宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 茉莉香は、グリューエルと一緒に、弁天丸に乗って、宇宙海賊マイラ・グラントの娘、リディアの結婚式に出席するために、海賊の巣に向かいます。
 クルーや同乗者の顔ぶれも次第に変わってきます。
 もちろん、弁天丸の航海では「お約束」の“密航者”も乗っています。

 海賊の巣についた茉莉香達は、結婚式に参列し、そして披露宴に招かれます。
 でも、披露宴は、やっぱり、海賊の宴会。
 おきまりの競技会とギャンブルが始まってしまいます。今回はグリューエルが競技に参加しますが、彼女はどんな「オテンバ」ぶりを発揮するのでしょう。

 長くなりそうなので、今回は前編。グリューエルの活躍を中心にお届けします。



第四十二章 海賊の結婚式 1

1 海賊の巣

 

「まもなく、目的地『海賊の巣』付近の空間にタッチダウンします。」

 

 弁天丸Ⅱ号の臨時操舵手を勤めるウルスラ・アブラモフが言った。

 弁天丸は、宇宙海賊マイラ・グラントの娘、リディアの結婚式に参列するため、海賊の巣に向かっている。

結婚式に招待されているのは、茉莉香、グリューエルそしてクーリエの三名である。この他に、ギルバートも父の代わりに招待され、元セレニティ軍親衛隊のキャサリンは、グリューエルの護衛として随行する。

 そこに、茉莉香が結婚式に参列するという話を聞いたウルスラが、「自分の結婚式の参考にしたいので私も行きたい、見たい」と言って強引に乗り込んできたのだ。ウルスラは、「士官学校の方は『休暇』をもらったから大丈夫。」と言っている。

茉莉香は、士官学校の学生に「休暇」などあるのだろうかと疑問に思いつつ、ウルスラの頼みをきいて、今回の航海に同乗するのを了解した。

 

「了解。

 どうかなぁ? ウルスラ。弁天丸の操舵手となった感想は?」

 茉莉香が聞いた。

「最高だよ。ダーリンと一緒の船に乗れてうれしいなぁ。

船長、ありがとうね、私のお願いを聞いてくれて。」

「いや~、そんなに感謝されると。・・・」

「それに、私、いままで友人とか親戚とか、他の人の結婚式に呼ばれたことが無かったんだよ。だから、自分の為にも、ぜひ見たかったんだ。

もちろん正式な招待者でなくてもいいんだ。ウエイトレスでも何でもするからさぁ・・・。」

「ナハハハ・・・まあ、それは、了解をもらってあるから、大丈夫だけど。」

 茉莉香はウルスラが本当に喜んでいるのを見て、自分も少しうれしかった。

 

『初めて海賊の巣に行った時とは、ずいぶん気持ちが違うなぁ~。』

茉莉香は思った。 

 初めて、海賊の巣に行ったときは、グランドクロスとの決戦に備えて海賊の同盟を作るためだった。特に弁天丸は、海賊の巣にたどり着く前にグランドクロスと戦って、傷つきながらようやくたどり着いた。だから、命懸けの緊張感があった。

 しかし、今回は、宇宙海賊リディア嬢の結婚式と披露宴に出席するために行くのだ。そのため、どこか船全体がホンワカとしたムードに包まれている。

 それもそのはず。

 ブリッジを見渡しても、前回とはメンバーが大きく違っている。メンバーは若手ばかりだ。ベテランのクルーは、この際とばかりに休暇を取っている。

 まず、シュニッツアーが休暇で不在だ。その席には、代わりに、ギルバートが座っている。もっとも、シュニッツアーは次のように物騒なことを言って下船したが・・・。

「若いものばかりで危ない目に会って苦労するのも、いい経験になる。」

 ミーサも、もともと産休で不在だ。医務室には、船医としてスージーとトムが乗っている。かれらも、海賊の結婚式には興味があるようだ。

 医務室と言えば、リリイも茉莉香が結婚式に行くという話を聞いて弁天丸に乗ってきた。

三代目と百目は不在だ。二人とも訳あり顔でこう言って、休暇を取って消えた。

「行先は聞かないでくれ。」

もっとも、クーリエに言わせると、こうなる。

「二人とも、行先(女性)の当てもないくせに・・・何、カッコつけてんのよ。」

 代わりに、百目の席には、ケイコ・サトーが座り、三代目の席には機関士としてウルスラの婚約者・ブラウン中尉が座っている。

 ブラウン中尉は、星間物質に囲まれ外部から見えない「謎の空間」という、海賊の巣の立地する空間の宇宙物理学的性質に興味を持っており、観測装置を総動員して宇宙空間を探ろうとしている。

 ケイコ・サトーは、サンタ・マリア星の調査の際に、旧宇宙マフィアのグループと内通していたことがバレて、帝国軍とヒガン共和国軍を懲戒免職になっていた(第三十八章「母なる星」参照)。

