ところが、ジェシカの病室に、彼女はいなかった。

 看護師が周辺の病院関係者に聞くと、談話室で他の患者と話しているというので、一行は、談話室へ向かった。

「え! 話しているですって・・・。

 良かった。話せるようになったんだ。彼女、今まで誰とも口をきかなかったんでしょう。

 本当に良かったね。

 でも、他の患者ってだれでしょうね。」

「そうですね。だれでしょう。」

 

 一行が談話室に行くと、白凰女学院の制服を着たジェシカが、入院患者用の服を着た大勢の男女の若者達に囲まれて、楽しそうに話していた。

「ジェシカ様、私たちはこれからどうしたら良いんでしょうか。」

「大丈夫。私が着いているわよ。少しずつこの星の暮らしを学びましょう。」

「今日の2回目の食事で出された、黒い丸いモノは肉でしょうか。柔らかでとても美味しいものでした。

 その横の小さい器に入った黄色い甘い物は、とても良い香りがして甘かったです。

 あのような美味しい物は、初めてです。

 まるで王族のような食べ物ですね。」

「黒い丸いモノは、ハンバーグという料理よ。肉をひいて食べやすくしたものよ。黄色いモノは、桜桃という果物よ。缶詰だけどね。生の果物は、もっと美味しいわよ。

 これらの食べ物は、この世界では誰でも食べるものですよ。これからも毎日3回、いろいろと美味しいものが食べられますよ。楽しみにしていなさい。」

 ジェシカが説明している。

「食事が一日3回もあるなんて、いまだに信じられません。

 しかも、チューブに入っていないなんて ・・・・・ 」

 

 白凰女学院のヨット部一年生達は、談話屋の入り口付近に立ち止まって、ジェシカが優しそうに話している様子を眺めていた。

 どうやら、ジェシカを囲んでいる若者達は、テロリストとして逮捕され、治療のために入院しているマンチュリア人の若者のようだった。

 ヨット部員達に近づいてきた医者が、ジェシカが話し始めた訳を話してくれた。

 

「昨日、女性看護師が、彼女に白凰女学院の制服を着せたてあげたのですよ。彼女がいつもの入院服ばかり着ているのではかわいそうと言って、皆さんの着ているようにね。

 そして、彼女が制服を着て病院の中を歩いていると、マチュリア人の青年達が彼女を取り囲んで話し始めたんですよ。彼らもここに来て始めて言葉を交わし始めたんです。」

「あ、白凰女学院でもそうだったと聞きました。彼らはジェシカに憧れのような気持ちを持って、言葉を話していたそうです。」

 メリー・ランバートが言った。

「本当ですか。それは興味深いですね。その時、ジェシカさんは制服を着ていましたよね。」

「そうです。

 ただし、その時は、彼らはマンチュリア語を話していたそうです。今のように銀河標準語を話していませんでした。」

 メリーが答えた。

「なるほど、そうですか。

 マンチュリア人の青年達は、それまで、入院服を着ているジェシカには何度もあっているのに全く反応しなかったのですが、制服を着たジェシカには憧れのような気持ちを抱いて、話し始めたんです。」

「どういうわけでしょうか。」

「まだ、分かりません。その時だけ、洗脳が解けたのか、制服を着たジェシカさんに従うようにプログラムされていたのか、まだ分かりません。」

「そして、今は、ジェシカも話し始めていますよね。」

「そうなんです。昨日、ジェシカさんもマチュリア人の青年達に答えて、話し始めたんで す。ジェシカさんも、ここに来て始めて、言葉を発し始めたんです。

 でも、ジェシカもマチュリア人の青年達も、自分達同士で話し始めたばかりなのです がね。医者や看護師には、まだ口をきいてくれません。

 でも、希望が出てきましたね。」

「そうなんですか。私たちが話しかけても大丈夫でしょうか?」

「やってみて下さい。このような治療には、試行錯誤は必要かつ不可欠です。

 それから、お見舞いの様子は総て録画されますから、ご承知おき下さい。」

笑顔でそう答えると、医師は、ヒルデに付き添ってきたキャサリン達の警備隊を見ながら、緊張した表情をして言った。

「ただし、警備の皆さんは警戒を怠らないで下さい。

 この青年達の洗脳プログラムはどういうものか、まだ分からないんです。

 例えば、現地工作員として潜入するために現地の生活を学び、その国民になりすますことも、予め与えられた任務の一つと考えれば、今までの行動は説明できますからね。」

 キャサリン小隊長がいつものように無言で頷いた。

 

