宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編- 作:gonzakato
しかし、女王陛下が不審な行動を取り始めます。毎晩、惑星ライセに降り、しかも「朝帰り」です。
それは何故か? その背後には、女王が娘たちにも隠す秘密があるようです。
まだ船に帰って来ないサーシャに会うため、そして女王の秘密を探るため、チアキ、茉莉香、グリューエルの三人は、惑星ライセのレオニーニ家の屋敷に乗り込みます。
そこで三人を待っていたものは、同家伝統の「時間無制限の夕食会」。
三人は、銀河系中から集められた、レオニーニ家一族の、同じ年頃の男女と楽しく遊んでしまいます。
歌って、踊って、コスプレして、・・・・
さらに、茉莉香は、「白波五人娘」というタイトルの海賊ショーを演じます。
チアキもグリューエルも、・・・。
結局、三人は、銀河系中に、『友達百人』作ってしまいます。
22-1 帝国軍最高司令部(クイーン・オブ・パイレーツ艦上)
M-8801星団への遠征では、帝国軍の旗艦クイーン・オブ・パイレーツはヒガン星団の惑星ライセ衛星軌道上に留まり、M-8801星団自体への遠征作戦の指揮は、機動空母グランドマザーが担当した。
クイーン・オブ・パイレーツ上の帝国軍最高司令部では、M-8801星団の惑星α4の占領作戦が一段落したことを受けて、参謀本部のヤマシタ参謀総長から女王に今後の方針が説明された。
「M-8801星団における宇宙空間での戦闘は、完全に終結しました。
つづいて、M-8801星団遠征軍の本隊が、惑星α(アルファ)4に着陸し、マンチュリア人の本拠地、惑星α4の占領も完了しました。惑星α4の占領軍は、惑星の主要行政施設と、マンチュリア人の奴隷売買のもととなったクローン人間の生産・保育施設を押さえました。
現在は、占領地の民生を安定するため、当面の間、軍政を敷く準備をしております。
今後は、戦闘にかかわった部隊を順次帰還させて遠征軍の規模を縮小しつつ、惑星α4の占領行政にかかわる部隊と交代することにしております。そのため、すでに、帰還予定の将兵と船舶に対して、健康診断と検疫を始めております。」
「そうか。予想以上に順調だな。
それで、マンチュリアの王族を始めとする支配階級の人々の逃亡先は、わかったのか。」
「正確には、まだわかりません。
逃亡した宇宙船の出発が予想外に早い時期に行われたようで、時空震の航跡も探査することができませんでした。
ですが、α4に潜入して情報を探っていた海賊達によると、行き先はマゼラン星雲と聞いているそうです。」
「マゼラン星雲!? またずいぶん遠いところを選んだなあ。」
「はあ、銀河系内や近傍の星団では、銀河帝国の追及を逃れられないため、思い切って遠いところを目指したと聞いております。」
「アンドロメダと違って、われわれから遠ざかる銀河か。われわれから逃げるのには、好都合という訳か。
しかし、彼らは、そんな遠い目的地に、無事にたどり着けるのかなぁ。
彼らの航海技術は、銀河間の航海を可能にするほど進歩しているのか?」
「いえ。捕獲した彼らの軍艦を調査した結果では、進歩していると思えません。
実際に捕獲した彼らの船は、ヒガン星団のアメージーグ族から譲り受けた船と帝国内の船のスクラップを集めて作った船だけでした。
そのような手持ちの船だけで、銀河間の航海に出発したようです。」
「そうか。それほどまでに、帝国の攻撃を恐れていたのか。」
「そう思われます。
ですから、移民船の出発のために、クローン人間の眠っていたコールドスリープ・ベッドを、急いで空ける必要があったと思われます。
その結果、急に目覚めさせたクローン人間の処遇に困って、奴隷として売り出したと言うのが、奴隷売買のもう一つの理由だったという情報があります。」
「では、帝国での反軍ムードを醸す世論工作も、時間稼ぎだったという訳か。」
「そう思われます。
それに、被支配階級のマンチュリア人を置き去りにしたのは、船団を身軽にして出発を急ぐためだけでなく、置き去りにした被支配階級の人間を帝国に戦闘で殺害させて復讐するためだったという情報がございます。」
「どうして、それが復讐になるのだ。」
「恐れながら、聖王家のなかでも青薔薇家の始祖が、マンチュリア人の被支配階級の末裔であるテオドラ皇后様とされていることと関連があると存じます。」
「・・・・そういうことか。そんなことで優越感にひたっていたのか。悲しいことだ。
それから、チアキや茉莉香たちと一騎打ちをしたマンチュリア軍人七人の身元は分かったか?」
「はい。すでに全員自決して死亡しておりますが、こちらでございます。」
ヤマシタ参謀総長は、タブレット・ブックに情報を表示して、女王に手渡した。
『やっぱり、酔っぱらいのビクターとデブのグロチャンたちではないか。
アイツらも大人になって、どうやら、まともな軍人をやっていたのだなあ。フフフ・・・』
女王はそう思って微笑みを浮かべたが、すぐに笑顔を消して、ヤマシタ参謀総長に向かって命令した。
「この7人の情報は、第一級の王室機密とする。公式には身元不明ということでよかろう。」
『第一級の王室機密』とは、女王の許可がないと情報を閲覧できないことを意味している。
「承知いたしました。」
ヤマシタ参謀総長は、表情も変えずに、命令に従った。
「陛下、話は変わりますが、今日も、クリスティア様から、通信が参っております。
帝国の行政についてご報告と御決裁を頂きたいということですが・・・。」
「はあ・・・・」
女王の顔からは銀河帝国の最高権力者としての張りつめた緊張感が消え、いかにも気乗りがしないという表情で、銀河標準時の時刻表示を見て言った。
「もう執務時間は終了だ。明日聞くと言っておけ。私は、忙しいのだ。
発進準備は出来ておるか?」
「はい。いつもどおりです。」
今度は、参謀総長に代わって遠征に随行した副女官長が答えた。もちろん発進準備とは、女王の愛機ローズアロー1号のことを言っている。
「では、行ってくる。戻りはいつも通りかなあ。」
「承知いたしました。」
ヤマシタ参謀総長が答えた。
22-2 医務室(機動空母グランドマザー船内)
機動空母グランドマザーでも、帰還の準備が進んでいた。
その医務室では、連日、乗組員の健康診断と検疫のチェックが行われている。今日は、女性乗組員の診察日で、茉莉香、チアキとグリューエルも、診察を受けにきた。
「あれ~~。今日は、ミーサはいないんですかぁ。」
茉莉香が言った。
「グランドウッド先生は、今日は別の船に行って、地上戦での負傷者の治療に当たっておられます。代わりに私が来ましたので・・・。」
