宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編- 作:gonzakato
グリューエルの放った海賊通信の知らせが、現在位置を教えてくれました。
そして、彼女の救援要請に答えて海賊船も集まってきます。
宇宙の難所で、海賊艦隊vsセレニティ艦隊の決戦が始まります。もちろん弁天丸Ⅱは大暴れします。
しかし、セレニティ艦隊には、海賊を倒す以外にもう一つの命令が下されていたのです。
1 待ち伏せ
弁天丸Ⅱは、60-20-109宙域にタッチダウンしてきた。
通常空間に復帰した途端に、弁天丸Ⅱの船体に荷電粒子が衝突して、火花をあげている。
「いつもながら、荒い海ねえ。
荷電粒子の流れが多くて、レーダーでも遠くまで見えないわ。
クーリエ、セレニティの観測ブイとのリンクは、まだぁ?」
茉莉香が言った。
「今、やってる。
グリューエルの認証を入れて・・・と」
たちまち、時空ナビに周辺宇宙空間の鮮明な画像が映し出された。
「近くに他の船はいないわ。
まだ、セレニティの軍艦も来ていないようね。」
クーリエが言った。
「こちらが待ち伏せしているんですから、静かにして待ちましょう。」
茉莉香が言った。
静かな時間が流れていった。
そこに、突然ブザーが鳴った。
「ああ、船長、船長。
海賊通信による救難信号よ。0.5光年かぁ。意外と近いところからよ。
この救援依頼の発進人は、えーと・・・。
ええ! これは、お姫様からよ。」
クーリエが言った。
「通信の発信場所は分かったの?」
茉莉香が聞いた。
「もちろん。セレニティの観測ブイが教えてくれたわよ。」
弁天丸はただちに電波の発信源へジャンプした。
弁天丸は、グリューエルからの救難信号が発信された場所の近くにタッチダウンした。
「船がいたわ。前方10万キロ。
トレスポンダーを発信していないけど、電波の発信位置からみて、これがグリューエル姫を乗せたセレニティの戦艦よ。」
クーリエが言った。
「そのようね。接近しましょう。
弁天丸、全速前進。
逃げられないように捕まえるのよ。」
茉莉香が緊張して言った。
「あっ、船長。また、海賊通信が流れてきたわ。
発信者は、海賊船ネバーランド号のフック船長よ。
いま、データを解析するわよ。」
クーリエが言った。
「解析結果を、メインモニターに表示します。
ああ、これは、この空間の座標を示して、ここに集まれって言っているのね。」
「海賊達が、みんなでグリューエルの呼びかけに答えているんだ。」
茉莉香が、データの解析結果を見て言った。
「なあ、今の海賊通信だけど、何か、歌声のようなものが聞こえなかったかぁ?
気のせいかなあ?」
「ああ、俺にも歌声が聞こえた。
なんか、女の子の歌声だったよなぁ。」
「やっぱり、そうかぁ。
『声をあげよ、トキの声を・・・』とか、歌っているように聞こえたよなぁ。」
「そうだなぁ。」
「そんな声、聞こえてないわよ。空耳よ、ソラミミ!」
茉莉香が両手を振りながら、強引に二人の話をさえぎった。
「・・・・・・」
茉莉香の圧力を感じて、男たちは、顔を見合わせて黙ってしまった。
「船長、セレニティの船は超高速跳躍で逃げるつもりでしょう。
だから、私たちから逃げられないということを、教えてあげましょう。」
シュニッツアーに代わって、武器管制の席に座ったギルバートが言った。
「それはそうだけど、いったいどうやるの?」
「お任せください。
さあ、重力波砲の発射準備だ。」
「おう!」
「ええ!? 重力波砲を撃つの?
あの船には、グリューエルが乗っているんだよ。」
「大丈夫ですよ。」
ギルバートはそう茉莉香に答えてから、クルーに命じた。
「目標は所属不明の宇宙船。
時空トンネルの出口は、現在位置から10万キロ後方の宇宙空間だ。
もちろん重力波砲に使うのは、今すぐに使える第二エンジンの方だぞ。」
「了解。」
「ええ!? 後ろに飛ばすって、どういうこと?」
「重力波砲は、時空トンネルを作る機能を武器として利用しているわけですから、本来の使い方をするだけですよ。」
「なるほどねえ。」
「船長、敵の船が全速力でこちらに近づいています。超光速跳躍の準備でしょう。」
「時空トンネルのルート、セットできました。」
「よーし、重力波砲、発射。」
茉莉香が発射を命じた。
2 砲撃戦
セレニティ軍の戦艦ハルモニア号のブリッジは、グリューエルが発信した通信波を感知して、混乱していた。
しかし、通信自体は暗号通信の為、彼らには、それが海賊船を呼んでいるものとは、わからなかった。
「なんだ、今の超高速通信は。誰が発信したんだ?」
ブリッジの艦長が部下に聞いた。