 そこで彼女は、こう言って茉莉香に頼み込んできた。

「懲戒免職が二つ。私は、これで真面(まとも)な仕事につけなくなりました。もう故郷にも帰れません。

でも、これは、本物の海賊になる資格(キャリア)が出来たということです。

どうか弁天丸に乗せてください。」

 茉莉香は、もともとケイコの能力を認めており、彼女をクルーに加えた。

 ルカは、休暇を取らず、この航海に同行している。

 彼女は、この頃、若手女性乗務員のアネキ分として、毎晩毎晩、「女子寮」に入り浸っている。海賊の巣を良く知っていることもあり、女性乗務員をひきつれて「海賊の巣」の探検ツアーを行うと言って、この航海を楽しんでいる。もちろん女性乗務員たちは「海賊の巣」に対する好奇心(怖いもの見たさ)で盛り上がっている。

 元セレニティ軍親衛隊のキャサリンは、今は帝国軍の警備部隊に所属している。グリューエルの誘拐事件の際に怒って大使に襲いかかったためセレニティ軍を辞職せざるを得なかったが、グリューエルの計らいで帝国軍に移籍したのだ。

 彼女もルカと一緒に毎晩「女子寮」のガールズトークに参加している。しかし、彼女はこれまで戦士として仕事一途で生きてきたため、ガールズトークには相当なカルチャーショックを感じているようだ。

 もちろん、宇宙海賊マイラ・ラグラントの娘、リディア嬢が結婚する相手は、自分の兄・キースではないかと言われており、心境は複雑らしい。彼女も自分の人生を考え始めたようだ。

 

 

2 「Don’t Worry」の乗客

 

「おかしいなぁ~。」

 ケイコ・サトーが、艦内の管理モニターを見ながら首をひねっている。

「なにが?」

 その声にこたえて、他の乗務員たちが会話に加わった。

「出航以来、食事をしている人数と乗員名簿の人数が合っていないのよ。」

「どういう意味?」

「一人多いのよ。」

「そりゃ、誰かが食事を二人前食べているんだよ。」

「それは、ちゃんと数えているわよ。それを引いても多いのよ。

 ねえ、そっちのモニターを戦闘モードにして、艦内の生体反応の数を調べてくれない?」

「わかった。

 え~~と・・・・・」

 帝国軍から乗り込んでいる若手乗務員たちが、ケイコの頼みをきいて調べ始めた。

「ああ、三十六名。やっぱり一人多いよ。」

 

「ええ!? どういうこと?

 密航者がいるの?」

 乗務員たちの会話を聞いていた茉莉香は、『密航常習者』のグリューエル姫がブリッジに居るのを確認しつつ、乗務員の会話に口を挟んだ。

「いや、生体反応では、不審者(Unkown)という表示は出ていません。」

「ええ? でも一人多いんでしょう。

 その人は、今、どこにいるの?」

 茉莉香がさらに聞いた。

「船長。弁天丸Ⅱの乗員数は、この航海では少ないと言っても三十五名おりまして、艦内の生体反応だけでその三十六人目の人を識別するのは難しく・・・・。」

 乗務員たちが言い訳した。

「そう言えば、警報が鳴らなかったわねぇ。

 本来、密航者がいるなら、出航するときに警報が鳴るはずよねぇ。」

 茉莉香が冷静になって考え始めた。

「う~~ん。警報が鳴らない『密航者』ってアリかなぁ。」

「ククク・・・ッ」

 考え始めた茉莉香の側で、クーリエが忍び笑いをしている。

「ああ! もしかして・・・。

 ねえ、貴賓室には、今、生体反応はあるの? そこには今、誰かいるの?」

 茉莉香が聞いた。

「貴賓室? 調べてみます・・・。

 ああ、今、一人いるという反応があります。」

「やっぱり。」

 茉莉香は、貴賓室の方をヨコ目でにらんだ。

「ええ!? 

 船長。乗員名簿をもう一回、チェックしたところ、乗員数が三十六人に増えています。」

「ええ? 増えている人は、誰?」

「それが~、名前の欄には『Don’t Worry』って、表示されています。」

「なに、それ~。

『Don’t Worry』ってことは、『心配するな』ってことね。

 コンピューターのくせに、ずいぶん『上から目線』の言い方じゃないの~。」

 茉莉香は少し不服そうにそう言って、グリューエルに向かって言った。

「ねえ、グリューエル。あなた、出航以来、貴賓室に居たわよねえ~。

 ということは、私をダマしていたの?」

「ダマしてなんかいませんわ。ダマっていただけですわ。」

 グリューエルは微笑んでそう言った。確信犯のようだった。

「もう。ひどいじゃないの。それをダマしたっていうの!」

 

「ウフフ。それって、船長お得意のセリフじゃないの・・・・」

 ルカがポツリと言い、クーリエは笑っている。

「ウウウ・・・・

 ナハハハ・・・・。」

 これには、一瞬、声を荒げた茉莉香も、最後には苦笑いするしかなかった。

 このやり取りを聞いて、乗務員たちは事情が呑み込めてきたようだった。

「茉莉香さん。ご自分の目でお確かめください。」

 グリューエルが、微笑みながら言った。

 

 

 その頃、貴賓室では、三十六人目の乗客が、上機嫌でカガミの前に立っていた。

 その人は、この航海のために新しく仕立てた豪華な服を試着していた。

 それは、カリビアンスタイルの海賊船の船長服だった。黒を基調としつつ、金モール、金ボタン、襟や袖には華やかなフリルがつき、肩には帝国海賊の印、黄金の髑髏がついていた。

