宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

24 / 55
 茉莉香は、一騎打ちのため、敵戦艦栄光号へ乗り込むべく、弁天丸を発進させます。
ところが、テレビの取材クルーが勝手に弁天丸に乗り込んでいました。反発した茉莉香ですが、ディレクターのクラーク・ケントはミーサ始め、茉莉香やクルー達に次々とゴマをすって、居座ってしまいます。
 一方、チアキは、青いシルクの海賊服風の派手な衣装に着替えて、現れました。
 二人は、栄光号に乗り込んで一対一の一騎打ちをしようとしますが、その前に5人の兵が立ちはだかって、一騎打ちを申し込みます。
 これを受けて、弁天丸とローズアロー2号のクルー達が対戦します。
 茉莉香は、ギルバートの勝利に力付けられて、最後の決戦に望みます。今度こそ、本気の本気の「勝負」です。
 そして、二人は派手な衣装に身を包んで、敵の将軍二人が待つブリッジへ進みます。もちろん、銀河テレビがその勝負の様子をライブ中継・・・・。
 M-8801星団への遠征の最後の見せ場、二人の娘海賊の勝負がはじまります。

 


第二十一章 茉莉香とチアキ 華麗なる出撃

21-1 弁天丸ブリッジ(アルファ4衛星軌道上)

 

 茉莉香は、弁天丸の船長服に着替えて、弁天丸のブリッジに立った。

そして、直ちに言った。

「弁天丸、発進! やっと海賊の出番だよ。チアキちゃんの船に遅れないようにね。」

「了解。発進します。」

 弁天丸の新しい操舵手になった、ウイリー・モーガンが答えた。彼は、帝国軍を定年退官した大ベテランの船乗りであり、その名の通り、モーガン一族の人間だった。

 もちろん、今回の弁天丸にはギルバートも同行して、茉莉香の隣に座っている。

 

 グランドマザーの甲板上に浮上した弁天丸は、姿勢制御エンジンを噴射して、グランドマザーから離れつつあった。

 

やっと来た出番に緊張する茉莉香に、さっそく、ミーサが聞いた。

「あら、もう発進しちゃったのね。

ところで、ねえ茉莉香。テレビ局の取材をOKしたの? それとも彼らは密航者かしら。」

「ええ!? どういうこと? 取材の話は聞いていないわよ。」

 

 茉莉香が戸惑っているところへ、テレビ局のディレクターがブリッジへ乗り込んできた。

 しかし、彼は、いきなりミーサに向かって、名刺を差し出した。

「どうも、どうも、このたびは。よろしくお願します。

 いやーっ! グランドウッド先生、相変わらず御綺麗ですねえ。

 覚えて頂いておりますでしょうか。昔、銀河テレビの記者をしておりました、クラーク・ケントですよ。その節はお世話になりました。」

「ええ~~! まさか、あの『パーマン』が、あなたなの・・・・・。

 でも、あなた、出世して重役になったって噂を聞いていたけど・・・。」

「ええ、今は銀河テレビの代表取締役、副社長をしています。

しかし、今回の取材はとても重要で、しかも憧れのグランドウッド先生にまた会えると言うので、私が直接に乗り込んできました。ナハハハ・・・。

いやあ~~~。また、お会いできて、うれしいです。

おまけに、その後も私のことを気にかけて頂いていて、しかも、昔のあだ名までも覚えて頂いていて、本当に光栄です。

ハハハ・・・・。楽しい船旅になりそうですねぇ。

戦いが済んだら、お茶しませんかぁ・・・。お願いしますよ。」

「・・・・・。」

 彼の堂々としたゴマスリに、さすがのミーサも、あきれて何も言えなくなった。

 

 そして、ケントは、茉莉香に向かって名刺を差し出して、言った。

「銀河テレビの副社長をしております、クラーク・ケントです。今回の遠征の取材では、ディレクターを勤めさせて頂いております。

 急なご出陣で事前に了解を得るという訳にはいきませんでしたが、ぜひ、乗船と取材を認めて頂きたいと存じます。

私どもは、銀河のヒロイン、キャプテン茉莉香さんのカッコイイ映像をお届けしたいし、銀河系の視聴者のみなさんもそれを『早く、早く』と期待して待っております。

ですから、ぜひお願いします。」

「いやあ、その、いきなり言われても・・・。」

「モーガン中尉からも、薦めてくださいよ~~~。お願いしますよ~~~。

 お二人は『帝国軍の最強コンビ』と評判なのですから、今回の戦いでも、ぴたりと息の合ったところを見せて頂けるのでしょうねえ。期待していますよ。

きっと、視聴者のみなさんも喜ぶと思いますよ。」

これには、ギルバートも茉莉香も顔を見合わせて照れ笑いし、何も言えなかった。

 

ケントはこの後も、シュニッツアーには「サイボーグのボディに旧MZタイプの大型を使っているところがシブイ」とか、ルカには「眼帯をしている横顔が凛々しくて美しい。ぜひ水晶玉といっしょにアップで写させてほしい」とか、クーリエには「今回の遠征軍のでは最高級の美人なので、衣装やメイクはテレビ局で用意するから、メガネをはずして出演してほしい」とか、硬軟織り交ぜて、クルー全員にゴマをすってまわった。

このゴマスリ攻勢に対しては、クーリエですら、「イヤダ」と一言、返事するのが精いっぱいだった。

こうして、彼は、クルーが「無断乗船」と怒りたくなる気持ちを萎えさせてしまった。

 

