宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 ケイコ・サトーの尋問が始まりますが、弁天丸の女性乗務員達はケイコのことを心配して、談話室で話し始めます。
 そして、ケイコの身の上が次第に明らかになります。

 翌日、この星のコロニーに行くため、いざ上陸準備と言うときに、謎の艦隊が現れて、弁天丸Ⅱを攻撃してきます。
 この星に隠された「お宝」をめぐって、争いが始まります。


第三十七章 新たな敵

1 尋問

 

 間もなく、警備隊の女性たちに連れられて、ケイコ・サトーが船長室に現れた。

「・・・・・・クスン、クスン・・・。」

 ケイコは、泣きべそをかいていた。

録音では威勢の良い話しぶりをしていたが、今は全く違っていた。

「ケイコ。話は聞いたわよ。

 あの星には、アメージーグ族の人たちが住んでいたのね。」

 茉莉香が静かに言った。

 

もちろん「アメージーグ族」とは、宇宙マフィア一族が自ら定めた呼称であるが、和平以後は『宇宙マフィア』という言葉は銀河帝国内でも使わないものとされ、こう呼ばれていた。

 

「私とサトシの話は、全部、盗聴されていたのですね。」

「そうよ。さっき聞いたわ。」

「は~ぁ。そのとおりです。あの星には、一族のコロニーがあります。」

 ・・・・ほんとにごめんなさい。・・・ウウウ・・・・。」

 ケイコは、泣きじゃくり始めた

「そんなに泣かなくてもいいのよ・・・。訳を話してよ。」

 茉莉香が言った。

「あの神殿は危険です。正体不明です。

 私達が『神殿』と呼んでいる、あの古代の遺跡のような洞窟中にお宝を探そうとして入っていった人は、ほとんど行方不明になりました。運よく帰ってきた人は、お化けを見たと言って怯えていました。

私は、茉莉香さんたちがあの神殿に近づかない方が良いと思ったので、協力したのですが、それをあの人たちは・・・ウウウ・・・。

結局、茉莉香さんのお仕事を邪魔して、裏切る結果になってしまって・・・。

 ・・・・私、どんな罰でもうけます。・・・クスン。」

「あの星は、あなた達にとって、特別な星なの?」

「はい。あの星は、私たち一族が、聖地として、大切にしてきた星です。」

「神殿があるところだから、聖地にしたの・・・?」

「いいえ。

ずっと昔、マリア様がこの星を訪れた時に、あの神殿で啓示を受けたと言われています。

 マリア様は、『アメージーグ族は、ヒガンの地に栄えよ。』という声を聞いたと伝えられています。

そして、マリア様のその言葉に導かれて、一族はあの暗黒星雲の向こう側にある球状星団の中に理想的な可住惑星を発見し、惑星ライセと名付けて開発を行ったのです。

そうでなければ、あんな遠いところに可住惑星を探しに行こうなんて、誰も考えなかったでしょう。」

「そうね。私も実際に行ってみて分かったけど、ヒガン星団は本当に遠いところよね。

でも、え~と、そのマリア様って・・・誰?」

 

 コン、コン。

その時、ドアをノックする音が聞こえた。

「茉莉香。入っていいかしら。」

 チアキの声が聞こえた。

「ええ!? チアキちゃん・・・今ちょっと・・・。」

 しかし、茉莉香の返事が終わらないうちに、チアキがドアを開けて入ってきた。

 その後ろから、グリューエルが続き、さらに弁天丸Ⅱの女性乗務員たちがその後ろから部屋の中を覗き込んでいる。

「どうしたの? チアキちゃん。

今、ケイコを尋問中だから、ここは船長である私に任せて部屋に戻ってほしいんだけど」

 茉莉香が言った。

「どうしたも、こうしたもないわよ。

 ケイコが大泣きしながら警備隊に連れて行かれたって、『女子寮』では大騒ぎよ。

 ケイコはこれからどうなるのかって、みんな心配しているわ。」

 チアキが言った。

 

「女子寮」とは、弁天丸Ⅱの船室のうち女子の部屋が集まっている一角のことをいう。女性乗務員自らそう呼んでいる。弁天丸Ⅱに乗船して以来、毎日毎晩、楽しい交流があり、女子乗務員はとても仲が良くなって、「ここは女子寮みたいね~♪」と誰かが言い始めたのが始まりだという。

 