「ルン、ルン、ル、ル、ル~♪

 そうね~。デザインといい、生地の色や肌触りといい、最高ね。

 やっぱり、おニューの衣装は、気持ちいいわぁ~。」

 その人はカガミの前でポーズを取りながら、顔に仮面をつけた。

「ふむ、ふむ。これで変装も完璧ね。グフフフ・・・・・。」

 そして、カガミに自分の正面、右半身、左半身、後姿を映して、楽しんでいた。

 

 その時、いきなり貴賓室のドアが開いた。

「ああ、やっぱり、チアキちゃんだ。

 もお~。いるならいるって、言ってくれればよかったのに~。」

 そう言って茉莉香が、貴賓室の中にいた人に、いきなり抱き着いた。

「う、わ、わ、私は、『チアキちゃん』じゃない。

 宇宙海賊アンドロメダ・ジュニアだ・・・・。

 仮面だってつけて、ちゃんと変装している~う、う、う・・・・。」

 チアキは、茉莉香に抱き着かれて慌てながらも、そう言った。

「わあ~~~。キアキちゃんだぁ。うれしいなあ。

 私さあ、今、初めてチアキちゃんが弁天丸に来てくれた時のことを思い出したよ~。」

「初めてっていうと、船長見習いの研修の時?

 茉莉香、何言っているの。そんな昔のこと~。」

「ウフフ・・・。やっぱりチアキちゃんといっしょだと楽しいねえ。」

「ウフフ・・・、茉莉香ったら、もう。」

 チアキも、茉莉香のその言葉を聞いて、微笑んだ。

「ねえ、チアキちゃんも、いっしょに海賊の巣に行くんでしょう? 

 それで、リディアさんの結婚式・披露宴に出席するんでしょう~?」

 茉莉香が聞いた。

「そうよ。母上の名代だけどね。」

「へえ~。」

 

 それは、『また、茉莉香とグリューエルが二人で出かけてしまう。』と、少し寂しそうにしているチアキの姿を見て、女王が昔馴染みのマイラ・グラントに連絡を取って、チアキも行けるように手配したためであった。

 もちろん、チアキとグリューエルは、銀河聖王家の姫としてではなく、宇宙海賊アンドロメダ・ジュニアと、宇宙海賊レディ・セレンディピティの名前で出席する。

 

 やがて、弁天丸Ⅱは、海賊の巣に到着した。

「ドッキング・ブリッジが、まもなくつながります。」

 ウルスラがそう言って船を操作すると、滑らかにドッキング・ブリッジが連結され、弁天丸は海賊の巣の港湾区画へ停泊した。

 

 

3 海賊の巣

 

「まだ出てこないのかぁ。もう一時間も経過しているぞ。」

「何を、やっているんだ?」

 海賊の巣に到着した弁天丸の一行を出迎えようと、ドッキング・ブリッジの前で待っていた人たちは、待ちくたびれていた。

 

 やがて、加藤茉莉香船長、宇宙海賊アンドロメダ・ジュニア(チアキ)、宇宙海賊レディ・セレンディピティ(グリューエル)、クーリエ・・・弁天丸の乗務員が続々降りてきた。

「おお~!」

「ヒュ~。船長以外の女性は、みんな派手に着飾ってるねえ。」

「それで時間がかかったのかぁ~。」

「うう~む。やっぱり、女性たちの衣装は結婚式に来たって雰囲気だねぇ。」

「お蔭で、今晩の結婚式と披露宴にむけて気分が盛り上がってきたよ。」

 出迎えの人々の視線は、着飾った女性たちに釘づけだった。

 先ほどまでの不機嫌は吹き飛び、お祭りムードが盛り上がっていた。

「ああ、やっぱり、こうなるよねえ。

 私だけ普段の船長服なんて~。

 私もドレスに着替えればよかったかなぁ。」

 出迎えの人々に挨拶しながら、茉莉香はそう思った。

 なぜ、こうなったか。それは、こんな事情だった。

 

「船長、与圧、正常。ハッチを開けてもいいですか。」

 ウルスラが艦内放送で茉莉香船長に連絡してきた。

「ちょっと待って。まだ、スージー先生が来ていないわよ。」

 茉莉香が、医師のスージーがハッチ前に来ていないことに気が付いて、彼女を待つことにした。

「いやぁ~。ゴメン。ゴメン。着替えに手間取っちゃって・・・・。」

 まもなく、スージー医師が、遅れてやってきた。

「・・・・・・・。」

 その時、他の乗務員は、スージーの華やかに着飾った姿を見て、絶句していた。 

 彼女の衣装は、女性らしい華麗さと上品さを保ちつつ、キャリアウーマンとしてのピンとした緊張感のある、おニューの濃紺の上着とミニスカに、エナメルのハイヒールだった。それだけでなく、髪、耳、首元、手首、足首と全身にダイアのアクセサリーを幾つも着け、身動きするたびにキラキラと星の光の粒がこぼれるようだった。

 一方、他の乗務員は、女性もみな普段、弁天丸で過ごしている制服姿のままだった。

「ええ!? だって、今晩の宿泊先は、ホテル・エルドラドでしょう?」

 みんなの視線を集めていることに気が付いたスージーが言った。

「みんなも知っているように、エルドラドは、その名(黄金郷)のとおり、帝都でも1、2を争う豪華なホテル。

 だから、帝都の女の子は、みんな、エルドラドに行くなら、まずエルドラドに着ていく服を買いに行くことから始めるって言うくらいなのよねえ。」

「・・・・・」

「ねえ、いくら海賊の巣にあっても、『エルドラド』は『エルドラド』でしょう?

