宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 エピローグの第2章は、これまで物語に全く登場しなかった、サーシャの曾祖母、銀河聖王家のマリア王女の話です。
 銀河聖王家と、宇宙マフィアの大ボス・レオニーニ家との秘密の関係が、如何にして生まれたのか、エピローグに書いておこうと思いました。

 宇宙大学の宇宙考古学研究員のマリア・スミスたち一行は、辺境の氷の惑星を、考古学調査のために訪れます。
 しかしそこには、自称海賊の一団が氷の下に穴を掘っていました。
 マリア・スミスは、氷の下の坑道を調査させて欲しいと、海賊の船長に頼みますが・・。

  


エピローグ2 マリア王女の伝説1

ピローグ2 マリア王女の伝説

 

クリスティア王女が語ったマリア王女の話は、次のようなものだった。

 

 

1 銀河系辺境星域・恒星SS-56008の第三惑星

 

 

 今から150年ほど前のある日、銀河辺境星域の恒星SS-56008の第三惑星の衛星軌道に一台の小型宇宙船が到着した。

 船は、数日間、衛星軌道上から地上を観測した。やがて、船からはシャトルが発信し、惑星に降り立った。

 この惑星は、SS-56008-3と番号で呼ばれ、母星ともども、まだ固有の名前がない。それだけ、注目されない恒星系の惑星である。

 それもそのはず。惑星の大気は、酸素や窒素の成分比などは人間の居住できる条件を備えているものの、その表面温度は低く、地表の大半が氷に覆われていた。

 

 この惑星に降り立ったのは、宇宙大学考古学研究所の5人の研究員たちだった。これが調査隊の全員であり、静止軌道上に留まる小型宇宙船は現在、無人で、自動運転になっている。

 

「主任、本当に、この星に超古代文明の遺跡があるのでしょうか?」

 研究員のトム・ケンブリッジが言った。

「あるわよ。それも氷に閉ざされて、荒らされていない、手つかずの遺跡がね。

 知っているでしょ。これまでの資源調査では、この星は300万年前までは緑の生い茂る惑星だったことが分かっているのよ。その後、何かの原因で、惑星の軌道が変化して、今の氷の惑星になったのよ。

 だったら、寒冷化する前には、超古代文明があってもおかしくないわ。」

 主任研究員のマリア・スミスが言った。

「そうでしょうか?」

「それを見つければ、人類の起源に関する『太古植民説』の決定的証拠になるわ。

 人類の起源の星が、ついに明らかになるのよ。

 事前の調査で、この星の氷の下の岩盤には、不自然な凹凸や平坦な地形がたくさんあるのも、分かっているわ。

 その最大の平地の上に、今、いるのよ。

 ここは、超古代文明の大都市の跡に違いないわ。」

「はあ・・・。

 でも、まずは、キャンプを設営しましょう。

 今晩寝るところを作らないと、凍えてしまいますから。」

 研究員のアンナ・フェリーニが言った。

「そうね・・・。」

 

 やがて、5人は、シャトルから荷物を降ろして、キャンプの設営、つまり調査隊の基地となる宿舎や研究資料棟などを組み立て始めた。

 施設は粗末なものだった。いつの時代にも、考古学などというお金にならない学問をする人は、お金に恵まれないものだ。

 

 翌日から、一行5人はシャトルに乗って、衛星軌道上の小型宇宙船からの観測データで目星をつけた地点を見て回った。

 

「あの山の向こうが、最有力ポイントよ。

 地平面の岩盤に不自然なほど、平らな個所があって、そこには空洞もあるので、都市の遺跡を直接、この目で見ることができるかもしれないわ。

 楽しみね。」

 マリアは、ようやく実現した発掘調査に期待を膨らませていた。

「まもなく、峠を飛び越えます。

 少し気流が悪いので、揺れるかもしれません。何かに捕まってください。

 ・・・・・

 今、越えました。

 主任、何か見えますか?」

 シャトルのパイロットを勤めている、研究員のアンナ・フェリーニが言った。

 

「ああ! 見えた。

 これは・・・。」

 

 シャトルの下に見える氷の平原には、垂直な壁で囲まれた巨大な四角形の穴が開き、その穴の周りにほぼ水平な地表面が広がっていた。穴の大きさは縦横50メートルほどだったが、穴は地下深くまで掘られているらしく、底が見えなかった。

 穴の周辺の平面の上に雪が積もっているが、上空から観察すると、このあたり一帯が人工的な造成地であることは明らかだった。

 それは、どう見ても、古代文明の遺跡ではなく、無許可で採掘をしていた鉱山の採掘場の跡地だった。ずっと以前に放棄されて荒れ果て、その上に雪が積もり、凍りついたものだと思われた。

 更に、望遠カメラで地表の光学映像を見ると、地表にはあちこちに赤錆びた作業機械の残骸が放棄され雪をかぶっているのが見つかった。

 

「廃棄された鉱山でしょうか。

でも、こんなところで、何を掘っていたのでしょうか?」

「墓泥棒に違いないわ!

 この地下には、やっぱり古代文明の遺跡があるのよ。

 アンナ、地下の坑道の様子を探ってちょうだい。

 墓泥棒は何をしていたのか、探るのよ。」

 主任研究員のマリアは、ここは古代遺跡だという思い込みが強く、まだ諦めていなかった。

「はい、主任。」

 

 シャトルは、採掘跡の上空を旋回して着陸予定地点を探して、着陸した。

 そして、地下の構造を探るため、船から数台の自走式探査ロボットが出て行った。

 ロボットは昆虫型で、六本の足を動かしながら氷の平原を進み、やがて羽を伸ばして飛んで行った。そして、ところどころで着地して触手のようなセンサーを氷の地面におろし、氷の中に超音波信号を発して、その反響を観測した。

 

「地下の様子がわかりました。

 主任、ご覧ください。

 地下の氷の中には、枝分かれした坑道でつながった空洞が何層にも形成されています。 各空洞の大きさは、数百メートルもあります。」

 パイロットのアンナは、小さいスクリーンに映った地下坑道の映像を見せた。

「なんて規模なの。採掘した人たちは、何を探していたの?」

「わかりません。

 通常の辺境鉱山ではエネルギー資源が採掘されるのですが、この様子では氷を掘っていたとしか思えません。」

「氷なんて、掘ってどうするの?