「連れて行かれた事情は、もうみんなにバレちゃったのかなぁ・・・・ナハハ。」

「マルワカリよ。あれだけ騒いでいれば・・・ね。」

「とにかく、今は尋問中だからみんなが入って来てはダメよ。」

「そ、そうですね。

 みなさん、ここは私たちに任せて、一旦、お部屋へお帰り下さい。」

 グリューエルは、他の女性乗務員にそう言いながら、船長室のドアを閉めてしまった。もちろん、その結果として、チアキとグリューエルが船長室の中に残っている。

「あの~。私は、チアキちゃんとグリューエルにも自分の部屋に戻って欲しいと言ったのだけど・・・ナハハハ」

 茉莉香が、苦笑しながら言った。

「それなんだけど、茉莉香。ちょっと気になることがあってね。

ケイコの言っていた『神殿』の話を良く聞かせてもらおうと思って。」

「そうですわ。なにより、私たちは、役に立ちますわ。

石碑の文字の意味だって、解読できましたでしょう。」

 二人とも、いつもの調子で答えた。もちろん、茉莉香の言うことを聞いて船長室を出るような雰囲気は、まったく感じられなかった。

「それで、茉莉香。さっそく、尋問の続きを始めなさいよ。」

 それどころか、チアキは茉莉香に尋問続行の催促まで始めた。

 

「ナハハハ・・・。これ以上、言ってもダメか~なぁ。仕方がないわねえ・・・。

 ねえ、ケイコ。・・・マリア様って、誰?どんな人?」

「あの~・・・・」

 ケイコはそう言いながら、横目でチアキの方を見た。

「茉莉香。

その人は、まだ「宇宙マフィア」と呼ばれていた時代のアメージーグ族の族長の奥様よ。

 彼らが乗っていた船の名前が、サンタマリア号よ。」

「ええ!? なぜチアキちゃんがそんなことを知っているの?」

「茉莉香。今はそれだけで十分よ。ケイコもわかっているわね。」

 チアキは茉莉香の質問に答えなかった。

そればかりか、ケイコがそのことについてこれ以上詳しい話をするのを禁じるような意味に受け取れることまで言った。

 

「・・・・・!」

「・・・・・!」

 チアキのこの返答を聞いて、ギルバートと警備隊長のジェーンは、急に真剣な表情になって、黙って顔を見合わせた。

チアキは、「王室機密」という言葉こそ使わなかったが、そのような、危険な問題に触れないように促したと、二人は理解したからだ。

 実は、それまでギルバートとジェーンの二人は、この事態を二人の姫様が好奇心とワガママで船長の尋問の場に割り込んできたものと考えて、二人の姫様を諌(いさ)める言葉をかけるタイミングを見計らっていたのだ。

つまり、「この場は、お友達同士のおしゃべりではなく、『船長の警察権限及び懲戒権限』という宇宙航海法でも認められた船長権限を行使するものであり、姫様たちが船長ととても親しいご友人であっても、相応の『ケジメ』が必要です。」と言おうとしていたのだった。

 

「う~ん。なんか難しい問題があるのね。

それじゃあ、あの『神殿』について、あなたが知っていることを話してよ。」

 茉莉香は、さらり話題を切り替えて、次の質問を言った。

「はい。

 エマの実家がこの星のコロニーにあるんです。

エマのところに婿入りしたサトシが、彼の実家のお母さんに近況を知らせる手紙を送ってきたんですが、その中に神殿のことが書いてあったそうです。

私はサトシの実家の隣の家に住んでいて、それをサトシのお母さんから聞いた訳でして、『神殿』に実際に私が言ったことはありません。」

「ふーん。それで。」

「はい。

昔、偶然に洞窟を発見して、人工のようなトンネルが奥まで続いていることを知ってびっくりしたそうです。

それで、『古代遺跡じゃないか』と、墓泥棒と言うか、お宝探しが始まったんです。でも、さきほど言ったように、入って行ったまま帰ってこないという、行方不明者がいっぱい出たそうです。

