宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編- 作:gonzakato
一行は、大学内の見学ツアーを終えて、学生会館のカフェに向かいます。
そこは、サーシャの父と母が出会った、思い出の場所。サーシャの秘密のはじまりの場所でした。
そして、カフェのウエイトレスの制服は、高級ブランドのメイド服。大学見学者は、メイド服の試着も出来るとあって、みんなノリノリでメイド服のコスプレ・ショーをカフェで勝手に始めてしまいます。もちろん、ショーは大好評。
チアキは、リリイとウルスラに無理矢理に連れて行かれ、自分は「イヤイヤ」ながらコスプレしたのであって、「ノリノリ」ではなかったと思っていますが。
3-10 宇宙大学(惑星アカデミア)
白凰女学院ヨット部一行は、朝早く、女子校の制服を着用して、グランドマザーからシャトルで出発した。一行は、惑星アカデミアの衛星軌道上にある中継ステーションを経由して地上に降り、宇宙大学本部に向かった。クリス王女も引率教師に戻って同行している。
緑の木々がうっそうと茂った都市の中に、煉瓦色で統一された建物が幾つも並んでいた。そこに、宇宙大学の本部や様々な研究所、学生寮、教室などがある。もちろん、宇宙大学全体は、この本部都市だけでは収まらず、この星とこの星系のあと二つの可住惑星、それに星系内の数知れないスペース・コミュニティで構成されている。
一行を乗せたコミューター車は、とある建物に横づけされた。
建物の玄関に、学生らしい男女二人が待っていた。今日の案内係である。
「ようこそ宇宙大学へ。」
「みなさん、いらっしゃい。歓迎します。」
「初めまして、お世話になります。」各々が、挨拶した。
「では、まず始めにガイダンス映像をご覧下さい。」
一行は、立体スクリーンのある部屋に案内された。
「ようこそ、宇宙大学へ。私は、宇宙大学宇宙歴史学科の4年生、ゲオルグ・へディンです。これから私が宇宙大学へ入学するまでと、入学してからの生活を、ご紹介します・・・・」
興味深い映像が続くのだが、白凰女学院のヨット部員の中には、早くも居眠りを始める者もいた。
「ウルスラ、こら、起きなさいよ。」チアキが肘でつついて、起こした。
「いやあ、昨夜、ミッキー艦長と話し込んだ後、寝られなくてさぁ。睡眠不足で・・。」
「あんたにしちゃ、珍しいわねえ。」
「ハハハ・・・・」
「ねえ、チアキちゃん。チアキちゃんは、船の中で生まれて、船の中で育ったんでしょう。」
「そうだけど。それがどうしたの。・・・それから『ちゃん』じゃない。」
「そうかあ・・・、あのね・・・」
白凰女学院ヨット部一行は、映像を見た後は、都市内の図書館、博物館、教室、学生寮のモデルルームの見学、・・・そして昼食、さらに模擬授業体験とつづき、午後3時のティータイムとなった。
案内役の女子学生が、サーシャに近づいて来て、言った。
「サーシャ・ステイプルさんですね。お会いできて光栄です。
これからお茶の時間なんですが、学生会館のカフェにご案内しましょうか。」
サーシャの顔が、少し赤くなった。
「ええ。ぜひお願いします。私もカフェを訪ねるのをとても楽しみにしてきました。
でも、いざ訪れるとなると、少し恥ずかしいですね。
それから、学生さん達の憩いの場に、私たちがお邪魔して、ご迷惑ではありませんか。」
「いえいえ、お気になさることはありませんよ。私たちこそ、伝説のカップルのお嬢様がお見えになると聞いて、楽しみにしておりました。」
話を聞いていた茉莉香は、驚いた。
「え? え? 伝説のカップルって、だれ?」
「ふふふ・・・。行けばわかるわよ。」サーシャが笑って、案内役の女子学生とともに、先に学生会館に入っていった。
3-11 カフェ(宇宙大学・学生会館)