「ジェシカ、お見舞いに来たよ。ヒルデも来てくれたよ。」

 一年生達が、他の青年達に囲まれて座っているジェシカに、元気に声を掛けた。

「あ・・、ヒルデ様も・・・。」

 ジェシカは、うれしいような、悲しいような複雑な表情をした。

「心配しましたよ。元気で何よりです。」

 ヒルデはそう言って歩み寄り、ジェシカの手を握った。

「ヒルデ様・・・」

 ヒルデは、そう言って涙ぐみ始めたジェシカをしっかりと抱きしめた。

 それを見て、他の部員達もジェシカのもとに集まって、彼女に抱きついたり、手を握ったりして、口々に言った。

「よかったぁ。ジェシカ!心配したよ。」

「私たち、ヨット部部員なんだよ。

 同じ空を飛んだ仲間なんだからね。」

「また、ディンギーで空を、宇宙を飛ぼうね。」

「中等部でのヒューゴ杯の優勝に続いて、高等部ではネビュラ杯で優勝するのが私たちの目標だよね。

 そういって誓い合ったよね。」

「来年、オデットⅡ世号の船長は、ジェシカだって私たち決めてたよね。」

「オデットⅡ世号で、いっしょに練習航海に行こうね。」

 部員達はそう言いつつも、次第に、皆、泣きだして言葉にならなくなった。

 

 マンチュリア人の青年達は、そう言うヨット部員とジェシカの様子を呆然と眺めていた。

 やがて、ひとりの少女が決意した様子で口を開いた。

「私も、訓練でスペース・ディンギーに乗ったことがある・・・。」

 それを聞いたヨット部員達は驚いた。

「ええ!? どんな機種なの、一人乗り?二人乗り?」

「二人乗り。」

 会話が成立した。

 驚いた部員達が口々に質問し、あちこちの男女から答えが返ってくる。

「地上何キロくらいから降りるの?

 目的地は何キロくらい先なの?」

「地上50キロくらい。目標は5000キロ先。」

「レース、つまり競争するの?」

「訓練は、いつも競争。遅れると、食事抜きの罰。でも、一番になると沢山食べられる。」

「どんな操縦するの。推進剤は何キロくらい積んで飛ぶの?」

「推進剤は使わない。舵だけで降りる。」

「ええ~! スゴイ、上手。」

・・・・・・

 やがて、マンチュリア人の青年達からの質問が出た。

「ヒューゴ杯って、何ですか?」

「オデットⅡ世号って、何ですか?」

・・・・・

 スペース・ディンギーのお陰で、彼らが遂に口を開いた。

 

 

19-6 帝国軍新型戦艦ベンケイ号ブリッジ(海明星衛星軌道)

 

「本当に、マンチュリア軍は海明星を攻撃してくるのでしょうか。」

「来る。必ず来る。 

 先日、ローズアロー2号はわざわざ地上まで降りて、第二王女殿下を乗せて飛び立った。当然、ヤツラの現地工作員は、それを報告しており、帝国は警戒を緩めると思うはずだ。

 その『スキ』を、ヤツラは必ず狙ってくる。

 加えて、我々も、ヤツラの攻撃を誘うために、駐留艦隊の存在を海明星行政府にも秘密にしているのだからな。」

 駐留軍の指揮官ミニッツ大佐は言った。

「今日で、テロ活動から一週間が経過します。周辺1000光年の空域には不審な船影は見られないようですが・・・。」

「重力トンネル航法で来るならば、ヤツラのM-8801星団から2万光年以上の距離をひとっ飛びだ。

 油断するな。

 それから、今までの常識で判断するな。これから始まるのは、我々も未体験の、全く新しい宇宙戦争だぞ。

 われわれも弁天丸のクルーになったつもりで、大胆に行くぞ。」

「はい、海賊船に乗ったつもりで、こっちもやんちゃにいきます・・・・」

 

 それから、数時間が経過した。

「あ、司令官。

 時空ナビは、海明星に近い砂赤星軌道上に、微弱な重力の乱れを検知しています。

 時空トンネル開口部が出来つつあります。

 トンネルの反対側は、二万三千光年の彼方と推定されます。

 マンチュリア軍に間違いありません。」

「よし、全艦、戦闘態勢。

 作戦どおりに、こちらも時空トンネルを形成して、敵の形成した亜空間に乗り込むんだ。」

 

