宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 茉莉香の弁天丸は、クリスティア王女の依頼で、核恒星系180-9-21星系の調査に出かけます。銀河帝国の帝都移転の候補を探すためです。
 そこは辺境の名も無い星。
 しかし、そこには、意外な秘密がありました。



第三十六章 名も無い星

1 銀河系、核恒星系180-9-21星系

 

 弁天丸は、核恒星系180-9-21星系の外延部にタッチダウンした。

「予定地点にタッチダウン完了。計器に異常なし。

 ・・・・う~む。

 それにしても、ずいぶんと辺鄙(へんぴ)なところに来たわね。」

 ルカが言った。

 

 それもそのはず、ここは核恒星系と言っても、帝都のあるレッドクリスタル星系とは、銀河の中心核を挟んで正反対の位置にあり、周辺一万光年の範囲には諸人類の居住する惑星が無いという辺境地域だった。そのため、いまだに母星に固有の名称が無く、番号で呼ばれている程の、文字通り「名も無い」辺境の星系だった。

 

 こんなところに弁天丸がやってきた目的は、以前にクリスティア王女から頼まれた調査を行うためである。

 クリスティア王女は、自分が銀河帝国の王に即位したときに行うライフワークとして、銀河帝国の帝都を移転するという大プロジェクトを考えている。

 それは、銀河帝国の帝都である惑星クリスタルスターの母星、レッドクリスタルが赤色巨星であり、天文学的には比較的寿命が短いとされているからだった。このため、銀河帝国はいずれ帝都を移転せざるを得ないと言う宿命を背負っていた。しかし、移転の候補地について議論百出状態で、移転先は長い間全く決まっていなかった。

 彼女は、自分が即位したら、この問題に決着をつけようと意気込んでいた。

 このため、以前、演習の際に偶然にチアキが立ち寄ったこの星系の可住惑星が帝都移転の候補地として適切かどうか検討するデータを集める仕事を弁天丸に頼んだ。

(エピローグ1「銀河聖王家の伝説」参照。)

 彼女が注目した理由は、ただ一つ、この星系には帝都のあるレッドクリスタル星系のような美しく壮大な星空、すなわち「銀河のネックレス」があるからだった。

 

「百目。時空ナビで、この星系の母星や惑星に関するデータを収集してね。

 それが済んだら、ハビタブルゾーンの惑星まで、ジャンプするわよ。」

 茉莉香が、てきぱきと指示をした。

 それを横から、チアキとグリューエルが見守っている。

 

「ねえ、私が言った通り、ここいらの星座は、なかなか綺麗でしょ。そして、銀河のネックレスも、ちゃんと輝いているわよ。」

 チアキが星空を指差して、言った。

「そうですわね。色鮮やかな星々が輝いていますわ。

 ロマンティックですねえ~」

 グリューエルも星空の美しさを誉めた。

 

 最初、今回の弁天丸の航海には、クリスティア王女自身が同行する予定であった。しかし、婚約発表目前で多忙という理由で同行しなかった。代わりに、クリスティア王女の勧めもあって、チアキとグリューエルが同行することになった。

 それだけでなく、看護師になるために帝都にやって来たリリイまで、弁天丸に乗り込んでいる。しかし、リリイはミーサ達のいる医務室に入ったままでブリッジには顔をださない。

 

「え~っと。

船長。この恒星系に関する精密測量データが取れました。

まず、事前の予測どおり、この星系の惑星公転面は、銀河の回転面と並行で、ほぼ一致しています。

また、惑星公転面は、核恒星系の紡錘状星雲の回転軸ともほぼ同一平面上にあります。

だから、綺麗な銀河のネックレスが見えるのは当然だよね。」

 百目が言った。

「なるほど。第一条件は、クリアしているわけね。」

 茉莉香がうなずいた。

「それで、星系の天体は、母星はスペクトルG型で、質量はやや小ぶりなタイプ。

母星をめぐる天体は、惑星と呼べるような大きなものが、全部で九個。内側の四個が岩石惑星で、外側の五個が大きいガス惑星。

 ハビタブルゾーンには、内側から三個目、四個目の惑星があります。

表面温度から見て、両方とも水が液体で存在できる星ですが、第三惑星の方が温かくて人間が住むには適しているでしょうね。

 とにかく、人類が居住するのに適した恒星系のモデルを示せといわれれば、ほとんどの人々が、この星系のようなものをイメージしますよね。」

「う~ん。そうだねえ。

 あとは、可住惑星に人類が居住できるだけの環境が整っているかってことよね。

 その第三惑星が、海明星みたいな星だと良いねえ。

 さあ~、行ってみよう。弁天丸、ジャンプ準備よ。

目標は、まず、第三惑星。ルカ、航路セット、お願い。」

 

2 第三惑星(核恒星系180-9-21星系)

 

「第三惑星近傍の通常空間に復帰しました。」

 操舵手が告げた。

「第三惑星の光学映像がでるわよ。」

 クーリエが言った。

「おお~!」

 光学映像を見たブリッジのクルーたちが声を上げた。

 モニターには、広い海と点在する大陸を備えた、典型的な可住惑星の姿が映っていた。

 