行方不明者の捜索隊も派遣したそうですが、彼らも行方不明になったり、化け物が出たと怯えて帰ってきたりしたそうです。

結局、何のお宝も見つからず、いまだに真相は分かっていないそうです。」

「では、この星には昔から一族の人がコロニーをつくっていたの?」

「はい、昔は、かなり人口が多くて、有力なコロニーだったそうです。

探し求めていた『安住の地』はここだと皆が信じていたくらい有力だったそうです。」

「そうなの?」

「はい。でも、マリア様がこの星にいらした時に、声に導かれて洞窟に行かれ、例のお告げを聞いたそうです。

そう言うこともあって、あの洞窟は『神殿』と言われているそうです。」

「ふーん。そうなんだぁ。

 それで、あなたは彼らの指示で何をしていたの?」

「こちらの調査の様子を知らせることと、後は指示するという話だったのですが・・・。

 でも、いきなり、救難信号が出て、茉莉香さんについて行ったら、洞窟が現れて・・・。

 それで、話が違うとサトシに怒っていたんです。

だから、具体的なことは、まだ何もしていません。」

 ケイコ・サトーが消え入りそうに小さな声で言った。

「もういいんじゃないかなあ。茉莉香。

 とりあえず、処分保留、要監視というところで、良いんじゃないかなあ。

『スパイ』の罪で囚人として拘禁するのは、かわいそうだよ。やめようよ。

 なにせ、未開惑星調査には欠かせない人材なのだし、茉莉香や私たちのことを大切に思ってくれていて、悪意が無かったのもわかっているし・・・。」

 チアキが言った。

「そうですわ。

今日のケイコさんの行動には、特別、不審なところは無かったと思いました。

 忠実に船長の指示どおり行動していたと思いますよ。」

 グリューエルも弁護した。

「う・・・・ん。

でも・・・それじゃあ、船長としては、ちょっと甘すぎる気もするんだけどねえ・・・・。」

茉莉香は、チアキたちの要望には直ちに応じなかった。

 

その時、船長室の電話が鳴った。

「はい。茉莉香です。」

 茉莉香が電話に出た。

「船長、あの星に住んでいるという、旧宇宙マフィアの族長から通信要請が入っています。

 至急、船長と話したいそうです。」

 ブリッジで当直していたジョージ・ワトソン少尉が言った。

「分かりました。そちらで話しましょう。

これから急いで、ブリッジに行きます。」

 茉莉香は、振り返ってジェーン隊長に、船長としての方針を伝えた。

「向こうから先に動いてきましたね。

ケイコの処分は、電話の内容も聞いて、最終的に判断しましょう。

それまでの間、ケイコは処分保留のまま、自室で拘束とします。」

「承知しました。」

 

 

2 コロニーへの招待

 

「初めまして。

私は、私たちがサンタマリア星と呼んでおります、この星のアメージーグ族のコロニーで長老を勤めております、ステファンと申します。

夜遅くの通信要請に応じて頂きまして、キャプテンにお礼を申し上げます。」

「初めまして。

弁天丸船長、加藤茉莉香です。

夜遅い時間であることは、お気遣いなく。船長の務めですから・・・。

それで、御用件は?」

「どうか、私たちからお願いを聖王家の皆様にお伝えください。

 もちろん、船長の調査には協力させて頂きます。この星の資源や気候など、私たちが知っている限りの情報はご提供いたします。

ご希望なら、コロニーにもお越しください。どこでも、隠さずにご覧に入れます。

神殿のことをお聞きになっていると思いますが、入り口まではご案内します。

それ以上は、皆様の身の安全を保障できませんので、おやめください。」

「それで、皆さんのお願いとは、なんでしょう?」

「はい。

どうか、この星を開発するのは止めてください。このまま辺境の星として、誰にも知られずに、私たちが静かに暮らせるようにしてください。

そういう私たちの願いを、女王陛下にお伝えください。」

「お言葉ですが、その理由をお聞かせください。

 この星のコロニーは、かなり衰退しているという話も聞いているのですが。」

「私たちは、神殿を人に知られないように守って、静かに暮らしたいだけなのです。

だから、銀河帝国との和平条約に反して、私たちのコロニーの存在を公表しなかったのです。コロニーの存在を公表すると、神殿のことも知られる結果になることを恐れたからです。」

「失礼ですが、それだけでは、納得しかねます。

 あなたは、皆さんが神殿と呼ぶ遺跡について、何か私たちが知らないことをご存じなのですか?」

「いえ、何も知りません。

しかし、確かに、私たちの言葉をすぐに信じろと言われても、難しいでしょうね。

 ではこうしましょう。

今日はもう遅いですから、明日、コロニーにお越しください。

 直接にお会いして、さらにお話ししましょう。」

「分かりました。明日ですね。」

「はい。コロニーの位置は、この通信から探知して把握されていると思いますが、明朝、改めて誘導電波で御案内しましょう。

 あっと、それからコロニーにお越しいただくに当たって、お願いがあります。

 どうか、ケイコ・サトーを罰しないでやってください。あの子には気の毒なことをしました。

そして彼女もコロニーに連れてきてやってください。あの子はきっと、船長のお役に立つと思います。」

「う~~ん。ケイコの件は、考えておきます。

 それでは、明日、午前八時、通信再会でよろしいでしょうか。」

「承知しました。」

 

 通信が終わってから、茉莉香はブリッジのクルーに言った。

「さあ~。明日は早起きして、上陸準備よ。

この星のコロニーに行くわよ。」

 

 

3 ガールズ・トーク

 

 弁天丸の女性乗務員たちは、船長室から女子寮に戻ってきても、ケイコのことが心配だった。それで、自分の部屋に戻って寝る気にもならず、女子寮の「談話室」に集まって船長の裁きが決まるのを持っていた。

彼女たちは、しばらくは無言で待っていたが、しだいにいつものように話し始めた。

 