担当の医師は、若い男性だった。茉莉香はそれが少し意外で、少し恥ずかしかった。
「いや、その、あのう・・・弁天丸の船長として、単に、ミーサはどうしたのかなぁというだけでして・・・。」
茉莉香は、結果として若い医師に失礼なことを言ったことになると気が付いて、あわてて言い訳した。
「地上戦でのけが人が予想外に多くて、これまで治療に当たってきた医師の疲労も激しいので、艦隊全体から交代で応援の医師に来てもらっている状態です。できれば、帰還前に治療にめどをつけたいわけでして・・・。
申し遅れました。私は医師のアレクサンドル・ホワイトです。」
「どうも。加藤茉莉香です。・・・・。」
「では、さっそく、健康診断を始めさせていただきます。・・・・」
ホワイト医師は、身体の違和感はないかと簡単な質問をして、医療用センサーを茉莉香の腕や喉に当てた後に、古式の注射器を取り出して、言った。
「採血をさせて頂きます。」
『ええ~~! 今どき、こんな注射器を使うなんて、・・・』
と、茉莉香は思い、同時に全身から冷や汗が出てきた。
実は、茉莉香は、幼児の頃に海明星で受けた予防接種の注射が痛くて大泣きをしたことがあり、そのトラウマから今でも『注射』とか『注射器』が大嫌いだった。
ホワイト医師は、そんな茉莉香の気持ちには気付かないようで、茉莉香の腕を取って注射針を茉莉香の静脈目指して突き刺した。
「痛い!」
思わず、茉莉香は叫んだ。
「あ、ごめんなさい。外れてしまいましたね。もう一度、お願いします。」
ホワイト医師は、再度、茉莉香の腕を取って、注射針を突き刺した。
「痛い!」
「あ、またごめんなさい。また、外れてしまいましたね。もう一度、お願いします。」
ホワイト医師は、また茉莉香の腕を取って、三度目の注射針を静脈に突き刺した。既に茉莉香は、顔面蒼白の状況である。
「痛・・・・くなかったけど、今度は・・・。」
「はい、うまくいきましたね。何度もごめんなさい。・・・・
ご協力ありがとうございました。」
注射器の中には、茉莉香の赤い血液が入っていた。
「どうも~~~。 はあ~~~~。」
茉莉香は、冷や汗をたくさんかいて、ぐったりした様子で、医務室を出ていった。
「よろしくお願します。」
次に医務室に入ってきたのは、グリューエルだった。
ホワイト医師は、身体の違和感はないかと簡単な質問をして、医療用センサーをグリューエルの腕や喉に当てた後に、グリューエルの細い腕を見て言った。
「直接の採血は無理の様ですから、血液センサーを使わせていただきます。少し痛いかもしれませんが、傷も残りませんので・・・。」
ホワイト医師は、血液センサーをグリューエルの腕に当ててデータを取った。
「はい。終わりです。どうも。」
「フフフ、先生。
先生はまだ学生でいらっしゃるんですね?」
「ええ? どうして、姫様にはそんなことがわかりになるのですか?」
医師のいかにも驚いたという声に、周りの医療スタッフが笑いを必死でこらえていた。
「だって、注射の練習をなさりたがるのは、先生がまだ医学部の学生さんだからだと思いまして。」
「ははは・・・。さっきの加藤大佐の声が聞こえていましたか・・・。」
「いいえ。茉莉香さんの声は聞こえませんでしたが、いつも元気な方が、ぐったりした様子で出てきて、何も言わずに戻って行かれましたから・・・。フフフ」
「いやあ・・・。でも、私は、学生と言っても、医師免許も取っているし、帝国軍の遠征にも医師として随行させてもらったし、実務研修もあと一年で卒業なんですけどねえ・・。
それにしても、セレニティ家の姫様の御言葉は違いますねえ。
あなたは本当に優しい方ですねえ。
それに引き替え、この後にいらっしゃる青薔薇家の姫様なら、私のことを何と呼ぶか、想像がつきますからねえ。」
ホワイト医師の自虐的な発言に、また周りの医療スタッフが笑いを必死でこらえていた。
「やっぱり、チアキ様とお知り合いだったのですねえ。
これからは、私のことは、グリューエルとお呼びください。」
「はい、ありがとうございます。私のことは、アレックスとお呼びください。よろしくお願いします。」
「はい。こちらこそ、よろしくお願します。
さて、お話の姫様がお待ちのようですから、この辺で失礼しますわ。」
グリューエルは笑顔を浮かべて、医務室を出て行った。
続いて、チアキが入ってきた。
「よろしくお願します。
・・・・
というより、アレックス! あなた、やっちまったわねえ。
やぶ医者の本領発揮かぁ。キャハハハ・・・。
それも、よりによって茉莉香相手にねえ・・・。
茉莉香ったら、ぐったりして、何も言わないで戻って行ったわよ。」
チアキは、ポンポンとまくしたてるようにホワイト医師に言った。
もちろん、また、周りの医療スタッフが笑いを必死でこらえていた。
「いやあ・・・良いところを見せるはずだったんですが・・・。
ちょっと緊張してしまって・・・。」
「もう、ファースト・コンタクトの印象は、最悪ね。
せっかく、ミーサに代わってもらったのに、ダイナシ。
まあ、最初が最悪なら、このあとはこれ以上悪いことは起こらないと思って、希望を持ってがんばりましょうね。アレックス。」
「それ、私のことを励ましているんですかぁ。」
「あははは、そうよ。私って、結構、優しいのよ。」
そして、苦笑したホワイト医師は、手順通りの診察をしていった。
「ねえ、アレックス。私も注射の練習に付き合ってもいいわよ。やってごらんなさいよ。」
チアキが言った。
「ええ?あなたもですかあ?」
「アレックス、それは私の言うセリフでしょう。
茉莉香もやったんだし、私が協力しない訳に行かないでしょ。」
ホワイト医師は、古式の注射器を取り出して、チアキの腕に刺し、採血をした。
「あら、普通に出来るじゃないの。」
「あたりまえです。私だって医者です。」
二人のやり取りを聞いて、ついに、周りの医療スタッフが笑いをこらえきれず、吹き出した。その明るい笑い声から、ホワイト医師がなかなかの人気者であることがうかがえた。
22-3 王族用執務室(機動空母グランドマザー船内)
健康診断のあと、夕食を済ませたチアキとグリューエルは、グランドマザーの貴賓席の奥にある王族用の執務室でくつろいでいた。ここは、極めて高い水準の情報通信セキュリティ・システムが整備された部屋である。
「ねえ、茉莉香は?」
「少し休むと言って、ご自分の部屋に帰られましたわ。」
「そうかあ。本当に茉莉香は注射が苦手だったんだね。
アレックスに悪いことしたかなあ。
健康診断なら、ちょうどいい機会だと思ったんだけどねえ。」
「頼まれたのですか。」
「そう。遠征軍のなかにも茉莉香にふさわしい人がいるから、さりげなく引き合わせて欲しいってね。