「減速して、この星の衛星軌道に入ります。」

 操舵手が告げた。

「ええ~と。海は地表面の約80%もあるね。表面温度は、平均20度。

 ・・・・

 大気は、窒素72%、酸素20%、水蒸気3%・・・特に有害な成分は無く、可住惑星としては問題ない。

・・・・

 自転速度は、銀河標準時間で26時間かな。この星の一日は、帝都より、少し長いなあ。

 ・・・・

  自転軸の傾きは、ほとんどないようだ。

でも、母星を回る軌道は海明星よりも楕円に歪んで、離心率が大きいから、これに伴う気候の変動はあるだろう。」

 衛星軌道から観測を続けた百目が、次々と、報告した。

 

「それじゃあ、地表では、四季の変化も楽しめるのかしら。」

「それは調べないとね~。緯度、経度によって気候も違うしねえ。

 いずれにせよ、正確な気候の把握には、膨大な観測データが必要よ。」

 クーリエが言った。

「そうなのかぁ。けっこう大変だなぁ。」

 茉莉香が言った。

「でも、この星は見込みがありそうね。

 大陸も結構大きくて、緑が豊かな感じだね。」

 チアキが言った。

「そうね。調べてみる価値はありそうね。」

 茉莉香が言った。

 

 ビー、ビー、ビー。

 

 その時、弁天丸の警報が鳴った。

「ええ! 船長。これは、救難信号よ。この星の地上からだわ。」

 クーリエが言った。

「ええ? この星に遭難者がいるの? 発信者を識別できるかしら。」

 茉莉香が言った。

「今、やってる。

 あ~、敵味方識別ソフトは味方だと判定しているけど、通信ソフトでは救難信号の発信者は、『UNKNOWN』と表示されたままだねえ~。

 これ、どういうことかなぁ。

 コンピューターは、未確認の発信者をなぜ味方だと判定できるのかなあ。」

 クーリエが言った。

「クーリエさん。発信者を識別するコード・データベースを通常モードから、廃船などを含む過去履歴モードの併用に切り替えてください。

 いま弁天丸には帝国軍の敵味方識別ソフトが入っていますが、これは過去履歴モードのデータも併用していますから。」

 帝国軍のスタッフが言った。

「あ~、なるほど、了解。

『カコ・リレキ』・・・と

 ・・・

 あ、一発で答えが出たわ。

 なになに~、客船サンタ・マリア号だってえ。

 救難信号の発信元は、約500年前に廃棄された船のコードと、一致したわよ。」

 クーリエが言った。

 

「なに、それ! 既に廃棄されたはずの船が、ここで生きているって、いうの?」

「フフフ・・・茉莉香ちゃん。これは、きっと、また幽霊船よ。

 あなたの大好きなヤツ。」

「からかわないでよ、クーリエ。私、そんなの好きじゃないわよ。

 そんなことより、救難信号の発進地点は、わかってるの。」

「もちろん。

 それでは、幽霊船を探しに行きますか、船長。フフフ・・・。」

「オホン。

 そもそも、遭難者の救助は、船乗りの義務です。

 みんな、ただちにシャトルの発進準備。

 それから、ミーサにも連絡して。遭難者を救助するために、地上に降りるからって。

 ・・・

 オホン。それで、みなさん。」

 そう言って、茉莉香は、再び、わざとらしい咳ばらいをした。

「誤解のないように申し上げますが、

 私は、幽霊船が苦手なのではなく、ホラー映画が苦手なだけです。

 そこのところを、お間違いなく。」

 

「ウフフフ・・・・。

 わざわざ、そんな言い訳をするなんて、茉莉香さんって、本当に可愛いですね。」

 ブリッジで話を聞いていたグリューエルが、微笑みながら言った。

「幽霊船も、ホラー映画も、たいした違いはないわよ、ねえ。

 おまけに、自分の苦手なものを堂々と告白してしまったことに、気が付かないなんてね。

 茉莉香らしいよね。」

 チアキも、微笑みながら言った。

 

 

3 海賊の看護士の修業 その2

 

 看護師志望のリリイと、医師のスージー・グランドウッドと、トム・グランドウッドの計三人は、今日もミーサによる、海賊船の医療において必要とされる「度胸」の修業を受けている。

 

「それでは、今日は、まず、戦場でのけが人の治療について、話すわよ。

 海賊船も戦闘をすることがあるから、考え方は軍の戦場の医療と同じよ。

 それでは、戦場でのけが人の治療について、最も大切なことは何でしょうか?

 リリイ。答えてみなさい。」

「はい。けがの治療に最善を尽くすことです。

 看護師はそれを全力でサポートします。」

 リリイが元気よく答えた。

「残念だけど、それは間違いね。

 スージー、答えてみなさい。」

「はい。医師としては、まず、助かる見込みのある患者と、そうでない患者を素早く見抜き、次に、見込みのある患者に治療を集中することです。」

 スージー・グランドウッドが、答えた。

「正解。さすがね。」

 

「えー!? 

