宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 茉莉香、チアキ、グリューエルの三人は、銀河系社会の中でも、存在感を発揮し、しっかりとその地位を築いていきます。
 三人はまだ女子大生ですが、大人への道が少し見えてきます。
 でも、そんな最中に、何か大きな事件が迫ってきます。
 今回はその前編です。


第四十三章 嵐の予兆

1 司令官のユウウツ

 

「ワァ~~!」

「キャ~~!」

テレビ中継は、民衆の歓声を伝えている。

「クリスティア様とアーサー様ご夫妻を乗せたパレードの車列は、ゆっくりと帝都の中心、ガーデン・ストリートに差し掛かります。

沿道では、本日、結婚されたお二人の姿を見ようと大勢の国民や観光客が集まっています。

お二人は、笑顔で手を振っていらっしゃいます・・・・。」

 

 

「ヤッパリ、アイツ、逃げ出す気だな・・・。」

 チアキは、テレビ放送を見ながら、不機嫌な独りごとを言った。

というのも、昨日、女王と姉のクリスティア王女から次のような話を聞かされていたからだ。

 

「チアキ、第一艦隊の司令官のことだが・・・、

 明日の結婚式がすんだら、お前に頼んだ「代行」は解消して、私がやるつもりだったのだが、事情が変わった。

 実はなあ・・・・」

 そこで言葉を区切って、姉は少し顔を赤らめて言った。

「すでに、妊娠していることがわかったんだ。

 どうも体調が変だと思っていたのだがなあ・・・・。

 ハハハ・・・。」

「(ええ!)・・・・」

 チアキは驚いたが、言葉を飲み込んだ。

「チアキ。医師の話では、おなかの子は男の子だそうだ。

 アハハハ・・・。

男の子だぞ~~~男の子。」

 女王は、とてもうれしそうだった。

 こういうとき、つまり母親としての女王は、チアキがあきれるほどノー天気だった。

「それで、だなあ・・・・

チアキ。すまんが、もう少し司令官の代行を続けてくれないか。

私の出産がすむまででいいんだ。

大学の勉強もあるのに、公務までさせて、本当に済まんなあ・・・。」

 

 

「だって、アイツの妊娠なんて、予期せぬ出来事じゃないわよね。

 それに、前から、言っていたもの。」

 チアキが姉のクリスティア王女から聞いた話は、こんな話だった。

 

「孤児院で子供たちの世話をしていると、いろんな事情を抱えた子供たちがいるんだ。

 中には、心がとても傷ついている子供たちがいる。

 たとえば、宇宙船の事故で両親をなくした女の子がいたんだ。

 その子は、いつもこう言って、泣いていたよ。」

 

『私、朝起きた時、いつも、いつも、とても幸せな気分だったの。

 だって、お母さんとお父さんの楽しそうな声を聞いて目を覚ますのよ。

それに、朝ごはんや仕事に出かける支度をしている物音が聞こえてきたわ。

私がベッドを飛び出すと、朝ごはんのいいにおいが廊下まで漂ってきて、今日の朝ごはんは何か、そのにおいをかいだだけでわかったわ。

 私は、食堂まで走っていって、おはようと言って、お母さんに飛びついたわ。

 お母さんは、メアリー、おはようと言って、私を抱き上げてくれたわ。

 次は、お父さんに飛びついたわ。・・・

 私、今でも、毎朝、目が覚めるたびに、回りの物音に耳を澄ますのよ。

そして気がつくの。

ここはあたしのおうち(船)じゃない!ってね。

あんな楽しい朝は、もう二度と来ないのよ・・・』

 

「そうやって泣く子供を、私は抱きしめることしかできなかったよ。

チアキ、お前、この子の話を聞いて、どう思う?

本音のところを聞かせてほしいんだ。自分と比べて・・・。」

 クリスティ王女は、少し真剣な顔でチアキに尋ねた。

「そうですね。

 本音をはっきり言えば、たとえ短い期間でもいいから、そんな思い出を持ちたかったですね。私も、母親不在の海賊船で暮らしていましたからね。」

 チアキは、そう答えた。

もちろん、姉がそんなことを聞いてくる意図はわかっている。

 

そして、クリスティ王女は、こういった

「そうだろう・・・。

 私もそうだ。

 自分も孤児院で育って、さらに孤児院で多くの訳ありの子供たちの世話をしていたから、わかったんだ。

子供にとって親はどういう存在か、

親は子供にどうしてやればよいか、

そういうことが、痛いほどよくわかったんだ。

 だから、私は、自分が親になったら子供にこうしてやろうって、決意していることがたくさんあるんだよ。」

 

 

 テレビ中継を見ながら、キアキはそんな話を思い出していた。

 もちろんチアキはわかっている。

 姉のクリスティア王女にとっては、銀河帝国の後継者としての富や権力より、母親としての子育てのほうが大切なのだ。

 その気持ちは、痛いほどよくわかっている。

 それに血統が正統性の根源である王家にとって、後継者となる子供の育成は重要だということもわかっている。青薔薇家の後継者を育てることが、銀河聖王家の安泰を守り、それは、実際のところ宇宙の平和を守ることにつながっている。