「まだわかりません。本艦内部から発信されたことは、間違いありませんが・・・。」
「さては、姫の味方をする奴が本艦に潜んでいるのだな。
まったく、油断がならん。
おい、念のため、直ちに現在位置を変えよう。超光速ジャンプを緊急に、もう一度行え。」
バルデン伯爵が命じた。
彼は、まだ眠っているはずのグリューエルよりも、むしろ船内に潜んでいるはずの、自分に敵対する勢力が、先ほどの超高速通信を発したと考えていた。
彼は、自分の乗る戦艦のスタッフを全面的には信用してはいなかった。
「了解しました。転換炉の出力が安定次第、すぐに飛びます。
全速前進だ。」
「了解。」
「あっ。前方に戦艦クラスの大きな宇宙船がタッチダウンしてきました。
トランスポンダー、解析できました。
所属は、銀河帝国。船名は、宇宙海賊船、弁天丸Ⅱです。」
「うわぁ、キャプテン茉莉香の船だ。」
クルーに緊張が走った。
「なんだと! 我々を追いかけてきたのかぁ。
さては、さっきの通信は、我々の位置を知らせるためだったのか。
おい、超光速跳躍を急げ。逃げ切るんだ。」
バルデン伯爵が、少しあわてて命じた。
「了解しました。
転換炉の出力が少し不十分ですが、緊急事態なので飛びます。
超光速跳躍の航路がセット出来次第、ジャンプだ。」
ハルモニア号の艦長が命じた。
「航路セット完了。超光速跳躍開始。」
「艦長、弁天丸から高出力の重力波が出ています。
真っ直ぐ本艦に向かってきます。」
「回避しろ!」
「ダメです。もう、超高速跳躍に突入しています。」
「こうなれば、弁天丸の重力波を真正面から突っ切って、超光速跳躍だ。
行け!」
超光速跳躍の閃光と共に、ハルモニア号は通常空間から消え、亜空間を経由して、再び通常空間に復帰した。
「うまく飛べたな。」
ハルモニア号の艦長が言った。
「はい、しかし、タッチダウン予定地点から大幅にズレました。
現在位置は不明です。」
「早く調べろ。」
クルーは、星座を観測して現在位置の座標を割り出した。
「ええ、そんな!
星座観測の結果、現在位置がほとんど変わっていないことが分かりました。
むしろ、少し後退しています。」
「ソンナ、バカな。何をやっているんだ、お前らは。」
バルデン伯爵がイラついた声で口を出したが、その原因を考えているヒマは無かった。
「あ、ごく近くに、船がタッチダウンしてきます。
トレスポンダー取れました。弁天丸Ⅱです。」
「弁天丸だと・・・・。」
「弁天丸から、ビーム砲の攻撃が来ます。」
「ふん。どうせ、威嚇射撃だろう。無視しろ。」
しかし、伯爵がそう言った途端に、艦体に衝撃が響いた。
ガーン。
「ビーム砲、後部船体に命中。装甲版にかなりの損傷です。」
「第二派のビーム砲、本艦に来ます。」
「おい。じっとしてないで、撃ち返せ。」
「はい。しかし、この近距離での砲撃戦は、双方にとって、自滅行為です。
ここは、離れましょう。」
艦長が冷静に言った。
戦艦ハルモニア号は、弁天丸と砲撃戦をしつつ、方向転換をして距離を開いて言った。
弁天丸がこれを追撃しないのには理由があった。
「あ! 前方にプレドライブ反応、8つ。船がタッチダウンしてきます。」
「なんだと!」
「トレスポンダー、解析できました。
宇宙海賊船ネバーランド号、宇宙海賊船キミーラ・オブ・スキュラ号、宇宙海賊船愛の女王号・・・・現れた8船は、いずれも海賊船です。」
「なんだ? こいつらも海賊だと?
先ほどの弁天丸Ⅱもそうだが、我々は海賊に襲われているというのか?
一国の正規軍に所属する軍艦を、無法者の海賊が襲うだと?
おい、我々は、海賊になめられているぞ。
セレニティ軍の誇りにかけて、ヤツラを沈めてしまえ!」
バルデン伯爵は、憤慨していた。
「おっしゃる通りです。撃て。
主砲は、最大出力で一斉射撃だ。
誘導ミサイルも発射しろ。
相手は無法者の海賊船だ。容赦するな。9隻、まとめて沈めてしまえ。」
艦長が激しい声で命令した。
ハルモニア号は、その火力を総動員して、海賊船を攻撃し始めた。
一方、8隻の海賊船も、主砲の一斉射撃でこれに応じた。
双方の射撃は、一部がそれぞれの船に命中して、激しい火花を散らし始めた。
激しい砲撃戦が続いた。
単独ではハルモニア号の火力が勝っているものの、9対1で撃ちあっているだけに、次第にハルモニア号が劣勢になってきた。
弁天丸Ⅱからも、ハルモニア号の艦体の損傷が、次第に大きくなってきたのが分かった。
もちろん、海賊船も無傷ではない。
このままでは、近距離で撃ちあう、激しい消耗戦が続くことになる。
3 セレニティ艦隊の登場
「よーし。
そろそろ、グリューエルを助け出すために、白兵戦に突入の頃合いかなぁ。