 そんなもの、わざわざ宇宙船で運んで、交易する品物じゃないでしょう。」

「そうですね。わざわざ費用をかけて運ぶ意味があるのでしょうか?」

「でも、意味があるとすれば、この星の氷の質が良いことかしら。

 氷の分析データはあなたも知っているでしょう?」

「はい。古代の氷は極めて良質で、溶かせば塩分の濃度を調整する必要もなく、そのまま飲料になるほどの水質だと報告されています。

 もともと、可住惑星だった時代の海の水が凍ったものですから。」

「そこなのよね。

 人間の血液の塩分濃度と、海水の塩分濃度がほぼ一緒というのも、この星が人類発祥の地だと私が考えた理由の一つなのよね。

 でも、やっぱり、氷の鉱山なんて、商売になるとは思えないわ。

 聞いたことないし・・・。う~~ん。」

 マリア主任研究員は、首をかしげて考えた。

 

「あのう。主任。

 そろそろ、帰りましょう。

 天候が悪くなりそうです。雪が降り出す前に、キャンプに戻りましょう。」

 操縦席のモニターに写った天候観測データを見て、アンナが言った。

「そうね。今日はこの辺で終わりましょう。

 帰って、地下坑道の様子を改めて検討して、今後の調査計画を再検討するわ。」

 

 やがて、昆虫型の探査ロボットが調査を終えて、全機、船に戻って回収された。

そして、調査隊5人を乗せたシャトルは離陸して、キャンプに戻って行った。

 

 キャンプに戻った一行は、夕食を済ませて、研究棟に集まって地下探査のデータの整理と、今後の調査計画の再検討に取り掛かった。

 宿舎の外は、低気圧、つまり雪嵐が吹き荒れていた。宿舎や研究棟の建物は揺れながら、猛烈な強風に耐えているが、寒さは一段と厳しくなった。

「う~~ん。

 この構造では、やっぱり、この立坑から地下の一番深いところの坑道に入って実地調査しないと、遺跡にたどり着かないわねえ。

 危険だけど、仕方ないかなあ。

 地下ならば、こういう雪嵐を気にしなくて良いし・・・。」

 地下坑道の3D映像を見ながら、研究主任のマリアが言った。

「主任、危険です。

 ご覧のように、地下坑道は、かなりデタラメに掘ったものと思われます。

 ですから、岩盤の荷重に耐える構造にはなっておらず、特に、最深部の地下1500メートルにある巨大な空洞は崩落する危険が大きいと思います。」

 研究員のアンナが言った。

「じゃあ、探査ロボットでその空洞を探らせれば良いじゃないですか。」

 研究員のトム・ケンブリッジが言った。

「そうよ。出し惜しみしないでよ。」

 ほかの研究員も口々に言った。

「あれは高価な機器で、宇宙大学の管理局から、

『無くすな』、

『壊すな』、

『必ず、全機持って帰って来い』

 と厳しく言われて、

 そのための誓約書を何通も書き、やっと貸してもらったもので・・・。

 ですから、かなり危険で回収が困難な地下の調査には・・・・。」

 アンナが、反論した。

 

「大学側は、考古学者の命より探査ロボットの方が大事なのよ。

 ホント、失礼しちゃうわ。」

 主任研究員のマリアは、少しすねて、悪口を言った。

「はあ、どうもすみません。

 私がもう少し大学側から有利な条件で借りておけば・・・。」

 アンナは、苦しげに詫びを言いつつ、下を向いてしまった。

「あなたを責めているんじゃないわよ。

 アンナ、下を向いてないで、こちらを向いて。」

 そう言って、マリアが微笑んだ。

 マリアの笑顔を見て、アンナは気持ちが軽くなった。

 

『この人の笑顔は、いつも人の心を明るくする。

 本当に不思議な人だ・・・。』

 

 

 二日後に雪嵐が収まった。

 結局、他の隊員が怖がったため、最深部の坑道への実地探査は、マリアとアンナの二人が行くことになった。後の三人は、キャンプに残って、二人から送られてくる探査の通信を記録することになった。

「さあ、いくわよ。」

「はい。主任。」

 二人は、登山用の人工重力装置で体重、荷物の荷重や慣性をほぼゼロにして一旦空間に浮かんだ。次に、通信用の有線ケーブルを引きつつ、ふわりと浮かびながら穴の上の空間まで進んだ。そして両手両足を大の字に広げ、垂直の坑道をゆっくり降りて行った。

 

 この時代、人口重力装置を使って山や急斜面を登り、また降りる方法は、登山家たちからは『外道』又は『邪道』とされ、嫌われている。古代から、登山は人間の力だけで行うことに意味があると考えられているためだ。だから、登山家は、人工重力装置は救命救急用の道具としてのみ使うべきものと考えている。

 しかし、登山方法にこだわりの無い二人は、最初からこの装置を利用している。

 

「空を飛ぶように降りていくのね。

 これは、まるで鳥になった気分よね、なかなか快適だわ。」

「はあ。

 私は、地獄の底へ降りていく気分ですが・・・。

 主任、くれぐれも危ないことはやめてください。」

「わかってるわよ。わかってます。」

「お嬢様がそうおっしゃるときは、たいてい、そのお気持ちが無い時なので心配です。」

「私のことを、いつまでも、お嬢様と呼ぶのはやめてよね。

 もう、子供じゃないんだから。」

 

 やがて、ふたりは1500メートルほど降下し、縦穴の底に着地した。

 底の地面は、意外なことに雪は積もっておらず、やや濡れた氷の岩盤だった。

 

「変ねぇ。雪も積もっていないし、そもそも凍っていないわよ、ここは。」

「底の岩盤の温度は、零度です。この星にしては、温かいです。」

 アンナが、観測センサーを氷の岩盤に当てながら、答えた。

「周辺を探査してみます。

 たしか、目の前のこの穴が、最深部へつながる坑道の入り口だと思います。」

 アンナがセンサーを氷の岩盤に当て探査を始めようとしたときに、二人の周辺に、ドサリと何かが落ちてきた。

「なに!? 岩盤が崩れてきたの?」

「いえ。主任。もっと深刻な事態です。

 通信ケーブルが切断されました。」

 そう言って、アンナは、鋭利な刃物で切り裂かれたようになっているケーブルの端を見せた。

「では、通信も切れたわけね。

 ケーブルは、自然に切れたのかしら、それとも、誰かの仕業かしら。」

「誰かの仕業でしょうね。

 今、センサーは、地下坑道に、熱源を発見しました。今まで氷しか無かったはずなんですが・・・。」

 