 

 他方、チアキにも、姉に言い返したい気持ちはある。

『 私に、こんなに仕事ばっかり押し付けて、何よ。姉さんは、身勝手よ。』

『 私だって、やりたいことがいっぱいあるのよ。』

『 なんで、私ばかり、こんな思いを・・・。 』

 

しかし、チアキは、そんな思いを口に出して言えなかった。

 チアキは、そんな自分の気持ちを自ら押さえつけて、じっと重責に耐えていた。

そして母や姉の期待にこたえようとしていた。

 銀河聖王家の王族たる自分は『全知全能』の神の末裔なのだから・・・。

 

 

2 二人のお誕生会

 

「ねえ、チアキちゃん、また、出かけちゃったの~。

 次の授業まで、一時間しかないのに・・・。」

 茉莉香は、大学のカフェテリアの隅で、グリューエルとお茶をしていた。

「そうですね。でも、お時間までにはきちんと戻ってこられますよ。

 チアキさまは、そういうお方です。」

 グリューエルは、微笑みながら答えた。

「それにしても、いくらお互いが忙しいからって、わざわざ、昼間のこんな短い時間にデートすることはないと、思うんだけどねえ。」

「そういうものらしいですよ、デートというものは。

 茉莉香さんも、そういうお立場になられたら、お分かりになりますよ。」

「・・・『そういうお立場』ねえ・・・・ナハハ。」

 

「ではお聞きしますが、茉莉香さんなら、お忙しい中でたった一時間お暇ができると、どうなさいますか?」

 グリューエルが笑顔で聞いた。

「そうねえ、私なら、寝ちゃうなぁ。ヒルネ。」

「あら、まあ。」

 グリューエルは予想外の言葉に大きな口を開け、そして急いで口を手で覆った。

「だって、忙しいときに急に一時間、ヒマができると、途端に眠くなるでしょう。

 そういう時は、私、弁天丸の船長室の奥にある寝室でバッタリとね。寝るんだよ。

だって、私、どこでも、いつでも、すぐに寝られるし・・・ナハハハ。」

 

「(はあ~。)」

 グリューエルは口には出さないため息をついた。

 

「あ、そうだ。

 ヒルネ(昼寝)の前に、とっておきのプリンなんかがあると、まっさきにそれを食べるよ。一人でね。

 チアキちゃんからもらって初めて食べたんだけど、帝都で人気のスイートショップ、モロゾフィーの『プレミアム・プリン』って、本当においしいんだよねえ。

 でも、すごく人気があるから、なかなか手に入らないんだよ。

 秘密の話だけどね、私、そのプレミアム・プリンを船長室にストックしてあるんだよ。

今度、船長室で、いっしょに食べようね。」

 茉莉香は、いたずらをしている最中の子供のような、うれしそうな顔をして言った。

 

「(はあ~。)」

 グリューエルは、さらに深いため息をついた。

『茉莉香さんもお年頃なのですから、もっとトキメキのあることをなさったら・・・』

 グリューエルが別の意味で心配する、最近の茉莉香だった。

 

「う~ん。

 ところで、ねえ、グリューエル。

私から見ると、やっぱり、チアキちゃん、このごろ、忙しすぎて、すこしストレスが溜まっているんじゃないかなあ・・・。」

茉莉香は、あごに手を当てて、名探偵のマネをして、そう言った。  

「そうですねえ。

 私たちにもお話下さらない会議とかご面会が多くなっているようですねえ。」

「そうでしょう。

だって、この間までは、お姉さまの結婚式がすんだら、司令官の役割は終わりになるから、もうすぐ、ただの女子大生に戻るって、言ってたんだよ。

 それが、かえって忙しくなってるんだよねえ。

 何か、あったのかなあ。」

「そうですね。その辺のご事情もお話になりませんわねえ・・・。」

「ほら、チアキちゃんの性格だと、そんなことになっても頑張っちゃうでしょう。

 だから、心配なんだ、私。」

「そうですね。確かに。」

 

 

「あら、茉莉香様、こちらにいらしたんですかぁ。

 お探ししましたよ。」

 気がつくと、数人の女子大生たちが茉莉香を取り囲んだ。

「いやあ、ごめんね。

 ゆっくりとお茶したい気分だったので・・・。」

「ところで、先日お願いした、茉莉香様のお誕生会のことですが・・・・。」

「ご出席いただけますよねえ。」

「お仕事の日程を無理に空けていただくことになって、本当にご迷惑をおかけしているのではないかと、案じていたのですが・・・・。」

「それで、ご都合のほうは、いかがですか?」

 女子大生たちが、口々に茉莉香の返事を求めた。

 

 茉莉香は、先日、親しくなった帝国女学院の女子大生たちから、茉莉香のお誕生会を開きたいと申し込まれていたのだった。もちろん、本人の出席が前提である。

 しかし、最近の茉莉香も、とても忙しかった。

というのも、弁天丸のお仕事が大繫盛。銀河のあちこちから、お仕事の依頼が寄せられて、大学の授業への出席もままならない状況が続いていたからだ。

 

