宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編- 作:gonzakato
ウルスラの士官学校生活と、リリイの弁天丸での見習い看護師修業を書きます。
こうやって、彼女達も少しずつ大人になっていきます。
1 ウルスラの入学式
話は少しさかのぼる。
ウルスラは、4月1日に、銀河帝国の帝都にある帝国軍士官学校に入学した。
銀河帝国の帝都にある士官学校は、正式には士官学校の帝都キャンパスと呼ばれている。主要星系にも帝国軍の士官学校のキャンパスが置かれているので、士官学校は全部で八つのキャンパスをもつ。ただし、これらの士官学校キャンパスは全体で一つの士官学校とされ一体であることが強調されるため、各星系においても、ただ単に士官学校と呼ばれている。もちろん、その中で最も歴史と伝統があるのが帝都にある士官学校であることは言うまでもない。
士官学校の入学式は、女王陛下臨席の下に、帝都クリスタルスターの聖王宮で行われる。
聖王宮は、最も格式の高い宮殿とされる。聖王宮には実際にはいくつかの部屋があるが、通常は聖王宮と言うと最も大きな大宮殿をさす。ここは、部屋といっても帝国の大規模な儀式用に用いられるため、その規模は立席なら十万人を収容できるとされる。銀河帝国の富裕さと強大さを見せつける豪華な内装と相まって、聖王宮は、誰もが驚く壮麗な屋内空間である。
従って、士官学校の新入生は、帝都キャンパスだけでパイロット科、エンジニア科、普通科を合計して千人にもなるが、聖王宮はこれらの新入生と大勢の随行者を難なく収容できる。
その広大な空間の観客席に座った白鳳女学園ヨット部現役・OG一行は、はるかかなたに整列している新入生の中から、ウルスラを探そうとしていた。
「ねえ~。ウルスラはどの辺に居るの?人が多すぎて分からないよ~。」
「今、探してます。」
音楽鑑賞用オペラグラスを使いながら、ナタリアがリリイの質問に答えた。
本来なら、軍用双眼鏡を使いたいところだが、警備のため使用禁止とされているため、ナタリアは、オペラグラスを使っている。
「ねえ、あれじゃないの!
あそこ。ど真ん中に、一人だけ浮いてるコがいるよ。きっとあのコだよ。」
ハラマキがウルスラを肉眼で見つけた。
パイロット科は、士官学校でも最もエリートコースとされるので、入学式でも真ん中の位置に整列していたのだが、ウルスラはその中で自然と目立ってしまう存在だった。
「きっと、そうでしょうね。
他の新入生は緊張して直立不動で立っているのに、彼女だけは、うれしそうに、そわそわしていますからね。」
ウルスラの婚約者、ブラウン中尉が言った。彼もウルスラの入学式に出席していた。
「今、確認しました。あれがウルスラ先輩に間違いありません。」
ナタリアがオペラグラスを見ながら、答えた。
「やっぱりねぇ~。ウルスラらしいわね。」
「それで、わたしも、この間、聞いたのですが、今年の新入生には実戦経験のある猛者(もさ)が入ってくると噂になっているそうですよ。
士官学校の上級生は、どんなコワイヤツが入ってくるかと、戦々恐々だそうです。」
「ワハハハ・・・。それがウルスラと知ったらみんなびっくりね。」
「そうですね。
ウルスラさんの着ている制服の肩章は、予備役少尉のものです。
これで、ウルスラさんが、実戦経験がある新入生と一目でわかります。」
「でも、士官学校って、そんなことが話題になるのですか?」
「そうですよ。軍では実戦経験が重視されますから、彼女はこれから注目の的でしょう。」
「へえ~!」
やがて、入学式が始まった。
開会宣言の後、国歌「永遠の銀河帝国」が演奏される中、女王陛下が入場した。
もちろん、今年の随行者である第二王女殿下も入場した。
そして、入学式は、校長の挨拶、帝国軍最高司令官である女王陛下の祝辞、新入生代表の決意表明・・・と、形どおりに進み、終了した。
そして、女王陛下一行が退場した後、解散となった。
ようやく緊張がほぐれた新入生たちは、観客席のなかにいる随行の両親たちを探しはじめ、見つけた者は手を振っている。
やがて、聖王宮のあちこちで、新入生と随行者たちの歓談が始まった。記念撮影をしている人たちもいる。
「チアキちゃんが、王宮見学に連れてってくれるって言ってたのに・・・。
チアキちゃんは出て行っちゃったし・・・、
これじゃ、何処へ行ったらいいか、わからないよ。」
ウルスラは、こうつぶやいて、新入生の中で立ち尽くしていた。
その時、黒服の侍従が彼女に近づいてきて、言った。
「ウルスラ・アブラモフ少尉でいらっしゃいますね。
王女殿下から、あなたをご案内するように言われて参りました。」
「え! 新入生が、少尉だって!」