みんな~。準備は良いかなあ。」
茉莉香が弁天丸の白兵戦部隊に声をかけた。
「おお! 準備完了です。」
「船長、待って、待って。
時空ナビをみると、亜空間から、新手(あらて)の艦隊が接近してくるわよ。
まもなく、タッチダウンしてくるわ。」
クーリエが言った。
「ええ~! 新手って、だれ? 海賊なの?」
「セレニティ方面からやってきたから、たぶん、違うわね。
セレニティ軍の援軍かもしれないわ。」
やがて、近傍の通常空間に、セレニティ軍の艦隊がタッチダウンしてきた。
「トレスポンダー取れました。
うーんと、戦艦2、巡洋艦6、輸送艦2。重装備の船と補給艦か。
ああ。戦艦には、クイーン・セレンディピティがいるわよ。」
「この機種だと、速度重視の本格的な艦隊編成です。
急いで、こちらにやってきたのでしょうね。」
ギルバートが言った。
「ということは、敵の狙いは、今回の事件の口封じね。
そのために、我々海賊船を沈めてしまおうっていうのね。
セレニティ軍の旗艦クイーン・セレンディピティがいることを見ても、相手は、本気の本気だぁ。」
茉莉香が言った。
「そうですね。私もそう思います。
このままでは、形勢逆転もありえます。
そこで、艦長。弁天丸に備えられた、例の新装備の使用を進言します。
私が操縦します。
テストもしていないし、できれば弁天丸の新しい装備や武器は見せたくなかったのですが、敵に多数の援軍が来た以上、これに対抗するため必要と判断します。」
ギルバートが言った。
「そうね。お願いするわ。」
この時、茉莉香をはじめ、弁天丸Ⅱのクルーは、銀河帝国とセレニティ王国の宰相同士の外交交渉で、事件が決着に向かっていることを知らなかった。
しかし、「敵の狙いは、口封じ」という、茉莉香の予想は正しかった。
それはすぐに明らかになる。
4 帝国軍の先遣隊
銀河帝国の新鋭戦艦、ムサシ、ジュウベイ、ベンケイの三艦は、帝都のあるレッド・クリスタル星系帝国軍中央基地を発信して、4時間ほどでセレニティ星系外延部に到着した。
セレニティ星系軍には時空トンネル航法の技術は無く、軍事力の量だけでなく展開速度においても、帝国の圧倒的優勢は明白だった。
三艦は、惑星公転面において、セレニティの母星を中心に正三角形を描く位置に、それぞれがタッチダウンした。三方向から正確な測量を行うためである。
戦艦ムサシに搭乗する先遣隊の総司令官、ミニッツ准将は、時空ナビを見ながら言った。
「よし。三艦とも所定の位置に着いたな。
トレスポンダー発信せよ。我々の到着をセレニティ政府に知らせてやれ。」
「はい。」
クルーが答えた。
「続いて、作戦計画に従って、まず、セレニティ星系における天体配置と重力分布に関するデータ収集作業を開始する。」
「了解。」
「それから、特に、星系内の人工天体について、詳しいデータを収集しろ。
そこから奇襲攻撃を受ければ、帝国の艦隊に被害が出るのは避けられないからな。」
「了解。」
調査作業が一時間ほど続いた。
「そろそろ、我々の到着に対して、セレニティ軍の動きがあっても不思議ではない時間だが、動きはあるか?」
「セレニティ軍の動きはありません。交信要請もありません。」
「そうか。宰相の脅しが効いているのだろう。
今回は、軍の出番は無いかもしれないなぁ。」
ミニッツ准将が言った。
さらに数時間の作業が続いた。
「司令官、第一段階のデータ収集作業は、完了しました。」
「よし、データを帝国軍測量部に送れ。解析するのは、プロの仕事だ。
それで、この星系には、軍事基地と思われるような、警戒すべき人工天体は、あるのか。」
ミニッツ准将が彼の副官、スミス中尉に聞いた。
「特にありません。これまでのセレニティ王国に関する情報通りです。
ただ、情報部からのセレニティ情勢報告の中で、ひとつ気になることがあります。」
スミス中尉が答えた。
「なんだ?」
「はい。
宇宙移民博物館として公開されていたクイーン・セレンディピティが、最近、メンテナンスと改修工事を理由に閉鎖されています。
しかし、その改修工事の内容が軍事機密に指定され、公表されていません。」
「なに、軍事機密指定だというのか?」
「はい。
もちろん、セレニティ議会が承認した改修工事の予算総額は、あのような巨大な宇宙船全体を軍事基地に改造できるほどの巨額ではありませんので、大したことはできないと思うのですが・・・・。」
「ふーむ。それが最近の動きと関係があるのだろうか。」
セレニティ星系への最初の移民を運んだ宇宙船「クイーン・セレンディピティ」は、長らく行方不明とされ、まれに目撃されても幽霊船の出現として扱われてきた船だった。それを、グリューエル姫とキャプテン茉莉香が見つけ出して、セレニティ星系まで持ち帰ってきたのだった。(原作「黄金の幽霊船」参照。)
