宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 茉莉香達、弁天丸一行はは、サンタ・マリア星のコロニーを訪れます。
 そして、茉莉香は、神殿と呼ばれる洞窟の探検に出かけます。チアキとグリューエルに留守番をさせて、こっそりと自分だけで冒険をしようと思っていたのですが・・・。
 そこに裏切り者が現れて、大ピンチ。
 なんとか、ピンチを脱したのですが、コロニーに戻ると、エマの出産が始まります。


 


第三十八章 母なる星

 

1 コロニー

 

 茉莉香たちを乗せたシャトルは、サンタ・マリア星の大陸の山岳地帯に向かった。「神殿」と呼ばれる洞窟のある場所からは、かなり離れている。

 

 この星にあるアメージーグ族のコロニーは、旧宇宙マフィア時代に作られたものである。従って、上空から各星系の警察や軍隊に発見されないように、山岳地帯の山肌をくりぬいて山体の地中に作られている。もちろん、彼らは、今日でも地上に建物を築くことを禁じていた。

 

「彼らの話では、向こうに見える山の斜面にある洞窟の穴が、コロニーの入り口です。

 手前の平坦な岩肌が見えている土地がシャトルの発着場だそうですので、そこに着陸します。」

 シャトルを操縦しているギルバートが言った。

「いよいよ、会えますね。どんな人たちでしょうか。」

 助手席に座った茉莉香が言った。

 

 やがて地上に降り立った茉莉香を、コロニーの族長であるステファンが出迎えた。

出迎えに現れた人々は、高齢者ばかりで、ゆったりとしたローブのような衣服を着ていた。

「ようこそ、サンタ・マリア星においで下さいました。キャプテン茉莉香。

 心より歓迎いたします。」

「ありがとうございます。お出迎え、感謝します。」

 

 型どおりのあいさつの後、茉莉香たちは山体の地中に作られた迎賓館に案内された。

 大きな部屋の大きなテーブルを挟んで、茉莉香、チアキ、グリューエルたちと、ステファンたちは向き合った。

 まず、ステファンは、この山中の施設の概要、コロニーの歴史などを、モニター画面に映し出された映像を基に説明した。

 山をくりぬいて作った巨大な地下空間は幾層にも分かれて居住区や作業所が作られ、自足自給の生活ができる施設がつくられていた。

 

「以上が、このコロニーのあらましです。

 ここは、昔は、一万人以上の人が暮らす地下都市だったのですが、今は、わずか500人ほどが暮らすだけの街です。

 地下のほとんどの施設は、今は、使われていません。」

「みんな、ヒガン星団に行ってしまったのですか。」

 茉莉香が聞いた。

「そうです。あの星なら、地下に隠れて暮らす必要がありませんからね。

 太陽の下で、家族全員が、笑顔で暮らせるのですよ。夢のようです。

 そういう惑星ライセの暮らしぶりが知れわたると、移住が進んでいきました。

 その結果、今、ここに住むのは年寄りばかりで、若者は数えるほどです。

 この十年ほどは、赤ん坊が一人も生まれていません。

 これが、このコロニーの現状です。」

「なるほど・・・」

「それで、通信でもお願いしましたが、どうか、私たちをここで静かに暮らさせてください。お願いします。」

「それは、私がお約束できることではありませんので・・・」

「そうですね。分かっています。」

「それから、ご覧になっておられたと思いますが、私たちはこの星に降りる直前に襲撃を受けました。

 襲撃した賊は警備の帝国軍が撃退しましたが、私たちには襲撃を受ける理由が思い当りません。

 何か、ご存じのことがあれば教えてください。

 この星をめぐって、何か、争いごとがあるのですか?」

 茉莉香が聞いた。

「私たちにも、彼らが何を考えているか、わかりません。

 ですが、ここしばらくの間に、何度か、この星を探っている者たちが目撃されています。

 私達は、彼らに見つからないように隠れていたので、彼らの事情は分かりません。」

 ステファンは、そう答えた。

 

 

2 神殿の探索

 

 弁天丸とコロニーの一部のメンバーは、「神殿」と呼ばれる洞窟の入り口の前にやってきた。

 もちろん、茉莉香の判断で、チアキやグリューエルは洞窟の探検に参加せず、コロニーでロボットから送られてくる映像をみていることになった。

「本当に、神殿に入られるのですか?」

 ステファンが茉莉香に聞いた。

「はい。でも、ご心配なく。

 私たちが探検するのではありません。

 安全を考慮して、入り口から探査ロボットを入れて、再度、洞窟内の様子を撮影したいと思いまして・・・。」

 茉莉香は、そう答えた。

 

 しかし、襲撃事件のあと、茉莉香はこう考えていた。

『やっぱり、怪しい環境財団の人たちも、この神殿を探していたのでしょうね。

 私のカンなんだけど、なにか、お宝の臭いがするわぁ~。

 だって、海賊の血が騒ぐのよねぇ。ぜひ行ってみたいってね。』

 

