宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 グリューエルの誘拐事件に対して、銀河帝国が動き出します。
 そして、宰相同士の会談で、銀河帝国の真の狙いが明らかになります。
 銀河帝国とセレニティ王国の激しい争いの中で、グリューエルの運命はどうなるのでしょうか。
  一方、茉莉香は、グリューエルを救い出そうと弁天丸Ⅱ世に乗って追いかけます。


第三十一章 セレニティ王国占領作戦

1 弁天丸Ⅱ

 

 弁天丸Ⅱは、セレニティ王国大使館を離れて上昇した。

「グリューエルは、今どこにいるのかしら。

 誘拐犯は、宇宙空港で拘束されたのかしら?

 ねえ、情報収集してみて。」

 茉莉香は、クルーに指示を出した。

「船長、帝都防空司令室から聞きました。

 二時間ほど前に、宇宙空港に停泊していたセレニティ軍のシャトルが、無許可で緊急発信していったそうです。行先は、セレニティの軍艦が駐機している空域だそうです。」

 ギルバートが言った。

「誘拐犯を威嚇して捕まえられなかったの?」

「はい。向こうはこちらが撃たないと見越して、強引に発信していったようです。

 実際のところ、姫様だけでなく、空港にいる民間人に危害が及ばないように、軍に交戦を控えよと指示が出ていたようです。」

「そうかあ。確かに、人質を取られているわけだからねえ。」

 茉莉香も、悔しそうに言った。

 

「船長、船長。チアキちゃんから通信よ。」

 クーリエが言った。

「茉莉香! 見たわよ。例のビデオ。許せないわね、アイツ。」

 チアキが画面に現れると、いきなり怒りをぶちまけた。

 画面に現れたチアキは、帝国軍の軍服姿だった。それも、第一艦隊司令官の肩章をつけた上級大将の制服を着ており、表情にも緊張感が溢れ、戦闘モードになっていた。

 

「誘拐犯は、二時間前、帝都の宇宙空港を堂々と発信していったそうよ。」

 茉莉香が悔しそうに言った。

「そうなのよ。

 おまけに、向こうは、セレニティに向かうために超光速跳躍の航路追跡が難しい新型船に乗りかえるそうだし、誘拐されたグリューエルの無事が最優先だから、途中で捕獲するのは難しいらしいわ。

 それなら、目的地を先に押さえたらどうかという話をしているの。」

「ええ! どういうこと?」

「簡単よ。

 第一艦隊を出して、先回りしてセレニティ星系を占領してしまえばいいのよ。

 時空トンネル航法のスピードでは、セレニティの軍艦なんか、あっという間に追い越してしまうからね。」

「ええー!! セレニティ王国全体を占領しちゃうの?」

 茉莉香は驚いた。

「そうよ? 

 だって、弁天丸から送ってもらったビデオに決定的な証拠があるそうよ。」

 チアキがこともなげに言った。

「そりゃ、実行犯が『バルデン伯爵』という奴だってことはわかるけど・・。」

 茉莉香が言った。

「船長。もう一人の男は、キースといいます。

 セレニティの近衛隊第一小隊長を勤め、大公様専属の凄腕の警護役として知らぬ者はおりません。」

 ヒルデが口を挟んだ。

「そうなのよ、茉莉香。

 キースと言うヤツが帝都にやってきたと言うことは、この件にセレニティ大公もかかわっている証拠だそうよ。

 それに、情報部から、セレニティの政治情勢やアイツの狙いも聞いたわ。

 ヒルデ、話してもいいかしら。

 あらかじめ、茉莉香にも知っておいてもらった方が良いと思うのよ」

 いつの間にか、チアキも沈んだ口調になっていた。

「どういうことかしら。」

「チアキ様、おぞましい話ですが、母国のことですから、私からお話します。」

 ヒルデが言った。

「茉莉香さん、バルデン伯爵の狙いは、人工子宮、『薔薇の泉』の復活です。

 そのために、お、お、お姉さまの・・・・」

 ヒルデは、途中で涙を抑えて、言葉が続かなかった。

「ええっ!! まさか?

 グリューエルの体で、薔薇の泉の『コア』を作り出そうというの?」

 茉莉香が言葉をつづけたが、茉莉香も全身に鳥肌がたつような悪寒に襲われた。

 そばで聞いていたヨット部の少女たちも、顔色を変えるほどの衝撃を受けている。

 

 『薔薇の泉のコア』、それは、人間の受精卵だった。

 その材料となる卵子がどこにあり、どうやって受精卵が作り出され、人工子宮にセットされるかを考えると、それは、特に女性にとって、気を失いそうになるほど、恐ろしいことだった。

 

「ごめんなさい。ちょっと、刺激がきつ過ぎたかしら。

 それで、茉莉香。

 とりあえず、あなたの弁天丸で、バルデン伯爵の船を追いかけてほしいの。

 セレニティ王宮への最終的な対応方針は、今、母上、宰相、参謀本部が相談しているらしいけど、それが決まるまで追跡を継続して欲しいの。

 ついては、時空トンネルで超光速跳躍する前に、私のいる中央基地まで来て。

私が、弁天丸の武器につけられた封印を解除するから。」

「わかりました。

 こちらも、乗員を乗せるために中継ステーションに寄るので、その後、すぐに向かいます。」

 茉莉香が答えた。

 

 弁天丸は、大気圏外まで上昇すると、帝都クリスタルスターの民間航路用中継ステーションに寄港した。

 ここで、ミーサとアレックスの二人を乗船させるためだった。

 幸いなことに、ミーサは『旅行』から帰ったばかりということで、中継ステーションにいたのだ。そこでアレックスも乗船するという。

 

 

「えーっ! ミーサ先生、結婚したんですか!?」

 弁天丸に乗船してきたミーサを見て、茉莉香と白鳳女学院ヨット部員・OGたちは、びっくりして、大声を出した。

「ノーコメントよ。海賊なんだから、プライバシーは詮索しないの。」

 ミーサは、いつものように言った。

 しかし、ヨット部員たちは、ミーサの左手薬指にある豪華な指輪を見逃さなかった。

 しかも、彼女の服装はいかにもリゾート惑星に新婚旅行に行ってきたという感じの華やかなものであり、何よりも、一人の男性がミーサに付き従って、その男性の背丈より高く積み上がったスーツケースと土産物などの荷物を載せたカートを弁天丸に運び込んできたからだ。