「うう~~ん。もう出航してしまいましたし・・・仕方ないかなあ。」

 茉莉香が言った。

「ありがとうございます。」

 ケントは、茉莉香に礼を言うと、茉莉香だけに聞こえるように小声でささやいた。

「スージーには、いい加減にしろと言っておきますから・・・。船長さんは、戦いに集中してください。」

「???・・・」

 その時の茉莉香は、ケントのささやきが何を言っているのか、分かっていないようだった。

 

そうしているうちに、チアキから通信が来た。

 

「あ、始まるようですね。私たちはモニタールームに居ますから・・・。」

 そう言って、ケントはブリッジを出て行った。

 

「はあ~~~。やっと出て行ったか。やれやれ。

 でも、ねえ、ミーサ。あの人のあだ名は、どうして『パーマン』なの?」

「ああ、それはね。古典コミックに、『スーパーマン』と言う、昔は有名だった作品があったのよ。それで、そのヒーローの本名が、『クラーク・ケント』って言ったの。」

「同じ名前なのね。」

「そう。

でも、本人は昔からあんな調子で、女たちから見ると、スーパーマンの『ス』の字も似てない残念なヤツだったのよね。わかるでしょ。

 だから、スーパーマンのスを取って、『パーマン』って、あだ名がついたのよ。」

「それって、かなりキツイあだ名だよねえ。」

「いえいえ、その逆なのよ。

当の本人は、『あだ名がつくくらい、皆さんにイジッってもらえて、これはオイシイ』と喜んでいたそうよ。

 マッタク・・・。そのころから、こういう、どうしようもないヤツだったのよ。」

 ミーサは、辛辣な言葉を言いつつも、『でも憎めないヤツ』という笑顔であった。

「ナハハハ・・・」

 茉莉香は苦笑いをするしかなかった。

 

「それで、茉莉香。突撃の手順の打ち合わせなんだけど・・・」

チアキは、輝くようなシルクの青を基調にした海賊服を着て現れた。

通信モニター画面に映るチアキの姿を見て、茉莉香は驚いた。

「うわーーーあ! チアキちゃん、その海賊服、とっても素敵だよ。ほんと、キラキラしている。・・・」

「あら、そうかしら・・・。」

 

 チアキは、咄嗟にそう言って猫をかぶった。そして、微笑みを浮かべて目を逸らし、金貨の女神に似ていると言われる、美しい横顔を見せた。

チアキの衣装のデザインは、茉莉香と同じカリビアン・スタイルである。しかし、帽子のマークはドクロではなく金貨の女神の横顔のレリーフだった。上着はウエストがくびれて、若い女性らしい細身のスタイルを強調した大胆なカットが施され、さらに随所に華やかなフリルがつき、金ボタンや肩章、胸の金鎖まで、すべてのアクセサリーには本物の貴金属や宝石が輝いていた。もちろん、青のミニスカである。

 

この戦闘の取材では、画像だけがテレビ局にも提供されていたので、銀河テレビは、海賊服を着て笑顔でことばを交わす茉莉香とチアキの映像を交互にアップで生中継していた。

いよいよ、この遠征最大の見せ場が近づいてきた。視聴率は「うなぎのぼり」である。テレビ中継では、二人の艶やかな「娘海賊姿」を見ながら、スージーのレポートも熱が入っていた。

「弁天丸とローズアロー2号が出発しました。

そして、皆さんご覧ください。チアキ様とキャプテン茉莉香が、色鮮やかな海賊服にお召し替えになって、お出ましになりました。いま、お二人が言葉を交わし、打ち合わせがおこなわれているようです。

 お二人とも、光り輝いていますねえ。この美しい姿には、うっとりしますねえ。

 さあ、華麗なる出撃はもうすぐです。

この後も、銀河テレビは生中継でお送りします。

チャンネルはこのまま、銀河テレビです。 」

 

 

21-2 マンチュリア軍・戦艦「栄光号」艦内(アルファ4衛星軌道上)

 

 マンチュリア軍の戦艦、栄光号のブリッジでは、防衛軍総司令官兼栄光号艦長のキム大将が、銀河テレビの放送を見ながら、こう言っていた。

「姫様たちが、いよいよ、来るな。

 それにしても、こっちの誘いに乗ってわざわざ白兵戦を挑んでくるなんて、相当に自信があるのだろうなあ。

わが軍の王族にはそんな度胸のある者はいなかったが、さすが銀河聖王家だ。伝統に則って、常に兵の先頭に立つ気概を失っておらぬ。」

「そうですなあ。敵ながらあっぱれな姫様たちですなあ。」

 防衛軍副司令官兼栄光号副長のチョウ少将がそう言った。

「だから、本来なら、わが王族が姫様のお相手をすべきところだが、いまのわが軍ではそれはかなわない。

その代わり、総司令官である私がお相手することでお許しいただこう。

 お前ら、姫様に手出しをするんじゃないぞ。俺の相手だからな。」

 キム大将が言った。

「わかっていますよ。

では、私は、キャプテン茉莉香のお相手を勤めさせていただきますよ。

お前ら、キャプテン茉莉香に手出しをするんじゃないぞ。俺の相手だからな。」

チョウ少将が、それに加えて言った。

「へえーーい。」

 防護服に身を包んだ5人の軍人たちが、ニヤリと笑って答えた。

 キム将軍以下、7人の軍人は、マンチュリア軍の本物の軍人だった。彼らは皆、定年退官して予備役に編入されていた老人ばかりだった。

ただし、彼らは、軍の中でも現役時代から実力者と評価されていた者だった。その点が、乗員として栄光号に乗り込む若いクローン兵達とは、決定的に違っていた。

 

