宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編- 作:gonzakato
恐ろしい事件がグリューエルの身に起こります。
それは、やがて、セレニティ王国と銀河帝国の間に、戦争寸前の大きな緊張を引き起こします。
今回はその第一回目です。
なお、「エピローグ」から、「第三十章」に改題しました。内容は同じです。
1 徹夜の出来事
パーティの後、茉莉香は、ホテル関係者に挨拶を済ませ、ようやく部屋へ帰ってきた。
茉莉香の部屋は、ホテル最上階のスイートルーム。スイートルームといっても最上階のフロアをすべて独占する広さがあり、ベッドルームだけで六室あるというものだった。
茉莉香は、ここに帝国軍の警備隊の人たちと一緒に宿泊する予定だった。
と言っても、本音は白凰女学院のヨット部一行が、夜になったら自分を訪ねて来ても良いように、大きな部屋を確保したのだった。
だが、茉莉香が、警備隊の留守番役の人たちにドアを開けてもらって部屋に入ると、予想外の事態が待っていた。
スイートルームのダイニングルームでは、小テーブルを囲んで、セレニティ軍のキャサリン小隊長、帝国軍のジェーン警備隊長の女性二人に、茉莉花の副官として弁天丸に乗っているギルバート・モーガン帝国軍中尉と、弁天丸の船医を希望している銀河聖王家のアレックス王子がカードゲームをしていたのだ。男性二人は茉莉花に結婚を申し込んでいる。
ダイニングルームでは熱戦が続いていた。
「・・・・・」キャサリンが無言で手札を開いた。
「ええ~~! またストレートフラッシュですかぁ~~。」
アレックスが天を仰いだ。
「これで、五連敗だぁ~~。
若いときには、こんな負け方はしたことがなかったのですが・・・。」
ジェーンもため息をついた。
「やっぱり、何か賭けてゲームをしませんかぁ。賭けないと、やる気が出ないというかぁ。」
ギルバートが少し愚痴を言った。
「私は、いつも命懸け(いのちがけ)です。」
珍しく、キャサリンが口を開いた。
「セレニティの戦士はそうでしょうが、ここは銀河帝国だし・・・。」
ギルバートが苦笑して、言いわけをした。
「お金を賭けるのは、ダメですよ。
お金を賭けたギャンブルでは、モーガン家の男は負けないという評判ですからね。」
ジェーンが言った。
茉莉香は、ダイニングルームに入って、四人に声をかけた。
「どうしたんですかぁ、みなさん。
このメンバーがカード・ゲームをするなんて、初めてじゃないですか?」
茉莉香が驚いた。
「いやぁ。キャサリンさんが、どうしてもやるというので・・・・。」
ジェーンが言った。
「いやぁ、キャサリンさんに怒られましてねぇ。」
アレックスが言った。
「キャサリンさんは、先ほどまで大忙しだったんですよ。
姫のお帰りのスケジュールが急に変更になったものですから。」
ギルバートが言った。
「加藤大佐。原因は、おわかりですよね。」
ジェーンが少し厳しい口調で言った。
「ナハハハ・・・・。『女の勝負』のためですね。
ところで、姫は、どちらにおられるのですか?」
茉莉香が、聞いた。
「姫様は、先に、船長のお部屋でお休みです。
本当に予定外の宿泊で、真相が本国の王宮に知られたら、姫が叱責されるのではないかと心配です。・・・。」
無言のキャサリンに代わって、ジェーンが答えた。
「茉莉香さんも、早く着替えて、お休み下さい。」
ジェーンは、いつものように、茉莉香のお母さんのような口調で言った。
「はあ。でも、皆さんはどうされるのですかぁ。」
「私たちは、明朝まで徹夜です。みなさんの警備を兼ねています。」
キャサリンが強い口調で語った。
もちろん、彼女の本心は、目が覚めたグリューエル姫が脱走しないように、姫のターゲットとなる男性をこの場所に徹夜で拘束しておこうというものだった。
しかし、真面目な彼女には、そのための方法としては、徹夜のカード・ゲームしか思い浮かばかなかったのだ。
茉莉香は、部屋に入って着替え、グリューエルの寝顔を見るために大きなダブルベッドに上がって、・・・・
気がついたら、朝だった。
「うう~~、また、やってしまった!
昨夜は、一段と激しく、ノリノリで・・・。」
翌日の朝、茉莉香は目が覚めた。と同時に後悔し始めた。
「せっかく、『もう立派な淑女(レディ)』になったと、誉められたのに・・・
私って、やっぱり、淑女より海賊の方が似合っているのかなあ・・・。
それに、やっぱり、頭痛いなあ・・・。」
茉莉香は、少しずつ昨日の記憶がよみがえってきた。
「そう言えば、グリューエルは・・・。」
茉莉香が周りを見ると、グリューエルが隣で眠っていた。
「ということは、ここは・・・。」
ここは、造船所のあるシャーロットタウンの高級ホテルのスイートルームだった。昨夜のパーティが二次会で盛り上がりすぎて、グリューエルは帝都へのシャトル最終便に乗り遅れたと言って、『やむなく』、茉莉香の部屋に宿泊したのだった。
「そういえば、グリューエルに予定外の外泊をさせることになったので、男性陣はキャサリンさんに激しく怒られて、カード・ゲームをすることになったのよねえ。
どうなったかなぁ。」
次第に昨夜のことを思い出した茉莉香は、着替えてダイニングルームへ行った。
ダイニングルームでは、相変わらず四人がカード・ゲームをしていた。
「勝負は、どうなりましたか?」
茉莉香が聞いた。
「キャサリンさんのひとり勝ちですね。」
ギルバートが言った。
「茉莉香さんがお目覚めのようですから、ここでゲームは終わりにしましょう。」
ジェーンがそう言うと、皆がうなずいた。
「ところで、確か、何か賭けてゲームをしていたのですよね。
何を賭けたのですか?」
いたずらっぽい目をして、茉莉香は聞いた。
「それは、勝った人の願いをひとつ、かなえることになりました。」
アレックスが言った。
「それでは、キャサリンさん。どういう願い事をするんですか?