 帝国軍の新型戦艦三隻は、それぞれ独自の時空トンネルを形成して、亜空間に消えた。

 

「亜空間に入ったな。

 よーし、第二段階だ。時空ナビで重力波の乱れを探査しろ。索敵をするんだ。」

「重力波の乱れを発見。四つの物体が近づいてきます。

 一つは極端に大きいです。たぶん岩石で出来た自然天体です。エネルギー反応がありません。

 他の三つは小さいながら、エネルギー反応があります。これらは三隻の宇宙船と思われますが、重力波が出ているのは、最後尾の一隻『チャーリー』(仮称)だけです。」

「敵の重力推進機関は、ひとつだけか。

 事前の情報が正しければ、彼らは、転換炉のオーバーヒートを覚悟した使い捨て方式の重力推進機関を使うはずだ。

 だから、かれらの小惑星弾による攻撃は、やり直しのきかない一発勝負だ。海明星から出来るだけ離れた、通常空間に撃ち出して、狙いを外せばよいのだ。

 よし、作戦通り、各艦の戦闘爆撃機を発進させろ。第一目標は、最後尾の一隻のみ。あの船が持つ対空砲火とメインのビーム砲塔を攻撃しろ。

 さあ、亜空間の空中戦だぞ。」

 

 各戦艦から三機づつ、ウルスラを加えて十機の戦闘爆撃機の編隊が、敵の三番艦チャーリーに襲いかかった。

 敵は亜空間の戦闘、それもタッチダウン間近のタイミングで襲われたため、全く無警戒だった。このため、第一波攻撃で、敵の三番艦チャーリーのほぼすべての対空砲火と主砲の一部が破損した。

 更に、タッチアンドゴーで、敵の反撃を交わして通常空間へ消え、また別の角度から第二派攻撃を掛けてきた。第二派攻撃の対象は、一番艦アルファ、二番艦ブラウンだった。

 

 攻撃が順調に成果を上げたので、ウルスラや他のパイロット達も余裕が生まれてきた。

 タッチアンドゴーの攻撃を継続しつつ、敵艦を観察して、話し始めた。

「敵の対空砲火の角度やパターンが、帝国軍の船と同じですね。

 これって、全宇宙共通の方式なのかなあ。」

 ウルスラが言った。

「そうか、言われてみて、わかったぞ。

 この船、帝国軍の旧式戦艦、ビスマルク型ですよ。

 近づいて光学映像で見れば、ハッキリ分かります。」

「あ、本当だ。50年以上も前に退役した旧式艦だ。

 敵はいったい何処でこの船を手に入れたんだろう。」

「そんなに古い船なの。私の生まれる前じゃないの。」

「ウルスラ・ブラウン総隊長がご存じないのも無理ありませんね。ハハハ・・・。」

「でも、それを言うならば、皆さんだって生まれてないはずでしょ、50年前なら。」

「そう言えば、そうですね。参った、一本取られましたね・・・ハハハ。」

「それに、まだ私はウルスラ・アブラモフであって、ブラウンじゃありませんよ。

 そう言われるのは、とても嬉しいんですが、もう、からかわないで下さいよ、ウフフ」

「おい、みんな。見ろよ。

 敵艦にはあちこちに大きな修理の跡があって、機体がツギハギだらけだぜ。

 これで、よく二万三千光年も飛んできたなあ。」

「確かに外見はボロボロですねえ。

 海明星の中古宇宙船業者でも、こんなモノは売りませんよねえ。」

「総隊長、軍艦の売買は禁止です。」

「そうですかあ。では、帝国軍が演習の標的として砲撃でボコボコにして、演習場に捨てた機体の残骸を拾ってきて、自分で直したものでしょうか。」

「総隊長、いくらなんでも、そんな、ゴミを拾ってきて戦艦を作るようなことは、出来ませんよ・・・ははは」

 

 ウルスラは、十機編隊の総隊長だった。

 実力優先のパイロット達の間では、この人事は当たり前だった。戦場では、上手なパイロットが先陣を切って活路を切り開くことが、皆が生き残るための基本だった。

 今回の実戦でも、ウルスラは、敵の対空砲火のパターンを観察して、敵の軍艦の正体が帝国軍の旧式軍艦だという重要な発見のきっかけをつくっている。

 明るい性格のウルスラは、隊員達の気持ちをリラックスさせ、戦いを良い方向に向かわせていた。

 