先生。助かる見込みのないと判断した患者さんは、見殺しにするんですか?

 最後まで、誰に対しても、あきらめないで治療するんじゃないんですか?

 普通、そうやってますよね。うちの御爺さんが病院で亡くなった時は、心臓が止まってからでも、電気ショックとか、お医者さんはいろいろやってくれましたよ。

 父が、もうかわいそうだから止めてくれと言うまで・・・。」

 リリイが、驚いて言った。

「病院では、そうするでしょうね。あなたの言うとおりにね・・・。

 でも、私は戦場での医療について質問しているのよ。

 戦場では、けが人は次々と運び込まれてくるわよ、医師や看護師の手が足りなくなるくらいにね。

 それに、薬や医療資材のストックにも限りがあるわ。

 手当たり次第にやっていては、助かる人も助からなくなるでしょう。」

 ミーサが厳しい声で言った。

「合理的に考えるとそうかもしれません・・・・

でも、死んでいく人を目の前にして何もしないなんて、悲しすぎます。」

 リリイが、少し悲しそうに言った。

 

「リリイ。決して、何もしない訳じゃないのよ。

医師としては何もできなくても、人として、その人にしてあげられることはあるわよ。」

 ミーサが言った。

「え!? なんですかぁ。」

 リリイが聞いた。

「その人の話を聞いてあげることよ。

 死ぬ前の、意識のあるうちに、話せるうちに、家族や恋人に言い残しておきたいメッセージを聞いてあげるのよ。」

「なるほど。」

「ビデオ映像が取れれば一番良いけど、戦場じゃそれもかなわない時もあるわ。

 そういう時は、とにかく覚えておいて、あとでメモにするしかないけどね。」

「そうですね。それなら、私にもできそうです・・・。」

「そうよ。話を聞いてあげると、すーっと、安らかな気分で逝ってしまうものよ。

新米看護師は、戦場では、そういう役を受け持つことになるかもしれないから、覚えておいてね。」

「はい。」

 

「それから、戦士の一族の中には、死ぬ前に短い詩を詠む『シキタリ』のある人たちがいるわ。

 それをしっかり聞いて、記録してあげるのも、大事な仕事よ。」

「ええ!? 詩を詠むって、死ぬ前になって、そんなノンキなことをする人たちがいるんですか?」

「そうよ。でも、その人たちにとっては、死に臨んで行う、とても大切な儀式よ。

 その詩を、『ジセイノク(辞世の句)』というそうよ。

 そういうシキタリを知らないなら、やっぱり、見てもらった方が分かり易いかしら。

 それじゃあ、研修と言うことで、弁天丸のお宝映像を、特別に見せてあげるわ。」

 

 ミーサは、医務室のキーボードを操作して、モニターに映像を再生させるためのキーを押した。

「この人は、宇宙海賊船フリーフラッグ号のフリーマン船長、

 かって、銀河系にその名をとどろかせた、大物海賊よ。」

 ミーサが映像にこれから写る人物について説明した。

 

 やがて、映像が映り、音声が流れてきた。

 

 一人の男性が治療台に横たわっているが、船長服は血まみれで、左手も無く、下半身はもっと傷ついているのは明らかだった。

「いいわよ。始めてちょうだい。」

 ミーサの声が聞こえるが、姿は映っていない。

「ああ、ミーサ。こんな時に俺のために時間を取ってくれて、礼を言うよ。」

 横たわったままで。フリーマン船長が礼を言った。

「何を言ってるのよ。貴方らしくないわね。」

「ハハハ、

・・・それであと、どのくらいだ?」

少しの沈黙の後に、フリーマン船長がミーサに尋ねた。

「長くても、三分くらいかしら。」

「それだけあれば、OKだ。

 俺の辞世の句を聞いてくれ。」

「分かったわ。どうぞ。」

少しの間、沈黙が支配した。

「それでは、言うからな。ゴホン、ゴホン・・・・。

 

『ああ愉快 思いは晴れて 身は捨てて 浮世の月に かかる雲なし』

 