よろしければ、聞かせて下さい。」
茉莉香が微笑みながら聞いた。
「アレックス様には、姫様の願いをひとつ叶えていただきたいと思います。
あとのお二方には、・・・・考えておきます。」
少し微笑んで、キャサリンが答えた。
「へ~~。姫様は何をお願いするんでしょうねえ。
アレックスは、どう思う? 」
茉莉香は、アレックスを少しからかいながら、そう言った。
「それは、とても素敵なお話ですわね。」
そう言って、茉莉香の後ろから、グリューエルが現れた。
「キャサリンさん。よろしいんですの。
大切な願いをかなえる機会を私に譲ってしまっても・・・。」
「もちろんです。私は、何事も『姫様第一』ですから。」
キャサリンは、きっぱりと言った。
「ありがとうございます。
では遠慮なく。
アレックス様、お願いしてよろしいでしょうか?」
「なんでしょうか? とにかくお聞きしましょう。」
「はい。アレックス様に、私の家庭教師をお願いできないでしょうか。」
「ええ!? 『モンブランの神童』に私がお教えすることがあるのでしょうか。」
「もちろんです。宇宙物理学を教えて頂きたいと思いまして。」
「宇宙物理学ですか、私は医者ですが・・・・。」
「何を仰いますの。
先生は、立派な宇宙物理学者ですわ。
私、先生が海明星で開かれた宇宙医学会で発表された論文を拝見いたしましたの。
そこには、ヒガン回廊の可住惑星に生息する生命体に関する調査データの報告のほかに、先生の宇宙物理学に関するお考えに由来する仮説が述べられておりましたわね。」
グリューエルは、アレックスのことを先生と呼び始めた。
「ええ! あの論文を実際に読まれたのですかぁ?」
「はい。それから、その仮説の元となった帝国大学天文倶楽部の会報に掲載された先生の論文も拝見しました。」
「参ったなあ。そんなことをおっしゃるのはあなたが初めてですよ。
でも、私の論文のどういうところに、興味を持たれたのですか?」
アレックス王子は困ったと言いながら、とても嬉しそうだった。
「宇宙空間の11次元理論で、余剰次元とされて、その存在が数学上の仮定に過ぎなかったものについて、先生は、その通常空間への発露が、我々が認識できる具体的な事象の中に含まれていると、お考えですよね。」
グリューエルが話を続けた。
「ねえ、何のお話なの?」
茉莉香は、そばにいたギルバートにこっそり小声で聞いた。
「宇宙物理学の理論に関する話ですよ。」
「もう! そのくらいは、私でもわかっているわよ。
難しい話だからって、私を子ども扱いしないでね。」
茉莉香は少し腹を立てた。
グリューエルも、とてもうれしそうに話し続けている。
「先生は、宇宙医学会の論文で、『ヒガン回廊の諸惑星の生物は、すべて、銀河系の生物と同じく、核酸はD型、タンパク質はL型のアミノ酸のみでできている。』と報告されていますわね。」
「そうです。この点は、あの報告で最も注目すべき事実なのです。
なぜかというと、従来は、高分子レベルの対称性の破れ、つまり非対称性こそが、人類を始めとする諸生命に関する太古植民説の証拠の一つとされていましたからね。
だから太古の植民の痕跡や可能性が無いと思われる銀河系外延部の星系では、違うものがあるだろうと思われていましたからね。」
「しかし、先生の発表では、それらの星系の生態系でも、すべて、銀河系と同じ『非対称性』が観察されたのですよね。」
グリューエルが言った。
「そうです。だから驚くとともに、考えました。
そして、この現象を説明する仮説は、いわゆる『中立説』、つまり、これは自然現象にすぎないと言う説ですね、これしかないと思いました。
とりわけ、その中の『時空説』、つまり、時空の性質から、その非対称性が生まれると言う説しかないと思ったのです。
素粒子の対称性の破れと、その原因と言うか、因果関係は同じだろうという訳です。」
「そして、その時空の性質とは、具体的には、余剰次元の発露だと・・・。」
グリューエルは確かめるように聞いた。
「恐れ入りましたねえ。
そこまで、お分かりになるのですね。
では、お聞きしますが、天文倶楽部の論文では、その数学的根拠について試論を書いたのですが、あの公式はどう思われますか。
論文の私の説明はお分かりになりました?」
「拝見しました。
結論として導きだされた公式の、なんと美しいこと!
感動しましたわ。」
グリューエルは、微笑んだ。
「ええー! あのシンプルな公式の美しさを理解して下さるのですか?