「あっ。ケントさん。どうも、このたびはおめでとうございます・・・・。」

 茉莉香は、ミーサに付き従ってきた男性に挨拶した。

「いやあ、どうも、どうも。」

 クラーク・ケントは、嬉しそうに茉莉香に返事をした。

 

「あの人、だれ?」

 リリイが小声で言った。

「今は、銀河テレビの社長、クラーク・ケントさんよ。ヒガンの遠征で一緒だったの。」

 茉莉香が答えた。

「えー!」

 茉莉香の説明を聞いて、ヨット部員たちが騒ぎ出した。

 

 その騒ぎを見ながら、アレックスが弁天丸に乗り込んできた。

「休暇がずいぶん長いと思っていたら、ミーサ先生は新婚旅行だったんですね。」

 アレックスが言った。

 シュニッツアーは都合がつかないと言って、結局、乗船してこなかった。

 

 着替えてブリッジに現れたミーサとアレックスは、さっそくクルーから現在までの経過を聞かされた。

 すると、ミーサが言った。

「そういうことなら、ヨット部員は、この中継ステーションで直ちに船を降りて、海明星へ戻りなさい。

 ねえ、船長。

 ヨット部員は、そろそろ学校へ戻る時間でしょ。

 あなたの後輩のことだから、きっと、練習航海だと言って学校を抜け出してきたんでしょうねぇ。『代返』がバレないうちに、戻らないとね。

 それに、今回は、未成年には、ちょっと見せたくない仕事になりそうね。」

「そ、そうですね・・・。学校のことを忘れていました。

 ハイ、ハイ。みんな。船を降りましょう。学校へ戻る時間です。」

 茉莉香が言った。

「ハーイ。」

 ヨット部員は、意外にも、素直に返事をして、帰り支度をするために船室に戻っていった。

 

 弁天丸Ⅱは、中継ステーションを出航した。

 メインモニターには、弁天丸の出向を見送るために、中継ステーションから手を振るヨット部員やOGたちの姿が映り、それも小さくなっていった。

 そして、弁天丸は、帝国軍中央基地に向かって航海を始めた。

 

「おい、どうするんだよ。いつまで黙っているつもりなんだよ?」

「オレ、どんなことになっても、知らないよ。

 弁天丸では、船長よりミーサの方が怖いんだよ。分かってるの!」

「分かっていますが、私たちも『脅されて、しかたなく』、手伝ったワケで・・・・。」

 三代目と百目が、電子戦を担当した帝国軍のスタッフ、ジョージ・ワトソン少尉とビル・グリーン少尉と、ヒソヒソと小声で話している。

 

「そこ、聞こえてるわよ。」

 ミーサが腕を組みながら言った。

「はあぁ。お聞きの通りなんですが・・・・。」

「また、ヨット部員の密航ね。今回は何人なの?」

「全員です。」

「なにそれ! 彼女たちは今どこにいるの?」

「談話室にいます。」

 

 ミーサが、談話室を呼び出すと、ヨット部員たちがメインモニターに現れた。

「どーも。よろしくお願します。」

 ヨット部員は、あいさつしながら、手を振っている。

「ねえ。先生、結婚式とか、新婚旅行のお話、聞かせてくださいよ。

 楽しかったんでしょう?」

「先生、素敵です。」

「お二人の出会いは、どういうイキサツですか?」

 ヨット部員は、各々、ミーサの結婚話に強い関心があるらしく、詳しい話を聞きたがっていた。

 

「ううう・・・・あなたたち、懲りないわねぇ。」

 そういって、ミーサはメインモニターから顔をそらし、クルーの方を振り返った。

「それで、なぜ、密航の手引きをしたの?」

 ミーサは、手引きをした二人に詰問した。

「いや。今日、彼女たちがセレニティ大使館との電子戦を観戦していた時に、私たちのパソコン画面上にある『マスコット』を彼女たちに見つけられて・・・・・。」

「船長に密告されて船を降ろされたくなかったら、言うことを聞けと・・・・。」

 帝国軍のスタッフ、ジョージとビルが言い訳をした。

「それで、密航の手引きをしたわけなのね。・・・まったく、女子高生に脅されて言うことをきくなんて、情けない。」

 ミーサが、すこし憮然とした表情で言った。

「はい。すみません。

 でも、おかしいんです。中継ステーションに寄港する前とくらべて、三人も乗員が増えているんです。女子高生達のほかにも密航者がいるんでしょうか?

 たしか、乗船したのは、ミーサ先生とアレックス殿下の二人のはずなのに・・・。」

 ジョージが言った。

「はぁ・・・? まさか・・・。」

 ミーサは医務室に電話をした。

「ねえ、アレックス。クラークがまだそっちにいるの?」

「はい。まだ、ミーサ先生から『帰っていい』というお許しが出ていないと言って。」

「まったく何やっているのかしら。それで、彼は、今、何をしているの?」 

 ミーサは、頭を抱えながら、言った。

「いやあ、今回の弁天丸の仕事について、大事件の臭いがすると言って、ケントさんが私にいろいろ質問するので、私も返答に困っていたところです。」

 アレックスが答えた。

「ああ・・・。電話をクラークに代わってちょうだい。」

 モニター画面に、クラーク・ケントが現れた。

「ミーサ、もう弁天丸は次の仕事のために出航したようだけど、僕も乗っていいんだよね。

 僕の直感では、今度の仕事は、とても面白そうなんだけど・・・。」

「かなりやばい仕事よ。

 たぶん、銀河帝国から報道禁止に指定されるから、取材はあきらめなさい。」

「ひどいなぁ。マスコミの役割を何だと思っているんですか。」

「いまさら、あなたの口から、そんな言葉がでるの? アキれたわ。

 とにかくダメだから。」

「いやあ~、そこをなんとか。

 この間も、銀河テレビのオーナーから、

 『お前が仕入れてくるネタは面白いけど、報道禁止ばかりで売り上げにつながらない。』

 って、言われたもので・・・・。」

 

「あの~~。お取込み中、済みませんが、本題に戻っていいですかぁ。」

 茉莉香が言った。

「『マスコット』って、なんですかぁ。

 どうして、それが私に見つかると、船を降ろされるようなことになるんですかぁ?」

「あっ!」

 ジョージとビルは、顔色を変えた。

 