 ねえ、そうでしょう?・・・・。」

「・・・・・・。」

 女性乗務員は、まだ絶句していた。

 ただし、その理由は変わっていた。

 まったく、スージーの言うとおりだと気が付いたからだ。

『こんな普段着の制服姿で、ホテル・エルドラドのロビーを歩きたくない!』

 みんな、そう思った。

 

「う~・・・。私、着替えてくる。」

「私も・・・。」

「メイクも、決めてこなくちゃ・・・・。」

 たちまち、ハッチ前から女性乗務員の姿が消えた。

「私も着替えようかなあ、ドレスに・・・。」

 茉莉香もつぶやいた。

「ダメよ、茉莉香は。船長なんだから、制服着用!

 まだ、入港手続きのお仕事が残っているでしょ。」

 おニューの海賊服に身を包んだチアキがダメ出しをした。

「ナハハハ・・・・。」

 

 再び、全員がハッチ前にそろった時には、一時間が経過していた。

 

 

4 結婚式

 

 結婚式は、海賊の巣にある古代宗教の礼拝堂で行われた。

 少し薄暗い礼拝堂の中はステンドグラスから青や赤の光が差し込み、荘厳な雰囲気に包まれている。礼拝堂のホールの内部には中央の通路に祭壇まで赤いじゅうたんが敷かれ、その両脇に参列者の席が設けられている。

 もちろんその赤いじゅうたんは、「ヴァージン・ロード」だ。

 参列者が待ち受ける中を、礼拝堂のオルガニストにより、荘厳かつすこし楽しそうな宗教音楽風の曲が演奏された。

 その音楽に乗って、まず、白いドレスを着た二人の小さな子供が、赤いじゅうたんの上に花びらをまきながら進んでいく。

その次に、尼僧の衣装を着た女性に先導されて、白いウエディングドレスに身を包んだリディア嬢が、両手でブーケを持ちながら一人で進んでいく。ドレスの裾は、10メートルはあろうかというほど、長くのびている。そして、その裾を別の子供たちが持って従っていく。

 

「なんて立派なウエディングドレスなの~。こんなの見たことがないわぁ~」

「花嫁さん、きれいねえ。」

「そうねえ。そう言えば、この音楽、マリア賛歌だよねえ。」

「そうそう。今の雰囲気にピッタリねえ。」

「そうね、結婚式の進行もマリア賛歌の物語とそっくりね。物語でも、シスターが先導するのよね。」

「ステキ~! 私も、こういう結婚式をあげたいわぁ・・・。」

 結婚式に参列した弁天丸の女性乗務員たちは、うっとりと眺めていた。

「ステキ! わたしも礼拝堂で式を挙げたいなあ。ねえ、いいでしょう。

でも、お母さんに聞いた話では、うちの一族では、ヴァージン・ロードは花嫁をお父さんが連れて歩くシキタリだそうだよ。うちのお父さんは、今からそれをちょっと楽しみにしているんだって。」

 式に参列していたウルスラが、小声で婚約者ブラウン中尉にささやいていた。

「マリア賛歌かぁ。オテンバ・リディアにはピッタリの曲だね。ハハハ・・・」

 式に参列していた男性の海賊たちがそう言って微笑んだ。

 

 「マリア賛歌」の物語とは、修道院の問題児、オテンバのシスター・マリアが礼拝に来た王子様に間違えてバケツ一杯の水をぶっかけてしまったが、それがキッカケとなって、王子様に見初(みそ)められ、その後、様々な困難を乗り越えて、そのお妃様になるというシンデレラ・ストーリーだった。

 リディアの結婚式は、その物語そっくりに進められていた。

それは新婦である彼女の願いだった。

 

 やがて、新婦は、礼拝堂の祭壇の前で待つ新郎と司祭役の老人の前に進んだ。

 司祭役の老人の先導で、二人は誓いの言葉を述べ、新郎が新婦にキスをした。

そして、司祭は、神の祝福の下に二人が結婚したことを告げた。

 参列者の拍手と、礼拝堂の鐘が鳴る音が響いた。

 その後、礼拝堂の入り口に参列者は集まった。新郎新婦を見送るためだ。

 歓声の中、新郎と新婦が現れた。

 

 その時、グリューエルは、礼拝堂の入り口の階段付近の、人々が集まっている場所から少し離れた位置に立っていた。

 そして、彼女は、礼拝堂の周りを見回した。礼拝堂前の広場のあちらこちらでは、昼間から大勢の大人の男女が、敷物の上に輪になって集まり、歌ったり踊ったりして騒いでいる。

「どうやら、私たちが来たために、その種の『大人のお店』は、みな臨時休業させられたのでしょうね。

 暇を持て余した方々が、昼間からお酒を召し上がって、歌って踊っていらっしゃるのでしょう・・・。」

 グリューエルはそうつぶやいて、踊っている男女を眺めていた。

 