 そこで、茉莉香は、まず洞窟の様子を再度探るため、昆虫型の探査ロボットを発進させた。ロボットは、6足歩行で軽々と洞窟の奥へ進んでいった。

「さあ、タブレット端末のモニター映像が見えますか~。みなさん。

 え~と、コロニーにいるチアキちゃん、映像は見えていますかぁ?」

 茉莉香は、携帯通信端末でチアキに話しかけた。

「うん。よく見えるわよ~」

「あれえ~!・・・ずいぶんはっきりとチアキちゃんの声が聞こえるねえ・・・。」

「当たり前よ。あなたのそばに居るんだから・・・。」

「え!?・・・・」

 

 茉莉香がまわりを見ると、調査隊一行の最後尾に、アメージーグ族のローブを頭からかぶって、チアキとグリューエルが立っていた。その周りのアメージーグの人たちも、姿かたちをよく見ると、スカーレットやキャサリンら警備の人々だった。

 

「ええ~! 留守番だって言ったじゃないのお~!

 グリューエルまで、一緒にいるじゃないの~・・・・。

 もう~。船長の指示に従ってくださいよ~。」

「だって、茉莉香の目が爛々と輝いていて、

『さあ~!これから楽しい海賊の時間だぁ~!』

 ていう顔をしていたんだもの。」

 チアキが言った。

「そうですわぁ。

 私たちに隠し事をしていらっしゃったのは、すぐにわかりましたよ。」

 グリューエルが言った。 

「そんな茉莉香を一人で行かせるなんて、とても私にはできないわよ。」

 チアキが言った。

「そうですわよ。お宝探しなら、私たちもお手伝いできると思いますよ。

 それに、私、留守番なんて苦手ですわぁ・・・フフフ。」

 グリューエルが言った。

 二人とも茉莉香を助けるために来たと強弁している。

 

「もう~、困った姫様たちだよねえ・・・。」

 茉莉香は、ぼやいた。

「ほら、茉莉香。

 端末を見て、ケイコに指示をしないと。

 そろそろ、ロボットが例の黒い石碑のところに着くわよ。」

 チアキが愚痴をこぼしている茉莉香に、促した。

「ああ、そうだ、そうだ・・・・

 中の様子は・・・、変わらないわね。

 落盤の痕跡はないね。意外とシッカリした洞窟かしら。

 ・・・・

 ねえ、ケイコ。あの石碑の表面までロボットを近づけて・・・。

 洞窟をふさいでいる石碑の向こうはどうなっているのか、探れないかしら。」

「はい。石碑と洞窟の間に隙間が無いか、センサーで探らせます。」

 

 ロボットは、ケイコの指示で、石碑のまわりを触手や触覚で触り始めた。

 

「洞窟と石碑の間には、隙間がありません。洞窟の岩盤に沿って黒い岩がぴったりとはめ込まれているような感じですね。

 洞窟か石碑の壁に機械で穴をあけないと石碑の向こう側、洞窟の奥は探れません。」

 ケイコが言った。

「う~ん。」

「船長。これ以上進むのは、無理でしょう。

 文字の書かれた石碑は傷つけない方が良いでしょう。

 残る方法は、壁を掘削してトンネルを掘ることですが、それには、岩盤を掘削したり、発生した岩石を排除できるロボットが必要です。

 弁天丸にはその用意がありませんし、そもそも石碑の厚さがどのくらいあるか分かりませんし・・・。」

 ギルバートが茉莉香に慎重な行動を促した。

「そうねえ。

 でも、石碑のところまでは行ってみたいわぁ。

 ねえ、大丈夫でしょう?」

 茉莉香が訪ねた。

「はあ、少しの時間ならば・・・。

 今のところ、洞窟の中の空気や、放射能、地磁気などの観測データは、正常のようですし・・・。」

 ケイコが、探査ロボットから送られたデータを見ながら、言った。

 

やがて弁天丸一行は、洞窟内を進んで石碑の前にたどり着いた。

「へ~~。これが例の石碑かぁ。

 映像で見ていた印象と違って、見上げるとずいぶん大きいわねえ。」

 茉莉香が言った。その表情は、生き生きしている。

 やっぱり、『危険な冒険が大好き』という海賊の血が騒いでいるようだ。

 そして、茉莉香は好奇心に駆られて、石碑の表面を手でペタペタと触った。

「う~~ん。石の冷たい感触って、結構、気持ちいいね。」

「もう、茉莉香さんったら・・。子供みたいですね。

 なんでもペタペタと、触って良いってものじゃありませんわよ。

 ウフフフ・・・」

 グリューエルはそう言って微笑みながら、自分も石碑の表面を触った。

 

『この石碑は、いったい誰が作ったんでしょうねぇ。

 アメージーグ族の人たちは、まだ真実を話していないようですからねぇ。』

 グリューエルは石碑を触りながら、そう考えていた。

 

 しかし、石碑を見たチアキは、表情を硬くしていた。

「この石碑の素材は、もしかして、『ブラック・マター』じゃないかしら。

 だとしたら、こんなに大きなカタマリなんて、初めてみるわ・・・。」

 チアキは、緊張して石碑に近づいた。

 