 その時、7人のマンチュリア軍人のうち、ブリッジで操舵手を勤める者が言った。

「弱い時空震です。敵船がタッチダウンしてくるものと思われます。」

「いよいよ来たか。ビームシールド展開せよ。」

「了解。」

 しかし、タッチダウン直後のローズアロー2号が次々に放った火球の炎が、ビームシールドを突きぬけて、栄光号の対空砲火や主砲を焼いた。

 たちまち、栄光号は火力を失い、攻撃ができなくなった。

 

「よ~し。敵の攻撃は止まったぞ。白兵戦部隊、出撃準備。

 強襲用のドッキング・ハンドを出して、敵艦に打ち込め。」

ローズアロー2号では、スカーレットが敵艦に乗り込むルートを確保しようと指示を出していた。

「弁天丸も負けるな。体当たりだ。いけーつ!」

 続いてタッチダウンした弁天丸では、シュニッツアーが強襲の指揮を執っていた。

 

やがて、ローズアロー2号は栄光号の左舷に取りついて、弁天丸は右舷に体当たりして、ともに強制的にドッキングを果たした。

 

 栄光号のブリッジでは、キム大将が最後の指示を出そうとしている。

「なんだ、今の攻撃は?

 ビームシールドを簡単に突き抜けて、撃ってきたじゃないか。

 人工時空震も、デブリ攻撃も、帝国軍に簡単にかわされたし、白兵戦もあっという間に船に取りつかれたか。

やはり、機械兵器の力では帝国軍にかなわないか・・・、残念だが。

 だが、人間の力では負けないぞ。

 最後に、我々、マンチュリア軍人の意地を見せてやる。

 さあ、モノども、行くぞ。」

「おう! まず、われら5人が出撃します。将軍、ご武運をお祈りします。」

「ああ、お前たちの武運も祈るぞ。

俺たち二人は、ブリッジで姫様たちが来るのを待つ。

さあ、最後の決戦だ。」

「おう!」

 

 白兵戦に応戦するのは、司令官も含め7人の軍人だけだった。

 というのも、大勢のクローン兵は、船を動かすためだけの役割で栄光号に乗船しているからである。それは、マンチュリア軍は、反乱を警戒してクローン兵には武器を持たせず、近接戦闘の訓練もしていないためだった。

 

 キム司令官は、5人がブリッジから出ていくのを見送った後に、チョウ副司令官に言った。

「さあ。私たちも着替えようか。

姫様たちは、派手な衣装に着替えてやってくるからな。

 こっちも、衣装でも負けないように、正装でお出迎えしよう。」

「承知しました。あなたなら、そう仰るだろうと思ってましたよ。ハハハ・・・」

「ハハハ・・・・。」

 2人の軍人は、妙に明るく笑った。

 

 

21-3 ローズアロー2号ブリッジ(アルファ4衛星軌道上)

 

 ローズアロー2号ブリッジでは、艦長のソフィア・クキが白兵戦に備えて艦内に指示を出していた。

ソフィア艦長は、そのファミリーネームの示す通り、帝国海賊クキ一族の人であるが、帝国軍でも有名な実力派女性艦長だった。ハヤマ准将より先輩にもかかわらず、あくまでも船乗りにこだわり司令部勤務を拒否し、階級は少佐のままだったが、女性士官からは「お母さん」と慕われていた。

「よーし、強襲用ドッキング・ハンドが敵艦をつかんだぞ。次は進入路の確保だ。」

「自走式進入路が、敵艦に穴をあけています。まもなく通路を確保します。」

「よし、後はまかせたぞ、スカーレット。間もなく、敵艦への通路が開く。気をつけろよ。」

「了解。」

 

「艦長、敵艦から通信が入ってきました。

 発、マンチュリア防衛軍総司令官、兼栄光号艦長、大将ビクトリア・キム、宛て、銀河帝国遠征軍副司令官、第二王女チアキ・ブルーローズ殿下。

 姫様宛に通信です。」

「ふう~~ん。初めて、軍人らしい奴が出てきたなあ。

 姫様、いかがいたしますか?」ソフィア艦長が言った。

「出るわよ、つないで。」

 チアキが言った。チアキは突入用の重装防護服を着ていたが、急いでこれを脱いで、海賊服を着て、帽子をかぶった。

「了解しました。映像が出ます。」

 やがて、正装の軍服を着た精悍な目つきをした老人がモニターに現れ、深々と一礼した。

「お初にお目にかかります。殿下。マンチュリア防衛軍総司令官のキムでございます。

 お願いの儀があって、参上いたしました。」

「キム総司令官。私がチアキだ。話を聞こう。」

「ありがたき幸せにございます。

それでは申し上げます。私は、王女殿下に一騎打ちを申し込みたいと存じます。

 もし私が勝てば、帝国は軍を引いていただきたい。そして、マンチュリアの民がこのニュー・アトランティス、私たちはこの惑星をそう呼んでおりますが、ニュー・アトランティスで静かに暮らすのをお認め下さい。

 万が一、私が敗れれば、全軍が降伏いたします。いかようにも御処断ください。

 いかがですかな。」

「キム総司令官、潔い申し出だが、疑問がある。

 王女である私に、そのような申し出をするならば、マンチュリアの王族が出てきてしかるべきであろう。なぜ出てこないのだ、理由を申してみよ。」

 チアキは、鋭く突っ込みを入れた。

 

二人の通信は、弁天丸はじめ帝国の軍艦、そして特別にテレビ局にも中継されていた。

『うわーっ、チアキちゃん。カッコイイ!