しかし、ミニッツ准将は、かって「薔薇の泉」がこの船に設置されていたことまでは知らなかった。
「まあ、姫とかかわりのある船であることは間違いないが・・・・。
・・・・・・
よし。移民船のクイーン・セレンディピティの動きを詳しく観測しろ。
改修工事に関する情報が、入手できるかもしれないからな。
それから、情報部にクイーン・セレンディピティに関する、さらに詳しい情報を提供するように要求しろ。」
「了解。」
5 艦隊決戦 セレニティ艦隊vs海賊艦隊
「艦長、60-20-109宙域に、まもなくタッチダウンします。」
「よし、タッチダウンしたら、すぐに射撃管制レーダーを放て。
ハルモニア号は海賊船と交戦中だそうだから、レーダーで敵味方を識別次第、直ちに援護射撃を行う。」
「はい。艦長。」
セレニティ軍の旗艦クイーン・セレンディピティの艦長、ヨセフ・セレニティが言った。
彼も第三王子という王族、グリューエルの兄にあたる人だった。
「よし、事前の情報通りだ。ハルモニア号を援護して、最大出力で、一斉射撃。
海賊どもを蹴散らせ。」
クイーン・セレンディピティの艦長、ヨセフ・セレニティは、タッチダウン後に交戦状況を把握して、そう言った。
「了解。」
セレニティ軍の艦隊は、通常空間にタッチダウンして、すぐにハルモニア号の援護を始めた。軍艦八隻が、一斉に、海賊船を激しく砲撃し始めた。
これで、艦船の数は9対9で対等になった。しかし、個々の船の火力はセレニティ軍の方が勝っているので、形勢逆転は時間の問題と思われた。
「海賊船、後退を始めました。」
「よし。追撃だ。攻撃の手を緩めるな。
このスキに、本艦は、ハルモニア号にドッキングするため接近する。
各艦は、海賊船の動きに注意して、本艦を援護しろ。」
ヨセフ艦長が言った。
「了解。」
「うわー。こりゃたまらんなあ。後退だ。」
最先端の位置で攻撃を仕掛けていたネバーランド号艦長フックは、艦に後退を指示した。
しかし、セレニティ軍は追撃の体制に移った。
口封じのため、海賊たちを追い詰める意志があるのは、明らかだった。
「まずいですね。形勢逆転の恐れがあります。
艦長、弁天丸の重力シールドを最大限に展開します。
ほかの海賊船は後退して、弁天丸のシールドの陰に隠れるように連絡いただくことを進言します。」
ギルバートは、重力制御方式の船に装備されている一人用操縦器に入っているにもかからず、茉莉香に船長としての指揮権を保持させたまま、船を運航しようとしていた。
「了解。クーリエ、海賊のみなさんに連絡をとってね。」
「はいはい。」
やがて、8隻の海賊船の船長と弁天丸の茉莉香は、同時回線で結ばれた。
「みなさん、敵は本気で、私たちの口封じを狙っています。
ですから、まず、敵の砲撃から逃れるために、弁天丸の重力シールドの陰に一旦引いてください。
それから、弁天丸が、セレニティ軍の攻撃を封じますから、
最後に、みんなでハルモニア号に白兵戦を挑んで、グリューエルを救出しましょう。」
茉莉香が言った。
「了解だ。
なあ、茉莉香。お前の船のブリッジの映像を見て、分かったよ。
お前の弁天丸Ⅱが、同じ船のようでどこか違うと思っていたら、新造艦だったのか。
でも、おかげで助かったよ。」
宇宙海賊船愛の女王号の船長マイラ・グラントが言った。
「そうだな。助かった、ありがとう。」
宇宙海賊船キミーラ・オブ・スキュラ号の船長ミューラ・グラントも言った。
「ナハハ・・・・そういうことで、詳しい話は、またあとで。
では、弁天丸も行きます。」
一方、セレニティ軍の戦艦クイーン・セレンディピティのブリッジでは、ヨセフ艦長は、セレニティ艦隊に与えられた『真の命令』を実行しようとしていた。
「次に、ハルモニア号に交信要請を送れ。
私から、バルデン伯爵に通信要請だと伝えろ。」
「了解。」
やがて、クイーン・セレンディピティのブリッジのモニターに、バルデン伯爵が登場した。
「ヨセフ殿下、お久しぶりですなあ。
セレニティ軍大将の軍服、良くお似合いですぞ。
わざわざ、殿下直々にお出迎えくださるとは、恐れ入ります。 」
「いや。大事な役目なので・・・。
では、伯爵にお伝えします。
グリューエルは、私の船でセレニティまで送りますので、こちらに引き渡していただきたい。
これは、大公様のご指示です。」
王族であるヨセフ王子は、伯爵のお世辞には反応せず、単刀直入に用件を言った。
「なんと・・・・なんと申されました。姫を引き渡せと・・・。私がそんな畏れ多いことをしているとお思いですか?
なぜ、そんな滅相もないことをおっしゃるのですか?
