宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 いよいよ、茉莉香とチアキは、宇宙空母グランドマザーに乗って、奴隷商人を取り締まるため、M-8801星団への遠征に出発します。
 この戦いには、情報戦の一環として、テレビ局の同行取材が認められ、人気美人キャスター、スージー・リットンがレポーターを務め、茉莉香にもインタビューします。
 茉莉香は、初めて見る銀河系外からの宇宙の姿に大興奮。
 遠征軍は、途中に、旧宇宙マフィアの開拓地ヒガン星団に到着し、女王とヒガン共和国大統領が握手します。
 そして、軍団は、順調にM-8801星団に向かいます。帝国軍は、茉莉香の助言もあって、なんとか敵の罠を抜けます。しかし、このままでは茉莉香とチアキの出番が無いままに、戦いが終わってしまうと、茉莉香とチアキは焦ります。
 そこで、茉莉香は、敵の司令船と思われる戦艦を、弁天丸が白兵戦で占領して、全体の降伏を促す作戦を進言しますが、これにはチアキも自分の船で参加して・・・・。
 今回は前編です。 


第二十章 M-8801星団の包囲戦 

20-1 ミルキイ・ウエイ中継ステーション(ブルック星系外延部)

 

 ブルック星系外延部にあるミルキイ・ウエイ中継ステーションは、アンドロメダ航路への交通のかなめである。

 今回の遠征は、銀河系各星系から時空トンネルを使って一気に超光速跳躍して、ブルック星系に集結し、さらにここからヒガン星団まで跳躍する計画である。

 そもそも、この遠征のために、時空トンネルが先行して整備された。

 なお、ヒガン星団へはサンズの暗黒星雲を迂回するため、一気に飛ばず、途中の中継地点で一旦時空トンネルを降りて、方向を変えて、さらにヒガン星団まで飛ぶ行程である。さらに、ヒガン星団からは、各艦隊ごとにM-8801星団を包囲する作戦星域へ個別に超光速跳躍する計画である。

 

 遠征軍の数は5万隻と公表されている。

 今も、銀河系各地から時空トンネルを通って、銀河帝国の大艦隊が続々とタッチダウンしている。

 そして、到着した各艦隊は一旦隊列を整えて待機し、ミルキイ・ウエイ中継ステーションの管制官の指示で、ヒガン星団への時空トンネル・ゲートへ進んでいく。

 このほかにも、帝国軍への補給物資やヒガン共和国への援助物資を運ぶ民間船が続々到着している。こちらも軍艦に負けないくらい多くの船が、タッチダウンして、また時空トンネルへ入っていく。

 

 ミルキイ・ウエイ中継ステーションでは、銀河系各星系のマスコミがこの様子を中継している。

 いまも、ひとりの女性ニュース・キャスターがカメラに向かって話している。

 名前は、スージー・リットン。さわやかな美人で受け答えも賢く、老若男女を問わずファンの多い人気者である。

 

「みなさん、こんばんは。

 銀河テレビのスージー・リットンです。

私は今、ブルック星系にあるミルキイ・ウエイ中継ステーションにおります。

 窓の外をごらんください。われらが銀河帝国の大艦隊です。

 艦隊は、これから、奴隷売買を撲滅するためM-8801星団を包囲、占領する作戦に出動します。」

 

 テレビの画面が、帝国の大艦隊を映し出す映像に切り替わった。

 

「宇宙船が、次々と七色の光を発して、時空トンネルからタッチダウンしてきます。

 そして、ここには膨大な数の宇宙船が停泊しています。きれいに並んでいる宇宙船には色鮮やかな航空灯が点滅して、ご覧のような壮大な光の行列を作っています。

 そして、この大艦隊は、いまも続々と、ヒガン星団方面へ出発していきます。

私、宇宙船がこんなに光り輝いて、こんなに美しいなんて、初めて知りました。」

 

 やがて、ひときわ大きな光を発する宇宙船が、タッチダウンしてきた。

 

「あちらをご覧ください。一段と大きな宇宙船がタッチダウンしてきました。周りの船と比べて、ずいぶん大きいですねえ。

 ハヤマ准将、あれがクーン・オブ・パイレーツ号ですか?」

「そうです。銀河帝国軍の旗艦・クイーン・オブ・パイレーツです。現在、女王陛下が乗っておられます。」

「銀河テレビをご覧のみなさん。今、ご覧のように、女王陛下がブルック星系に到着されました。

 私、クイーン・オブ・パイレーツを始めてみましたが、その名の通り、頼もしい船ですねえ。これで、奴隷商人をぎゃふんと言わせてほしいです。」

 

 テレビは、キャスターのスージー・リットンと軍服姿のハヤマ准将を映し出した。

「最後にお知らせです。

 銀河テレビでは、この後9時から、『奴隷売買を撲滅する戦い』に関する特別番組をお送りします。

 この特別番組は、こちらのミッキー・ハヤマ准将が艦長を務めておられます機動空母グランドマザーの艦内から、生中継でお送りします。」

 

 テレビカメラは、ハヤマ准将の姿をアップで写した。

『この女の人、すごくカッコイイ。』

 何億人の視聴者がそう思ったことだろう。帝国軍もテレビにはタレント性のある将校を出して、勝負に出ている。これも戦いなのだから。

 

「グランドマザーの内部にテレビが入るのは初めてです。

 『銀河系最大、最強の宇宙空母』といわれておりますグランドマザー、いったいどんな宇宙船でしょう。

 それに、この船には、現在、我らがゴールデンプリンセス、チアキ様と、キャプテン茉莉香が乗船されているそうです。

 楽しみですねえ。

 これでいったん中継を終わります。みなさん、この後の特別番組、見てくださいね。

 スージー・リットンがお伝えしました。」

 

 銀河帝国は、今回の遠征では、マスコミの取材を大幅に認めている。それどころか、宇宙船に同行する従軍取材も認めている。戦争自体を報道させようと言うのだ。どれもこれも、帝国の主張を国民に伝えさせるためだ。

 これに対して、マスコミは帝国の思惑に乗せられているふりをしながら、虎視眈々とチャンスをねらっている。

 例えば、銀河テレビでは、今回の遠征でグランドマザーに同行して放送するテレビ番組では、生放送を言い訳にして、検閲を受けない突撃取材をたくらんでいるのだった。

 狙いは、もちろん、チアキと茉莉香。この二人が出演すれば、高視聴率は間違いなしと考えて、キャスターが行う特別番組の宣伝にもわざわざ二人の名前を挙げさせた。

 

 

20-2 機動空母グランドマザーの艦内(ブルック星系外延部)

 

 グランドマザーのブリッジでは、銀河テレビのスタッフが、間もなく始まる特別番組の放送開始に備えて忙しく動きまわっていた。

 一方、ハヤマ艦長やクルーは自分の席に座り、帝国軍の制服を着たチアキも貴賓席の玉座に座っていたが、同じく帝国軍の軍服姿の茉莉香だけは落ち着かない様子で貴賓席の中を歩き回っていた。

 

「う~~~ん。

 う~~~ん。

 ねえ~~、グリューエル。こっちへおいでよ。」

「いけませんわ、加藤大佐。私たちは帝国軍人ではありませんから。」

 