「あっ! グリューエル、そっちに飛んで行ったよ。」

「あ、あ、地面に落ちるよ~~。取って、取って・・・!」

 

 いきなり茉莉香やほかの女性たちの声が聞こえて、よそ見をしていたグリューエルは、驚いた。そして、急いで礼拝堂の入り口の方向に向き直り、そちらの方向にいる人々を見た。

 みんな、自分の方を見ている。

 しかし、自分に、今、何が起ころうとしているのか分からなかった。

 その時、彼女の横から人影が飛び出してきた。それは警護役のキャサリンの姿だと、グリューエルも気が付いた。

「・・・・・。」

 キャサリンは、無言で、さっとグリューエルの顔に向かって飛んできたものを手で受け止めた。

「まぁ、花嫁のブーケ!」

 グリューエルは、キャサリンが手にしたものを見て言った。

「これは、姫様のものです。姫様に向かって飛んできました。」

 キャサリンは、ブーケを姫に差し出して、そう言った。

「なにをおっしゃいますの。それはあなたのものですよ。

 だから、キャサリンさん、次の花嫁は、あなたですよ。」

 グリューエルはそう言って、微笑んだ。

「うわー、キャサリンさんがブーケを取ったよ~。」

「キャサリンさん、おめでとう!」

 キャサリンは、礼拝堂の入り口付近にいた人々から祝福された。

 

 そして、その時、キャサリンは、礼拝堂の入り口にたつ新郎新婦の顔を、初めてはっきりと見た。

 新郎は、間違いなく兄のキースだった。

 彼は、にっこり笑って、キャサリンに向かって拳を握った右腕を伸ばし、親指を立てた。

「GOOD JOB !

 (次に幸せになるのは、お前だよ) 」

 そういう意味を込めたポーズで、彼は妹のキャサリンを祝福した。

 どんな時にも表情一つ変えないキャサリンも、この時ばかりは頬を上気させていた。

 

 

5 披露宴1 カードゲーム

 

「うわ~。おいしそう。」

 思わず、茉莉香が楽しそうな声を出した。

 茉莉香の座るテーブルは、メーン会場でチアキやグリューエルと一緒の中央最前列である。他に同席しているのが、弁天丸のギルバート、クーリエ、キャサリン、スージーだった。だから、今日の茉莉香はとても気楽だった。海賊会議の時とは大違いだ。

 もちろん、披露宴では、海賊の巣の名物、「おやじさん」の料理が振る舞われた。

 だから披露宴の出席者全員が、来賓の海賊たちのあいさつも聞かず、おしゃべりもせず、料理を食べることに集中していた。

 ・・・・・・・・

「ああ、おいしかったわ。これが、ミーサ先生の言う『伝説の料理人』の味ね。

 ここまで来た甲斐があったわ。」

 スージーが、至高のデザート(かき氷)を食べながら満足して言った。

 彼女は、船医は常に船長と同格のもてなしを受けると言う船乗りの伝統に従って、茉莉香と同じように招待客としてもてなされていた。

 

「では皆様、そろそろ、余興を始めます。

 まず、エキジビション競技の参加者ですが、本日は公平を期すためフォーチュン・ルーレットで決めさせていただきます。

 さあ、ルーレットを回してください。」

 司会者が、海賊の宴会で恒例となっている余興、海賊八人で争う七種競技とその勝敗への賭けを始めると告げた。もちろん参加者は、新郎新婦への祝い金として海賊宝箱一杯の金貨か黄金のインゴットが必要とされる。

 バニーガールたちがルーレットを回して、参加者の席番号を書いたメモを司会者に届けた。

「最初の参加者は、席番号が、一の二番。次は、十二の五番、・・・・」

 

「ええ・・・!?  席番号の一って、うちの一番テーブルじゃないの。

 一番テーブルの一がチアキちゃんで・・・一番の二と言うことは、・・・・」

 茉莉香が、恐る恐る、席順を数えた。

「私ですわ。茉莉香さん。」

 グリューエルが静かに言った。

「ええ!? 七種競技には、剣の勝負とか、強いお酒の一気飲みとか、危ない競技もあるんだよ、グリューエル。

 やめておいた方が・・・。」

 茉莉香が、辞退するように勧めた。

「はい。一番の二、レディ・セレンディピティ、参加します。」

 グリューエルは、茉莉香の言葉にもかかわらず、右手を挙げて立ち上がり、そう言った。

「うお~~~。」

 会場の海賊たちから、歓声が上がった。

 もちろん、会場の海賊たちにとって、「レディ・セレンディピティ」と名のるグリューエルが新しく銀河聖王家の王女となった姫であることは「公然の秘密」。だから、彼女が、オテンバぶりを発揮してどんな勝負をするか、みんな興味深々だった。

「ご心配なく、茉莉香さん。私には、幸運の女神がついておりますのよ。」

 グリューエルはすまし顔で、心配顔の茉莉香にそう言って、競技者の席に向かった。

 