「少尉ってことは、実戦経験のある新入生ってこと。あの女のコが・・・。」
「本当だ。あのコの肩章をみろよ。我々のものと違う、予備役少尉のものだ。」
「おれたち、四年後に士官学校を卒業して、晴れて『少尉』に任官するんだよねぇ。」
「こりゃ、『一周』、抜かれているな、おれたちは。」
「それで、彼女に、王女殿下が何のご用なの!?」
侍従の言葉に、ウルスラよりも、その周りにいた新入生が素早く反応した。
それに対して、ウルスラはやっと安心して答えた。
「はい。ウルスラ・アブラモフは、私でございます。」
「では、こちらへどうぞ。」
ウルスラは、まわりの新入生だけでなく、士官学校関係者の注目を集めながら、侍従について行った。
遠ざかっていくウルスラを見ながら、女子の新入生たちが一つの発見をした。
「ねえ、あのコ、左手に指輪をしているわよ。」
「指輪なんて、士官学校の入学式に場違いねぇ。あのコ、何、考えているのかしら。」
「ねえ、左手の薬指に指輪ってことは、まさか・・・。」
「ええ! あ、ホントだぁ。」
「それじゃあ、私達、女子は、あのコに二周、抜かれているってことに・・・。」
ウルスラが注目を浴びたのは、肩についている予備役少尉の階級章だけではなかった。
本来、場違いなはずの大きなダイヤモンドの婚約指輪を左手薬指につけて、彼女は入学式に出席していた。
女子の新入生が、その「女の階級章」を見逃すはずは無かった。
やっぱり、ウルスラは、常識はずれの猛者(もさ)だった。
2 士官学校での猛勉強
「うわあ~~。また赤点だぁ~~!」
ウルスラが、毎週行われる小テストの結果を情報端末で眺めて、つぶやいた。
「ウルスラさん、もう勘弁してくださいよぉ~~!」
「あ~あ、追試対策のお付き合いで、また私たちは今週末も外出禁止ですよ。」
士官学校は全寮制で平日は外出禁止。当然、学生は、週末の外出を楽しみにしている。だから、週末の外出禁止は、学生にとってなかなか厳しいペナルティだった。
「そうです。それも、もう三週連続ですよ。」
「ちがうよ。戦勝記念日の休暇を挟んで数えれば、五週連続だよ。」
「そんなの自慢になりませんよ! ウルスラさん!」
「まあまあ、そんなに興奮しないで。
大秀才の皆さんにとって、私がわかるように教えるスキルを磨くのも、良い経験になると校長先生も仰っていたじゃないですかぁ。アハハ・・・」
「自分でそれを言うんですか! 」
「だって、翌週の追試では、必ずギリギリの低空飛行で合格ラインを飛び越えているのは、皆さんのおかげですよ。やっぱり、みなさん教えるのがとても上手だと、私、感謝していますよ。」
そう言って、ウルスラは、笑顔を見せた。
銀河帝国の帝都クリスタルスターにある帝国宇宙軍士官学校パイロット科に入学したウルスラは、士官学校で「事件」を次々と起こしていた。
良い方の話からいうと、
「今年の新入生には、実戦経験のあるヤツがいるらしい。これは百年ぶり!」というウワサが新入生や士官学校内に広まっていたが、その噂の当人がウルスラであり、しかも18歳の女の子と知って、皆を驚かせた。
しかも、ウルスラの実戦経験の内容が軍事機密とされ、彼女の経歴の最も肝心な部分を知ることが許されなかったことで、更に教官たちを驚かせた。
『このコは、どんな軍事機密にかかわっているのだろうか』と。
しかし、極めつけは、新入生の授業ガイダンスでの事件である。
教官は、パイロットシミレーターの授業で装置の説明をしたあと、ウルスラを指名してシミレーターを実際に使ってみせることを命じた。もちろん、教官はウルスラを少し痛い目に合わせて、鼻をへし折ることを狙っていた。
これに対し、ウルスラは、射撃のシミレーターで最高難度レベルでのプレイを求められたにもかかわらず、命中率95%以上という驚異的な成績を上げて、生徒だけでなく教官も驚かせた。
もちろん、明るくオチャメな性格から、男女を問わずみんなに好かれる女の子だった。
しかし、よいことばかりではない。
授業では、よく居眠りをして怒られている。
勉強には、あまりやる気が出ないようだ。
特に、パイロット科の専門学科については徹底的な理解と暗記が求められるため毎週、小テストがあるが、この小テストではウルスラは赤点続きだった。
これを知ったパットン校長は、パイロット科の秀才三人を指名し、ウルスラの勉強を手助けするように命じて、こう言った。
「とにかく、ウルスラ君はパイロットとしての腕前の方は極めて優秀だから、学科の成績不良で退学処分にするわけにはいかないんだ。
そこで君たちが、彼女の勉強を手助けしてほしい。私からもお願いする。
お返しに、彼女からは操縦の極意でも教えてもらってくれ。