「ああ、大丈夫だよ。お仕事の日程調整ができたから・・・。」

「うわ~~~!」

 女子大生たちが大きな声で歓声を上げたため、カフェテリア中の女子学生がこちらを振り返った。

 

「ありがとうございます。」

 ケイト・ケネディが、頭を上げて丁寧に礼を言った。

「いや、こちらこそ。

だって、私のお誕生会なのに、ケイトの家でやってもらうなんて。

『ご迷惑』をかけているのは、私のほうじゃないのかなあ。」

もちろん、茉莉香の「家」は、現在、帝国軍の士官用独身寮の一室であり、大勢の友人を招いてパーティができるところではなかった。

他方、ケイトの家は、帝都のメインストリート、ガーデン・ストリートの奥まったところにある大きなお屋敷だった。彼女もお嬢様なのだ。

 

「いえいえ、母も喜んでおります。

茉莉香さんを我が家にお迎えできるなんて、光栄だと申しております。」

「ナハハ・・・そこまで言われると・・・。

 そういえば、グリューエルも出席してくれるんだよね。」

「はい。喜んで・・。」

「ああ、そういえば。ねえ、ケイト。

 チアキちゃんから、出席の返事をもらってるの?」

 茉莉香が、少し真剣な表情で聞いた。

「いえ。まだ、日程調整中としか・・・。」

「ふ~む。

チアキさんが、茉莉香さんのお誕生会にそういうご返事をされるなんて、やっぱり、本当にお忙しいんですねえ。」

 グリューエルが、しみじみといった。

 

「私のお誕生会かぁ・・・。

そういえば、一年前のお誕生会は、海明星の私の家でやったんだよね。

(「第十二章 茉莉香とチアキ 十八歳の誕生日」参照)

あれからずいぶんいろんな出来事があったよねえ。」

「そうですねえ。

 チアキ様のお誕生会も予定していたのですが、結局、開かれないままに卒業でしたね。」

「そうね。チアキちゃんは、お誕生日にお母さんに会えたんだものね。

 ということは、ねえ、グリューエル。」

「何でしょうか。」

「王室では、チアキちゃんのお誕生日に、何か、行事が予定されているのかなあ?

 グリューエルは、聞いてるの?」

 

 グリューエルは、今、銀河聖王家の王族でもあった。銀河聖王家の一家、白薔薇家の養女になったからだ。同時にセレニティ王家の王族としての身分も保持していた。

(「第三十四章 王道」参照。)

 

「私は何も聞いておりません。」

「ちょっと聞いてみてくれないかなあ。女官長さんとかに。」

「承知しましたが、茉莉香さん、どうなされるおつもりですか?」

「あのね。私、いいこと、思いついたんだ。

もし王室の行事に差し支えなければ、私たちで、チアキちゃんのお誕生会をやろうよ。

チアキちゃん、こういうことは自分からやろうと言い出さないけど、きっと喜ぶと思うよ。このごろ、チアキちゃんは忙しすぎるみたいだから、リフレッシュさせてあげようよ。

ねえ、みんなも協力してくれるよね。」

「はい。」

 茉莉香を囲む女子大生も賛成した。

「わかりました。さっそく聞いてみましょう。少しお待ちください。」

 グリューエルはそういって席をはずした。

 

 しばらくして、グリューエルが戻ってきた。

「茉莉香さん。王室のスケジュールは、大丈夫ですわ。

 それで、理由を聞かれたので、茉莉香さんのお考えをお話ししたところ、宮廷の皆様は、大喜びでしたわ。

実は、チアキ様にお誕生日の行事についてご相談しても『ちょっと待って』としか、おっしゃらないので、お困りになっていたそうです。

 それで、チアキ様さえよろしければ、王宮でお誕生会を開催されたらどうかとおっしゃってましたわ。」

「うわ~~~!」

 茉莉香を囲む女子大生たちが、また大きな歓声を上げたため、カフェテリア中の女子大生がこちらを振り返った。

 

 

 授業が始まる5分ほど前になると、帝国女学院周辺の道路において交通規制が始まり、その中を多数の黒塗りの大型車が帝国女学院のキャンパスに入ってきた。チアキと警備関係者の乗る車列である。

 やがて車列中央のリムジン車の中から、チアキが降りてきた。

 チアキは警備の人垣に囲まれ、少し表情を硬くしたまま、校舎のほうへ歩き始めた。

 そのとき、茉莉香が近寄って声をかけた。

「ねえ、チアキちゃん。

 お願いがあるんだけど、聞いてもらえるかなあ・・・。」

「なあに、茉莉香。」

 茉莉香の顔を見て、チアキの表情が少し緩んだ。

「あのねえ、チアキちゃんのお誕生会を開きたいんだけど・・・。」

「え!・・・」

 それを聞いて、チアキの表情が一変し、たちまち満面に喜びの笑みを浮かべたことは言うまでもない。

 

 

3 姫のお国入り

 