茉莉香が、ギルバートさん一筋と決めているなら、私もこんなことは引き受けなかったんだけど・・・。」
「そうですね。
でも、こういう話は自然と落ち着くところへ落ち着くものですよ。お気になさらないように。」
「グリューエルは優しいね。
それはそうと、お約束の罰ゲームはどうしようか。」
「それなら、こんなアイデアはいかがでしょうか。茉莉香さんのためになると思いますが・・・・。」
「なるほど、それはいいねえ。もう少し詳しく教えて・・・。」
「はい、・・・・」
二人の密談は続いた。
「あ、姉さんから電話だ。」
「席を外しましょうか。」
「大丈夫。姉さんは、グリューエルのことをすごく信頼しているから。」
やがて、執務室のテレビ電話に、クリスティア王女の姿が現れた。
「やあ、チアキ。グリューエルも一緒かい。茉莉香はいないのかな?」
「ちょっとお部屋で休んでいらっしゃいます。」
グリューエルが答えた。
「そうか。
それで、早速だが、チアキ。電話したのは母上のことだ。」
「母上がどうか、されたのですかぁ。」
「それが、久しぶりに王宮を離れたせいか、このところ、すっかり羽を伸ばしているようだ。
夕方近くになって、帝国行政について私が決済を求めようとすると、
『私は忙しい』と言って、嫌がるのだ。
どうも、毎晩のように、惑星ライセのレオニーニ家の屋敷に降りて行って、レオニーニ家の女たちと遊んでいるらしい。」
「へえ~~~。」
「しかも、副女官長を問い詰めて分かったのだが、警備陣が深夜の帰艦は船の運航上危険が多いと言ったのを良いことに、堂々と『朝帰り』だ。」
「あははは~~~~~~~~~! 朝帰り! ああ、おかしい。
それでは、まるで『不良』ですね。」
チアキは、『朝帰り』と言う言葉に思いっきり吹き出してしまった。
「そうだろう。困った親だ。
だが、母上がレオニーニ家でそれほどまでに楽しい時間を過ごすことができるのは、なぜだろう。
なにか、事情があると思わないか。」
「そうですね。」
「それから、先日、チアキが一騎打ちで戦ったキム将軍たちの素性は知っているかな?」
「それは調査中と聞いていますが・・・。」
「いや。今日、調べさせたら、第一級の王室機密に指定されていた。」
「やっぱりそうですか。あの話は、まんざら嘘ではなかったのですね。」
「あの話とは?」
チアキは、一騎打ちの最中に、キム将軍が語ったことを話した。
「なるほどなぁ・・・。その『副長』が海賊時代の母上だとすると、船の名前、船長の名前が重要になってくるね。やはり、何か事情があるね。」
「そうですね。」
「そこで、頼みたいのだが、チアキ。
お前、母上と一緒にレオニーニ家の屋敷に行って、母上の様子を見て来てくれないか?
事情を探るのに、無理をする必要はない。感じたことを教えてくれればいいから。」
「わかりました。
ちょうどいいタイミングです。一緒に来たサーシャがなかなか帰ってこないので、気になっていたところですから。」
「サーシャか、懐かしいなあ。練習航海以来、会っていないよ。」
「姉さん。私からも、お聞きしてもいいですか。」
「いいよ。」
「お聞きしたいのは、サーシャのことです。
レオニーニ家のグランマが、わざわざサーシャを呼んだ理由、そして、母さんがサーシャを帝国軍の軍艦に乗せて連れて行った理由を、ご存知ですか?
もちろん、久しぶりに実の孫の顔が見たいという単純な話だけではないでしょう。」
「そうだな。でも、私も詳しいことは聞いていない。」
「そうですか・・。」
「グリューエルなら、そこのところはどう考えるかな?」
クリスティア王女が逆に聞いた。
「私が口を挟んでよろしいのでしょうか。」
「かまわないよ。あなたの考えが聞きたいのだ。」
「はい。私の考えを申し上げます。
サーシャさんをわざわざヒガン星団まで呼び寄せると言うのは、それだけ大切な御用があるからだと思います。
それで、現代でも、妙齢の女性にとって、本人が直接会う必要がある大切な御用と言えば、まず第一に縁談ではないでしょうか。
だから、サーシャさんの御用も縁談に関係があることではないかと・・・。」
「縁談!?」
チアキが大きな声を出した。
「はい。チアキさんだって、茉莉香さんたち二人を直接に会わせることを頼まれたのでしょう。」
「なるほどね。
縁談なら、何万光年離れていても出かけて行って、直接会うことに意味があるわね。」
「ですが、その縁談が、レオニーニ家にとって、さらに銀河帝国にとって、どういう意味があるのか、そこまでは私にはわかりかねますが・・・。」
「なるほど。グリューエルは鋭いねえ。 ・・・
ああ、そろそろ時間だ。
では、チアキ、頼んだぞ。」
クリスティア王女は忙しそうに電話を終えた。
「姉さんも忙しそうだね。
さて、では、母さんに電話して、私も連れて行ってもらおう。」
チアキは、クイーン・オブ・パイレーツの女王宛てに電話した。
しかし、電話に出たのは、副女官長だった。
「陛下は、もうお休みになりました。ご伝言なら、お預かりしますが。」
「そう。・・・・では、明日また電話するとお伝えください。」
そう言って、チアキは電話を切った。
「ねえ、グリューエル。今の話、どう思う?」
「正直に申し上げてよろしいのでしょうか?」
「もちろんよ。」
「あの方は、嘘を言っていると思いました。」
「私もそう思ったわよ。これは、直接、母さんのところに乗り込んでいかないと駄目ね。
明日の朝、クイーン・オブ・パイレーツに行きましょう。
グリューエルもお願いね。
前にも言ったけど、母上の海賊時代のことは全く分からないのよ。
だけど、それは私たち姉妹にとって自分のルーツにかかわる大事なことなのよ。
だから、ぜひ知りたいの。あなたも協力して下さいね。」
「はい。
とうとう、私にも出番が回ってきましたわ。ウフフ・・・」
グリューエルは嬉しそうだった。
22-4 女王執務室(クイーン・オブ・パイレーツ)
翌朝、チアキは、グリューエルと茉莉香と共に、ローズアロー2号に乗ってグランドマザーを出発して、クイーン・オブ・パイレーツに到着し、女王の執務室に入った。
三人とも、今日は白鳳女学院の制服を着ている。
女王は、テーブルに向かって書類を読みながら、紅茶を飲んでいた。
「おはようございます。」三人は朝の挨拶をした。
「やあ、チアキ、グリューエル、茉莉香、おはよう。
今日は三人そろってどうしたんだい。
そういえば、三人とも今日は、白鳳女学院の制服だね。」
「今日は、母上にお願いがあってまいりました。」
「なんだい?」
「今日、私たち三人で、惑星ライセのレオニーニ家を訪ねてみたいのです。
