宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 茉莉香も、チアキも、グリューエルも、大事件の中で、自分の存在感を発揮し、ひとつ、ひとつ、大人への階段を登っていきます。
 「宇宙海賊キャプテン茉莉香」いよいよ大詰めです。

 


第四十五章 大人の条件

1 海賊の戦い (銀河辺境 M-19019星団周辺)

 

「よ~し、この区画も制圧した。奥のブリッジに進むぞ。」

 宇宙海賊船ブルックリン号のダークマン船長が言った。

「ボス。その辺に、気絶して浮いている奴隷たちはどうします?」

 人工重力が切られた船内では、人間も浮き上がり漂っている。

「大事な獲物だ。手を出すなよ。」

「へ~い。」

 

 宇宙海賊船ブルックリン号のダークマン船長とその手下は、まず、電子戦で敵であるマンチュリア人の船のコントロールを乗っ取り、船内の人工重力を切断した。

続いて、敵船に攻め入り、敵の兵士たちを無重力下の白兵戦で打ち破って船内を占領しつつある。

 マンチュリアの軍人たちも必死で抵抗した。しかし、そもそも兵力が少ない上に、慣れない無重力空間で、刀剣による近接戦闘を強いられたため、これに手馴れた海賊たちの敵ではなかった。無重力空間ではチョッとした弾みで体が浮き上がり、いつものように反動を利用して刃物を振り回すこともできないため、それに適した闘い方が必要なのだ。

 

「よ~し。ブリッジのドアを、ビームガンで焼き切れ!」

「アイアイサー。」

「ドアが開いたら、不可視ガス弾を打ち込め。」

 不可視ガス弾は、宇宙船内での白兵戦用の必須アイテムだった。それは視界を遮(さえぎ)るガスを発生させる。もちろん、このガスは、敵の放ったエネルギー・ビームを吸収して、突入する味方の兵士を守る機能がある。そして、このガスにはもうひとつの重要な機能があった。

 

ドアが焼き切られると、海賊たちがいっせいに不可視ガス弾を放った。

 スガーン、スガーン!

「よし突入だ。」

 これに対抗するため、マンチュリア人のブリッジ内からビームガンの光線がドア付近に放たれたが、ビームはガスに吸収され、海賊たちには届かなかった。

 ドカーン ドカーン

 しかも、その直後、ドア付近で爆発が起こった。このため、ブリッジ内は爆風の直撃を受け、ビームガンを構えた敵の兵士たちは吹き飛ばされ、迎撃体制を崩してしまった。無重力化でも爆風の風圧は変わらないからだ。

 爆風を耐え凌ぐには無重力下に適した耐圧防御姿勢をとらねばならない。しかし、慣れない無重力下で銃の照準を合わせるのが精一杯という兵士たちにはそんなことはできなかった。

 そして爆風による混乱に乗じて、海賊たちはブリッジ内に攻め入り敵の兵士との間合いを詰め、斧や剣で戦う白兵戦に持ち込んでいった。

 海賊たちは、通常の重力がある空間と変らぬ勢いで斧や剣を振り回していた。

 そして、銃撃戦で戦う間合いを破られ、斧や剣による身体への直接攻撃に恐怖を感じた敵の兵士は、海賊のエジキになるか、降伏するかの選択を迫られる。「裏切り者」は選択の余地がないが・・・。

 たちまち、ブリッジは海賊たちに制圧された。

 これが海賊の白兵戦である。

もちろん「獲物」とされる人間は、ガスで気絶させて無傷で捕獲する段取りである。

 

 実は、ブリッジのドア付近で起きた爆発も不可視ガス攻撃の一環だった。不可視ガスはビームの透過を妨げる機能があるだけでなく、ビームの熱エネルギーを吸収してガス自体が急激に膨張して爆発を起こす機能もあるからだ。

 

「よーし。ブリッジは制圧した。一隻、取り返したぞ。

  ・・・・

 おーい。通信士、聞こえるか? 

 制圧完了だ。俺たちはもうすぐこの船を出る。

俺たちが出たら、そちらからこの船を操作して、敵の援軍が来る前にこの船を戦場から離脱させろ。お宝探しの乗員はこの船に乗せたままだぞ~。

 それから、俺たちが戻ったらすぐにブルックリン号を発進できるよう、用意をしておけ。

直ちに次の獲物を狙うからな。」

 ダークマン船長は、防護服から自分の船のブリッジに指示を出した。

 彼は急いでいた。

 もちろん、次の獲物は他の海賊に奪われる前に手に入れなければならない。

 それだけではない。彼の仲間は集団で協力して戦っているが、それは獲物を得るための必要最小限の「協力」だった。だから、自分の船が敵の反撃を受ければ、彼の仲間は彼を見捨ててそのスキに逃げ出すだろう。

 自分の身は自分で守らなくてはならない。それはお互い様だ。

 

「こちらブリッジ。アイアイサー。」

「これで、よし。

おーい。ヤロウドモ!

 次の獲物を狙いに行くぞ。

艦内に残るヤツは、これから掃討戦だ。

スミからスミまで探せ。隠れている『獲物』や『お宝』を探し出せ。」

ダークマン船長は、艦内の手下に向かって号令した。

「お~っ!」

「エヘヘヘ。ボス、裏切り者は容赦しないんですよねぇ~。」

「そうだ。いけ~。」

 

 戦いの形勢は海賊側が有利だった。

 

 

2 お客様 (弁天丸ブリッジ)

 

「船長。まもなく、M-19019星団付近の、お客様から指定された座標の通常空間に出ます。」

 ウルスラが落ち着いた声で言った。

しかも、茉莉香に対して敬語を使っていた。これは、自分たちの関係は、船長とパイロットというオフィシャルの関係であり、友人(白鳳女学院の同窓生)ではないというケジメを示していた。

「了解。この調子じゃ、指定された時間前にタッチダウンできるわね。」

 茉莉香が言った。

「船長、指定された座標は海賊たちの戦闘宙域にかなり近いと思われます。

しかも指定された空間の安全状況についても情報がありません。

ですからタッチダウン後に、非常事態と判断されれば、すぐに離脱します。」

 今、ウルスラは、戦闘宙域の真っ只中にタッチダウンすると言う最悪の事態に備えて、透明な球体型の操縦席に座って、一人で船をコントロールしていた。

つまり、船の操縦はすでに戦闘モードである。こうしておけば、船の操縦は思考制御方式で行われ、迅速な応戦や緊急の超高速跳躍ができるからだ。

他方、通常の操縦席とその両脇には、士官学校の優等生が座っている。彼らは操縦に携わっていないが、初めての実戦を経験するためとても緊張していた。

「了解。乗組員の安全第一ってことは、私も同感よ。」

 ウルスラの慎重な言葉に、船長加藤茉莉香も応じた。

「船長、白兵戦要員は船の各所でスタンバイしています。」

 シュニッツアーに代わって戦闘指揮を取るギルバートが言った。

「了解。

さあ、弁天丸、いきましょう。」

 