「グリューエル様の『お国入り』のスケージュールは、ご覧のとおりです。

王国を挙げての歓迎行事が予定されております。

 まず、宇宙空港でのお出迎えは、・・・」

 

 グリューエルは、帝都での生活も落ち着いたので、近況報告の名目で、セレニティ王国を訪問することになった。

 これは、『銀河聖王家との養子縁組以後、できるだけ早い時期にセレニティ王国に一時帰郷してほしい』という、セレニティ大公の意向に、ようやく答えたものだった。

 

その日程を、在銀河帝国セレニティ大使ラファイエットが、銀河聖王家白薔薇家のスチュワード侍従長立会いの下で、グリューエルに説明していた。

ラファイエット大使は、このたびのグリューエルの旅を『お国入り』と表現して、グリューエルがセレニティ王国の王族であることを強調する言葉を使っていた。もちろん大使は、グリューエルの誘拐事件後に新たに帝都に赴任してきた人物である。

(「第三十章 グリューエルの危機」参照)

 そして、大使の説明に、スチュワード侍従長が口を挟んだ。

 

「大使閣下、失礼ながら申し上げます。

 この日程では、往復の移動時間が掛かりすぎるのではございませんか。

 無理にセレニティの軍艦を使わずとも、帝国の軍艦をお使いくだされば、帝都との往復に要する時間が大幅に短縮できると存じます。」

 

 スチュワード侍従長は、通常の超高速跳躍航法を使うセレニティの軍艦では帝都からセレニティ星系までの移動には数日かかるが、時空トンネル航法ができる最新の帝国軍の軍艦を使えば、移動に要する時間は半日ほどであることを指摘した。もちろん、帝都とセレニティ星系の間には、時空トンネルの航路は開かれていない。

 グリューエルも侍従長と同じことに気づいていた。

もっとも、彼女の本音は、セレニティの軍艦でも帝国軍の軍艦でもなく、茉莉香の弁天丸で行きたいというものだったが。

 

「おっしゃる通りでございますが、

このたびのグリューエル様の『お国入り』では、ぜひともわが軍の船を使って頂きたいというのが、軍人たちの強い希望でございます。

 そのことを、グリューエル様にお会いして直接に訴えたいと、軍の三首脳が参っております。

 殿下。こちらに呼んでよろしいでしょうか。」

 

『・・・なんですって!

自分に会うために、三首脳が同時に国許(くにもと)を離れるとは・・・・! 』

 

 ラファイエット大使の意外な答えに、グリューエルは驚いた。

 軍の三首脳とは、最高司令官(国王である大公または皇太子)を補佐する、国防大臣ミラボー、参謀総長テュルゴー及び宇宙軍司令官ケッツエルの三人である。

この三人が同時に国許を離れること自体が異例である。というより、平時でもそのようなことが国防上許されないことは、軍人ではない自分でも知っている。

もちろん、軍の首脳たちがそんな不文律を知らないはずがない。

 グリューエルは、自分の知らない間に、王国に大きな変化が起きていることを実感した。

 

「わかりました。

わざわざ御出でいただいたのですから、お会いしましょう。」

 グリューエルは、緊張した声で返答した。

 

 部屋に呼ばれた三首脳は、入室後に敬礼し、そしてグリューエルの前で、三人は、片手片ひざを床につけ、さらに頭も床に着くほど低く下げ、臣下の礼を示した。

 

「殿下におかれましては、お健やかにお過ごしのこと、お喜び申し上げます。

 ・・・

 さて、本日はお願いの儀がございまして殿下の足下に参上いたしました。」

「お話をお聞きしましょう。お顔を上げてください。」

「はっ。ありがたき幸せにございます。

殿下、このたびのお国入りには、ぜひ、わが軍の軍艦(ふね)をお使いください。

 道中の殿下のご安全は、我らが命に代えましてお守り申し上げます。

 そのため、お召の船は、わが艦隊の旗艦クイーン・セレンディピティをご用意いたします。

 以上、軍を代表して、心よりお願い申し上げます。」

 

丁寧な挨拶の口上に続いて、三首脳を代表して国防大臣ミラボーがこういった。グリューエルが顔を上げてよいといったにもかかわらず、彼は、臣下の礼を維持して、顔を床に伏せたままの姿勢で軍の希望を述べた。もちろんその声は、緊張感にあふれていた。

 

 その声を聞いて、グリューエルは、彼らが国防上の不文律を無視して帝都までやってきた理由を理解した。

 それを確かめるため、グリューエルは聞いた。

「では、聞くが、そなたたち三人がそろって王国を離れた理由は何か?