実は、帝都へ帰還する日が近づいておりますが、サーシャがまだ戻りません。心配になってまいりましたので、向こうでの彼女の様子を見てまいりたいと思います。
レオニーニ家の方にその旨、お口添え頂けませんでしょうか。」
「ふうむ・・・・サーシャかぁ。グランマに聞いてみるかなあ・・・・。」
女王は、傍らに控えている秘書官にレオニーニ家のグランマへ電話するように命じた。
やがて、テレビ電話に、ベッド上で上半身を起こした姿勢でこちらを向いた、老婆の姿が現れた。
「おはようございます。グランマ。
今日はおかげんがよろしいようで、何よりですね。」
「ありがとう。アン。
ところで、こんな朝から電話してきて、どうしたんだい?」
茉莉香たち三人は、レオニーニ家のグランマの姿を初めてみて、その愛情と包容力に溢れ、それでいて年を経てもかわいらしさを失わない笑顔に驚いた。
『この人が、旧宇宙マフィアの大ボスだったなんて、信じられないわよ。』
茉莉香は、ほんとうに驚いた。
「実はお願いがありまして、・・・
その前にご紹介します。
こちらが、次女のチアキ、真ん中が、セレニティ家のグリューエル、向こうが加藤茉莉香です。」
女王は三人を紹介し、三人は、それぞれ名を名乗って、初対面の挨拶をした。
「こちらこそ、初めまして。マリア・レオニーニです。
皆さんには、サーシャがずいぶんお世話になったようだね。私からもお礼を言います。
これからは、私のことをグランマと呼んでおくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
「それで、グランマ。お願いのことなんですが・・・・・
この子たちがサーシャに会いに今日にでも、そちらへお伺いしたいというのですが、いかがでしょうか。」
女王が言った。
「ああ、おいでなさい。
私もあなた達に会いたいと思っていたところだよ。
サーシャは、今日は、子供の頃に暮らしていた宇宙船を見に行っているはずだから、早めに帰ってくるように連絡しておくから。
それで、アンと一緒に来るのかい、別々かい?」
「グランマ、それは・・・・。」
女王は少しあわてて言った。
「何、言っているんだい。いくら隠しても、子供は親のことは御見通しさ。
うまく隠し通していると思っているのは、親だけさ。ハハハ・・・。
なあ、チアキ。」
「はい。毎晩、毎晩、母がご迷惑をお掛けしているのではないかと、案じておりました。」
チアキはそう言って、わざとらしく、ゆっくりとカーテシーの作法をしつつ、グランマに頭を下げた。
「あははは・・・・。私の言うとおりだろう、アン。
それに、礼儀正しく、賢い娘さんじゃないか、さすがお前の娘だよ。」
「うむむむ・・・・・・」
女王はグランマに何も言い返せなかった。銀河帝国の女王もこの人の前では、ただの『後輩』だった。
「では、チアキ、グリューエル、茉莉香。
皆さんたちも、今宵のレオニーニ家の夕食会にお招きするよ。
私からも紹介したい人が大勢いるからね。呼んでおこう。
何せ、この前の公式歓迎会は、私も欠席だったし、皆さんもレオニーニ家の者と十分に話ができなかっただろうからね。
その点、夕食会は、インナーだけで、しかも、時間無制限だからね。
楽しみに待っているよ。」
グランマからの通信が終わると、グリューエルが目を輝かせて、言った。
「あら、まあ。夕食会は『時間無制限だ』と、おっしゃいましたわね・・・」
「セレニティ王宮のパーティと同じかしら・・。
とすると、お客さんがすべて帰るまで続くということかしら・・・。」
茉莉香が言った。
「茉莉香、言っておくけど、私は他のお客様がみんな帰るまで、絶対に帰らないからね。
もちろん、寝ないわよ。
あそこで何が行われているか、見極めたいのよ。
ね、グリューエル、お願いね。」
チアキが言った。
「はい。承知しました。
もちろん、茉莉香さんも、ご一緒ですよ。」
グリューエルが言った。パーティに強いグリューエルは、時間無制限と聞いて、さらに張り切っていた。
「ナハハハ・・・・」
グリューエルの喜んでいる姿を見て、茉莉香は苦笑いした。
「でも、グリューエル。翌日の朝になっても、昼になっても、『夕食会』が続くなんて、ヘンだよ・・・。」
「茉莉香さん、この前、セレニティにいらっしゃった時にお気づきになりませんでしたか。
パーティの時、王室の時計は、午後12時を過ぎると止まるのですよ。午前0時のまま、 お客様が帰られるまで、無制限に・・・。
王がお命じになるまで、時計の針は動き出しませんわ。フフフ。」
「そんなこと、何のためにするの?」
「それは、楽しい時間があっという間に過ぎ去ってしまわないようにという、『おもてなし』のこころです。
これは、昔からの王家の伝統なのです。」
「大昔から、暦や時間を決めるのは、王の権限なのよ、茉莉香。
セレニティ王家は、パーティの時だけは今もそれをやっているのよ。」
チアキは、そう言って笑った。
「ええ!?・・・そうなの?・・・ふーん・・・」
そういう風に言われると、王室が時間を止める気持ちもわかる気がして、茉莉香は微笑んだ。
『それにしても、銀河系の王室の古い伝統と同じことを、今も続けているレオニーニ家の人たちは、いったいどんな人たちなんだろう・・・?』
そう考えて、チアキは、ますます興味がわいてきた。
22-3 レオニーニ家の屋敷(惑星ライセ)
その日の夕方、女王と茉莉香、チアキ、グリューエル一行は、惑星ライセのレオニーニ家の屋敷に到着した。レオニーニ家の屋敷は一つの都市といっても過言ではない程の広さがあるが、一行はその最深部、レオニーニ家の私的空間に通された。
その部屋は、華麗なステンドグラスやタイルの装飾に彩られ、天井から宝石をちりばめたシャンデリアが輝く豪華な広間だった。そこでは、すでにウエルカム・ドリンクが配られ、大勢の人々が談笑していた。
その人垣の中央に、車いすに座ったグランマを見つけて、一行は近づいた。
「ア~~~ ン~~~! お~~ そ~~ い~~~。」
海賊服に身を包んだ女性が、女王の姿を真っ先に見つけて、まるで昔なじみのようなため口で、女王の名を呼んだ。
「ごめん、ごめん。ミューラ。今日は娘たちを連れてきたよ・・・。」
女王も、ため口である。
「皆さん。ご紹介します。
こちらから、私の次女のチアキ、真ん中がセレニティ家のグリューエル、向こうが加藤茉莉香です。」
三人は、それぞれ名を名乗ってあいさつした。
それに対して、グランマの周りを囲む出席者から返礼の挨拶があった。
「初めまして、王女殿下。ミューラ・グラントです。ミューラとお呼びください。
そして、茉莉香。グリューエル。久しぶりだねえ。」