「よーし。戦闘爆撃機は一旦、帰艦せよ。

 強襲艦は、『チャーリー』に予定通り突進せよ。

 一番艦アルファ、二番艦ブラウンには、戦艦ムサシと戦艦ヤギュウから砲撃を開始せよ。」

 

 帝国軍は出来るだけ敵艦を生け捕りにする作戦だった。そのため、強襲艦を送り込んで白兵戦で三番艦チャーリーを、まず生け捕りにする作戦だった。

 

「三番艦チャーリーが発生する重力波のパワーが落ちてきました。タッチダウンに備えています。」

「よし、そうはさせないぞ。勝負だ。

 こちらの重力推進機関の出力を上げて、こちら側の時空トンネルの影響力を増せ。

 小惑星ともども、こちらのコントロール下に置くのだ。

 そして、時空トンネルを分岐させて、こちら側の指定する出口に誘導しろ。」

「了解。」

「戦闘爆撃機隊が全機、帰艦しました。全機、損傷ありません。」

「よし。」

 

 亜空間では、激しい重力波のぶつかり合いで重力波の異常振動が続いていた。

しかし、次第に帝国軍側の重力波パワーが、敵の重力波パワーを圧倒し始めた。

 

「敵の重力推進機関のパワーが急激に落ちていきます。

 これで、敵艦隊は、こちらのコントロール下に入ります。

 ・・・・・

 まもなく、小惑星と敵船は、通常空間に復帰します。出口は、当方の予定地点、たう星系の縞白星(しまのしろぼし)周辺です。」

「よし、小惑星の運動ベクトルを縞白星に向けろ。

 続いて、当艦隊も通常空間へ復帰する。」

 小惑星と敵船、そして帝国軍の艦隊が、縞白星周辺の通常空間に復帰した。

 

「手を緩めるな。一番艦アルファ、二番艦ブラウンへの砲撃を開始する。主砲一斉射撃。

 小惑星に向けて、重力波砲の発射準備せよ。

 各艦の戦闘爆撃機隊、強襲艦、発進準備せよ。

 三番艦チャーリーに突入した白兵戦部隊から報告はあったか?」

 ミニッツ大佐は、矢継ぎ早に指示を出した。

「報告はまだです。今、連絡を取っています。」

「重力波砲の発射準備は完了です。

 ですが、司令官。小惑星は、縞白星に落下する軌道を進んでいます。このままで進むと、あと5時間後に衝突します。重力波砲を発射しますか?」

「発射中止だ。ただし、小惑星の軌道の観測は、怠るな。

 では、一番艦アルファ、二番艦ブラウンの制圧を優先する。

 戦闘爆撃機隊、強襲艦はただちに発進だ。」

「電子戦班、敵艦への電子戦の進み具合はどうだ?」

「それが思わしくありません。

 どうも、敵の船は、メインコンピューターで船の機能を集中制御する方式ではないようです。制御しているのは通信だけのようです。

 他の機能は、別々のコンピューターで分散処理、悪く言うと雑多な機種のツギハギなのではないでしょうか。」

「それじゃ、生け捕りにするには、白兵戦で制圧しないとダメか。

 死傷者が多く出るかも知れないなあ。」

「そこで進言なんですが・・。」

「何だ、言って見ろ。」

「あのう・・・アブラモフ少尉の持ち込んできた、例の映像を試してみませんか。

 どうせ電子戦では、通信しか制圧できないんです。

 従って、今の段階で出来ることは、このくらいですから・・・。」

「あのセレニティのお姫様が作らせたという映像か。

 本当に、マンチュリア兵の戦意を奪って抵抗を止めさせる効き目があるんだろうか。

 まあいい。やってみろ。

 この戦いは、新しいことは何でもアリの実験場だからな。」

 

 ミニッツ大佐は、簡単に了解した。以前の彼なら、考えられないことである。

 茉莉香に演習で負けて、ウルスラの実力を見せつけられた彼は、新たな「女子高生パワー」を試そうという気になっていた。

 もっともヒルデ姫が、高校生ではなく中学生だと言うことは知らなかったが。

 

 

19-7 マンチュリア軍三番艦(仮称チャーリー号)ブリッジ(縞白星の衛星軌道)

 