「大丈夫かしら…ケイコ。」

「あの子は、悪い子じゃないわよ。それに、キャプテン茉莉香の熱狂的なファンよ。

 だから、茉莉香さんを本当に裏切ったりはしないはずよ。」

「そうよね。」

「それにしても、ケイコはどんなことを地上の人と話していたのかしら?」

「それは、私たちも知りたいよね。」

「通信をキャッチしたのは、ジョージとビルでしょう。よくわかったわねえ・・・。」

「まさか、アイツラ、女の子の電話をずっと盗聴していんじゃないでしょうねぇ。」

「いやだ~。アイツラ、ヘンタイよ。チカンよ。」

「ホント、サイテーね。」

「よし。アイツラを『尋問』して、話を聞こう。」

「アイツラ、教えてくれるかなあ?」

「大丈夫よ。私たちの言うことをきかないなら、『いつも、いつも、女の子の電話を盗聴していた』と、帝国軍じゅうに言いふらすって、脅せばいいのよ。」

「アハハハ・・・。そうなれば、『アブナイ君』決定ね。

女性兵士には口(くち)をきいてもらえなくなるわね。」

「それに、例の、キャプテン茉莉香のマスコット事件も未決着のままなんでしょ。

アイツラの方が、よっぽど悪いわよ。」

「よし。私が電話して、呼び出してみる。」

「脅すの?」

「まかせて。もっといい方法があるのよ。」

 

 そう言って、帝国軍兵士のブリジットは、ブリッジに連絡を取った。

「ジョージさん、いらっしゃいますか。」

「はい。ジョージです。」

「あのう、実はお話が~・・・・。」

「なんでしょうか?」

「それは、電話ではちょっと~・・・・。

そうかと言って、こんな夜に~、私の部屋とか、あなたの部屋とかで、あなたと~、二人だけで~、話していると誤解されるし~・・・・。

こっちの談話室にきていただけると~ その~・・・♪。」

ブリジットは、恥ずかしそうに、最後は消え入りそうに小さな声で言った。

「・・・承知しました。」

「あ、ありがとうございます。」

ブリジットは、うれしそうな声で電話を切ると、こう言った。

「掛かったわ。魚が釣れたわよ。」 

「キャハハハ・・・。すごいね、ブリジットは。」

「あんな、可愛い声、何処から出るの?」

「でも、ちょっとかわいそうかな。ダマしたことになるのよねえ。」

「甘いわねえ。

私は、談話室で二人だけで話したいなんて、一言も言っていないわよ。

 そう思ったとしたら、それは、アイツの妄想よ。」

「なるほどねえ。」

「ほら、そろそろアイツが来るから、みんな隠れて。

アイツが談話室の中に入って、自分でドアを閉めるまでは、・・・ね」

 

 コン、コン。

ノックの音が聞こえた。

「はい。」

 ブリジットは、恥ずかしそうな声で、答えた。

「ジョージです。」

「どうぞ。」

「失礼します」

 ジョージ少尉は、ドアを開けるとブリジットが一人で座っていたので、緊張して部屋の中に入ってきた。そして、後ろ手で、ドアを閉めた。

「いらっしゃい。」

その時、入ってきた彼に対して、ドアの後ろに隠れていた女性乗務員たちから声がかかった。

「あっ!」

 

 こうして、ジョージ少尉は、用意周到な女性クルーたちに尋問され、船長室でのやり取りをすべて話し、さらにブリッジから録音を持って来て、女性クルーに聞かせてしまった。

 もちろん、女性乗務員にとって「用済み」となったジョージは、「女子寮は男子禁制よ」とばかりに、談話室からすぐに追い出されてしまったのは言うまでもない。

 

「なるほどねえ・・・外部と通じていたことは明らかね。

 でも、まだ、たいしたことはしていないわね。」

「どうなるのかなあ・・・・ケイコは船を降ろされてしまうのかなあ。」

「あのコ、『茉莉香さんの船に乗れた!』って、毎日、大喜びだったのにねえ・・・。」

「・・・・・・」

 厳しい現実を想像して、みんな、沈黙してしまった。

 

 コン、コン。

 その時、ドアをノックする音が聞こえた。

「わたくしです。 入ってよろしいでしょうか。」

「え!! グリューエル様でいらっしゃいますか!?」

「はい。」

「どうぞ、お入りください。」

 

 グリューエルが談話室に入ってきた。続いて、チアキも入ってきた。

 