うれしいなあ。
あの公式を導き出した時は、興奮して、一晩、眠れなかったくらいうれしかったのですよ。」
アレックスは嬉しそうに言った。
「でも、あの公式を導く式の展開は、紙面の都合なのか、省略が多くて、わかりづらかったです。
そこをじっくりと教えて頂きたいし、公式の意味について先生と議論したいのです。」
「わかりました。
そこまで理解されておられるなんて、光栄です。さすがです。
家庭教師、喜んでお引き受けしましょう。」
「ありがとうございます。うれしいです。」
「あはは・・・。でも、一応、エカテリーナ様のご了解を得ておかないと・・・。
私も銀河聖王家の王室典範に、拘束されていますから・・・。」
銀河聖王家の王室典範とは、聖王家の王族たちの結婚や親族関係、親子関係、相続などの身分法規を定めた勅令であり、エカテリーナ公爵夫人がその実務を仕切っている。
王室典範では、王族の未婚の男女が、年頃の異性と接触しようとする際には、予め、女王の許可を得なければならないと言うルールがあった。
そして、許可を要する『接触』とは、通常は男女交際につながるような行動を意味したが、家庭教師の依頼を受けることも含まれているのだ。
「もちろんですわ。よいご返事をお待ちしています。」
グリューエルは、とてもうれしそうだった。
「姫様、お話が弾んでいるところにすみません。
まだ、お食事も済んでいないのですが、人目を避けるためには、今のうちにご出発いたしませんと・・・。」
キャサリンが申し訳なさそうに言った。
「仕方ありませんね。原因は私にあるのですから。」
今朝のグリューエルは、いつものグリューエルだった。
「では皆様、これで失礼します。」
グリューエルが別れの言葉を言った。
「出発に際してのお願いですが、姫様が昨夜この部屋でお過ごしになったことは、絶対に、命懸けの、秘密厳守でお願します。
セレニティの倫理観、道徳観は、昨夜のようなことにはとても敏感なのです。」
キャサリンが強い口調で言った。
「承知しました。」
これに対して、茉莉香をはじめ、全員が約束した。
グリューエル達は、急いで出発していった。
「さて、私達も部屋に戻りましょうか。
白凰女学院のお嬢様たちが、この部屋に来る前に。」
「そうですね。」
アレックスとギルバートが言った。
「そうでしたね。
深夜にこちらを訪ねたいというご連絡があったのですが、グリューエル様が部屋にいらっしゃることを知られないようにという、キャサリンさんのご要望で、お断りしたのでしたね。」
警備隊長のジェーンが言った。
「ええっ! 知らなかったよ。
でも、それって、ヤバイよ、ヤバイ!
あの子たち、もうすぐ来るんじゃないかなぁ。」
茉莉香が慌てて言った。
「・・・ それでは、失礼します。」
アレックスとギルバートは、急いで部屋を出て行った。
そのころ、白凰女学院のヨット部員とOGたちは、スイートルームへ上がるエレベーターの中にいた。
「これで、スイートルームをブロックするセキュリティ・システムを突破しました。
間もなく、エレベーターはスイートルームのある最上階に着きます。」
ヨット部の二年生、マリリン・パーシーが、携帯端末を操作しながら、言った。
「よし、さすが。
ヨット部は、いつの時代も人材豊富ね。
お蔭で、茉莉香の部屋を、アポ無しの突撃訪問できるわよ。フフフ・・・。
茉莉香のヤツ、昨夜、私たちの訪問を拒否するなんて、許せないわ。
いったい何を隠していたのかしら。」
リリイが言った。
「まあ、茉莉香さんもお年頃ですし、
昨夜、みなさんにお話したように、結婚を申し込んでいる男性もいらっしゃるし、
何があっても大きな声を出したりせず、けっして驚かず、大人の対応をする心の準備が必要かと・・・・」
ハラマキが、微笑みながら、期待する事態が目撃できることを前提に、落ち着いて対応するようにと現役ヨット部員に言っている。
「しかし、茉莉香さんは、きっと、また、私たちを子ども扱いしようとしますわ。」
ヒルデがすこしふくれっ面で言った。
「そうそう、
『徹夜で、トランプして、遊んでました。ナハハハ・・・』なんて言って、私たちを丸め込もうとするでしょうね。」
「あ、その笑い方。茉莉香先輩にソックリですね。」
「とにかく、茉莉香さんは、女子高生を甘く見ています。
私たちは、もう大人です。」
「まあ、そこまで茉莉香が隠したい気持ちなら、これは本物ってことね。
だから、その時は、私たちも『大人の対応』をしてあげましょう。
今日のところはね。
後日、白状させるけど。」
リリイが言った。
「ホンモノ・・・ですか。」
「ホンモノ・・・よ。」
「先輩、エレベーターのドアが開きます。」
「よ~し。みんな静かに、静かに。行くわよ。」
少女たちは、緊張してエレベーターを降りた。
廊下を少し歩くと、バッとドアの開く音がして、男性の話し声が聞こえてきた。
「あの声は、アレックス様とギルバート様・・・・。」
「ということは・・・うわぁぁ、『ホンモノ』だぁ。」
「どうしましょう。廊下で出会ってしまいますよ。」
「・・・・」
「・・・・ やっぱり、隠れましょう。」
「・・・・ そうですね。やっぱり。」