 マスコットとは、帝国軍の男子兵士の間で大流行しているコンピュータのアクセサリだった。デスクトップに常駐したアバターが、パソコンの操作者に語りかけ、愛嬌を振りまいてくれる。

 例えば、パソコンの操作を始めると、メイド服姿のアバターが可愛い声でこう言う。

  「お帰りなさいませ。」

 

 極めつけは、夜勤の兵士を励ますものだった。

 深夜になると、Tシャツと超ミニスカ姿のアバターが現れて、ボンボンを振り、スコートが見えるほど両足を高くあげて飛び跳ねながら、こう言う。

 

  「フレー、フレー、○○○」

 ご丁寧に自分の名前を呼んで励ましてくれる。

  

 もちろん、ジョージとビルのマスコットのモデルは,茉莉香だった。

 茉莉香の声や映像を使った、3等親のアバターが動き回る。さすがにスコートはアニメであり本物の映像ではなかったが・・・。

 勿論、製作に本人の了解を得ているはずがない。

 バレたらどうなるか、明らかだった。

 

 

2 セレニティ軍ハルモニア号(バルデン伯爵チャーター船)

 

 バルデン伯爵達を乗せたセレニティ軍の戦艦ハルモニア号は、帝国軍の臨検要求を無視して、帝都のあるレッドクリスタル星系・惑星軌道上の各国軍用駐機エリアを出航した。

 そして直ちに超高速跳躍を行った。

 

「ふん。帝国軍なんか、張子の虎だ。

 人質を気にして、一発も撃ってこないじゃないか。」

 バルデン伯爵は、ハルモニア号のブリッジで、興奮して勝ち誇るように言った。

「伯爵。まだまだ油断禁物ですぞ。

 帝国軍の追跡は、当然、予想しなければなりません。セレニティ星系までは、まだ7000光年ほどありますから。」

 ハルモニア号の艦長が言った。

「だから、ヤツらの追跡を振り切るために、この船で来たんじゃないか。

 この新型船は、時空震の航跡を追尾するのが困難なステルス性をもつからな。

 さて、グリューエル姫にそろそろ御目覚め頂く時だろう。

 姫には、ご自分の運命を受け入れてもらうのだ・・・・・。」

 バルデン伯爵はそう言って、ブリッジを離れ、姫のいる医務室へ向かった。

 

 伯爵は医務室に入ると、医師のフランクに聞いた。

「どうだ、先生、作業は進んでいるか?」

「はい。患者の遺伝子などの検査は終わりました。

 ご覧ください。素晴らしい結果です。

 身体的特徴を伝える遺伝子などは、初代王アレキサンダー一世のような、金髪、碧眼、優美さと意志の強さを兼ね備えた目鼻立ちなど、六百六十六のチェック項目すべてで、偉大な王の御姿を十二分に備えております。

 知能だけでなく、勇気、忍耐力などの情動をつかさどる因子も、三百三十三のチェック項目すべてで、極めて高い能力を備えております。

 もちろん、病気などの劣った形質を伝える恐れのある因子はまったく見当たりません。

 この結果をみると、患者が、幼いころから、

 表では『モンブランの神童』と称賛を集めつつも、

 裏では『薔薇の泉の最高傑作』と揶揄されてきたのも当然ですなあ。」

 フランク医師は、グリューエルを名前で呼ばず、ただ「患者」と呼んでいた。

「そうか、そうか、私の目に狂いは無かったな。

 では、次の段階のテストを進めてくれ。」

「はい。承知いたしました。

 まずは、極細ファイバースコープを使って最小限の『組織片』を採取するだけですから、患者に傷が残ることも無く、痛みもありません。

 おそらく、患者は気が付かないでしょう。ハハハ・・・。

 組織片を培養して成熟させるのに時間がかかりますから、検体の状況によっては、実験開始までは、ひと月ほどかかる場合もありますが・・・。」

 フランク医師は、自分がこれから行うことを、ごく普通の医学的実験のように表現していた。

「もっと早くできないのか。」

「薬品を投与すれば可能ですが、お望みですか?」

「いや、可能な限り自然体のままで実験を行おう。時間は十分あるからな。

 それでは、『組織』の採取が済んだら、患者の目を覚まさせてくれ。」

「承知しました。」

 

「ここは、何処なのですか?」

 グリューエルは、医務室のベッドの上で目覚めた。

「お目覚めですかな。姫様。ここは私の船の中です。」

 バルデン伯爵が答えた。

「伯爵! では私を誘拐したのですね。

 どうして、このようなことを。

 直ちに私を開放しなさい。」

 グリューエルは怒りを込めて言った。

「オホホホ・・・。姫様は、御自分の置かれた状況を自覚されておられないようですな。」

「なにをいうのですか! 臣下の身分をわきまえなさい。」

「では、申し上げましょう。」

 そう言って、伯爵は恭しく一礼した。

 

「臣下として、心より、お喜び申し上げます。

 大公様の御意により、姫様の御縁組が整いました。

 姫様は、新しい『薔薇の泉の花嫁』に選ばれました。

 セレニティ正統王家の輝かしい伝統を受け継ぐため、その御役目を果たして頂くよう、心より、お願い申し上げます。」

 

「なんですって!?

 ウソです。大公様がそんなことをお決めになるはずはありません。」

「本当です。姫様。」

「絶対に、ウソです。

 大公様に通信をつないでください。直接、お話を伺いすればわかります。」

「それはなりません。

 姫様、もう決まったことです。

 どうか、お気を静め、御覚悟をお決めください。」

 伯爵は、あくまで、慇懃無礼に言った。

 

「イヤです。私は、絶対にイヤです。同意なんかいたしません。」

「そうは申されましても・・・・。」

「薔薇の泉。あんな、おぞましいものはこの世からなくすべきだと、私は、申し上げてきたではないですか。」

 

 押し問答は続いたが、グリューエルは強く拒否し、全く態度を変えなかった。

 

 伯爵は、この場で同意を得ることをあきらめ、医師にこう言った。

「少し、冷静になって考えて頂こう。安静剤を指し上げろ。」

「はい。」

 フランク医師は、再び、グリューエルを眠らせた。

 

 

3 契約の儀式

 

