宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 茉莉香の新しい弁天丸Ⅱ世がいよいよ完成します。
 帝都の造船所で豪快な進水式が行われます。
 頑丈な海賊船らしい進水式を描きました。
 そして、その晩は完成披露パーティ。そこには、大勢のお客さんがあつまります。
 茉莉香の後輩、白鴎女学院のヨット部員とOGは、パーティでメイドさん役でお手伝いしますが、ヨット部員がそれだけで終わる筈はありません。
 茉莉香に内緒で、海賊ショーの準備が進んでいました。
 茉莉香はビックリしますが、度胸を決めて、海賊ショーを始めます。
 ショーには変装したグリューエルも登場。二人の男性との剣劇に続いて、最後はグリューエルも「女の勝負」を茉莉香に挑みます。
 もちろん、楽しいバカ騒ぎは、これから始まる事件の序章です。

追伸 この章からセレニティ編として連載することにして、題名を改めました。
   これからは、グリューエルが主人公です。


第二十九章 弁天丸Ⅱの進水式 -セレニティ編-

1 進水式(シャーロット造船所 惑星クリスタルシティ)

 

 ここは、ステープル重工業のシャーロット造船所である。

造船所は、銀河帝国の帝都である惑星クリスタルシティの工業都市シャーロットタウンにある。宇宙海賊船弁天丸の新しい船は、この造船所で作られている。

 最近では、宇宙船は宇宙空間の造船ドックで作られることが多い。

 最近の宇宙船、特に民間船は、無重力の宇宙空間の飛行に必要かつ最小限の機能を持てばよいという考えで、コストと機能を限界まで削減して作られる。このため、ほとんどの船は推進剤を燃料にして地上から宇宙空間まで自力で加速・上昇できる従来型の高出力エンジンを装備しないからである。

 これに対して、新しい弁天丸は、軍艦同様の頑丈な作りの海賊船というだけでなく、最新鋭の重力制御推進エンジンを搭載して大気圏の飛行能力を持つなどの理由から、地上の造船ドックで作られた。

 だから、進水式も地上で行われる。

 

「それでは、ただいまより、進水式を行います。

 まず、最初に命名の儀を執り行います。」

 

 司会者である銀河テレビの元人気キャスター、スージー・ウオーターメロンがそう言うと、ブラスバンドが華やかなファンファーレを演奏した。

 その様子を、銀河テレビの報道スタッフが録画している。

 

「命名は、グリューエル・セレニティ殿下に、お願い致します。

 殿下、どうぞ。」

 セレニティ王室伝統の正装をしたグリューエルは、そう言われて、造船所のドックの中に設けられたひな壇の中央に進み出た。

 大勢の来賓、関係者そして造船所の職員が見守るなかで、彼女は言った。

 

「私は、この船を、弁天丸Ⅱ(にせい)と命名します。」

 拍手がこだまし、また、ブラスバンドが華やかなファンファーレを演奏した。

 

「それでは、いよいよ支綱切断(しこうせつだん)の儀を執り行います。

 支綱切断もグリューエル・セレニティ殿下に、お願い致します。」

 

 グリューエルは、ひな壇最前部の机に歩み寄った。そこには、弁天丸Ⅱ世と結び付けられた支綱(しこう)の端が結び付けられていた。

 

「えい!」

 渡された小さな銀の斧を、グリューエルが振りおろし、支綱を切断した。

 すると、綱の先に結び付けられた赤ワインの大きなビンがゆっくりと弧を描いて、弁天丸Ⅱに向かって進んで行った。古代の海賊船の進水式では、いけにえの血が捧げられたといわれるが、現代では赤ワインである。

 

 ガシャーン

 ビンが船体にぶつかって割れ、赤ワインが船体にかかった。

 拍手がこだまし、ブラスバンドが勇壮な音楽を演奏した。

 いよいよ、これから、進水式のメインイベントである。

 

「いや~~。ついに、本物の浸水式ですよ。うれしいです。

 ああ、ステープルさん。本当にありがとうございます。」

 船の発注者として、ひな壇にいた茉莉香が、隣に座っているステープル重工業の社長・ジョージ・ステープルにお礼を言った。

「いえいえ、お礼をいうのは、こちらです。

 特に、茉莉香さんの御希望で、本当に100年ぶりの昔ながらの進水式、しかも、いわゆる『アメリカン・スタイル』の進水式を、この造船所で行うことができるのですからね。

 造船所の職員は、とても喜んでいましたよ。」

「いえいえ、こちらこそ。

 無理なお願いを聞き入れて頂いて、感謝しております。

 わたし、新しい弁天丸も海賊船なので、進水式も海賊船らしいものにしたかったものですから。」

「そうですね。海賊船くらいの頑丈な宇宙船でないと、こんなことはできませんからね。

 さあ、ご覧ください、間もなく、動き出しますよ。」

 