「こちらです。非常階段のドアの奥に隠れましょう。」
「そうね。」
冷静に考えると、わざわざ隠れることはなかった。
しかし、実際に、茉莉香の部屋から朝早く男性が出て来る事態に直面した少女達は、慌ててしまった。
もちろん、大人の対応をする心の余裕はなく、『予感的中!』と興奮していた。
そして、少女達は急いで非常ドアの影に隠れた。もちろん、少しドアを開けて、聞き耳を立てている。
「いやあ、それにしても、昨日の茉莉香さんは、さすがでしたね。」
ギルバートが昨日の海賊ショーのことを振り返って、言った。
「私も、やっと、念願が叶いました。」
アレックスが答えた。
「そうですね。
いつも以上に、ノリノリでしたね。」
「そのお陰というか、結局、朝まで寝ないで、彼女とあれをすることになってしまいましたからね。」
「そうですね。彼女は『初めて』と言っていましたが、強かったですねえ。
我々二人を相手にしても、堂々としていましたね。」
「アハハハ、楽しかったです。」
「その結果というか、彼女があんなお願いを言い出すとは、驚きました。」
アレックスもギルバートも、秘密厳守と言われたこともあって、キャサリンや、グリューエルの名前は言わずに、昨夜の出来事を話していた。もちろん彼女の『お願い』とは、グリューエルがアレックスに家庭教師を頼んだことを指している。
二人の男性は、上機嫌でエレベーターに乗って、自分の部屋に戻って行った。
「ねえ、聞いた?」
「聞いた! 『初めて』だって。」
「そうか、茉莉香も、とうとう・・・」
隠れて聞いていたヨット部員とOGたちは、アレックスとギルバートの話を、すべて茉莉香のことだと思った。
「だから、また、私たちに隠そうとしたのね。友達なのに・・・。
普通、そういうのって、自慢したがるものよねえ。」
リリイが言った。
「茉莉香さんは、私たちに隠そうとしたのではないと思いますわ。」
ヒルデが言った。
「あっ。そうかぁ。・・・」
彼女達は、昨夜、アレックスの前でグリューエルが恥じらっていた姿を思い出した。
「じゃあ、これは、やっぱり、『大人の対応』をしないといけないわね。
ヒルデ。大丈夫?」
「大丈夫です。」
ヨット部員とOG達は、気を落ち着けて、茉莉香の部屋を訪れた。
「おはようございます。」
ヨット部のみんなは、元気よく挨拶をしつつ、豪華なスイートルームの中を見渡している。
「スゴイ部屋ね。これなら、何人でも泊まれるね。」
「ナハハハ・・・スイートルームだからね。
ところで、昨夜は、済みませんでしたねえ。
いろいろ取り込んでいたもので・・・。」
「良いのよ。茉莉香もいろいろと、忙しいだろうから。
ところで、ねえ、茉莉香。私たち、朝食がまだなのだけど・・・。みんなで一緒に食べようと思って。」
リリイが言った
「そうなんだ。では、一緒に食べよう。
実は、私も、今起きたばかりでさぁ。」
そう言う茉莉香の言葉を、ヨット部のみんなは少し、いぶかしげに聞いていた。
やがて、大きなダイニングルームに、全員分の朝食が運ばれ、みんなが席に着いた。
そして、朝食を食べながら、昨日の海賊ショーの話を思い出して、あれこれ楽しいおしゃべりが続いた。
「それで、昨夜、茉莉香は徹夜で何をしていたの?
実は、私たち、アレックス様とギルバート様が、あなたの部屋から出てきたのを、見ちゃったのよねえ。」
突然、何気ない口ぶりで、リリイが聞いた。
「ええ!?」
少し慌てた口調で茉莉香が答えた。
「いやあー。実はねえ、アレックスさんとギルバートさんの三人で、徹夜でトランプして遊んでいたんですよ。ナハハハ・・・・。」
『でたー! 茉莉香先輩のコドモダマシ!』
茉莉香の話を聞いて、ヨット部員は、みなそう思った。
もちろん、茉莉香は、グリューエル達がいたことを秘密にしようと、苦し紛れに、自分がカード・ゲームをしていたと嘘を言ったのだが、誤解されるにはそれで十分だった。
2 弁天丸Ⅱ(シャーロット造船所)
朝食後、白凰女学院ヨット部の現役部員とOGたちは、シャーロット造船所に行き、進水式後再びドックに据え付けられた弁天丸Ⅱの前に立った。
「うわぁー。新しい弁天丸って、本当に大きいねぇー。」
リリイが言った。
「全長300メートルあるからね。」
茉莉香が答えた。
「さあ、みんな、入り口はこっちだよ。」
一行は、加藤茉莉香船長の案内で船に乗り込み、ブリッジへ向かった。
ブリッジでは、今までの弁天丸のクルーと、新しく乗り込む帝国軍のスタッフが、忙しく動き回っていた。
「あっ。船長、今日からよろしくお願します。」
帝国軍のスタッフたちが、茉莉香のところへ挨拶に来た。
「こちらこそ、よろしく。」
「というわけで、今朝、造船会社から船の引渡しを受けたので、この船は、今日から私のたちの新しい弁天丸です。」
茉莉香は、白鳳女学院ヨット部の現役部員とOGたちに説明した。
「茉莉香、この船、もう飛べるの?」
「そうだよ。エンジンテストや試験飛行とか、造船所で出来ることは終わっているからね。
あとは、帝国軍側の仕事が残っているだけだよ。いろんな新装備のテスト・試運転が必要だけどね。」
「あれ? ギルバートさん、アレックスはどうしたの?