「では、皆様。最初に競技の出席者をご紹介します。

 1番、レディ・セレンディピティ。」

 司会者がそう言うと、グリューエルは歓声にこたえて手を振った。

「続いて紹介します。

2番、キャプテン・フリーマンⅢ世、3番、キャプテン・フック、4番、キャプテン・ブラックサンダー、5番、キャプテン・ドナルド、6番、キャプテン・クリスタルスカル、7番、キャプテン・トーゴー、8番、キャプテン・スカイドラゴン。以上八名です。」

 みんな歓声に包まれていた。

「では、まず、第一の競技をルーレットで選びます。それ!」

 やがて、バニーガールが放った球が、ルーレットのカードゲームのところで止まった。

「皆さん、最初の競技は、カードゲームです。

 カードゲームと言えば、もちろんポーカーですよね。」

 バニーガールスタイルのきれいな女性が進み出てきた、そう言った。彼女がディーラーを務めるようだ。

「おお~」

 歓声が上がった。

 やがて、会場の中央にテーブルが出され、皆がその周りに集まってゲームの行方を見守った。

「さあ、みなさん、お手元のタブレットに誰にいくら賭けるかを入力して、

 張った! 張った!」

 司会役のバニーガールが、会場の観客に賭けを促した。

「それからもちろん、第二会場でテレビをご覧の皆さん! 張った! 張った!

 オッズは、副チャンネルの映像を見てくださいよ。」

 バニーガールは、宴会場を映すテレビカメラに向かって、声を張り上げた。

 

 披露宴は、茉莉香たちのいるメーン会場以外にも、ホテル内の第二会場とホテル外の広場を利用した第三会場があり、ここでも、海賊船の船員たちが大勢集まり、自由に飲み、食事をしていた。もちろん彼らはこれから始まるゲームと賭けを楽しみにしている。

 

 ディーラーが、テーブルを囲んだ八人にカードを配った。

『ふ~む。皆さんは、なにか、私に含むところがお有りのようですね・・・。』

 グリューエルは、ゲームの参加者をさっと見渡して、直ちにそう思った。

『カードを配るディーラーさんまで、何か私に含むところがおありのようですわ。

 なんですの?・・・・・』

 グリューエルは、参加者やディーラーの真意を見抜こうと、彼らの行動をじっくりと見ていた。

 その間に、ゲームは進んでいく。ゲームの参加者は、まず、ビッドの成立を確認する。海賊たちには、ここでいきなりパスする人はいない。参加者はすぐにドロー(カードの交換)を始めた。やがて、グリューエルがドローする順番になった。

『ワンペアの手ですから、ここは三枚交換でしょうか・・・。』

 彼女はそう思って、3枚の札を捨てて、言った。

「三枚、ください。」

 グリューエルは、自分の言葉を聞いた瞬間、ディーラーの女性が少し満足げな表情をしたことを見逃さなかった。

 彼女は、配られたカードを手に取ると、なんと3枚とも同じ数の札。

 フルハウスの手が、出来上がっていた。

『なるほど。わかりました。

 ディーラーの方は、誰にどんなカードを配るか、決める力をお持ちなのですね。

 これが、いわゆる“八百長”というものですか・・・。

 だから、一回目のゲームでは、私を勝たすおつもりなのですね。』

 その間にまたゲームは進んでいく。参加者たちは、次々と掛け金のコール(同じ額を賭ける)またはレイズ(賭け金を上げる)をしていく。

 グリューエルは、自分からはレイズをせずにコールをして受け身で振る舞った。

「最初だから、コールが一回りしたところで勝負と行こうか。」

 参加者の中で年配のキャプテン・フックが言うと、みな肯いた。

 当然、勝負はグリューエルの勝ちだった。

 

「あら、どうしましょう~。

 こんなにたくさんの黄金のチップを頂いて・・・。」

 

 グリューエルは、いかにも世間知らずのお姫様らしい、すっ呆(とぼ)けた声を出して喜んだ。

 もちろん、これを聞いて参加者や観客が微笑んだ。

 しかし、内心では、グリューエルは怒っていた。

『私のカマトト、うまく決まりましたわね。

 そして、この笑顔で皆さんの本音が分かりましたわ。

 ゲーム参加者のみなさんも、ディーラーさんも、私を適当に遊ばせて、厄介払いするおつもりなのですね。

 これでは、皆さんに、きっちりとお仕置きをして差し上げないと、私の気持ちが収まりませんわ。』

 

 グリューエルの猛攻が始まった。

 次のゲームも、グリューエルに配られたカードは、最初からツーペアが出来ており、十分に良い手だった。

『なるほど、ディーラーさんは、まだ私に勝たせるおつもりなのですね。

 でも、いつまでも、私を思い通りに動かせると思ったら大間違いですよ・・・フフフ。」

 グリューエルは、声を出さずに笑った。

 ドローはグリューエルから始まったが、彼女は、まずゲームを支配するディーラーの裏をかいて、思わぬ行動に出た。

「ワタクシ、おりますわ~。

 ねえ~、悪い手の時は、そうしてよろしいんでしょう?」

 

 グリューエルは、ディーラーの方を見て、相変わらずのカマトト調の言葉づかいで、そう言った。カードゲームのルールに不慣れな、世間知らずの姫を演じ続けることにしたのだ。