「あのー、みなさまにその後の様子をお知らせしようと思って、まいりました。」

 グリューエルが、いつものように、だれに対しても丁寧な言葉づかいで言った。

「あの~、わざわざ、姫様にそんなことをしていただかなくとも・・・。」

「いえ、『ここは私たちにおまかせ下さい』と申し上げた以上、その結果をお話しする責任があると存じまして・・・・。」

「それにね、私からもみんなにお願いがあるのよ・・・。」

 チアキがグリューエルの話に付け加えた。

「それで、あれから・・・・・」 

・・・・・

 グリューエルは船長室でのやりとりや、その後にあの星のコロニーから通信が入ったことを簡単に話した。

 

「ええ! それじゃあ、明日、彼らのコロニーに行くのですかぁ!?」

「ええ、ケイコさんのことは、そこで伺った話も踏まえて決めると、船長は仰ってました。」

「う~~ん。」

「・・・・・」

 また、みんな沈黙してしまった。

 現実はますます厳しい方向に展開していくと思われたからだ。例えば、ケイコはこの星で船を降ろされることもあると思われた。

それでも、かなり寛大な処分なのだが・・・。

 

「それで、チアキ様のお話とは・・・・。」

 沈黙に耐えかねて雰囲気を変えたいと思った、帝国軍兵士のブリジットが聞いた。

 

「あのねえ、救難信号を発信していた大昔の船、『サンタマリア号』とか、その船に乗っていたマリアという名前の女性のことなんだけど・・・。

 この航海では、これからもいろいろな場面でこの名前を耳にするかもしれないけど、積極的な関心を持たないでほしいの。

 もちろん、この名前を聞いたことも、他言無用よ。」

チアキがすこし重苦しい声で、言った。

「ええ!? 本当ですかぁ。」

「ええ、私からの重要なお願いよ。

だから、誰に聞かれても、例えば、軍の上官に聞かれても、答える必要はないわ。

上官から答えない理由を聞かれたら、私の名前を出していいわ。

お願いね。」

 

 予想外のチアキの厳しい話に、談話室の女性乗務員たちは凍りついてしまった。

チアキは、「重要なお願い」という言葉を使ったが、聞いている女性乗務員たちには『ハイレベルの軍事機密、あるいは王室機密』の存在を窺わせる事態だとすぐわかったからだ。

なぜならば、チアキは、王室では女王の第二王女であり、帝国軍では帝国軍上級大将、帝国軍第一艦隊司令官という軍のナンバーツーの地位にあるからだ。だから、チアキの名前を出せば、一般軍人は従わざるをえない。

それどころか、この航海に二人も姫様が同乗してきたのは、船長のお友達として「退屈しのぎ」や「遊び半分」のためではないと、得体のしれない恐怖を感じ始めた者もいた。

 だから、これでは、ケイコの命が危ないかもしれないと皆がますます心配した。 

その結果、部屋の中はますます重苦しい雰囲気に気になってしまった。

 

「はあぁ・・・気分を変えたかったのですが。

さらに女子寮らしくない雰囲気になってしまいましたねえ。・・・

あの~ もっと違う話をしていいでしょうか?」

帝国軍兵士のブリジットが、気力を振り絞って聞いた。

 

「私たちは、かまいませんけど」

 グリューエルが答えた。

彼女も、今夜のうちに、皆の気分をすこしでも明るくさせたいと思ったからだ。

 

「それで、姫様たちに質問してもよろしいでしょうか。」

「なあに~? 楽しい話題なら、歓迎よ。」

 チアキが答えた。

「あの~。

姫様たちは、以前からケイコとお知り合いだったのですよね?」

「そうよ。ヒガン遠征で知り合ったのよ。」

「それで、ケイコの話を聞いていると、サトシという男の子と結構、親しい関係だったようなのですが、結局、サトシは、エマという女の子と結婚したんですよね。

 どういうワケでそうなったか、ご存じですか?」

「う~ん。興味深い話だけど、私たちは詳しい話は知らないわ。

 確かに、最初に彼女を紹介された時には、サトシとペアの形で紹介されたわ。

結構いい雰囲気だったよね、あの二人。・・・ねえ、グリューエル。」

 チアキは、グリューエルに同意を求めた。

「そうですね。幼馴染(おさななじみ)のあの二人は、お似合いのカップルだと思いました。」

「ええ! 二人は、幼馴染だったのですか~! 」

「う~ん・・・なんか、やっかいなことがあったのかなあ。」

 その場にいた女性たちが一斉に考え込んだ。

 

コン、コン。

また、誰かが談話室のドアをノックする音が聞こえた。

「茉莉香です。入ってよろしいですか。」

 その声を聞いて、談話室の女性乗務員は驚き、緊張した。

『この時間に、このタイミングで、船長が何の用でこの部屋に来るのだろうかと・・・。』

 