残念ながら、私には、心当たりがございません。
私の船に姫様が乗っているはずはございません。」
ヨセフ王子の言葉で、伯爵は、情勢が代わり、大公に裏切られたことを悟った。
このため、グリューエルを乗船させていることを否定した。
「伯爵、今更、何をおっしゃるのですか?」
「誓って、嘘は申しておりません。お疑いなら、私の船をお調べください。」
伯爵は大見得を切った。
もちろん、言葉通りの船内の捜索など許すつもりは無かった。
こういう伯爵の抵抗に合っているにもかかわらず、ヨセフ王子は、意外に落ち着いて、もう一つの、一見呑気そうな大公の伝言を伝えた。
「ああそうだ、そこにいるのはキースではないか。
あなたにも、大公様から伝言だ。
大公様は、『王宮の庭のウメの花が見ごろなので、あなたが帰ったら一緒に花見をしようと楽しみにしている。』と、おっしゃっていた。」
「承知しました。」
「では、殿下、私は、自分の船でセレニティに向かわせて頂きます。
王宮には、バルデンの船には姫は乗っておられなかったと、お伝えください。」
「何を言うのだ!・・・」
王子はまだ説得を続けるつもりでいたが、バルデン伯爵は通信を切ってしまった。
弁天丸Ⅱは、重力シールドを最大限に展開しつつ、セレニティ軍に向かって進んで行った。
これに呼応するように、海賊船たちは、弁天丸の後ろに回り込み、その重力シールドを盾にしつつ、弁天丸と楔形の陣形を組んで、前進していった。
当然のことながら、敵の砲撃は弁天丸に集中し、その重力シールドには多数のビーム砲が向けられた。このため、シールド周辺の宇宙空間は、高エネルギービームの乱舞により、空間を漂う雑多な微粒子が蒸発して、色鮮やかな光を放ちはじめた。
しかし、シールド内の空間のゆがみによりビームの進路が曲げられ、ビームは四散し、弁天丸は守られている。
「うおー、すごいねえ。これが最新式の重力シールドってやつかぁ。」
百目が感心して言葉を漏らした。
「では、そろそろ、こちらから行きましょうか。
船長、戦艦クイーン・セレンディピティに対して、重力粒子砲による威嚇射撃を行うことを進言します。
出力は最小限にして、相手の船体にダメージを与えないように撃ちます。
艦長は、セレニティの王族だと思われますから、慎重に攻めて、できれば降伏勧告を受諾してほしいものです。」
「そうですね。
重力粒子砲、威嚇射撃、発射。」
茉莉香が言った。
「発射します。」
弁天丸Ⅱの船体全体が一瞬、光を放ち、そして先端から鋭いビームのようなものが、まっすぐに戦艦クイーン・セレンディピティに向かって進んでいった。
弁天丸Ⅱの放った重力粒子線はエネルギーが強いため、その輻射エネルギーで周辺宇宙区間をただよう微粒子を融合爆発させる。このため、重力粒子線は、肉眼で直視できないほどの激しい光と稲妻を放ちながら、戦艦クイーン・セレンディピティの側を突き抜けて行った。
「なんだ、今のビームは?」
「すごいパワーだったなあ。」
「それに、弁天丸の重力シールドを真っ直ぐに突き抜けて、こちらに来たぞ。
こちらから発射したビームは、シールドに跳ね返されていると言うのに・・・。」
「そんなことがどうして出来るんだ? ありえないよ。」
戦艦クイーン・セレンディピティのブリッジでは、驚きの声が上がった。
「さあ、次は降伏勧告よ。
今の攻撃で、こちらの有利は分かったでしょう。このままでは、討死よ。」
茉莉香が言った。
「降伏勧告、送信しました。」
「艦長、弁天丸Ⅱから降伏勧告です。
次は、戦艦クイーン・セレンディピティを直接に狙うと言っています。」
クルーがヨセフ王子に告げた。
「我々には、降伏の選択枝は無い。
海賊船に降伏など出来るものか!
弁天丸に返信だ。
『誇り高き我らに降伏の選択なし』とな。」
ヨセフ王子は、決然と言った。
「船長、クイーン・セレンディピティから返信です。
『誇り高き我らに降伏の選択なし』だそうです。
敵の艦長の名前は、ヨセフ・セレニティ。
これは、王族でしょうね。」
クーリエが、重苦しそうに言った。
「そいつは、王室公表データによると、第三王子様だな。」
百目が言った。
「う~ん。グリューエルやヒルデのお兄様かぁ。
これじゃあ、やっぱり、やりにくいなあ。
それに降伏を拒否するなんて、プライドが高いのかなぁ。」
茉莉香が困惑した声を出した。
「そうですねえ。
王族出身の司令官は、退くことを嫌い、命懸けで突撃する人が多いと言われています。」
ギルバートが言った。
「困ったなあ。
これじゃあ、グリューエルを助けるために、お兄さんを攻撃して、沈めてしまうしかなくなるよねぇ。
お兄さんも、先ほどの弁天丸の攻撃で勝ち目がないと分かったでしょう。
負けると分かっている戦いなのだから、無駄なことはやめて欲しいのだけど・・・・」
茉莉香も困っていた。
その時、ヒルデがブリッジに飛び込んできた。
それまで、ヒルデは他の白鳳女学院の生徒たちと一緒に、談話室で戦況を見ていたが、兄の出現が分かって、急いでブリッジにやってきたのだ。
6 兄妹の対決
「もう、黙って見ていられませんわ。
茉莉香さん、私にヨセフお兄様と話をさせてください。
無駄な戦いをやめるように説得します。」
ブリッジに飛び込んできたヒルデが、そう言った。
「わかったわ。
でも、一刻も早く、ハルモニア号に白兵戦を挑んで、グリューエルを助け出しに行きたいのよ。」
「時間が無いのは分かっています。
私の名前で、交信要請を送って下さい。」
「それは、まずいわね。船長名で交信要請を送りなさい。
相手の艦長が王族なら、船長名でも堂々と出てくるでしょう。」
ミーサがヒルデの願いを訂正した。
「じゃあ、私の名前で交信要請。ヒルデもここに控えていてね。」
「はい。」
やがて、モニター画面にヨセフ艦長が現れた。
「お初にお目にかかります。
弁天丸Ⅱ船長、加藤茉莉香です。」
茉莉香は、そう言って頭を下げた。
「クイーン・セレンディピティ艦長ヨセフ・セレニティだ。
船長、何の用だ。
いきなり降伏勧告を送ってきたが、私は海賊に降伏するつもりなどは無い。」
「お兄様。ヒルデです。聞いてください。」
モニターカメラの前に、ヒルデが現れて、言った。
「ヒルデか!?