 二人が坑道の入口を見ると、防護服を着た数人の人間が銃を構えて現れ、言った。

「動くな。手を上げろ。」

 

 

2 海賊の地下基地(銀河辺境・恒星SS-56008の第三惑星)

 

 二人は、銃を突きつけられて、地下坑道内に作られた建物に連行された。

 そこは、氷の坑道内に建設された建物だった。建物と言っても、むき出しの鋼材で組み立てられた大きな箱というような外観の粗末なものだった。

 二人は、その中のある部屋に通された。

 その部屋は、明らかに廊下や他の部屋より上質の材料で作られており、この建物のリーダーの部屋と思われた。

 そして、その部屋には、リーダーらしい若者とその従者らしい若者、そして目つきの鋭い、怪しげな老人の合計三人がいた。

 

「お前たちは、何者だ? 名を名乗れ!」

 アンナが厳しい口調で言った。

「それは、こっちが言いたいセリフだよ。御嬢さん。」

 従者の若者が言った。

「では私たちから言わせてもらうわ。

 私たちは、宇宙大学考古学研究所の研究チームよ。

 私は、マリア・スミス主任研究員。こちらはアンナ・フェリーニ研究員よ。」

 マリア主任研究員が、微笑みながら答えた。

 

「ボス。こいつら、ただ者じゃありませんよ。

 我々を見ても、ちっとも怖気(おじけ)づいていないんですぜ。」

「じい。まあ、そう言わずに。

 では、私たちも名乗ろう。

 我々は、宇宙海賊だ。

 私が船長のデーヴィット。こちらが従者のアルベルト、そして長老のジャコモだ。

 それで、御嬢さんたちのような考古学者さんが、こんな辺境の氷の惑星に何の用だい?」

 

「この星の地下に眠る、超古代文明の遺跡を探すために来たのよ。

 私は、この星こそ、『太古植民説』が言うところの『人類の起源の星』だと考えているの。」

 マリアが答えた。

「はあ!??? 

 なんだい、そりゃ。

 ずいぶんと、ブッ飛んだ怪しい話だねえ。

 そんな話は、詐欺師どころか、海賊でもしないよ。」

「私の研究をバカにするの!!

 そう言う常識を超えたところに、新しい発見が待っているのよ。

 そうやって、学問の未来、人類の未来が、開かれるのよ。」

「そりゃまあ、ずいぶんと気合の入った研究ですね。

 何かの役にたつんですかい?」

「確かに、実用的な研究じゃない。

 そもそも、宇宙考古学は、お金儲けのための学問じゃないわ。

 でも、人類の歴史を正しく知ることは、人類の未来を拓くことにつながるわ。

 私はそう信じている。」

 そう言って研究の大切さを力説するマリアを、デーヴィット船長は、微笑みながら見つめていた。

 

「とにかく、ここまで来たのですから、地下の大空洞から氷の下の大地を調査させてほしいの。

 それから、いままでの貴方たちの採掘で、なにか超古代文明の遺物が出土したのではないかしら。あれば、それも見せてほしいの。」

「そんな!

 地下最深部の坑道で調査をするなんて、御嬢さんたちには危険すぎるよ。

 もちろん、超古代文明の遺物なんて今までに見つけたことは無いよ。見つけたのは、過去に訪れた資源調査隊が氷の割れ目の中に捨てたゴミだけさ。

 さあ、もう帰りなさい。

 ここは海賊の仕事場だ。御嬢さんたちの来るところではない。」

 デーヴィット船長が言った。

「イヤよ。ゼッタイ、イヤよ。

 宇宙大学の学長や理事会から

『金儲けにならない宇宙考古学の調査研究に資金は回せない』

 と、さんざん嫌味を言われながらも、5年間もの間、耐えて、耐えて、説得して、やっと研究資金を大学からもらったのよ。

 そして、はるばる三万光年も旅をして、ここまでたどり着いたのよ。

 それなのに、現場も見ないで帰るなんて、できません。」

 マリアが言った。

「へえ~。

 私から見れば、宇宙大学の研究員なんて、空の星のようなお偉い存在なんだけど、ずいぶんと苦労しているんですねえ。

 初めて知りましたよ。」

「そうよ。

 それに、見損なわないでね。

 考古学者は、お金は無いけど、根性はあるのよ。」

「ハハハ・・・。

 元気なお嬢さんですねえ・・・。」

「ねえ。わかったでしょう。

 この調査に懸ける私たちの思い、意気込みが、わかったでしょう。

 だったら、最深部の坑道へ案内してくださいよ。

 ねえ、いいでしょう?」

 そう言って、マリアは、笑顔で頼んだ。しかし、デーヴィット船長も、笑顔でこう言った。

「いや。やっぱり駄目だよ。

 話はこれでおしまい。もう帰りなさい。

 じい。この二人を立て坑の出口まで、お見送りしなさい。」

「いいんですかい。このまま返しても。」

 じいと呼ばれた老人ジャコモは、船長に確かめた。

「ああ。この人たちは、私たちには無縁の人だ。

 このまま無事に帰ってもらう方が、問題がないだろう。」

「承知しました。

 さあ、行こう。」

「イヤよ。ゼッタイ、イヤ。」

「お嬢さん、私の言うことに従ってください。

 私としては、できれば、あなたに銃を突き付けて言うことをきかせるようなことは、やりたくないんですよ。

 それに、そちらのお嬢さん。

 そんなに怖い顔をしないでください。

 私たちは、あなたたちに、危害を加えるつもりは無いんだから。

 むしろ、こんな危険な場所から早くこちらのお嬢さんを連れ出すことができるのだから、あなたにとっても悪い話じゃないでしょう。」

「・・・・・」

 デーヴィット船長がそう言っても、アンナは何も答えなかった。

 

 マリアは相変わらずイヤだと言い続けたが、アンナと「じい」と呼ばれる長老のジャコモに腕を引っ張られて、建物を出て坑道をもどった。

 そして、三人は立坑の底面までやってきた。

「さあ、ここから、もと来たように浮かび上がって、穴を登って行って下さい。

 さあ、さあ。」

 長老ジャコモが言った。

 

 その時、アンナは立坑のはるか上に小さく見える空の景色の変化や、辺りに響く風の音の変化に気が付いた。

「この風の音、気が付いていますか?