「どうぞ。」

 チアキが、すこし緊張した声で、返事をした。

 ドアを開けて、茉莉香が入ってきた。続いて、ケイコ・サトーが警備隊の女性に伴われて入ってきた。

「どうしたの?船長。

 ケイコは、お咎(とが)め、ナシという訳でもないんでしょ。」

 チアキが言った。

「それはそうなんだけど・・・。

 とにかく、明日の朝まで自室に拘束よ。

だから、みんなも、ケイコと接触禁止。面会はもちろん、電話もダメよ。

警備隊の人たちがきちんと監視しているから、協力してね。

それを言いにきたのよ。

それと、ケイコから一言。」

「あのー。本当に、さきほどはすみませんでした。

 反省しています。

 とくに、夜中に騒いで女子寮の皆さんを起こしてしまい、申し訳ありませんでした。」

ケイコ・サトーが、立ったままで、少し悲しそうに詫びを言って、頭を下げた。

「ということで・・・。

 ケイコが、謹慎前に、皆さんに、一言、お詫びが言いたいと言うので、こちらに寄らせてもらいました。」

 茉莉香がそう言って、ケイコを連れて部屋を出ようとしたとき、チアキがつぶやいた。

 

「それにしても、てっきり、ケイコはサトシと一緒になると思っていたんだけどねぇ。

 エマって子は、気の弱そうな、おとなしい子だと思っていたんだけどねぇ・・。

まさか、あんなことになっていたとは・・・。びっくりよ、ねえ。」

 その言葉に、ケイコが答えて、ポツリとつぶやいた。

「はぁ~・・・。

それがぁ・・・いわゆる、一発逆転というヤツでして・・・・。」

 そう言った時のケイコは、悪夢を思いだしたような、ゆがんだ表情をしていた。

 

「うわあ、あ、あ・・・・・!」

「ええ、え、え・・・・・・!」

「そんなぁ、あ、あ・・・・!」

 

 ケイコの話を聞いて、その場にいた女性たちから、いっせいに大きな声が上がった。ケイコ、エマ、サトシの三人の間に繰り広げられたであろう『修羅場』を想像したからだ。

 しかし、その場にいた女性たちの中で、グリューエルが一人だけ、納得がいかないようなキョトンとした表情で座っていた。

 

「あの~、『一発逆転』というのは、どういうお話でしょうか・・・・」

 

 グリューエルがそう問いかけた時に、談話室にいる彼女以外の女子全員がいっせいにグリュエールの顔を覗き込んだ。

 

「え! え~! ・・・・・まさか、・・・そういうことなんですか・・・。

 わたしったら・・・・。」

 ようやくその意味に気が付いたグリューエルは、顔を真っ赤にして、下を向いてしまった。

 

その時、ドアを開けて、警備隊長のジェーンが、談話室に入ってきた。

「船長! いつまで、話し込んでいるんですか!

 ケジメと言うものがありますよ。」

「あ~、はい、はい。

すみません。すみません。つい深刻な話になってしまい・・・。」

 そう言いながら、茉莉香は急いでケイコを連れて出て行った。

「あなたたちも、早く寝なさい。消灯時間はとっくに過ぎていますよ。」

 ジェーンは談話室の女性たちにもそう言って注意して、部屋を出て行った。

 

 

4 新たな敵

 

 翌朝、弁天丸Ⅱ船長・加藤茉莉香は、衛星軌道上の弁天丸ブリッジから、サンタマリア星の長老ステファンと通信を行っていた。

「今の通信で、コロニーの位置を確認しました。

 これから、シャトルで降下して、そちらに伺います。」

「承知しました。お待ちしております。

 王女殿下をお二人もお迎えするとは、光栄に存じます。

 両殿下に、私たちの歓迎の気持ちをお伝えください。」

 ステファンがそう言って、通信を終えた。

そして、茉莉香たちは、弁天丸からシャトルへ乗り換えるため、ブリッジを出ようとした。

 

その時、ブリッジに鋭い警報音が響き渡った。

  ビー、ビー、ビー。

「警戒警報よ。プレドライブ反応を検知。

正体不明の宇宙船が五隻もタッチダウンしてくるわ。」

 クーリエが言った。

「ああ! 