 マンチュリア軍三番艦では、すでに、帝国軍の白兵戦部隊が艦内に侵入していた。

 しかしマンチュリア軍はこれに対抗する白兵戦部隊を搭乗させておらず、隔壁閉鎖を行い、ブリッジへの侵入を防ぐという形で抵抗していた。しかし、既に隔壁は次々破られ、残る最後の隔壁も破られようとしていた。

 しかし、ブリッジの指揮官には焦燥感が感じられなかった。

「タッチダウン地点がずれるという想定外の事態が発生した。本国の指示を仰ごう。」

「通信が繋がりません。電子戦で制圧されているようです。」

「・・・・。」

「あっ、通信が回復しました。

 今、通信が流れます。画像が出ます。」

 

 ブリッジの画像には、白凰女学院の制服を着たジェシカ・ブルボンが現れて、ブリッジのクルーに語りかけた。

「マンチュリアの同志の皆さん。私は海明星駐在工作員のジェシカ・ブルボンです。

 想定外の事態が発生したため、私が指揮を執ります。」

 この言葉を聞いて、ブリッジのマンチュリア軍人たちが一斉に立ち上がって、敬礼した。

 皆、誰も何も言わず、立ち尽くしていた。

 

「皆さんには、降伏を命じます。

 降伏とは次の行動を取ることです。

 第一に、自爆する必要はありません。生き続けることを命じます。

 第二に、ただちに戦闘を停止して、帝国軍の武装解除に応じて、指示された場所に移動して下さい。また、体内の起爆装置を解除して下さい。

 第三に、次に私の指示があるまで、帝国軍の指示に従い捕虜として生活しなさい。

 第四に、帝国軍の捕虜の待遇は、行動が制約されますが、帝国の一般国民と同じように扱われます。帝国の一般国民の日常生活は、マンチュリアの王族のように豪華ですが、驚くことはありません。

 以上で、命令を終わります。ただちに実行しなさい。」

 

 その言葉を聞き終わると、マンチュリア軍三番艦は、降伏した。

 続いて、一番艦、二番艦も降伏した。

 

 ミニッツ大佐は、予想外の展開に驚いたが、すぐに予定の行動を始めた。彼は、三艦を占領し、マンチュリア軍の実情を調査することを命じた。

 敵の三艦を撃沈せず、わざわざ生け捕りにしたのは、そのためだった。やってきた敵船を全部捕獲できたことは、彼にとって大戦果だった。

 駐留艦隊は、捕虜を尋問すると共に、連れてきたエンジニアを派遣して三艦の実情を軍事技術的に調査し始めた。 

 

 その最中、海明星を狙って砲弾として打ち込まれたものの、帝国軍によって狙いを外された小惑星が、予測通りの時間に縞白星に衝突した。

 小惑星は直径が一キロくらいの大きな物体ではあるが、巨大な外惑星である縞白星にこれが衝突しても天文学的には影響は無い。

 しかし、衝突によって発生した巨大な火球は、激しいせん光を放ち、海明星や中継ステーションからも観察された。

 

 これを受けて、銀河帝国は、M-8801星雲の「マンチュリア残党」により、海明星が重力兵器で攻撃され、帝国軍がこれを防いだことを公表した。敵の戦艦三隻を捕獲したことは公表されなかった。

 そして、これを報じるニュースは、大反響を巻き起こした。

 もし、これが海明星に打ち込まれていたら、爆風や発生した津波により海明星の人々は全滅の恐れがあったからだ。

 さらに、これが自分の住んでいる星だったらと、帝国内の星々へと恐怖は伝染していく。

 マスコミでは、帝国の主要星系の防衛強化が叫ばれた。

 また、マンチュリア残党の懲罰や、M-8801星雲への先制攻撃を叫ぶ世論もわき上がった。

 このような世論の動向を受けて、銀河帝国は、帝都から六万三千光年離れたM-8801星団への遠征計画を公表した。遠征軍は、帝国の各艦隊からの選抜メンバーで構成され、女王自らが総指揮官となることが公表された。

 また、帝国は、情報戦にも勝利することを狙って、遠征には帝国や主要な自治国家のマスコミの取材陣が同行することも公表された。

 

19-8 グランドマザーのブリッジ(たう星系外延部)

 

 いよいよ、M-8801星団への遠征に出発する日が迫ってきた。

 M-8801星団までは、辺境の海明星からでも二万光年を超える長距離飛行である。このため、すでに弁天丸やローズアロー2号は、たう星系外延部まで出迎えに現れたグランドマザーの船内に収容されている。グランドマザーに乗って長距離の跳躍を行うためだ。