さすが、王女様。堂々としているわぁ・・。』

 中継を見ていた茉莉香も感心していた。

 

「ご指摘はごもっともでございます。

 大変に申し訳ないことでございますが、この星には、もはや我が王族はおりません。残った者の中では、私が最高位のものでございます。どうかお許しください。」

「どこかへ逃げたと申すのか。」

「失礼ながら、それ以上は申し上げられません。」

「なるほど。逃げたのだな。

 さらに言えば、お前たちの軍規では、生きて捕虜になることは認められず、自決を命じているはずではなかったのかな。あるいは、生き残ったように見える者も、自ら爆弾となって戦い続けることを命じられているのではないか。

 卿の言う『降伏』とは、帝国軍規に従った降伏ではなかろう。」

「殿下は、わが軍の軍規を良くご存知ですなあ。」

「事情は聴いておる。

それに、私は、既に海明星でお前たちの兵に命を狙われて戦ったので、お前たちのやり方は承知しておる。

 キム大将、私に一騎打ちを申し込むなら、この場で、兵たちに自決を禁じ、生体兵器としての洗脳を解除してみせよ。兵たちが、帝国軍規に沿った降伏をして、その後に帝国の市民として暮らせるようにせよ。」

 

「わが軍の戦い方を良くご存じで、恐れ入ります。

私は、もはや、そのような姑息なたくらみをするつもりは、ございませんでした。

ですが、せっかくの殿下の御言葉、承知いたしました。お疑いを晴らすためにも、殿下のおっしゃる通りの命令を全軍に出しましよう。」

 キム総司令官は、通信機に向かって言った。

「私は総司令官のキムだ。最後の司令を出すので、よく聞きなさい。

 兵に命ずる。これから行われる王女殿下との一騎打ちに、私が負けた場合には、兵には自決を禁じ、生きて捕虜となるように命ずる。その後は帝国の指示に従って、帝国の市民として生きよ。

 特務員に命ずる。次のことばを復唱せよ。これは、諸君に与えられた命令をすべて解除するコマンドだ。そして、これから行われる王女殿下との一騎打ちに、私が負けた場合には、特務員も、兵と同じように、自決を禁じる。特務員は自爆攻撃を行わず、生きて捕虜となって、帝国の市民として生きよ。

さあ、これが、復唱することばだ。 

 『コギンコ、メセンメオ、オインコジョナ。』

 ・・・・・・

 いかがですか。殿下、信じて頂けますでしょうか。」

「了解した。

 これから、卿の船のブリッジに向かおう。待っておれ。

 ところで、キム総司令官、卿はなぜ白い軍服を着ているのか?」

「ハハハ、それは殿下が帝国軍の制服を着ていらっしゃらないのと同じ理由です。

 これでも、私は伊達男でございまして・・・。」

 

 帝国軍旗艦クイーン・オブ・パイレーツでは、チアキとキム総司令官のやり取りを聞いていた女王が、ヤマシタ参謀総長に聞いた、

「キム将軍の言葉は、信じられると思うか?」

「信じられると思います。理由は、彼も軍人だからです。

 陛下、彼の白い軍服をご覧ください。帝国軍規では戦場であの白い軍服を着る時は、いかなる場合か、陛下も御存じでしょう。

あれは、軍人にとって古代から万国共通のルールです。」

「死に装束だと言うのか。」

「はい。」

 

 栄光号のブリッジでは、キム総司令官が話を続けていた。

「それから、殿下。わが軍の副司令官からもお願いがあります。

 防衛軍副司令官のチョウ少将が、加藤茉莉香大佐に一騎打ちを申し込みたいと言っております。お許しください。

 それから念のために申しあげますと、艦内では私の5人の部下が、殿下の部下のお相手をすべく控えております。しかし、彼らには殿下とキャプテン茉莉香はブリッジにお通しするように申し付けておりますので、ご承知おきください。」

 

「うわーー!!!? 私にも一騎打ち? いきなり、そんなこと!」

 突然に飛び出た話に驚いた茉莉香だったが、次の瞬間こう言った。

「面白いじゃないの。海賊を甘く見るんじゃないわよ。

 チアキちゃん一人じゃ、行かせられないから、ちょうどいいわよ。

 さあーー! キャプテン茉莉香の出番よ!」

 

 茉莉香は、チアキの通信に割り込んだ。

 弁天丸船長の制服を着た加藤茉莉香の姿が、モニターに移った

「キム総司令官。加藤茉莉香です。

 チョウ副司令官はいらっしゃいますか?」

「私が、副司令官グレート・チョウです。」

 太った大男で白髪の優しい目をした老人が、やはり白い軍服を着て、モニターに現れた。

「加藤茉莉香です。一騎打ちの申し出、お受けいたします。」

「ほう、ほう、即答ですねえ。さすが決断が速いですね。

銀河系でも高名なあなたと勝負ができて、光栄です。」

 チョウ副司令官は、笑顔を浮かべて答えた。

「それでは、栄光号のブリッジでお待ち申し上げております。」

 キム総司令官が、モニター画面の向こうで深々と一礼し、通信は切れた。

 

 

21-4 戦艦栄光号艦内(アルファ4衛星軌道上)

 

 弁天丸の出撃用ハッチ前では、重装防護服を着た茉莉香、ギルバート、シュニッツアー、それに海賊や帝国軍の兵士たちが突入の合図を待っていた。帝国軍と言っても、実際は、帝国海賊としてのモーガン家一族のメンバーである。

「船長、与圧確認。ハッチは間もなく開きます。」

 ハッチが開いた。

「ようし、突撃。さあー、海賊の時間だぁーーー!」

 茉莉香が叫んだ。

 