 茉莉香は、ひな壇の席から、ドックの上でレールに乗せられた弁天丸とそれを取り巻く造船所の様子を眺めた。

「あっ! 対岸の岸壁に、造船所の人がたくさん並んでおられますが、進水式を見に来ていただいているのですか? 」

 茉莉香が、ステープル社長に聞いた。

「あれは、今日の進水式の余興のために集まっているのです。」

「えっ。『余興』? いったい何をなさるのですか?」

「ハハハ・・・。それは見てのお楽しみということで。

 それにしても、茉莉香さん。

少しお会いしていない間に、ずいぶん帝都の雰囲気になじんで、ご立派になられましたね。もう堂々としたレディですね。」

 社長は、茉莉香の立ち振る舞いや言葉遣いが洗練されてきたことを誉めた。

 誉められて、茉莉香が喜んだことは言うまでもない。今日のために学んで、練習してきたのだから。

 

 「うわ~っ。」

 

 その時、弁天丸Ⅱ世が、レールの上を動き出した。これをみた人々から、歓声が上がった。拍手が湧き上がり、勇ましい行進曲が演奏された。

 弁天丸は後退でも前進でもなく、船体ごと右舷に向かって、横すべりを始めている。

 そして、しだいに速度を増してゆく。

 弁天丸Ⅱ世は、観客の予想以上の速度でレールの上を進み、そしてレールから離れた。その瞬間、全長300メートルの巨体が一瞬、宙に浮いた。

 

 「ああ~っ!!」

 

 驚きの声が上がった次の瞬間、弁天丸Ⅱ世の巨体が、そのまま、ドック前の海へ落ちた。

 いや、海に投げ落とされたと言う方が正確だろう。

 この横滑りで海に投げ込むような形の進水式を、この造船所の言葉では『アメリカン・スタイル』という。なお、今では、『アメリカン』の語源は誰にもわからないという。

 

 ドボーン!!!

 

 弁天丸は、轟音を響かせ、水面に落下し、きわめて大きな波しぶきを周辺にまき散らした。その波しぶきは、広く遠く、進水式の来賓席や造船所関係者のところまで届いた。

 

「キヤ~」

「うわー」

 

 波しぶきをかぶった人たちから、悲鳴のような、歓声のような叫び声があがった。

 次の瞬間、弁天丸Ⅱ世を中心に大きな波が湧き上がり、海面が激しく逆立った。

 その海面の上で、弁天丸Ⅱ世は、ひっくり返りそうなくらいに大きく傾いて揺れている。船が大きいだけにその動きも迫力がある。

 

 「うお~っ!!」

 

 それは、今まで見たこともない、豪快な光景だった。そして、それを見た来賓や造船所の人々は、大きな歓声をあげた。

 

 もちろん、話はそれだけでは終わらない。

 大きな波は、造船所ドックの岸壁にぶつかって、また大きな波しぶきを、高々と吹き上げた。

 そして、また波しぶきをかぶった人々から、大きな歓声や悲鳴があがった。

 さらに、大きな波は、造船所の対岸にある岸壁を襲った。

 こちらの岸壁はドック側よりもやや低いせいか、迫ってくる波の高さは、岸壁の上で進水式を見ていた造船所の人々の頭上を越えていた。

 

「こりゃ、やばい。」

「キャー」

 

 それまで対岸の岸壁で楽しそうに進水式を見ていた人たちは、一斉に逃げ出した。

 そして、大波は岸壁の上に乗り上げ、水の壁となってかなりの速度で彼らを追いかけ始めた。もちろん、対岸で見ていた人たちは、波に追いつかれまいと必死に走って逃げている。

 それを見た、貴賓席の招待客から、声援が飛び始めた。

 

「お~い。逃げろ、逃げろ~~。」

「がんばれ~~~。」

「キャー・・がんばって・・・・。」

 

 しかし、逃げる人の後から、波が追い付き、次々と人々が波をかぶった。

 

「あ~あ~。びしょ濡れになったじゃないか。」

「あ・・・、逃げ遅れたヤツが、波の中で転んだ! ワハハハ・・・あのカッコウ!」

「あれでは、もう、お洋服が、びしょ濡れですわね。」

 

 やがて、波は引いて、海に戻っていくが・・・・。

「あ、引き波から逃げ遅れた人が何人か、波にさらわれて、海に落ちたぞ。」

「キャーっ! 溺れちゃうわ・・・!」

「おーい。あいつらを助けろ!」

 

 しかし、海に落ちた人々は、身に着けていたライフ・ジャケットが自動的に膨らみ、海面に浮かんできた。

 そこへ、飛行式のライフセーバー・ロボットがやってきて、海に落ちた人々を次々拾い上げていく。

 先ほどまで心配顔をして成り行きを見ていた人々に、安ど感が広がっていった。

 

「みなさーん、大丈夫ですか~~~?」

 いつの間にか、来客席の最前列まで出て来ていた茉莉香が、波をかぶってびしょ濡れになった人々や、海に落ちて救助された人々に向かって、そう呼びかけて手を振った。

「大丈夫で~~す。」

 呼びかけられた人々が、みんな、笑顔で手を振って茉莉香に答えた。

 