 それが国防の備えに欠けることは承知していよう。」

 グリューエルの声は、とがめるような厳しいものだった。

「恐れながら、申し上げます。

 どうか、我らに、グリューエル様に忠誠を示す機会をお与えください。

 我らは、グリューエル様のいかなるご命令も、鋼(はがね)の意思を持って実行する覚悟でございます。」 

 その言葉を聞いて、グリューエルは、自分の直感が間違っていなかったことを感じた。

「そちらの、そのような言葉は、最高司令官である大公様に捧げるべきものであろう。

 軍の首脳が、私ごとき者に、軽々しく口にすべきものではない。」

 グリューエルは慎重な言葉を返した。そして、こう思った。

 

『この方たちの心にあるのは、ただ、ただ、私に対する恐怖です。

 私のことを16歳の女の姿をしたバケモノのように恐れているのでしょうね。

海賊の巣では、海賊たちからは世間知らずの小娘として侮られましたが、母国の人々からは「リバイアサン(国家権力が実体化した怪物)」のようなバケモノとして恐れられているのですか・・・。

いやはや、なんとも・・・・。』

 

グリューエルはため息をつきたい気分だった。

しかし、彼女が感じた『自分に対する恐怖』は、もっと奥深いものだった。

 

『そういう恐れの背景には、このたびのお国入りで、王室に何かが起こるかもしれないという恐れがあるのですね。たとえば、私の王位継承順位が変更されるとか・・・・。』

 

 グリューエルは、彼らの言葉遣いや振舞いから、セレニティの人々は、自分の前に二つの『航路(みち)』が開かれていると考え、恐れていると感じた。

もちろんそれは、『国王への航路(みち)』と『王権の簒奪者としての航路(みち)』であった。そして、王権の簒奪には内戦や流血を伴うことがあると恐れている。それは、歴史が教えるところであった。

 しかも、グリューエルが銀河聖王家の王族となったため、彼女を守るという名目で銀河帝国が軍を動かせば、セレニティ星系を簡単に軍事力で制圧できることも国民は承知している。

その出来事は、一般国民には他人事かもしれないが、軍人たちはその当事者である。もしも、そのとき大公が銀河帝国に対抗して軍を動かせば、軍人たちは敗北必死の戦いに赴かなければならない。そして、敗北すれば、たとえ生き残っても賊軍となる・・・。

 

 グリューエルが、それについてさらに考える前に、国防大臣が答えた。

「恐れながら申し上げます。

 グリューエル様におかれましては、近年のご活躍の際に、一度ならずわが軍と砲火を交える事態に至りましたが、これにつきましては、軍として、まことに弁解の余地のないことと存じております。

 たとえ、命令に従ってなしたこととはいえ、グリューエル様には大変ご不快な思いをさせてしまったことと存じ上げます。

このことを思い返しますと、我らは、誠に、誠に、心苦しく、胸が張り裂けそうな思いでございます。

 この上は、ただ、ただ、グリューエル様に忠誠を示すことのほか、我らがなすべきことはないと存じております。

いかようなご命令にも従う覚悟でございます。」

 

 ミラボー国防大臣は、雄弁家であった。力のこもった彼の言葉は、聞く者の心を打つ。

 

『まずは、私をクイーン・セレンディピティの玉座に座らせ、国王並みに扱おうというのですね。

そうはおっしゃいますが、この方は、心の底から、私を玉座につけようと考えているわけではありませんね。』

 

 グリューエルは、国防大臣の言葉に、他人の思いを代弁しているに過ぎない『軽々しさ』を感じた。

 彼は、自分の信念だけで行動しているわけではなかった。

確かに、軍の中には、「王位継承順位が変更され、グリューエルが国王になれば自分たちは粛清される」と恐れている者もいるのだろう。だから王室に変化が起こる前に、真っ先にグリューエルに忠誠を誓い、その歓心を買おうというのだろう。そして、国防大臣は、そんな軍人たちの意見を国防軍のトップとして代弁しているに過ぎないのだろう。

 

だが、同時に、グリューエルは、彼の言葉の中に新しい時代の流れも感じた。

それは、彼が、純粋な職業軍人でも世襲の貴族でもなく、国民の選挙で選ばれた職業政治家であることと無関係ではない。

セレニティ王国の政治改革の結果、彼のような政治家が登場したのだった。選挙で選ばれた政治家に内閣を作らせ、内閣を構成する大臣たちに国政をゆだねた結果である。

そして、政治家としての彼は、大公、王族、貴族、軍、国民各層のさまざまな思いを汲み取りながら、一歩一歩自分の行動を決めていると、グリューエルには感じられた。

 

『民主政治における政治家とは、そういう存在なのでしょうね。

もう、私がサルバトーレ・ムンディ(救世主)がどうか、議論している時代ではなくなっているのでしょうね。』

(『第四十一章 薔薇の泉』参照)

 

 そう感じると、グリューエルは次のように厳しく言い渡して、大使や軍の三首脳との会見を打ち切った。もちろん、それは、彼らの言葉にのせられ『王権の簒奪者』になる意思は無いという印象を与える言葉だった。

 

「 ミラボー国防大臣。これまでの私と軍とのかかわりを憂慮するあなたのお気持ちには感謝いたします。

しかし、案ずることはありません。私は、王族の一人として、最高司令官の命令に忠実に従い、命がけで戦った兵士を誇りに思います。そのことを軍の皆様にお伝えください。

それから、あなたの私に対するお言葉は、あなたが雄弁でいらっしゃるがゆえに、行き過ぎた響きを聞きとってしまう方々もいらっしゃるでしょう。今のお話は聞かなかったことにいたしましょう。