 このようすでは、地上は極めて強い風が吹いています。

 ですから、今は、人工重力装置で飛び上がってこの穴を登るのは危険です。

 地上に出た途端に、強風で吹き飛ばされます。」

 アンナは、長老ジャコモに行った。

「そういえば、天気が悪くなったようだ。

 困ったなあ。ボスに相談してみよう。」

 長老はそう言って、小さな通信端末を出して電話をかけた。

「・・・はい。わかりました。

 いったん、そちらへ連れて、戻ります。」

 三人は、再び、箱型の建物に戻った。

 

「お嬢さん、この星の天気は私たちの方が良く知っています。

 この風は、明日の夜明け前には収まります。

 夜明けとともに、帰って下さい。今度は、ゼッタイですよ。」

 デーヴィット船長は、戻ってきた二人に向かってそう言った。

「イヤよ。

 さっそく、地下の大空洞の調査をしたいわ。

 夜明けまでの間でも、時間を無駄にしたくないの。

 案内してくれなくてもいいわ。自分で行きます。それなら良いでしょう? 

 目的を果たせば、貴方の言うとおり、大人しく帰りますから。

 ねえ、ぜひ、行かせてください。」

 マリアが微笑みながら言った。

「だから、それはダメだと言ったでしょ。」

 船長は、苦笑しながら答えた。

「そんなの、了解していないわ。」

 マリアは、また考古学の理念、考古学者の心意気、この調査の意義など、これまでに言ったことを、さらに熱心に繰り返し言いだした。

 

 その時、船長室に海賊の手下が入ってきて、長老に耳打ちした。

 耳打ちされた長老が船長に言った。

「ボス、この部屋から電波が出ているようですぜ。

 たぶんこのお嬢さんが、助けを呼んでいるに違いない。」

「おい、おとなしく発信器を出せ。」

 そういうと、海賊の手下が、アンナに近づいて、強引に手荷物や衣服のポケットを調べようとした。

「おい。やめておけ。手を出すな。

 この女は、たぶん、SFだ。

 女だと思って軽く見るな。お前の手におえるタマじゃない。」

 デーヴィット船長が言った。

「なに? 『エス・エフ』って何のこと? どういう意味なの?」

 マリアが言った。

「お嬢さんが知らないんですか?

 こりゃ、ますます、本物のお嬢さんだねえ。」

 デーヴィット船長が笑った。

「だって、アンナは、この航海のために大学側が臨時の船員として公募して、採用された人なのよ。

 私が知る訳はないでしょ。」

「SFとは、Security Force のことですよ。要人警備専門の凄腕の軍人です。

 本当に心当たりがないんですか。とぼけないでください。

 とにかく、明日の夜明け前に帰って下さい。それまで、この船長室でお休みください。 こんな粗末な部屋で申し訳ないのですが、この部屋がこの建物で一番良い部屋なもので、ここでお許しください。

 それから、救難信号は、すでに妨害電波でブロックしていますから。」

 デーヴィット船長が真剣な表情で言った。

「イヤよ。

 ぜひとも、地下の大空洞を調査したいわ。

 だから、あなたにもっと考古学の大切さをわかって欲しいの。

 私の話を聞いてください。そうすれば・・・」

 そう言って、マリアは、再び考古学の理念、考古学者の心意気、この調査の意義などを、熱心に語り始めた。徹夜してでも、彼を説得しようという意気込みだった。

 

 諦めず、熱心に自説を説くマリアの顔は、本当に輝いていた。

 そして、デーヴィット船長は時々相槌を打ちながら彼女の話を聞きつづけ、彼女の姿を笑顔で眺めるようになっていた。彼は、彼女の話を聞くことをやめなかった。

 

 やがて、この星の夜の時間になった。

 船長は、少し考えてから、言った。

「おい、アルベルト。もうすぐ食事の時間だろう。

 客人にお食事も出さなかったとあっては、船長の恥だ。

 せっかくの機会だから、このお嬢さんたちに、この星の魚料理を食べて頂こう。

 コックのジェーンに私とじいの分も含め、四人分用意するように伝えてくれ。」

「承知しました。」

 従者のアルベルトは、部屋を出て行った。

「いや、せっかくですが・・・。私たちは食べ物を持って来ていますので・・・。」

 アンナが断ろうとした。

 それを遮って、マリアが驚いて、言った。

「船長。今、なんとおっしゃったの?

 この星の魚ですって!? この星に生きた魚がいるんですか?」

「ええ、いますよ。

 この魚料理は、我々にとっては、一番の御馳走なんです。

 と言っても、あなたがたのお口に合うかどうか疑問ですがね。」

 デーヴィット船長が答えた。

「どういうことですか? 生きた魚がいるなんて。」

「実は、この星の厚い氷の下には、海があるんですよ。もともとの海で、凍らずに液体の海のままで残っているところがあるんです。

 そこには、この星が凍りつく前の海の生物が、生き残っているんです。

 氷に閉ざされ二度と太陽を拝めない、暗黒の深海という厳しい環境の中ですが、今でも生き残っているんです。

 健気(けなげ)なものですよね。

 私はこの魚料理を食べるたびに、俺たちもコイツラを見習わなきゃいけないと思うんですよ。

 そう思いませんか?」

「・・・そうですね。

 それにしても、生物の適応力はすごいんですね。

 でも、氷の下の生物は、いずれ凍ってしまうのでしょうか?」

「大丈夫でしょう。

 地下には、火山の熱水が湧きだす『ホットスポット』もあるようですし、そもそもこの星は一応、ハビタブルゾーンにありますから、『氷の星』と言っても外惑星と違って温かい方ですよ。」

「そうですね。

 では、皆さんは、地下の海に潜って、魚を取る漁をしているんですか?」

「いえいえ。海があるのは、地下三キロメートル以下ですから。

 そんな高圧で暗黒の環境に耐えて漁をするなんて、我たちには、とてもできません。

 私たちは、時々、氷の裂け目から吹き出す海水に交じって地表に吹き出される魚たちを拾い集めているだけです。」

「そうですか。では、頂きます。」

「主任、・・・・。」

「良いのよ。アンナ。

 毒が入っていないことを示すために、船長さんも一緒に食べるとおっしゃってるのよ。 お料理を頂きましょう。

 ここに来ないと、食べられないお食事だわ。」

 

 やがて、料理が運ばれてきた。香辛料の良い香りが部屋に満ちた。

 それは確かに「魚」の煮込み料理、ポトフだった。

 しかし、切り身になってお皿に盛られた「魚」の姿は、奇怪だった。

 食べやすいように鱗(うろこ)が剥ぎ取られているが、表皮の色は真っ白だった。しかも、この魚には目がなかった。

 そして、一匹の魚が切られて四人のお皿に分けて盛られている様子から、魚の全身の形を推測すると、かろうじて魚のような形を維持しているものの、極端に大きな口があり、ひれとヒゲが触角のように異様に長く伸びた、奇怪な形をしていると思われた。