茉莉香は驚いた。目の前にいたのは、辺境海賊ギルドの大幹部にして、海賊船キミーラ・オブ・スキュラの船長ミューラ・グラントだった。賞金首の彼女が、なぜここに居るのか、しかも賞金をかけているはずの銀河帝国の女王と極めて親しい様子なのだが、それらの理由が分からなかった。
「初めまして、王女殿下。マイラ・グラントです。マイラとお呼びください。
・・・よう、茉莉香。グリューエル。久しぶりだねえ。」
その隣には、ミューラ・グラントの妹、海賊船愛の女王号の船長マイラ・グラントもいた。彼女もチアキに挨拶した後、グリューエルと茉莉香の顔を見て言った。
そのあとも、三人は、銀河系各地の女海賊から次々とあいさつを受けた。いずれも、名だたる女海賊たちだった。
たちまち、茉莉香を中心に、海賊世界の世間話、つまり海賊稼業の最近の出来事に関する女性たちのおしゃべりに花が咲いた。
「オリオン腕方面の景気はどうだい?」
「まあ、ぼちぼちですね。」
「そう言えば、オリオン腕の先端部を根城にしている、フック5世船長の娘が婿をもらったそうだってねえ。」
「あそこは、跡取りが、ひとり娘だからね。」
「へえ~~。そうなんですかぁ。」
茉莉香は、他人事でないと興味を持った。
「その娘は、確か18歳じゃなかったかなぁ。」
「茉莉香、お前も18歳だろう。ぼやぼやしてられないねえ。」
「ナハハハ・・・
そういえば、みなさん、ここへ来るときにはミルキーウエイを通ってこられたんでしょう。時空トンネルの使い心地はどうでしたか。・・・・」
茉莉香は苦笑いして、話題を変えようとした。
「サーシャを呼んでおくれ。」
世間話が一段落したところで、グランマが、給仕に言った。
すぐに呼ばれて現れたサーシャに、グランマは言った。
「サーシャ、お前のお友達に、一族の若い人たちをご紹介なさい。」
「承知いたしました。」
サーシャは、グランマに一礼して、茉莉香たちの方に振り向いた。
「ごめんなさいね。長い間、留守にして。ご心配をおかけしました。
さあ、こちらへどうぞ。」
サーシャは、三人を連れて、大広間の別の場所に移動していった。
「なかなか良い子たちだねえ。」
「グランマが言うとおり、次の時代を背負って立つにふさわしい子たちですね。」
「私も賛成しますよ。あの子たちがいれば、われらの協会も安泰だ。」
遠ざかる四人を見ながら、ミューラ達、女海賊が口々に言った。
「私もそう思うけれど・・・。
それで、グランマ。結局、サーシャは承諾しなかったのですね。」
アン女王が言った。
「ああ。そのとおりさ。
父の跡を継いで我ら一族の当主になることも、将来、ヒガン王国を樹立した際に王か王妃になることも、興味がないそうだ。
もちろん、大統領フランシスコ・レオニーニの息子、ジュリアーニとのお見合いも断られたよ。ハハハ・・・。
医者になって、海明星であの家の娘として暮らしていくと決心しているそうだ。
あの子は、一旦、こうだと思ったらぁ、絶対に人の意見なんか聞かないんだよなあ・・・。本当に強情と言うか、頑固なんだよ。
でも、私もあきらめないからね。気長に待つことにしたよ。」
グランマは、顔をしわだらけにして、微笑んだ。
「そういう意志の強いところは、さすが、あなたのお孫さんですねえ」
「そう言えば、昔、グランマも、ご両親の薦める縁談を断って、自分の好きな男と結婚したんですよね。
断られたあいつの方が、みんなが認めるイイ男で、人望も実力もあったのに・・・。」
女海賊たちは、そう言って昔話を始めた。
「ハハハ・・・そういうこともあったねえ。」
「それで協会の未来のことですが、チアキと茉莉香は良いとして、あとは、グリューエルが、まだ海賊ではないのでしたよねえ。」
と、アン女王が言った。
「それについては、すでに打つ手は考えている。」
「まさか、あの手を使うんじゃないでしょうね。」
「そうだよ。深窓のご令嬢が、自ら進んで広い海に乗り出していくには、やっぱりあれが一番良いと思うがねえ・・・。」
グランマとアン女王のやり取りに、ミューラ達が口を挟んだ。
「そうですよ。それが、一番良いんじゃないかい。」
「本人は、結構、ロマンチックだと思うんじゃないかなあ。家出なんて。
『女王様と同じだ』と言って、喜ぶと思うよ。」
「おいおい、過激だなあ、その言葉は。」
あわてて、アン女王が打ち消した。
「アン! 自分もやらかしたくせに、『過激』とはよく言うわねえ。」
「あれは、事情がちがうよ・・・・。」
「お前、いつの間に、そんな分別のあるオトナになったんだい・・・。」
「ハハハ・・・・」
女海賊たちが、一斉に笑った。
「私も、全力で応援するよ。」
「それに、あの子は、三年も飛び級して大学に入るそうじゃないか。その余った三年を有意義に過ごすべきだよ。貴重な青春なのだからね。」
他の女海賊たちも口々に賛成すると言いながら、グリューエルの方を眺めた。
どうやら、グリューエルをめぐる陰謀がまとまったようだ。
女海賊たちの視線の向こうでは、茉莉香、グリューエルそしてチアキの三人が大勢の若い男女に囲まれて、楽しそうに話していた。
「ええ~~~! そうなんですかあ!」
レオニーニ家の若者の話に茉莉香が驚いて、大きい、しかし、とても楽しそうな声を張り上げている。
「それでねえ、茉莉香さん・・・・。」
茉莉香の笑顔を見た周りの男女が、さらに楽しそうな表情で茉莉香に話しかけている。
こういう時の茉莉香の笑顔は、ひときわ光り輝いている。誰もが、茉莉香の笑顔をずっと見ていたくて、その場を離れられない。
そんな若い人たちの姿を見ながら、グランマが言った。
「さあ、我々の仕事はこれで終わりだ。みな、このあとは大いに、飲んで、食べてくれ。」
「アン・・・・。わかってるよな! 今晩は帰さないぞ。」
「何を言っている。先に酔って寝るのは、いつも、お前の方だ・・・・。」
「なにを言う。お前なんか、まだ50年ほどしか生きていないじゃないか。」
「そうだ。私たちと比べれば、お前は、まだまだ、生意気な小娘に過ぎん・・・・。 」
「勝負だぞ・・・。今晩こそ決着をつけてやる・・・・。」
長命種のミューラ、マイラの姉妹が声を合わせて言った。
「望むところだ・・・・。」
アン女王が答えた。
こうして、女海賊たちは、上機嫌で食堂へ向かった。
22-4 弁天丸ブリッジ(ヒガン星団宙域)
弁天丸は、機動空母グランドマザーの船内にまだ収容されたまま、ヒガン星団から銀河系への帰還の準備中である。しかし、クルーはすでに帰還後に向けて動き出している。
弁天丸船長加藤茉莉香は、ミーサから、帰還後のお仕事のスケジュールについて相談されていた。
「ほんと、テレビの力(ちから)ってすごいわねえ。
このあいだの茉莉香の一騎打ちを見たといって、海賊ショーの出演依頼が殺到しているのよね。」
「ええ?こんなにたくさん!