なにせ、ウルスラ君は伝説の鬼教官、ミッキー・ハヤマ将軍の推薦状を持って当校に入学してきた、実戦経験済みの予備役少尉だからな。」
「わかりました。」
彼らは、ミッキー・ハヤマの名前を聞いて、素直に校長の頼みを了解した。
「ああ言い忘れたが、もちろん、ここは士官学校なのだから、結果については連帯責任だからな。
つまり、彼女が小テストで赤点を取ったら、全員、週末の外出禁止だ。
どうせ、お前ら、週末にデートする彼女なんか、いないんだろう。
問題ないよな。ハハハ・・・・。」
パットン校長は最後に爆弾を落としていった。
優等生たちが、ウルスラに付き合って外出禁止のペナルティを連発されることになったのは、このためだった。
3 ミリタリー・ケイデンス
士官学校の授業は、教室での講義だけでなく、専門訓練もある。
それでも、一年生は、本格的な専門訓練の準備のため、学科中心のカリキュラムからスタートする。まずは、宇宙船の基礎知識を詰め込むためである。これが毎週小テストの対象である。
それと並行して高度なメディカルチェックと基礎体力をつけるトレーニングが行われる。
メディカルチェックは、パイロット科の知られざる難関である。宇宙飛行士にふさわしい強靭な精神と肉体を備える資質があるかが問われるからだ。極めて高度な医療技術により、隠れた不適合因子を見つけられ、毎年何人かが不適合判定をうける。
入学させてからパイロットに不適合と判定するのは非情な措置だが、これから始まる厳しい訓練や実戦で事故を起こさないために必要不可欠なこととされている。パイロットは他人の命まで預かるからだ。
もっとも、昔の士官学校では不適合判定で即退学だったが、いまはパイロット科以外のエンジニア科や普通科(通常の士官コース)に転科するものとされている。軍も優秀な人材を逃がしたくないからだ。
一方、基礎体力作りのトレーニングは、昔ながらのものである。
体力作りと言えば、まずは、ランニングから始まる。
パイロット科の学生たちは、今日も、昔ながらの「ミリタリー・ケイデンス」と呼ばれる歌を歌いながら、整列し歩調を合わせて、集団でランニングをしていた。
帝国軍士官学校では、掛け声をかける役が即興で歌詞を考えて、ケイデンスのメロディに乗せて、みんなに歌わせるのがシキタリだ。
今日の掛け声役は、ウルスラである。
「おうちに帰っても、意味ないさ。」
(注:歌のメロディは、ファミコンウォーズのCMを思い出してください♪)
ウルスラが、走りながら歌った。
新入生は、生まれた星系の自宅を離れ、遠く帝都までやってきた。そして、帝都の郊外にある士官学校の寮で泊まり込みの生活をする。入学してしばらくすると、だれでも、ちょっとホームシックの気分になる。
ウルスラは、その気分を振り切ろうと、歌った。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・
「おうちに帰っても、意味ないさ。」
歩調を合わせて走りながら、他の学生が、それにならって唱和した。
「おまえの彼女は、もういない」
「おまえの彼女は、もういない。ナハハ・・・」
走りながら男子学生たちが苦笑している。みんな、思い当るところがあるようだ。
「ジョディのヤツに、取られてる~。」
「ジョディのヤツに、取られてる・・・。ワハハハ・・・」
今度は、男女を問わず、学生たちが大声で笑い出した。
女の子にこうハッキリ言われては、笑うしかないのだろう。
「叫べ(さけ・べ)、チク・ショー、叫べ(さけ・べ)、チク・ショー!」
「叫べ、チク・ショー! 叫べ、チク・ショー!」
この掛け声には、力強い掛け声が返ってきた。
「叫べ、叫べ、1、2、3、4!」
「叫べ、叫べ、1、2、3、4!」
「1、2、3、4! 2、2、3、4!」
「1、2、3、4! 2、2、3、4!」
・・・・・・
歌いながら、パイロット科の学生たちは、男女一緒にひとつの集団となってグランドを走って行く。
この後は、柔軟体操、腕立て伏せ、腹筋運動、腹這いになって地面を進むホフク前進、・・・と、続いていく。
運動メニューは毎週、毎週、厳しいものに変わっていく。
こうやって、少しばかり心に残ったホームシック気分を振り切りながら、学生たちは大人に、そして軍人になっていく。
4 士官学校の専門訓練
そして、士官学校の入学から3か月経過すると、いよいよ、マシンを使った専門訓練が始まった。ただし、最初の課程は、メディカルチェックの最終試験を兼ねている。マシンによる負荷に心身が耐えられるか、医学的にチェックされるのだ。
マシンを使った実践的な訓練は、その後、メディカルチェックに合格した者に対して、本格的に行われる。
マシンの第一番目は、「Gショック」と呼ばれるマシンである。