 わざと他人行儀なことを言って微笑むグリューエルとサーシャは、テレビ局の用意した見物席の椅子に座り、飲み物を飲みながら、楽しそうに番組の収録準備を見守っている。 しかも、テレビ局は、二人に黒と黄色の縞模様のついたパパラッチ対策用メガネまで用意して、テレビに姿が映らないように気を使っている。

 茉莉香は、グリューエルとサーシャも含めた、四人で出演するとばかり思っていたのだが、テレビ局と打ち合わせて、チアキと茉莉香だけが出演することを知った。

 その結果、玉座に座るチアキはともかく、茉莉香は、貴賓席の中に自分だけが取り残されて落ち着かない気分だったのだ。

 

「加藤大佐、動物園の熊みたいに、歩き回ってないで、座って下さい。

 もうすぐ、放送開始です。」

 テレビ局のディレクターが言った。

 

『フフフ・・・テレビの前で緊張しちゃって。

 有名な海賊船の船長といっても、やっぱりただの高校生なのね。

 でも、その方が扱いやすいわ。』

 キャスターのスージー・リットンは、加藤茉莉香を値踏みしていた。

 

「あ、あ、あ、はい。わかりました。」

 茉莉香は、あわてて貴賓席から降りて、ブリッジに向かおうとした。

「ダメよ。茉莉香は、ここよ。」

 チアキが、自分の隣の席を指差した。

「ええ!? チアキちゃん、そこは将軍さんとか、もっと偉い人の席だよ。」

「何、言ってるの、私一人にしないでよ。

 それに、『ちゃん』じゃない。

放送中に絶対に『チアキちゃん』なんて言わないでね。」

「わかってるってぇ。わかってます。」

 茉莉香は、いつものように答えた。 

 

「間もなく、放送開始です。」

 カウントダウンが始まった。

 

「みなさん、こんばんは。銀河テレビのスージー・リットンです。

 ただいまから、特別番組『奴隷売買を撲滅する戦い』をお送りします。

 私は今、ブルック星系に停泊している銀河帝国軍の機動空母グランドマザーのブリッジにおります。

 皆さん、ご覧下さい。この電子装置のずらっと並んだブリッジ、すごいですねえ。

こちらには、ハヤマ艦長の席があります。

 艦長、よろしくお願します。」

 

 キャスターのあいさつに応えて、ハヤマ艦長がさっと敬礼した。

 やっぱり、彼女のこういう仕草は絵になる。

 

「さらに、その一段上の貴賓席には、チアキ殿下がいらっしゃいます。

 殿下、今回の遠征では、副司令官の大任、ありがとうございます」

 チアキが、お姫様らしく、肯くように少し首を傾けてあいさつした。

 チアキは、テレビの前では完璧に猫をかぶるつもりでいる。

「その隣には、帝国軍大佐、兼有名なアイドル海賊、加藤茉莉香さんが控えておられます。さあ~~、ちょっとインタビューしてみましょう。」

 

 そういうと、キャスターのスージーは、最初から狙いをつけていた茉莉香に近づいてきた。

 

「加藤大佐、今のご感想はいかがですか?」

「はい。楽しみです。たとえば、ヒガンってどんな星なのか、想像するだけでも、わくわくします。

 それから、茉莉香って呼んでください。」

 

 笑顔でこう話す茉莉香は、先ほどまでの落ち着きの無さを全く感じさせず、堂々としていた。そして、笑顔にも輝くような華やかなオーラがあふれていた。

 

 テレビは、そういう茉莉香の笑顔をアップで写した。

 その画面の向こうで、『ああ、茉莉香様~~~』とか、叫んでいるファンが、きっと何百万人もいるだろう。

 女性キャスターは茉莉香のオーラに圧倒されて、茉莉香を『ただの女子高生』と見くびっていたことを反省しつつ、負けるものかと、少し意地悪く突っ込んできた。

 

「茉莉香さんは、どうして、この遠征が楽しみなんですか。

 帝国軍は、これから戦争に行くんですよねえ・・・。」

「スージーさん。この遠征は、戦争じゃありませんよ。奴隷として売られた人たちを救い出して、奴隷商人の元締めを捕まえに行くのです。

これは、犯罪者の取り締まり、つまり警察のお手伝いをするお仕事です。」

「そそ・・・、そうでしたね。」

 

 キャスターは、たじろいだ。

 茉莉香が、帝国軍が言い出したこの遠征の『建前』を、自分の言葉でサラっとわかりやすく語ったからだ。

 このため、茉莉香をいじるつもりが、かえって

『キャプテン茉莉香は、なかなか賢いなぁ。』

と視聴者に思わせてしまった。

 もちろん帝国軍は、茉莉香の登場で情報戦に幸先の良いスタートを切った。

 

「そして、私が楽しみにしているのは、お仕事の合間に見える宇宙の星々の姿です。

 銀河系から一万光年も離れると、銀河の星々はどういう姿を見せてくれるんでしょうね。それが、楽しみですね。」

「なるほど。」

「私ねえ、辺境で育ったでしょ。だから、銀河の中心から宇宙を見たことがなかったんです。

 それでねえ、帝都のレッドクリスタル星系に初めて行って、チアキちゃんと一緒に、『銀河のネックレス』と呼ばれる壮大な星空を見た時、とても感動したんです。

『私たち、ついに銀河の中心に来たなあ』ってね。」

「その気持ち分かりますよ。

 銀河のネックレスと呼ばれる銀河系中心部の星空は、帝都に住む人々の誇りですからね。」

「そうでしょう。だから、今度の航海も期待しています。

 だって、ヒガン星団までの航路は、250万光年もあるアンドロメダ航路への入口なんですよ。

 この先のアンドロメダ航路では、銀河はどう見えるんでしょうかねえ。

 どんな星々がみられるのでしょうね。

 さらに、アンドロメダ銀河まで行くと、どんな星々が見られるのでしょうね。

 想像するだけで、わくわくしませんか?」

 「そうですね。これから銀河テレビでも、視聴者のみなさんに、この遠征の際に見られる宇宙の星々の美しい姿を伝えていきたいと思います。

 茉莉香さん、どうもありがとうございました。

 では、ここで、一旦、画面を帝都のスタジオの方にお返しします。

 ジョージ、お願いします。」

 

 テレビから『ハーイ、スージー・・・』と答える声が聞こえ、ディレクターが言った。

「はい、お疲れ様。一旦、中継はカットします。

 今は、帝都のスタジオから、この遠征計画の解説を送っています。

 10分後、この船の説明を艦長からお願いします。」

 

 テレビの中継放送が途切れたことを確認して、チアキが言った。

「なかなかよかったわよ。茉莉香。

 さすが、海賊ショーで場数を踏んでいるだけのことはあるわね。

 でも、約束を破ったから、あとで罰ゲーム一回ね。」

「え? 約束を破った???」

「フフフ、茉莉香さん。放送の中で『チアキちゃん』って言ったでしょ。」

 サーシャが笑いながら言った。

「ああ・・・・気が付かなかった。でも、罰ゲームって何?」

「遠征が終わるまでに、考えておくわ。

 ねえ、グリューエル、相談に乗ってね。」

「はい、かしこまりました。

 茉莉香さんのために、素敵な罰ゲームを考えて差し上げますわ。」

 グリューエルが微笑んだ。

 