宇宙大学の学生会館は、、大学生が自主的に運営する大学生の憩いの場、たまり場である。外観だけは古めかしい煉瓦造りを維持しているが、内部には最新の設備、広々とした勉強室、会議室もあり、カフェもある。カフェは夜は酒場にもなる。
学生会館は、基本的に大学生のボランティア活動によって運営されている。なかでも、学生会館のカフェで働く仕事は、ボランティアの学生にとって人気がある。特にウエイトレスやウエイターの仕事は、大人気だ。なぜなら、カフェは、宇宙大学の歴史と伝統を感じさせる場所だからである。
カフェは、学生会館の一階ロビー横にあって、広々とした空間に、木製の床、天井が張り巡らされ、そこにクラシックな造作が施されている。テーブル、椅子などの木製家具も重厚なデザインのものが使われている
さらに、大学内外の有名人が客として訪れたり、銀河テレビのインタビュー撮影も毎週のように行われている。同じボランティアとして働くなら、こういう華やかな雰囲気の所でと言うわけである。
また、ウエイトレスの衣装は、クラシックなメイド服の雰囲気を踏襲しながらも、ミニスカ、ハイヒールである。現在の衣装は、有名ブランド・コッキー・シャネルのデザインで、自分が実にスタイルが良く、しかも美しく見えると、女子学生にもすこぶる好評である。
サーシャに続いて、茉莉香、チアキ達、ヨット部員やクリス先生がカフェに入っていった。
しかし、一歩、カフェに足を踏み入れた途端、茉莉香は異様な緊張感に、鳥肌が立った。
「なに、ここ! 何があるの?」
茉莉香はつぶやいた。
「茉莉香、あなた、また何かやったの。
ここの客の学生、半分くらいは偽物よ。警察とか軍人とか、そんなニオイがするけど・・・。」
チアキが小声で言った。
「さすがだなあ、お前達。一目で見抜くとは。
その通り、私のための警備の者がいるけどね。」
クリス先生も小声で言った。
「先生、そうじゃなくて、この人達、外の方に対して何か異様に緊張してませんか。」
茉莉香が周りを見渡すと、中庭の窓から人影が動いて消え、それを追う人影も見えた。
「今の人影は、何だろう・・・。」
外の方で少し騒がしい音がしたが、カフェにいる警備部隊らしい偽学生の緊張が緩んだので、茉莉香達も安心した。
案内役の女子学生は、そんな騒ぎが一切耳に入らないかのように、カフェの案内を始め、さらに、こう言った。
「このカフェに来れば、必ず『伝説のカップル』の話をしないわけにはいきませんね。先ほど少し話が出てましたが、私たちが知っている『伝説のカップル』の話は、こうです。 サーシャさん、もし違っているところがあったら、訂正して下さい。」
・・・・
今から30年ほど前に、双子の美人姉妹が宇宙大学に入学しました。姉は数学、妹は惑星環境開発学の分野で、難関の奨学金審査にパスするほどの優秀な学生でした。
そして、学生会館のボランティア当番の時が来たので、このカフェのメイドとして働き始めました。二人は、美人でスタイルも良く、メイド服がとても似合うとあって、最初から注目されましたが、しばらくするとキャンパス中の人気者になりました。
その理由は、二人は美人で優等生であるにもかかわらず、「天然」で「ドジッ子」だったからです。まず、「OTAKU」と呼ばれる先端芸術的な趣味を共通する男女のグループから人気に火が付き、一般学生にも人気が広がっていったそうです。
なにせ、この二人はたいへんなドジっ子で、注文の届け先のテーブルを間違えるなんていうのは、間違いのうちには入らなかったそうです。
注文を聞き間違え、ビックリするような料理や飲み物が届くのだそうです。調理の学生達も、彼女達の聞いてきた『変な注文』をおもしろがってその通りに作るので、メニューに無いビックリするものが次々出てきたそうです。