巨大なアームの先に取りつけられた球体の中の操縦席に座って、アームごと高速回転し、遠心力によるGの荷重に耐える訓練である。いうまでもなく、エンジンの推力による加速度の負荷に耐える訓練である。
もちろん、現代技術では慣性が中立化され、加速度の負荷を感じない仕組みが確立している。その意味では一般人には不要な訓練かもしれないが、パイロットにとってはそうは考えられていない。何が起こるか分からない戦場では、最後は自分の肉体だけが頼りという極限状態も予想されるからだ。
従って、現代でも、パイロットの最低限の能力として、慣性中立化装置の助力なしの状態で、つまり自分の体力だけで「G」、つまり加速度の負荷に耐え、宇宙船を惑星の引力を振り切って大気圏外まで上昇させるように操縦する能力は必要とされる。
「さあ、いくぞ・・・。Gショックかぁ、久しぶりだなあ・・・。」
ウルスラの番が回ってきたが、彼女はなつかしそうにしている。
やがて、アームが高速回転し始めた。
Gの影響はまず眼に出る。最初に、眼への血流が減少し、「グレイ・アウト」と呼ばれる色が見えない灰色の世界になる。色覚が失われるのだ。
続いて、「トンネル・ヴィジョン」と呼ばれる視界が生じる。視野が狭窄になり、トンネルの中を走っているように見えてしまうので、そう呼ばれている。
そして、ついには、失神状態となってしまう。
「ううう・・・、きついなあ・・・・。」
メーターは6Gまで上がって、それから減速し始めた。これでも最初の訓練なので手加減したレベルだが、普通の人なら失神している強度だ。
「ああ、終わった、終わった・・・。」
ウルスラは、何気なく、いつもの調子で鼻歌を歌いながら、席を立ってマシンから出てきた。
しかし、見ていた人たち、特にメディカル・チェックをしていた人たちが驚いて、ウルスラの方を見ている。
「どうしたんですか、みなさん。私になにか?」
ウルスラは、周りのスタッフに声をかけた。
「ウルスラさん、本当に大丈夫なんですかぁ? 気分が悪くなっていませんか?」
同じ訓練グループの学生たちがウルスラに近寄ってきた。彼らは、いつもウルスラに勉強を教えている学生たちだ。
「別に・・・。キツイことはキツイけど・・・。
Gショックは、実家の宇宙船では、私の遊び道具だったし・・。」
「え!?・・・」
マシン訓練の2番目は、「ガチャポン」と呼ばれるマシンである。
パイロットは、丸い透明な球体型の装置の中で、中心部に設置された椅子に座る。この装置は球体がランダムに3軸回転するので、パイロットは、無重力状態のなかでキリモミ状態になって回転する体験ができる。
学生は、その装置で、まず、無重力空間である宇宙空間の中で、方向感覚や上下感覚を失う状態を体験する。
もちろん、本格的な専門訓練であるBクラス・レベルでは、この状態から操縦桿一本で機体を立て直す訓練を行い、更にAクラス・レベルでは、実戦を想定してこの状態において敵機からのビーム砲の攻撃に対処する訓練を行う。
もちろん、それぞれのクラスでマシンの回転数が違い、上級になるほど厳しい環境での対応が求められる。
「では、行きますよ。
でも、ウルスラさん、大丈夫ですか。高速回転ですよ。
教官の指示でいきなりAクラス・レベルから始めるのですが・・・。」
マシンの係官が心配してくれた。マシンの訓練では、いつもウルスラだけは、他の新入生とは別の高度な課題を与えられていたからだ。
「なんでも良いよ。退屈していたし・・・。」
「え・・・!?」
装置が回転し始めた。装置の外で見ている人たちからは、ウルスラがくるくるとランダムに回転している様子が見えた。
「では、ウルスラさん。Aクラスの仮想空間に入ります。」
「オーケー、いつでもいいよ。」
体を不規則に激しく回転させられながらも、ウルスラの声はいつも通りだった。
ウルスラが被ったヘルメットの中からは、宇宙空間の星々が見える。もちろん仮想空間の映像だ。
そして、それらの星々はウルスラの体の回転に合わせて、ぐるぐると動いている。全くアトランダムに動いているように見える。この星々の動きを目で追うと、それだけで気分が悪くなってしまうほど、星々は激しい運動をしているように見える。
しかし、ウルスラは、平然としていた。いや、むしろ喜んでいた。
「ふーん。ずいぶんクルクルと動いているね。
面白い動きだなぁ~~。ウフフ・・・これは、楽しいね。
・・・・・
それで、Aクラスのモードでは、敵機はどうやって接近してくるのかな・・・。
ウフフ・・・。」
ウルスラは、ヘルメットの中から見える仮想空間の中で、近づいてくる複数の敵機の動きに神経を集中した。
「くるくる回る星々と違う運動をするヤツが敵機のはず。
・・・・
見つけた~~~! あれだ――!