「ああよかった、みんな無事で。

 でも、あれは、やっぱり『余興』なのですよね。社長さん。」

 自分の席に戻ってきた茉莉香が、ステープル社長に聞いた。

「そうです。楽しんでいただけましたか?」

「まあ、ホホホ・・・波の迫力にはちょっとびっくりいたしましたけれど」

「そうですね。やっぱり、彼らも本物の大波が迫ってくると怖くなったようですね。

 コンピューター予測通りの大波だったようですが、逃げる時はみんな本気で逃げていましたね。ハハハ・・・」

 

 

2 弁天丸披露パーティ

 

 弁天丸進水式終了後に、造船所のあるシャーロットタウンの高級ホテルで披露パーティが行われた。

 パーティは、ホテル最大の大広間で行われた。大広間の正面には、弁天丸の大きな模型が飾られ、進水式披露パーティの雰囲気を盛り上げている。

 大広間には、多くの招待客が集まった。

 その来客を前に、主催者の、ステープル社長と茉莉香が最初に挨拶し、その後、帝国軍のエース、ミニッツ准将が乾杯の発声をした。

 そして、パーティは、懇談と会食に移って行った。

 パーティの出席者は、王族、政治家、財界、軍人などのトップクラスが多く集まり、豪華な顔ぶれだった。これは、弁天丸の船長加藤茉莉香の交際の広さと、彼女への期待を反映している。

 加えて、今日は女性の出席者が極めて多い。だから、会場は余計に華やかな雰囲気になっている。

 招待状が男女同伴というのは帝都の常識であるが、進水式の披露パーティは帝都から遠く離れた造船所で行われることもあって、普通は女性の出席者は少ない。

しかし、今日、出席した女性たちには、特別な理由、期待があった。

 

 また、会場では、ウエイトレスによってシャンパンやドリンクが配られているが、そのウエイトレスの中に、メイド服を着た白凰女学院のヨット部員やそのOGたちが加わっていた。

 

 茉莉香は、大勢のお客さんに挨拶をするため、忙しく会場内を回っていた。

 

 それもやっと一段落したころ、茉莉香は、リリイを見つけて礼を言った。

「やあ、リリイ。今日はありがとう。」

「おめでとう! 茉莉香。

 進水式、すごかったねえ。

 さすが、海賊船の進水式は豪快だって、みんな感動していたよ。」

 リリイは、ロングスカートの黒のメイド服スタイルで、お盆にドリンクを乗せていた。

「いやあ、ありがとう。

 ねえ、リリイ。そのメイド服、マミの新作でしょ。

 可愛いねえ。よく似合っているよ。」

「いやあ、ありがとう。

 でも、茉莉香にもお礼を言わないとね。

 進水式だけじゃなくて、茉莉香の新しい弁天丸に、明日、実際に乗せてくれると言うので、みんな大喜びだよ。

 特に今年入部した一年生は、『憧れの加藤茉莉香先輩に会えて、しかも海賊船に生まれて初めて乗る』と言うので、オオハシャギだよ。」

「ナハハ・・・。ありがとうね。

 それにしても、今年の一年生は、私たちの時よりも元気そうだね。」

「そうね。留学生も増えたし、帝都の華やかな雰囲気にもすぐになじんで、昔の私たちみたいに、田舎モノって感じがしないのよねえ。」

 

「あ! クリス先生が見えたよ。しかも、男性同伴で。なんと、腕まで組んでいるわよ・・。」

 リリイが、少し遅れてパーティにやってきたクリスティア王女を見つけて、そう言った。

「違うわよ、リリイ。

 あの男性は、パーティの主催者側、ステープル重工業の若(わか)専務、アーサー様。

 だから、今日のパーティでは、先生はその同伴者という立場でもあるのよね。」

 ハラマキが訂正した。

「ということは、彼が噂のサーシャのお兄さんなの。

 それにしても、先生、本当に嬉しそうね。」

 リリイが言った。

「そうね。

 だから、今日は、王女様とその交際相手とのツーショットが見られるかもしれないと期待して、王室ファンの女性の出席者が多いのよ。

 みんな、わざわざ帝都からここまで、二人の姿を見に来たのよ。

 そこへ、堂々と二人で腕を組んで御登場とは、ほんとに期待以上の展開ね。フフフ・・・」

 王室ファンのハラマキが、笑って解説した。

「へえ~~。そうなんだぁ。」

 茉莉香が言った。

「私も、茉莉香には悪いけど、今日は、そっちの方に興味があるんだなぁ。ヘヘヘ・・・。

 二人の交際は、まだ、報道禁止らしいからね。」

 噂の二人は、あっという間に大勢の人に取り巻かれ、パーティ中の注目を集めている。いつの時代も、王室の慶事は人々の関心の的である。

「うわ~~。先生たち、すごい人気。」

 いつの間にか茉莉香の周りに集まっていたヨット部員たちからも、ため息と歓声が上がった。

「私も、ご挨拶をしなくちゃ・・・。」

 茉莉香は、リリイ達と離れて、人垣の中へ進んでいった。

 