今は、ミーサが休暇中だから、船医がいないと困るのよねえ。」
「殿下は、急用だと言って、今朝、帝都に戻られましたよ。」
「へえ~。どうしたんだろう。
でも、まだ、テスト中で、航海に出るわけじゃないから、いいかなぁ・・・。」
「ねえ、茉莉香。あなたのお部屋を見せてほしいなあ。せっかく、私たちが内装のデザインに協力したんだから、出来上がったところを見せてほしいなあ。」
「そうだね。
でも、ちょっと、恥ずかしいなあ・・・。」
茉莉香は、みんなを自分の部屋に案内した。
茉莉香の船長室は、弁天丸船長室と同じような、いかにも海賊船と言ったイメージで統一された部屋だった。
茉莉香はさらに、隣にある自室、つまり寝室にみんなを案内した。
「うわあ~~~。きれいなお部屋。」
リリイ達が内装のデザインに知恵を貸した茉莉香の寝室は、女性らしい華やかな家具と、淡い暖色系の壁紙に包まれた、本当に素敵な空間だった。
「うわあ~~~。このベッド、大きいね。普通のダブルサイズじゃないね。
これじゃあ、トリプルサイズだよ。」
「ちょうどいいかも・・・・」
「ワハハハ・・・」
「でも、これは最高級の新婚用だよ。お姉さんの嫁入り道具と同じメーカーの品物だよ。
ほら、とても、クッションが良いでしょう。」
一年生たちが、茉莉香のベッドの端に乗って、はしゃぎ始めた。
3 セレニティ王国大使館(銀河帝国・帝都クリスタルシティ)
グリューエルは、急いでシャーロットタウンから、帝都のセレニティ王国大使館に戻った。帰りのシャトルの機中で朝食をとるほどの慌ただしさだった。
グリューエルもキャサリンも、無事に大使館に帰り、静かに迎えられたことにホッとした。
そして、いつのもように、何気なく自室に入ったグリューエルは、自分の部屋の雰囲気に、なにか得体のしれない違和感を覚えた。
『何かが、いつもの自分の部屋と違う!
いったい、どこが違うのだろう・・・。』
彼女は、五感を総動員して、違和感の正体を探った。
『臭いだわ。
この、かすかな甘い臭いは・・・・香水!? それともタバコ!?』
自分の留守中に、誰かがこの部屋に入ったことを知ったグリューエルは、急に恐怖を感じた。
彼女は、窓際に寄って、窓を背にして屋内を見つめ、侵入者に警戒した。
そして、茉莉香から貸し与えられた帝国軍用の携帯通信端末を操作して、茉莉香に、そして、昨日アドレスを教えてもらったばかりのアレックスにも、緊急通信を放った。
「助けてください!・・・ 」と
その時、侵入者は、彼女の前に姿を現した。
「お久しぶりですなぁ、姫様。
ずいぶんと、お美しく、お育ちになられましたなぁ。
伸びやかで優美な手足、
鮮やかな金髪、
澄んだ青い目、
そして、あなたの目には、類(だぐい)稀なる知性の光が宿っておられる。
本当に素晴らしい。」
中年の精悍な男性が、姿を現して、誉め言葉を言った。
しかし、その言葉はまるで人形を眺めて言ったような、冷たい空気を運んできただけだった。その言葉を聞いて、グリューエルは全身に鳥肌が立つような嫌悪感に襲われた。
「バルデン伯爵様!
いったいなぜ、あなたが、私の留守中に、私の部屋に入っておられたのですか?」
バルデン伯爵は、王国の守旧派の中心人物といわれる男だ。かつて王制の在り方を巡って、グリューエルトと激しく対立した人物だった。
「私は、姫様のお帰りをお待ちしておりました。
お出かけのまま、戻られないのかと、心配しましたぞ。
アハハハハ・・・・。」
その時、部屋のドアが開いて、もう一人の男性がグリューエルの部屋に入ってきた。
その男性は、キースという名の、セレニティ大公の警護役を務める兵士だった。
「どうした?」
バルデン伯爵が、聞いた。
「済みました。」
キースが答えた。
「では、姫様。」
そう言って、バルデン伯爵がブラスターをグリューエルに向けた。
4 弁天丸Ⅱ(シャーロット造船所)
茉莉香は、白凰女学院ヨット部の現役部員とOGたちに、新しい弁天丸の艦内を一回り案内して昼食を済まして、ブリッジに戻ってきた。
そこへ、クーリエから声がかかった。
「船長。緊急通信だよ。グリューエル姫から。」
「ええ!? グリューエルから?
どれどれ・・・。」
茉莉香はメッセージを読んだ。それにはこう書かれていた。
『 助けてください! 今、私は大使館 誘拐? 襲撃? 』
たったそれだけの単語が並んだ文面だったが、帝国軍の高度な秘話通信網で送られた緊急通信だった。
それを見て、茉莉香は全身が震えた。
あのグリューエルが、たったそれだけしか書くことができなかったほどの緊急事態であることは、疑う余地は無かったからだ。
「船長、また緊急通信。
今度は、アレックス殿下からTV電話よ。」
クーリエの声も、緊張している。
「出ます。メインモニターに回してください。」
やがて、メインモニターにアレックス殿下が現れた。
「茉莉香さん。大変です。グリューエル姫から、救難信号です。
そちらにも来ていますか? ご覧になりましたか?」
「見ました。
今、彼女に身に何が起こっているのでしょう。
ご存じのことがあったら、教えてください。」
「私は、先日の家庭教師のご依頼の件について、お返事をしようと大使館にいるはずの姫様に電話を入れたのです。しかし、『姫様は、急用で国にお帰りになった』と言われ、電話がつながりませんでした。
そうしているうちに、救援メッセージが届いたのです。
『助けてください! 今私は大使館にいる、誘拐か 襲撃か 』という趣旨の文面です。」
アレックスが言った。
「文面は、私に来たものと同じですね。
それにしても、居留守を使うとは、大使館もグルですか!?
厄介なことになりましたね。」
茉莉香が言った。
「そうですね。
大使館には外交特権がありますので、うかつに手を出すと、外交問題になりますからね。」
ギルバートがいつの間にか、茉莉香のそばに来て言った。
「それにしても、グリューエルは、まだ大使館に居るのかしら。
もう外へ連れ出されたのかしら?」
茉莉香が心配していった。
「あのー、そういう事でしたら、
大使館のセキュリティ・システムから、館内のカメラ映像をチェックしてみることは出来ないでしょうか?」
2年生ヨット部員のマリリン・パーシーが言った。
「なるほど。部屋に閉じ込められているのならば、見つかるはずだよね。」
「でも、どうやってやるの?