1、2、3・・・全部で3機かぁ。
よ~~し。もう少しで、射程距離に入るぞ。
・・・・。」
そう言って、ウルスラは身構えた。
ウルスラは、敵機の攻撃を回避するどころか、撃墜するつもりだった。
ウルスラは、3機の敵機の接近とのタイミングを見切って、姿勢制御エンジンを少し吹かし、自分の機体の回転を、連続した攻撃に都合の良い角度に調整した。
そして、回転しながら、3機の敵機を同時に狙って、一気にビーム砲を連射した。
ピンポン、ピンポン、ピンポン。
全弾の命中を知らせ効果音が鳴り続ける。
「すごい!
あの高速回転する姿勢のままで、三機の敵機を確実に、かつ同時に撃墜するとは・・・。
やっぱり、彼女が新型戦艦の3号機のパイロットだったという噂は、本当だなあ。」
観戦していた教官たちから、ため息がもれた。
「ウルスラさん、すごいですね。
あんなにすごい回転運動なのに、きちんと敵機の接近の様子が見えているなんて!」
マシンから出てきたウルスラに、学生たちが声をかけた。
「そんなに褒めてもらうと、恥ずかしいよ。
だって、それは、うちの実家がオンボロ宇宙船だってことだから、そんなの自慢にならないよ。」
「ええ? どういうことですか?」
「要するに、貧乏だったから子供の頃におもちゃを買ってもらえなかったってことさ。
それで、赤ん坊のころから、両親は、無重力状態を利用して、私を空中に飛行させて遊んでくれたんだ。
最初は、父が投げて、母が受け取るというようなやり方だったそうだよ。
赤ん坊の私は、無重力状態の空中飛行を、ヨダレを細長がぁ~く空中に垂らすほど、喜んでいたそうだよ。」
「へえ~。ウルスラさんは宇宙船育ちだったんですか。」
「ああ、そうだよ。
空中飛行に慣れると、さらに私をクルクル、回転させて飛行させたんだって。」
「それで、無重力状態の回転に慣れているんですね。」
「そうかもしれないね。
私には当たり前すぎて、自分では気が付かなかったんだけどね。
それで、少し大きくなって、私が回転飛行に慣れて、周りの様子がちゃんと見えるようになったと分かると、両親は、私に向かって変な顔をして、回転飛行をしている私を笑わせようとしてくれたり・・・・。」
「ご両親に可愛がられていらんですね。」
「へへへ・・・・。
さらに、小学生くらいになると、両親は、『オニゴッコ』をして、遊んでくれたんだよ。」
「オニゴッコ ?」
「オニゴッコはねえ、私の回転飛行中に両親が飛んで逃げるんだ。
逃げた両親を追いかけるために、私が壁まで飛んだら、その壁に足を突いて反転して飛び、逃げた両親を追いかけるというものさ。」
「それって、慣れないと、とても難しいんじゃないですかぁ」
「そうだね。
私も、最初は失敗ばかりだったからね。
追いかけて飛ぶには、回転しながら、両親がどの方向に逃げたか見極めていないと、ダメなんだからね。
しかも、壁に足から着地して、すぐに壁を蹴って追いかけられるように、回転の角度やタイミングも調整しないといけないからね。
だから、私はこんな訓練なんか平気。
回転飛行は、ほ~んと、楽しいよ。」
学生たちにとっては恐怖の無重力空間も、ウルスラにとっては、両親の愛情に包まれた、懐かしく、楽しい思い出に満ちた空間だった。
「はあ~~。
でも、宇宙船育ちでない私たちには、そんなこと言われても、どうしたらいいのか・・・。
何か、『回転飛行』に慣れるヒントでも、教えてくださいよ。」
いつもウルスラに勉強を教えている秀才たちが、ウルスラに聞いた。
「そうだねえ・・・。
あ、そうだ。ハヤマ先生は、『天動説を信じろ』と言っていたなあ。
意味わかる?」
「つまり、動いているのは、自分ではなくて、回りの宇宙空間だと思えということでしょうか。」