 往復の交通手段については、追って指示を出します。

みなさんは、今日はこれで下がりなさい。

そして国防大臣は、直ちに国許(くにもと)にお帰りなさい。」

 

 そして、グリューエルは見逃さなかった。会見を終えて部屋を出るために立ち上がったミラボー国防大臣の口元の表情は、グリューエルの厳しい言葉を聞いたにもかかわらず、満足したものであったことを。

 

『これで、軍人さんたちも少しは落ち着くでしょう。

それにしても、政治家というものは、なかなか抜け目のないヒトですね。

やはり、ミラボー大臣は、先ほどの私の言葉を職業軍人のトップである参謀総長と宇宙軍司令官に直接に聞かせるために、帝都までわざわざ三人でいらしたのでしょうね。』

グリューエルは、国防大臣の満足した表情からその意味を読み取った。

 

『それにしても、王族が「一人前の大人」として扱われるということは、とても寂しいものですね。

 みな、私を恐れ、近づこうとはいたしませんわ。

・・・

そういえば、アレックス様も王族というものは孤独なものだとおっしゃっておられましたわね。』

セレニティ大使らとの会見を終えて、自室に戻ったグリューエルはそう思った。

 

『だから、王族たる私たちにとって、茉莉香さんの存在は貴重なのですね。

・・・

決めました。

私は、弁天丸の船長室で、茉莉香さんと一緒に秘密のプリンを食べながら、セレニティに行くことにいたしましょう。

ウフフ・・・きっと、退屈しませんわ。』

そう決めると、グリューエルは微笑を浮かべた。

その微笑みは、16歳の乙女にふさわしく、明るく輝いていた。

 

 

4 三人のお仕事

 

「船長、乗組員の撤収完了です。」

「船長、ドッキング・ブリッジの収納完了です。」

「了解。さあ、弁天丸、出航。」

 茉莉香が、言った。

 弁天丸は、海賊行為を終えて、ゆっくりと豪華客船から離れていった。

 

「船長、今日の海賊ショーも大盛り上がりでしたね。」

 操舵手を務めているケイコ・サトーが茉莉香に言った。

「そうね。それにしても、ケイコやブリジットがあんなに演技力があるとは驚きだよ。

 お客さん、本気で怖がっていたよね。」

 茉莉香がほめた。

 

 ブリジットをはじめ、帝国軍の女性兵士たちも彼女らの強い希望で海賊ショーに参加し始めた。ただし、みんな、「嫁入り前」という意味不明の理由で、素顔を出さずに仮面をつけることになった。

ところが、これが面白いと評判になっていた。

 

「いやぁ~。参りましたよ。

 本物のサイボーグであるシュニッツアーさんは、お客さん、特に子供たちに大人気なんですよ。特に小さな子供たちは、彼の足をペタペタと手で触ったり、足に抱きついたりするんです。

 でも、サイボーグ女海賊の仮面をつけた私たちが銃を構えて近づくと、それまで最前列でニコニコ笑ってショーを見ていた小さな子供たちが悲鳴を上げて逃げ出すんですよ。怖がられた私たちもちょっと傷つくくらい必死の表情でね・・・。

 それで、親たちのところまで逃げると、親たちの陰から怖そうにコッチを覗いているんですよ。」

 ブリジットが、苦笑して言った。

「アハハハ・・・海賊は怖いくらいがちょうどいいのさ。」

 ブリッジのクルーたちが笑った。

 

「さ~て、次の仕事は~~。」

 茉莉香が、話題を変えた。

「え~と、次の仕事はねえ、まず、あの有名なリゾート惑星、ネオ・オアフ星に寄って環境改造キットを受け取るのよ。それをM-19019星団まで運ぶのよ。

M-19019星団は、銀河の外延からはざっと片道2万光年のところにある球状星団よね。」

クーリエが言った。

「うわ~、遠いところだねえ・・・。」

「まあ、今の弁天丸ならともかく、通常の超高速跳躍航法では、簡単には行けないところよねえ。」

「でもさあ、なんで今頃、環境改造キットを届けるの?

 そんなもの、はじめから植民船に積み込んで持っていくものでしょ?」

 茉莉香が疑問を口にした。

「そうね。M-19019星団に行った開拓移民船も、いろんなタイプの星に対応できるキットを持っていったはずなんだけどね・・・。事前の観測データは、可住惑星の適切な開発プランを決定するには不十分だったってことかしら。」

 クーリエが言った。

「それでねえ、実際に行って見ると、最初の船が持って行った環境改造キットでは、現地の星の環境条件に適合しないことがわかったそうよ。それで、温暖で海洋生物の生態系が豊かなネオ・オアフ星系統の環境を再現するキットが最適と判断したそうよ。