例えば、「スパゲティーミートソース」と「ブルーベリーチーズケーキ」を注文すると、「スパゲティ・ブルーベリージャム味」と、「チーズ入りパンケーキのミートソースかけ」が届くと言う具合です。
OTAKU達は、注文と違うものが届いても、彼女たちが、
「お待ちどうさまでした。」
「ご注文は以上ですか?」
「ご利用、ありがとうございます。」
などと笑顔で礼を言ってくれるので、それで大満足。
それから、彼女達が、なぜ、どういう風に聞き間違えたのか、皆で推理して楽しんだそうです。もちろん、届いたものは、どんな奇抜なものでも完食するのが、彼らのルールです。
みんな、優しいですね。
それから、注文の品を床に落としたり、お盆やテーブルをひっくり返したりして、彼女達がカワイイ悲鳴を上げるというのも毎日のようにあったそうです。
もちろん、彼女達を怒ったり、笑ったりとか、彼女達の笑顔を曇らせることは絶対禁止。服を汚されても笑顔で済ますというのが彼らのルールでした。
ルールを破りそうなヤツは外につまみ出したそうです。
自分達も笑いを我慢できなくなると、勘定を済まして、急いで中庭に飛び出していったそうです。
やっぱり、みんな、優しいですね。
でも、ここからが、大事な話なんですよ。
ところが、こんな人気者にまったく関心を示さない男子学生が二人いたそうです。二人は変わり者として有名でした。
いつも二人でカフェに来ては、数式を書き付けた論文を書いては捨て、書いては捨て、あるいは科学技術計算用の超高性能パソコンをずっと睨んでは二人で議論ばかりしていたそうです。
スゴイ集中力で、周りには全く関心を示さず、美人姉妹が注文を持ってきても、顔も向けずに小さな声で礼を言うだけ。コーヒーを頼んでトマトジュースが届いても、そのまま飲んでしまって、気がつかなかったほどだと聞いています。
そんなある日、二人が捨てた論文の束を姉の方が拾って、ふと読んだそうです。姉は数学が専門だったので、二人が何を研究しているかすぐに分かったそうです。
『あの二人、百年問題を解こうとしてる。』
『なあに? 百年問題って?』
『時空トンネルの実現方法ってこと。つまり時間と空間を一瞬に飛び越える、新しい超光速飛行の方法を考えているのよ。』
『そんなこと出来るの?』
『百年かかっても、良い答えが見つからない難問だから、百年問題っていわれてるの。
だから、あの子達は、解けない難問に魂を奪われているのよ。
かわいそうにねえ、人生を棒に振るよ、あの二人。』
『姉さん、私は、あのパソコンがイケナイと思うの。なんかパソコンに魂を奪われているというか、奴隷になっているわ。
この前読んだ女性週刊誌に、<パソコンは乙女の敵>と書いてあったけど、あの二人を見るとその通りかもしれないと思うわ。
本当に、かわいそうにねえ、パソコンと結婚するしかないよ、あの二人。』
そうこうするうちに、彼女達のボランティア最後の日がやってきました。OTAKU達は最終日に記念イベントを計画していたそうです。
ターゲットは言わずと知れたあの二人。姉妹の笑顔を曇らせた、ルール違反のヤツに天誅を加えようと企んだそうです。
まず、彼ら二人をいつものカフェの隅のテーブルではなく、カフェの真ん中に座らせるよう、予め席取りをしてブロックしておきました。そして夕方になり、まだ真ん中に座っている二人を狙って、沢山のビールをジョッキで注文したそうです。
「ダメでしょ、飲み過ぎよ。こんなに沢山のビールなんか注文して・・・。」
と姉が言っても、
「いやあ、ねえさん、今日で二人のボランティアは終わりでしょ。客のみんなで、二人が無事に勤めたお祝いの祝杯をあげたいんですよ。」
などと言ってごまかしたそうです。
もちろん、姉妹が危ない手つき、足取りで、例の二人の側を沢山のジョッキを運んで通りかかるよう、ビールを注文するテーブルの位置を計算していたそうです。