 しかし、マリアは、その姿を見ただけで食欲を失いそうな魚料理を前に、こう言った。

 

「ああ、良い香り。

 コックさんは、私たちのために貴重な香辛料を惜しみなく使って頂いたのですね。

 あとで、感謝の言葉を伝えてください。

 頂きます。」

 そういって、マリアは、魚の切り身をフォークで取りながら食べ始めた。

「ああ、おいしいスープの味。

 氷の中で、こんな温かい料理を頂けるなんで、とても贅沢ね。

 魚の切り身も、柔らかくて、結構、脂がのっていて、おいしいわね。」

「本当ですかあ。

 本当に、おいしいと思っているのですか?」

 長老ジャコモは、いぶかしげに聞いた。

「そうよ。なかなかおいしいわ。

 なにより、『おいしいものを食べさせようと、一生懸命に作った』というコックさんの思いが伝わってきますもの。」

 そう言って、マリアは微笑んだ。

 そのマリアの笑顔を見て、長老の表情が和らいだ。

 

 その様子を見ていたアンナは、また、同じことを思った。

『この人の笑顔は、海賊たちの心も明るくする。

 本当に不思議な人だ・・・。』

 

 食事が終わろうという頃に、ひとりの海賊の手下が入ってきて、船長に言った。

「船長。そろそろ、荷出(にだし)の準備をする時間です。」

「よし、いま、行くぞ。

 では、お嬢さんたち。これで失礼します。

 今夜は、徹夜で仕事なんでね。

 夜明け前には、じいがお迎えに来ますから。

 それまで、お嬢さんたちは、この部屋でごゆっくりとお過ごしください。」

 船長はそう言った。

 これを合図に、海賊たちは全員、部屋を出て行ってしまった。

 

 翌日、夜明け前の暗い闇の中で、マリアとアンナは、じいと呼ばれる長老ジャコモに見送られ、立て坑を登って、シャトルに帰った。船長は見送りに現れなかった。

 長老ジャコモは、別れ際にマリアに一つの箱を渡した。

「コックのジェーンから、あなたにお土産です。

 あの料理をおいしいと言って食べてくださったと聞いて、とても喜んでいました。その感謝の気持ちです。

 箱の中身は、この星の氷の下で生きる、魚、エビカニ、イカ、ナマコ、貝など、各種の生物の氷漬けです。

 せっかく調査に来たのに、何の成果もなくお帰りになるのでは残念でしょう。サンプルとしてお持ち帰りください。

 もちろん、みな食べられますので、食べて頂いても良いんですが・・・・。ハハハ」

 

 

3 考古学調査隊のキャンプ

 

 マリアとアンナが無事に帰ってきたので、他の研究員は大喜びだった。

「いやあ、帰ってこられてよかったです。

 通信が途絶えたのは、ケーブルが切れたからだと知った時は、パニックでしたよ。」

「でも、アンナさんから、無事だと言う通信があったので、ほっとしましたよ。

 安心して、待つことができましたから。」

「あれは、正しくは、救難信号なのですけど・・・。」

「え!? そうなんですか? 分かりませんでした。・・・ごめんなさい。」

「いやあ、たとえ救難信号とわかっても、どう対応したら良いのか知りませんでしたし、ただ安心して待っていればいいのかと思っていました。」

「これから、調査マニュアルを良く読んで、こういう時はどうしたらいいのか、よく勉強しておきます。」

「・・・・・。」

 キャンプに残った調査隊のメンバーは生粋の考古学者ばかりなので、救難信号を受けた時にはどう対応するか知識・経験がなく、全く頼りにならなかった。

 その事実を知って、アンナは怒る気にもなれず、黙ってしまった。

 

「とにかく、主任、よくぞご無事で。」

「今から朝食ですが、祝杯をあげましょうか。」

 他の研究員は無邪気に喜んでいた。

彼らも、研究所の上司であり、この調査のリーダーであるマリアが戻ってきたので安心していた。実際のところ、彼らは、なにもかもマリアに頼り切っていたからだ。

 

 その時、夜明けの景色を写真に撮るため外に出ようとしたケンブリッジ研究員が、あわてて戻ってきた。

「主任! たいへんです。

 空に、大きな風船のようなものが飛んでいます。」

「ええ?」

 研究員は全員、外に飛び出した。

 

 空には、大きな円筒形の形をしたものがふわりと浮かんでいた。それは、少しずつ高く、高く、空を登っていくようだった。その表面は、金属のような光沢を帯び、夜明けの日の光に照らされて、輝いていた。

「大きいですね。長さは1キロほどあるでしょうか。

 なるほど、面白い仕組みですね。」

 アンナが言った。

「アンナ、どういう仕組みなの?

 なぜなの? あんな大きなものが風船のように浮かぶなんて。」

 マリアが聞いた。

「たぶん、浮き上がる仕組みは重力制御ですね。

 私たちが立て坑を登ってきたのと同じ仕組みで、スピードはゆっくりですが大量の物資を運ぶ仕組みでしょうね。

 なるほど、こういう使い方もあるんですね。」

「では、これで、大気圏外まで氷を運ぶのですか。」

「そうだと思います。」

「ふーん、こうやって、夜明けの光に照らされながら、穏やかな空を昇って行くのね。

 なかなか美しい光景だわ。

 あの人も、乗っているのかしら・・・。」

 マリアは、空を見つめて微笑んだ。

 

 その時だった。

「うわああああ~~~~!!」

 空を見つめていたマリアは、いきなり目を抑え、大声を上げて、苦しみ始めた。

 研究員たちが驚いてマリアの周りに駆け寄った。

「主任。どうされました?」

 アンナが心配して聞いた。

「何か、ここで起こるのよ。恐ろしいことが・・・。逃げましょう。」

 マリアが言った。

「そうですか・・・。

 みなさん。どうしても失いたくない大事なものだけ手荷物として持って来てください。

 それを持って、とにかくシャトルへ避難しましょう。」

 アンナが言った。

「ええ、どういうことですか?」

 ほかの研究員は戸惑っていた。

「主任の悪い予感は当たるんです。ゼッタイ当たるんです。」

 アンナが厳しい表情で言ったので、みな慌てて荷物を取りに戻った。

 マリアも大切なものがあると言って荷物を取りに戻った。

 