しかし、別のキットが必要だとわかっても、M-19019星団があまりに遠いため、それを運んでくれる船が簡単に見つからず、困っていたそうよ。」

「それで、弁天丸にお仕事の依頼が来たってわけ?」

「そうよ。名指しでね、特急料金込みの前払いよ。」 

「お~お! 儲けなくちゃ。

でもさあ~、次の航海は、全部でどのくらいの距離になるの」

「片道で、ざっと4万5千光年って、とこね。

ここからネオ・オアフ星まで1万5千光年、そこからM-19019星団まで3万光年。」

クーリエがこともなげに言った。

「うわ~、こりゃ、この前の実験航海なみの遠距離だよね。」

 百目が二人の会話に口を挟んだ。

「そういえば、M-19019星団ってどこかで聞いたことがある名前だと思ったんだけど、前に海難救助に行ったM-19003星団と番号が近いっていうことは、その近くなの。」

「そうよ。マゼラン星雲へ続く水素ガス帯の中よ。

でも、こちらのほうが銀河から近くて可住惑星が多いからって、最近、入植が始まったようね。」

「ふーん。」

 

「いやあ、楽しみだなあ。

銀河の外宇宙(そとうみ)を航海すれば、また新しい重力分布図のデータが取れますよ。

それに、今度も、予想外のイレギュラーな現象が観測できるかもしれませんね。

ワクワクしてきたなぁ・・・。」

 ブラウン中尉が言った。

「あなたも、危険な航海が大好きになったのね。

 船長の影響かしら。それとも、ウルスラちゃんの影響かしら・・・・。」

 ルカが言った。

「まあ、海賊らしくなったということで・・・・。フフフ」

 クーリエが言った。

 

 そのとき、通信要請があったことを知らせるブザーが鳴った。

「通信要請がありました。あ、次も、その次も来たわ。」

クーリエが言った。

「珍しいわね、同時に3件もあるなんて。」

 ルカが言った。

「え~と、最初の通信は、メイフラワー・モーガンさんからギルバートさん宛て。秘話回線希望よ。

 次は、グリューエル姫から船長宛よ。

 最後のは、チアキ姫から船長宛よ。これは、軍用機密回線ね。」

「私宛ての通信は、私の部屋につないでください。」

 ギルバートがそういって、ブリッジを離れようと立ち上がったときに、茉莉香と目が合った。

「船長の気持ちは、わかってますよ。内容はお知らせしますから・・・。」

 そういって、彼は微笑んだ。

「で、船長。あとはどうするの?

 どちらから、つなぎますか?」

「まず、チアキちゃんの通信につないでちょうだい。グリューエルには、こちらから掛けなおすって、伝えておいて。

 チアキちゃんが軍用機密回線を使う時って、大事な話に決まってるわ。

 あの子、そういう子だもの。」

 

 やがて、モニターには、第一艦隊司令官の軍服を来たチアキの姿が映し出された。

「船長。・・・

弁天丸が、M-19019星団に物資を運ぶ仕事を引き受けたのは、本当ですか。」

 チアキは、茉莉香のことを名前で呼ばず、船長と言った。少し緊張した表情だった。

それは、この通信がオフィシャルの立場で行われていることを告げていた。

「どうしたの? 何か変なことでも・・・」

「その仕事、断るように要請します。

理由は何でもかまいませんが、私や帝国の要請であることを明かさずにその仕事を断るよう要請します。」

「ええ!? 殿下、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか。」

 茉莉香も、事態を察して、お互いのオフィシャルな立場を踏まえて、敬語で話し始めた。

「これは一般には機密事項ですが、近々あの星団で超新星爆発が起こるという予測があります。

 でも、あの星団の入植者たちのリーダーは、その予測を信じようとしません。よい植民星をやっと見つけて、これからという時だから、信じたくないのでしょう。まだ数万年くらい先のことではないかと思っています。

だから一般の入植者たちは、事態を知らされていません。」

「ええ!? でも、そんな大事なことは公表して、みんなに避難を呼びかけたほうがよいのではないでしょうか?」

「予測を公開して余計な騒ぎとかパニックを起こさない方がいいと判断したからです。

あんな遠い宇宙空間で超新星爆発があっても銀河系には影響がほとんど無いと考えられるし、あの周辺の空間へ行く船は限られているからです。」

チアキは、オフィシャルな言葉遣いで、理由を語った。

 

「それにしても、殿下が直々に弁天丸に要請されるとは・・・」

「それは、茉莉香が乗っている船だからに、決まってるじゃないの・・・。

 ほかの船には、航路管制局経由で航海を取りやめるよう要請してるわよ。」

 チアキは、ついにタメグチで話し始めた。

「なるほど~。このお仕事を引き受ける船がなかなか見つからないって聞いていたけど、裏にそんな事情があったのね。ビックリだよ。」

 茉莉香も、タメグチで答えた。

「ビックリは、こちらのほうよ。

 あの星団付近に向かう船のリストの中に弁天丸の名前を見つけたときは、本当にビックリしたわよ。」

 