 茉莉香以下弁天丸と帝国軍の一団とそれに続くテレビ局のスタッフは、マンチュリア軍の戦艦栄光号の艦内に侵入した。

艦内では、ブリッジまで続く廊下の先に、防護服を着た三人の老人の兵士が待っていた。

「キャプテン茉莉香。ようこそ、栄光号へ。さあ、お先にブリッジへどうぞ。」

「そうはいかなわよ。降伏しなさい。もう勝敗は明らかでしょう。」

「失礼ながら、武人としての勝敗はまだついておりません。兵器を使う軍人としては銀河帝国には及びませんでしたが、生身の武人としては我々の方が負けてはいないことをお示ししたい。

 我々も、一騎打ちを申し込む。

 武器は、剣のみ。ブラスターなど、武人の命を懸けるものではありません。」

 そう言って、三人の軍人は自分のブラスターを放り投げた。

「何、アナクロなことを言っているの・・・」

 その時、茉莉香の話を遮って、シュニッツアーが言った。

「いいだろう。受けてやる。」

「でも、サイボーグのあなたが出るのは、反則かも・・・。」

 そうつぶやいて、茉莉香は苦笑いした。

「わかっている・・・。弁天丸からは、おい、サブロー。お前が出ろ。」

 シュニッツアーも苦笑いをしながらそう言って、更にギルバート・モーガンの方を見た。

「では、一族からは、私と、そして、アーサーに出てもらおう。いいかな。」

「若! なにも、ご自分が・・・。」

 ギルバートのそばに控えていた老人が言った。

「このあと、加藤大佐が一騎打ちに臨まれるのに、私が何もしない訳にはいきませんよ。」

「フフフ・・・、名門の御子息とお見受けしたが、良い覚悟だ。

 いざ、勝負。」

「おう!」

 この後、六人は互いに名乗り会って、一騎打ちに臨んだ。

 

「みなさん、スージー・リットンです。銀河テレビでは、白兵戦の様子をライブでお届けしています。

 キャプテン茉莉香とチアキ様の一騎打ちが始まる前に、ブリッジに通じる廊下でも白兵戦が始まろうとしています。

 私、白兵戦と言うと激しい銃の打ち合いを想像していたのですが、なんと3対3の一騎打ちになりました。しかも、古代の戦闘のように、剣だけの勝負です。

 私たちの乗った弁天丸側は、弁天丸と帝国軍から合計3人の剣士がでました。

 なお、この放送はライブ中継ですが、放送コードに触れる恐れのあるショッキングな映像は、皆さんにお届けできないかもしれませんので、ご了承ください。」

 

 スージーのアナウンスの声はいつもと変わりがなかったが、内心はギルバート・モーガンが自分から一騎打ちに出ると言い出したことに驚愕していた。

『高級士官なのに、最前線に自ら進んで出るなんて、そんなバカな。テレビ局じゃ考えられない・・・。

 いや、うちの局にも、そんなバカが一人いた。・・・あのパーマン副社長・・・』

 そう思った、次の瞬間、スージーは、ギルバートに何かあったらどうしようかと、心配で、心配で、胸が張り裂けそうになった。

 

 一騎打ちの勝負で、最初に動いたのは、弁天丸のサブローだった。

 サブローは床すれすれに長い剣を低く構え、唸り声をあげて、そのまま全力で突進した。そして間合いに入る瞬間に剣を少し起こし、突進の勢いのままに、敵の防護服に剣を突き刺した。

敵の軍人も熟練の業でサブローの剣を払おうとしたが、低く構えたサブローの剣はその相手の剣の力に負けずに、防護服の腹を貫いた。

 腹に剣を刺されたままの老人は、廊下に寄りかかりながら床に座りこみ、ヘルメットを外して、こう言った。

「・・・集団戦用の剣技か。狭い船内の白兵戦では依然として有効な技だなぁ。薙ぎ払ったが払いきれず、力負けしたぞ。

おい、サブローとやら、見事だぞ。・・・」

 

 続いて、アーサー・モーガンが刀を交えた。

カン、カン、カンと剣を打ち合う音が響き、互いが技を繰り出して、攻守がめまぐるしく入れ替わった。二人とも、熟練の剣士だ。

 だが、次第にアーサーの剣の勢いが勝ってきた。アーサーの剣を受けながら、敵の剣士が後退する場面が多くなり、やがてアーサーの一撃が敵の剣士の手から剣を弾き飛ばした。

「私の勝ちだな。」

 敵の剣士の喉に、剣を突きつけながら、アーサーが言った。

 

「では、私たちの番ですね。」

 ギルバートが言った。

 カン、カン、カンと剣を打ち合う音は、先ほどの二人よりずいぶん激しい。攻守の切り替えもさらに目まぐるしく、二人は激しく動き回っていた。敵も強いことが誰の目にもわかる。

 

 ギルバートの激しい戦いぶりを見ていたスージーは、心配で、心配で、仕方がなかった。

『この人は、どうして、こんな命懸けのことを平然とやっているのだろうか・・・。

こんなに私を心配させるようなことは、すぐにやめてほしい・・・。

そうだ。私と結婚したら、ギルバートさんには帝国軍なんかさっさと辞めてもらって、お父様の銀行に入ってもらうわ。

それが結婚の条件よ。決めたわ。そうしましょう。』

 

 スージーがそう思っている時、ディレクターのケントがスージーに言った。

「スージー、怖がってばかりいないで、キャプテン茉莉香の顔を見てみろ。

 あの笑顔。ギルバートの勝利を微塵も疑っていないぜ。

むしろ、これからギルバートが何をやるか、楽しみにしているように見えるぜ。」

 ケントの言うとおりだった。

スージーの目からは、茉莉香はまるで恋人を見つめるような、うるんだ目と表情で、ギルバートの戦いを見つめているように感じられた。

いや、茉莉香だけではない。他の弁天丸の海賊や帝国軍の兵士たちも、少し笑みを浮かべて、ギルバートの戦いぶりを見ているように、スージーには感じられた。

 