 茉莉香は、「マスコット」について詳しく詰問しようと思った。

 しかし、グリューエルを誘拐した船を追うために、逃走した船の情報を入手しようとあちこちと連絡を取るために忙しく、それも後回しにせざるを得なかった。

「船長、船長。

 間もなく帝国軍中央基地に到着しますよ。

 到着次第、第二王女殿下が弁天丸に乗船されるため、連絡シャトルで待機されているとのことです。」

 クーリエが言った。

 

 やがて、チアキが乗船してきた。

「茉莉香。ごきげんよう。」

「チアキサマこそ、ごきげんよう。

 ・・・ナハハハ、帝国女学院風の挨拶は、なんだか恥ずかしいね。」

「そうね。昔通りにいきましょう。

 でも、今日のあなたは、ずいぶんイキイキとしているわね。

 やっぱり、茉莉香は、海賊営業の方が楽しくて仕方ないようね。」

「ナハハハ・・・。 そうかなあ。」

「そうよ。

 時間もないから、それじゃあ、さっそく始めるわよ。」

 そういって、チアキは船のブリッジの中央、戦闘管制デスクの前に立った。

 

『契約の儀式ね。私も初めて見るわ。』

 ミーサが言った。いつのまにか、クラーク・ケントも彼女の側に来ている。

 それだけではなく、ブリッジのクルーやヨット部員までが集まって、チアキに注目している。

 

 帝国軍の軍艦は、戦闘管制デスクにある認証装置による認証をクリアしないと、武器の操作ができない仕組みになっている。

 弁天丸Ⅱは、海賊船という自由な船で、帝国の指揮下にはないので、本来、そのような認証装置の装備は、弁天丸の方で拒否するはずである。

 しかし、今の弁天丸Ⅱは、銀河帝国軍の最新装備をテストするという帝国の仕事を請け負っているので、帝国軍の軍艦と同じような認証装置が特別に装備されている。

 しかも、新造艦である現在の弁天丸Ⅱでは、認証装置に『封印』と言われる始動時のみの特別なロックがかけられた状態になっており、これを解除するのは、銀河聖王家の王族の役割とされている。

 そして、この『封印』を解除するために王族が行う一連の操作は、『契約の儀式』と呼ばれている。それは、まるでお伽噺(おとぎばなし)において、魔法使いが悪魔を使徒として従わせる際の儀式のような名前である。それは、実際の操作が、リアリストの帝国軍人ですら、そう呼びたくなるようなものだからである。

 

 チアキは、弁天丸Ⅱの戦闘管制デスクの中央にある、認証装置に自分の手を置いて、目を閉じて言った。

 

「大宇宙始まりの時、

 われら銀河聖王家をこの銀河系(うみ)に遣(つか)わした八百万(やおよろず)の神々よ。

 そして、三千年の銀河帝国を支えし、祖先の英霊よ。

 謹んで訴える。

 銀河聖王家の一族である、私、チアキは、わが名において、謹んで訴える。」

 

 チアキがそう言い始めると、艦内の照明が暗くなり、一方、チアキが手を置いた認証装置が光り始めた。

 かまわず、チアキは祝詞(のりと)を続けた。

 

「私は、この船に新たな命を吹き込むことを、乞い、願う。

 この船を我らが無敵艦隊の一翼に加え、末永く、われら銀河聖王家に仕えさせるためにこの船に新たな命を吹き込むことを乞い、願う。」

 

 認証装置はますます強い光を放ち始めた。

 さらに、チアキの長い黒髪が風に舞うように浮き上がり、光の中を漂い始めた。

 

「弁天丸Ⅱ(にせい)よ。

 目覚めよ。私の声を聞くがよい。」

 

 認証装置の発する光はますます強くなっていく。

 やがて光が点滅を始めた。心臓の鼓動のように。

 

「弁天丸Ⅱよ。

 わが声が届いたならば、

 銀河聖王家の一族である、私、チアキは、わが名において、汝、弁天丸Ⅱに問う。

 汝は、我ら銀河聖王家を主(あるじ)として、命果てるまで我らに仕えることを誓うか。」

 

 チアキの声を聞くと、弁天丸の認証装置はそれ以前よりもゆっくりとした光の点滅を繰り返し始めた。

 見ていた人たちには、弁天丸Ⅱがチアキの言葉に答えたように感じられた。

 

「八百万の神々よ。祖先の英霊よ。

 この船、弁天丸Ⅱは、今、我ら銀河聖王家を主として、命果てるまで我らに仕えることを誓った。

 よって、私は、謹んで訴える。

 この船が、我が無敵艦隊の一翼に加わることに、祝福を授けたまえ。

 そして、この船が出陣するすべての戦場において、勝利の祝福を授けたまえ。

 そのために、今、この船に、我が無敵艦隊の一員としての名を授けたまえ。」

 

 チアキがそう言うと、チアキが手を置いていた認証装置が閃光を発した。

 そして、ひと呼吸おいて、武器管制装置のコンピューターの電源が点灯し、システムが起動し始めた。

 

「うわぁー、魔法みたい。」

 ヨット部の下級生たちが感嘆の言葉を漏らした。

 

『確かに、魔法のように見えますわ。

 でも、それは、この儀式を支えているテクノロジーを私たちが理解できないからですわ。』

 ヒルデは、『契約の儀式』の迫力に圧倒されつつ、冷静に考えていた。

 

『おそらく、なんらかの人工知能』。

 ヒルデはそう考えた。

『そして、自分たちが、単なるセーフティロックとしての認証装置と思っていたものは、おそらく、全く知られていない高度な科学技術による通信デバイスの機能も有している。

それにより、船に装備されたきわめて高度な人工知能がひとつのネットワークでつながっているのでしょうね。』

 と、ヒルデは思った。

 

 自律的に考える機械としての人工知能の技術は、古代において『悪魔、悪霊を作り出す研究』として宗教界や環境主義者から激しい弾圧を受けたため、人間のクローン技術よりもはるかに厳しく禁じられ、現代には存在しないものとされている。

 現代技術による人工知能は、予め人間が与えた指示のうち、遭遇した環境に最適なものを選んで実行する機能を持つにすぎないとされ、自立型とは程遠いものとされている。

 

『歴史で習ったような、禁断のテクノロジーである人工知能が、現代に、それも銀河帝国の権力の源泉である王族と帝国軍の中において、何らかの形で隠されて存在しているかもしれませんわ。