こういうことは知恵が回るんですね、OTAKUの男子って。
姉妹が例の二人の側を通りかかった時を見計らって、OTAKU男子は姉妹にいろいろ声をかけたそうです。料理をあれこれ注文するとか、メイド服やストッキングが汚れていると注意するとか、気を取られて手元、足下が怪しくなるようにね。
その結果、まず妹が服が汚れていると言われて後ろを振り返ったその時に、手に持ったビールジョッキを例の二人のパソコンにぶつけてしまい、イケナイと思った瞬間には足を滑らせて、悲鳴を上げてテーブルをひっくり返してしまったそうです。
姉も慌てて、ひっくり返った妹に近づこうとして、ビールでぬれた床で足をすべらせしまいました。ちょうど、例の男二人は、ひっくり返って床に落ちたパソコンや論文を拾おうとかがんでいたので、その上に、姉は手に持ったビールジョッキごと、悲鳴を上げて倒れ込んだそうです。
あまりの惨状に、OTAKU男子達は青ざめて、凍りついてしまったそうです。
そして、例の二人の男うちの一人が、妹に声をかけたそうです
「大丈夫ですか?お嬢さん、おケガはありませんか?」。
「いえ、貴方こそ、おけがはありませんか。論文とか、パソコンとか、ダメにしたんでは・・・。」
妹が視線を向けた先には、姉の膝の下で変形して凹んでいる超薄型のパソコンとか、ビールを飲んで床の上で赤くなっている論文の束があったそうです。
「いや、気にしないで下さい。大丈夫、大丈夫」
と例の二人は、むしろ姉妹を気遣って安心させようとしているのですが、実際のところは、二人とも、とても落ち込んでいるようでした。
「私、ロッテ・ケストナーと申します。ロッテと呼んで下さい。こちらが、妹のミーシャ・ケストナーです。ミーシャと呼んでやって下さい。
あのー、大事な論文やパソコンをこんな風にしてしまって、本当にごめんなさい。」
「ああ、いやいや、お気になさらないで下さい。
ああ、まだ、名乗ってませんでしたね。どうも、初めまして。私は、レイ・ブライトベリーです。レイと呼んで下さい。」
「初めまして。私は、ジョージ・ステイプルです。ジョージと呼んで下さい。」
男子二人は、初対面の挨拶をしました。やはり、美人姉妹のウエイトレス姿は、それまで三ヶ月の間、まったく二人の目に入っていなかったそうです。
挨拶の間も、二人はビールでぬれた論文やつぶれたパソコンに時々目をやっては、とても落ち込んでいました。
その姿が痛々しく、姉妹は、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
そこで、姉さんのロッテが良いことを思いつきました。
「あの・・レイさんとジョージさん。今週のダンスパーティなんですが、お二人はご予定がおありですか。」
「・・・・・・?」
もちろん、その男二人に予定などあるはずは無く、ダンスパーティのことも聞かれて初めて知ったそうです。
「あのー、お詫びと言っては何ですが、ダンスパーティに四人で行きませんか。気分転換になりますよ。
気分転換して元気を取り戻せば、また研究を再開できますよ。」
姉のロッテが言いました。
「そうですよ。気分転換ですよ。ジョージさん、さっきは本当に済みませんでした。私が最初に転んだせいで、大切な・・。」
妹のミーシャ・ケストナーが、自分を責めて、今にも泣きだしそうな表情でわびを言い始めたので、姉妹を泣かせまいと思ったジョージ・ステープルさんは言ったそうです。
「行きましょう、ミーシャさん、行きましょう。
貴方みたいな美しい人と一緒にダンスパーティなんて、なんか急に嬉しくなってきましたね。なあ、レイ。キミも嬉しくなってきただろう。ハハハ・・
私は、実はダンスパーティって、初めてなんですけどね・・・。」
「ここまで話せば、おわかりでしょう。
こうやって、ジョージとミーシャ、レイとロッテという二組の伝説のカップルができましたとさ。めでたし、めでたし。