 

「通常空間に復帰しました。」

 ウルスラの声にブリッジは緊張に包まれた。

「レーダー、センサー、敵味方識別を開始。トレスポンダー発信して。」

 船長が声を上げたが、戦闘モードではこれらの機能はすでに自動で動き出していた。

 

 一瞬の間をおいてブリッジの立体モニターに映像が写った。

「指定された座標の付近には、お客様の船はいないわね。」

 ピ、ピ、ピー。

 そのとき、警告音が鳴った。

「重力異常を検知。エネルギー反応が強いわ。

 かなり大きな船がタッチダウンしてくるわよ。」

 クーリエが言った。

「この反応では、通常の超光速跳躍ですね。」

 少し安心した声で、ブラウン中尉が言った

「安心するのは、まだ早いわよ。」

 ルカが言った。

「おお、出てきたぞ。」

「でかい!」

「この船が、お客さんの船なの?」

「ヘンな形・・・」

 ブリッジのクルーからいっせいに声が上がった。

 

 その船は、奇抜なデザインの船を見慣れているはずの海賊船のクルーから見ても「変な形」の船だった。

 その船は、中央の大きい船の両側に、やや小さい船の胴体が連結されて、ひとつの船の構造になっていた。つまり三胴船であった。

もちろん三胴船だからクルーから「変な形」と言われたのではない。

変な形と呼ばれた理由は、三胴船の外側の二つの船体が同じ大きさではなかったからだ。つまり、この船は「船の形は左右対称」という船乗りの常識に反した不ぞろいな形をしていた。

 おそらく、この船は、当初から三胴船として建造されたものではなく、船の容量を大きくするために、有り合わせの船体を連結して三胴船に改造されたのだろう。

しかも船の甲板全体が老朽化し、古びた印象だった。

 「お客様」の船でなければ、クルーたちも「何? このボロ船は?」と即座に言ったことだろう。

 

「コンピューターの敵味方識別機能は、あの船に対して『Un-known』を表示しています。」

「ええ!? 少なくとも敵ではないと言うこと・・・?」

 茉莉香が怪訝そうに答えた

「船長、あの船から通信要請です。

 発、ビッグホープ社社長兼、宇宙移民船ビック・ホープ号船長イワン・ロゴスキー、宛、弁天丸船長加藤茉莉香殿、ですって。」

「なるほど。ビッグホープ社の船かぁ、この航海のお客様だよね。

 出ます。通信をつないで。」

「了解。」

クーリエがそういった。

 そのとき、突然、ウルスラが射撃管制用レーダーを放った。それも、最高出力で全天探索モードだった。

 続いて、重力波探査も最高感度で行った。

 これらは、戦闘開始の合図も同然だった。

「ウルスラ、お客様に向かって、いきなり何をするの?」

 茉莉香があわてて言った。

「船長。戦闘記録をみますと、この前のマンチュリア人との戦闘では、通信中に敵の強襲を受けて白兵戦に持ちこまれましたよね。(第四十章 海賊の取引 参照)

その用心です。」

 士官学校の優等生たちは、平然と返事をした。

 

「船長、ビッグホープ号からの映像がでます。」

 クーリエが淡々と言った。

 その声を聞いて、いったいどんな怪しげなヤツが現れるのだろうかと、ブリッジに緊張が走った。

「加藤船長、初めまして。私がイワン・ロゴスキーです。

 このたびは、難しい依頼を引き受けていただいて感謝します。」

 予想に反して、モニターには、若い男性が現れた。なかなかの美男子。年齢はどう見ても20代前半のようだ。

「弁天丸船長、加藤茉莉香です。初めまして。

 感謝のお言葉、ありがとうございます。弁天丸は依頼された仕事は断らないのがモットーですので、これを機会にまたのご依頼をお待ち申し上げております。」

 茉莉香は、船長として、そつのない返事をした。

だが、茉莉香も、緊張し警戒していた。

その証拠に、いつものように自分のことを「茉莉香」と呼んでくださいとは言わなかった。

「では、早速ですが、荷物の受け渡しを始めたいのですが・・・。」

「承知しました。

 ご依頼の荷物は、気密・保温の宇宙コンテナ・パッケージに入っております。

貨物室のハッチからそちらの船に向けて射出しますので、回収をお願います。」

茉莉香が答えた。

「あ! こちらから小舟を出して、そちらの船まで取りに伺うのかと思っておりましたが・・。」

「お客様にそんなお手間は取らせません。

宇宙コンテナは自走式ですので、誘導電波でお客様の船の貨物ハッチまで自分で飛びますよ。」

そう言って、茉莉香は微笑んだ。

「ええ~、いや、もう荷受のために連絡船がそちらに向かって発進してしまいました。

 困りましたねえ。コンテナを発進させず、私どもの連絡船に直接、お渡しください。」

 

 そのとき、ウルスラが、再び射撃管制レーダーによる全天走査を行った。

 このレーダー波の発信は相手の船にもわかるはずだ。射撃管制レーダー波を感知すると、自分の船が射撃の照準に入ったことを知らせる警告音がなるからだ。

 実際、茉莉香は、通信モニターを通して、相手の船のブリッジで警告音が鳴っているのを聞いた。

 しかし、ロゴスキー船長は少しも動じていなかった。

 『これは怪しい! 彼らは、絶対に、何かたくらんでいる』

  弁天丸ブリッジのクルーは、皆そう感じた。

「船長、コンテナはすでに発進を指示しています。もう取り消しはできません。」

 そう言いながら、ウルスラはコンテナを切り離すスイッチを入れていた。

 茉莉香が、百目のほうを見ると、彼も戦闘用の立体モニターを指差した。

 立体モニターには、複数の小型船がタッチダウンして、弁天丸に接近していることを示していた。

「ロゴスキー船長、別のお客様がいらしたようですので、これでご依頼の仕事は完了とさせていただきます。

 それでは・・・。」

 茉莉香が通信を切ろうとすると、ロゴスキー船長が少し悲しそうな表情で言った。

「ありがとうございます。これで私たちも最後の航海に出発できます。

 加藤船長も、御武運を・・・。」

「え!?・・・」

 茉莉香は意外な言葉に驚いたが、通信は切れてしまった。

 