「おい、みんな動くな。手を上げろ。」

 その時、突然に調査に同行してきたアメージーグ族の男たちがそう言って、弁天丸一行に銃を向けた。

「そこにいるSF! 動くと、姫様の命は無いぞ。」

 銃を持った男たちが、スカーレットやキャサリンに脅しをかけた。

 SFとは、セキュリティ・フォース、つまり要人警備専門の凄腕の軍人を意味する言葉であり、この場合、チアキやグリューエル付きの警備兵であるスカーレットやキャサリンたちをさしている。

「む・・・・」

 キャサリンたちは、男たちと向かい合った。

「お前たちは、何者だ。

 何を考えているか知らんが、銀河帝国に逆らおうなんて無謀なことはやめた方が、身のためだぞ。」

 スカーレットが言った。

「何を言うか。逮捕された仲間を釈放しろ。

 それと、破壊された船の代わりに弁天丸を頂こうじゃないか。

 言うことを聞かないと、姫様の命は無いぞ!」

 どうやら賊は、茉莉香たちを襲ったハピネス財団の一味のようだ。

「む・・・・。」

 スカーレットたちは黙ったまま賊と向かい合っている。

 

「まずい。

 このままでは、人質にされて、次々と法外な要求を突き付けられそうだ。

 それに、重力兵器を装備した弁天丸が、敵の手に渡ったら恐ろしいことになる・・・。」

 チアキは、焦った。

 

「そうだ!

 もしかすると、この石碑が助けてくれるかもしれないわ。

 もしも、この石碑がブラック・マターで出来ているなら、そして過去にマリア様に忠誠を誓っているなら、私の願い、私の言うことも聞いてくれるはず・・・・。」

 

 そう思ったチアキは、賊に銃を突き付けられたまま、後ずさりして石碑の壁に手を突いた。

 先ほどまで石の表面を触っていた茉莉香とグリューエルも、石碑の前に立っていた。

 

「おい、姫。逃げようとしても後ろは壁だぞ。ハハハ・・・・。

 それとも、俺たちが怖いのかなぁ。

 そんなに怖がっちゃ、そのキレイな顔がダイナシだよ・・・・ハハハ。」

 賊の一人が、そう言って嘲笑い、チアキを見つめた。

 

 チアキは、石碑に背中を向けたまま、石碑の表面に手を触れた。

 掌(てのひら)を通して、冷たく堅い石の感触が伝わってくる。

 

『助けて・・・!』

 

 チアキは、強く強く念じ、自分の願いを石碑に伝えようとした。

 

 ブウーン、ブウーン

 

 やがて、洞窟中に鈍い音が聞こえた。

 そして、チアキの掌(てのひら)から冷たい石の感触が消えた。

 同時に、チアキの体が石碑の中に引き込まれていった。

 チアキは驚いて、茉莉香とグリューエルの方を見ると、彼女たちも体が石碑の中に引き込まれ始めている。身体が浮き上がって、まるで水の中に沈むように、すーっと石碑の中に引き込まれようとしている。

 チアキが周りを見ると、敵も味方も三人の異変に気が付いたが、誰も身動きをせず、ただ見つめていた。実際には、その光景に圧倒されて身動きできなかったのだが・・・・。

 

「うわー!」

 チアキ、茉莉香、グリューエルの三人は、激しい光を浴びたように感じて、目を閉じた。激しい光で意識が遠のき、そして何か、長い夢を見ているような気分になった。

 しかし、それは、ほんの一瞬の出来事だった。

 

 次の瞬間、気が付くと三人は、どこかの地面の上に立っていた。

 そこは真っ暗な空間だった。

 三人は得体のしれない恐怖感に襲われたが、グリューエルが気力を振り絞って携帯通信端末を開いて、その小さな明かりで周りを照らした。

「ここは、石碑の向こう側でしょうか?」

 グリューエルが、か細い光でまわりの様子を見ると、目の前に同じような石の壁があった。

「どうやら、そのようね。」

 茉莉香が言った。

「とにかく、人質にされるのだけは、免れたようね。

 どうしてこうなったのかは、わからないけど。」

 チアキが言った。

 

『お言葉ですが、

 “どうしてこうなったか”について、チアキ様は、何かを知っていらっしゃるようですわ。』

 グリューエルは、チアキの言葉からそう感じ取ったが、何も言わないことにした。

 

 

 その頃、洞窟の壁の向こうでは、激しい格闘が行われていた。

 人質の姫様たちがいなくなったので、スカーレットたちが賊に反撃して、取り抑えようとしていたのだ。

 賊の男たちは、スカーレットやキャサリンをSFではあるが女であり、しかも自分たちは銃を持っていると、甘く見ていた。

 しかし、彼女たちは強かった。特に、銃を持った相手には手加減する必要も無く、全力で戦ったので、たちまち賊は、全員が倒されてしまった。

 

「よし。シャトルの要員に暗号通信を出せ。

 アメージーグ族が裏切ったと伝えろ。

 シャトルを敵の支配下に置かれないように、確保しろ。

 それから、上空の弁天丸にも事情を連絡しろ。」

 スカーレットが指令を出した。

 シャトルとは、この洞窟に来るために一行が乗ってきた弁天丸の上陸用シャトルのことである。もちろんその正体は、軍用の強襲上陸艦であって、単なる旅客運送船ではない。

 