 どうだ、ミーサ?」

「ウフフフ・・・・。

この場に臨んで、いきなり『ああ愉快』だなんて、あなたらしいわね。」

 ミーサの声は、すこし涙声になってきた。

「ありがとうよ。

 辞世の句については、大人になった時に、オヤジからこう言われたんだよ。

 『戦士たるもの、いつ死んでもいいように、常に準備しておけ』とね。

 だから、辞世の句はいろんなヤツを考えていたんだが、いざとなったら、こんな句が思い浮かんできたんだ。

 俺には、これしかないってね・・・。」

「そうね。・・・・

 本当に、銀河系を縦横無尽に飛び回って大暴れした、あなたの人生を良くあらわした詩よね。

 これ以上素晴らしい辞世の句はないと思うわ。」

「ありがとう。・・・

 まあ、俺も『泥棒』を8年もやったが、もう充分だと思っているよ。

 ミーサにも世話になったなあ。」

「『泥棒』って、なにそれ?」

「あはは・・・。

 俺たちの戦士一族では、50歳を超えたヤツを『泥棒』っていうんだ。

 人間50年が神様から与えられた命であって、それを超えて生きているヤツは、神様から歳を盗んで生きているって、なあ。

 つまり、『泥棒』だよ。」

「あはは・・・。面白いことを言うのね。」

「まあ。実際、戦士の世界では、50歳が天命と言うのは実感として分かるね。

 おれも、死んでいった仲間が使い残した命をもらって生きてきたようなものさ。」

「あなたは、そういう『生き残った者の痛み』のわかる優しい人ですものね。」

 また、ミーサは、涙声になっている。

「ありがとう。ミーサ。

 ・・・・

 うん?・・さっきから、もう3分以上たっているじゃないか!

 この、やぶ医者めえ! 誤診だぞ、これも。」

 フリーマン船長は、そう言って笑顔を浮かべた。

「あら、まだ、そんなこと言う元気があるのねえ・・・。

 それに、そのことば。懐かしいわねえ。

 あなたには、『やぶ医者』って、何回、言われたかしら、ねえ。」

「ハハハ。

 ・・・・

 そーいやぁ、お前さんと初めて会ったのは、・・・・」

 

 

「あっ。」

 映像がそこまで再生された時、ミーサは、あわててスイッチを切ってしまった。

いつものミーサらしくなく、ついつい映像に見入ってしまったようだ。

「ウ~~、オホン。」

 ミーサは、その場を取りつくろった咳払いをして、言った。

「まあ・・・こういう訳よ。

 この人も、辞世の句を聞いてもらって、自分の人生に満足して死んでいったわよ。」

「はあ~~。すごい映像ですね。」

 三人の生徒は、映像の迫力に押しつぶされ、ぐったりしていた。

 

「なによ~。まだまだ、疲れるには早いわよ。

 今日は、これからが、修業の本番。

 次は、死体の見分け方の勉強よ。」

 気持ちを切り替えたミーサが、キリリとした表情で言った。

「ええ~!! 

 死体の何を見分けるんですか!? 死体は死体でしょ!?」

 リリイが驚いて言った。

「それなら、僕にもわかるなぁ。

 死体の中には、伝染病で死んだものなど、乗組員にも害を及ぼす恐れがある『危険な死体』があるのでしょう。

 そいつを見分けることじゃないかなあ。」

トムが言った。

「正解ね。」

 ミーサが言った。

 

「先生、まさか、これから、本物の死体が出てくるのでしょうか?

 それとも、私が、死体の身代わりになるのでしょうか?」

 リリイが、少し怖そうに聞いた。

「アハハ。安心しなさい。本物も身代わりも無いわよ。

 教材として使うのは、帝国軍付属医科大学の教材、つまり3Dの精密立体映像よ。

 それと、百年の歴史を誇る弁天丸医務室のお宝映像も、特別に見せてあげるわ。」

「はあ~。

 弁天丸の大事なお宝ですから、無理に見せて頂かなくとも・・・・。」

 珍しく、スージーが弱気なことを言った。彼女にも苦手があるらしい。

 

「スージー。

 何、ミズクサイことを言っているのよ、遠慮しなくていいわよ~♪。

 私はあなたに期待しているのよ。

 弁天丸のものだけじゃなく、私の個人的な秘蔵コレクションも特別に見せてあげるわ。

 死体の様子を診察して毒物の種類を見分ける方法を学ぶには、帝国軍にもこれ以上の教材は無いわよ。

 私の自信作よ~♪ 」

「はあ~。」

 三人のため息が聞こえた。

「では、まず、おもな生物兵器と化学兵器で死んだ死体の見分け方からね。

 こいつが、一番、基本の『危険な死体』なのよ~ ♪。

 資料映像を見て頂戴・・・・・。」

 

 いつもの調子を取り戻したミーサの講義は続く・・・。

 

 その日の夕方、リリイは、弁天丸の食堂で顔を合わせた茉莉香に言った。

「茉莉香~ぁ。私、また人間が変わったよ~。

 もう、ホラー映画なんて、怖くないよ。

 映画なんて、しょせん、フィクションなんだものね~。」

 そういう気丈なことを言いながら、リリイとほかの二人の医師は、疲れてぐったりしていた。

「がんばってるわねぇ、リリイ。

 今日も、ミーサに研修でシゴかれたんでしょう。

 それで、今日は、何の研修だったの~?」

「それは、食事の時には話したくないわ。そのうちね・・・。」

 リリイは、言葉を濁した。

「そうですよ。医師や看護婦が守るべきマナーの問題ですよ。これは・・・。」

 トム医師が言った。

「でも、船の安全に関わる事だから、特別に、船長には知っておいてもらっても、良いのじゃないかしら。

 ねえ、船長。」

 スージー医師が言った。

「ナハハハ・・・・」

 茉莉香は、危険を察知し苦笑いして、三人から離れた。

 

 

4 遭難者の捜索

 