私、もう少しで卒業だから、出来るだけ学校にも行きたいのよね。」
「まあ、これをみんな引き受けることは弁天丸のスケジュールとしても無理なので、可能な限り絞ることにしても、ざっとこのくらいはあるわね。・・・」
「ええ、削っても、こんなにあるの。」
「仕方がないわよ。
昔から、仕事の依頼は断らないというのが、弁天丸のポリシーだからね。今回のスケジュールから漏れた仕事も、時期をずらしてもらうだけよ。必ず依頼は果たすわよ。
それに、船長が出演するショーのギャラも上がったのよ。もう最高ランク。ほら、こんなに。」
「おおお~~~すごい。 これは、稼がないとねえ。」
「それはそうと、このあいだ、惑星ライセにあるレオニーニ家のお屋敷に行ったんですってね。」
「行ったよ・・・。楽しかったなあ。」
「そう、よかったわね。例の『時間無制限の夕食会』だったんでしょ。何時間くらい遊んだの。」
「グリューエルとチアキちゃんは、最低でも100時間は頑張るって言って乗り込んだけど、結局、五日五晩、120時間くらいかなぁ。
サーシャが、レオニーニ家の若い人たちを紹介してくれたんだけど、あの子たち、銀河系中から集まっていたんだよ。
それで、みんな、元気なんだよね。みんなで、おしゃべりして、食べて、歌って、踊って、ゲームして・・・。
それから、スポーツもしたよ。私、スカッシュは連戦連勝。男の子を何人も負かしたよ。」
「それにしても、ずいぶん長い時間、続いたのね。」
「そうなんだよ。眠いのを通り越すと、もう何でもよくなっちゃって・・・・。結構ハイな気分だったよ。」
「それから、レオニーニ家風のコスプレ大会もやったんだよ。みんな、与えられたテーマに合わせて、思い思いに趣向を凝らした衣装を身にまとって披露しあうんだよ。
衣装は、注文に合わせてその場で作ってもらうんだよ。すごいでしょ。」
「それで、茉莉香は、どんなコスプレをしたの?」
「お題が、『ハムエッグ』だったから、・・・」
「ハムエッグ? なにそれ?」
「敵(かたき)同士の二人が、実は恋人同士という関係だそうよ。」
「なんか変ねえ。それで、茉莉香はどういうコスプレをしたの。」
「私は警察官の男の子ロメオ役、グリューエルが仮面の怪盗のジュリエット役よ。しかも、二人は恋人同士っていう設定なの。
私、男装は初めてだったけど、とてもカッコイイって、大評判だったのよ。」
「それは良かったわね。でも、そのテーマ・・・やっぱり、ヘンね。
それは、『ハムエッグ』じゃなくて『ハムレット』じゃないの。」
「ナハハハ・・・、そうかなあ。
それからね、時々『リフレッシュ』と言っては、水着に着替えて、お花をいっぱい浮かべた温水プールで泳いだり、女の子たちみんなでエステもしてもらって・・・・
ホント、みんなと仲良くなっちゃったよ。」
「ほんとうに、よかったわねえ。」
「うん。
女の子たちと、本当に仲良くなって、最後の別れ際には、
『これから先、幾つになっても、ずっとずっと友達だよね』
といって言って、みんなで涙を流して誓い合ったんだよ。
それに、私、中学、高校と、ずっと女子校だったから、同じ年頃の男の子たちと、あんなに遊んだことなかったのよね。だから、本当に楽しかったなぁ。
ホントに、銀河系中に『友達百人』できちゃったよ。これからは、弁天丸で銀河系のどこへ行っても、友達がいるから心強いよ。
楽しかったなあ・・・ふふふ。
あれ?
ねえ、私の話を聞いて驚かないということは、もしかして、ミーサも『夕食会』に行ったことあるの。」
「ホホホ…。さあどうかしらね。覚えてないわ、そんな昨日のことでもないし・・・。
昔は、お屋敷ではなく、船の中でやっていたらしいけどね。」
ミーサは、遠くを見るような眼をして、微笑んだ。
「それじゃあ、茉莉香も海賊ショーをご披露したんでしょ。」
「ナハハ・・・、分かりますか?」
「分かるわよ。リクエストされて、茉莉香がノリノリでやっている姿が目に浮かぶわよ。」
「そうなんだ。
私の場合は、サーシャも含めてレオニーニ家の四人の女の子たちと一緒に『白波五人娘』というタイトルで、海賊ショーをやったんだ。」
「茉莉香、『白波』というのは、何のことか、知ってるの?」
「もちろん、教えてもらったもの。昔から海賊のことを言うんだって・・。
それで、セリフはねえ、
『お前は、誰だ!?』『誰だ!?』って、男の子が掛け声をかけてくれて、
私は、ねえ、
『知らざぁ、言ってきかせやしょう。
浜の真砂とゴンザエモン、歌に残せし海賊の、
種は尽きねえ新奥浜、その白波の一粒種、
生まれた家は母一人、海の明け星世を忍び、
定めの星を知らされず、お嬢様よと育てられ、
それでもヨットで星の宇宙(うみ)、出たいと願う船乗りの、
血は争えぬ十六歳、急な知らせで親の跡、
百年続くこの家業、女子高生で受け継いで、
腕に覚えの乗組員、お得意様に支えられ、
辺境宇宙で大繁盛、そこに現わる謎の船
仲間を狙う海賊に、売られたケンカ買って出て、
命を懸けた大戦(おおいくさ)、戦いすんで日が暮れて
敵(かたき)のお嬢に気に入られ、広い宇宙(うみ)に出ておいで
誘い誘われ帝国へ、今はちぎりの義姉妹(ぎきょうだい)、
此度(こたび)はヒガンのこの地まで、船を飛ばして大遠征、
またも演じた海賊の、名せえゆかりの、
弁天お嬢、加藤茉莉香たぁ、このわたし~~~~。』
と、最後のセリフを言って、効果音に合わせて、ポーズを決めるんだよ。」
そう言って、茉莉香は、いつの間にか立ち上げって、セリフとともに振りをつけ、ポーズを決めていた。
「いよ~~~。船長、宇宙一。」
「茉莉香様~~~~!」
いつの間にか茉莉香のセリフを聞いていた三代目やクーリエたちが掛け声をあげた。
「こうやって、一人ひとり、セリフを言って、海賊の名乗りを上げる演出だよ・・。
みんな、セリフが本当にぴったりと決まって、かっこよかったよ。」
「そう。みんな上手なのね。それじゃあ、チアキちゃんも何かやったんでしょ。」
「うん。
チアキちゃんは、男の子たちを従えて、海賊王女の名乗りを上げたんだ。
これも、すごく盛り上がっていたよ。青い薔薇の花をいっぱい浮かべた温水プールの前で演じて、チアキちゃん、きれいだったなあ。