「グランドマザー、グランドマザー、こちらはスカーレット。

 聞こえるか? 緊急通信だ。」

「聞こえます。

 スカーレット中尉、どうされましたか?」

「アメージーグ族が裏切った。

 ハピネス財団と共謀していたようだ。

 彼等は、姫様たちを人質にとって我々に仲間の釈放や弁天丸の引き渡しを要求した。

 今、賊は全員取り抑えたが、

 その際に、姫様お二人とキャプテン茉莉香が例の石碑の中へ消えてしまい、行方不明だ。石碑の向こう側におられると思うが、そうなった原因は、分からない。

 とにかく、救出のために、トンネルも掘れる探査ロボットなどの設備をここまで持って来てほしい。

 それから、地上部隊を派遣して、アメージーグ族のコロニーを制圧しろ。

 不敬罪の現行犯だが、事情を探るために、なるべく生かして捕獲しろ。

 もちろん、抵抗するものは排除してもかまわない。」

 

 ケイコは、スカーレットの最後の言葉を聞いていて身震いした。

 それまで、賊が倒され、ひと安心して、これから茉莉香たちを探そうと張り切っていた。それに『悪いのはハピネス財団のヤツラで、一族の人々は脅されていただけだろう』と、事態を都合のいいように考えていた。

 しかし、スカーレットの話では、コロニーに居た一族、サトシ達が大変なことになるかもしれないのだ。

『不敬罪だなんて・・・・。

 本気を出した帝国軍に、彼らがかなうはずはない!

 おまけに、不敬罪はその場で射殺されるのが当たり前の大罪。

 宇宙マフィア時代もそんなことはしなかったじゃないの・・・』

 そう考えて、ケイコは暗い気持ちになっていた。

 

 スカーレットの部下が、ケイコの前に来て、言った。

「ケイコ・サトー、あなたを拘束します。」

「はい・・・・。」

 ケイコは、他のアメージーグ族の随行者と一緒に、洞窟の壁際に座らされた。

 彼らは、警備兵たちから銃を向けられて、監視された。

 

 

3 神殿の秘密

 

「どうしましょう、これから。」

 グリューエルがチアキに聞いた。

「う・・・・ん。困ったねえ、チアキちゃん。

 さっきから携帯通信機で壁の向こう側の人たちや、弁天丸を呼び出しているんだけど、電話が通じないんだよねえ。」

 茉莉香が言った。

「そうなの。困ったわねえ。

 こう、真っ暗じゃ、何もできないわよねえ。」

 チアキもつぶやいた。

 

 その時、ブーンと言う音とともに、洞窟内がうっすらと明るくなり、回りの様子が見えるようになってきた。

 

「ええ~! チアキちゃん、今、なんかしたの?」

 茉莉香が驚いた。

「私が何かした訳ないじゃないの。照明のスイッチなんか、触っていないわよ。」

 チアキも驚いて言った。

 

 グリューエルは、そう言う二人のやり取りを聞いていて、思い当るところがあった。

「ねえ、茉莉香さん。

 せっかく明るくなったのですから、この際、洞窟の奥を探検してみませんか?」

 グリューエルはそう言った。

「そうねえ。

 茉莉香は、最初からそのつもりだったのでしょ。

 私たちに留守番させて・・・。」

 チアキが言った。

「ナハハハ・・・。まあ、そのつもりだったけどねえ・・・・。」

 

 三人は、薄明かりで照らされた洞窟の奥を目指して、歩き始めた。

 そして、一分ほど歩くと狭い洞窟は途切れ、天井の高い大きなホールのような空間に出た。

 

「うわ~・・・。

 中は、こんなに大きな洞窟になっているんだあ!」

 茉莉香が驚いて、言った。

「ホールの中は、黒い岩の大きな塊があるだけでしょうか。」

 グリューエルが言った。

 でも、彼女は、本当はこう言いたかったのだが、言葉を飲み込んだ。

『この岩がお宝なのでしょうか?』と。

 

 その時、茉莉香が動き出した。

「そうだ、お宝、お宝・・・と。

 きっと、この目の前の黒い岩の向こうに、何かあるんじゃないかなあ・・・。」

 そう言いながら、茉莉香は黒い岩の向こうを見ようと、岩をよじ登り始めた。

「茉莉香、危ないわよ。

 墓泥棒退治の罠が、仕掛けられているかもしれないわよ。」

 チアキが言った。

「大丈夫だよ、チアキちゃん。エサなんか見えないもの。」

「何、言っているの。意味が分かんないわ。」

「あのねえ、罠(ワナ)っていうのは、エサが見えるところに仕掛けるものなんだよ。

 でも、今、お宝なんて、何も見えないから、罠なんて無いわよ。」

「はあ~? 何を根拠にそんなこと考えるのよ~。」

「アハハハ・・・。海賊のカンだよ。カン。」

「ええ! 呆れたわよ、そのご都合主義は・・・。

 それで、どうなの、茉莉香。向こうに何か見えるの?」

「う~ん。う~ん。」

 茉莉香は岩の上にたどり着いて周りを見回している。

「それでどうなのよ。」

 チアキが結果を知らせるように、催促した。

「う~ん。何もないわよ。

 黒い岩が、ずっと奥まで続いているだけよ。

 その奥は行き止まりのようね。」

 茉莉香がすこし落胆して言った。

「う~ん。どうしてでしょうねえ。

 お墓なら、ここが玄室のはずなのですけどねえ。」

 グリューエルが茉莉香の言葉を受けて、そう言った。

 