お前、なぜ、そんなところにいるんだ。
お前、自分のしていることが分かっているのか。海賊船に乗っているんだぞ。」
「お兄様、弁天丸を始めとして、この宇宙(うみ)に集まった船は、海賊船ではありません。
グリューエルお姉さまからのご依頼で、お姉さまを助けに来られた方々の船です。」
「何を言っているんだ。海賊が人助けだと。グリューエルがそれを頼んだと!?」
「そうです。
お姉さまは、こんな宇宙(うみ)の果てまで、命懸けで助けに来ていただける、大勢の御友人をお持ちなのです。」
「なんだと?」
「ですから、お兄様。
この方たちに降伏するのは、海賊に降伏することではありません。この方たちがお姉さまをお助けするのを認めることです。」
「そんなことは、大公様から命令されていない。
ヒルデ、弁天丸から退船しなさい。でないとお前も一緒に沈めることになるぞ。」
「お兄様。冷静にお考えください。
先ほどの弁天丸からの威嚇射撃をご覧になったでしょう。
弁天丸に勝てないことは、もう、お分かりになっているのでしょう。」
「何を言っている。
私達は、いかに強力なビーム砲に対しても恐れはしない。
命令に順じて、死ぬことも私の使命だ。」
「あれは、単なるビーム砲ではありません。
最新型の重力兵器、重力粒子ビーム砲というものだそうです。
お兄様も、『重力兵器』という名前くらいはお聞きになったことがおありでしょう。」
「重力兵器、そんなものを、海賊が持っているなんて・・・・。」
『ありえないことだ』と言いかけて、ヨセフ王子は言葉を飲み込んだ。
『弁天丸Ⅱは、銀河帝国、いや銀河聖王家と裏でつながっている。
でなければ、こんな最新兵器を海賊が持つことを許されるはずはない。
重力兵器は今も銀河帝国が独占し、セレニティ軍には重力兵器を持つことも、開発することも許されていないからだ。
そして、最新兵器を持つ、この船が現れたと言うことは、銀河聖王家が本気でグリューエルを救い出そうとしている証拠だ。』
事態の深刻さを悟って、ヨセフ艦長は戦慄した。
彼は、セレニティ大公がバルデン伯爵以下、事情を知った者すべてを粛清することを命じた本当の理由を理解した。
しかし、ヨセフ艦長は、ヒルデの降伏の勧めを受け入れなかった。
それどころか、グリューエルの救出のために弁天丸と協力する意思もなかった。
「ヒルデ。私には降伏どころか、退却も許されていない。
大公様は、この件では、グリューエルの救出を命じられた。
その一方で、あの忠臣キースに対しても自決を命じられている。セレニティ王国の為、事情を知っている者すべてを排除される強いご意向だ。
そんな事情だから、海賊たちの口封じに失敗すれば、私も生きて帰る訳にはいかないんだ。
戦って果てるのも、王族たる、それも第三王子たる私の運命だから・・・」
「お兄様、それはおかしいです。
お兄様は、もっとご自分の望む生き方をされるべきです。
以前のお兄様は、もっといろいろな夢を語っておられました。
お忘れになったわけではないでしょう?」
「忘れてはいない。
しかし、私は、王家にこの命を捧げるために生まれてきたのだよ。
ヒルデも、わかっているだろう。」
彼は、遠回しの言い方で、それが『薔薇の泉』から生まれた王族の宿命だと言った。
茉莉香は、二人の話に口を挟んだ。
二人の話の雰囲気が次第に深刻な方向へ移っていくのを止めようと思ったからだ。
「ちょっと、口を挟ませていただいてよろしいですか、殿下。
自分で後退するのは許されていなくとも、敵に遠くまで飛ばされるのはアリですよね。」
そういって、茉莉香はにっこりと笑顔を作って、ヨセフ殿下を見た。
「何を言っているのだ。意味が分からないぞ。船長。」
「殿下。殿下はもう少しヒルデ様とゆっくりお話になった方がよろしいかと存じます。
しかし、ここは戦場。その時間はありません。
そこで、殿下を、殿下の艦隊ごと、ゆっくりと話ができる場所に移動させて頂きます。
その移動は、弁天丸が担います。強制的ですが・・・ね。
つまり、この船の重力推進エンジンで時空トンネルを作り出し、艦隊ごと、セレニティ星系外延部までジャンプさせます。」
「そんなことができるのか?」
「はい。お任せください。
ギルバートさん、お願い。目標は、セレニティ星系外延部。
時空トンネルをセット出来次第、展開してください。
セレニティ艦隊をセレニティ星系まで送って差し上げてください。」
そう言って、茉莉香はギルバートに指示をした。
ただし、ヨセフ殿下にも話が聞こえているため、茉莉香は、『重力波砲』と言う武器としての名称は使わなかったが、もちろんギルバートには分かっていた。
「了解。・・・・
船長、時空トンネルの出入口が、コンピューターでセット出来ました。」
一人用操縦席に座ったギルバートが素早く航路をセットした。
「では、発射。」
茉莉香が指示を出した。
「おい、何をするのだ・・・。」
ヨセフ殿下がそう叫んだその瞬間、セレニティ艦隊全艦は、重力波砲の作り出した時空トンネルに飲み込まれ、セレニティ星系へ超高速跳躍した。
「さあ、ヒルデ。
お兄様とゆっくりとお話しなさい。
場所は、あそこよ。ブリッジの奥のお客様用の部屋よ。