「戦闘開始! 対空砲火、撃て!」

 ギルバートが命令した。

「敵の侵入を妨害するため、船体の回転、始めます。」

 ウルスラが言った。 

 そのとき、警報が鳴った。

 モニターは、不審者が侵入したことを警告している。

「やっぱり、先ほど荷物を射出した貨物ハッチから敵が侵入しているぞ。その数、8人。」

 百目が言った

「貨物ハッチ付近の第五小隊、出撃。

 他の小隊は、他の敵の進入を警戒しつつ、第五小隊の援護を準備。」

 ギルバートが指示を出した。

「パイロットのウルスラ・アブラモフです。

戦闘員以外の乗員は、白兵戦に備えシートベルト着用、確認。」

 ウルスラから号令がとんだ。この時点ですでに弁天丸の船長権限は、ウルスラが代行している。

 ウルスラの号令は、これから弁天丸船内で本気の白兵戦が始まることを告げている。

たちまち、船内は緊張感に包まれた。

「いよいよ始まりますね。」

 そう言って、貴賓室からマリア・ジュニアが、お付きの兵士を連れて現れた。

「グ・・・ええ、マリア様、シートベルトをお付けください。」

 茉莉香が、少し緊張しながら言った。

 マリア・ジュニアは、乗船後、茉莉香船長の再三の呼びかけにもかかわらず、自分は「グリューエル殿下とは関係がありません。」と言って、仮面をとらず、茉莉香を遠ざけていた。

茉莉香は、その意図がわからず困惑していた。

 

 そのとき、緊張した声でブリッジに連絡があった。

「こちら第一小隊長、ホーガンだ。

 侵入した敵は、なかなか手ごわいぞ。第五小隊が苦戦している。

ブリッジ、聞こえたら『海賊の白兵戦』に移行してくれ。

 こちらはいつでも用意はできている。」

 白兵戦全体の指揮を執る第一小隊長のホーガンから、ブリッジに報告があった。

「なるほど。そのとおりだな。

 敵は、あのベッピンさん(元セレニティ軍のキャサリン小隊長)と互角にやりあうほどの腕前だぁ。」

 貨物ハッチ付近の戦闘を艦内モニターで見ていた百目がつぶやいた。

 モニターには、剣や斧を激しく振り回して攻守が頻繁に入れ替わる、ハイレベルな近接戦闘が映し出されていた。

「では、『海賊の白兵戦』モードに移行します。

 一般乗員は、シートベルト着用!

3、2、1 ゴー。」

号令を掛けて、ウルスラは人工重力のスイッチを切った。

 

「うわ~っ!」

 

 船の人工重力が切れた後に起きた現象は強烈だった。

 すでに弁天丸は高速で自転していたので、船内のヒトやものは、いきなり強い遠心力により船の外壁に向かって押し付けられたからだ。

 弁天丸の一般船員たちは、天地がひっくり返るような圧力を受けて悲鳴をあげたが、自分の体をシートベルトで固定してなんとか座席にしがみついている。

 一方、白兵戦で闘っていた敵の兵士は、何が起こったか分からないまま、バランスを崩し側壁や天井にたたきつけられた。そのスキをついて味方の兵士たちが手馴れた動きで攻撃を仕掛ける。

「よ~し。なんとか4人、仕留めたぞ。 

ブリッジ。次の手をたのむ。」

 第一小隊長ホーガンから報告があった。それでも、まだ4人も敵が残っているという。

「了解。

 弁天丸、全速力で発進。」

 ウルスラが言った。もちろん弁天丸が全力で発進するのは、襲ってくる小型船を振り切る狙いもある。

 

 弁天丸が発進すると、今度は、いきなり体が後方へ押し付けられた。

 エンジンがかかり、前へ進む加速度が加わったためだ。

 白兵戦を闘う戦闘員は、事前にすばやく、自分のベルトからケーブルを伸ばし、艦内の各所に目立たないように設置されているフックに引っ掛け、自分の体を支える用意をしている。

 そして、弁天丸の乗員たちの体は後方に強く押し付けられる。皆、必死で耐えているが、その圧力は、1G,2G・・・と強くなっていく。この圧力は船の回転による遠心力とは比べものにならないくらい強い。

 一方、敵の兵士は、予想外に強烈なGの圧力に耐え切れずバランスを崩し、体を後部の側壁にたたきつけられた。

 これに対して、味方の兵士は強いGの圧力に耐えながら戦闘を再開し、ほかの小隊から応援にきた兵士とともに、敵の兵士に槍を突きつけ、止めを刺した。

 

「船長、侵入した敵の兵士は全員倒しました。

 白兵戦は終わりです。」

「みなさん、ありがとう。

 われわれの勝利です。」

「うお~!」

 ブリッジに歓声があがった。

 

 

3 チアキの覚悟(銀河帝国軍第一艦隊旗艦グランドマザー・ブリッジ)

 

「う~~ん。」

 チアキは、グランドマザーの貴賓席に座って、海賊とマンチュリア人の戦闘を見守っていた。ただし、その姿勢は、いすの肘掛の上に腕を立てて、その上にあごを乗せるという、お姫様らしからぬものだった。つまり待ちくたびれていたのだ。

「もう少し早く、チャ、チャッっと、決着が着かないものかしら・・・・。」

「・・・・」

 艦長のハヤマ准将は、なにも言わない。

過去の経験から、『今、両軍は必死の白兵戦中ですから・・・。』などと、当たり前のことを言うと、姫の機嫌を損ねるのは間違いないからだ。

 

「ブー、ブー・・・」

 

 そのとき、時空ナビゲーションシステムの警告音がなった。

「戦闘宙域から0.5光年離れた空間に、時空トンネルの開口部が形成されています。

船がタッチダウンしてくるようです。」

「トレスポンダーの発信をチェックしろ。」

「敵味方識別システム、起動します。」

 ブリッジはあわただしくなった。

「来たわね、茉莉香。

いちいち確認しなくても、あなただと分かるわ。」

 チアキが姿勢を正して、言った。チアキは弁天丸の到着を待っていたのだ。

また、チアキにとっては、弁天丸が戦闘宙域から少し離れた空間に現れたので、ひと安心だった。

「トレスポンダーを確認。宇宙海賊船・弁天丸です。」

 チアキの声を追いかけるように、ブリッジから応答があった。

 しばらくすると、通常の重力異常が検知された。

「船がタッチダウンしてきます。大型船のようです。」

「トレスポンダーの発信をチェック。」

「船が通常空間に復帰したら、光学映像を出せ。」

「光学映像、モニターに出します。」

「なにこれ。すごいボロ船じゃないの。」

 チアキがつぶやいた。それは、マンチュリア人の船「ビック・ホープ号」だった。

「トレスポンダー、発信していません。」

「光学映像をデータベースで検索しても、船籍を確認できません。」

「弁天丸は、あとから現れた正体不明の船に向けて、貨物コンテナを射出しました。」

「なるほど、この怪しい船が依頼主ってわけね・・・。」

 チアキがつぶやいた。

「あっ。弁天丸が船体を回転させ始めました。」

「ローリングかぁ。こいつは、海賊の白兵戦を始めているに違いない。」

 ハヤマ艦長が言った。

「ええ!? 弁天丸が襲われているの?」

 チアキは驚いてハヤマ艦長に聞いた。

「そう判断します。ですから、ただいまからこの船籍不明の船を敵船と判定します。」

 ハヤマ艦長が言った。

「それじゃあ、弁天丸に味方するの?」

 チアキが聞いた。

「いえ。われわれの今回の任務は、この戦いの観察です。手出しはできません。」

 ハヤマ艦長は静かに言った。

「・・・!」

 チアキは驚いたが、一呼吸のあと、言葉を続けた。

「まあ、茉莉香なら何とかするでしょう。応援も大勢、加わったようだし・・・。」

 チアキは、何気ない風を装って言ったが、その言葉は少し震えていた。

「姫様・・・お覚悟は、よろしいのですか?」

「大丈夫よ。陛下からもご指示があったわよ。

 私は、覚悟しているわよ。」

 チアキは大見得(おおみえ)を切った。しかし、内心は、穏やかでなかった。

 