おまけに時空ナビは、周辺空間に、強い重力異常が発生しているのを検知。

こんな大事な時に、光学映像が乱れ始めたわ。」

「怪しいわねえ。

攻撃に備えて、弁天丸の重力シールドを、展開。」

 茉莉香が言った。

「ええ!? いったい誰が私たちを攻撃しようと言うのですか?」

 グリューエルが声を上げた。

 

 やがて、弁天丸の前方に、五隻の宇宙船がタッチダウンしてきた。

 

「船長、5隻の船からトレスポンダーの発信は無いわ。

おまけに、高エネルギー反応を検知。

 撃ってくるわよ。」

「正体不明なのにこっちから先に討つのもねえ・・・。

重力シールドを、全力展開。

 全船、対衝撃防御。

 もちろん反撃の用意もね。」

「了解。」

シュニッツアーが、手短な返事をした。

 

 正体不明の5隻の宇宙船は、タッチダウン直後に、ビーム砲を一斉に発射した。

 ビームは弁天丸を狙っているはずだった。

 しかし、本来、直線的に進むはずのビームは、途中の空間でねじ曲がり、弁天丸に届かなかった。

 もちろん、弁天丸の重力シールドがはじき返したわけではなかった。

 

「あれ? なにこれ。 

 発射されたビームが途中でねじ曲がって、どっかへ行っちゃたわ。」

 茉莉香がつぶやいた。

「急に発生した重力異常の影響で、ビームが捻じ曲がっているのだろう。

 こんなこと、自然現象では考えられない。

誰かが意図的にやっているのか?」

 シュニッツアーがつぶやいた。

 

「そのようね。

時空ナビは、時空トンネルの開口部が形成されているのを、検知しているわ。

また、船が出てくるわよ。

正体不明の艦隊の現在位置に対して、左舷の方向から出てくるわ。」

クーリエが言った。

「ええ? 今度は誰が出てくるの?」

「茉莉香、そんなの、決まっているじゃないの。」

 チアキが言った。

「ええ?」

「だって、民間船で時空トンネル航法を使えるのは、いまのところ、弁天丸だけでしょ。

 ということは・・・・。」

「それじゃあ、帝国軍なの?」

 

「正解よ。

トレスポンダーの発信をキャッチしたわ。

 船籍は、銀河帝国宇宙軍、所属は第一艦隊。船名は、う~んと、面倒だから省略ね。・・・とにかく、戦艦が十隻、ずらりと並んで出てくるわよ。」

 クーリエが、茉莉香とチアキの会話に口を挟んだ。

 

「ナハハハ・・・・。

第一艦隊の船といえば、チアキちゃんちの船じゃないの。

 要するに、私たちはこっそり後をつけられていたのね。

それでもって、肝心のところで、弁天丸の獲物を奪う気なのね。」

 茉莉香が、ニヤリと笑った。

「まあ、そういうことかしら。

ハヤマ艦長は、キャプテン茉莉香に見つからないように私たちを警備するって言っていたけど、こういうことだったのね。」

 チアキが茉莉香に答えた。

「も~~お!

警備だけじゃなくて、海賊の獲物まで狙おうなんて、やってくれるじゃないの!

 こっちも負けないからね。

ムフフフ・・・・」

「あら、そうかしら。

 ウフフフ・・・」

 茉莉香とチアキは、笑顔を見せて笑いながら、意地を張りあっていた。

 

 しかし、帝国軍の戦艦は、通常空間に復帰すると直ちに、正体不明の五隻の艦隊を狙って、ビーム砲で、一斉射撃を行った。

 弁天丸が、迎撃を控えているスキを突いて、先制攻撃したのだ。

 

 正体不明の艦隊は、いきなり左舷から砲撃を受けてかなりの損害を出した。

 あわてて、反撃を始めたが、帝国軍の戦艦が火力を弱めず攻撃を続けたので、たちまち追い詰められていった。

そもそも、主体不明の艦隊にとって、個々の船の火力でもかなりの劣勢にある上に、五対十の数的劣勢を挽回することはさらに困難だった。

 十分も経過しないうちに、五隻の内、三隻が爆発を起こし、炎上し始めた。

 さらに、残りの二隻も大破して、戦闘能力を失った。

 

「ああ~。私たちが先に見つけた獲物に、私たちより先に出を出すなんてズルいじゃないの、チアキちゃん。」

「何、言っているの。

人を出し抜くなんて、そんなの、あんたの十八番(オハコ:得意技)じゃないの。」

「ナハハハ・・・。」

 

「あ、船長。

お取込み中、すみませんが、敵艦から、トレスポンダー発信。

それと、降伏声明があって、救助要請も来ているわ。」

クーリエが言った。

「へえ~。あの船はどこのどいつなの?」

「ええーと、トレスポンダーは、船籍は銀河帝国、所属は『ハピネス財団警備艦隊』と表示しているわね。」

「なに、ハピネス財団って? 私は初めて聞く名前だわ。」

 茉莉香が言った。

「宇宙の環境浄化事業を営む財団です。最近、勢力が急拡大しているそうです。

 私も財団のイベントに来賓として招かれたのですが、聖王家の広報からは出席を断れと言われました。」

 グリューエルが答えた。

「へ~え~。なるほど。

でも、それでわかったわ。

 帝国軍の敵味方識別ソフトは、この船を『UN KNOWN』と表示しているからね。

 銀河帝国船籍の船にもかかわらず・・・・。

これは、どういうことかしらね。なにか、裏がありそうね。フフフ・・・。」

 クーリエが笑った。

 

「あ、来ましたよ。第一艦隊から加藤船長に通信要請よ。

 発信人は、第一艦隊旗艦、機動空母グランドマザー艦長のミッキー・ハヤマ准将よ。」

「ええ!? グランドマザーが、ここいらの空間にいるの?