 そのころ、注目を集める第一王女のカップルの陰に隠れて、四人の男女が目立たないように会場に入ってきた。

「あっ、チアキちゃん。」

 リリイがチアキを見つけて、声をかけた。

「や、久しぶりねえ。みんな元気?」

「そうだ、チアキ先輩。今年の一年生を御紹介します。こちらから、・・・・」

 ナタリアが、一人一人、一年生を紹介していた。

 これに応えて、一年生たちは一人一人、上手にカーテシーの作法通りの挨拶をしていた。

 挨拶を受ける間も、チアキはエドワードとぴったり寄り添って、時々見つめ合って言葉を交わしていた。腕こそ組んでいないが、こちらもツーショットの雰囲気だった。

 

「殿下、お久しぶりです。卒業ダンスパーティではありがとうございました。」

 その傍らでは、ハラマキが、真っ先にアレックス王子に挨拶した。

 遅れてやってきたのは、チアキ、アレックスの王族と、エドワード・ドリトル氏、ギルバート・モーガン氏の四人だった。

 ヨット部員は、口々に三人の男性に挨拶したり、一年生を紹介したりしていた。

 

「アレックス様、ギルバート様。

 茉莉香をお探しなら、あちらです。クリス先生のところへごあいさつに行って、まだ戻りませんよ。フフフ・・・」

 リリイが、会場のあちこちに目線を配って人を探している様子の男二人を見て、意味ありげに微笑んだ。

「では、グリューエルさんは、どちらですか?」

 アレックス王子が、リリイに聞いた。

「グリューエルは、あちらの一番奥ですよ。いろんな方と話が弾んでいるようですね。」

 アレックス王子がグリューエルを目線で探すと、奥にいるグリューエルの姿が目にとまった。彼女は、セレニティ王家の正装姿のまま、パーティに出席していた。

 グリューエルはアレックスが来たことに気が付いて、周りに挨拶しながら、彼の方へ動き出した。

 

 そのとき、

「ハイ、ハーイ。ヨット部のみなさん。

 今日の私たちは、メイドさんですよ。

 先輩へのご挨拶はそのくらいにして、お仕事をしましょう。」

 今日は可愛いメイド服を着て女の子らしい姿をしたヨット部長のナタリアが、みんなに声をかけた。

「ハイ、部長。」

 ヨット部員たちは、元気よく返事をして、さっと会場に散って行った。

 実は、そのころまでには、会場の来客も、チアキ王女やアレックス王子の存在に気が付いて、二人に挨拶しようと集まってきていたが、ヨット部員が二人の周りを取り囲み、近づけなかった。これに気が付いたナタリアが、部員に声をかけたのだった。

 たちまち、チアキ、アレックスの二人は、大勢の来客に囲まれた。

 

 グリューエルは、アレックスに向かって歩いていたが、彼を取り囲んでいる人垣に圧倒されて、立ち止った。

「あんな人垣の中って、ちょっと近寄れない雰囲気だよねえ。グリューエルさん。」

 そう言って、グリューエルの隣にサーシャがやってきた。

 今日の彼女は、ヨット部OGではあるが、メイド服ではなく、豪華なドレス姿だった。ステープル家の娘としての役割もあることを考えてのことだろう。

 しかし、グリューエルが見ると、サーシャの視線は、アレックス王子ではなく、兄の アーサーとクリスティア王女の方に向けられていた。

 グリューエルは、サーシャの秘めた思いに気が付いた。

「そうですね。ちょっと入っていけませんね。」

 グリューエルは、気付かないふりをして、相槌(あいづち)をうった。

「そうよねえ。あの人の多さではねえ・・・。」

 現役ヨット部員として、メイド服を着ているブルック王国のアメリア王女が、そっと二人に近づいてきて、同じようなことを言った。

 しかし、彼女の視線は、チアキとエドワード・ドリトルに向けられていた。

 三人は同じような言葉を口にしながら、それぞれの思いは違っていた。

 

「そこの三人! ハイ、ハイ、元気を出しなさいよ。笑って、笑って・・・。

 今日は、おめでたい、弁天丸のお祝いパーティなのよ。」

 メイド服姿のリリイがそう言ってやってきた。彼女なりに励ましてくれているようだ。

 

 やがて、一人の青年がサーシャの前にやって来た。

「サーシャ。あちらへまいりましょう。お母様がお呼びですよ。」

「はい。お兄様。」

 サーシャは、ステープル家の次兄ヘンリーに従って、兄のアーサーとクリスティア王女を囲む人込みの方へ進んでいった。人込みの中では、ヘンリーが彼女の手を取ってリードして進んでいった。ヘンリーは意気揚々とした表情をしていた。

 

 グリューエルは、サーシャを見送りつつ、再びアレックス王子を囲む人々を眺めていた。

「グリューエル! どうしたの、早くこっちへ来なさいよ。」

 そう言って、チアキが、グリューエルの前にやってきた。

「あ、チアキ様。」

「さあ、いきましょう。」

 チアキは、彼女をアレックスの前まで連れて行った。

 すると、アレックス王子の方からグリューエルに話しかけてきた。

「いやあ、グリューエルさん。お久しぶりです、遠征以来ですね。」

「ええ!? 私(わたくし)のことを覚えて頂いているのですか・・・。

 とても、光栄です。」

 グリューエルは、少し頬を赤くして、答えた。

「何をおっしゃいます。

 遠征では、患者と医師という立場でお会いしたので、お話も十分できなかったのですが、あの時、『モンブランの神童』も遠征に同行されていると聞いて、お会いするのを楽しみにしていたのですよ。」