『茉莉香・・・。とにかく頑張って、無事に乗り切って・・・・。』

 

 

4 弁天丸 参戦

 

「よーし。

 白兵戦は勝ったし、襲ってきた小型艇は振り切ったし、

 その間に、依頼主のビック・ホープ号はどこかへ行ってしまったし、

 これでお仕事は終わりね。さあ、帰ろうかなあ。」

 茉莉香がつぶやいた。

 

「船長、ブルックリン号のダークマン船長から通信要請です。」

 通信担当のクーリエが言った。もちろん、相手がダークマンと分かって、イヤな顔をしながら、そう言った。

「でます。画像をモニターに出してください。

・・・でも・・・なんか悪い予感。」

 茉莉香も、顔を曇らせた。

 

 モニターには、緊張して目をぎらつかせたダークマン船長が現れた。

「加藤船長。近くにいるんだから、オラッチに加勢してくれないか。

 ヤツラの動きが少し変なんだ。

 今までは、散開して俺たちと白兵戦を戦っていたんだが、ヤツラが急に終結して、後方に控えていた船団といっしょに楔(くさび)形の艦隊陣形を組み始めるようなんだ。

 こりゃ、何かたくらんでいるな。

たとえば、おれたちに、なんか一発、ぶっ放すつもりなんじゃないだろうかとね。」

「それは、確かに心配ですね・・・・」

 弁天丸船長加藤茉莉香は、ダークマン船長のことばに相槌(あいづち)を打ちながら、左右のクルーを見た。

 もちろん、クーリエは首を横に振っている。断れと言っているのだ。

ルカは、茉莉香と目をあわさず、天井を向いている。

一方、ギルバートは渋い顔をしながら、頷(うなづ)いた。『海賊の頼みは、断れない』と思っているようだ。

 

 その時、それまでブリッジの後ろの席に座って黙って戦況を見ていた、マリア・ジュニアがさっと立ち上がって、言った。

「船長。海賊たちに加勢してください。

 弁天丸が一緒に戦わないと、たぶん彼らは負けるでしょう。

 そしてその敗北を後で償うには、とても高い代償を払うことになると思います。」

「ですが、グ・・・お嬢様。

 なぜそのようにお考えですか。

 ご自分の手下である海賊たちを守るためですか?

 理由を聞かせていただいてもよろしいでしょうか。」

 茉莉香は、マリア・レオニーニが自分はグリューエルとは関係ないと主張していることに沿って、彼女のことを「お嬢様」と呼んだ。

「船長がご指摘のように、海賊たちを守ることが第一の理由です。

でも、船長。おかしいと思いませんか?

 海賊たちとマンチュリア人がこれだけ大規模な戦闘を繰り広げているのに、辺境の治安を担当する銀河帝国第七艦隊は動き出しません。

 それどころか、銀河帝国はこの宙域に民間船も海賊船も近づくなと警告していました。

 なぜでしょうか?」

「それは、この付近で超新星爆発が起こるかもしれないという話でしたよね。」

「でも、船長。自然現象としての超新星爆発がこのM-19019星団で発生すると、本当にお考えですか?

 そんなことは宇宙天文学の常識に反します。

なぜなら、ここには赤色巨星もブラックホールもありません。若い恒星と小さな褐色矮星だけですよ。」

「そりゃそうですが・・・。」

 そういいながら、茉莉香はチアキの警告を思い出していた。あの時、チアキは本当の理由を言わなかったのだ。

 

「銀河帝国は、何かを企んでいます。

 その結果、超新星爆発のような現象が起こるかもしれないということでしょう。

 では、何が、銀河帝国の狙いだと思いますか?

 船長。もうお分かりですよね。」

 マリア・ジュニアが、凍りつくような低い声で言った。

「銀河帝国は、今度こそ、マンチュリア人を滅ぼすつもりだと思います。

そのためには、M-19019星団や、海賊たちが巻き添えになってもかまわないと思っているのでしょう。」

「ええ!?  いったいなぜですか?

 目の前にいるマンチュリア人の船団は、銀河帝国が恐れるほどの大軍ではないでしょう?」

「私も詳しいことはわかりません。

でも、マンチュリア人は弁天丸を乗っ取ろうと狙ってきましたよね。」

 マリア・ジュニアがそういった。

「そういえば、チアキちゃん、いえ、第一艦隊司令官閣下からも『狙われているのは、弁天丸かも知れない』と、警告されていました・・・」

 茉莉香もうなずいた。茉莉香はチアキのことを公式の官職名で呼んだ。

 

 その瞬間、茉莉香の頭の中で、ばらばらな情報がひとつにつながった。

「重力兵器だ! 」

 茉莉香が叫んだ。

 

 茉莉香の言葉を聞いて、マリア・ジュニアは口元に微笑を浮かべた。

 マリアは仮面をつけているので表情からその思いを読むことはできない。しかし、口元の変化は読めた。彼女も同じ事を考えていたようだ。

「船長のお考えどおりだと思います。

 銀河帝国とマンチュリア人との戦闘は、お互いが重力兵器を打ち合う恐ろしいものになるでしょう。」

「だったら、みんなで、早く逃げなくちゃ。」

 茉莉香が言った。

「はぁ?

一緒に戦わないのですか?