「では、弁天丸ブリッジ、聞こえますか? シャトル、発信します。」

 シャトルの副操縦席に座った茉莉香が言った。

 もちろん、操縦席にはギルバートが座っている。

 他の乗員は、女性ではヒガン共和国軍から来たケイコ・サトー、それに医師のスージー・グランドウッド、リリイの三人だけで、あとは医師のトム・グランドウッドと弁天丸の男性クルーが四人、合計十人だった。

「了解。 先発隊のみなさん、よろしくね。

 でも、応援が欲しいと判断したら、いつでも連絡してね。」

 弁天丸では、船長代理を務めるミーサが。これに答えた。

「船長、危険を感じたら、応援を呼ぶ前に素早く引き返すことだ。

 それから、ギルバートさん、船長の警護をよろしく頼みます。」

 久しぶりに乗船しているシュニッツアーが言った。

 

 実は、茉莉香船長は、最初からミーサにも同行してほしかったのだが、ミーサはこう言って、スージーとトムの二人の医師とリリイに行かせることにした。

「まあ、何事も経験よね。三人で行っていらっしゃい。

 それから、この未開の星は湿気が多そうだから、地上に降りると、虫がたくさん出るかもしれないわね。防虫対策を忘れずにね。」

 

「虫・・・・ですか。」

「虫・・・・よねえ。」

 グリューエルとチアキは、ミーサの「虫」という言葉を聞いて、顔を見合わせた。

 この言葉を聞いて、いつもなら真っ先に行きたがるはずの、チアキとグリューエルが地上へ降りるのに消極的になったのは言うまでもない。

 

 茉莉香を乗せたシャトルは、衛星軌道上の弁天丸から発進して、救難信号の発進地点を目指して降下した。そこは、この星では高緯度地帯、つまり地理上の北極に近い位置にある山岳地帯だった。

 そして、シャトルは、目的地の上空、高度一万メートル付近で、地上の様子を探るために旋回飛行に写った。

 

「ケイコ。どうかなあ、地上の様子は?」

 茉莉香が、ケイコ・サトーに聞いた。

 ケイコ・サトーは、先ほどから、地上の様子をモニターと計器で観察している。

 彼女は、現在はヒガン共和国軍の兵士だが、子供の頃から旧宇宙マフィアの一員として可住惑星の探索に同行していたので、未知の惑星に関する調査経験が豊富だ。だから、この任務には最適な人物として茉莉香が先発隊に加えたのだった。

 

「はい、船長。救難信号の発進を確認しました。

 発進地は比較的なだらかな岩山が続いている場所です。シャトルが下りられる場所もあるでしょう。ご覧のように、地理上の北極に近い位置にあるといっても、この土地は雪や氷に覆われてはいません。

 発信元の遭難した宇宙船は、まだ、空中からは発見できませんが・・・。

 土砂の下に埋まっているのでしょうか?」

「まあ、ジャングルでなくてよかったわ。

 見たところ、危険なところではないようだし、とにかく、近くに降りてみましょう。

 着陸態勢に入ります。全員、安全ベルトを点検。」

 茉莉香が指示を出した。

「では、降ります。」

 ギルバートがそう言って、高度を下げた。

 

「無事、着陸しました。船体に異常ありません。」

 操縦席のギルバートが言った。

「外の様子は、気温8度、気圧0.8気圧ですが、湿度が30%と乾燥しているのが予想外です。

 着陸地の地盤は安定しているようです。地表に降りて大丈夫でしょう。

 湿度がかなり低い以外、いまのところ、大気成分には問題がありません。

 しかし、未知のウイルス感染を防ぐため、防護服の気密を保って外気に触れないままで、上陸することを進言します。」

 ケイコが言った。

「了解。全員、防護服着用よ。

 さあ、エアロックを経由して、外に出るわよ。」

 

 茉莉香たち先発隊一行は、シャトルの守備要員を残して、第三惑星の地上に降りた。

 そして、救難信号の発信元の方向に歩き出した。計器によると、目標は現在地から500メールほど先だという。

 

「目的地はこの先なんだから、普通のサイズの宇宙船がそこにあるなら、もう見えるはずよねえ・・・。」

 茉莉香が、進行方向の先を見ながら、言った。

「そうですねえ・・・でも、この先は岩壁になっていて、何もないようです。

 計器の示す電波の発信源は、この先なんですがねえ・・・。」

 ケイコが言った。

 

 突然、腹の底に響く地鳴りが聞こえた。

 次の瞬間、大きな地震が襲った

「うわぁ。地震だ、地面が揺れている。」

 突然の異変に、茉莉香が驚いて、声を上げた。

「船長、みんな!