「ええ、そんなことまで・・・では、以前から私のことをご存じでいらしたのですね。」

 グリューエルは、顔を真っ赤にして恥らっていた。

 

「えっ、『モンブラン』? お菓子の名前じゃないよねぇ・・・・。」

 茉莉香は、アレックスの話を聞いて、そう言った。

 茉莉香は、クリスティア王女にあいさつを済ませて、ギルバートとアレックスのところへやってきたところだった。

「『モンブラン』とは白い山という意味ですが、セレニティでは、王族の住む丘のことを 意味します。丘の上に王族の住む白い建物が並んでいることから、そう呼ばれております。

 そして、お姉さまは、小さな子供の頃から、学問の才能を高く評価されておられましたから・・・。」

 メイド服を着たヒルデが、茉莉香に言った。

「へえ~。やっぱりグリューエルって、すごいんだねえ。」

 茉莉香が感心した。

「ところで、ねえ、ヒルデ。

 あなた、今日はメイド服を着ているけど、かまわないの?

 あなたも王女様なんだし・・。」

「ご心配なく。これは『変装』です。

 この方が正体もバレませんから、自由に動けますわ。

 それに、あちらのアメリア様も、ご一緒ですわ。ほら・・・。」

 ヒルデは、アメリア姫のいる方向を目線で示した。

「アッ! アイツ。私がちょっと目を離したすきに・・・もう。」

 チアキが憤慨して、エドワード・ドリトルに楽しそうに話しかけているアメリアの方へ飛び出していった。

 

 やがて、パーティの終了時間が迫ってきた。

 会場の出口に、主催者側のステープル重工業社長夫婦、次男ヘンリーと娘のサーシャに、弁天丸船長・加藤茉莉香が並んで、来賓の皆さんにお礼を言いつつ、お見送りをした。

 長男アーサーとクリスティア王女は、先に帰っていた。長男のアーザーは、もうステープル家の一員としての活動はしないという意思を示しているのだろう。

 

 こうしてお客様は帰っていったが、茉莉香は会場に残った。

 この時、会場に残っていたのは、造船所の職員、その家族、それに会場スタッフとして働いた白凰女学院ヨット部だけだった。このメンバーで、内輪の二次会パーティを行う予定だった。

 茉莉香は、この二次会パーティで、今日お世話になったスタッフみんなに、お礼を言うために残ったのだ。

「カンパーイ」

 造船所の職員や家族たちが、陽気に、ビールをジョッキでごくごくと飲み、料理をパクパクと食べ始めた。

 たちまち、会場は騒がしくなってきた。

「なんだか、さっきより人が増えている気がするんだけど・・・。」

 茉莉香が言った。

「そうよ。造船所の人たちが、これから始まる『余興』を楽しみにして、集まっているんですからね。」

 ハラマキが言った。

「えっ!? 余興・・・・??

 今夜は、白凰女学院ヨット部員もいるということは・・・。

 まさか・・・。」

 茉莉香は、背中を冷や汗がタラリと流れるのを感じた。

 

「いやあ、茉莉香先輩のお考えを聞いて、私も大賛成です。」

「先輩、ありがとうございます。」

「進水式では造船所の人たちに『余興』を見せてもらったから、お返しをしなくちゃね。

 さあ、さあ・・・茉莉香、いくよ。」

 その時、リリイが茉莉香に小声でささやいた。

「大丈夫よ。マミが衣装を用意して、グリューエルが演出を考えてくれたから。

 茉莉香は、いつもの調子で、始めればいいのよ。」

「ええ!? マミとグリューエルが・・・?」

 そう言う二人のまわりを、ニコニコ顔のヨット部員とOGたちが、とり囲んでいる。

 茉莉香は、そのヨット部員のまわりを囲むようにこちらを眺めている、造船所の人たちの顔を見た。

 みんな、笑顔で、これから始まる『余興』を楽しみにしているようだ。

 

『ああ、今さら、何も聞いてないなんて、言えないよ~~~。

 もう、断れない。・・・・う~~ん、

 でも、弁天丸船長・加藤茉莉香は決断が早いのよねえ。』

 

 

3 白凰海賊団

 

「さあ、みんな。そろそろいくよ。用意は良いかな。

 いよいよ、今晩のメーン・イベント、弁天丸船長・加藤茉莉香と白凰海賊団の出番だよ!」

「おお~~!」

 元気な返事が返ってきた。

 茉莉香とヨット部員が叫ぶと、たちまち、会場中が拍手と歓声につつまれた。

 