『ふ~ん。やっぱりそうかぁ。

 それで、お前たちは、いったい何者なの?』

 チアキは、そう思いながら、黒い岩に近づき、その表面に触れた。

 

「うわ~~!!!」

「きゃ~~!!!」

「ああ~~!!!」

 

 三人は同時に悲鳴を上げた。

 チアキ、茉莉香、グリューエルの三人は、激しい光を浴びたように感じて、目を閉じた。激しい光で意識が遠のき、そして何か、長い夢を見ているような気分になった。

 次の瞬間、正常に戻ったことに気が付くと、三人はお互いに顔を見合わせた。

 

「見た?」

「見ましたわ。」

「あなたたち二人にも、見えたのね。」

「チアキちゃん。これは、いったい・・・・。」

「後でちゃんと説明するわ。

 それまでは何も見なかった、洞窟の中は何も無かったって、ことにしておいてね。」

「わかったわ。」

「分かりました。」

「じゃあ、帰ろうか。」

「はい。」

 

 三人は、洞窟の中を戻って、石碑の前にたどり着いた。

 

「石碑の前まで来たけれど、これからどうするの? チアキちゃん。」

「たぶん、大丈夫。」

 そう言って、チアキは石碑に手を当てて、開けと念じた。

 

 チアキがそう念じると、入ってきたときと同じようにチアキの体が石碑に吸い込まれ始めた。

「ほら、茉莉香。手を・・・。」

「あ、はいはい。・・・・」

 茉莉香は、チアキと手をつなぎ、石碑の中へ入り始めた。

「ほら。グリューエル。手を・・・・・」

「はい。茉莉香さん。・・・」

 グリューエルも茉莉香に続いて、石碑の中に入って行った。

 

 次の瞬間、三人は、石碑の向こう側、ギルバートやスカーレットたちの前に、手をつないで姿を現した。

 

 

4 エマの願い

 

 茉莉香たち一行は、アメージーグ族のコロニーに戻った。

 すでに帝国軍の警備部隊により、コロニーは制圧され、安全が確保されたと言う連絡があったので、戻ることができた。

 やがて、コロニーの貴賓室に集まった、茉莉香、チアキ、グリューエルらの一行に、警備部隊の士官から、状況報告が行われた。

「アメージーグ族を尋問しましたが、彼らは、ハピネス財団の兵士に武力でコロニーを占領され、家族を人質に取られたため、彼らの言うことを聞いていたと言っております。」

「それは、本当か。ハピネス財団の方は何と言っている。」

 スカーレットが聞いた。

「生き残った者は、ほぼ同様のことを言っております。」

「そうか・・・。」

「それから、アメージーグ族の女性から面会の要請が来ております。

 医者に診てほしい者がいるので、医者を派遣してほしいと言う要請を直接、姫様にお願いしたいと言っております。」

「なんだ、医者だと。けが人か?」

「いえ、医者に診てほしいのは臨月の妊婦だそうですが、帝国軍との戦闘にショックを受けて、体調が急変したそうです。」

「それは、エマじゃないかしら。彼女、妊娠していたんでしょ。

 面会希望の人は、エマ本人じゃないのね。」

 チアキが言った。

「はい。妊婦の母親だと言っております。」

 