 やがて、敵の剣士の背中が廊下の壁に突き当たり動きが止まった瞬間、激しい気合いと共に、ギルバートの剣が振り下ろされた。

 ギルバートの剣は、自分の身をかばうために打ち返してきた相手の剣を割り、さらに防護服のヘルメットを叩き割った。ヘルメットの透明なプラスティックは大粒の透明な塊に分かれて飛び散った。

 

「うわ~~!人の頭をぶち割るなんて・・・!!」

スージーには、ヘルメットを割ったギルバートの剣が、そのまま敵の剣士の頭を貫いたように思われた。このため、彼女は思わず目を閉じた。

 

たが、ギルバートの剣は、敵の剣士の額の上で寸止めされていた。

「私の勝ちですね。」

 ギルバートがそう言うと、敵の剣士は闘志が抜けて床に座り込んだ。

『カブト割り』の秘技だった。

防護服のヘルメットは、強化プラスチックで出来ており、古式銃の銃弾でも貫通できないと言われる程に硬いものだが、見事に叩き割られている。

ギルバートは、真っ先に茉莉香の方を振り返って、茉莉香の目を見た。

茉莉香もギルバートの目を見ると、肯いた。

『勝ちましたよ。』

『おめでとう。次は、私の出番だよ。』

 二人は目と目でそういう言葉を交わしているように見えた。

 そういう二人を、周りの海賊たちは笑顔で見守っていた。

 

 しかし、スージーは、呆然と二人を見ていた。

『この二人の雰囲気は何!? この二人は何者なの!?』

 

その時、ディレクターのケントがスージーに言った。

「こら! ポカンと見とれていないで、レポートしろ。勝ったんだぞ、帝国軍が。」

 スージーはハッとして、マイクを持ち直し、口を開いた。

「スージー・リットンです。

みなさん、ごらんなりましたか。一騎打ちは、弁天丸の勝利に終わりました。

それにしても、強いですねえ。・・・・」

「今、連絡がありました。あちらでは、姫様の部隊の一騎打ちも始まるようです・・・。

中継を切り替え、私もそちらに向かいます・・・・。」

 

 ローズアロー2号の白兵戦部隊が侵入した反対側の廊下では、マンチュリア軍の老兵士2人と、チアキ、スカーレットを始めとする帝国軍の兵士たち数人が対峙していた。

 

「あちらは、勝負が付いたようですね。こちらも始めましょう。

 私たちは、ブラスターも剣も使いません。ただこれだけです。」

そう言って、マンチュリアの二人の老兵士は、名乗りを上げて、剣もブラスターも投げ捨てて、さらに防護服を脱いで、両手を構えファイティングポーズをとった。

「良いだろう、受けてやろう。私と、ブブカがお相手する」

 スカーレットが言った。ブブカは、2メートルを超える大男で、手足が太く長く、いかにも力持ちという兵士である。二人も防護服を脱ぎ捨てた。

「ほう、大男だけでなく、お嬢がお相手して下さるか。なかなかの使い手とお見受けしていたので、対戦できるとはうれしい限りですなあ。」

「姫様の進まれる道を切り開くのが、私の務めですから・・・。」

「そうですか。姫様は、良い家臣をお持ちだ。」

「話が長いな・・。俺から行くぞ。」

 ブブカは、待ちきれずに、力任せに相手の兵士を捕まえようと突進した。

しかし、相手の兵士は身をかわしてブブカに小手投げをかけて、床に投げ飛ばした。そして、すかさずブブカの首を絞め始めた。

「いけない!」

スカーレットがブブカを助けに行こうと飛び出し、自分の相手から目を逸らした。

 その隙をチャンスと見たスカーレットの相手の兵士が、素早くスカーレットの後ろから忍び寄った。

「キエーーい!」

 兵士がスカーレットの間合いに入ったその時に、気合の掛け声とともに、スカーレットの後ろ回し蹴りがさく裂した。兵士は、勢いよく飛び込んできたところに頭部をけられたので、吹っ飛ばされて、通路の壁に崩れ落ちた。

 スカーレットはそのままブブカの応援に向かおうと近づいたが、首を絞められ倒れているはずのブブカが、片手をあげてスカーレットを制した。

 ブブカは、首を締め上げている相手の兵士をぶら下げたまま起き上がり、逆に兵士の首と足を両手でつかんで、肩の上で背骨を反り上げ始めた。

 相手が両手を離し、うめき声をあげはじめたので、ブブカは力を緩め、相手の兵士を床に投げ捨てた。

「お嬢。私に助けなど不要です。」

 ブブカは、そう言ってニヤリと笑った。

 

「スカーレットさんの後ろ回し蹴り、目にも止まらない速さ。すごい大技でしたねえ。たまらず、敵の兵士が吹っ飛びました。

大男のブブカさんの力技もすごかったですねえ。

 こちらも、あっという間に帝国軍の勝利です。」

 スージーが興奮してアナウンスをしている。

 

「さあ、決闘が終わり、姫様たちがブリッジへ進む道が切り開かれました。

いよいよ、最後の最後、娘海賊の出番です。姫様たちの華麗なる出撃まであと少しです。

 チャンネルはこのまま。銀河テレビです。」

 

 スージーが中継コメントを終わってホッとしたその時、ディレクターであるクラーク・ケントが言った。

「コラ! スージー。ボヤボヤするな。

われわれは、姫様たちより先に、ブリッジに行くぞ。」

「え!? 危ないんじゃないですかぁ? あそこは、まだ敵の支配区域でしょう?」

「何を言っているんだ。ここが勝負どころだ。

先に、ブリッジに入ってカメラを構えていないと、姫様たちが華麗な衣装でブリッジに登場されるという今日一番の見せ場の映像が取れないからな。」

「そんな・・・、武器も持たずに突入するなんて・・・」

「オレの武器はこれだ。」

クラーク・ケントは、自分の名刺入れを振りかざした。

「そんな・・・・。海賊よりも危ないことをするんですかぁ。」

「わかってるだろう!?