「そうだね。正解。」
「そうはいっても・・・・・。」
「そんなに難しく考えないで、バーンといけばいいんだよ。バーンと。」
「バーンと、ですかぁ・・・・はぁ~。」
「だって、世の中は、何でも自分中心に動いているって考えるのは、秀才の皆さんならお得意でしょう・・・・へへへ。」
「ウルスラさん、それ皮肉ですかぁ・・・。」
「アハハハ・・・・・
まあ、このジョークは、ハヤマ先生の受け売りだけどね。
先生は、昔、士官学校でそういうジョークを飛ばして、パイロット科の学生を教えていたらしいよ。」
「タハハハ・・・・・」
さすがの秀才たちも、これには苦笑いせざるを得なかった。
5 海賊の看護婦
リリイは、海明星の白鳳女学院大学から帝都のグランドウッド医科大学看護学科に転学するために、茉莉香やウルスラとは少し遅れて、六月に帝都にやってきた。
もちろん、彼女は弁天丸の看護婦を目指している。
それで、上京するとまず弁天丸を訪れ、真っ先にミーサに挨拶に訪れた。
「ミーサ先生、いよいよ看護師を目指して、帝都で勉強することになりました。
今後とも、よろしくお願いします。」
「とうとう来たのね。あなた、ただのお嬢様じゃなかったのね。
偉いわね。
看護師は一生かけて勤める、大切なお仕事よ。ガンバリなさい。」
医務室で、白衣を着たミーサが言った
「はい。ありがとうございます。」
「それで、本当に、弁天丸に乗る気なの?」
ミーサが、すこし厳しい表情で言った。
「はい。そのつもりです。茉莉香には、私がついていてあげないと・・・。」
「フフフ・・・。
最初に言っておくけど、今まで通りの、茉莉香の友達でいたいのなら、船に乗らない方が良いわよ。
船のスタッフともなると、船長の部下、今まで通りの関係ではないわよ。」
「その辺は、ヨット部でも茉莉香船長だったので、わかっているつもりです。」
「そう。そういう覚悟があるなら、良いわよ。
それで、授業が始まるのは、九月から、かしら。」
「そうです。」
「それまでの間、二か月もあるけど、どうするの?」
そう聞きながら、ミーサの目がきらりと光ったのを、リリイは見逃した。
「はあ。特に決まった予定はありませんが・・・。」
「そう。それならば、ちょうどいい時に来たわね。
実は、今日から知り合いの御子さんで、新米医者の二人が、弁天丸に船医としての修行に来ているのよ。
あなたも、今日から弁天丸に泊まり込んで、海賊の看護婦としての修業をしなさい。
二か月間では基礎的なことしか教えられないけど、私が、みっちり、仕込んであげるわ。」
「え!?・・・私、まだ、医療的な知識・技能はこれから、勉強するんですが・・・。」
「そうね。看護学は大学できっちり勉強しなさいね。
でも、海賊の看護婦は、医療看護だけじゃないわよ、度胸もいるわよ。」
「度胸ですかぁ・・・。」
「そう、度胸よ。
宇宙海賊船弁天丸に乗るつもりでしょ、あなた。」
ミーサは、そう言って、本気の気迫で、リリイをみつめた。
6 「度胸」の修業
リリイは、その日から、ミーサ先生による、海賊の看護婦としての「度胸」をつける修業をすることになった。弁天丸に乗る以上、それが必要と言われれば、リリイも従うほかなかったからだ。
ただし、「度胸」の中身をよく聞いておかなかったのは、ウカツだったが。
「それで、先生、なにから始めるのでしょうか?」
「そうねえ。まず、医者の二人を紹介するわ。それから、三人にあたらしい弁天丸の医療施設を見てもらいましょうか。」
そう言って、ミーサは、医務室の奥にいた二人に、こちらに来るように声をかけた。
「スージー、トム。こっちへいらっしゃい。新入りを紹介するわ。」