 やがて、一人の女性が、茉莉香たちの前に現れた。

「初めまして。族長ステファンの妻、シルビイです。

 このたびは、姫様や、キャプテン茉莉香様を、大変危険な目にあわせ、心からお詫び申し上げます・・・。」

「前置きは良いわよ。エマがどうしたの?」

 チアキが、聞いた。

「どうか、エマを助けてやってください。

 あの子は、私たちのために、このコロニーのために、自分がここで子供を産んでみせると言って、パートナーを探しに出かけて行ったのです。

 お蔭で身ごもりましたが、今、様子が変わって、母子ともに危険じゃないかと心配です。どうか、無事に子供が授かりますよう、お力添え下さい。」

「分かりました。医者を行かせます。

 ねえ、スージーたちに連絡して、患者さんのところへ案内して・・・。

 戦闘でのけが人の治療は、もう済んでいるでしょう・・・。」

 茉莉香が、船員に指示をした。

「それにしても、あのパーティで彼女と知り合ったのだけど、彼女がそんな決意を秘めて出席していたとは気付かなかったなあ。」

 茉莉香が言った。

「でも、エマさんがそんなに思いつめていらした事情が分かりませんわ。

 お差支えなければ、お話しいただけませんか。」

 グリューエルが聞いた。

「はい、このコロニーには、ずいぶん前から医者がおりません。

 そのせいもあって、年頃の若い男女はどんどんこの星を出て行ってしまい、ついに子供も生まれなくなってしまいました。

 エマは、自分がこの星で子供を産むことにより、この流れを変えようとしたのです。

『族長の娘がやって見せないと、誰もついて来ない。』と言って。」

「お医者さんなしの、自然分娩に挑戦しようとされたのですね。」

「そうです。昔はそれが当たり前だったのです。

 しかし、まれに不幸なことが起きるので、今は敬遠して、誰も挑戦しようとはしなくなりました。そんな危険なクジを引く必要はないと言って・・・。」

「なるほど。わかりました。

 さすが、彼女は、族長さんのお子さんですね。」

 グリューエルが言った。

「あのう、それで、お見舞いができるならば、私もエマに会いたいんだけど・・・。」

 茉莉香が言った。

「ありがとうございます。エマも姫様たちに会いたがっておりました。

 実は、そういうエマの気持ちを皆様に直接にお伝えしたいと思って、御面会をお願いしたのです・・・。」

 

5 エマの出産

 

「もう、お見舞いの面会は、大丈夫よ、

 容体も心配ないわ。妊婦さんの気持ちも落ち着いたし・・・。」

 スージー医師の言葉に従って、茉莉香たちは、産室に入った。

「いらっしゃい。

 それで、いよいよ始まるよ。もう全開だ。

 さあ、一族の女たちを呼び集めておくれ。」

 一族の年配の女性がそう言うと、産室の内と外は少し騒がしくなった。彼女が助産婦の役割を務めているようだ。

 ただし、茉莉香たちは、彼女が言った言葉の意味が分かっていなかった。

 

「エマ、久しぶり。大丈夫なようで、よかったわね。」

 エマに再会した茉莉香が言った。

「エマ、久しぶり。

 やっぱり、臨月のお腹って、こんなに大きくなるんだね。

 あなた、細すぎるくらい細かったのにね。」

 チアキが言った。

「エマさん、お久しぶりでございます。」

 グリューエルが言った。

「お見舞いありがとうございます。

 ああ、ああ、・・・」

 そこまで言った時に、エマが苦しみだした。

「あの、先生。エマさんの容体が悪化したのでしょうか?」

 グリューエルが慌てて言った。

「大丈夫よ。今のは、陣痛よ。いよいよお産が始まるわよ。」

 スージー医師が、少し微笑んで言った。

「ええ!・・・・お産。」

 グリューエル、茉莉香、チアキの三人は、すこし、たじろいでいた。

 もちろん、三人とも身近な人の出産の場に立ち会った経験は無い。特に、グリューエルは、王家の人間は代々人工子宮『薔薇の泉』から誕生してきたため、その経験ができるはずも無かった。

 それどころか、自分たちがこのまま産室に居てよいものか、心配になってきた。

 

 その時、病室の外から、元気のいいリリイの声が聞こえた。

 病室の外には、大勢の人が集まっている気配がしている。

「はい。立ち合いの人は、この容器の消毒液に手と腕をひじまでつけてね。3秒間よ。

 それから、こっちの自動乾燥機で手と腕を乾かしてね。

 タオルか何かで、手を拭いちゃだめよ。

 そして、手が乾いたら、何も触っちゃだめよ。アンダースコートにも触っちゃだめよ。

 赤ちゃんに触れたい人は、特にね。」

 

 やがて、大勢の女性たちが、部屋に入ってきた。

 アメージーグ族の女性たちだけでなく、弁天丸の女性乗務員やスカーレット、キャサリンまで、一緒に入ってきた。

「ええ!?

 みんなどうしたの?」

 茉莉香がびっくりして、訳を聞いた。

「この一族のシキタリでは、出産のときに大人の女は全員、妊婦のもとに集まるのだそうです。そして、無事、赤ちゃんが産まれるように祈り、応援するのだそうです。

 私たちも、是非、力を貸してほしいと頼まれまして・・・・・。」

 スカーレットが、少し顔を赤らめて、答えた。

「さあ、姫様たちはどうなさるかね?」

 助産婦役の女性が言った。

「私たちも、ここでエマさんが無事ご出産なさるよう、応援します。

 私たちも、もう大人ですから・・・。」

 まだ十六歳のグリューエルが、決意を込めた力強い声で答えた。

「そうですね。」

 チアキも同じように力強く答えた。

「私も、そ、そうですね・・・・。」

 茉莉香も、気持ちの動揺が収まっていないことは隠せなかったが、応じた。

「そうかい、ありがたいことだね。

 聖王家の姫様たちが導いて下されば、きっと健康な赤ちゃんが授かるさ。」

 

「あれ・・?