 テレビ局は、放送の為なら、何でもするんだ。海賊以上に命知らずなんだぞ。

さあ、行くぞ!」

 

 

21-5 戦艦栄光号ブリッジ(アルファ4衛星軌道上)

 

 チアキと茉莉香は、防護服を脱いで、色鮮やかな海賊衣装に着替え、栄光号のブリッジ入り口のドアに近づいた。

 二人は、顔を見合わせて、微笑した。先ほどの一騎打ちの気合から力をもらったためか、チアキも茉莉香も、緊張感が心地よかった。

「私たち、ここまで一緒に来たね。」チアキが言った。

「これからも、一緒だよ。」茉莉香が言った。

 二人はドアの前に立って並んだ。

「さあー、海賊の出番だ~~~。」

 

 ドアが開くと、強いスポットライトが二人を照らした。テレビ局のクルーがライトをつけている。もちろん、二人の衣装を色鮮やかに写して放送するためだ。

 銀河テレビの中継は、ドアが開いて、派手な海賊衣装に身を包んだ二人の美少女が、ブリッジに登場する瞬間を、色鮮やかに写しだした。

 

 チアキも茉莉香も、緊張感を持ちつつ、かすかな微笑を浮かべているように見えた。

そして、二人はまるで光のオーラに包まれているように感じられた。二人の衣装に着けられた黄金の飾りや宝石が、そして、青や黒のシルクの生地が、光に照らされて、まばゆい光を放ち、二人を包む空間自体も輝いているように感じられた。

『まあ、きれいー!』

『茉莉香様ぁーーー!』

『チアキ様ぁーーー!』

 テレビの向こうでは、何百万人の人々がこう言って、うっとりし、そして歓声を上げていることだろう。

 

「お待たせしました。」

 茉莉香が一礼しつつ言った。

「姫様、栄光号のブリッジにお越しいただき、光栄に存じます。」

 今度は、総司令官の大将ビクトリア・キムと副司令官の少将グレート・チョウが、チアキに向かって深々と一礼した。

 そう言われて初めて、チアキはうなずくように顔を少し傾けて、礼に答えた。王族としての作法通りである。

 

「では、さっそく、最後の決戦を始めさせていただきます。

まずは、私から。キャプテン茉莉香、参る。」

「望むところです。」

 実際に剣を構えたチョウ将軍は、太った大男というテレビで見た印象とは違っていた。腹はデブで太いが、筋肉がついた手足の太さは本物だった。

 チョウは、ニコニコと笑みを浮かべながら、鋭く剣を打ち込んできた。その打撃の強さ、剣を振る速さに、茉莉香はじりじりと後退させられた。

 壁際近くまで後退した茉莉香は、チョウの剣とつばぜり合いをしながら、体を入れ替えて態勢を立て直すため、左に回り込もうとした。

 それを好機と見たチョウは、茉莉香への圧力を強め、前へ突進しようとした。

 その時、茉莉香が、自分の足でチョウの足を払った。総合格闘技の足払いの技だ。

不意を突かれたチョウは、足を高々と宙に浮かせてしまうほどに見事に投げ飛ばされて、ベタンと床に倒れてしまった。

その隙に、茉莉香は腰の拳銃を抜いて、チョウの頭に銃口を押し付けた。

「私の勝ちと言うことで、よろしいですね。」

 茉莉香は言った。

 負けを認めて床に座り込みながらも、まだニコニコ笑っているチョウの顔を見ながら、キム将軍は言った。

「相変わらず、そそっかしい奴だな。ルールも決めずに突っかかるなんて。

おまけに、その派手な負けっぷりは、まるで海賊ショーだな。情けない。」

「そこまで言うことはないだろう。ひどいなあ。」

「何を言うか。

やっぱり、お前は、トレーニングして痩せろという俺のアドバイスを無視しているから、いざと言う時に、足払いでひっくり返る羽目になるんだ。

わかったか、親友の忠告には耳を傾けるものだぞ。」

そういうキム将軍の顔も、ニコニコ笑っていた。

 

「では、姫様、参ります。私は剣のみで勝負を挑みます。」

 キム将軍は、鋭く剣を振りまわして、チアキに迫ってきた。チアキも防戦しつつも、反撃の機会を窺っている。

 やがて、チアキは、フェイントでキム将軍の剣をかわすと、反撃に転じた。激しく切り込んでキム将軍を追い詰めた。

二人の剣がぶつかり合い、激しい音をたてている。

 

そのさなかに、不意に、キム将軍が語りだした。

「楽しいですなあ。実に楽しい。

姫様が剣をふるうお姿を拝見していると、自分の若いころの話を思い出して、あのころの楽しい思い出がよみがえります。」

「卿は、いきなり何を言い出すのだ。」

 チアキとキム将軍は剣を交わしながら、言葉も交わし始めた。

 

 その時、テレビ撮影を指示していたクラーク・ケントが、カメラマンに言った。

「音声は放送されていないよな?」

「はい。カットされています。」

「ならば、姫様の画像がテレビに写るように追いかけろ。

視聴者は姫様のお姿が見たいのだ。敵役の将軍なんか後ろ姿で写せば良い。老人の顔や口元を写しても仕方がない。」

クラーク・ケントは、急にカメラマンに指示を出した。

もちろん、その真意が、キム将軍の唇を読まれて、その話が視聴者に理解されることを防ぐことだと、カメラマンにもわかった。

「はい。承知しました。」

 