 その中を、茉莉香と白凰女学園ヨット部一行は、一団となって会場の中央を進んでいき、大広間正面の特設ステージにたどり着いた。

 特設ステージでは、中央に海賊服を着た加藤茉莉香が立ち、その周りを二十名ほどのメイド服姿のヨット部員とOGが、横一列になって並んだ。

 中央の茉莉香が、スポットライトを浴びながら、いつものセリフを言った。

「みなさま、お待たせしました。

 弁天丸船長、加藤茉莉香です。海賊しに来ました。」

「わあ~~。」

「待ってました。」

 会場から歓声が上がった。

「それ!」

 その時、ヨット部員たちは掛け声をかけて、メイド服を肩から脱いで足元に落とした。

 鮮やかな早変わりで、たちまち、クラシックな軍服風のデザインの海賊衣装に身を包んだ白凰海賊団が現れた。

「おお~~!」

 会場から歓声が沸き上がった。

 軍服風の衣装と言っても地味なものではない。衣装を構成する布のパーツに、ところどころ、色鮮やかな赤や黄色や青のチェック柄の生地が使われており、全体では、華やかな女子高生海賊にふさわしいものになっていた。

 もちろん、スカートはミニスカだ。

 

 会場が騒がしくなったところへ、いきなり、リリイ達、数人が天井に向かって、銃を放った。

「バキューン、バキューン・・。」

 大きな音がして、会場は静まり返った。

「皆さんご安心を。今のは、空砲です。

 さあ、みなさん。よく聞いてください。

 初めに、海賊に襲われた時のご注意を申しあげましょう。

 私の指示に従って頂く限り、皆さんの安全は保障いたします。

 おとなしく、こちらの言うことを聞いていただければ、無事な身体と、このシャーロットタウンで女子高生宇宙海賊に襲われたという、楽しい自慢話をお持ち帰りになれます。」

 茉莉香がいつものように言った。

 大広間のスポットライトを浴びる茉莉香の笑顔は、一層、輝きを増して、観客たちの目を引き付けていた。

 

「茉莉香サマァ~~~!」

 会場内の女性たちから、掛け声がかかった。

 その時、会場の男たちからも、別の掛け声がかかった。

「女子高生の宇宙海賊? 聞いたことないぞ!」

「本物かぁ?」

「本物なら、海賊の名乗りを上げてみろ。」

 もちろん、それは、舞台進行のための掛け声だった。

 

 それにこたえて、茉莉香が一歩前に身を乗り出し、剣を抜いて、口上を切り出した。

「それでは、ご覧に入れましょう。

 オホン・・・・。

 浜の真砂とゴンザエモン、歌に残せし海賊の

 種は尽きねえ新奥浜、寄せては帰す白波の

 シブキを浴びて海を飛ぶ、白い凰(おおとり)かたどった

 オデット二世と名のれども 宇宙(うみ)を駆ければたちどころ

 泣く子も黙る海賊船 白鳥号へ早変わり

 われら白凰ヨット部員 お嬢お嬢と呼ばれても

 呼べば答えるかけ声ひとつ 白凰海賊団へ早変わり

 さあ~~、ご覧あれ。」

 

 茉莉香が両手を広げて、両側の白凰海賊団へ観客の目線を誘導した。

 それにこたえて、白凰海賊団が各々、剣を振りかざし、声をあわせて言った。

 

「我ら、白鴎海賊団。参上!」

 

「うわーっ。カッコイイ!」

「キャー、本物の、キャプテン・マリカだぁ。」

 観客の大歓声が大広間に響いた。

 

「さあ、みなさん。

 海賊に襲われた以上、大人しく、あきらめましょう。

 金品、プレゼント、その他金目のものを出しなさーい。」

 茉莉香がそう言った時、観客の中から、小柄な一人の女性が飛び出してきた。

 

「お待ちなさい。キャプテン茉莉香。」

 

 女性は、黒髪を三つ編みにして両肩にたらし、黒く丸いメガネをかけて、頬にはソバカスがあった。大人っぽいメイクにソバカスまで書いて、美少女の素顔を隠している。

 衣装は、カリビアン・スタイルの黒い海賊服に、きらびやかな貴金属の飾りをつけ、肩からマントをかけていた。

 

「あなた、だれ? 何の用? 私のお仕事を邪魔するなんて、許さないわよ?」

「オホホホ・・・。

 私は、恋と冒険の探究者、宇宙海賊・レディ・セレンディピティですわ。

 キャプテン茉莉香、あなたに決闘を申し込みます。

 私たちが勝ったら、ここにいる皆さんから何も奪わず、シッポを巻いてお帰りなさい。」

 

 レディ・セレンディピティと名のる女は、変装したグリューエルに違いなかった。

 彼女は自分が出演するシナリオを書いていたのだ。

 

「あら、困ったわねえ。ここにも、命知らずの女がいたのねえ。

 私は本物の海賊よ。命を落としても知らないわよ。」

「もとより、負けることなど考えておりませんわ。

 さあ、お前たち。キャプテン茉莉香をやっつけておしまい。」

「おお~~!」

 女海賊レディ・セレンディピティの命に応えて、二人の仮面をつけた男が現れた。二人も、カリビアン・スタイルの黒い海賊服の衣装を着て、剣を持っていた。

 

『うわぁ~~。アレックス王子と、ギルバートさんじゃないの。

 グリューエルは、この二人に何をさせるつもりかしら?』

 

 茉莉香は、突然、2人が登場してきたので、驚いた。

 しかし、どんな筋書でも直ちに対応して見せるのが弁天丸船長・加藤茉莉香。

 たちまち、華やかな笑顔を浮かべて、大見得を切った。

 