 こういう四人の仲の良いやり取りを、秘書官のギルバートやスカーレット、護衛のキャサリンやイリーナが、テレビカメラの後ろで見守っている。

 

 このあと、テレビ放送は、艦長のインタビュー、艦内の各所からの中継放送と進み、最後に空母の甲板から宇宙船が登場するところを視聴者に見せたいというテレビ局の希望にこたえて、弁天丸が甲板に登場することになった。

 テレビに映るのが帝国軍の宇宙船ではないのは、テレビ局からのリクエストだった。赤を中心に彩色された、色鮮やかな弁天丸の方が見栄えがいいと言う訳である。

 茉莉香とギルバートがキャスターのスージーを連れて、船外の空間に出て、弁天丸を説明することになった。茉莉香の宇宙服は、真っ赤な色の派手な弁天丸船長用のものである。ギルバートとスージーは、帝国軍の標準仕様の地味な宇宙服を着用している。

 

「スージーさん、大丈夫ですかぁ。ハッチの外に出ると、いきなり無重力ですよ。」

 茉莉香が言った。

「大丈夫です。」

 スージー・キャスターは気丈に言った。

 彼女は、以前にも取材で宇宙空間に出たことがあるので、自信があった。

「うわ~~。」

 しかし、外へ出た途端に、吸い込まれそうな宇宙の深さに恐怖感が湧いてきた。

 以前に宇宙空間に出たのは、クリスタルスターの衛星軌道上なので、眼下には青い惑星の景色が広がっていた。だから、安心感があった。

 しかし、ここでは全天が真っ暗な宇宙空間であり、そこに寂しげに星々が光っているだけだったからだ。

 驚いたスージーは、宇宙船から足が離れ、無重力空間を漂い、回転し始めた。

「キャー・・・。」

「あ、いけない!!!」

 茉莉香とギルバートが同時に手を伸ばしたが、スージーはギルバートの手をつかむと、彼に引き寄せられ、さらに彼にしっかりと抱きついて離れなかった。

「ああ、びっくりしました。どうもありがとうございました。」

「ああ、いえ、いえ。」

「・・・・・・・・」

 

「間もなく放送が始まります」

 カメラマンが、通信機を通じて知らせてきた。

「はい。わかりました。」

 スージーは、ようやくギルバートから離れると、一人で立ってカメラに向かって、言った。

「みなさん、スージー・リットンです。

 私は、今、機動空母グランドマザーの飛行甲板の上にいます。ご覧のように、宇宙船の甲板上は宇宙空間ですから、私たちは宇宙服をつけています。

 こちらには、宇宙海賊船弁天丸の船長こと加藤茉莉香大佐にお越しいただいております。

 大佐、これから、弁天丸を見せて頂けるそうですが、どんな宇宙船なんですか。」

「これから、甲板に上がって来ますから、まずは見てください。」

 

 カメラは、そういう茉莉香の派手な宇宙服を、上から下までアップで映し出した。

「茉莉香さんの宇宙服、ずいぶんきれいな色ですね。」

「これは、海賊の営業用ですから。みなさんにご覧いただくには、こっちの方が良いと思って・・。

 あ、上がってきましたよ、弁天丸が。」

 

 弁天丸は、まるでプールの水の中から水面に顔を出すように、スーッと甲板に上がってきた。甲板の中で弁天丸が登場する部分だけが、金属光沢の液体になっているように見える。

 昔の映画のように甲板のハッチが開いて、その中からエレベーターで上がってくると言う機械式の昇降装置ではない。

 

「なんか、不思議な感じです。魔法を使ったような登場の仕方ですね。」

「ははは・・・。この船は最新式ですから。

 ご覧下さい。これが、弁天丸です。

 全長は、約220メートル、幅は約110メートルあります。」

「大きい船ですね。でも、巨大空母グランドマザーの甲板の上では小さく見えますね。」

「そうですね、グランドマザーの甲板は3000メートル以上ありますからね。」

「この船、もちろん動くんですよねえ。」

「もちろんですよ。重力制御推進式ではありませんが、超光速跳躍もできますから。

 管制官、発信して見せてもいいですか?」

「了解です。」

「ミーサ、聞こえてるかしら?

 弁天丸、発進、お願い。私の頭の上を通り過ぎるくらいでイイから。」

「了解。サービスするわ。」

「ナハハハ・・・。」

 

 弁天丸を空母の船体に固定しているアームが外れた。

 弁天丸は、姿勢制御ジェットを噴射してグランドマザーの船体から離れ、補助エンジンを噴射した。

 ゴオオオーという轟音が宇宙服のマイクを通じて聞こえてきた。テレビにも伝わっているだろう。

 弁天丸がゆっくりと浮き上がりつつ、茉莉香の頭上を通過して、離れていく。

 その姿をテレビカメラが追ってゆく。

 轟音も弁天丸が離れていくにつれて、小さくなっていく。

 

「茉莉香さん、さすが船長さんですね。早速、弁天丸の発進を見せていただいて、ありがとうございました。

 それにしても、弁天丸すごい迫力でしたねえ。お腹に響きました。」

「ナハハハ・・・。

 今の音は、海賊ショーの際に流すお客様サービスの効果音です。

 実際は、宇宙では音は伝わりませんので。」

「あらまあ、そういえば、そうでしたね。

 でも、海賊ショーと言えば、茉莉香さんの海賊服姿もぜひ見たいです。

 また、お願いしますね。

 ・・・・・

 と言っている間に、放送時間が残り少なくなってまいりました。

 銀河テレビの私たちは、今回の遠征ではグランドマザーに同行取材をします。これからも見逃せない映像を生放送でお送りしますので、みなさん、ご期待ください。

 スージー・リットンがお伝えしました。」

 

「ハーイ。放送終了。」

「ありがとうございました。」

 スージーは、茉莉香に挨拶すると、またギルバートの腕をしっかり取って、自分の胸に押し付ける形で彼にしがみついた。

 結局、彼女は、人工重力のあるエリアに戻っても

『まだ怖いの・・・』

と別人のような小さな声で言って、宇宙服を脱ぐまで彼にしがみついたままだった。

「・・・・・・・・・・」

 そんな二人を、茉莉香は何も言わず、見つめていた。

 

 

20-3 アルファ星系第四惑星の衛星軌道上(M-8801星団)

 

 M-8801星団のアルファ星系第四惑星の衛星軌道上に、相次いで二隻の船がタッチダウンしてきた。一隻は奴隷商人の船、船名はパラべラム号、もう一隻はそれを追跡する帝国軍の巡洋艦アラスカ号だった。

 帝国軍の巡洋艦アラスカ号のブリッジでは、艦長ロッケンハイムがM-8801星団への一番乗りを果たして、意気揚々としていた。

「通常空間にタッチダウンしました。

 奴隷商人の船は、前方50キロにタッチダウンしています。

 座標は、M-8801星団のアルファ星系、第四惑星の衛星軌道上です。

 艦長、一番乗りですね。」

「そうだなあ。やったなあ。

 でも、油断するな。周辺で敵に増援の動きがないか、注意しろ。」

「はい。

 ・・・・今のところ、アルファ星系内に敵船の姿はありません。」

「うーん。敵側の援護がない?