 その時、ズズ~ンという地鳴りに続いて、激しい地震が起こった。

 

「みなさん、急いでこちらへ。」

 アンナが、荷物を持って集まってきた皆に避難誘導の指示をした。

 そして、調査隊全員を乗せると、シャトルは浮上し、キャンプ周辺を旋回して上昇した。

 

 

4 考古学調査隊のシャトル

 

「熱い、熱い、身を焼かれるような波動を感じたわ。これは何の『知らせ』かしら。

 アンナ、上空の宇宙船から気象観測データを取って下さい。特にこのあたりの地表の観測データを取り寄せてください。」

 シャトルの操縦室にいるマリアが言った。

「はい、主任。」

 そう言われると、アンナはすぐに操縦席でキーボードをたたき始めた。

 

「主任。わかりました。

 地表の温度が上がっています。地磁気の異常も観測されます。

 それにこの地震、ということは・・・。」

「アンナ。この土地の地形って、周辺の山脈によってリング状に囲まれているよねえ。」

「そうですね。少し上昇してみます。」

 アンナは、シャトルを上昇させて、キャンプから離れた。

「ああ、本当だ。上から見るとよくわかる。主任の言うとおりです。

 こういうのを外輪山と呼ぶのですよね~~~。学校で習いましたよ~~~。」

 他の研究員が、マリアたちの心配を知らず、楽しそうな声を上げた。

「正確には、噴火湾というのでしょうね。古代の噴火口が海とつながった形でしょう。」

 アンナが、訂正した。

「たぶん、火山の噴火よ。間違いないわ。」

「そうかもしれませんね。

 地底の氷の温度が零度と温かかったのは、噴火の前兆とみるべき地熱の上昇のためだったのでしょうね。

 それでは、このまま、いったん衛星軌道上の宇宙船に戻り、火山噴火の様子を見守りましょう。」

 アンナは、そう言ってシャトルを更に上昇させようとした。

 

「待って、あの人たちがまだ残っているんじゃないかしら。」

 マリアが言った。

「ええ!? あの人たちって、誰ですか?」

 他の研究員たちが言った。

「あの風船のようなものを飛ばした人たちよ。自分たちは海賊だって言ってたわ。」

「穴の中で出会ったのですか?」

「そうよ。ここは俺たちの仕事場だからって、追い返されたわ。

 ねえ、アンナ。あの人たちに連絡が取れないかしら。

 彼らを見捨てて、自分たちだけで逃げる訳にはいかないわ。」

 マリアが言った。

「分かりました。彼らの通信電波を解析してみます。」

 アンナは、シャトルが火山の外輪山から距離を取って旋回するように自動操縦をセット すると、通信コンピューターを操作し始めた。

「電波が発信されているのは、確認しました。でも、通話が解析できません。」

「困ったわねえ。

 あのおじいさんが持っていた通信機は、とても古いものだったから、話が通じないのかしら。こんな非常時なのに・・・。」

 マリアは、ため息をついた。

「古い機種!? そうか・・・わかった。」

 アンナは、通信コンピューターを別のチャンネルに切り替えて、操作した。

 

 すると、いきなり、大きな声が響いた。

「至急、至急。船長、聞こえますか。

 こちらの仲間は、無事です。なんとか地上まで脱出できそうです。

 何度も言いますが、我々を救出するために、船で降りてくるのは、やめてください。」

「じい。何を言っている。お前たちを見捨てるわけにはいかない。必ず助けに行く。」

「船長、危険です。先に行ってください。

 俺たちは自力で、噴火口の外まで避難します。

 船長が船で戻っても、俺たちを乗せていると逃げ遅れて、船ごと火山の噴火に巻き込まれてしまいます。」

「何を言ってるんだ。

 すでに、船は戻り始めている。お前たちを見捨てることはできない。」

 

 緊迫したやり取りが聞こえてきた。

 そこへマリアが割り込んだ。

「船長、海賊のみなさん、聞こえますか?

 宇宙大学調査隊のマリア・スミスです。

 こちらのシャトルには、残ったみなさんを乗せる余裕があります。

 私たちの船に乗って下さい。

 現在位置を知らせてください。救援に向かいます。」

「ええ! 御嬢さんたち、まだそんなところにいたのか!

 さっさと、逃げなさい。」

 船長が言った。

「何を言ってるの。みなさんを見捨てて逃げるわけにはいかないわ。」

 マリアが言った。

「大丈夫です。

 こちらのシャトルは、見かけより頑丈でスピードが出ますから、残った皆さんを助けて噴火から逃げることも出来ます。

 それより、早く現在位置を教えてください。」

 アンナが口を挟んだ。

 

「船長、SF(Security Force)ができると言うなら、間違いないでしょう。

 この際、助けてもらいますよ。

 ですから、船長、船をそのまま上昇させてください。降下するのは危険です。」

 長老ジャコモは、冷静に言った。

「何、言ってるんだ・・・。」

「御嬢さん、ジャコモだ。こちらは、ようやく地表に出たところだ。

 誘導電波を発信するので、来てくれ。待っているぞ。」

「了解した。」

 

 アンナは、シャトルを誘導電波が出ている方向に向けて、飛ばした。

 やがて、氷の上で大勢の人間が手を振っている姿が見えてきた。

 シャトルはその近くに着陸して、海賊たちを乗せ、発進した。

 

 シャトルの貨物室に乗った海賊たちに、操縦席にいるアンナが言った。

「今、椅子を出しますから、そこに座って下さい。

 急上昇しますから、人工重力が対応できず、倒される恐れがありますので。」

 たちまち、シャトルの荷物室の壁から椅子がせり出してきた。

 それを見て、長老ジャコモは思った。

 

『なんだ、この椅子は。幅がやけに広い。

 戦闘用の防護服を着ていても、楽に座れるサイズだ・・・ということは。

 思い出したぞ。この椅子には見覚えがあるぞ。

 やっぱり、この船は、軍用機だな。

 外見は偽装されているが、中身は白兵戦に突撃する兵士を運ぶ帝国軍の強襲艦だ。敵艦に体当たりもできる、頑丈な船だ。

 これなら、火山の噴火に遭遇しても大丈夫と言うはずだ。フフフ・・・。』

 