大使館のシステムって、ホテルのセキュリティより頑丈なはずでしょ?」
「そこは、私もやってみないと・・・。」
「でも、弁天丸は海賊船だから、何とか出来るかもしれないと・・・・。」
「先輩たちも、初めての練習航海で電子戦を経験したと自慢していらしたでしょう?」
ヨット部員が口々に言った。
「うーん。なるほどねぇ。大使館相手に電子戦かぁ・・・・。
おもしろいねえ。」
茉莉香が言った。
「ねえ、弁天丸の新しい電子戦システムを使って、できないかなぁ。」
茉莉香の呼びかけに、ギルバートが答えた。
「船長のご命令は、姫のご依頼を海賊業務として引き受けるということですよね。」
「・・・そ、そうですね。その通りです。これは海賊のお仕事。」
「それで、安心しました。
では、保険組合に連絡するのも忘れないでください。」
「はい。保険組合には、すぐに連絡します。」
茉莉香が、保険組合の代理人を呼び出しているそばで、ギルバートが帝国軍から出向してきた弁天丸クルーに向かって言った。
「では、やりましょう。新米の海賊諸君、初仕事ですよ。」
「おおーっ!」
元気に、かつ楽しそうな声を上げたのは、新しく弁天丸に乗り込むことになった帝国軍のエンジニアたちだった。OTAKUとして、腕に覚えのある彼らには、願ってもない初仕事だった。
もちろん、かれらは「こんなこと、初めてなので・・・」とか、「うまくいくか、不安ですう~。」などと、口では言っていたが。
「クーリエさん。電子戦はこちらのシステムでやりたいので、あなたは船長の通信担当をお願いします。」
「了解。初仕事、頑張ってください。フフフ・・・。」
たちまち電子戦を見ようと、担当するデスクのまわりにヨット部員が集まってきた。
「でも、茉莉香!
電子戦だけじゃ、足りないわよ。
もし、グリューエルが見つかったとして、それからどうするの?」
リリイが言った。
「それは、もちろん助けるんだよ。」
「だから、ここは帝都から2000キロ離れた、シャーロットタウンなのよ。」
「そうですね・・・」
「そうですね、じゃないわよ。」
リリイは、そう言って、ドンと足で弁天丸の床を蹴って鳴らした。
「ええ~~!? ま、まさか、弁天丸で行けっていうの?」
「当たり前でしょ。それが一番早いはずよ。
それに、グリューエルを助けに行くという一番肝心のことを人に任せるつもりなの?」
「それはそうだけど、今、ミーサだけでなく、シュニッツアーも休暇で休んでいるし・・・まだ弁天丸Ⅱの『初飛行式』も行っていないと言うか・・・・。」
「茉莉香。セレモニーより、お仕事優先でしょ。」
「うーん。
三代目、弁天丸Ⅱは飛べるの?」
「大丈夫。船は仕上がっているので、もう、銀河の果てまで飛べるぜ。」
「よーし。シュニッツアーはいないけど、ギルバートさんがいるから戦闘になっても大丈夫かなあ。
弁天丸、発進準備!」
「ええ!船長。ちょっと待ってください。
まず、造船所に連絡して、ドック内に人が残っていないか、安全確認が必要です。
次に、船長から、造船所の所長に緊急発進の了解をもらってください。
それから、私は、帝国軍の帝都防空司令室に連絡します。
帝都上空は飛行禁止ですからね。事情を話して許可をもらわないと、撃墜されますよ。」
ギルバートが言った。
「ナハハハ・・・。そうですね。ごもっとも。」
加藤茉莉香船長がドックの所長と話している間に、ギルバートは帝都防空司令室に連絡した。
彼が、管制官に飛行許可を申請すると、すぐさま、帝都防空司令室長のリッジウエイ准将がTV電話に顔を出してきた。
「やあ、ギルバート。
早速、海賊船の出番かぁ。なるほどなぁ。」
「事件を知っておられたんですかぁ。」
「ああ。すでに、白薔薇家のアレックス殿下から、救援要請を受けている。
しかし、外交特権のある大使館の中の出来事だから、表立っては警察も軍も動けないので、困っていたところだ。」
「そうですか。では、遠慮なくやらせてもらいます。」
「ああ、そう言う事情だから、帝都の航空管制は、大丈夫だ。
ところで、弁天丸では、あの儀式は終わっているのか?」
「終わっていません。」
「じゃあ、弁天丸は何も使えないな。それなら、こちらとしては、一層安心だ。」
「はい。まあ、キャプテン茉莉香なら、そこのところはうまくやってくれると思います。」
「ハハハ・・・。お前さんもついているからな。
では、頼んだよ。
実は、この件は、女王陛下や宰相閣下からも逐次状況報告を求められているので、我々の想像以上に大ごとになりそうだ。