 では、なぜ、あの奴隷商人の船はここへ逃げてきたんだ?」

「この第四惑星は、可住惑星というより、人間が住んでいる兆候がありますねえ。」

「へえ・・・、ここがヤツラの本拠地かもしれないなあ。

 まず、データを集めて、司令部へ送れ。俺たちが一番乗りだという証拠を送ろう。」

「了解しました。」

「船長、奴隷商人の船が速度を落として、第四惑星に降下していきます。着陸すると思われます。

 我々も、追跡しますか?

 それとも、威嚇射撃でも撃ちますか。」

「深追いはするな。もう捕獲は不可能だ。

 もちろん撃つな。

 そもそも、今回の我々のミッションは、奴隷商人の船の臨検と奴隷として売られた人々の救出だ。ヤツラの船を撃沈することは許されていない。」

「そうですが、・・・」

「それに、この惑星は敵の本拠地かもしれないから、何が出てくるか分からない。

 これ以上の接近は危険が大きい。

 この星の衛星軌道から離脱する。」

 艦長は、冷静だった。

 

「それにしても、デブリが多いですねえ。

 まるで我々を狙っているようです。

 デブリ排除の自動対空砲火機能が無ければ、今頃、船体に一つや二つ、穴が開いてますねえ。」

 戦闘指揮官がぼやいた。

「そういうことか。

 危険だ。デブリを避けて、衛星軌道から急いで離脱せよ。」

 

 船長がそう言った途端、ガーンという衝撃が艦内を襲った。

「左舷にデブリ衝突。被害は調査中。」

「船長。ぶつかったデブリは水素、窒素、水やメタンなどの氷だと思われます。

 ビームが当たってもデブリに穴が開くだけで、そのまま船に衝突したそうです。」

「氷でも何でも、高速で船体に当たればダメージは同じだ。

 とにかく、主砲も動員して、デブリを撃ちおとせ。

 航海士。デブリの少ない軌道を探せ。」

「やっています。・・・」

 

 10分後、アラスカ号は、ようやくデブリの多い空域を抜けた。

「結局、五発も食らったか。

 これが装甲板の薄い、安普請の民間船なら沈んでいたぞ。

 それにしても、あのデブリは、自然の岩石か氷のようだったが、なぜ、あそこにあるのだ。あんなデブリの多い宙域があれば、自分たちの船の航行にも邪魔になるはずなのに。

 そんなものを、どうして放置しておくのだ。」

 デブリ撃墜に汗を流した戦闘指揮官がぼやいた。

「奴隷商人は逃がしたが、まあいい。

 アルファ星系のデータは取れたので、これを土産に帰投するぞ。

 超光速跳躍、開始。」

 艦長の指示に従って、アラスカ号は、亜空間に消えた。

 

 

20-4 グランドマザーの飛行甲板(ヒガン星団航路の中間地点:サンズ回廊)

 

 機動空母グランドマザーは、ヒガン星団への航路の中間地点にある時空トンネルを抜けて、いわゆるサンズ回廊にタッチダウンした。中間地点にもすでに多くの宇宙船が到着し、待機していた。

 ここでは、遠征艦隊など、次のヒガン星団に向けて再び時空トンネルに入ろうとする船と、ここからは時空トンネルを使わず、個別に超高速跳躍して航路内の各地に向かう船との交通整理が行われている。

 待ち時間を利用して、茉莉香とギルバートとスージーは、テレビ中継のために、グランドマザーの飛行甲板に出た。

 

「みなさん、こんばんは。銀河テレビのスージー・リットンです。

 機動空母グランドマザーは、いま、ヒガン星団への航路の中間地点、いわゆるヒガン回廊に到達しました。すでにたくさんの船が到着して、停泊しています。

 そして、ご覧ください。

 私たちの背後には、銀河が天の川のように広がって見えます。しかし、私たちの前の宇宙空間には、銀河はありません。深い宇宙空間があるだけです。

 そうです。私たちは、今、銀河系を少し離れた宇宙空間に立っています。外宇宙からのテレビ中継はわが局が初めてです。

 みなさん、この壮大な景観をご覧ください。」

 

 テレビ画面は、外宇宙から我々の銀河系を眺めた壮大な景色を、360度のパノラマとして回転しながら、映し出している。

 

「どうですか。茉莉香さん、この星空のご感想は。」

「わくわくしています。やっぱり、宇宙っていいですねえ。

 銀河は、こんな形をしているんだなあって、初めて自分の目でみましたよね。

 この角度からだと、銀河中心の紡錘状星雲の形がはっきりわかりますねえ。

 一方、こちらの暗黒星雲サンズもすごい迫力ですねえ。ここから見ると一部に星が形成されているところもあって、光と影の入り混じったダイナミックな姿ですねえ。

 だから、私、宇宙って大好きなんです。」

 

 そして、茉莉香はヒガン星団の方角を指差しながら、続けた。

「うわーぁ! 見て、見て。

 ヒガン星団が見えますよ。私、実際に見るのは初めてなんです。

 感激だなあ。

 あの方角の、あの星々ですね。カメラさん写してください。

 ヒガン星団は、銀河からは見えませんが、ここまで来ると自分の目で見えるんですね。」

 テレビカメラは、まだかすかな光の点に過ぎないヒガン星団の恒星群を写した。

 

「あれが、第一の目的地、ヒガン星団ですか。」

「そうです。楽しみですねえ。

 どんな星々なんでしょうかねえ。恒星はスペクトルG型ばかりだそうですから、若い星団ですね。

 水に溢れた、きれいな青い惑星があると良いですねえ。

 光学観測も始まっているでしょうから、中に戻ったら映像を船のスタッフに見せてもらいたいなあ。

 早く、ヒガンの星々に会いたいです。」

 

 テレビ画面は、初めて見る星々の前で、茉莉香がはしゃぐ様子をアップで映し出した。

 それは、目的地に近づいて深刻になりがちな将兵やテレビの視聴者の緊張感をさっと吹き飛ばす、さわやかな笑顔だった。

 一方、テレビに映らないところでは、スージーは相変わらずギルバートにしがみついたままだった。

 

 

20-5 レオニーニ家の屋敷(ヒガン星団ベータ星系第三惑星ライセ)

 

 惑星ライセにあるレオニーニ家の屋敷は、緑にあふれ、一つの街と言っても良いくらいに大きい。現在のところ、ヒガン共和国大統領府もこの中にある。

 その広大な屋敷の奥まった一室で、一人の老婆がテレビ中継を見ていた。

 

 テレビ放送は次のように伝えていた。

『みなさん、銀河テレビのスージー・リットンです。

 機動空母グランドマザーは、いま、ヒガン星団の中心、惑星ライセの衛星軌道上に到達しました。

 ご覧ください。

 眼下には、惑星ライセの青く輝く海や緑の陸地が見えます。

 この美しい星が、アメージーグ族の開拓した新天地です。』

 