サーシャさん、お父様のジョージ・ステープル様には、これまでも宇宙大学にたいへんなご寄付を頂いております。
例えば、窓の向こうに見える白い大きな建物、ステープル記念医学総合研究所と、ステープル記念大学病院もご寄付で建てられ、今もご援助頂いております。
おかげさまで、学生は無料で治療が受けられます。私たち学生からも、御礼申し上げます。お父様お母様によろしくお伝え下さい。」
「ありがとうございます。皆さんのお言葉、父と母に伝えます。
それから、補足という程のこともないんですが、母は、今でも自分のことを『天然』とか『ドジッ子』だとは思ってませんよ。」
「ハハハ・・・。そうですね。そうこなくっちゃ。」
「それから、母はその事件で大事なことが分かったそうです。それは、『モノにも心がある』ということです。
具体的には、どういうことかというと、その事件以来、二人が歩いていると、あちこちでパチンパチンという音がするようになったそうです。
音のしたところで、
『今の音は何?』
と聞いても、皆、そんな音は聞いてないと答えたそうです。
やがて、二人が中庭を歩いているときに、その正体が分かったそうです。
二人の姿を見ると、芝生の上やベンチに座る学生の膝の上に居たパソコンというパソコンが一斉にアタッシュケースという耐水・耐ショック性能の強化外装の中に身を隠したそうです。
パチンパチンという音は、アタッシュケースが閉まる音だったんですね。
これを見て、分かったそうです。姉さんが転んで科学技術計算用の高価なパソコンを踏みつぶしたために、二人は大学中のパソコンにひどく嫌われてしまったと。」
「ハハハ、期待通りの話ですね。今もパソコンは乙女の敵です・・・かねえ。」
案内役の男子学生が、女子学生の顔を見ながら、言った。
「そうだ、大事なことを言い忘れていました。その事件の起きたテーブルがこれですよ。今もそのまま使っています。
モノにも心があるなら、この机はどんなことを語ってくれるんでしょうね。」
「ステキ・・・。大学へ行くと、私にもそんな出会いがめぐってくるのかなあ。」
ヨット部員達はつぶやき、自分達の青春、大学時代を想像して、うっとりしていた。
サーシャは、テーブルを愛おしそうに撫でていた。
その沈黙を破って、ウルスラが言った。
「さあー、茉莉香。コスプレ、いってみよう。」
「ええ-! ここでやるのお~。」
「このメイド服、コッキー・シャネルのデザインなんだって。」
「コッキー・シャネルって、クリスタルスターで一番の売れっ子じゃないの。」
コッキー・シャネルと聞いて、メイド服を見る部員達の目つきが変わってきた。
「ねえ、茉莉香、こんな有名ブランドのミニスカ・メイド服を見たら、アンタもコスプレの血が騒いできたでしょ。ね、ね・・・。」
「当然ですわ。そう来なくっちゃ、茉莉香さんですもの。確か、見学者用の貸し出しもあるって、お聞きしましたが・・・。」
グリューエルが言った。
「ええ、ありますよ。貸し出しは何着必要ですか・・。」
案内役の女学生が言った。
「サーシャはやるでしょ、当然。写真は、お母さんへのお土産にしないとね。」
「チアキちゃんも、やるんだよ。」
ウルスラが言った。
「なんでよ?イヤよ!・・・恥ずかしい。」
「だって、これからは、茉莉香様に、チアキ様の時代だよ。」ウルスラが言った。
「他にやる人、挙手!」
チアキの声を無視して、ウルスラが聞くと、その他の全員が手を上げた。
「じゃあ、多いから何組かにわけて、試着してみようか。一年生から五人づつかな。
でも、グリューエルとヒルデはまずいでしょう。」
ウルスラが言った。
「どうしてですか。私もやってみたいです。
お姉様もこのあいだ茉莉香さんの家でやっていましたし・・・。」