気を引き締めてかかれ。」
リッジウエイ准将は、最後に一番重要なことをそっと言って、緊張した顔で敬礼し、通信は切れた。
「船長、帝都防空司令室から、飛行許可が出ました。」
「船長、造船所の所長から、発信許可が出ました。」
「では、帝都のセレニティ大使館へ行きましょう。
弁天丸Ⅱ、発信します。」
茉莉香が言った。
弁天丸Ⅱは音もなく、スーと造船所のドックから上昇を始めた。重力制御エンジンは快調に稼働を始めたようだ。
「うわーぁ! 推進剤の噴射も無く、スーッと飛び上がるんですね。」
「まるで、魔法みたい。」
「私、重力制御推進の船って、初めて乗りましたが、すごいですねぇ。」
ヨット部員の一年生たちが、興奮した声を上げた。
「高度10キロに達しました。水平飛行で、帝都に向かいます。」
操舵手が言った。
すぐさま、ドーンという軽い衝撃が艦内を貫いた・
「マッハ1を突破した衝撃波です。間もなく、マッハ2を超えます。
ですから、本艦は、帝都に1時間以内で到着します。」
「大気圏内にもかかわらず、すごい加速ですね。
帝都まで2000キロをひとっ跳び。さすが、新しい弁天丸。」
茉莉香は、うれしくなってきた。
「船長、セレニティ大使館の監視カメラの映像が出ます。
ご覧になりますか?」
「ねえ。ヒルデ。
カメラの映像を見て、グリューエルを探すのを手伝って・・・。
あなたなら、大使館の中の様子を知っているでしょう?」
「そうですね。お手伝いします。」
ヒルデは、大使館の各箇所を写しているカメラ映像を見て、グリューエルを探し始めた。
「船長、早めにミーサ先生にご連絡をとって、至急、弁天丸に戻れないかお聞きいただくように進言します。
やはり、医師が必要な事態が想定されますので・・・。」
ギルバートが言った。
「そうね。クーリエ、お願い。」
茉莉香は『医師が必要な事態』を想像しながら、少し重い口調で言った。
「了解しました。連絡を取ります。」
クーリエの口調も重かった。
「お姉さまの御部屋には誰もいません。
ああっ! 地下の小部屋に誰かが、閉じ込められています。
そこの映像を拡大できませんか。」
カメラの映像を見ていたヒルデが叫んだ。
「やっぱり、キャサリンさんだ。
キャサリンさんが、縛られて閉じ込められています。」
「これはヤバイわね。彼女はグリューエルの警護役でしょう。」
茉莉香が言った。
「そうですね。お姉さまの身に何かが起こったことは確かですね。」
ヒルデが答えた。
「でも、いくら、グリューエルの部屋の監視カメラが動いていても、大使館ごとグルだから、誰も助けに来てくれなかったのね・・・。」
茉莉香が、力(ちから)なく、言った。
「監視カメラ・・・・!
変ですわ。お姉さまはいつも監視カメラのスイッチをオフにしていらしたはず。
それがオンになっていると言うことは・・・。
あのう・・・。このカメラの映像は、過去の録画部分も見ることができるのですか?」
ヒルデが聞いた。
「はい。できますが・・・
あっ。そうか。『犯行』の瞬間が映っているかもしれないと言うのですね。」
電子戦を指揮していた技術士官のブラウン中尉が言った。
「わかりました。
おい、姫様の部屋の映像を遡って再生しろ。」
「はい。」
「ああっ!!」
遡って映像をチェックしていた人たちは、そろって大声を上げた。
そこには、一人の男が何かを話しながら、グリューエル姫に近づいて、そしてブラスターで姫を撃つ様子が映っていた。続いて、もう一人の男と一緒に、倒れた姫をストレッチャーに乗せて、部屋から運び出して行った一部始終が映っていた。
さらに地下駐車場と裏口の監視カメラ映像から、グリューエル姫が地下駐車場でストレッチャーごと車に乗せられて、その車が裏口から大使館を出る様子が確認された。
「ヒルデ、この男が誰か、知っているのね。」
茉莉香が聞いた。
「はい。バルデン伯爵、セレニティの有力貴族です。
そして、お姉さまの一番の政敵です。」
そう言うヒルデは、怒りを必死に抑えて、冷静さを保とうとしていた。
「グリューエルは、大丈夫かしら。」
「あの男の考え通りに事が運んでいるとしたら、お姉さまは殺されてはいないと思います。
そのために、わざわざ、お姉さまに会いに帝都まできたのでしょうから。
あの男は、お姉さまをセレニティに連れて行こうとしています。」
「『あの男の考え』って、何をしようと言うの、彼は?」
「・・・・・・・・」
茉莉香が聞いたが、ヒルデは答えなかった。
「ヒルデ様、この映像を銀河帝国に提供してもよろしいでしょうか?