 老婆は、自分の周りにいる一族の子供たちに語った。

「やっとサーシャが来てくれた。

 久しぶりだねえ。やっと、会えるよ。もうすぐだ。

 サーシャは、ここに来るのは初めてのはずだが、それでも私はあの子に『お帰りなさい』と言いたいよ。

 なあ、ジュリアーノ。

 お前は、あの子に会うのは初めてだけど、美しくて、賢い娘に育ったそうだよ。

 楽しみだろう。」

「そうですね、グランマ。もうすぐですね。」

 ジュリアーノ・レオニーニが答えた。

 彼はまだ24歳の若者だったが、ヒガン共和国大統領フランシスコ・レオニーニの息子であり、次世代のリーダーとして一族の期待を集めていた。

 

 

20-6 帝国軍最高司令部(クイーン・オブ・パイレーツのブリッジ)

 

 旗艦クイーン・オブ・パイレーツは、ヒガン星団に向けて航行中であった。

 そのブリッジの貴賓席に置かれた帝国軍最高司令部では、参謀本部から女王陛下に作戦の進行状況が報告されていた。

 

「現在のところ、帝国とヒガン共和国の各艦隊は、順調に船を進めております。

 奴隷商人たちは我先にと、全速力でM-8801星団へ逃げ込んでおり、それを追う形で、包囲網は急速に狭まっております。」

「なるほど。それで、M-8801星団の様子はわかったのか?」

「先行している船からの報告によりますと、M-8801星団の可住惑星は五つあります。

 しかし、そのうち四つは惑星改造が中止されており、エネルギー反応もありません。 もちろん、この他に人工惑星や中継ステーション等の浮遊構造物はありません。

 残る一つの惑星に、人間の住んでいる様々な兆候が観測されています。それが、アルファ星系の第四惑星です。軍は、この星を『アルファ4』と呼んでおります。

 ここがマンチュリアの本拠地と思われます。」

「ここが本拠地と断定できるのか? ヒガン共和国も同じ意見か? 」

「ヒガン共和国からの情報でも、彼らの本拠地はこの惑星ひとつだけと聞いておりましたので、間違いありません。」

 

「それでは、アルファ4を占領するまでのスケジュールを聞こう。」

「はい。まず、全艦隊がヒガン星団に集結するのに、あと2日、

 それから、M-8801まで展開し、包囲網を狭めて、アルファ星系の外延部に集結するのに2日かかります。

 敵が艦隊を集結して決戦を挑んで来れば、4日目あるいは5日目がその決戦の日程になると、見込まれております。」

「本当に彼らは決戦を挑んでくるのか?」

「今のところ、五分五分です。もちろん、降伏を勧告しますが。」

「艦隊決戦が終わる、あるいはこれが無ければ、アルファ4へ地上戦闘部隊を送り込み、占領します。地上全体の占領には、一週間程度を要すると見込んでいますが、抵抗次第では延びる可能性があります。」

「徹底抗戦されると、厄介だな。」

「はい、多数の戦死者が出る可能性があります。」

「ところで、重力兵器による帝国領内への奇襲攻撃の恐れはないのか。」

「今のところ、兆候はありません。奇襲攻撃は、海明星だけと思われます。」

 

 担当将校からの説明が終わったあとに、ヤマシタ参謀総長が付け加えて言った。

「陛下。

 ただし、ひとつ気になりますのは、マンチュリアの支配階級の人間が姿を現さないことです。捕獲した彼らの軍艦も、支配階級出身の軍人は乗船しておらず、クローン人間ばかりが乗船しています。

 支配階級の人間は、どこに潜んでいるのか、居場所をつきとめる必要があります。」 

「持って回ったような言い方をするな。ハッキリ言ったらよかろう。」

 女王が少しイラついた声を出した。

「はい。進言いたします。

 この状況は罠を仕掛けられている気がします。

 その根拠はありません。軍人としてのカンに過ぎませんが・・・。」

「罠?」

「どんな罠なのか、まだわかりませんが・・・・。」

 

 

20-7 ヒガン共和国宇宙空港(惑星ライセ)

 

 惑星ライセにあるヒガン共和国宇宙空港に、相次いで2隻の宇宙船が降り立った。

2隻は、ともに聖王家のエンブレムをつけた船だった。

 一隻は、女王の乗船する青い船、ローズアロー1号、もう一隻は、チアキの乗るピンクの船、ローズアロー2号だった。

 この歴史的瞬間を銀河テレビが興奮して伝えていた。

 

「みなさん、おはようございます。銀河テレビのスージー・リットンです。

 私は、今、惑星ライセにあるヒガン共和国宇宙空港におります。

 ついに、銀河帝国とヒガン共和国にとって歴史的瞬間がやってまいりました。

 いま、女王陛下と第二王女殿下が、惑星ライセにあるヒガン共和国宇宙空港に到着されました。

 青と赤の二隻の船が、地上に着陸しているのがご覧いただけると思いますが、このうち青い船が、女王陛下の乗船されたローズアロー1号です。ピンクの船が、チアキ殿下の乗船されたローズアロー2号です。

 そしてご覧のように、儀仗兵が並ぶ中をヒガン共和国の大統領が出迎えにあらわれました。

 そして、今、女王陛下が船を降りてこられます。続いて、チアキ殿下も降りてこられました。

 地上に降りた女王陛下に対して、ヒガン共和国大統領フランシスコ・レオニーニ氏が一礼し、二人は握手をされました。

 ご覧ください。

 長い間、帝国と緊張関係にあったアメージーグ族との和平が、このように実を結び、銀河の平和が達成された歴史的瞬間です。

 現在では、両者は、銀河系の『法と秩序』を守るパートナーとも言える密接な協力関係にあります。

 ・・・・・ 」

 

 テレビ放送では、宇宙マフィア時代の昔を知る人間が聞けば、大笑いして吹き出しそうな美辞麗句が続いている。

 実際、テレビを見ながら、そんな思いを抱いている人は多いだろう。

 もちろん、現在では、「宇宙マフィア」と言う言葉は、テレビでも放送禁止用語になっている。そう言った方が分かり易くても、言ってはいけない言葉とされてしまった。「ヒガン共和国」や、「アメージーグ族」と言い換えなくてはいけない。

 スージーのレポートは、そういう時代の到来を告げていた。

 

 そして、女王と大統領たちが空港を出発して大統領府に向かった。茉莉香とグリューエルも、チアキと同行した。この後、首脳会談が行われ、夜には盛大な歓迎行事が行われる予定である。

 

 やがてテレビの中継が終わって、空港が静まり返った。

 その時を待っていたように、一団の人々がローズアロー2号から降り立った。サーシャと、イリーナを始めとする護衛の人々である。

 一行は、ヒガン共和国軍の出迎えの車に乗って、空港から走り去っていった。多数の護衛の車が随行していった。

 

 

20-8 機動空母グランドマザーのブリッジ(M-8801星団アルファ星系外延部)