 グリューエルの声を聞いて、ディーラーは怪訝(けげん)そうな表情を一瞬、浮かべた。

「よろしいんですか、レディ? ドロップ(おりる)ばかりでは、勝てませんよ。」

 参加者の一人、年配のキャプテン・フックが言った。

「でも、先程よりは、ずいぶん手札が悪うございましたから・・・。」

「おお、姫、なりませんぞ。

このゲームではご自分の手の内をおっしゃってはなりませんぞ。

『ポーカーフェイス』と申しまして、悪い手の時でも、良い手を持っている様に振る舞って、相手の戦意をくじいて勝つのも、このゲームの醍醐味ですからなぁ、ハハハ・・・・。」

 フックは、グリューエルのカマトトに乗せられて、次第に気を緩めてきた。

 その証拠に、グリューエルのことを「姫」と呼んでしまった。正体を知っていることを認めてしまったのだ。

 この時とばかりに、ディーラーは手に持ったカードの山札を片手で素早くシャッフルした。他の参加者が気付かないほどの早業で、二番目の参加者がカードの交換枚数についてドローする前に、グリューエルに配るはずだった一枚のカードを山札の一番上から移動させて、隠したのだ。

 もちろん、グリューエルはそれを見逃さなかった。

「なるほど、こういう方法でゲームをコントロールするのですか・・・。

 でも、これほどの早業、かなりの熟練が必要でしょうねぇ・・・。」

 

 二回目のゲームが終わり、グリューエルの手札を見た参加者一同は、ため息を漏らした。

『ツーペアで、降りることはないのに~ 』

『この姫はポーカーを知らないなあ~ 』

 ため息はそう言っている様だった。

 

 三回目のゲームが始まった。

 グリューエルの最初の手札はハートのカードばかり。今回は、いきなりフラッシュが完成していた。

「なるほど。ディーラーさんは、まだ私を勝たせるおつもりですね。

 この方は女性だけあって、私のカマトトは通じにくいかもしれませんわねえ。

 それでは、勝負ですわ。」

グリューエルは、今回も、コールをしつつ、受け身で振る舞っていた。

 しかし、他の参加者がコールしている最中に、グリューエルは、大げさな動作で片手を動かして、カードをイジっていた。他の参加者から注目を集めるために・・・。

 

「ウワア~~。キャー。」

 そして、グリューエルは黄色い声を上げて、手に持っていたカードをテーブルの上に落としてしまった。相変わらずのカマトトぶりだった。

 その結果、四枚のカードが表を見せて散らばり、彼女の手はどうやらフラッシュらしいと参加者に分かってしまった。

「これは、これは、いけませんなあ。

 姫。いったい何をされていたのですかな?」

 ベテラン海賊、フリーマンⅢ世が、にこやかな表情で話しかけてきた。

「はあ、ディーラーさんのカード裁きがあまりに素晴らしいので・・・。

 私も真似をしようと、片手でカードをシャッフルしようとしていたのですが・・・。」

「ハハハ、彼女はプロですからなあ、その技は簡単にはできませんぞ・・・。」

 フリーマンⅢ世は、にこやかな表情でグリューエルにそう言ったが、すぐに顔をディーラーに向けると、少し厳しい顔をしてこう言った。

「おい。悪いが、次のゲームからカードを配るのは、透明のカードケースから一枚ずつ出す方法にしてくれ。

 シャッフルも俺たちがするからな。

 そして、次のゲームには、新しいカードを使ってくれ」

 それは、言外に『下手な八百長はやめろ』という圧力だった。

 結局、グリューエルは参加者の顔色を見て、自分より強い手を持つ者がいることが分かり、そのゲームを下りてしまった。

 

「うまくいきましたわ。これでディーラーさんは八百長が出来なくなりましたわ。」

 彼女は、海賊たちに八百長だと悟らせて、海賊たちがディーラーのカード操作を止めさせるように、仕向けたのだった。

 いつの間にか、海賊たちはグリューエルに操られていた。

「これで、カードは運任せになりました。これからが勝負ですわ。

 皆さんに、私の強運をご覧に入れますわぁ・・・。」

 グリューエルは、闘志を燃やしていた。

 

 やがて、新しいカードが配られた。

 その手を見たグリューエルは思った。

『ああ、これは面白いカードが配られましたね。

 でも、ここで喜んではいけませんわ。』

 そう思うと、グリューエルはディーラーに言った。

「あのう、ルールブックを見せて頂けませんでしょうかぁ。」

 自信の無さそうな、頼りない声を出して、グリューエルはそう言った。

「姫、ルールブックをご覧になりたいとは、どうなされました?」

 キャプテン・フックが言った。

「はぁ・・・、カードの中に、ピエロさんのような方がいらっしゃいますので、この方はお強いのかどうかと・・・・・。」

「それはジョーカーでしょう。ポーカーでは、本来使わないカードです。」

「やっぱり、そうなのですかぁ。」

「きっと、新しいカードを使った時に抜き忘れたのですね。

 カードの配り直しをしましょう。」

 キャプテン・フックが言った。

「はい。」

 そう言って、グリューエルがあっさりと捨てたカードを見て、参加者一同は驚いた。

 エースが四枚とジョーカーが一枚、フォーカードの強い手が完成していた。

黙ってジョーカーの一枚を交換すれば、このゲームは自分の勝ちだったのに・・・。それを惜しげもなく捨ててしまうとは、

『姫は、ポーカーの勝負を知らない』

 と他の参加者は思った。

 しかし、これもグリューエルの作戦だった。

『ウフフフ・・・。殿方を楽しませるのはこの辺でよろしいでしょうか。

 さあ、まいた種を狩り取りに行きますわよ。』

 グリューエルは、勝ちに行くことにした。

 