そして、終わったらみんな感激して、チアキちゃんが『突撃!』と号令して、先頭になって、手下の海賊役をした男の子たちとみんなで温水プールへ飛び込んだんだよ。」
「アハハハ・・・・乗りに乗ってたのね。」
「それに、最後はグリューエルも仮面をつけて、海賊ショーをやったんだよ。レオニーニ家の男の子や女の子たちを海賊のクルーとして従えてね。」
「受けたでしょ。」
「そう、バカ受け。
しかも、グリューエルは演技がすごくうまいんだよ。本当に怖い声で、
『金目のものを出しな!』
と言うんだもの。みんな、本物より怖いって言ってたよ。
グリューエルも、やっと念願の海賊ショーに主演できたので
『これで、今日から、私も海賊ですわ。』
って、喜んでたよ。」
「ハハハ・・・、そうなの。
さすが、レーニーニ家の『おもてなし』ね。」
「ねえ、ミーサ。
茉莉香ちゃん、ずいぶんお楽しみだったようだから、そろそろ、船長としても、重力推進の新しい船について、勉強を始めてもらったらどうかしら。
こっちは、先週から大変だったのよ。」
クーリエが言った。
「ええ! 勉強?」
「そう。先週に、船を頼んでいるステープル重工業から新型船のクルー向けの教材やマニュアルが送られてきたの。それ見て、改めて思ったわ。やっぱり、重力制御推進工法と時空トンネルの実用化は、宇宙航海の大革命よ。
だから、勉強することがいっぱい。
天文学の分野だって、重力波観測によって新たに発見された現象がいっぱいで、海図が大きく変わっているのよ。茉莉香ちゃん、『銀河間の重力潮流』って知ってる?」
「ええ? ジュウリョクチョウリュウ?」
「まあ、知らないなら、その辺から勉強することね。
銀河系の重力圏外の銀河間空間では、銀河団の重力エネルギーの流れに影響されて、船が流されることを計算に入れろって、ことね。」
ルカが言った。
「そんなことが、あるの?」
「あるのよ。銀河自体が高速で運動している原因が、その銀河潮流よ。」
「もちろん、本命の宇宙物理学や宇宙工学のテキストが、一番量が多くて、たいへん。エンジンやワープの仕組みが変わるんだから、俺たちの仕事も変わっちゃうからね。」
三代目が言った。
「船長。私は、先日、グランドマザーで、グランドクロスの操縦シミレーターに乗せてもらいました。
新型船の操縦は、グランドクロスと同じようにコンピューター化されているそうですから、その予行演習のつもりでした。
しかし、実際に乗ってみると、楽ではありませんでしたねえ。パイロットは、例のジグザグ飛行をするため、電子機器を体に装着して操縦するのですが、その時にパイロットの心身にかなりのストレスが掛かります。
その理由はこうです。慣性が中立化されていますから、ジグザグ飛行の急加速、急停止による過重の増加は無いと、理屈は分かっているんです。しかし、私のように地上育ちのパイロットは、ジグザグ飛行では反射的に緊張して力が入り、過重の増加に備えようとするんです。こういう緊張が繰り返されることが、ストレスの第一原因ですね。
もちろん、天地がめまぐるしく回転するわけですから、ベテラン船員でも船酔いになる恐れがあります。
ですから、帝国軍が、グランドクロスのパイロット資格を厳重に制限している理由がよくわかりましたよ。一応、私も帝国軍ではSクラスのパイロット資格があるのですが、私のような『老いぼれ』には、正直言ってキツかったですね。」
新しい操舵士のウイリー・モーガンが言った。ウイリーは、帝国軍を定年退官したベテランパイロットである。
「そうだろうなあ。
そもそも、あのジグザグ飛行の操縦は、パイロットで言うと戦闘機乗りの仕事だ。戦艦などの大型船舶のパイロットの仕事ではない。操縦の目的や要求される技術が違うから、同じパイロットでも、そこは従来、専門が違うとされてきたからな。」
シュニッツアーが言った。
「そうなんですよ。グランドクロスを乗りこなすパイロットには、戦闘機と大型船の両方の操縦をこなす能力が必要なようですね。
それに加えて、タッチ・アンド・ゴーやその三機編隊飛行作戦のように、戦闘機のような対艦攻撃を、巨大戦艦の火力を使って大艦隊に対して行うのですから、攻撃の規模が違います。だから、パイロットが決断する事項も飛躍的に多くなります。
それに比べたら、時空トンネルを通行する操船は、大型船の操船と同じなので本当に楽ですね。ハハハ・・・・。」
ウイリーが言った。
「へえ、そうなんだ。グランドクロスの操縦が難しいってそういうことなの。
それを乗りこなしているチアキちゃんやウルスラって、やっぱり、すごいんだね。」
茉莉香は、改めて驚いた。
「新しい武器もできるようだから、これからは戦闘戦術も変わるだろう。重力エネルギーの粒子としての性質を利用した、一種のビーム砲の開発が進んでいるそうだ。
もっとも、帝国がそんな最新兵器を弁天丸に搭載することを許すかどうかわからないが・・・」
シュニッツアーが言った。
「なるほど。あれは、やっぱりそうだったのかなあ。
マンチュリア人との戦闘の時にね、チアキちゃんの船からビーム砲が発射されたんだけど、ビームシールドを簡単に突き抜けて命中したでしょ。
あの光景を、みんな、見ていたよねえ。
あのビーム砲って、その、重力エネルギーをビーム砲に応用した新兵器かなあ。」
茉莉香が言った。
「確かに、船長の言うとおり、開発中の新兵器の可能性はある。あれは、通常のビーム兵器の閃光ではなかった。」
「そういうことだから、新しい船のための勉強が必要ね。
どれもこれも、船長がまったく知らないでは済まされないわよ。茉莉香も、がんばりましょうね。」
ミーサが言った。
「ミーサも勉強するんでしょう。いっしょにやろうね。」
「何を言ってるの。私は、医者だから、そっちは関係ないわよ。
でも、新型船の乗組員の健康管理は、これまでやったことがない仕事だから、こっちもいろいろ大変なのよ。」
「テキストの理論編は、高等数学が結構出てくるわよ。茉莉香ちゃん、大丈夫?」
クーリエが微笑んだ。
「高等数学!? 海賊船の船長にそんなものが必要なの?」
「重力推進方式の簡単な原理くらいは知っておくためにね。少しは必要があるわね。」
ルカが言った。
「茉莉香ちゃん。帝国軍の偉い人たちの間では、うちの船長は若いだけあって、重力制御推進の船に詳しいって、大いに期待されているらしいわよ。」