 

 銀河帝国とヒガン共和国の軍艦は、奴隷商人を追って、ついに、アルファ星系に進軍し、同星系を包囲した。

 包囲作戦に参加した船は約一万隻。遠征軍五万隻のうち、二割が参加しただけだった。しかし、これでも艦船の数が多すぎるため、ここからは、まず選抜部隊1000隻が攻め込む計画となった。選抜部隊の司令官は、グランドマザーの艦長、ハヤマ准将が任命された。

 

 アルファ星系の星々を写すモニターを眺めながら、艦長のハヤマ准将が感想を漏らした。

「ついにここまで来たなあ。

 司令部からは、予定通りアルファ4へ侵攻せよとの命令が来ている。

 われわれは、選抜部隊の中心だからな、みんな気合を入れろ。」

「おう!!」

 

 その後、ハヤマ艦長は、貴賓席の奥のテーブルにやってきた。

 そこに集まっているのは、チアキ、茉莉香そしてグリューエルの三人だった。サーシャは、惑星ライセで用事があるといって、その後の遠征には乗船しなかった。

「う~~~~ん。」

 茉莉香は、テーブルの上の布に、赤いスタールビーの宝玉を置いて、その中の星を見つめていた。

 そのそばで、チアキとグリューエルが微笑みながら茉莉香を見守っている。

「う~~~~ん。」

「ん?・・・・茉莉香、なにをしているんだい?」

「う~~~~ん。

 ああ、ミッキーさん、ちょっと考え事があって・・・。」

「お前が考え事とは、めずらしいなあ。

 取り込んでいる時で悪いが、こっちもお仕事のことで相談があってなあ。だから、茉莉香と少し話がしたいのだけどねえ・・・。」

「お仕事の話なら、ご遠慮なく。私の考え事は、個人的もので・・・。ナハハハ」

 茉莉香は、苦笑いをした。

 

「それで、艦長さん、話は何ですか?」

「ほかでもないんだが、今後の作戦計画についてお前の考えを聞かせてほしい。

 お前がマンチュリアの指揮官だったら、敵に一泡吹かせてやるとすれば、どうするかな。

 例えば、帝国軍をどんな事態に追い込んだら、気分爽快で、面白いだろうか?」

「そうですねえ・・・。

 う~~~~ん、私ってヘンな子なのかなあ?

 こういう話だと、すぐ答えが浮かびますねえ。」

「へえ・・・即答かい! それで、どんなアイデアなのかな?」

「やっぱり一番痛快なのは、敵をだまして同士討ちさせることでしょうね。

 例えば、鬼ごっこみたいに追いかけさせておいて、さっと身をひるがえして逃げ出して、残された敵が鉢合わせして、敵同士がそれと知らずに戦ってしまうなんて・・・。 ハハハ

 そういう喜劇、いや悲劇かな?

 これって、少し意地が悪いでしょうか?

 やっぱり、私って、ヘンな子なのかなあ?」

「いや、戦場では正しいよ。茉莉香の言う通りだ。」

 

「そのお話は、今回の作戦で私たちが罠にかけられているかもしれないという疑問に関連しているのでしょうか?」

 チアキが聞いた。

「そうだよ。少なくとも、ヤマシタ参謀総長は、そういう疑問を抱いているよ。

 でも、どういう罠かが、私にもわからない・・・。」

 ハヤマ艦長が答えた。

「う~~~ん。現状では私もわかりませんが・・・」

 茉莉香も即答できず、唸ったが、

「そうか、たとえば、この前のアレはどうでしょうか。

 艦長、私が参謀本部の模擬戦でやった人工時空震みたいな罠ですよ。

 帝国軍の大艦隊を密集させておいて、そこへドーンと『やんちゃな操縦』でタッチダウンしてきて人工時空震を起こす罠ですよ。それで、帝国軍の船を吹き飛ばしたり、帝国軍の船同士を衝突させたりして、大混乱に追い込むのです。

 これなら、帝国軍の『同士討ち』をたった一隻で実現できます。

 艦長、きっとこれですよ。私なら、これで決まりです。」

 と、茉莉香は答えた。

「なるほど。あれか。

 あれなら、十分ありうるなあ。参謀本部に進言しておこう。

 でも、あの敗戦には参謀本部も大ショックを受けて、対策の研究は進んでいるよ。」

「そうですか。それならいいのですが。」

「もっと、他に、もっともっと意地の悪い『同士討ち』のアイデアはないかなぁ。」

「そうですねえ・・・。

 ん?・・・・

 艦長、私のことを意地のわるい、ヘンな子だと思ってませんか?」

「いやいや、そんなこと考えていないよ・・・・ハハハ。」

 

「あの・・よろしいでしょうか・・・同士討ちの意味なんですけど・・・。」

「なに、グリューエル?」

「帝国軍同士ではなくて、同じ民族同士が、騙されてそれと知らずに戦うというのも、同士討ちでしょうか?」

 グリューエルが聞いた。

「どういう意味だい?」

 ハヤマ艦長が聞いた。

「チアキさんを前にして言いにくいんですけど、・・」

「構わないわよ。何を言いたいか想像がつくわ。」

「では、お許しが出たので、言います。

 マンチュリアのクローン人間たちと、銀河帝国が戦うのは、マンチュリア人の支配階級の人たちから見ると、同じ民族同士の『同士討ち』なのではないでしょうか。」

「ええ!? そんな発想は初めて聞きました。

姫様、もっとくわしく説明して頂けないでしょうか。」

 ハヤマ艦長が言った。

「はい。妹のヒルデから聞きましたが、マンチュリアでは、被支配階級の人が、他の星の人と結婚して子供を設けても、その子供、その子孫は依然として被支配階級の民族に属すると考えるのだそうです。もちろん、支配階級の人たちは、自分たちと被支配階級の人たちは別々の民族だと思っているそうです。

 ですから・・・」

 グリューエルが言った。

「そこから先は、グリューエルでは言いにくいだろうから、私が言うわ。

 そういう考えに沿って言うと、マンチュリアの被支配階級出身のテオドラ皇后の子孫である青薔薇家の私たちは、マンチュリアの被支配階級の民族と同じ民族に属すると言うことになるわね。

 そして、マンチュリアのクローン兵士が、被支配階級の民族の人から作られたならば、今回の戦いは、同じ『民族』による同士討ちかもしれないわね。

 おまけに、クローン兵士が偽の歴史を教えられているのならば、騙されているとも言えるわね。」

 チアキが言った。

「ええ!そんな考え方って、アリなの?」

 茉莉香が言った。

「それは彼らの考え方の問題だから、アリと思えばアリよ。

 そういう『同士討ち』をさせれば、敵、つまり帝国が悔しがるだろう。だから、彼らは帝国に悔しい思いをさせて愉快と思うのかしらねえ。

 帝国の方は同士討ちだと思っていないのだから、そんな一方的な理屈を言っても、帝国にとっては何の意味もないでしょう。

 ほんと、ばかばかしい話けど。」

 チアキは、少し怒ったような口調で言った。

「ごめんなさい。チアキさん。」

 グリューエルが言った。

「気を遣わせてごめんなさい。あなたに怒ってる訳じゃないわよ。

 そういうことを考えているかもしれないマンチュリア人に、怒っているのよ。」

 