 弁天丸船長加藤茉莉香と、銀河聖王家第二王女としてこの遠征の副司令官に任命されたチアキの二人は、機動空母グランドマザーのブリッジで、今後の作戦行動について、参謀本部の将校から説明を受けた。

 

 説明を聞いた後、二人は、グリューエルとサーシャを加えて、ブリッジ貴賓席の奥にあるテーブルでお茶を飲みながら、今後の遠征について話し始めた。

 お互いに、聞きたいこと、話したいことがたくさんあったからだ。

「茉莉香さん、今回の遠征には、重力兵器が使用されるのでしょうか。

 公爵様の反乱の時には、その使用は抑制されていましたが、今回の戦いでは、ついに・・・・。」

 サーシャが心配そうな顔で言った。

「ちがうよ、サーシャ。安心してね。

 今回はたぶん重力兵器は使わずに済むだろうって。

 それに、帝国軍の側からは、重力兵器による先制攻撃はしない方針だそうだよ。」

 茉莉香が言った。

「本当ですか。」

「そうだよ。

 例の奴隷商人の捜査で、すでに数千隻の軍艦が銀河系からヒガン星団まで展開しているでしょう。その捜査の包囲網の先端が、徐々にM-8801星団に迫っているのだそうよ。

 帝国軍としては、その包囲網の先端に増援部隊を送る形で、M-8801星団に攻め込むそうよ。」

「では、通常の宇宙艦隊による作戦行動になるのですね。

 海明星が重力兵器による攻撃を受けたと聞きましたので、てっきりその報復攻撃になるのかと思っていました。」

 グリューエルが言った。

「海明星への攻撃は、駐留艦隊がうまく防いでくれたからね。

 その時に捕獲した敵の兵隊や戦艦を調べて、敵が保有している重力制御推進機関は、数が限られるので、重力兵器による帝国の星々への追加攻撃はないと判断したそうよ。」

 チアキが言った。

「よかったですね。さすが、帝国の新戦艦は強いですね。」

グリューエルが言った。

「敵が弱かっただけよ。

ウルスラによると、現れた敵の戦艦があまりにボロボロの、ツギハギだらけなので『ごみを拾い集めて作ったのか』って冗談を言っていたら、本当にそのとおりだって。

 これじゃ、怖くないよって、ウルスラも言っていたわ。」

 チアキはそう言いながら、少し機嫌が悪そうだった。

「どうしたの? チアキちゃん?」

 茉莉香が聞いた。

「だって、ウルスラがそう言ってきたときに、アイツ、何をしていたと思う?」

 チアキが聞いた。

「彼氏といっしょだったとか・・・。」

 グリューエルが答えた。

「ええ!? それ本当?」

 茉莉香が目をぱちくりさせて、驚いている。

「その通りよ。

 しかも、アイツ、海明星駐留軍の祝勝会で大騒ぎしている真最中に、電話してきたのよ。」

 チアキが言った。

「ええ!? どうしたの?」

 茉莉香が言った。

「なにか、よほど嬉しいことがあったのですよね?」

「グリューエルさん、鋭いわね。私もそう思うわ。」

 サーシャが言った。

「その通りよ。

 指輪をもらったと言って、左手の薬指を見せて、大喜びしていたわ。

 しかも、『チアキちゃんはまだもらってないの?』って、聞いてきたわよ。

 まったく、もう・・・。」

「まあ。おめでたいことですわ。」

 グリューエルが言った。

「チアキちゃんも、欲しければ、早くもらえばいいじゃないの。」

 茉莉香が言った。

「何を言うのよ。茉莉香。

 私はそんなもの欲しくないし、そもそも、相手がいないわよ。」

 チアキは、ツンとして、横を向いてしまった。

 

「あの~~。話題を元に戻して~~よろしいでしょうか・・・。」

 チアキの機嫌がますます悪くなったので、茉莉香が、恐る恐る言った。

「そうね。私の話も聞いてほしいの。

 今、マスコミで厳しく非難されている奴隷売買のことだけど、クローン人間が生まれるようになった元々の事情を分かってほしいのです。一族の名誉のためにね。」

 サーシャが言った。

「ということは、クローン人間も、宇宙移民の厳しい現実に対応するために、生まれてきたのですか。」

 グリューエルが聞いた。

「そうよ。

 まず、マンチュリアの人たちが、移民船一隻分、つまりたった数千人になった人口を少しでも早く元の16億人に戻そうと、クローン人間づくりを始めたのです。」

 サーシャが言った。

「でも、報道では、昔は宇宙マフィア全体が関与していたと言われてましたね。」

「そうよ。

 だって、茉莉香さん、辺境の厳しい宇宙環境の中で、一族が、資源開発を行いながら、安住の地を求める旅を続けていくために、一番貴重なもの、大切なものは何だと思いますか?」