弁天丸は、最新式の重力兵器を装備しているのでしょう? 」

 マリア・ジュニアは、怪訝な表情を口元に浮かべた。

「だって、銀河系の平和を守るとか、そんな本気の戦いは、海賊の仕事じゃないわよ。

 そういうことは銀河帝国にお任せして、海賊としては、巻き添えをくわないように、さっさと逃げればいいのよ。

 そうでしょ? マリア様」

 茉莉香は、左目でウインクしながら言った。

「もう~、かないませんねえ。船長には・・・。

 でも、簡単には逃がしてくれないかもしれませんよ。」

「それは、もちろん承知していますから。

 だから、こっちだって、必死に逃げますよ。ウフフフ・・・・。」

 

 茉莉香は、モニターの向こうにいるダークマン船長に向かって言った。

「船長、お待たせしました。事情は、お聞きのとおりですが・・・。

 とにかく、いっしょに逃げましょう。

 今すぐに、そちらへ向かいます。」

「おう。ありがたいねえ。

 それでこそ、海賊の仲間だ。」 

 ダークマン船長は、茉莉香に向かってそう言うと、通信を切った。

「さあ、弁天丸、行きましょう。」

 茉莉香が言った。

 弁天丸は、戦場のど真ん中に向かって、超高速跳躍した。

 

 

5 弁天丸vs.マンチュリア艦隊

 

「船長のみなさん、弁天丸船長の加藤茉莉香です。

 みなさんに危険が迫っています。少しでも早く逃げましょう。

 弁天丸がタッチダウンしたら、その後方に集合して、密集陣形を作ってください。

 弁天丸がみなさんを時空トンネルで、安全なところまで運びます。」

 茉莉香は、タッチダウン前から超光速通信で各海賊船の船長に呼びかけた。

 

「ええ? なぜ逃げるんだ!?

 今、営業中だぞ。これから美味しいところなのに・・・・。」

「弁天丸も一緒に闘ってくれるんじゃないのか?」

 しかし、各船長たちは、事情が分からず戸惑っていた。

「皆さん、聞いてください。

これから銀河帝国とマンチュリア人の本気の戦争が始まります。

 それに巻き込まれないように、すぐに逃げる必要があるんです。」

 茉莉香は必死に説得した。しかし、海賊船の船長たちは茉莉香の言葉を信じなかった。

 その時、マリア・レオニーニがモニターに現れて呼びかけた。

「みなさん、マリア・レオニーニです。

 この宙域は、銀河帝国が航海禁止にしていたことをご存知でしょう。

 戦闘による爆発に巻き込まれないように、今すぐに逃げましょう。」

「ありがてえ。 マリア様、御礼、申し上げます。

 おい、ヤロウドモ。俺は、先に逃げるからな。アバヨ。

 こんなヤバイところに残りたいヤツは、残りな~。」

 ダークマン船長が、二人の呼びかけに、真っ先に反応した。

「ええ!? あのダークマンが逃げるのかぁ。」

 ダークマン船長の話を聞いて他の船長に動揺が広がった。

 

「弁天丸。まもなく、タッチダウンします。」

 ウルスラが言った。

 弁天丸は、海賊船団の前方にタッチダウンし、マンチュリア人の船団と向き合った。

 同時に、すべての海賊船が弁天丸の後方に集合して、密集陣形を作りはじめた。

 みな、茉莉香とマリア・ジュニアの呼びかけに応じた。

「よかったなあ。みんな従ってくれて・・・。」

 茉莉香はほっとした。

 

 ビッ、ビッ、ビッ・・・

 

 その時、弁天丸のブリッジに警報が鳴った。

「船長、マンチュリア人の船団から、一斉砲撃です。

 いまのところ、有効射程の外から撃ってきますけど・・・。」

 ウルスラが報告した。

「射程の外ってなに? 当たらないのを承知で撃っているの?

 彼らもプロでしょう。どうしてそんなことをするの?」

 茉莉香が怪訝(けげん)な顔をした。

「たぶん、私たちの注意をひきつけるためでしょう。

 ダークマン船長が言ったように、私たちをひきつけて、『なにか一発ぶっ放す』というのを狙っているのでしょうか。」

 ギルバートが言った。

「なるほど。やってくれるわね。

 それじゃあ、こちらからも一発お見舞いしようかしら。

 ねえ、ウルスラ。あれ、やってくれないかなぁ。」

 茉莉香がウルスラにたのんだ。

「ええ!? すぐに逃げないで、タッチ・アンド・ゴーをするんですか?」

「海賊の意地よ。

 私たちは負けてないというところを見せるのよ。」

「フフフ・・・(茉莉香らしいなぁ)

 いいですよ。船長の頼みとあらば。」

「ありがとう。ただし、一撃離脱でお願いね。

 敵が次の攻撃に備えて身構えているスキに、逃げ出すのよ。

こんなヤバイ空間、ユックリと遊んでいられないからね。」

「ええ!また驚いたなあ。

 でも、なるほどねえ、さすが茉莉香。第二次攻撃をスッポカして逃げるのね。

 この戦法にこんな使い方もあるんだぁ。フフフ・・・了解。」

 

「パイロットのウルスラです。

 これから、タッチ・アンド・ゴーをやります。

 乗員は、シートベルト着用確認。」

 ウルスラが、船内に放送した。

「ええ~!?」

「うわあ、あ~ぁ!」

「キャー」

 タッチ・アンド・ゴーをやるという放送を聞いた乗員は、表情が青ざめた。

 そもそも超高速跳躍における亜空間突入とタッチダウンの際に、乗員は、通常空間と亜空間を渡る間の独特の浮遊感覚に襲われる。これは、慣れない一般乗員には大変なストレスである。

 それでも、一日一回とか、数時間に一回というようなペースで行うならば、なんとか耐えられる。

 しかし、「タッチ・アンド・ゴー」は、一分から三分という極めて短い間隔で何回も通常空間と亜空間を行き来し、短い時間の攻撃を繰り返す戦闘方法である。その際には、上下左右の方向感覚まで頻繁に転換を迫られる。

 この連続した空間転移のストレスに耐えられない者は、一種の「船酔い」で気分が悪くなり、なかには嘔吐する者まで出るという。

しかも乗務員は戦闘中のおのおのの業務をしながらこれに耐えなければならない。これはベテラン船員でも「地獄」と言われている。

 タッチ・アンド・ゴーの経験者はウルスラだけという弁天丸のブリッジ乗務員は不安のどん底に突き落とされた。

 

『人前でゲロ吐いたら・・・』

『そんなところをみんなに見られるなんて・・・』

『も~・・・恥ずかしくて生きていけないよう・・・・。』

『もしそうなったら、どうしよう・・・・。』

 

 そんな『嫁入り前』の若い女性乗務員の心配を知らないかのように、ウルスラは重力波を発射して時空トンネルを展開していった。

「海賊船の皆さん、時空トンネルを開きました。

 弁天丸に続いて、亜空間に突入してください。」

 茉莉香船長が言った。

「了解。」

 

 ビービービー  

 

 その時、時空ナビから警報が鳴った。

「ああ、マンチュリア人の船から、強力な重力波が出たぞ。

 もう避けられない。こちらの時空トンネルとぶつかる。」

 百目が言った。

「大丈夫。弁天丸のほうがパワーは強いです。」

 ブラウン中尉が言った。

「船長。大丈夫です。 弁天丸、このまま、時空トンネルに突入しましょう。」

 ウルスラも続いた。

「了解。

 さあ、海賊船の皆さん、弁天丸の後に続いて、時空トンネルに入って下さい。

 いくよ、みんな。 弁天丸、全力推進!」

 茉莉香が言った。

 