あそこなら、通信の秘密も守られるからね。」
茉莉香は、弁天丸Ⅱのブリッジ奥に新しく作られた貴賓室を指差した。
「ありがとうございます。茉莉香さん。」
「いえいえ、こちらこそ。無駄に血を流さずに済んだのは、ヒルデのおかげよ。
さあ、みんな。
ハルモニア号へ白兵戦よ。グリューエルを救い出すわよ。」
「おーっ!」
ブリッジのクルーが茉莉香に答えた。
7 グリューエルの救出
弁天丸Ⅱを始めとする海賊船は、ハルモニア号に乗り込むため、同船に接近していた。
その中でも弁天丸Ⅱの戦いぶりは、他の海賊たちの度肝を抜いた。
弁天丸Ⅱは、あわや衝突するかというほどの激しい加速でハルモニア号に使づいたかと思うと、ハルモニア号の船体直近でピタリと急停止して敵艦に取りつき、白兵戦の侵入準備を始めた。
それは、重力制御推進方式の飛行方法の一つである、ジグザグ飛行を応用した、全く新しい白兵戦のやり方だった。
そして、海賊たちは、電子戦を仕掛けて、ドッキング・ブリッジを開かせようとしていた。
そのころ、ハルモニア号のブリッジでは、伯爵がセレニティ大公の方針転換を知って、怒っていた。
そして、伯爵は、今後の進路について指示を出していた。
「セレニティ軍の船団からも距離を取れ。あいつらは裏切り者だ。
そして、この宙域から、全速力で離脱しろ。
進路は予定通りだ。
ブラックホール街道の難所に突入すれば、弁天丸Ⅱも戦いどころではなくなるだろう。
それを抜ければ、セレニティ星系はすぐ近くだ。
とにかく、『神聖なる箱舟・クイーン・セレンディピティ』まで、たどり着くのだ。」
バルデン伯爵は、艦長に命令した。
「了解。」
ハルモニア号の艦長は、その指示に従おうとした。
「お待ちください。その超光速ジャンプはお控えください。」
キースが言った。
キースは戦艦クイーン・セレンディピティのブリッジとの通信以後、席を離れていたが、またにハルモニア号のブリッジに戻ってきたところで、そう言った。
「何を言うのだ?」
キースは敬礼し、直立不動の姿勢を取った。
「伯爵さまに、大公様の御意をお伝えいたします。」
「なんだと。やっぱり貴様か、裏切り者は。
あの、現在位置を知らせる通信も貴様の仕業か!?」
「・・・・」
キースは一瞬、沈黙したが、言葉をつづけた。
「謹んで申し上げます。
伯爵様におかれましては、大公様より、自決の栄誉を賜りました。
どうか、大公様の寛大な御心に感謝しつつ、最後のお勤めを果たして頂くよう、お願い申し上げます。」
キースは、そう言って白い布に覆われた包みを開き、黒い小型のブラスターを取り出して、伯爵に向かって両手を伸ばして差し出した。
『自決の栄誉』。
それは、セレニティの身分ある者が重罪を犯した時に課せられる一種の処刑であった。
ただし、罪状が確定する前に自決するのであるから、自分の死と引き換えにその名誉は守られ、一族郎党は連帯責任の追及を免れることになる。その意味では、寛大な処分であった。
「・・・・なんだと。
さては、先ほどのウメの花見の話は、私に自決を命じろと言う意味だったのか。
そういえば、古代の風習では、ウメの花は死んだ人を偲(しの)んで眺めるものとされていたなぁ。」
「・・・・」
キースは何も答えなかった。
「・・・・・・・・」
伯爵は、しばらく沈黙していたが、やがてキースの手から黒いブラスターを受け取った。
そして、ブリッジのクルーを見渡して言った。
「艦長、ブリッジのみんな。
君たちには、子供の頃から本当に世話になった。礼を言う。
あとは、家に帰ってゆっくり余生を送ってくれ。」
「伯爵様。ありがたいお言葉ですが、私たちはカゲとして子供の頃から伯爵さまをお守りするために育てられました。
伯爵さまの身を守って死ねと教えられてきました。
このたびの航海もそのつもりでお供しました。
私達も、ご一緒に参ります。」
「ありがとう。
あのころは、毎日、毎日、いたずらばかりして遊んでいたなあ。
楽しい日々だった。感謝している。
さて、キース。手紙を一つ書かせてくれ。
それから、下級船員は事情を知らぬ。連れて帰ってやってくれ。」
伯爵はそう言うと、船内の自室に入って行った。
彼は、最後までセレニティの貴族としての誇りを失わなかった。
ガガーン
その時、船体をゆさぶる振動が伝わってきた。
「船長。海賊船が船体に接触した振動です。
かれらは、ドッキング・ブリッジを占拠しました。
こちらに乗り込んできます。」
「よし。我々も、最後の仕事だ。
乗組員に戦闘を禁じ、総員退去と伝えよ。
次いで、自爆装置をセットしろ。警報を鳴らせ。
伯爵さまのお体は、最後まで俺たちが守る。誰にも渡さんぞ。」
「おー。」
男たちの低い声がそれに答えた。
そういうブリッジの士官たちの動きを見て、キースは医務室へ向かった。
茉莉香たち弁天丸の白兵戦隊は、真っ先にハルモニア号へ乗り込んだ。
「うわー、何、これ?」
かれらは船内での白兵戦を覚悟してきたが、すでに船内は騒然としていた。
自爆装置の警報が鳴り響き、乗組員は緊急脱出を始めていた。
「とにかく、グリューエルを探そう。
どこにいるのかしら、貴賓室、それとも医務室?」