「はい。」
「はい、ミーサ先生。」
「こちら、ミス・リリイ・ベル。
この九月からグランドウッド医科大学の看護学科に入学予定よ。
もちろん弁天丸の看護婦希望。だから、これからあなた達と一緒に、研修を受けてもらいます。よろしくね。
それから、リリイは、船長とは、高校の同級生よ。」
ミーサが、リリイを紹介した。
「初めまして。スージー・グランドウッドです。スージーと呼んでください。」
「初めまして。トム・グランドウッドです。トムと呼んでください。」
「こちらこそ、初めまして。リリイ・ベルです。リリイとお呼びください。
あの・・・・、つかぬことをお伺いしますが、ファミリーネームが同じということは、お二人のご関係は・・・。」
「アハハ・・・。大学で初めて会ったくらいの、遠い親戚ですね。」
スージーが、簡単に答えた。それは、自分たちのプライバシーには関心を持たないようにという意思を表明したようにも受け取れる答えだった。
「さあ、それでは、弁天丸の医療施設を見てもらいましょうか。
結構、最新の施設もあるのだけど、何よりもここは、普通の病院ではなく、宇宙海賊船だからね。その違いをしっかりと知って頂戴ね。」
ミーサは、なにか、意味深な表現を使ったが、その意味はまだ三人にはわからなかった。
「まず、手術室からかな。新しい弁天丸には、ちゃんと最新型の手術室もあるのよ。」
「すごいですね、先生。」
「まあね。では、手術室は無菌のクリーンルームだから、そこに入るため、全員、医療用のシャワールームできれいに体を洗い、滅菌措置をうけて、手術着に着替えてね。さあ、いくわよ。」
四人はそれぞれ、服を脱いで、個室タイプのボックスになった全自動シャワールームで、全身を洗われ、医療用の手術着に着替えた。
「私、こういう手術着を着るのは、初めてなんですよ。
なんか、すごく立派な看護師になった気分ですね。」
リリイが言った。
「そう・・・よかったわね。
まあ、なんでも、ハジメテは初めてよ。
・・・ん?
あなた、脱いだアンダースコートをまた着たの?」
「はい。下に着るものが何も無かったので・・・・。」
「ウフフフ・・・・。」
女性医師のスージーが、少し微笑んだ。
「ダメじゃないの。せっかく除菌したのに。
その手で、除菌していないアンダースコートを触ったでしょう。
問題は、それよ。
手術室では、自動ドアを足で開ける仕掛けにするくらい、手を清潔に保もつように気を使っているよ。
仕方ないわねえ、消毒液で手を洗いなさい。」
ミーサが注意した。
「はい。分かりました。気を付けます。」
リリイは、素直に答えた。
「それでは、その件について、リリイにペナルティよ。」
「ええ! ペナルティ?」
「そうよ。
まず、あなたから、患者の代わりになってもらうわよ。練習台ってわけね。」
「はあ・・・」
リリイは、修行ではそう言うこともあるのか思いと、肯いたが・・・。
「さあ、手術着もアンダースコートも全部脱いで、この台の上にあおむけに寝なさい。」
ミーサは、四人が今いる手術室横の準備室にあるベッドのような診察台を指差した。
「ええ!? ここで、ですかぁ。
男性もいらっしゃる前で・・・、ですかあ。」
「そうよ。手術着に着替えたら、もう男も女もないのよ。これは、病院も、海賊船も、医務室では同じよ。
あなた、看護師志望でしょ。よく、覚えておきなさい。」
「はあ・・・・。」
ミーサの気迫に押されて、リリイは言われたとおりに診察台に横たわった。
「さて、トム。今度は、あなたの番よ。
そこのサージカル・クリッパーで、リリイに剃毛(ていもう)処置をしなさい。
傷つけないように、丁寧に、全部ね。」
「ええ! 私がやるんですかぁ!