 弁天丸と海賊船団は、時空トンネルに入った。

 

「船長、海賊船団は百光年先のトンネル出口へ送り出しました。

 それでは、弁天丸は、マンチュリア人の船に一発お見舞いしますよ。」

「了解。やって頂戴。宇宙海賊の手ごわいところをお見せしないとね。」

 

 

 このとき、銀河帝国軍第一艦隊旗艦グランドマザーのブリッジでは、戦況を見守っていたハヤマ艦長が言った。

「姫様。今の重力波砲の一撃で、敵が重力兵器を保有しているのが明らかになりました。

 いかがいたしますか?」

「弁天丸や海賊船はどうなったの? 亜空間に無事でいるんでしょう?」

「時空ナビでは、弁天丸と海賊船は自らの時空トンネルを航行しているようです。」

「では、重力粒子砲、発射用意。

 照準は、作戦通り、マンチュリア人の艦隊を打ち抜いて、褐色矮星M-19019-31に向かう角度にしてください。

 これで、『千年戦争』に決着をつけるわ。」

 チアキは、約900年前からの、銀河帝国とマンチュリア人との因縁の戦いを『千年戦争』と呼んだ。

「照準セットできました。」

「では、発射。」

 第一艦隊総司令官であるチアキが、命令した。

 

 

 そのころ、マンチュリア人の船団の旗艦、レコンキスタ号のブリッジは勝利に酔っていた。

「重力波砲の試射は、成功です。」

「やったぞ。弁天丸や海賊船たちを、重力波砲で吹っ飛ばしたぞ。

 今頃、ヤツラは宇宙の果てまで吹き飛んでいるぞ。」

「ああ、われらの祖先に感謝だ。われらもついに重力兵器をもったぞ。」

「これで、銀河帝国と互角の勝負ができる。祖先の恨みを晴らせるぞ。」

 

 その時、弁天丸は、マンチュリア人の船団の後方にタッチダウンした。そして、直ちにビーム砲の一斉射撃を行った。

 予想外の角度から、突然、攻撃を受けたマンチュリア人の船団は、混乱した。

 

 

 このとき、銀河帝国軍第一艦隊旗艦グランドマザーのブリッジでは、時空ナビを見守っていた通信士が言った。

「弁天丸が、通常空間にタッチダウンしてきました。

 敵の船団を攻撃しています。」

「なにをやってるの。茉莉香。

 もう、重力粒子砲を撃てと命令しちゃったわよ。」

 チアキがあわてていた。このままでは茉莉香の乗る弁天丸も爆発に巻き込まれると思ったのだ。

 

 

 そのころ、マンチュリア人の船団の旗艦、レコンキスタ号のブリッジでは、体制を立て直して、突然現れた船に反撃しようとしていた。

「タッチダウンしてきた船は誰だ。敵か。銀河帝国か?」

「トレスポンダー確認。攻撃してきたのは、弁天丸一隻です。」

「弁天丸だと・・・ヤツラは吹き飛ばされたんじゃなかったのか。」

「とにかく、たった一隻でこちらを攻撃してくるなんて、我々をナメているぞ。

 よし、撃て! 相手はたった一隻だ。打ち落とせ。」

「了解。射撃管制レーダー確認。撃ちま・・・・。

 あっ。艦長、大変です。

 弁天丸のレーダー映像が消えました。ヤツは、また亜空間に消えてしまいました。」

「ふう~ん、・・・逃げたのかぁ。

 それにしても逃げ足が速すぎる・・・・。

 もしや、これがウワサに聞いた帝国軍の新戦法、タッチ・アンド・ゴーかもしれん。

 おい、弁天丸の第二次攻撃に警戒しろ。今度は、真下からくるかもしれんぞ。

レーダーの全天走査を続けろ。・・・。」

  ・・・・・

「艦長、何かが左舷からタッチダウンしてきます。」

「よし、それが弁天丸だ。向こうがタッチダウン次第、打つぞ。

 主砲一斉射撃、用意。」

「了解。」

「まもなく、敵がタッチダウンしてきます・・・・

 ええ!?

 艦長、タッチダウンしてくる『敵船』の質量が弁天丸に比べて異様に大きいです。

 いや、質量じゃない、エネルギーがケタ外れに大きいんです。

 これは?・・・・」

 

 次の瞬間、亜空間から重力粒子砲の攻撃を受けたマンチュリア人の船団は、消滅した。

 重力粒子砲は、亜空間からでも通常空間の標的を攻撃できる兵器である。重力は、多次元空間を通過できる万能の力であり、その粒子としての性質を利用した重力粒子砲は、多次元宇宙を貫く究極の兵器であった。

 そして、放たれた重力粒子線のエネルギーは、敵艦隊を消滅させても衰えず、そのまま導かれるように進んで、付近の褐色矮星M-19019-31を直撃した。

 褐色矮星は、急に輝き始めて星自体も膨張を始めた。星内部の温度と圧力が高まっている。超新星のような爆発の兆候が現れ始めたのだ。 

 

 このとき、銀河帝国軍第一艦隊旗艦グランドマザーのブリッジでは、冷静に戦況を分析していた。

「マンチュリア人の船団は、消滅しました。

 なお、褐色矮星M-19019-31は、膨張を始めました。まもなく爆発を起こすと思われます。

 いまのところ、この星系の可住惑星β星から避難船が発進するような動きはありません。」

 β星は、マンチュリア人が開拓していた星である。爆発が起きれば可住惑星も吹き飛んでしまうだろう。その星には多数の非戦闘員も住んでいるだろう。

この攻撃命令は、それらの人々を犠牲にすることも覚悟の上で発せられた。

 

「弁天丸はどうしたの?亜空間へ離脱したんでしょう?」

 チアキが聞いた。

「最後の観測データではおっしゃるとおりです。

ですが、現在位置は、いまのところ、確認できません。重力波の乱れが大きく、亜空間が波立っていますので・・・。」

 時空ナビ担当者が答えた。

「まあ、大丈夫でしょうねえ。

 茉莉香は、逃げるのはお得意だから、ねえ、ハヤマ艦長。」

 チアキが言った。

「そうですね。初めて彼女に会ったときも、そうでしたね。」

 ハヤマ艦長も言った。(第三章 練習航海1 海賊教師の正体 参照。)

「そうね。茉莉香らしいわ。フフフ・・・」

「よし。任務終了。天文観測者に見つからないように、すみやかに銀河系に帰還する。

 グランドマザー、発進。」

 艦長のハヤマ将軍が言った。

「了解。発進します。」

 グランドマザーは、亜空間を銀河系に向かって進み始めた。

 

「姫様、お疲れ様でした。任務終了です。良くご決断なさいました。」

 ハヤマ艦長がチアキに言った。

「もちろんよ、こういう命令を発するのは、王族たるものの義務よ。」

 チアキは、元気そうに答えたが、その顔は笑っていなかった。

 チアキの心には、次のような緊張感がみなぎっていた。

 