 シャトルは海賊たちを乗せて、衛星軌道上の宇宙大学の小型宇宙船まで急上昇した。

 やがて、シャトルは、小型宇宙船とドッキングして、まず他の研究員を乗り移らせた。他の研究員は、海賊を怖がり、顔も見たくないと言って小型宇宙船の自室に早く引っ込んでしまうことを強く望んだからだ。次いで、運んできた荷物も移された。

 

 その後、マリアとアンナは、貨物室を訪れ、ジャコモ達に会った。

「けがをしている人はいませんか? みなさん、大丈夫ですか。」

 マリアが言った。

「それと、保存用の宇宙食ですが、飲み物や食べ物をお持ちしました。」

 アンナがそう言って、カートで運んできた大きな箱を渡した。

「けが人はいません。

 それに、食事までご配慮いただいて感謝します。

 なにせ、こちらは、朝の食事もこれからと言う時に、逃げ出してきたものですから。」

 ジャコモが礼を言った。

 他の海賊たちは、歓声をあげて宇宙食を食べ始めた。

 

「それで、次は、貴方たちを、母船にお送りするのですが、・・・。

 ジャコモさん、母船に連絡が取れますか?

 私の方から連絡する必要があるなら、通信方法を教えてください。」

 アンナが言った。

「いや。その必要はありません。位置は分かっています。

 この星の赤道上の静止軌道で、この調査船とほぼ反対の位置にいますから、そちらに向 かってください。」

「わかりました。」

 

 シャトルは発信して、母船に向かった。

 その途中、地上では、火山の大噴火が起こっていた。

 マリアたちのいたキャンプや海賊たちの基地は跡形もなく吹き飛ばされ、辺り一面は、巨大な噴火口になっていた。

 

 やがて、小型宇宙船の前方に、古めかしい移民船のような船の姿が現れた。その近くに、夜明けに空を飛んでいるのを見た飛行船のような形の超大型の荷物運搬船が停泊していた。

「あの母船は、トレスポンダーを発信していません。

 ですが、外見から型式を判断すると、200年以上前に建造されたと思われる移民船に似ています。」

 アンナが、コンピューターの船舶データベースを操作しながら、言った。

「あの船の正体を探るのは、やめましょう。私たちにとって、意味のないことだわ。」

 マリアが言った。

 

 シャトルは、誘導電波にしたがって、母船とドッキングし、救助した海賊たちを母船に返した。

「う~ん。これで、用は済んだけど・・・。

 これで帰るのは、何か心残りなのよねえ。・・・・・」

 マリアは、手を口に当てて、少し考える様子をした。

 

「そうだ、まだ船長に会っていないわ。

 もう、母船まで帰ってきているはずよね。運搬船が見えたもの。

 それなのに、あの人、私にお礼の一つも言って来ないし・・・。

 失礼しちゃうわ。

 これは、ひとこと、言ってやらないとねえ。」

 

 そう決意すると、今すぐに船長に会いたくなったマリアは、まだ繋がっていたドッキングブリッジを走って渡り、一人で船のドアを開けて海賊たちの母船に乗り込んでいった。

 その後を、あわててアンナが追った。

 

 

5 「海賊」たちの母船

 

 海賊たちの母船の内部は、想像以上に旧式だった。エアコンの浄化機能が低いためか、船内の空気はよどみ、悪臭がした。

 しかし、マリアは気にせず、船内に入って行った。

 やがて、マリアたちの侵入に気付いた海賊の男たちが、銃を突きつけて、マリアとアンナの行く手を遮った。

「おい。止まれ。何の用だ。」

「『おい』とは、ひどいご挨拶ねえ。

 先ほど、ジャコモさんたちを助けてあなた達の元に送り届けたのは、私たちなのよ。

 船長を呼びなさい。」

 マリアが言った。

「う・・・。

 おい、とにかく、船長に連絡を・・・・。」

「それが、あの・・・・。」

 海賊たちが何か、ひそひそと話している間に、マリアは船の中を見渡した。

 すると、廊下の角や半開きのドアの間から、子供たちがのぞいていた。その表情は好奇心にあふれた、澄んだ目をしていた。そのそばには、その母親や祖母らしい大勢の女たちが、同じように好奇心と、そして驚きに満ちた目で、マリアたちをのぞいていた。

 マリアが、彼らに笑顔を向けた。

 すると、子供たちはすぐに笑顔を返してきた。しかし、大人の女たちはますます驚きの表情を深めていた。

 

「おい。みんな、下がれ。わしがお相手する。」

 やがて海賊たちの後ろから、長老ジャコモが姿を現した。

 ジャコモは、宇宙船の床に片手片足をつけて頭を深く下げる、臣下の礼をした。

 それを見た海賊たちが驚きの声を上げたが、それにかまわず、ジャコモは言った。

「先ほどは、私たちをお助けいただき、御礼の申し上げようもございません。

 この御恩は、決して忘れません。そして、御恩は、必ずお返しします。我らの命と海賊の誇りにかけてお誓い申し上げます。」

 そう言って、ジャコモは再び深く深く頭を下げ、そして言った。

「ですが、お嬢様。この船から直ちにお帰り下さい。

 ご覧のように、ここは我ら海賊たちの棲家(すみか)です。

 お嬢様が足を踏み入れるのにふさわしいところではございません。」

「ジャコモさん。ごめんなさい。

 あなた達の家に、許しも得ないで入り込んだ非礼は詫びます。

 ただ、私は最後に一言、船長にあいさつをして帰りたかっただけです。

 船長に会わせてください。」

「仰(おっしゃ)ること、真(まこと)に、ごもっともでございます。

 この場は、船長自ら、お嬢様にお礼を申し上げねばならないところでございます。

 しかし、お許しください。船長は今、船におりません。

 噴火の前に、まだ地上に残った仲間を救うために、シャトルで降下していったそうです。」

「なんですって・・・。まだ、地上に残っている人たちがいたのですか!?

 それに、噴火の前とおっしゃいましたね。

 今、船長はどうしているんですか? 連絡は取れているんですか?」

 マリアの問いに、ジャコモは首を振った。

 

「ええ~~!! デーヴィットが行方不明なの!!」

 マリアは大きな声で叫んだ。

 

 その後、マリアは涙を流し、今にも気を失って倒れそうな状態になってしまった。

 そのため、マリアは、彼のことを「船長」と呼ばず、「デーヴィット」と名前で呼んでいることには気が付かなかった。

 それを見たアンナはマリアの腕を取って寄り添った。そして、二人は、ドッキングブリッジを通って、シャトルに帰っていった。

 

 二人がシャトルに戻り、ドッキングが解除されたことを確認して、ジャコモが言った。

「誰だ!? 二人を船の中に入れたのは?