 先ほどの『陣痛』というものは、すぐに収まってしまうものなのですか?」

 グリューエルが、エマの様子の変化に気が付いて、質問した。

「陣痛は、はじめは一定の間隔で周期的に起こるものですよ。」

「フフフ・・・、姫様は出産をご覧になるのは初めてなのですね。」

「はい。」

 グリューエルはそう言って、顔を赤くして下を向いてしまった。

 グリューエルだけでなく、チアキや茉莉香や、そのほかの弁天丸の女性乗組員も、全員が初めての経験だった。

「出産どころか、臨月の妊婦の方をこの目で見たのは今日が初めてなのですか・・・・。」

「では、姫様にとっても今日は良い経験になりましょう。」

「私たちは、みんな女ですからね。フフフ・・・・」

 

 アメージーグ族の年配女性たちは、口々にそう言って余裕の微笑みを浮かべた。後輩の女性たちを教育するような気分なのだろう。

 

「ねえ、トム。胎児の様子を診察してくれないかしら。」

 医師のスージーが、同じく医師のトムに言った。

「わかりました。今、診察します。」

 トムはそう言うと、目にゴーグルのような装置をつけて、右手に持った棒のようなものをエマのお腹にそっと当てて、撫でまわした。

「大丈夫ですよ。胎児は、頭から子宮口に入っています。

 へその緒からの血流も正常です。」

「よかった。」

「よかった。逆子(さかご)じゃないよ。」

 アメージーグ族の年配女性たちは、口々にそう言って、微笑みを浮かべた。

 しかし、まだ妊婦のエマは、少し不安そうだった。

「トム、ほら、妊婦さんにも胎児や子宮内の立体映像を見せてあげて。

 妊婦さんの気持ちを安定させるのも医師の仕事よ。」

「はい。では、リリイさん、立体ディスプレイのスイッチを入れてください。」

「はい。」

 リリイの返事を聞いて、トムは棒のようなセンサーでもう一度、妊婦のおなかをなで始めた。

 

 次の瞬間、リリイが持った手鏡のようなものから、妊婦の眼前の空間に、体内の断層映像が浮かび上がった。立体画像はカラーではなく、白黒の映像だった。

 トムがセンサーを動かすと、それにつれて、胎児の頭、手、足が見えてくる。またたく間に、画像は合成されて、頭の大きな胎児の全身の立体映像が表示された。

 

「ああ、赤ちゃんだ。

 チカチカと光が点滅して、動いているのは心臓かしら・・・。

 この子、生きているのね。」

 映像を見て、エマは涙ぐみ始めた。彼女だけではない。その場にいる若い女性たちはみな、感動に震えていた。

 

 次の瞬間、陣痛が襲ってきた。

「ううう~・・・・。

 私、サトシの子供を産むのよ、サトシの子供よ。だから、頑張るわ。」

 エマは、自分に言い聞かせるように、そう言って、陣痛に耐えていた。

 

 それからは、怒涛のような時間が流れた。

 陣痛は次第に激しく連続してきた。

 立ち会った女性たちは、エマの苦しむ声を聞き、自分も同じような苦しみを体験しているような気分になりながら、『無事、生まれますように』と、ただひたすら祈った。

「私、サトシの子供を産むのよ、サトシの子供よ。だから、頑張るわ。」

 エマは、うわ言のように、同じ言葉を繰り返していた。

 

 やがて、助産婦役の女性が言った。

「よし。胎児の頭が見えてきた。もうすぐだ。

 父親を呼びなさい。」

 すぐにサトシが現れ、エマの側に来て、彼女の顔を見ながら手を握った。

「エマ、頑張ってね。もう少しだから。・・・」

「ああ、サトシ。来てくれたのね。

 ねえ、私、私、サトシの子供を産むよ、サトシの子供よ。だから、頑張るわ。」

 エマは、同じことを何度も言っていた。

 

「さあ、みんなで応援だ。

 エマ、プッシュ、プッシュ!」

「プッシュ、プッシュ!」

 その場にいた女性たちが一斉に叫んだ。弁天丸の若い女性乗務員たちも、茉莉香も、チアキも、グリューエルも、女たちは声を合わせて叫んだ。

 

「オギャー。オギャー。」

 胎児は、頭が外に出るとすぐに泣き声を上げた。

そして、ついに子供が生まれた。

「大丈夫です。健康な赤ちゃんです。」

 スージー医師が手早く新生児を診察してそう言いつつ、へその緒を切断した。お産婆役の女性は、スージーにその役目を譲ったようだった。

「エマ、頑張ったわね。ごらんなさい、あなたの生んだ赤ちゃんよ。男の子よ。」

「はい。・・・」

「さあ、父親の役目だよ、ほら、こうやって頭を支えながら・・・。」

 お産婆役の女性が、そう言ってサトシに生まれたばかりの赤ちゃんを託した。

「はい。・・・・」

 そう言いながら、サトシは緊張してこわばった姿勢のまま、腕の上で小さな生まれたばかりの赤ちゃんを抱いた。そして言った。

「この子は、僕の息子です。」

 父親が真っ先に生まれた子供を抱いて、親子であることを宣言するのが、一族のシキタリだった。

 

「よし。よく言った。おめでとう。」

「エマ、サトシ、赤ちゃん、おめでとう。」

「おめでとう。今日から、三人家族だね。」

 一族の女性たちが、一斉に、親子三人を祝福した。

「おめでとう。」

 弁天丸の若い女性たちも、茉莉香も、チアキも、グリューエルも、女たちは声を合わせて祝福した。

 