『自分は、大人の王族としての一歩を踏み出した。』

 

 

6 大人の海賊

 

「うわあ~。危ないところだったよう・・・!」

 パイロットのウルスラが、大きな声を上げた。

「どうしたんですか?」

「何が起こったんですか?」

 ブリッジのクルーが、次々とウルスラに声を掛けた。

「大丈夫?」

 ウルスラの婚約者ブラウン中尉も、声を掛けた。

「いやあ~。ダーリン。

 もうすこし超高速跳躍が遅れたら、弁天丸もやられてたよ~。」

「ええ!? どういうこと?」

 茉莉香が驚いて、口を挟んだ。

「いやあ。私たちが亜空間に入った直ぐあとに、重力粒子砲が発射され、敵艦隊は消滅したようなんだよ。

 それだけじゃない。付近の褐色矮星に爆発の兆候がでている。」

「じゃあ、その星が爆発したら、周辺の可住惑星もそこに住んでいる人々も吹っ飛ばされてしまうじゃないですか!?」

 ブラウン中尉が言った。

「ええ! 誰が、重力粒子砲なんか、ぶっ放したの!?」

 茉莉香が驚いて聞いた。

「船長。そんなことのできる者は、決まっていますわ。」

 マリア・ジュニアが、こともなげに言った。

「そうね。銀河帝国だけだよね~。そんなことのできるのは・・・。

 ということは、チアキちゃん、もしかするとその辺に隠れていたのかなあ。」

「そうですねえ。

 何も話していただけなかったのは、そういうことだったんですね。」

 マリア・ジュニアが、少し寂しげに言った。

 

『? 

 そんなチアキちゃんとの経緯(いきさつ)を知っているのは、私とグリューエルだけのはずなんだけどなぁ・・・・。』

 そう思いながら、茉莉香は微笑んだ。

 

「船長、まもなく当初の目的地の宇宙空間にタッチダウンします。」

「了解。」

 やがて、弁天丸は、通常空間に復帰した。

「あ、船長、ビック・ホープ号がいます。

 それも、海賊船団とビック・ホープ号が戦闘モードで向き合っています。」

 ウルスラが言った。

「ええ!? 」

 茉莉香が驚いているところに、クーリエが不機嫌そうに言った。

「船長。ブルックリン号のダークマン船長から通信要請です。」

「でます。」

 やがて、モニターにダークマン船長の顔が現れた。

 

「よう。加藤船長、無事、逃げおおせたようだね。」

「いやあ~、それより、この戦闘状態は何ですか?

 何か、あったのですか?」

「それは、俺たちが聞きたいところだよ。

 ビッグ・ホープ号は、お前さんのお客さんだろう。何かあったのかい?

 向こうはいきなりケンカ腰なんだよ。」

「はあ・・・。事情を聞いて見ます。」

「まあ、なんだなあ。アイツのお相手は、弁天丸にお願いして、俺たちはこの辺で失礼するとするか。世話になったな。

 マリア様、ありがとうございました。おかげで、命拾いいたしました。

 加藤船長にも、世話になったな。

 またオラッチに何か頼みごとがあったら遠慮なく言ってくれ。力になるぜ。」

 ダークマン船長が言った。

「あ、それじゃあ、事情は後でご連絡します・・・。超新星爆発を避けて、安全なルートでお帰りください。」

 茉莉香は、そう言って通信を終えた。

「船長。アイツ、船長の前では猫かぶってますよ。

 弁天丸が来なければ、あの船を襲う気だったのでしょうね。 」

 クーリエがあきれて言った。

「そこまでいかなくとも、面倒な海難救助の義務を弁天丸に押し付けて逃げたって読みもあるわね。

 あんなボロボロのビック・ホープ号は、どうみても、獲物というより厄介物の遭難船よね。」

 ルカが言った。

 

 その時、茉莉香は、ダークマン船長が最後に言った言葉の意味を十分理解していなかった。あの言葉は、弁天丸の加藤茉莉香船長を「海賊の取引」の相手として認めると言う意味だった。それは、「女子高生海賊」でもない、「女子大生海賊」でもない、対等の貸し借りができる「大人の海賊」として認めると言うことを意味していた。

 もちろん、マリア・ジュニア・レオニーニは、素顔を見せないまま、宇宙マフィアの後継者としてその実力を海賊たちに認められた。

 

 

7 伝説の星

 

 やがて、ビック・ホープ号と通信がつながった。

「弁天丸船長、加藤茉莉香です。

 こんなところに停泊されているようですが、どうなさいましたか。」

「宇宙移民船ビック・ホープ号船長イワン・ロゴスキーです。

 また船長にお目にかかれるということは、・・・戦闘は終わったのですか?」

「・・・・終わりました。」

 茉莉香は、少し寂しげに言った。

「・・・そうですか。・・・・」

 イワン船長は、少し沈黙し、そして気持ちを切り替えるように語った。

「私たちだけになったのなら、もはや沈黙する必要はないでしょう。

 私たちの話を聞いていただけますか。

 まず、今の状態ですが、タッチダウンの空間がずれて、目標の星を見失ってしまったの で、それを探しているところです。」

「どこの星を目指しているのですか。

 このあたりのマゼラン星雲へつづく宇宙は、銀河帝国の海図もないところだと思いますが。」

「マリア様が、神の啓示で授かったもうひとつの新天地を目指しているんです。」

「ええ!? 惑星ライセのほかに、移住の候補地があったのですか?」

「さすが、船長はよくご存知ですね。

 そうです。宇宙マフィアの安住の地として、マリア様は、アンドロメダ銀河に続く道の中と、マゼラン星雲に続く道の中にそれぞれ候補となる星を示されたのです。

 結局、宇宙マフィアは、アンドロメダ銀河に続く道の中にある星を選びました。それが、茉莉香さんもご存知の惑星ライセです。」

「では、マゼラン星雲に続く道の中にある星の位置は、分かっているのですか?」

「正確な位置はわかりません。ある特定の恒星を目指すことだけが伝えられています。」

「それで、タッチダウンして誤差修正に手間取っておられたのですか・・・。」

 茉莉香が深刻そうな表情で黙ってしまった。

行き先を見失ったということは、遭難も同然の深刻な事態だと思ったからだ。

 

「あの~、ちょっと、質問をしてもよろしいですか。

 みなさんは、どうして、場所も定かでない新天地を目指して旅をしようとされたのですか?