「どこの誰だか知らないけれど、

 このキャプテン茉莉香に勝負を挑もうなんて、命知らずね。

 二人まとめて、相手になってあげるわ。さあ、来なさい。」

「あらあら、貴方の方が命知らずねえ。

 いくら海賊でも、男が二人がかりであなたに勝っても自慢できませんわ。

 いいですわ、一騎打ちの勝負にして差し上げましょう。

 そのかわり、貴方が負けたら、観念して、勝った男の嫁になりなさい。」

 グリューエルは、剣を抜き、その剣で茉莉香を指して、言った。

 

 グリューエルの口上を聞いていたリリイは、驚いた。

『ちょっと、グリューエル。そんなセリフ、無かったはずよ。

 なんて大胆なことを言い出すのかしら・・・・。』

 変装して別人になったグリューエルは、いつものグリューエルではなかった。ノリノリで脱線し始めたようにも見えたが、実は普段から隠していた思いがあふれ出ているのだ。

 

「ふーん。私を誰だと思っているの。

 そんなセリフ、私に勝って、男を上げてから言いなさい。

 さぁ~~、いくわよ。」

「では、私から。私は、宇宙海賊ブランキーと申します。

 キャプテン茉莉香。いざ、勝負。」

 宇宙海賊ブランキーと名乗ったのは、アレックス王子だった。

 

 剣の上手な二人は、最初から激しい打ち合いを始めた。

 カン! カン! カン!

 真剣のぶつかり合う甲高い音が会場に響き渡った。

「がんばれー。」

「茉莉香サマー!」

 それまで黙って成り行きを見ていた観客たちが騒ぎ出した。

 もちろん、声援はみんな、茉莉香の応援だ。

 それでも、剣劇は、一進一退の攻防が続いて、勝負の行方は見えなかった。

 

『う、う、う、・・・。困りました。負けたくない。

茉莉香さんを勝たせて、お客さんを喜ばすためのショーなのに・・・。

私は、本当に、負けるのが嫌いですね。』

 

 宇宙海賊ブランキーこと、アレックス王子は、内心困っていた。

 負けず嫌いは、聖王家の王族の共通した性格のようだった。

 

『何をしているのかしら。

 そろそろ、アレックスさんが負けるタイミングでしょ!

 いつまでも剣劇をやっていると、お客さんが飽きてしまうわよ。

 も~~! 』

 茉莉香もそう思って、アレックスの段取りの悪さに少しイライラし、テンションが高くなってきた。

 

 二人の勝負がつかないので、観客も次第にハラハラして見守り始めた。

 剣劇を続ける二人の顔には汗が浮いてきた。

 そして、茉莉香は、剣劇の激しさのため、いつも以上に緊張、興奮し、ついには気分が高揚してきた。茉莉香も脱線し始める。

 

『しょうがないわねえ。いつもと違うけど、ここは・・・・。』

 そう思った茉莉香は、つばぜり合いをして、宇宙海賊ブランキーに近づいた。

 近づいた二人の目が合った。

 茉莉香は、背の高いブランキーを上目づかいで見上げる表情になった。

すると、宇宙海賊ブランキーは、雨上がりの空のように清く青い、茉莉香の瞳に、思わず見入ってしまった。

「ええ~いっ!」

 その時、茉莉香が、靴で、宇宙海賊ブランキーの向う脛(むこうずね)を強く蹴った。

「うう~~。」

 激しい痛みに耐えかねて、宇宙海賊ブランキーが怯(ひる)んだスキに、茉莉香が剣を彼の首に突き付けた。

「さあ、勝負あったわね。」

「ええ~~!?」

 予想外の奇襲に、宇宙海賊ブランキーは、すこし不服そうだった。

「なにか、文句があるのかしら。

 でも、娘海賊相手に油断する方が悪いのよ~~。

 ねえ~~、みなさん。この勝負、私の勝ちでしょう?」

 そう言って、茉莉香は観客に向けて、ウインクして見せた。

 

「ワハハハ・・・・。」

「美しさも、女の武器ですわぁ。」

「そうだぁ~~~~!」

「わあ~~~。キャプテン茉莉香の勝ちだ!」

 茉莉香の勝利に、観客が歓声をあげた。

 

「は~~い、そこまで。

 では、次は私が参ります。

 私は、宇宙海賊モルギーと申します。

 キャプテン茉莉香、いざ勝負!」

 

 たちまち、二人の剣劇が始まった。

 攻防を繰り返しながら、茉莉香は思った。

『今日のお客さんは、いつもの豪華客船のお客さんと違うなぁ。

 何と言っても、ノリが良いからねえ。

 だからといって、さっきと同じことをやるとウケないわねえ。』

 

 剣劇を続けていると、少しギルバートの剣さばきと動きが甘くなってきた。

 彼が切り込んでくるところを茉莉香が交わすと、逆に茉莉香が彼に切り込むスキができる。

『さすが、ギルバートさん。私が勝つチャンスを作ってくれているのね。

 でも、あなたの示してくれた筋書き通りに動くのは、ちょっと悔しいなぁ。

 なんたって、私も、もう大人ですからね。』

 先ほどから気分が高揚している茉莉香は、いつもの茉莉香ではなかった。

 