そう言いながら、茉莉香たちは船室めがけて走り出した。
そして、医務室前の廊下で立っていたキースに出会った。
「キャサリン。姫様は、こちらです。」
彼は、キャサリンの名を呼んで、医務室のドアを指差してそう言った。彼女は、茉莉香の後ろに従って、廊下を走ってきていた。
「・・・・・・」
キャサリンは、彼を見て、そして何も言わずに、ドアを開いた。
ドアの向こうには、ベッドに横たわったグリューエルの姿が見えた。
「ああ、グリューエル! 助けに来たよ。」
茉莉香がそう叫んで、部屋に飛び込み、グリューエルにしがみついた。
「茉莉香さん。信じていましたわ、きっと来て下さると。」
グリューエルは、それまでの緊張が解け、涙ぐんでいた。
「私だけじゃないわよ。
キャサリンさんも、アレックスも、ヒルデも、みんな、あなたを助けるために弁天丸に乗ってここまで来ているわよ。
さあ、弁天丸に行きましょう。」
茉莉香はそう言った。
グリュエールは、茉莉香の言葉に涙を流しながら、うなづいた。
そして、キャサリンは、弁天丸Ⅱに戻るため廊下の安全を確認しようと、先に部屋の外に出た。
彼女が廊下の様子を見ると、キースが歩いて遠ざかっていくところだった。
キャサリンが出てきたことに気が付くと、キースは振り返って、言った。
「キャサリン、達者で暮らせよ。」
『お兄様・・・・』
キャサリンは、誰にも聞こえないほどの小さな声でつぶやいた。
そして、キースは、自爆までのカウントダウンを知らせる警報が鳴り響く中、ブリッジに向かってゆっくりと歩いて行った。
その背中は、死を覚悟しているものだった。
キースがブリッジに着くと、ハルモニア号の士官たちは誰もいなかった。
おそらく、伯爵の部屋に行ったのだろう。
警報が鳴り響く中、彼はブリッジの椅子に座って、タバコを吸い始めた。
そして、目を閉じた。
不意に警報が鳴りやんだ。
驚いて周りを見渡すと、一人の女海賊が立っていた。その後ろには、数人の海賊が従っていた。
「自爆装置は、今、私たちが止めたよ。」
女海賊が言った。
その女は若く美しいが、男勝りの気性の激しそうな顔立ちだった。海賊の服装も、男と同様なもので、娘海賊らしい華やかさは微塵も無かった。しかし、かなり豪華な衣装を身にまとっていることから見ると、船長に次ぐ副長クラスの上級船員と思われた。
女海賊は、キースに近づいてその顔をしばらくの間、じっと見つめていた。
そして、静かに言った。
「お前、セレニティの戦士だろう。」
一方、茉莉香たちは、グリューエルを弁天丸Ⅱに連れ帰った。
そして、念のため、彼女を医務室に連れて行った。
「はい。みんな、医務室を出なさい。診察するから。」
ミーサの一言で、茉莉香たちは医務室から追い出された。
ミーサとアレックスは、グリューエルの体のあちこちにセンサーを当てて、モニターに表示された診断結果を見た。
「これと、これです。」
アレックスが、診断結果を示して、ミーサの判断を求めているようだった。
「これなら、全く心配ないわ。そうでしょう?」
「そうですね。」
二人が診察している間、グリューエルは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
やがて、診断結果がまとまり、ミーサがグリューエルに言った。
「グリューエル、何も問題はありませんよ。無事でよかったわね。」
「ええ? 私が眠っている間に、何も変な手術をされていないのですね。」
「そうよ。安心していいわよ。」
「はい。・・・・」
「でも、今まで、点滴だけで過ごしてきたようですから、空腹を感じてもすぐに普通の食事をとらないでください。
流動食からお出しするよう、コックに指示しておきますから。
そして、十分に休養をとってください。」
アレックスが言った。
「はい。」
グリューエルは、嬉しそうに言った。
しばらくして、グリューエルは弁天丸Ⅱのブリッジに現れた。
その時、茉莉香は、とても忙しかった。
グリューエルを無事に救出したという連絡を銀河帝国に送る指示をしたり、いっしょに戦った海賊たちと、船を脱出したハルモニア号の乗組員の収容の手配や、戦いの後始末、おもに戦利品の分配の交渉をしているためだった。
「船長、殿下がお見えです。
あとは私がやりますから、殿下のお相手をしてください。」
ギルバートが言った。
「ありがとう。よく気が付くね。」
茉莉香は、そう言って礼を言ってから、グリューエルに向き直った。
「大丈夫? まだ寝ていなくていいの?」
茉莉香が心配して、言った。
「大丈夫です。
それより、茉莉香さんに、大切なお願いがあります。」
「なに?」
「あの黄金の幽霊船をもう一度探して、船まで私を連れて行ってください。」
「ええ!? 黄金の幽霊船!?」
茉莉香は驚いて、大きな声を出した。
「それで、見つけ出して、どうするの?」
「私は、薔薇の泉は、またあの船に再現される計画だったと確信しています。
もしそれが事実なら、そんなことが二度と出来ないように、あの船を沈めてしまいたいのです。」
グリューエルは真剣な表情で言った。
「ええー!」
茉莉香は、グリューエルの決意に驚いた。