「それじゃあ、銀河帝国が、もしもM-8801星雲の惑星を先制攻撃で滅ぼしてしまっていたら、それは『同士討ちの罠』に嵌ったことになったのかなあ。」

 茉莉香が言った。

「はい、彼らは、そう思ったかもしれませんね。

 軍事でも経済でも何でも銀河帝国に勝てないとすれば、歴史の解釈から自分たちだけの『勝利の定義』を作り出して、それを実現したと言って、自尊心を満たすしかないのでしょう。」

 グリューエルは言った。

「それって、おかしくない。歴史の一部分だけを取り出して勝ったと言っても、それじゃあ、世の中は何も変わらないじゃない。

 そもそも、自分たちの歴史を棚に上げて、都合のいいところだけを持ち出すわけでしょ。」

 チアキが言った。

「そうですね。ダブルスタンダードです。

 でも、弱者の立場ならば、そうする以外はありません。

 それがどんなに愚かなことであっても、そうしたい気持ちは分かります。

 そう思うと、とても悲しい話ですね。」

 グリューエルが静かに言った。

「そうかもしれないわね。私も辺境で育ったから気持ちは分かるわ。」

 チアキが言った。

 

「私は難しい政治の話は苦手だけど、軍事的に見ても、やっぱり、罠をかける作戦として、それは変だよね。

 だって、もし帝国の重力兵器による先制攻撃が、敵の『思う壷』だったとすれば、それで自分も滅ぼされないように、マンチュリア人の支配階級の人たちは予め何処かへ避難しているはずでしょ?

 どこに隠れたの? 」

 茉莉香が言った。

「この銀河のどこへ隠れても銀河帝国の追及から免れることはできないわよ。

 茉莉香の言うように、『敵をだまして、さっと逃げて、同士討ちさせる』なんて、実際にはできないわよ。」

 チアキが言った。

「そうですね。結局、自分たちも滅んでしまいますね。

 失礼なことを言って、ごめんなさい。」

 グリューエルが詫びた。

「だから、グリューエルが誤ることなんかないのよ。悪いのはあいつら・・・。」

 チアキが言った。

 

「なるほど。そういう発想もあるのですか・・・・。」

 ハヤマ艦長が言った。

「艦長、今の話を司令部に伝えるならば、すべて私が言った話としてください。」

 チアキが言った。

「お心遣い、ありがとうございます。皆さんにご迷惑をおかけしないよう気を付けます。」

 

 

20-9 惑星アルファ4の周辺宙域

 

 銀河帝国軍とヒガン共和国軍の選抜部隊は、アルファ星系の第四惑星、アルファ4の周辺宙域まで進軍した。

「アルファ4の様子はどうだ。敵艦の位置は?」

 ハヤマ艦長が聞いた。

「はい、報告します。

 アルファ4の赤道の衛星軌道上に敵艦隊が集結しています。その位置は、われわれの死角、つまりアルファ4を挟んで我々と反対側にあります。」

「死角か。我々にそんなものがあると思っているのかな。

 すでにレーダー監視網は、アルファ4の全面を覆う配置を完了しているのにねえ。

 よし、敵艦の機種や装備、戦闘能力を調査しろ。ポンコツ揃いかもしれないが、侮るな。」

 ハヤマ艦長は、警戒を怠らない。

「問題は、時空ナビの方か・・・。

 航海士、ナビは何か重力異常を感知しているか?奇襲の予兆を見逃すな。」

「はい。監視を継続します・・・」

「敵艦隊の概要が判明しました。

 その数、約500隻。帝国軍の旧式艦と思われる型式の艦が中心ですが、一部に奴隷商人の船も交じっています。武装は、通常の戦艦から巡洋艦クラスと思われます。特に目立って強いエネルギー反応はありません。」

「この程度の艦隊なら、通常の艦隊戦で粉砕できるが、あまりに簡単過ぎる。

 やっぱり、ヤツラは罠のエサなのだろうか・・・・。」

「艦長、そろそろ、デブリの多い宙域に近づきます。」

「よし。先頭の陣営に、デブリを片付ける指示を出せ。」

「了解。掃海の指示を出します。」

 

 帝国軍は、巡洋艦アラスカ号からの情報から、レーダー監視網を先行して稼働させるため、偵察船を多数、アルファ4の周りに配置した。そしてデブリの分布もつかんでいた。

 ハヤマ艦長の指示を受けて、デブリの掃除、すなわち掃海が進められていく。

 その掃海方法は、公爵の反乱の際にウルスラがやった方法である。

 重力波砲を最少出力で発射して、デブリを吸い込んで、別の空間に放出するものである。対象がミサイルだろうと、デブリだろうと同じであって、多数の物体を一度に排除するには効果的な方法として、その後、さらに研究されていた。

 

「あ、艦長。微弱な重力異常です。

 向こう側の敵艦隊から、こちらの正面へ時空トンネルを使って跳躍してくる船がいると思われます。」

「全艦、作戦通り、球面後退開始。人工時空震に備えよ。

 あ、そうか・・・。デブリはこのためか。

 全艦、人工時空震に乗ってデブリが弾丸として飛んでくる恐れがある。

 デブリ撃墜対策を怠るな。」

 

 選抜艦隊は、球面後退を開始した。

 「球面後退」とは、人工時空震の対策として帝国軍が開発した艦隊行動である。

 通常、同一平面上で艦隊行動を取りがちな大艦隊は、後退する時も同一平面上の航路を取りがちである。

 しかし、これでは、時空震に見舞われたときには、コントロールを失って衝突するおそれがある。

 そこで、艦隊の各艦が、時空震の震源を中心として半球状に後退するように、各艦の退路を設定してこれを維持すれば、時空震に流されながら後退しても衝突せず、艦隊全体も時空震をやり過ごせばまた態勢を立て直すことができると考えられた。

 これが「球面後退」である。

 

 予想通り、猛烈な時空震が発生した。各艦に対して、強い重力波、続いて衝撃波が襲った。

 これに対して、選抜艦隊は、流されながらも、各艦が何とか予定の後退航路を維持するように姿勢制御を続けていた。

 続いて、デブリの弾丸が飛んできた。幸いにも、デブリ掃除が始まっていたために、かなり数は少なかった。

 さらに飛来したデブリに対しては、デブリ対策の自動対空砲火だけでなく、正面に向けては主砲も撃たれ、火力はフル稼働した。

 球面後退のおかげで、味方の船を撃つ可能性は低くなっていたことも幸いした。

 