「それで、どうしてもやめろというのね。」

「そうよ。要請と言ったけど、禁止というのが本音よ。」

「う~ん、困ったなあ。

ほら、宇宙海賊船弁天丸は、頼まれたお仕事は断らないのがモットーでしょ。

それに、そんな危険な航海だからこそ、海賊船の出番なのよねえ。」

「予想通りね。茉莉香ならそう言うだろうって、思ってたわ。

 でも、今回は、私の言うことを聞いて。

私は、あなたのためを思って言っているのよ。」

「だけど、チアキちゃん。弁天丸の営業方針は昔からお客さん第一だよ。

 それはわかってくれているでしょ。」

「それは知っているけど、今回は私の言うことを聞ききなさいよ。

私は、あなたのためを思って言っているのよ。」

 

二人の押し問答は続いた。

 

「う~ん。いつものチアキちゃんらしくないなぁ。

・・・・ははあ、ということは、

 チアキちゃん、なにか私に言えない事があるのかな・・・。」

「・・・特にお話しすることはありません。」

 タメ口から急に事務的な口調になったチアキの言い方は、なにか言えない事情があるのは明らかだった。

「だったら、無理に聞かないけど、私、大丈夫だよ。

 だって、私は、海賊だもの。

 海賊は、危険を買うのがお仕事なんだよ。」

「茉莉香、今回はいつもと違うのよ。

・・・

そうね、これだけはいえるわ。

 狙われているのは、弁天丸かもしれないわよ。」

「なるほどねえ。

でも、チアキちゃん。私、覚悟できているよ。

いつでもね。どんなことでもね。

 だって、私、キャプテン茉莉香は、海賊だもの。

それも、女王陛下から黄金の髑髏を頂いた帝国海賊だよ。・・・」

 

茉莉香はそう言うと、不敵な微笑(ほほえみ)を浮かべた。

こういうときの茉莉香は、海賊ショーで口上(こうじょう)を述べて大見得(おおみえ)を切ったときのように、人々を魅了するオーラに包まれていた。

 

「待ちなさいよ、茉莉香・・・・」

「チアキちゃん。わざわざ警告してくれて、ありがと。」

 チアキはまだまだ話し続けたい様子だったが、茉莉香はそう言うと通信を打ち切った。

 

二人のやり取りを聞いていた弁天丸のブリッジは緊張に包まれた。

 

「えーっと、次はグリューエルかぁ。

 クーリエ、グリューエルにつないで。」

 弁天丸のブリッジに漂う沈黙を破って、茉莉香が言った。

 

 グリューエルからは、自分のお国入りに弁天丸を使いたいという依頼だった。

「殿下、その時期でございましたら、確かにお引き受けいたしました。

詳しい打ち合わせは、後日でよろしいですね。」

 茉莉香がお客様としてのグリューエルにそういった。

「ありがとうございます。船長。

・・・   ん?

ところで、茉莉香さん。何か、あったのですか?

 ブリッジの雰囲気が、いつもと違いますね。」

 グリューエルが、彼女なりのタメグチで言った。

彼女の目は、弁天丸のブリッジに漂う緊張した雰囲気を見逃さなかった。

「うふふ・・・。

弁天丸は海賊船だからね。そういうこともあるんですよ。

グリューエル殿下。」

茉莉香は、最初はタメグチで応じながら、最後はオフィシャルの立場を踏まえた敬語で応じて、通信を終えた。それは、この問題にかかわらないで欲しいと言う意思表示でもあった。

 

「よろしいのですか、あれで・・・。」

 いつのまにか、グリューエルとの通信を茉莉香の背後で聞いていたギルバートが言った。

「いいのよ。今回の航海では、グリューエルが密航できる余地はないわ。」

 茉莉香が答えた。

「では、ちょっと船長にご報告があります。」

「ありがとう。船長室で聞かせてもらうわ。ついてきて。」

 

 二人は、船長室に向かう廊下を並んで歩いていった。

「今、銀河で何が起ころうとしているのか、もう、メイフラワーさんはお見通しなのでしょうね。」

 茉莉香は、ギルバートの顔を見ながら言った。

「何が起こっても、私は全力であなたをお守りしますよ。」

「ありがとう。」

 茉莉香は、少し顔を赤くして、うなずいた。

 

 

グリューエルは、茉莉香との通信を終わってから少し腹を立てた。そして、今、密かに進行している事態に興味を掻き立てられた。

『ふう~~む。

チアキ様だけでなく、茉莉香さんまで、まるで「戦闘モード」のような緊張感ですわ。

しかも、お二人とも、私に内緒でお仕事を進めようとなさるなんて・・・。

・・・

でも、お二人とも、私のことを少し甘く見ていらっしゃいますよ。

 帝都にいる私には、どうせ何もできないだろうって。

 ・・・

 決めました。

私にどんな「お仕事」ができるか、ご覧に入れましょう。』

 

 そう決心すると、グリューエルは、ポーチの中から一枚のカードを取り出した。

これは彼女のとっておきの切札だった。このカードは、表面はヒュー&ドリトル社のお客様優待カードであるが、中身は海賊協会理事長マリア・レオニーニからもらった「海賊船のフリーパス」である。(参照 第二十三章 茉莉香とグリューエルの進路)

 そして、グリューエルは、カードのボタンを押して不思議な言葉(パスワード)をつぶやき始めた。海賊船を呼ぶために。

 

「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム。我は求め、訴えたり。」

 

 

 

 

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