帝国の首脳たちも、この事件にご関心をお持ちのようですから・・・。」
ギルバートが言った。
「はい。承知しました。
どうかお姉さまを助けてくださいとお伝えください。」
「わかりました。
よろしいですね、船長。」
「はい。次は帝国の出番ですね。」
茉莉香の返事を聞いて、ギルバートが帝都防空司令室長のリッジウエイ准将に連絡を取った。
「船長、まもなく帝都上空に着きます。
どこへ着けますか?」
操舵手が聞いた。
「もちろん、セレニティ大使館よ。」
「ええ!? グリューエルを追って、宇宙空港へ行くのじゃないの?」
リリイが聞いた。
「それは、銀河帝国に任せましょう。空港の管理者はあちらだから。
それより、私たちは、キャサリンさんを助けに行きましょう。」
「あっ。それなら、船長。
弁天丸のビーム砲などの武器は、帝国軍の慣習に従ってまだ封印されたままですから、使えません。
ご承知おきください。」
「ナハハハ・・・・。それを早く言ってよ、ギルバートさん。
でも、弁天丸のビーム砲は強力過ぎて、この帝都の真ん中で使っちゃいけないのは分かっていたわよ。
大丈夫よ。何とかして見せるわ。」
茉莉香は、艦内放送のマイクを握った。
「聞いて、弁天丸のみんな。これから、セレニティ大使館へ海賊しに行きます。
仲間を助けるのよ。
白兵戦の準備よろしく~う。
さあ! 海賊の時間だぁ~。 」
「おおー!」
館内放送を使った茉莉香の掛け声に、船員たちが答えた。
やがて、弁天丸は、セレニティ大使館の上空に到着し、大使館の建物すれすれの高度にまで降下して、静止した。
「おもしろいわぁ。重力制御方式だと、こういう船の使い方もできるのよね。
さーて、まずは降伏勧告かなあ。」
茉莉香は、在銀河帝国セレニティ王国大使に電話をかけた。
大使はなかなか電話口に出てこなかった。
しかし、茉莉香が大使館上空に静止している弁天丸から電話していると知って、ついに電話に出てきた。
「大使閣下。お初にお目にかかります。宇宙海賊船弁天丸船長、加藤茉莉香です。
グリューエル殿下のご依頼により、参上しました。
殿下にご連絡を取りたいのですが、お取次ぎを願います。」
「残念ですなあ。姫様は、先ほどお出かけになりました。」
「ほう~~。殿下が大使館にいないとおっしゃるのですね。
これは、興味深い御発言ですねえ。記録に残しましょう。
王族たる殿下の身にもしも何かがあれば、銀河帝国では、聖王家に対する不敬罪に準ずる大罪にあたります。ご存じですよね。」
「なんのことか、おっしゃる意味が分かりませんな。
私は、外交使節として、帝都に滞在する身ですぞ。
いくら海賊でも、そのくらいのことはご存じでしょう。」
「もー。お上品なおしゃべりは、やめたわ。
あんたの言う通り、私たちは海賊。だから外交特権なんか気にしないわよ。
いまから、グリューエル殿下を探すため、大使館を占拠します。抵抗するなら、あなたたちの頭上にいる弁天丸から砲撃します。
さあ、降伏しなさい。」
そう言って、茉莉香は大見得を切った。もちろん、監視カメラの映像を見て、誘拐の事実を知っていることは隠していた。
「・・・・。大使館には、海賊船と戦う武力はありませんからな。
降伏しましょう。どうぞ、好きに探してください。」
大使は冷たい微笑を浮かべて返答した。しかし、その返答は、まだまだ負けていないと言う意気込みがあった。
「では、そちらに上陸します。」
5 セレニティ王国大使館(帝都クリスタルシティ)
茉莉香たち、弁天丸のクルーは、白兵戦用の防護服に身を包んで、弁天丸から大使館の庭に飛び降りて行った。もちろん、白凰女学院のヨット部員達は船に残ったままだった。
そして、弁天丸に残ったヒルデの道案内を無線で聞きながら、一隊はグリューエルの部屋に、一隊はキャサリンの閉じ込められている部屋に、そして茉莉香たちは大使の執務室に向かった。
「大使閣下。グリューエル殿下はどちらにおられるのですか?
ご存じなのでしょう?」
大使の執務室に入った茉莉香が言った。
「私は何も知りませんな。
お出かけの行き先も聞いておりませんからねえ。
でも、ひょっとすると、殿下はまだ、自室におられるのかもしれませんねえ。」
「船長。殿下の部屋には、誰もいなかったと連絡がありました。他のクルーは、これから、大使館全体を捜索すると言っています。」
ギルバートが言った。
「では、キャサリンと一緒にどこかへ御忍びで出かけたのでしょうなあ。
先日も、ほとんど無断外泊ともいうべき『ご活躍』でしたからなあ。」
大使が、グリューエルの近頃の行動について皮肉を言った。
その時、大使の執務室のドアが、大きな音を立てて空いた。
そして、キャサリン小隊長が、激しい勢いで飛び込んできて、いきなり大使に飛びかかろうとした。
あわや大使に激突と言うところを、ギルバートが割って入って、キャサリンを投げ飛ばし、彼女の突進を止めた。
彼女は、ギルバートに床に抑え込まれているにもかかわらず、
「邪魔をするな。放せ。私は裏切り者を成敗するんだ。」
と、まだ抵抗をやめない。
「大使に向かって、何を言うか。衛兵の分際で!」
大使は立腹していた。
「キャサリンさん、私は大使を守るために、あなたを止めたのではありませんよ。
あなたを守るために、止めたのですよ。」
ギルバートが言った。
「・・・・・」
キャサリンは沈黙した。
「あなたは、大使を『成敗』して、自分も死ぬつもりだったでしょう。
でも、あなたには、まだ任務があります。姫を助けると言う任務が。
死んではなりません。いっしょに、姫を助けに行きましょう。」
茉莉香が言った。
「船長。大使館内に姫様のお姿は無いとクルーから連絡がありました。」
まだ、キャサリンを抑えながら、ギルバートが言った。
「そうですか。
では、どこかへ連れ去られた姫様を追いましょうか。
おっと、忘れるところでした。
大使閣下、これは、今回の姫様の御依頼を果たすための費用の請求書です。
一応、費用は、姫を探して、セレニティ星系まで行く予定ですから高額になっていますが、事件が簡単に片付けば、もちろん、実費精算しますから。
海賊は、明朗会計です。
そこのところ、よろしく。」
そう言って、茉莉香はにっこり笑って、大使に請求書を渡し、大使は呆然とした表情で受け取った。
実は、茉莉香は、大使に請求書を渡すためにこの部屋を訪れたのだった。
「さあ、グリュエールを助けに、弁天丸、出航よ。
乗船を急ぎましょう。」
船長の掛け声に応じて、弁天丸のクルー達とキャサリンは大使館から去って行った。
これまで投稿していたエピローグ3からを、「宇宙海賊キャプテン茉莉香 -セレニティ編-」として連載することにしました。
よろしくお願いします。