 俺が船に戻った時に、ドアはちゃんとロックしたはずだ。」

「いえ。俺達じゃありません。

 あいつらが、勝手に入り込んできたんです。」

「嘘をつくな。若くて美人の女たちが来たと思って、誰かがドアを開けたんだろう。」

「本当です。俺たちは何もしていません。」

「まあいい。無事に済んだからな。

 言っておくが、あいつらはタダモノじゃないぞ。俺には分かる。

 従者のようにふるまっていた女は、強いぞ。SF(Security Force)と言っても良いレベルだ。素手でお前たちの五人や十人、相手に出来る凄腕だぞ。

 それに、あの軍用シャトルも、軽々と操縦していやがった。

 そんな凄腕の奴を当たり前のように従えている、もうひとりの女は、さらに正体が知れない、本当に怖い奴だ。

 笑顔に騙されるな!

 あんな奴らに関心を持つな。いいな。」

 

そう言っているジャコモのそばへ、一人の黒い喪服姿の老女が近づいてきて、言った。

「ご苦労様。ありがとう。」

 

 

6 考古学調査隊のシャトル

 

 マリアとアンナを乗せたシャトルは、海賊の母船から離れ、宇宙大学の調査船に向かった。

 マリアは、操縦室の助手席に座って、しばらく泣いていた。

 やがて、泣き止んだマリアが言った。

「でも、変だわ。

 私、デーヴィットに会っても、彼がまもなく死ぬという運命を感じなかったわ。

 珍しいことねえ。

 それとも、彼は、私が泣くほど大切な人じゃなかったのかしら。

 ふうむ・・・。」

 そう言って、マリアは考え始めた。

 

「やっぱり、そうだわ。デーヴィットは、まだ生きているのよ。

 私が助けに行かなくちゃ。

 アンナ、通信機を貸してください。」

 マリアは、シャトルの通信機を海賊たちのチャンネルにセットすると、通信を始めた。

「こちらは、宇宙大学考古学調査隊のマリア・スミスです。

 海賊船、聞こえますか?

 これから船長を助けに地上へ行きます。

 船長の降下した位置を教えて下さい。」

 しかし、返事は無かった。

「う~ん。教えないつもりかしら。

 そうだ、考古学調査隊のメンバーに連絡を取っておかないと・・・。」

 

 マリアは、通信チャンネルを切り替えると、宇宙大学の小型宇宙船に連絡を取った。

「こちらマリア・スミス。調査船、聞こえますか。」

「はい。聞こえます。」

「海賊たちは無事に母船に送り届けたわ。

 でも、まだ地上に人が残っているらしいの。これから救助に向かうわ。」

 マリアが言った。

「あの~。地上では火山の噴火もあり、何が起こるか分かりません。

 みなさん。今度は、非常対策マニュアルをちゃんと読んで、もしも私たちが24時間たっても戻らなかったら、救難信号を発信して助けを呼んでください。

 お願いします。

 皆さんだけでは、その宇宙船で宇宙大学まで帰れないでしょう?」

 アンナが口を挟んだ。

「そ、そ、そうですね。ちゃんと助けを呼びますから・・・・。」

「でも、そんな怖いことを言わないでくださいよ。我々だけで帰るなんて・・・。」

 緊張した声で、研究員たちが答えた。

 

「相変わらず、海賊船からは連絡がありません。

 主任。どういたしましょうか?」

 アンナは、シャトルを宇宙大学の調査船に向かって飛行させながら、マリアに聞いた。

「そうねえ、船長が仲間を探しに地上に降下して音信不通になったと言うなら、降りた場所は噴火口付近以外に考えられないわ。

 噴火口の近くを空から探してみましょうか。」

「承知しました。」

 

 やがて、シャトルは、噴火口周辺の上空を飛び地上の様子を探ったが、手掛かりは得られなかった。

 

「やっぱり、火山の噴火に巻き込まれたのかしら・・・。」

「あのう、お言葉を返すようですが・・・・。

 私としては、別の可能性の方が高いと思います。」

「別の可能性!? なに、それ。言ってみて。」

「はい。ジャコモさんが真実を言っていないと言うことです。」

「私たちは、ダマされたと言うことですか・・・。」

「ダマされたというか、彼らの船から追い返されただけというか・・・。」

「う~~ん。デーヴィットは、やっぱり、あの船にいたのね。

 何のために、そんなことをしたのかしら・・・。」

「わかりません。・・・・」

 

 これまでずっとマリアのそばに寄り添っていたアンナの『女のカン』は、ひとつの答えを見つけていた。しかし、彼女はそれを言わなかった。

 

「もお~~。失礼しちゃうわねえ。

 やっぱり、デーヴィットに直接会って、ひとこと言ってやらないとね。

 アンナ、船を海賊船に戻してちょうだい。」

「よろしいのですか? 彼らが乗船を認めるとは思いませんが・・・・。」

「その時は、その時よ。無理やり乗り込んでも良いわ。

 この船が軍用の強襲艦だってことは、私だって知ってるわよ。

 私も、考古学者になる前は、軍人になろうと思っていた時もあったのよ。」

「はぁ・・・・・。」

 

 アンナは自分の『女のカン』が当たっていることを実感するとともに、マリアがまだそれを自覚していないことを知って、ため息をついた。

 

 シャトルが、海賊の母船をレーダーで捕捉し、接近しようとした。

 しかし、海賊船と運搬船はシャトルの接近に気付いたらしく、直ちに超高速跳躍して通常空間から消えてしまった。

 

「もお~~~! ジャコモのヤツ、命の恩人に対して、態度悪いわねえ。

 『御恩は、必ずお返しします』なんて言ってたのに、やってくれるじゃないの。

 アンナ、時空震の航跡を探査して、あの船を追いかけてよ。この船はそう言うことも出来る船のはずよ。」

「その通りですが、そこまでなさる御気持ちですか。

 私としては、『去る者は追わず』でもよいかと思いますが・・・。」

「私の気が済まないの。バカにしているわよ。ホント。」

「はあ・・・。では、お嬢様のおっしゃるとおりにいたします。」

 

 二人を乗せたシャトルは、航跡を追って、超高速跳躍した。

 

 




このエピローグ第2章も、書き出すと長くなったので、書けたところで、投稿させていただきます。
 今月中には、書き終えたいのですが・・・。
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