「ふう・・・、どうやら時空震のピークは越えたね。

 各艦の被害状況を確認しろ。」

「はい、被害状況を確認します。」

「時空震だけでなく、デブリの弾丸までお見舞いされたか。このために、ヤツラの艦隊は、惑星の反対側に位置していたんだな。

 なるほどなあ。敵にも、ちょっとは考える奴がいるってことか。」

「艦長。人工時空震の震源付近に敵の戦艦一隻がタッチダウンしてきます。

それから、敵艦隊が衛星軌道を回って、こちら側に移動してきます。約30分でこちら側に最接近してきます。」

「よし、各艦、再集結準備。

 同時に、人工時空震を起こした敵の戦艦の探査を行え。重力兵器使用の兆候がないか、確認しろ。」

「各艦の被害は、軽微です。再集結後、ただちに戦闘可能です。」

「タッチダウンした戦艦のエネルギー反応は急激に減衰しています。転換炉の出力が低下しつつあると思われます。」

「ふん、転換炉がオーバーヒートして、緊急停止しているのか。

 よし、艦隊再集結。決戦の用意だ。」

 ハヤマ艦長が指示を出した。

 

「あ、艦長。

 敵艦隊からトレスポンダーが発信されています。

 いずれも、奴隷商人の船からです。船名は、ネバーランド号、パラべラム号、・・・・」

「それは記録しておくだけでいい。ヤツラに何が起こったのだ?」

「トレスポンダーを発信した船が、敵艦隊から離脱していきます。

 つぎつぎに、超光速跳躍していきました。」

「よし、状況を総司令部に報告。彼らの捕獲は総司令部で手配してもらおう。

 ついに、奴隷商人が逃げ出したか。

 ヤツラは、もはや勝負はついたとみた訳だな。」

 

 パラべラム号と聞いて、茉莉香は貴賓席から身を乗り出した。

そして、戦場から無事に離脱したと聞いて、ひと安心した。

 

「う~~~~~~。」

 しかし、そう言って、茉莉香は、じりじりとした焦りの声を出した。

 

 『宇宙空間の戦闘が、弁天丸の出番も無いまま、本当にこれで終わってしまうなんて、許せない!』

 

これが茉莉香の本音だった。

もちろん、この後、アルファ4を占領するために行われる地上戦に弁天丸の出番はないのは、分かり切っていた。

 

 30分後、選抜軍約1000隻と敵のマンチュリア軍約400隻がアルファ4の衛星軌道上で対峙した。

 敵軍は、最初は500隻だったが、すでに100隻ほどが逃げ出している。数の上でも、個々の戦艦等の武力・防御力のレベルから言っても、もはや勝敗は明らかだった。  帝国軍とヒガン共和国軍の選抜部隊は、強力な新鋭艦ぞろいだったからだ。

グランドマザーの出番すら無い雰囲気だった。

「私の名前で、ヤツラに降伏勧告をしろ。」

「了解。降伏勧告をします。」

 

 五分ほど時間が経過した。

「艦長、応答がありません。」

「ええ? なんだ、あいつらは。

 降伏勧告に返事もしないし、そうかと言って、これ以上接近もしてこないし、自ら撃っても来ないぞ。まるで、こっちから撃つのを、並んで待っているようだ。

 本当に、そんなつもりなのかなぁ?

 ・・・・・・

 しかし、困ったなあ。

 この戦いの様子はテレビ中継されているから、無抵抗の敵を撃ち落とすようなシーンはカッコ悪くて見せたくないし、本当にやりにくいよ。」

 ハヤマ艦長兼選抜軍司令官は、ぼやいた。

 銀河テレビがこの戦いの様子を生中継しているからだ。さすがに戦闘中のブリッジではテレビの取材は認められなかったが、別室でモニターを見ながら、中継していた。

 

「う~~~~~~。」

 茉莉香は、近くで誰かが同じようにじりじりとした焦りの声を出すのを聞いた。

振り返ると、チアキが同じようにストレスのたまった顔をしていた。

「チアキちゃん、なんか黙って見てるのが、辛くなってきたよねえ。」

 茉莉香が言いい、チアキと顔を見合わせた。

 

 そして、意を決した茉莉香が言った。

「司令官。進言があります。」

「なんだ、言ってみろ。茉莉香。」

「はい、重力兵器を使った戦艦が敵の司令船と思われます。これに対して弁天丸で強襲攻撃をして、占領したいと思います。

 そうすれば、他の船も降伏するでしょう。」

「白兵戦をやる気なのか?」

「はい。そうです。」

「私も行きます。茉莉香ひとりで行かせるわけにはいかないし、私の船も行けば、敵艦隊の前を横切らず、弁天丸と一緒に時空トンネルで一気に敵艦に突っ込めますから。」

 チアキが言った。

「チアキちゃん、良いの?」

「もうこれ以上、ネコかぶっていられないわよ。我慢の限界よ。」

「大丈夫か?」

「大丈夫です。」

 茉莉香が答えたが、ハヤマ艦長は秘書官のギルバートやスカーレットの方を見ていた。

二人が、微笑んでいるのを見て、ハヤマ司令官は答えた。

「よし、出撃を許可する。

 ただし、白兵戦はギルバートとスカーレットの指示に従うこと。

 姫様、よろしいですね。」

「わかってるわよ。罠にかかった失敗は繰り返さないわよ。」

 チアキが答えた。

 

 チアキは、「罠にかかった失敗」つまり、公爵の反乱の際に、旧ステーションに白兵戦を仕掛けて、逆に罠にかかって犠牲者を出したことを自ら口にした。

「茉莉香さん、チアキ様。ご武運をお祈りします。」

 グリューエルが言った。

「ありがとうね。さあ、茉莉香、行こう。」

「さぁーーーっ。海賊の時間だぁ!」

 

 そう言って、二人は、ブリッジを後にして、グランドマザーの艦内をそれぞれの愛機に向かって駆け出した。

もちろん、ギルバートとスカーレット、その他大勢の軍人たちが続いた。他のメンバーは実は帝国海賊の白兵戦部隊だった。

 

その時、一人の男が追いかけてきた。

「あのう、同行取材させてください。」

 銀河テレビのディレクターが追いかけてきた。スージーを始めとするテレビのクルーも、その後から必死に追いかけてきた。

「何を言ってるの、命懸けよ。」

チアキが咎めたが、ディレクターも引き下がらない。

 

 『娘海賊の立ち回り! 

 しかも、出演は、キャプテン茉莉香とチアキ姫!

 この遠征で、これ以上素晴らしい映像は無い!』

 と、彼は思っていたからだ。

 

「私たち、マスコミの人間も命知らずですから。海賊以上に・・・。」

「呆れたわ。どうなっても知らないから・・。 

でも、私の船はだめよ、王室機密や軍事機密が多いから。

 弁天丸が良いなら、そっちは構わないけど・・・。」

 チアキはそれ以上、咎めなかったので、ディレクターは同行が許されたと思ったようだ。テレビの取材陣は勝手に弁天丸に乗り込んでいった。

 

 やがて茉莉香とチアキの二人はグランドマザーの格納庫で、それぞれの船に搭乗するため、別れようとしていた。この時は、二人とも帝国軍の制服姿だった。

「茉莉香、以後の手順はブリッジから連絡するから。」

「了解。」

「あと、茉莉香は海賊の船長服に着替えて、白兵戦に出るんでしょ?」

 チアキが聞いた。

「もちろん、そのつもりだけど・・・。それが何か?」

「そうなの、ふーん。・・・フフフフ・・・。」

 チアキは、意味ありげに笑った。

 

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