 銀河聖王家の血を引く者であることの自動認証は、その人工知能が有する、ひとつの機能に過ぎないのでしょうね。

 きっと、人工知能の方は、契約の儀式での誓いを果たしているつもりなのでしょうね。』

 と、ヒルデは思い至った。

 

「よし。

 これで、弁天丸で追撃できる準備が整ったわ。

 チアキちゃん、ありがとねぇ。」

 

 茉莉香は、チアキがこんな魔法のようなことをいつの間にできるようになったのか、そしてこの儀式が自分の弁天丸にとって、どのような意味を持つのか、疑問に思った。

 しかし、今の茉莉香は、グリューエルを一刻も早く救い出したいという思いでいっぱいで、それをチアキに問う心の余裕は無かった。

 そのため、思わず、いつものタメ口が出てしまった。

 

「だから、茉莉香~~。

 『ちゃん』じゃないって、いつも言っているでしょ。」

「ええ・・・・だって、チアキちゃんは可愛いから、チアキちゃんだよ。」

「茉莉香。恥ずかしいこと、言わないでよ。」

 

 また、いつものように、仲のいい掛け合いを始めてしまった二人を、ブリッジにいた人々は笑顔で見つめていた。

 

 

4 銀河帝国の宰相執務室 (帝都クリスタルシティの王宮内)

 

 銀河帝国の宰相、リシュリューは、帝国軍の最高首脳会議の決定を受けて、セレニティ王国の宰相ミッテランと会談した。もちろん超高速回線を使ったリアルタイムの会談である。

「ご機嫌、麗しゅうございます。宰相閣下。」

 セレニティ王国の宰相ミッテランが、先に挨拶した。

「こちらこそ。ご機嫌、麗しゅうございますなぁ。宰相閣下。」

 銀河帝国の宰相リシュリューが、あいさつに応じた。

 しかし、儀式のようなエールの交換はここまでだった。

 ただ一人の兵も動かさない、言葉と知恵による「戦闘」が二人の間で始まった。

 

「今日は突然の会談要請でございましたが、如何(いかが)、なされましたか?」

「それは、こちらが聞きたい話ですぞ。」

「なんと。なにを申されますか?」

「では、こちらから申しましょう。

 本日、帝都のセレニティ王国大使館からグリューエル・セレニティ殿下が誘拐されました。証拠によりますと、誘拐犯の一味は、セレニティ王国のバルデン伯爵とセレニティ大公の近衛隊長キースと申す衛兵が中心ですな。

 誘拐犯一味は、グリューエル殿下をセレニティ軍の軍艦に乗せて、帝都から逃走しました。」

 リシュリューが言った。

「ほう。初耳ですなあ。

 わが王族にそのような重大事件があれば、すぐさま報告が来るはずですが・・・。」

 ミッテランが受け流した。

「なるほど、そう言う状況ですか。

 他の星の王族といえども、王族に対するこのような非道な行為は、わが銀河帝国では不敬罪に準ずる大罪にあたります。

 特に、グリューエル殿下は、青薔薇家の二人の王女様と親交が深く、女王陛下もこの件には、たいへんにお怒りでして、

『直ちに、姫を救いだせ。そのためには、手段は問わない。』、

『犯人を直ちにとらえて、厳罰に処せ。』

 とおっしゃっておられる。

 この意味は、お分かりですかな。」

「何をおっしゃりたいのか、計りかねますが。」

「それでは、こちらから申しましょう。

 陛下は、先ほど、帝国軍の第一艦隊に動員準備指令を出されました。王族がらみの軍事問題は、第一艦隊の所管ですからな。

 目的地は、もちろん、セレニティ星系です。

 司令官は、グリューエル殿下とお親しいチアキ殿下ですぞ。殿下は生真面目なご性格であらせられるので、殿下が艦隊の全権を振るわれると、妥協や腹芸は通用しませんぞ。 

 すでに、先遣隊として最新鋭戦艦三隻を、セレニティ星系の航路調査の為、出発させました。

 帝国の最新型の戦艦ですから、誘拐犯を追い抜いて、今日の夕刻には、セレニティ星系の外延部に到着するでしょう。

 言うまでもないことですが、重力兵器を備えた最新型の戦艦ですぞ。

セレニティ星系軍と戦うだけならこれで十分な軍事力ですが、当方の目的はセレニティ星系の七つ星を占領し、捜索し、誘拐犯の共犯者である逆賊全員を逮捕することにありますからな。

 まず、地上部隊の到着を支援するための調査を行います。」

 

 それは、あくまでも犯罪に対する軍の強制捜査の形を取っているが、セレニティ王国にとっては、宣戦布告にも等しい行為だった。

 これに、あと二つの行為、すなわち宣戦布告の公式声明と、セレニティ星系を戦闘空域と宣言し、民間船の立ち入りを警告する声明が加われば、戦争開始の手続きは完了である。地上軍の降下による惑星の占領準備などは、戦争開始に不可欠の行為ではないのだから。

 

「そんな、一方的に軍事力の行使を宣言されるなど、尋常ではありませんな。

 銀河帝国は、自治条約を踏みにじり、我王国の自治を犯そうと言うのですか?

 我が王国が、一体何をしたと言うのですか?」

「それは、こちらが言いたいことですな。

 グリューエル殿下に関しては、セレニティ大公様から銀河聖王家の方との縁談が申し込まれていたそうではありませんか。

 しかるに、その姫を『薔薇の泉の花嫁』とすることを大公様は、お認めになったのですかな?