「貴方たち二人は、自重しなさい。ほら、周りの人垣を見なさいよ。ここでコスプレを披露すると、写真に撮られて、女性週刊誌にも出るかもしれないし。
この前のヒルデのショートカット事件を思い出しなさい。
パパラッチが撮ったショートカット姿の写真が女性週刊誌に掲載されただけで、たいへんなことになったでしょう。
今度、王宮から叱られたら、留学が打ち切られて、セレニティ星に連れ戻されるかもしれないよ。」
クリス先生が言った。
「はあ~い。わかりました~。」
グリューエルが、しょんぼりして言った。
「それから、グリューエルとヒルデは、このメガネをかけなさい。」
クリス先生は、黄色と黒の縞模様のついた細いメガネを箱から出して二人に渡し、自分もかけた。
「先生。これは、なんですの?」
「宇宙大学では、『パパラッチ殺し』とか、『防虫メガネ』とか呼んでいるそうだ。
このメガネを身につけていると、メガネの存在をカメラが自動認識して、その人の画像を写せなくするそうだ。
本来は、宇宙大学の研究機密の盗撮防止用に開発されたそうだが、プライバシーを守りたい女性やVIPにも貸してくれるんだ。」
クリス先生が言った。
そうしているうちに、最初の組の生徒達は、制服からメイド服への着替えが終わり、カフェのフロアに現れた。
メイド姿の一年生の五人は、ファッションモデルのように音楽に乗った歩き方で、一列に並んで歩いて来た。
試着用のメイド服には、生地が深紅、青、黄色、緑と派手なものもある。本来のメイド服の色は黒だが、見栄えを優先しているのだろう。
先頭は、ジェシカ・ブルボンだ。スタイルが良く、すらりと伸びた足にハイヒールと超ミニスカで、可愛いフリルがついたメイド服がよく似合う。服の色は、本来の黒である。
そして彼女は、先輩やクリス達の前まで歩いてくると、ポーズを決めて、くるりと一回転した。深紅、青、黄色、緑色のメイド服を着た他の生徒も、同じように次々とポーズを決め、そして5人がヨコ一列に並んで、またポーズを決めた。記念の3D写真を撮ってもらうためだ。
「すごいー。ファッション・ショーみたい。今年の一年生はやるねえ。」
茉莉香が感心して言った。
いつの間にか増えた人垣からも、歓声が上がっている。
こうして、この最初の5人の行動と観客の盛り上がりに勢いづいて、ヨット部員によるメイド・コスプレショーが始まってしまった。
続いて、次の一年生五人組が同じように現れ、歓声を浴びた。
2年生三人が、3番目に登場して、また歓声をあびた。
ヤヨイは黒のメイド服。長身なので、まるで本物のモデルのように見栄えがして、ひときわ大きな歓声を浴びた。
アイは、純白のメイド服だった。小柄で、エプロンドレスのような可愛いデザインがよく似合っていた。頭のカチューシャもよく似合っている。
ナタリアは、深紅のメイド服。
「ナタリア。お前、可愛いよーー。似合ってる。普段からジャージなんか着ていないで、いつも、そういう可愛いカッコすれば良いのに。」
とウルスラから、余計な一言が出た。
「ゼッタイ、イヤです。」
そう言って、ナタリアは舌を出した。
これも、取り巻いていた観客からは、可愛い演出にみえてしまい、ナタリアはさらに歓声を浴びた。
「さあ、今度は私たちよ。着替えに行きましょう。」
「イヤよ。私は。」
チアキがまた言った。
しかし、ウルスラとリリイが
「チアキサマ」、
「オヒメサマ」、
「ワガママをおっしゃっては、ナリマセヌ」、
「ナリマセヌ・・・ホホホホホ。」
と、作り笑いをしながら、『オイ、コラ、ヤメロ』などと言って渋るチアキを両脇から挟んで連れていってしまった。
「チアキは嫌がってたけど、大丈夫か?」
クリスがグリューエルに聞いた。
「大丈夫ですわ、先生。
きっと、チアキさんが一番最初に、ノリノリで登場してきますわ。」
「なるほど、チアキは、性格も可愛いんだねえ。」