「私たちは、若いころに海賊船に乗っていたことがありましてねえ。」

「ほう、アメージーグ族の海賊船か。」

「ハハハ・・・もう忘れましたなぁ。

その船の船長は、実に勇敢な男でしたが、その船の副長が、また飛び切りの美しい女海賊でした。

しかも、副長は、剣を抜けば、どんな男にも負けないくらい強かったし、船の運航や戦いに関する船長への進言も、あの若さにもかかわらず、どこで経験を積んできたのかと驚くほど、的確でしたなあ。本当に賢い方でした。」

「その船の名はなんというのだ。」

「忘れましたなあ。ずいぶん昔のことですからなあ。

なにせ、あの頃の私たちは、ただの下級船員でして、毎日毎日、大酒を飲んでは大騒ぎして、ケンカして、思いっきりバカをやっていましたから・・・・。

楽しかったと言うことしか、覚えておりませんなあ。 ハハハ・・・・」

「嘘を申すな。船長の名はなんという。副長の名は何というのか?」

「忘れましたなあ。

 でも、船長と副長が並び立ったお姿は、絵のように美しかったので、心に焼き付いております。とりわけ、美しい副長は私たち下級船員の憧れでした。

それにしても、副長にはよく怒られ、殴られ、蹴飛ばされたりもしましたなあ。

なにせ私たちは、酔い潰れると、すぐにブリッジでも廊下でも所構わず、寝てしまいましたからなあ。

『目を覚ませ!』、

『寝るなら船員室で寝ろ!』とねえ。

 ハッハッハ・・・・。」

「そんなに大切な思い出ならば、船の名も、船長の名も、副長の名も、忘れるはずはなかろう。この大嘘つき!」

 キム将軍の話にいらだったチアキは、そう言って剣を振りかざし、将軍の剣に向かって渾身の一撃をたたきつけた。

 

キーン!

 

 チアキの一撃で、キム将軍の剣が、彼の手から弾き飛ばされた。

「私の負けですなあ。

もう握力が無くなっていました。恐れ入りました。」

 そう言ってキム将軍は痺れた手を振りながら、チョウ将軍の横に並んでブリッジの壁際に座り込んだ。

 

「チアキちゃん~~~~!! 勝ったよ。勝ったんだよ、私たち。」

それまでのチアキとキム将軍の勝負を緊張して見守っていた茉莉香は、そう言って、すぐに駆け寄って、チアキにしがみついた。

「茉莉香、勝ったね・・・・。私たち、勝ったね。」

 チアキも茉莉香を受けとめ、二人は抱き合った。

 それまでの緊張が解け、二人は涙を流していた。

 

「皆様、ご覧下さい。華麗なる出撃が、いま、勝利の栄光で幕を閉じました。

 チアキ様とキャプテン茉莉香が、決闘に勝ちました。

 ご覧のように、チアキ様とキャプテン茉莉香は、しっかりと抱き合い、勝利を喜び合っています。

 これでマンチュリア軍は降伏し、戦いは終わるでしょう。

銀河帝国とヒガン共和国の勝利です。

しかも、お二人の命懸けの戦いのおかげで、敵の大勢の兵士が命を救われました。

何と、素晴らしいことでしょう・・・・」

 スージーのアナウンスは、最高潮だった。

 

 テレビの中継の外では、喜び合うチアキと茉莉香を見ながらブリッジの壁にもたれて座っていたキム将軍とチョウ将軍が話し始めた。

「うまくいきましたなあ。」

「ああ、予想以上だ。時間も稼いだし、兵士の犬死は防いだし、娘海賊と楽しく一戦交えたし・・。」

「これから、どうしますか?」

「決まっているだろう。我らの『副長』がたたき起こしてくれるまで、眠ろう。」

「そうですなあ。あの怒鳴り声をまた聞きたいですなあ。それに、船長にも、またお会いできますよ。フォフォフォ・・・・」

 そう言って、二人は、ポケットから取り出した錠剤を呑んで目を閉じた。

 

 テレビ放送が終わった。

 まだ、茉莉香は、チアキにしがみついたままだった。

「茉莉香。いい加減に離れなさいよ。恥ずかしいじゃないの。」

 チアキが、感激の涙の余韻が残る声で言った。

 しかし、茉莉香は離れなかった。

 茉莉香は、これほどまでの本気の戦いを経験したことは無かった。それだけに、興奮が収まらず、涙があふれて止まらなかったからだ。

「チアキちゃん、・・・ううう。」

「もう、しょうがないなあ、茉莉香は。良いわよ、・・・泣きなさい。」

「うん、一緒にね。」

「何を言ってるの。私は泣いてなんか、いないわよ。私は。」

「また、また・・。」

「泣いてない!」

 茉莉香にしがみつかれたまま、チアキは叫んだ。

 

 その後、銀河帝国軍とヒガン共和国軍の共同部隊は、後に「ニュー・アトランティス」と改称される「惑星アルファ4」に地上戦用の部隊を降下させて、占領作戦を実施した。

 しかし、占領に当たって、逃げ遅れた奴隷商人たちがゲリラ戦を挑んで抵抗したため、地上部隊に相当数の死傷者が出た。

その後、星に残っていた被支配階級のマンチュリア人の協力もあり、地上戦は一週間で終わり、惑星の治安は回復に向かった。

 他方、支配階級のマンチュリア人は、全員、宇宙のどこかへ逃亡していた。

 こうして、銀河帝国史上最長の遠征、M-8801星団の包囲戦は終わった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。