 事実ならば、無礼な扱いを受けているのは銀河聖王家の方でしょう。

 それに、帝都の秩序を蹂躙し、大罪を犯したのは、どなたでしょうかな。

 しかも、その理由が、『薔薇の泉の花嫁』となれば、女王陛下や王女様たちが激しくお怒りになるのも当然ですなあ。」

 

 リシュリューは、帝国中枢の王族がすべて女性であることを、わざと強調した言いまわしをした。

 

「そのようなことは、決して大公様はお認めになってはおりません。」

 ミッテランは、そう言うしかなかった。

「しかし、その証拠は、余るほどありますぞ。大使館での犯行の様子をとらえた映像まで確保しておりますからなあ。

 ですから、宰相閣下、ご決断をされるならば、今しかございませんぞ。」

「そう申されましても、何のことか・・・。」

「では、こちらから申し上げましょうか。

 早ければ、明日にも帝国軍は動員の準備が整うでしょう。そして、第一艦隊の大軍に出動が命じられるときには、誘拐の事実も公表されます。

 そうなれば、もう、帝国も後には引けませんからな。

 第一艦隊は、明日の夕方にはセレニティ星系へ到着するでしょう。今の帝国軍には、7000光年など、ひとっ飛びですからな。

 その後、明後日には、セレニティの『奇跡の七つ星』に対して同時に降下作戦を行うでしょう。

 時間はありませんぞ。閣下。」

 

 リシュリューは、帝国軍首脳会議では、参謀本部が作成した占領スケジュールの試案をさらに遅くすることを主張し、それが認められている。外交交渉でセレニティ側に言うことを聞かせる時間を確保するためである。

 しかし、彼は、先遣隊が既に派遣されていること以外は、セレニティ王国側には、参謀本部の作成した占領スケジュール案よりもさらに早い日程を言った。ブラフ(脅し)である。

 もっとも、誘拐の事実と帝国軍の占領作戦が公表されてしまえば、占領が少し遅れようが、事態は同じである。むしろ、帝国軍の占領まで時間がかかれば、その間にセレニティ星系は大混乱に陥るだろう。

 

 少しの間、二人の間に沈黙が支配した。

 

「・・・・・

 すこし、本当にすこしの間ですが、お時間を下さい。

 大公様に進言いたします。

 私といたしましても、セレニティ王国の独立を維持するのが、最大の使命ですから。

 それにつきましても、宰相閣下の御助言を頂ければ、幸いかと存じます。」

 

 ミッテランは、顔色一つ変えず、外交的な言い回しながら、占領を回避できるのならば、帝国の要求を飲むことを示唆しているのだった。

 銀河帝国が大軍を派遣してセレニティ王国を占領する決断をした以上、セレニティ王国にとって、自らの独立をかけて、銀河帝国と戦うという選択肢は、もともと無かった。軍事的には、彼我の戦力差は明白だった。

 そうはいっても、セレニティ側も、無条件で銀河帝国の主張を受け入れるつもりは無かった。

 二人の「戦闘」は、これからが本番だった。

 

「それでは、大変失礼ながら、私からのアドバイスを少し。

 まず、一つめは、グリューエル殿下の無事解放と、帝都への御帰還を確保することでしょう。

 殿下に『もしものこと』があれば、私としては、セレニティ王室の存続は保証しかねます。

 陛下の御怒りを鎮め、寛大な処置を進言すべきことばが見当たりませんので。」

 

『王室の存続は保証しかねる』という、感情を一切表に現さないリシュリューの言葉に、ミッテランは戦慄した。

 

「私の聞き間違えでなければ、今、閣下は『王室の存続』と申されましたな?

 畏れ多くも、銀河聖王家ほどではございませんが、セレニティ王家も二千年続く栄光ある家系でございます。

 その『存続』を論じられるほどの重大な意味がこの事件にあると言うことでしょうか?」

「ああ、確かに、そう申し上げました。」

「これは、いかに。

 失礼ながら申し上げますと、グリューエル殿下は、このセレニティ王家においては、王位継承順位は第十四位でございます。

 殿下より年長の王族として、六男六女がいらっしゃいます。

 しかも王位継承第一順位の皇太子にすでに第二順位のお子様がいらっしゃるわけでして、グリューエル殿下が実際に王位を継承する可能性は極めて低く・・・・。」

 

「『カッコウの巣』の席順に、どれほどの価値がありましょうか。」

 リシュリューは、ミッテランの言葉を遮って、冷たい言葉を放った。

 

 『カッコウの巣』、それは薔薇の泉によって維持されてきたセレニティ王宮の内実に対する痛烈な恨み、悲しみ、非難、絶望を込めて、王室内外で密かに語られてきた言葉であった。

 それをリシュリューは知っている。

 カッコウは、托卵(たくらん)をする。つまりカッコウは他の種類の鳥の巣に自分の卵を産み落とす。その鳥の巣では、親鳥がカッコウの雛を自分の雛と思って育てる。しかも恐ろしいこと、カッコウの雛は親鳥の本当の雛を巣から追い出してしまうという。

 まるで、セレニティの王族が、バラの泉から生まれた子供を自分の子として育てるように。もちろん自分の子が生まれても,王族として認められず、自ら育てることも許されない。

 そのむごい現実のことを「カッコウの巣」と呼ん出来たのだ。

 

「『カッコウノス』という言葉は、初めてお聞きしますなぁ。

 だいたい、我王国の占領と王室の廃絶のような非道が許されるはずがありませぬ。

 どんなことを理由にそのようなことを申されますか。」

 ミッテランは知らないふりをするしかなかった。

 

「ハハハ、王制の正統性は、血統ですぞ。

 セレニティ王宮の真の血統図を、貴国の国民が知ったらどうなりましょう?

 そして、その血統を維持するために、どのような非道が行われてきたか、そして今またその非道が繰り返されようとしていることを、国民が知ったら、どうなりましょう?

 しかも、今回の犠牲者がグリューエル殿下だと国民が知れば、どうなりましょう?

 グリューエル殿下は、今も国民には人気のある姫だと聞いておりますぞ。

 国民が真実を知れば、銀河帝国の第一艦隊がそちらに到着する前に、暴徒どもによって、王宮は焼かれているかも知れませんなぁ。

 それとも、武力で、国民の反乱を鎮圧されますか?」

 リシュリューは、最大限の脅しをかけた。

 

「『犠牲者』とは、不適切なお言葉ですなあ。

 それにしても、どうやら、議論は平行線のようですなあ。

 時間を無駄にしないためにも、閣下から、この他の御助言があれば、伺いたく存じます。」

 

 ミッテランは、負けを認めない姿勢を維持しつつ、さらなる条件を聞こうとした。

「それでは申し上げましょう。

 なにぶん、あとは、大したことではございません。

 二つめは、大公様から、女王陛下に対して、

『グリューエル殿下と聖王家の王子殿下とのご縁組が正式に決まっても、姫様には王位継承権を保持されることを願っている。』

 と、お話し頂くことも、女王陛下の御怒りを鎮め事態を解決に向かわせる良い方法の一つかと愚考いたします。もちろん、御結婚後も同じです。

 この縁組みによって、銀河聖王家とセレニティ正統王家とは、特別な友好関係になるわけでございますから、そのことを表明いただくと、より友好が深まるかと存じます。

 

 三つめは、大公様から

『セレニティ王国の次期国王の人選については、いずれ女王陛下にご相談したい。』

と、お話し頂けると、後顧の憂いもなく、今後の事態がさらに良い方向に進むのではないかと愚考いたします。

 セレニティ王宮でも次期国王の決定の際には、有力王族にはそれとなく大公様のご意向をお伝えになるのでしょう?