 非常用の重力軽減装置のスイッチを入れて、飛び上がって下さい。

 後ろへ飛んで、ここから離れましょう。」

 ギルバートが言った。

 

「どうしたの?」

 茉莉香が、飛びあがりながら聞いた。

「見てください、あの岩壁に土煙(つちけむり)が上がっています。それに、岩のきしむ響きがします。

 前方の岩壁が崩れる兆候ではないでしょうか。」

 ギルバートも飛び上がりながら、前方の岩壁を指差して、茉莉香に答えた。

 

 一行がシャトルの着陸地点に戻ったころに、ついに岩癖が崩れ出し、大きな土煙が舞い上がった。

 やがて土煙が静まり、岩壁のあった場所を見て、一行は驚いた。

「ああ! 岩壁が崩れて、洞窟の入り口が現れました。」

 ケイコ・サトーが言った。

 

 

「ふ~ん、・・・・ な~んか、怪しいのよねえ・・・。

 さっきの地震のタイミングといい、まるで私たちに『この中に入れ』って、誘っているようなのよね~。」

 茉莉香は、自分のあごに手を当てて、考えながら言った。

「ふ~~む。船長のおっしゃるように、警戒を怠ってはなりませんよねぇ。

 ここは、隊員の代わりに、探査ロボットを差し向けることを進言します。

 岩盤が崩れた直後ですから、また崩落があるかもしれませんし・・・。」

 ギルバートは、あくまでも、船長である茉莉香の判断を促す言い方をしている。

「なるほど、隊員の安全確保も船長の仕事ですね。

 それじゃあ、ケイコ。

 シャトルに連絡して、探査ロボットを出すように言って。

 目的は、あの洞窟の探査よ。」

「承知しました。」

 ケイコ・サトーが連絡すると、シャトルの側面のハッチが開いて、長さ50センチほどの最新型探査ロボットが一体、出てきた。このロボットは、六足歩行の昆虫型である。

 ロボットは、まず、触角のようなセンサーで地面を探査しこの星の地磁気や重力を測定している。重力軽減装置による飛行の準備を整えるためだ。

 そして、昆虫型ロボットは羽を伸ばして、飛んで行った。

 

「なぜ、あのロボットは、『ムシ』の形をしているのかしら・・・。」

 飛んでいった昆虫型ロボットを見ながら、医師のスージー・グランドウッドがつぶやいた。

「そうですよねえ。意味ないですよねえ。

 だから、あれを作ったのは、ゼッタイに、男の子ですよねえ。

 男の子はムシの好きなコが多いですからね。

 そういうコは、ムシの形の方がカワイイとか、カッコイイとでも思っているんでしょうかねえ。」

 リリイが言った。

「私は、カワイイロボットを作るなら、ムシ型より、ハチュウ類型だと思うわ。

 ゼッタイよ~♪。

 ヘビとか、トカゲとか、ハチュウ類の方が、断然、カワイイもの。

 ねえ。あなたも、そう思うでしょう~~。」

 スージーは、リリイを見て笑った。

「はあ~~・・・そ、そ、そうですね。」

 リリイは、スージーの意外な一面を知って驚きながら、作り笑いをして同意した。

「・・・・・」

 もちろん、男の子であるトム・グランドウッドは、顔をしかめて沈黙している。

 

 

5 洞窟の秘密

 

「どうかしら。何か見つかったの?」

 茉莉香がきいた。

 

 茉莉香始め、惑星に上陸した一行は、一旦シャトルに戻って、ロボットによる洞窟の探査の様子をみまもることにした。

 一方、ロボットは、随時、洞窟内の映像を送って来る。その映像は、シャトルを経由して、衛星軌道上の弁天丸にも伝えられ、その内容をみんなが見守っている。

 

「まだ、なにも・・・遭難者の手掛かりは、発見できません。

 ロボットは、岩の中から現れた穴の中を進んでいるところなのですが・・・。

 中は、意外に広く、奥まで続いています。」

「ふーん。この洞窟が遭難者の棲家(すみか)になっていたのかしら。」

「まだ、そうとは断言できません。」

「でも、なんか、怪しいのよねえ。

 穴の壁面の様子からすると、自然に出来た穴とは思えないわね。

 穴の壁が、整い過ぎているもの。」

 茉莉香が、モニターの画像を見ながら、ケイコ・サトーに言った。

 

「あ、正面に巨大な黒い岩の壁があります。その先は行き止まりです。

結局、洞窟には何も無かったのでしょうか。」

「行き止まりかぁ・・・。

 でも、待って、待って。その黒い壁をアップで映してよ。

 なんか、壁の表面がツルツルしていないかしら。つまり、人工的に磨かれた壁かもしれないでしょう。」

 茉莉香が言った。

 

「なに、それ・・・。人工的に磨かれた岩の壁ですって・・・?

 そうして、そんなものがここにあるのかしら・・・。」

 弁天丸で映像を見ていたチアキは驚いて、声を上げた。

 

「・・・・はい。

 ロボットに、岩の表面に近づき映像を送るように指示します。」

 ケイコ・サトーは、ロボットの操作を続けた。

 

「ロボットからの映像が送られてきました。」

「ああ! これは、壁の表面に文字のようなものが刻まれているんじゃないかしら。」

「そうかもしれませんが、自然の造形物が人工物のように見えることは、未知の惑星探査では昔からよくあることです。

 『宇宙人が存在した痕跡を発見した』、『超古代文明の遺跡を発見した!』などという 早合点は、慎むべきです

 簡単に断言はできません。

 なによりも、この映像は壁の一部分を、一定の角度から見ているだけですから。」

 ケイコ・サトーは冷静だった。

「そうね、一部分だけを見ていても良くわからないわね。

 それじゃあ、ケイコ。

 ロボットに壁面全体を順番に隙間なく撮影させて。

 次に、その映像を一つに合成できるでしょ? 