「えーと、エネルギーかなぁ、いや、食料かなぁ。・・・・」

「それも必要です。でも、それだけでは足りません。

 一族にとって、一番大切なものは、子供です。

 子供がいなければ、移民に未来はありませんからね。」

「それはそうね。

 でも、船の中でも、子供が生まれるでしょう。それで足りないの?

 逆に、人口が増えすぎても困るでしょ。」

 チアキが言った。

「ウフフ・・・。チアキさん、

 サーシャさんは、そんなことを言っているんじゃありませんよ。」

 グリューエルが微笑んだ。

「フフフ・・・。少し遠まわしに言い過ぎたかしら。

 要するに、男女の出会いが無くて、パートナーとなる人がいないことが問題なのよ。

 特に、危険な資源開発にかかわる人とか、非合法活動にかかわる人と結婚しようと思う人は少ないわ。

 でもそれを放置すると、みんなのためにそういう厳しい仕事をする人がいなくなるでしょう。」

「う~~~ん。

 事情は分かるけど、それをクローン人間で補おうと言うのは、なんかイケナイことをやっている気分は残るなぁ。」

 茉莉香がうなった。

「そうね。

 何十億人もいる星では、社会全体の中で、そこのところは自然にうまくいっているような気がするけど、その結果として、一人ぼっちのままの人は残るし、更に、貧富の差とか、差別とかが生まれるでしょ。

 一族は、一人一人の幸せに、真剣に向き合ったのよ。」

 サーシャが言った。

「う~~ん。それを言われるとねえ。確かにねえ、一人ぼっちじゃねえ・・・。」

「それに、パートナーが欲しいというのは、当人たちの願いだけでなく、親たちの強い願いでもあるのですよ。

『うちの子に、お婿さんやお嫁さんを授けてほしい』ってね。

『そのためなら、お金だけでなく、自分の細胞や子宮までもクローン製造のために提供してもいい』

 とまで言った母親もあるそうですよ。」

「当人や家族たちにとっては、切実な問題ですからね。」

「でも、クローンの人の側から見ると、結婚相手を自分の意志で選べないわけだよね。

 あのね、お母さんが海明星におりて私を生んで育てたのも、私に自分の人生を自分で選べるようにしてやりたいっていう願いもあったって聞いたんだ。」

 茉莉香が言った。

「そうね。あなたのお母さん、ブラスター梨理香は、弁天丸から降りればそれが実現できるから、船を降りたのでしょう。」

 チアキが言った。

「そこなんですよ。

 どうしても宇宙船を降りられない人々はどうするか、という問題は残るんです。

 そういう人たちの希望を叶えるには、見目麗しくて、性格が温和で従順かつ忍耐強い、マンチュリアのクローン人間は最高のパートナーだったのです。」

 サーシャが、少し悲しそうな表情で話を続けた。

「だから、一族は、兵器としてクローン人間を生み出したのではなく、人間として、自分たちのパートナーとして、生みだしたのです。

 最初はそうだったんです。

 そこのところをわかって欲しかったのです。」

「でも、生みだしたクローン人間を、『出荷』まで、古い移民船を利用してコールドスリープで眠らせておいたなんて、人をモノ扱いしてるわよ。虐待じゃないの。」

 チアキが言った。

「それも仕方ないのですよ、チアキさん。

 オーダーメイドでは無理なのです。

 オーダーメイドでやると、生まれたての赤ん坊が欲しい人は1年ほど待てばいいのですが、年頃の男女が欲しい人は、短くても20年くらい待たねばなりませんからね。

 だから、あらかじめ生み出して育てて、童話の『Sleeping Beauty(眠れる森の美女)』のように、眠らせて目覚めるべき時を待ってもらうしかないのです。」

「Sleeping Beauty かぁ。

 まあ、それはそうね。20年も待つことはできないわね・・・。」

「そうですね。人間の成長スピードを自在にコントロールする技術は、現在でも実用化されていませんからね。

 でも、その難しいところを、移民船のコールドスリープ装置でカバーするなんて、よく思いつきましたね。」

 グリューエルが言った。

「コールドスリープ装置は、古い移民船には当然のように備えられた施設でしたからね。

 そこにあるものを最大限に利用したのでしょうね。」

 