 セレニティ正統王家は、銀河帝国と特別な友好関係となるわけですから、同じようになさると、より友好が深まるかと存じます。

 

 さすれば、両家はますます強い絆で結ばれ、大公様の御世におけるセレニティ王国の御繁栄はますます盤石のものとなると、両国民は安心するのではないかと存じます。

 以上は、私が分をわきまえずに申し上げた『たわごと』でございますので、単なるご参考の材料に過ぎませんが・・・。

 言うまでもありませんが、姫様が帝都に御帰還された後は、銀河聖王家が責任を持って姫様をお守りいたします。その詳細は、後日ご相談いたしましょう。

 私のアドバイスは、以上のたった三つです。

 おっと、忘れるところでした。

 もちろん逆賊は引き渡してもらいますぞ。生きていればの話ですが・・・。」

 

「大したことではない」と言いつつ、銀河帝国宰相リシュリューは、外交的な言い回しで、セレニティ王国の王位継承問題への銀河帝国の関与という最大の爆弾を投げつけてきた。

 そして、その三つの条件さえ満たされれば、事件の処理は、セレニティ側に委ねることを示唆していた。

 

『セレニティの王位継承に、銀河帝国が関与すると言うのか!

 そして、その時、女王が何を言うか、私でも予測がつく・・・。

 我が王国は、銀河聖王家との姻戚関係をこれまで持たないことを、独立の証(あかし)としてきたが、それは王位継承問題に帝国の介入を避けるためだったはずだ。

 グリューエル姫は王位継承順位も極めて低いため、その点では安心して嫁がせる事が出来ると考えていたのだが・・・・。

 それに、軍事力で覆せない形勢を、言葉と知恵で逆転するには、相応の大義名分が必要なのだ。それなのに、なんということだ。

 その大義名分が、今は、当方ではなく、彼らにあると言うのか・・・。」

 

 ミッテランは、沈黙しつつ、考えた。

 

『グリューエル姫に関する事件は、銀河帝国にとっては、セレニティ王国が自治国家になったこの数百年の間に、初めて訪れた絶好のチャンスということなのだろうなぁ。

 それとも、これは、手段と目的を取り違えた政争の挙句に、我が王国がたどり着いた結末、いや運命か・・・・』

 

 セレニティ王国宰相ミッテランは、そう考えつくと、心の中で苦笑した。

 ミッテランは、もちろんセレニティの保守派であったが、宰相を勤められるほどの人物である以上、リアリストでもあった。

 だから、自らの願望を、目の前の現実と、混同することはなかった。

 

 沈黙ののち、ミッテラン宰相は、口を開いた。

「これまでの宰相閣下の御助言を踏まえて、大公様に私から進言いたしますので、しばしのお時間を頂きたい。」

 二人の戦闘は、終わった。

 

 

5 弁天丸Ⅱブリッジ

 

 「契約の儀式」を終えた弁天丸Ⅱは、帝国軍中央基地をすぐさま出港した。

 しかし、帝国軍の必死の捜索にもかわらず、グリューエルを乗せた船の所在は、まだわかっていなかった。

 

「う~~ん。困ったなあ。

 帝国軍の航路データ解析ソフトでは、グリューエルを乗せた船の時空震の航跡をきちんと追跡できないのよねえ。

 ねえ、こういうのは、時空ナビで解析できないの?」

 茉莉香が言った。

「はあ。この時空ナビで直接観測したデータではないですし、初めてのパターンなので特徴がつかめないと言うか・・・・。」

 エンジニアチームも困っていた。

 

「困りましたね。

 では、敵の身になって考えましょうか。

 こういう時は、船長ならどういう航路で逃げますか?」

 ギルバートが言った。

「そうねえ。

 私なら、敵に姿を見つけられないように逃げようとしているわけだから、まず、セレニティ星系まで、一直線の最短コースで逃げるようなことはしないはずよね。

 出来るだけ、見つかりにくいコース、例えばタッチダウンするには障害物の多い空域とか、船がほとんど通らない星系を通って、少し遠回りして行くわ。」

「なるほど。さすが海賊船ですね。」

「それなら、幾つか、ヤマを張ってみましょうか。」

 百目が言った。

「私なら、こういうコースはどうでしょうか?」

「いや、私ならこういうコースを行くかな?」

 それにこたえて、帝国軍出身の新米海賊たちが、口々に予想を言った。

 

「うーん。どの航路も、今ひとつ、ぴんとこないのよねえ。

 何というのかなあ、・・・・

 理想を言うと、みんなの船が避けるような、とても危険なコースだけど、自分達だけは抜け道を知っていて、だから安全に行けるというような・・・、

 そんなズルができる航路があると、いいんだけどなぁ。

 ねえ。

 みんな。そういう航路って、ないのかなあ。」

 茉莉香は、首をひねりながら、弁天丸のクルー全員に向かって言った。

 

「あるわけないでしょう。そんな都合主義満載の話なんて・・・、」

「『ズルができる航路』なんて、美少女アニメのストーリーじゃないんですよ。」

 帝国軍のエンジニア達は、口々に、否定的なことを言った

「まあ、確かに、船長の言うような、一方の側だけに都合の良い航路なんて、・・・・」

 百目がぼやいた。

「そうねえ・・・・・それも、相手は、セレニティ軍よねえ。」

 クーリエも苦しそうに言った。

 

「なるほど。・・・・・セレニティ軍の側から見るならば、そういう条件にピッタリなコースが、あるじゃないの。

 忘れたの。あれよ。」

 ルカが言った。

「・・・あ、そうかぁ。」

 クーリエも気がついた。

「え!? なになに、教えてよ!」

 茉莉香が身を寄せてきて、結果を聞きたがった。

「加藤茉莉香さん。大人は自分で考えないと、いけませんよ。」

 クーリエが、少しおどけていった。

「えー!