 やってみて、お願い。」

 茉莉香が指示した。

 

 やがて、巨大な壁面全体の画像を合成した精密な立体映像が出来上がった。

 それは、明らかに文字のようなものが書かれた石碑のようだった。

 

 

「ああ!」

 その映像を見て、衛星軌道上の弁天丸にいたグリューエルが、声を上げた。

「これは、古代ルーン文字ですわ。」

「グリューエル、この文字を読めるの?」

 チアキが聞いた。

「はい。おおよその意味なら、辞書なしで分かります。」

「やっぱりすごいわね、あなた。

 それで、どんなことが書いてあるの?」

「はい。・・・・・・

 簡単に言うと、ここには、銀河聖王家の神話と良く似たことが書いてあるようです。

 つまり・・・・・。

 

『遠い、遠い昔、神々は、一族の若者に命じて、言った。

 星の海を渡り、あまねく星々に我らの国を打ち立てよと。

 その命により、我らが主は、この星を訪れた。

 そして、この星を取り囲む星々の海に、国を建てた。

 我らは、主に付き従いこの星々の海を訪れたものなり。

 国を建て役目を果たした我らは、主から永遠の安息を賜った。

 よって、我らはここに静かに眠るものなり。

 何者も、我らの眠りを妨げてはならない。

 たとえ死すとも、ここより先に入ってはならない。

 我らの永遠の眠りを妨げる者には、大いなる災いが降りかかるであろう。』

 

 だいたい、こんなことが書いてあります。」

「な~んだ。それじゃぁ、これは、墓碑じゃないの。

 ずいぶん勿体つけた文章ねえ。

 ご丁寧に、墓泥棒への警告まで書いてあるわよ。」

「なるほど。そういうことですかぁ。

 チアキさんは、よくご存知ですね。」

「まあね。海賊もお宝探しはするからね。

 こんな呪いの文言なんて、虚仮脅し(コケオドシ)だって、オヤジはよく言っていたわ。」

 

 結局、茉莉香は遭難者を発見できなかったため、その日の調査を打ち切ることにして、シャトルを衛星軌道上の弁天丸に帰還させた。

 惑星探査という弁天丸の調査目的からみて、洞窟の奥の石碑をさらに調査することまで必要か、王宮と相談する必要があると判断したからだ。

 なぜなら、シュニッツアーから、洞窟の奥の調査は危険を伴うので、茉莉香やチアキ、グリューエルらがわざわざ自分で行う必要はないという意見が寄せられていたからだ。

 茉莉香も「自分だけが洞窟の調査に行く」と言うと、いつものようにグリューエルが勝手について来る結果になることを恐れて、慎重にならざるを得なかった。

 

 

「私だけで行くと言ったら、グリューエルは一緒に行きたがるだろうなあ。

 あそこには虫がいないことが分かったからねえ。

 でも、グリューエルは銀河聖王家の御姫様になったのだから、以前のようにはいかないわ・・・・。

 なにより、わたしも、もう大人の船長なんだから、乗員の安全を第一に考えて、無謀な 冒険は慎むような、冷静な判断をすべきだよねえ・・・・。

 もともとは、遭難者の救助のために、あそこに行っただけなんだし・・・。

 やっぱり今回の調査では、あれをこれ以上調査するのは、やめるべきよね。」

 その日の夜、着替えてベッドに入った茉莉香は、船長としてそう考えていた。

 

 そこへ突然、手元の携帯通信機が着信音を鳴らし始めた。

 端末に表示された発進者を見ると、ギルバート・モーガンの名前が表示されている。

 茉莉香は慌てて電話を取った。

「はい。茉莉香です。」

「モーガンです。お休みのところ、しかも夜遅くにすみません。

 ちょっと茉莉香さんに大事なお話があるのですが、今から船長室にお邪魔してもよろしいでしょうか?」

「ええ!! 私の部屋にですかぁ!?

 今からですかぁ!?」

 茉莉香は驚いて、緊張して、顔だけでなく体中がカッとなって火照(ほて)ってしまった。

「ええ・・・・、着替えますから、今から15分後に来てください。」

 それだけ言うと、茉莉香は大慌てで着替え始めた。

 

 着替えの間じゅう、茉莉香の頭にはこんな言葉が浮かんでは消え、しだいに緊張が高まって行った。

『私の部屋に・・・。』

『彼が・・・・』

『こんな夜遅くに・・・・。』

『大事な話・・・・・』

『二人だけで会う・・・・』

 そして、着替えが終わり、カガミの前で髪をとかし始めると、茉莉香の緊張はさらに高まった。

 やがて、茉莉香はベッドルームから船長室に移動して、彼が来るのを待った。

 『どくん、どくん・・・』と心臓が高鳴り、どんどん緊張が高まっていく。

 