「今までの話を聞くにつけても、最近のマンチュリアのやり方は、メチャクチャよね。

 クローン人間を兵器としたり、奴隷として売ったりして。

 彼らは、クローン人間をいったい何だと、考えてるのかしら。」

 茉莉香が言った。

「ねえ、サーシャ。

 クローン人間の供給って、それほど簡単に増やせるの?」

 チアキが聞いた。

「簡単ではないと思います。成人まで育てるのに時間が必要ですから。」

「では、最近、急に奴隷売買が多くなっていると言うことは、手持ちの眠らせていたクローン人間を一斉に売り出していると言うの?

 それじゃあ、まるで在庫一掃の『閉店セール』みたいじゃないの。

 そんなこと、何のためにやっているの?」

 チアキが言った。

「閉店セールだなんて・・・でも、マンチュリア人は、そんなにお金に困っているの?

 もしかして、帝国と戦争する軍事費を稼ぐためなの?」

 茉莉香も言った。

「それは、私にもわかりません。」

 サーシャは言った。

 

「ねえ、サーシャ。私にも教えてほしいことがあるのだけど。」

 チアキが言った。

「母さんからあなたへの伝言で、名前の出ていた『グランマ』って誰なの。

 もしかして、あなたの本当のおばあさまなの?」

「ええそうです。

 レオニーニ家で『グランマ』といえば、私の実の祖母、先々代の宇宙マフィアの大ボス、マリア・レオニーニのことです。

 祖母はすでに引退して、今年で98歳になりますが、いまだに一族の人に慕われています。」

「それでね、私の聞きたいのは、母さんとグランマはどういう関係なのかってことよ。

 もしかして、母さんは、グランマと古い知り合いなの?」

「・・・私は知りません。」

「うーん。言いにくいことを聞いてごめんなさいね、サーシャ。

 実は、母さんが、女王になるずっと前の、家出して女海賊だった時代に、どこで何をやっていたか、ほとんど謎なのよね。

 しかも、その間に私たち姉妹が生まれたでしょう。

 だから、その問題は私たちのルーツにも関係するかもしれないから、大切なことなのよ。わかってくださいね。」

「わかりました。お役にたてなくて、すみません・・・」

 

「サーシャさん。

 チアキさんのルーツと言う話が出たので、私にも教えてください。

 今のマンチュリア人は、銀河聖王家の青薔薇家のルーツが、マンチュリアの被支配階級の人々の子孫であるテオドラ皇后様にあるという事実を知っているのですか。

 一般のマンチュリア人、特に被支配階級の人々は、このことは知らされていないのでしょうね。」

 グリューエルが言った。

「知らされていないようです。

 捻じ曲げた歴史を教えているらしいわ。」

 

「はあぁ・・・ため息しか出ない話だねえ。

 でも、やっぱり、『宇宙では男女の出会いがない』のかなあ。

 海賊の方も同じような事情らしいからねえ。

 私のお母さんがお父さんと結婚した理由は、昔の弁天丸にはお父さんとお母さんしか子供がいなくて、小さいころから『大きくなったら、二人は夫婦になって、弁天丸をつぐんだ』って言われて育ったから、その時はそういうものかと思ってたと、言っていたなぁ。」

 茉莉香が独り言のようにつぶやいた。

「驚いたわね。

 美人海賊で有名だった『ブラスター梨理香』が、結婚相手をそんな理由で決めていたなんてね。」

 チアキが言った。

「あんな素敵な方でも、宇宙では運命の出会いが無かったのでしょうか。

 ロマンチックじゃありませんわ。」

 グリューエルも、驚いて言った。

「ホントねぇ。営業で出歩くときに、ちょっかい出してくる男は、星の数ほどいたでしょうに・・・ウフフフ・・・・」

 チアキが、笑った。

「まあ、その辺は、私も詳しいことは・・・・。

 ・・・・ん?! 」

 突然、茉莉香は、両手を腰に当てて立ち上がり、チアキとグリューエルを指差して、毅然として言った。

「・・・というより、私のお母さんの話をネタにして盛り上がるのは、禁止です。」

 

「やっぱり、茉莉香さんって、怒っても可愛いですねぇ。」

 グリューエルが微笑んだ。

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