 赤ちゃんは、その後、産湯(うぶゆ)で体を洗われた。

 その赤ちゃんを見ようと、弁天丸の若い女性乗務員たちが産湯の周りを取り囲んだ。

「うわ~。男の子なんだぁ~。」

「私、男の子の全身、初めて見るのよねえ~。」

「ホントかしら・・・。」

 みんな、先ほどまでの緊張から解放されつつも、まだ興奮していた。

 

 産湯の後、赤ちゃんは白い布にくるまれて、エマのところに連れてこられた。

「さあ、おかあさん。赤ちゃんだよ。」

 後産の処置も済んで、ようやく落ち着いたエマは、満面の笑みで、自分の産んだ子を抱いた。

 赤ちゃんの様子がすっかり変わっていた。生まれたばかりの「あかちゃん」の体はかなり青白く、普通に見る赤ちゃんの様子とは違っていたからだ。

 それが、今は、身体一面が真っ赤になっている。だから、新生児のことを「赤ちゃん」と言うのかと納得したくらいに。

 

 エマが赤ちゃんを抱く姿を見ていたグリューエル、茉莉香、チアキは、感動した。

 なんというか、赤ちゃんを抱くエマの姿は神々しかった。エマが赤ちゃんに向ける笑顔は、深い喜びや子供への慈しみの気持ちが体中から湧き上がっているようだった。

「なにか、良いにおいがしますわ。」

 グリューエルが言った。

「気のせいかなあ。赤ちゃんと一緒にいるだけで、私たちもうれしくなって、元気が湧いて来るよね。」

 チアキが言った。

 

「ねえ、触っても良い?」

 茉莉香が聞いて、エマが肯いた。

「ほら。こんなに小さい赤ちゃんでも、手にはちゃんと小さな指があって、キチンと爪まで生えているのよねえ。」

 そういって、茉莉香は、赤ちゃんの手を触った。

「ああ! 赤ちゃんの手が、私の指を握ったよ。

 うわ~! 意外と力強いんだねえ、びっくりだよ。」

 赤ちゃんの小さな手は、茉莉香の人差し指の第一関節、つまり爪の辺りを握るだけの大きさしかなかったが、その小さな手が茉莉香の指を握った姿は、とても愛らしかった。

「まあ、茉莉香さんたら。ズルいですわ、真っ先に赤ちゃんを触って・・・。」

「そうよ。茉莉香、抜け駆けよ。」

「ナハハ・・・抜け駆けは、私の特技でして・・・・。」

 

 一方、務めを果たしたスージー、トムそしてリリイの三人は、産室の隣の部屋で休憩していた。

「はい。どうぞ、お茶を召し上がって下さい。」

 リリイが二人に紅茶を勧めた。

「ありがとう。

 それで、どうだった? リリイは、出産のこと、どう思った?」

 スージー医師が聞いた。

「はい。感動です。

 お仕事の緊張が解けて、今頃、涙が出てくるくらいです。」

「そうよね。何度体験しても、感動よね。」

 そして、スージーはトムの方を向いて言った。

「でも、トム。あなたは違ってたでしょ。

 ちゃんとわかっているんだからね~。

 青白い新生児が妊婦の体の中から出てくるところを見て、気持ち悪いと思っていたでしょ・・・。」

 スージーが、そう言ってトムを見た。

「いえ。そんなことないです。僕も感動しました。」

「ウソツキ。男の医者はみんなそう思うのよ。バカだから・・・・。

ねえ、リリイ。この人の顔、ウソをついている顔でしょ。」

 リリイは、スージーとトムの二人の顔を見比べた。

「さあ、どうでしょうか、ウフフ・・・・」

「あ~! あなた、トムの肩を持つの・・・・。いつの間に・・・。」

 

 

 その日の晩に、族長主催の祝いの宴が催された。族長夫婦に初孫が生まれたことを祝う宴だ。もちろん、コロニーの住民たちも10年ぶりの子供の誕生に大喜びだ。

 茉莉香、チアキ、グリューエルの三人は、宴の主賓としてもてなされた。このため、弁天丸の出航は、明日とされた。

 その一方で、弁天丸と帝国軍の警備隊は、この晩も警戒を緩めてはいなかった。姫を人質に取られるような失態を繰り返すことは許されないからだ。

 もちろん、警備隊は、アメージーグ族に対しても気を許していなかった。祝宴の料理や飲み物に対して、チアキたちの目の前で厳重な毒物検査を行って、チアキの不評をかうほどだった。

 やがて、宴も最高潮と盛り上がっている頃に、グリューエルは宴の場を抜け出して、コロニーの入り口にやってきた。星空を眺めるためだ。

 空には、この星ならではの鮮やかな星々が輝いていた。

 その中で、彼女は、銀河の中心核の向こう側にある星、つまり帝都クリスタルスターの方角を眺めて、こうつぶやいた。

 

「アレックス様、私、今日一日でずいぶん大人になりましたわ。」

 




 グリューエルの今後の人生を考えると、出産を何処かで見聞きする体験をさせたかったので、この章で書きました。
 お陰で、文章が長くなってしまし、「神殿の秘密」とか書きたかったエピソードが幾つか、次章に回りましたが・・・。
 なお、出産シーンは、竹宮恵子先生が、SFコミックス「地球(テラ)へ」でお書きになっているのに、触発されました。
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