そして、三年生6人が、一列になって登場してきた。
グリューエルの予想通り、一番目は青のメイド服を着たチアキだった。モデルウオークの歩き方はなかなかサマになっていたし、ポーズの決め方もキリッとしてかっこよかった。さっきまで嫌がっていたのに、どう見てもノリノリだった。
そして、ウルスラ、ハラマキ、リリイと皆大歓声を浴びて、登場した。
5番目が、深紅のメイド服を着た、茉莉香だった。
今日の茉莉香は、宇宙大学という遠い所に着たせいか、すっかり気楽になって、タダの女子高生の気分に浸っていた。機嫌良く、ノリノリで、ポーズを決め、ウインクまで披露して、さらに決めのポーズまで見せるサービスぶりだった。
もちろん大歓声を浴びて、あちこちの機器で写真を写す音がしていた。この時代も、機械で写真を写すときはシャッター音が鳴るというのがお約束だった。
最後が、本来の黒のメイド服で登場したサーシャだった。魅惑的な碧眼で会場全体に目線を配り、輝く金髪を揺らしながら、すっとポーズを決めて中央に並んだ。サーシャの場合は過剰な演出は不要だった。
三年生6人はなかなかの美少女ぞろいなのだが、やはりオーラに包まれているような、サーシャの美貌が群を抜いており、一段と大きい歓声を浴びていた。
「あれが、伝説のカップルの例の娘さんらしいよ。」
「あれが、あのステープル家の娘、サーシャかあ。」
「いやあ、サーシャの本物を見るのは初めてだが、うわさ以上の美少女だねえ。ホントすごい。」
あちこちから、サーシャのことを話題にする声が聞こえてきた。
「やっぱり、今日はサーシャが主役だねえ。」茉莉香は思った。
こうして、白凰女学院ヨット部一行は、学生会館のカフェで大騒ぎをしたのち、宇宙大学を後にした。そして、シャトルに乗って、グランドマザーに帰還した。宿泊は船内、クリスタル・スターへの移動も夜のうちに行うと、日程が決められていたからだ。
3-12 弁天丸ブリッジ
一方、こちらは弁天丸。レッドクリスタル星系へ向けて、長い船旅の途上であった。
当直のクーリエが、深夜の暇つぶしに、ネットニュースを見ていると、加藤茉莉香に関するニュースが流れているのに気づいた。
「キャプテン茉莉香、宇宙大学を襲撃!」、
「女子高生宇宙海賊、大学生のハートを強奪!」
など、意味不明の見出しと共に、深紅のメイド服を着てVサインのポーズを決めた姿や、ウインクしている姿など、メイド服姿の加藤茉莉香の映像が、ネットニューストでたくさん流れていた。
ネット・ユーザーの反響もすごい数になっている。
「あ~~~、茉莉香チャン、派手にやっちまったね。」
「宇宙大学に見学に行ったんだろう。何してんだい。」
いつの間にか、百目が後ろに立っていた。
「何やっているのよ。学校の部活行事で行ったんでしょ?
でも、ホント、派手だけど、茉莉香によく似合ってるわね。こういうところは、母親似なのね。」
ミーサも後ろからのぞいていた。
「茉莉香チャン、これで銀河の核恒星系へ堂々のデビューね。知名度アップするわよ。
おもしろいから、弁天丸のホームページにも転載しておこうっと。」
「記事によると、見学に来た女子高生多数がコスプレショーに参加したみたいだけど、他の女の子達は、ニュースの写真に写ってないね。
う~~ん、なるほど、船長の所だけ切り取られて、載っているんだ。」
「未成年の一般市民だからじゃないかな。宇宙放送・通信コードってやつよ。これ芸能ニュースだし。」
「ということは、うちの船長は、芸能人扱いかなあ。」
「なに和(なご)んでるの!
そもそも、昨日、海明星を出発して、今朝にはアカデミア星に着いているって、どうなってるんだい。おかしいでしょ。4万光年は離れているんだぜ、こっちはまだ旅の途中だって言うのに。」
百目が、船乗りの視点で、ニュースの下に隠れている秘密に気がついた。