 じゃあ、ヒントくらい出してよ。」

「ハイハイ、では、ヒントは、幽霊船です。」

 

「幽霊船・・・・どういうことかなぁ。

 セレニティと、幽霊船・・・・・うーん。それにグリューエル。

 あ、そうかぁ。黄金の幽霊船だ!」

 茉莉香も気がつき、早速、百目に言った。

「百目。

 セレニティの『黄金の幽霊船』の周回航路を、時空ナビに表示してよ。」

「なるほど。あれかぁ。

 あれなら、セレニティ軍は安全な抜け道を自分たちだけが知っていると、思い込んでいても不思議じゃぁないね。」

 

 百目が、『黄金の幽霊船』の航路を、時空ナビの立体画像の中に表示させた。

 

「うわー! これは、まともな航路じゃ、ありませんねぇ。」

「宇宙(うみ)の難所ばかり選んで、周回していたんですねぇ。」

「なるほど。ここを利用していけば、帝国軍の船に見つからずに、セレニティ星域へ近づけると思いますね。」

 弁天丸の時空ナビが写しだした映像を見て、弁天丸のクルーみんなが呻(うな)った。

 

 

「それで、敵の逃走ルートが、黄金の幽霊船の航路だとヤマを張るとしても、グリューエルを乗せた船は、今どのあたりを飛んでいるのかなあ?」

 茉莉香が聞いた。

「それは分かりません。

 でも、向こうの戦艦は通常の超光速跳躍エンジンでしょうから、そのスピードなら、どんなに急いでも、まだ千光年も進んでいないと思いますよ。」

 ギルバートが言った。

「それなら、ここは海賊らしく、この60-20-109宙域、このあたりで待ち伏せと言うのはどうかなあ。

 ここなら、かならずやってくるでしょう。」

 

 茉莉香が示したのは、帝都から千五百光年ほど離れた比較的平穏な空間である。

 しかし、そこは最大の難所への入り口にあたる場所だった。そこからセレニティ星系に行くには、左右にいくつもあるブラックホールの間を進む危険な航路を通らなければならないからだ。

 そうはいっても、そのルートにはメリットもある。この難所を通り抜けると、セレニティ星系へはかなりの近道になるのだった。

 

「なるほど、面白いですね。」

 ギルバートも賛成した。

「よし。弁天丸、行きましょう。目指すは、60-20-109宙域。」

「了解、船長。目的地は、60-20-109宙域。」

 ルカが言った。

「到着次第、その周辺にあるセレニティの観測ブイとのデータ・リンクを張ってね。

 向こうの到着をお出迎えするための準備よ。」

「了解。」

 クーリエが言った。

 

 そして、弁天丸Ⅱは、60-20-109宙域へ、一気にジャンプした。

 

 

6 セレニティ軍ハルモニア号医務室(バルデン伯爵チャーター船)

 

 グリューエルは、目を覚ました。

しかし、すぐに目を空けず、まだ眠ったふりをしながら、耳を澄まして医務室の様子をうかがっていた。そして、今、囚われの身になった自分に何ができるか、必死に考えていた。

「やっと、亜空間から通常空間へ戻りましたね。

 私は、超光速ジャンプは気持ちが悪くて、好きになれません。」

 女性の医療スタッフが言っている。

「そうですか? 私は平気ですよ。」

 男性の医療スタッフが言っている。

「ところで、・・・患者は、まだ眠っているのでしょうか。」

「そうですね。」

「出航してから二日目になりましたが、患者には点滴による水分・栄養分の補給だけで、 食事も飲み物も与えず、眠らせてばかりで、ちょっと心配です。

 目が覚めたら、何か召し上がっていただかないと・・・・」

 女性のスタッフが、自分の健康を心配してくれている。

「それは、フランク先生に聞いてみないと・・・・。

 それに患者が目を覚ましたら、先生と伯爵を呼ぶようにと言われていますから」

「そうですね・・・。」

 

 医療スタッフの気楽で個人的な会話が聞こえてきたので、フランク医師も、バルデン伯爵も近くにはいないようだ。

 それを聞いて、グリューエルは行動に出た。

 

「あ、ああ~~。」

 グリューエルは目覚めた声を出した。

「あ、お目覚めですか? ひ、ひめ・・いや患者さん。」

 男性スタッフが緊張した声で答えた。やはり、この人たちは自分が誰か知っているようだ。

「あ、はい。

 何か、顔がカサカサ、ひりひりして不快だったもので・・・。」

 グリューエルは、眠そうに答えた。

「私の化粧ポーチは、ないでしょうか。

 肌がカサカサしたときにつける乳液が入っているのですが・・・。」

「あ、はいはい。今、お持ちします。」

 女性スタッフがはじかれたように答え、引出しをあけて、化粧ポーチを持ってきた。

 グリューエルは、二人の見ている前で、時間をかけて、乳液を顔に塗ったり、手に付けたりした。そして、乳液の入った小瓶を化粧ポーチの中へ戻した。 

 その時、彼女は化粧ポーチに入れた指先で、ポーチの中のカードを探した。

 

『あった。 ヒュー&ドリトル社の優待カード!』

 

 もちろん、そのカードの正体は、「グランマ」と呼ばれる旧宇宙マフィアの大ボス、マリア・レオニーニからもらった海賊協会のフリーパスだった。(第23章参照)

 グリューエルは、カードをポーチの中に入れたままで、その表面を指でなぞり、ボタンのような突起を見つけ、それを力(ちから)いっぱい押して、海賊船を呼んだ。

 

「ありがとう。」

 そして、何気ないように装って、グリューエルは眠そうな声で礼を言い化粧ポーチを返し、また、ベッドに横になった。

『体が重い。

 手足の感覚が鈍くて、いつものように動かない。』

 睡眠剤がまだ効いているようだった。

 でも、なすべきことをなした満足感で、彼女はまた眠ってしまった。




久しぶりですが、マスコットやカッコウの巣について、加筆しました。

ところで、「モーレツ宇宙海賊」の再放送、楽しかったですね。
やっぱり傑作アニメです。
そのおかげか、この作品の読者も増えたようです。
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