 新しいカードが配られた。

 グリューエルは、コールやレイズをしていく参加者の顔を見て、思った。

『なるほど。今回は、皆さん、なかなか良い手が出来たようですね。

 勝負する気ですね。』

 コールが一巡しても降りる者はいなかった。

「では、私は、レイズと参ります。チップを五枚、賭けますわ。」

「おお、姫も勝負されるのですね、」

「はい。降りてばかりでは面白くありませんもの。勝負ですわ・・・。」

 今回も、グリューエルはカマトト風のノンビリした調子で、『ショウブ』と言った。

「ハハハ、姫はお元気ですねえ。」

 参加者たちは、一回ぐらい姫に付き合って勝たせようかという気になっていた。

 コールが一巡して、グリューエルにまた番が回ってきた。

「では、もう五枚。グリューエル、いきま~す!」

「ハハハ・・・」

 姫の可愛い掛け声に参加者たちは笑顔を浮かべ、また同じ掛け金を出して、姫に続いた。

「も~~! 誰も私を怖がって、降りるとか、おっしゃいませんのね。」

 グリューエルは、わざとらしくすねて見せた。

「ハハハ・・・」

 参加した海賊たちは、この時はまだ笑っていた。

「もうこんなこと、何回もやるのは飽きましたわ。

 私、手元のチップを全て、賭けます。

 さあ、みなさん。私を恐れてください。私、猛獣ですよ~。」

 このグリューエルのカマトトぶりは、見事だった。

「ハハハ・・・」

 どう見てもバンビ(小鹿)にしか見えないグリューエルが、自分のことを猛獣と言ったので、参加者はまた、微笑んだ。

「では、いきましょう。姫、負ければ、『ドボン』(破産)ですぞ。」

「怖くありませんかぁ~、姫。」

 そう言って逆にグリューエルを怖がらせるようなことを言って、参加者の海賊たちは、グリューエルと同じ数の多額のチップを賭けた。チップが足りない海賊は借金をして賭けた。

 

「はい。ありがとうございます。」

 グリューエルはにっこり笑うと、参加者を眺めた。

 そのとき、グリューエルの目は、参加者の心の底を覗き込むような、不思議な威厳のある光を放っていた。

「あ、俺たち、なにか、間違ったか・・・。」

「引きずり込まれていく・・・。」

「やられた。」

 グリューエルに見つめられた参加者には、そんな思いが浮かんだが、何も言えなかった。

「では、皆さん。勝負ですわ。」

 グリューエルが、自分の手を開いた。

「ハートのロイヤル・ストレート・フラッシュ!」

「ああ・・・・」

「うわああ・・・・」

 もちろん、グリューエルの大勝ち。彼女は、テーブルいっぱいに、山のように積み重なった黄金のチップを手に入れた。

 会場は大歓声に包まれた。

 

「ディーラーさんに伺いますが・・・・。」

 ホールに観客の興奮した歓声が響く中で、グリューエルはディーラーに話しかけた。

「このチップは、この場ではお金として使えるのでしょうか?」

「はい。その通りでございます。」

「では、ホテルの支配人を読んでください。」

「はあ!?」

 

 やがて現れた支配人に向かってグリューエルが言った。

「支配人さん。

 このチップで、ホテル内の第二会場とホテル外の第三会場周辺で、この勝負をご覧の皆様に、飲めるだけのお酒と、食べられるだけのお料理を振る舞って、差し上げて下さい。」

「はい。姫様。承知いたしました。」

 

 支配人が下がると、グリューエルは、カードゲームの様子を写していたテレビカメラに向かって立ち上がり、ワイングラスを持って、言った。

「さあ。みなさん。

 花嫁、花婿の幸せを祈って、乾杯いたしましょう。

 そして、皆さん、今宵、海賊の巣のお酒を、全て、飲み干してしまいましょう!

 乾杯! 」

 これに応えて、全ての人々が、乾杯と唱和した。

 グリューエルは、グラスのワインを飲み干すと、以後の勝負を棄権すると告げて、ゲームを下りてしまった。

 

 グリューエルは、カードゲームを知らないのではない。

強すぎて参加できないのだ。

 セレンディピティという幸運の女神のように、偶然にも最強のカードを引き当てる信じられない「強運」と、見ただけで相手の真意や思惑が分かる、「王の資質」とされる目を持っているからだ。だからポーカーフェイスは彼女には通じない。

 グリューエルは、小さな子供の頃に王族の子供たちとカードゲームをしていて、自分がそのような力を授かっていることを自覚した。

 だが、彼女がその力を発揮すると、それにより負け続けた子供たちが不機嫌になっていくのを知って、悲しんだ。そして、仲良く楽しく遊ぶため、その力を発揮することに慎重になった。

 グリューエルは、今宵、仲良く楽しく遊ぶために、久々にその力を発揮した。

 




 次回は、茉莉香とチアキの活躍を中心にお届けする予定です。
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