 あのM-19019星団の可住惑星は、皆さんが住めないほど人口過剰ではなかったでしょう?」

 突然、マリア・レオニーニが話に加わった。

「それは、・・・・」

 イワン船長は、口ごもった。

「あのう、大変失礼な言い方ですが、もしかして、逃げ出してこられたのですか?」

 マリアが言った。

「・・・もう隠すこともありませんね。お話しましょう。

 私たちは、マンチュリア社会の差別から逃れるために、新天地に旅立つことにしたのです。私たちの旅立ちに当たって、王政府はこの船を与えて送り出してくれました。」

 

 マリアは、『そのために、こんな古い船を・・・』と言いかけて黙った。

 マリアは真実を悟ったからだ。先ほどから、イワン船長の背後で動く、ブリッジのクルーの姿が見えていたが、彼らを眺めていて真実を悟ったのだ。

「あの~、大変失礼なことを申し上げるかもしれませんが、ブリッジの皆さんのお顔を拝見していると、とても良く似ていらっしゃるんですが・・・。

 そのことが、皆さんがあの星を脱出した理由と、なにか関連があるのでしょうか。」

 マリアは、遠まわしな言い方で真相を尋ねた。彼女は、乗員の多くがマンチュリアのクローン人間かその子孫ではないかと思ったので、そういった。

「お気づきになられましたか。

 そうです。私たちは、マンチュリア人と他の部族の混血人種なのです。

 その昔、M-19019星団の可住惑星に流れ着いた祖先の人々は、文明を失い滅亡の危機に瀕しながら、必死に生き抜いたのです。

 その過程で伝統的な身分階級制度は崩れ、部族間の混血が始まりました。

 私たちはその混血人の末裔です。」

「やはり、そういうことだったのですね。」

「そうです。

 でも、銀河系の人々と連絡がついて生存の危機が去ると、再び伝統的な身分制度を復活させようという動きが強くなりました。

 その結果、居場所のなくなった私たちは、再度、宇宙移民に出発すべきだと言うことになりました。

 そして、私はマンチュリア王族の血を引く混血人だということで、この移民船のリーダーに選ばれたのです。」

「なるほど。それで新しい惑星開発キットが必要になり、弁天丸が運んだわけですね。」

 茉莉香が納得していった。

 しかし、マリアの反応は違っていた。

 

『なんということでしょう!?

 これでは棄民ではないですか。

セレニティ王国において、クイーンセレンディピティが移民船として出発させられた理由と同じではないですか! 』(第四十一章 薔薇の泉 参照)

 マリアは、口には出さなかったが、最初は怒り、そして次に悲しい気分になった。

『なんとか、この人々を助けて差し上げたい。

 この人たちは、セレニティ王国の祖先と同じ境遇ですから。』

 

 マリアは、悲しい思いがあふれ、モニターパネルに写ったイワン船長の顔を正視できずに目を伏せた。すると、弁天丸の武器管制パネルに設置されている認証装置が目に入った。

 

『あっ。これは、ブラックマター。

 弁天丸の認証装置には、ブラックマターがセットされているではありませんか。

 これがあれば、今の私なら、この人たちを救う道を示せるかもしれません。』

 

 そう思うと、マリアは、認証装置の中の黒いボールに手を当てて、目を閉じて祈った。

 この人たちに救いの道を示して欲しいと。

 

「どうされたのですか? マリア様」

 茉莉香は、マリアが認証装置に手を当てて祈っていることに気がついた。

 

「あっ。時空ナビが動き出した。なんか映像が出るぞ。」

 ブリッジの百目が叫んだ。

「ああ、これは、いったいなに?」

 茉莉香は、ブリッジの空間に浮かんだ立体映像を見て、思わず叫んだ。

 

 その映像は、銀河系から星々が細長くヒモのように伸びてつらなるものだった。これはどう見ても宇宙の海図だった。

 そして、そのうちの銀河系から程近い一点で、赤い光が点滅していた。さらに細長く連なる星々の中ほどにある一点が、青く点滅していた。

「これは、マゼラン星雲と銀河系を結ぶ海図かなぁ。

 そうだとすると、赤い点は、銀河系との位置関係から見て、どうやら弁天丸の現在位置だな。

 では、青い点はなんだぁ?」

 百目が、映像を観察してつぶやいた。

「さすが、百目さん。カンがいいですね。

 その赤い点は弁天丸の位置、青い点はビック・ホープ号が目指す星の位置を示しています。」

 マリアが言った。

「それで、時空ナビでは、弁天丸からこの星までの距離は、約7万光年と表示されていますよ。」

機関士のブラウン中尉が言った。

「ええ? 時空ナビでこの海図が読めるんですか?」

 マリアが驚いた。

「ええ!? 読めるから表示されたんでしょう?・・・・・!

 あ、そうかあ。

 よく考えるとこの宙域は人類にとっては未踏の宇宙。海図なんかあるはずがないですね。

 ならば、この海図は誰が作ったんでしょうか? ふ~む・・・」

 機関士のブラウン中尉が言った。

「そういう難しいことはあとでユックリご相談することにしましょう。フフフ・・・。

 それより、茉莉香さん。

 ビック・ホープ号をあの星まで運んで差し上げてください。

 この海図があれば、できるでしょう。」

 マリアは、ブラックマターの秘密を話すわけにいかないので話をそらした。

「ええ!? だってこの海図の情報で、時空トンネルの航路をセットできるんですか?

 それに信用してよいのでしょうか?

 誰が作ったかわからない海図なんですよ。」

 茉莉香も、秘密を知らないことを示すために、大げさに驚いた表情で言った。

「大丈夫です。恐らく、この海図に示された星が伝説の星でしょう。

 航海士さん、コンピューターで時空トンネルの航路がセットできるか、試してみてください。」

 そういいながら、マリア・レオニーニは微笑んだ。

「あっ。時空トンネルの航路がセットでましたよ、船長。マリア様

 あっさりと、いとも簡単に。」

 航海士を勤めるケイコは驚いた。

「 ということは、この目的地は本物の『伝説の星』なんでしょうか?

 私の聞いている伝説の星という話は、マリア様が啓示を受けて授かったもの・・・。

 ・・・・

 そうか、レオニーニ家の後継者、マリア様だからこそ、出来ることなんですね。」

 旧宇宙マフィアの一員だったケイコは、自分で自分に言い聞かせるように言った。

「船長、改めて、お願いします。」

 マリアが言った。

「う~ん。お嬢様なら、なんでもアリかぁ~。

 でも、ビック・ホープ号のイワン船長に、意見を聞いてみるかなぁ。

 ・・・・

 イワン船長、お聞き及びの通り、リスクの高い選択なのですが・・いかが致しましょうか?」

 

 しかし、茉莉香が言葉を言い終わらないうちに、モニターの向こうから歓声が聞こえた。

「ウワ~。助かったア~。」

 そして、喜びにあふれた大勢の若い男女が、モニター画面に顔を出した。

「加藤船長、ヨロシクお願いします。

 もう、私たちには帰る星はないのですから・・・。」

 イワン船長が言った。

 

 

 弁天丸は、ビック・ホープ号を伴い、7万光年先にある、伝説の星に向かって航海を始めた。

 

 

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