 また、ギルバートが切り込んできた。

 さっと身をかわした茉莉香は、彼の後ろに回り込むと彼の背中を力(ちから)一杯押して、テーブルの上に突き飛ばした。

 すると、彼は、テーブルに並んだ料理の上に派手に飛び込んで、テーブルをメチャクチャにしてしまった。

「ワハハハ・・・・。」

「まあ、ヒドイ。」

「あのカッコウ。サイテー」

「食べ物を粗末にしては、イケマセンわぁ~~。」

 などと、お客さんは、ひっくり返した皿に載っていた料理で全身を汚したギルバートの悪口を言いつつ、大喜びだった。

 

「ハア-・・・終わったなぁ。」

 茉莉香は一息ついたが、剣劇が続いて汗をかいたため、少しのどの渇きを覚えた。そして、思わず唇をなめた。

 造船所の酔っ払いの男性達は、茉莉香のそのしぐさを見逃さなかった。

 

「キャプテン、お疲れさま。お疲れさま。

 さあ、のどが渇いたでしょう、一杯どうですか?」

 

 といって、ジョッキに入ったビールを茉莉香に勧めた。

 しかし、茉莉香は、一瞬、ためらった。

 茉莉香は、まだビールをジョッキでグイグイ飲んだ経験は無かったからだ。帝都に来てからはジェニー先輩の主催するパーティに何度も出て、もう『大人』だからと言われてお酒も少し飲んだが、こういう雰囲気ではなかったからだ。

 

 困った茉莉香が周りを見ると、男性達だけでなく女性達も、ジョッキでビールをグイグイ飲み、大きな口を開けて料理を食べ、白凰女学院の女子高生海賊達とわいわい楽しそうに、大きな声でおしゃべりしている光景が目に入った。

 

『そうなんだ。造船所の人たちはこういう人たちなんだ。・・・・』

 

 茉莉香が納得したところへ、グリューエルが割り込んできた。

 彼女は、まだ、ハイテンションだった。

「私も頂きますわ。」

 そう言って、グリューエルは、造船所の酔っ払い叔父さん達が茉莉香に差し出したジョッキを取って、ビールをひと口飲んだ。

「ああ、大丈夫?」

 思わず、茉莉香は言った。

「茉莉香さん、次は『女の勝負』ですわ。これでいたしましょう。」

 グリューエルは、ジョッキを片手に、茉莉香に勝負を挑んできた。

「ワハハハ・・・。

 どうですか、キャプテン茉莉香? 『女の勝負』を受けますか?

 それとも、しっぽ巻いて逃げますか?」

 酔っぱらい達は、そう言って笑いながら、茉莉香を挑発した。

 

「何をおっしゃいますか。

 私はこれでも親子代々、百年続く海賊の家の娘です。

 ビールといえば、お前はビールで産湯(うぶゆ)を使ったと、死んだ親父に言われたくらいです。

 ナハハハハ・・・・。」

 茉莉香も、負けずにハイテンションで、上滑りのジョークを言いつつ、両手を腰に当てて、笑った。

「そりゃスゴイ。さあ、『女の勝負』だぁ。」

 茉莉香の狙い通り、そのジョークは酔っぱらい達にバカウケし、その場は、ますます盛り上がってしまった。

 

「カンパーイ!」

「カンパーイ!」

 ガチンとジョッキを鳴らし、茉莉香とグリューエルの二人は、あっという間にジョッキのビールを飲み干した。

「・・・・・」

「・・・・・」

 飲み終わって、二人は無言でにらみ合った。

 これを見た周りの酔っ払い達は、大喜び。

「引き分け、引き分け。

 さあ、もう一杯いきましょう。」

 すぐさま、二杯目、そして三杯目と続いた。

 『女の勝負』

 グリューエルのこの一言で、なぜこういう流れになったのか、二人は自覚していなかったが、茉莉香もグリューエルも勝ちを譲らず、張り合っている。

 

 この時、少し離れた所からグリューエルを見守っていた、メイド服姿のキャサリン小隊長が、スゴイ形相で近づいてきて、アレックスとギルバートをにらみつけた。

『姫様を、早く連れ出せ!』

と、迫っているのだ。

 彼女は、いつものように無言だったが、男達に意味は伝わった。

 

「レディ、レディ。そろそろ、お帰りのシャトル便の時間が迫っています。」

「それに、そろそろパーティもお開きの時間ですから、お支度を・・。」

 

「・・・・・・」

 グリューエルは無言だった。不服なのは明らかだった。

 しかし、男二人にキャサリンまで加わって、グリューエルを部屋から連れ出してしまった。

 

 海賊ショーはその後も続いた。

 最後は、白凰海賊団全員がステージで歌いながら、ダンスを披露して、盛大な喝采を浴びた。

 

 

 

 

 




  これからは、グリューエルが主役です。

追記
 最初にアップしたときに、「白凰」と書くところを「白鴎」と表記しました。ゴメンなさい。訂正しました。
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