クーリエが言った。
「それは、船長が、例の戦闘シミュレーションで、時空トンネルの分岐を作って包囲網を出し抜いたり、時空震を起こして第一艦隊を破ったりしたからだろう。
実際、あのシミュレーション上での敗北に学ばなければ、帝国軍はマンチュリア人との実戦で同じように敗北していたはずだ。
だから、船長が期待されるのは当然だ。」
シュニッツアーが言った。
「そうでしょうね。茉莉香ちゃん、その期待に応えないとね。」
クーリエが言った。
「それに、あなた、女王様と一緒にアンドロメダ銀河まで行ってみたいんでしょう。」
ミーサが突然言った。
「うん。行けるものなら行ってみたい。
今回だって、私、銀河系から見えないヒガン星団を初めて見て、とっても嬉しかったもの。さらに、ヒガン星団の星々が見えたら、次は、あそこまで行ってみたいと思ったわ。
だから、女王様がアンドロメダ銀河に遠征するなら、ぜったい私も行ってみたいなあ。」
「だったら、連れて行ってもらえるように、新しい船の勉強も頑張らないとねえ。」
ミーサが言った。
「あ、言い忘れていたけど、船長用の教材ももちろん別にあるのよ。教材が入った電子ブックは、船長室に届けてあるから。
電子ブックはハイエンドの機種が使われているところを見ると、かなり、データ量が多くて、勉強は大変そうね。
船長、頑張ってね。」
クーリエが最後に爆弾を落とした。
「ううう・・・・・・。頑張ります・・・・・。」
「さあ、茉莉香。帰ったら、まずは、弁天丸のお仕事よ。頑張りましょうね。」
「ハイ。加藤茉莉香、頑張ります。
さあー! みんな、帰ったら、海賊の時間だぁ。」
茉莉香は、元気な声でそう言って、両手を腰に当てて、立ち上がった。
22-5 チアキの部屋(グランドマザー貴賓室)
チアキは、レオニーニ家からグランドマザーに帰ると爆睡してしまい、翌日の夜にやっと目を覚ました。
そして、まずは、姉のクリスティア王女に報告のため、電話をした。
「ご報告が遅くなって、すみません。」
「チアキ、ずいぶん楽しく遊んだそうじゃないか。」
「いやあ、私はあんなに長居をするつもりじゃなかったのですが、サーシャたちレオニーニ家の若者にすっかり乗せられてしまいまして・・・・。
それで、自分で体験してみて分かりましたが、母上も昔、あのような夕食会に出席し、その場で大勢の海賊たちと友人になったのだと思いました。
母上と女海賊たちの雰囲気から、きっとそうだと思いました。まるで同窓会のノリでしたから。」
「母上が、昔、乗っていた船のことは、わかったかい?」
「すみません、わかりませんでした。若い人々は知らされていないようでした。」
「そうか。ありがとう。
それで、サーシャの用事は分かったのか?」
「はい、サーシャ自身から聞きました。
グランマは、サーシャが、亡くなった実のお父様の後を継いで、旧宇宙マフィアのボス、つまりアメージーグ族の族長となって欲しいと思っていたようです。
そして、ヒガン共和国の大統領の息子との婚約を勧めたそうです。」
「それがレオニーニ家や銀河帝国にとってどういう意義を持つのか、聞いたのか?」
「はい。
その昔、レオニーニ家が、表社会で生きるヒガンの支配者の家系と、裏社会で生きる宇宙マフィアのボスの家系と二つに別れたのですが、二人の結婚で両家系を統一したいというのが、グランマのお考えだったようです。安住の地を得たのだから、二つに分かれている必要はないということですね。
そして、将来は、ヒガン共和国を王制に改めて、二人がこの地を治めて、レオニーニ家がこの地の繁栄に永遠に責任を負っていく決意を示すことを考えていたそうです。」
「なるほどなあ。年寄りたちから見れば、もっともな話だなぁ。そうなれば、銀河帝国も無関係ではないなあ。
で、サーシャはどういう返事をしたのかな?」
「もちろん、サーシャは全部、断ったそうです。」
「あの子なら、そうだろうな。
でも、そういうお目出度い話にならなかったにもかかわらず、チアキたち三人は、よくまあ、派手に遊んだなあ。」
「いやあ、逆です。
レオニーニ家の若者たちは、サーシャの族長就任と婚約のお披露目を見込んで銀河系中から呼ばれていたそうですが、サーシャが全部断ったのですっかり当てが外れて、手持ち無沙汰だったそうです。
そこへ、私たち三人が現れたので、やっと出番が来たと、みんな、思いっきりハジケタそうです。」
「ハハハ、その気持ちは分かるなあ。
チアキ、ありがとう。その夕食会の話は、帰ってからゆっくりと聞くとしようか。」
「はい。では、おやすみなさい。お姉さま。」
チアキは、そう言って電話を切って、ベッドにもぐりこんだ。まだまだ、疲れと眠気は取れていないからだ。
しかし、寝られなかった。『楽しい夕食会』のシーンが次々と頭に浮かんできて気持ちが高ぶり、次第に顔が赤くなってきた。
「ううう・・・・。
なんて恥ずかしいことを、次々とやっちまったんだろう。
芸能人みたいな派手な舞台衣装とメークで、ノリノリで歌って、踊って、
セパレートで布地の小さい水着を着て、男の子たちとプールで水を掛け合って・・・。
海賊ショーでは、海賊王女だと名乗って、男の子たちみんなに『従者にしてあげる』などと言ってしまった。
これじゃ、まるで、ガキ大将じゃないの。
ショーが終わると、私が突撃と号令を掛けて、みんなで、海賊衣装を着たまま、青い薔薇の花の浮かんだプールにとびこんで、
向こう岸まで泳ぎ、プールから上がってそのまま勝ち名乗りを上げて、髪が濡れて乱れた姿をみんなに披露して、・・・
うううう・・・・・うわーーーー。」
チアキは、たくさんの『やっちまった』ことを『後悔』して、悶々とし始めた。
第22章は書き進むうちに、登場人物が勝手に動き出して、筆者の予想外の長さになりました。しかも、元の22章の表題では、内容と一致せず、かえって分かりにくくなりました。
そこで、元の22章を、22から24章の三章に分けました。
遠征の戦闘が終わり、少しづつ、茉莉香の周りの人たちが、自分の人生に向かって、動き出していきます。もちろん、茉莉香自身も。
遠征が終わると、卒業式まであと少し。この小説は、茉莉香達の高校卒業まで書きたいと思います