「コン、コン。

 ギルバートです。入ってよろしいですか?」

 ノックの音とともに彼の声が聞こえた。

 茉莉香の緊張は、最高潮に達した。

「は、は、はい。茉莉香です。どうぞ。」

 

「失礼します。」

 そう言って、ギルバートが入ってきた。

 

 しかし、彼の後ろから、二人のクルーが続いて入ってくるのを見つけて、茉莉香は思わず声を出しそうになった。

『なあ~んだ。貴方たちも一緒なんだったの~。』と・・・。

 

 一緒に入ってきた二人とは、帝国軍人のジョージ・ワトソン少尉とビル・グリーン少尉だった。

 茉莉香は、自分が何か大きな勘違いをしていたことに気付いたが、それを三人に気付かれないよう、表情と声のトーンを取り繕った。

「なんでしょう、お話とは・・・。」

「実は、こちらのジョージとビルの二人が深夜の当直勤務中に、不審な通信をキャッチしました。」

「ええ!? 不審な通信ですかぁ?」

 茉莉香は、船長としての普段の自分が、急速に復活してくるのを感じた。

「はい。

 その通信を解析して、音声を再現すると、会話が聞こえたのです。

 それで二人が私に相談に来たので、私は船長に報告に来たわけです。」

 そう言って、ギルバートは手元の装置から録音を再生して、次のような会話を茉莉香に聞かせた。

 

 

「ああ、サトシ。聞こえてる?」

「OK。聞こえてる。」

「はぁ~・・・。

 ねえ、アンタたちは、いったい何をやっているのよ。

 私に『コロニーや神殿の存在をキャプテン茉莉香に気付かれないように協力しろ』と言っておきながら、自分からわざわざ救難信号を出して、弁天丸を『神殿』に誘導するなんて。

 私をバカにしているの?」

「いや、ケイコ。そんなに怒らないで・・・。

 ボクの話をきいてよ。」

「オマケに、救難信号の発信者が、よりによって、サンタ・マリア号だってえ~。

 私は、救難信号が出たことよりも、そっちの方に驚いたわよ。

 アンタたち、なぜ、あの名前を使ったの?」

「いやあ、あの信号は我々が発したものじゃないんだよ。

 僕もあの信号をキャッチして、びっくり仰天さ。」

「何、他人事にみたいに、言っているのよ。

 この星にはアンタたちしか、いないんでしょ?」

「そりゃ、そのはずなんだけど・・・。」

「あのねえ~。

 私はねえ~、あの『神殿』は、お宝探しに行って行方不明になった者が大勢いて、化け物が出るという噂まである、とても危険なところだから、茉莉香さんたちが近づかない方が良いと思って、協力したのよ。

 でも、私が協力したことがバレたら、やっと乗せてもらった弁天丸から追い出されてしまうかもしれないわよ。

 そうなったら、どうしてくれるのよ。」

「そんなことを言ったって・・・・」

「しっかりしてよね、サトシ。

 もうじき、エマがあなたの子供を産むんでしょ!

 あなたも父親になるんだから、しっかりしてよね。」

「それとこれとは・・・・。」

「とにかく、もう協力はお断りよ。

 長老に伝えておいて、ね。

 私の話、聞いている? サトシ。

 明日、キャプテン茉莉香が神殿へ調査に行くと言えば、私も行くけど、もうあんたたちの味方じゃないからね。

 もう知らないわよ。」

「あ、あ、ケイコ、待って、待って。

 通信を切らないで・・・・・」

 

 

「・・・という訳です。

 会話の女の子は、ケイコ・サトーに間違いありませんね。」

 ギルバートが、少し深刻な表情で言った。

「そうですね。彼女に話を聞かないといけませんね。」

「では、今から彼女を呼びましょうか。尋問の場所は、ブリッジにしますか?」

「いえ。ここで良いわ。船長室に来てほしいと言ってください。」

「了解しました。ジェーン隊長たちに連れて来てもらいましょう。

 では、ジョージとビルは、持ち場に戻ってください。」

「あっ、待って、待って。尋問と言えば・・・・。

 ジョージとビル。今回はお手柄でしたが、私、例の『マスコット』の件、忘れていませんからね。

 あなた達も、後で、じっくりと『尋問』します。」

 茉莉香は、ジンモンという言葉を強調して言い、二人をにらみつけた。

「え~~~!」

 二人は小さな声を上げて、顔を見合わせた。

 

 

 




  話の中に出て来る、フリーマン船長の辞世の句は、「忠臣蔵」のヒーロー、元浅野家家老の大石内蔵助(おおいし・くらのすけ)の辞世の句を海賊風にアレンジしたものです。参考にした彼の辞世の句は、次の通りです。

「あら楽(たの)し 思ひは晴るる 身は捨つる 浮世の月に かかる雲なし」

 なお、宇宙船「サンタ・マリア号」の名前は、エピローグ2「マリア王女の伝説」を参照して下さい。
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