それに、医学的には、剃毛は必要不可欠な処置ではないのでしょう。」
医師とはいえ、まだ若いトムは、リリイの体を直視できないほど緊張していたので、 ミーサにいきなり言われて、激しく動揺した。
「あなた。
毛むくじゃらは、手術の邪魔でしょう。私はイヤよ。
だから剃るのよ。あなたも今に分かるわよ。
それに、病院では剃毛は看護師の仕事かもしれないけど、海賊船に乗りたいなら、たった一人で何でも出来るようにならないとダメよ。」
こういう時のミーサは厳しかった。
トムは、クリッパーと呼ばれる、大きめのヒゲ剃り器のような道具で作業を始めた。
「よし。一応、合格ね。
リリイ。トム。お疲れ様。」
「ハア~~。どうも。」
トムは、緊張のあまり、青い顔をして、ぐったりしていた。
「さあ、気持ちを切り替えて・・・・リフレッシュ。」
手術着を着たリリイは、持ち前の明るい性格で、背伸びをして気持ちを立て直そうとした。
「その心意気よ。さすが、オンナは強いわねぇ、リリイ。
それじゃあ、今度は交代ね。
トム。手術着を脱いで、そこにあおむけに寝なさい。」
「ええ!」
そう聞いて、今度はリリイの顔色が変わった。彼女も、やっぱりお嬢様だった。
「ええ~~。今度はボクが、患者の役ですかぁ~~~。」
トムが言った
「そうよ。だって、男は、あなた一人しかいないんですもの。」
「ハア~~~。」
トムは、今度は、とても赤い顔になった。
「さあ、リリイ。今度はあなたがトムに剃毛処置をしなさい。
ただし、今度は、サージカル・クリッパーじゃなくて、これでやるのよ。」
ミーサは、大きなジャックナイフを取り出した。よく見ると、そのナイフの刃はきれいに研(と)がれており、とても良く切れそうだった。
「ええ~~! 先生、本気ですかあ!?」
リリイは、驚いて声を上げた。
「刃物のことを『カミソリ』っていうことを知っているわよね。
それは、昔は、刃物で毛を剃っていたからよ。」
「でも、そんなジャックナイフなんて・・・。」
「海賊なんだから、有り合わせの刃物で手術をやるしかないこともあるのよ。
だって、患者の命の方が、大切でしょう。
これも、度胸をつける修業よ。」
「はあ・・・・。」
「まあ、今日は時間が無いから、刃物を研いで消毒するところからは、やらないけどね。
でも、ちゃんと、隅々まで、手とナイフで剃るのよ。剃り残しはダメよ。」
「ええ! 隅々までって、まさか~。」
リリイは、ショックで、さらに青い顔になった。
「当たり前でしょ。何、言ってるの。
ここでは、男も女もないって、さっき言ったでしょ。」
「はあぁ・・・。」
「それから、リリイ。今なら感染症の心配はないから、失敗してもかまわないわ。
安心しなさい。
チャンと出来るまで、何度でもやり直せばいいんだからね。」
ミーサは、きっぱりと断言した。
「ええ! 失敗って、なんのことですか?」
今度は、医師のトムが青い顔をして聞いたが、ミーサは答えなかった。
「はあ~い・・・。」
とにかく返事をしたものの、リリイは、まだショックから立ち直っていなかった。
「うふふふ・・・・」
そう言う三人のやり取りを、女性医師のスージーは微笑んで見守っていた。
・・・・・・ 更に『修業』は続く。
その日の夕方、弁天丸の食堂で、茉莉香は、リリイと顔を合わせた。
リリイは、疲れた様子でうつむき勝ちだった。
茉莉香は、そんなリリイに、いつもの調子で声をかけた。
「やあ、リリイ。ミーサの研修を受けているのでしょ?
調子はどう?」
「あぁ・・・・、茉莉香、・・・船長。
私、人間が変わったよ。
もう、『恥』とか、『恥じらい』とかは、私の辞書には無いわよ。」
リリイは、手を伸ばして上半身をテーブルに倒して、弱弱しく、答えた。
「ええ!? どういうこと?」
「・・・今は、とても言えないわ。そのうちね。」
リリイが答えた。
しかし、彼女はまだ知らなかった。
今日の修業は、海賊船の看護婦が備えるべき『度胸』としては、まだほんの入り口にすぎないことを・・・。
「そうだぁ。茉莉香、・・・船長。
ミーサ先生の研修が終わったら、二人で、大告白大会をやろうよ。
私も、この研修のことを茉莉香に話してあげるからぁ・・・。
それでぇ、茉莉香も私に聞いてもらいたいことが、たくさんあるでしょ。
私が聞いてあげるからさぁ・・・。
ねえ、ねえ・・・・船長。」
リリイは、そう言うと、少し元気を取り戻した。
「ええ!? ダイコクハク大会!?
ナハハ・・・・それ、何のこと?」
リリイは、弁天丸進水式の夜の茉莉香の行動を、まだ誤解していた。
さらに、茉莉香は、誤解を受けているという自覚が無く、とっさに苦笑いをしてしまったが、それを見たリリイがさらに確信を深め、こう思ったことは言うまでもない。
『茉莉香は、まだシラを切るつもりね。
もうバレてるのよ。観念しなさい。』
茉莉香は、弁天丸の進水式の夜の行動について、リリイを始め、白凰女学院ヨット部員とOG一同に、ある「疑惑」を持たれています。
その内容については、「第二十九章 弁天丸Ⅱの進水式」及び「第三十章 グリューエルの危機」をご覧下さい。