 ぜんぜん、姿が見えないよ。」

「そこにいるわよ、茉莉香。」

「ええ、この重力異常が、グランドマザーなの?」

「そうよ。」

「うへえ~。

それじゃあ、グランドマザーは、弁天丸より、ちょっと大きめの船ってわけでもないんだなあ・・・。」

 茉莉香は、つぶやいた。

 

 機動空母グランドマザーは、船体自体を亜空間に隠したまま、通常空間に重力エネルギーを放出して重力シールドを作り出したり、船体から艦隊を出撃させて、通常空間へ発進させたりしていたのだ。

これが、グランドマザーの本来の機能、戦い方なのだろう。

「本当は、実力が桁違いなんだ・・・。」

茉莉香はそう思った。 

 

「お話中、済みません。

船長、通信がつながります。」

 クーリエが言った。

 

「よっ! キャプテン茉莉香、久しぶりだねぇ。」

 モニターの向こうから、ハヤマ艦長が親しげに声をかけてきた。

「どうも~・・・茉莉香です。こちらこそ、お久しぶりです。ミッキー艦長。

今日は、こちらからお願いする前に、お客さんのお相手までして頂いて済みません。」

 茉莉香が、すこし皮肉の入った挨拶をした。これも親しい間柄だから言えるのだが・・・。

 

「お礼まで、言ってくれてうれしいねえ。

 実は、部下も、このところ実戦が無くて退屈していたんだよ。

だから、『それ!敵が来た』と思って、すぐに撃っちまったので・・・ハハハ。

 私は、てっきり、獲物を横取りしたって、茉莉香に抗議されるかと思っていたよ。」

 

「ナハハハ・・・。」

 茉莉香は苦笑いするしかなかった。この女性に皮肉は通じないと。

「でも、ずいぶん素早い攻撃でしたね。

コンピューターの敵味方識別機能がちゃんと敵と判定してから攻撃したのですか?」

「いいや。それを待たずに撃ったのさ。

だいたい、コンピューターなんてものは、帝国軍規でも、船長判断の補助に過ぎないと定められているからね。

 全面的に頼っちゃだめだろう。

大切なのは、船乗りのカンさ。

もっともこれは、加藤船長に教えられたことだけどね。」

「ナハハハ・・・・そうなんですかぁ。

 その結果、敵さんを、ずいぶん、ボロボロにしちゃいましたね。」

「ハハハ・・・、つい、本気出してしまったからな。

こっちは、姫様が、弁天丸Ⅱに乗っておられるのも、知っていたからね。」

 

「それで、司令官。この星に降りられるのですね。」

 ハヤマ艦長は敬礼すると、茉莉香の隣にいるチアキに敬語で話した。

 チアキは、今、第一艦隊の司令官を務め、ハヤマ艦長の上官である。

「そうよ。引き続いて、衛星軌道上から警備をお願いね。」

「承知いたしました。

 ハピネス財団の船の乗務員は救助して、取り調べておきます。やつらの正体を明らかにするにはちょうどいい機会でしょう。情報部にも連絡してありますので。

 もちろん、司令官が、弁天丸Ⅱにお乗りになっていることは機密事項ですから、ご安心を。」

「わかったわ。よろしくね。」

「承知いたしました。」

 ハヤマ艦長は、再び敬礼すると、通信を終えた。

 

「ナハハハ・・・。本当に、獲物を横取りされたね。」

「茉莉香、何、言っているのよ。

弁天丸Ⅱの実力を知られないままで、事態が収まったのだから、喜ぶべきよ。」

「それはそうなんだけど、チョット悲しいと言うか、つまらないと言うか・・・・。」

 

「そんなこと言っているより、茉莉香。シャトルの発進が先よ。

上陸するんでしょ、この星へ。」

「あっ、そうだったよ~。ありがとね、チアキちゃん。」

 そう言うと、茉莉香はブリッジのクルーに向けて言った。

「さあ、シャトルの発進準備、再会よ。

それで、誰かが、まだ狙っているかもしれないから、警戒は怠らないでね。」

 

そして、茉莉香は少し考えて、言った。

「それで、も~、新たな敵も現れたから、事態が変わったわ。

一人でも味方が欲しいから、ケイコ・サトーも連れて行くわ。」

 

やがて、弁天丸Ⅱから一隻のシャトルが発信した。

 

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