宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編- 作:gonzakato
すぐに寝付いた茉莉香は、夢の中で自分の探していた答えを知ります。
緊張したためなかなか眠れなかった、チアキは王宮の庭園に星空を見に行きます。
星空を見ながら、チアキは、王女と女王が楽しそうに話している姿を思い出して、自分も母親を探そうと決意します。そこに、突然、女王が現れますが・・・。
さらに、クリスティア王女は、ヨット部員達に銀河帝国の女王と帝国海賊との関わりを語り始めました。そして、王女がヨット部員を連れて参加する「海賊ショー」の本当の意味が次第に明らかになっていきます。
5-1 アン女王の部屋(第二クリスタルパレス内)
クリスティア王女が、茉莉香とチアキに帝国の情勢を話していると、女官がやってきて、女王陛下からの伝言を王女に伝えた。
「女王陛下が、みなさまをお夜食にお招きです。」
「私たち三人をお招きということか。」
「そうでございます。」
「では、直ちに参りますとお伝えして下さい。」王女が答えた。
「えー!! 女王陛下とお食事ですかぁ。
王女様、お洋服は何を着ていけば良いんでしょうか?
私は、フリルのいっぱい付いたピンクのドレスとか、エナメルの靴とか、かわいいアクセサリーとか、手袋とか、バッグとか、何も持ってきていませんよ。」
女性らしい正装を思い浮かべたチアキが、慌てて言った。
「そのまま、帝国軍の制服で良いんだ。私たちは、軍人だからな。」
「はあぁ・・・・」
チアキはちょっとガッカリしてため息をもらした。
三人は女官の先導で、女王の部屋へ向かった。
その部屋は、茉莉香やチアキが期待していたようなとても豪華な装飾に飾られた美しい部屋だった。四、五人が会食できる程度の大きさの丸テーブルが、部屋の中央におかれ、その周りに、執事や侍女が控えていた。
「お席でお待ち下さい。まもなく陛下がお見えになります。」侍女が言った。
「私たち、陛下とこんなに近くで、お食事できるんですね。緊張しますね。」
チアキが小声でクリス王女に言った。
「言ったであろう。お前達は私の『妹』だと。いつも通りに振る舞いなさい。」
その人、アン女王は、まるで三人に何度も会っているかのような、自然な雰囲気で現れた。
「やあ、来たね。」
「初めてお目にかかります。加藤茉莉香大佐でございます。」
「初めてお目にかかります。チアキ・クリハラ中佐でございます。」
二人は、立ち上がり、緊張して敬礼をした。
「ハハハ、お前達はクリスティアの妹分だというから私にとっても身内だ。
以後はそういう賢苦しい挨拶は抜きだ。
さあ、テーブルにかけなさい。」
「はい。」
「はい。」
チアキは、テーブルに軽い料理が並べられる間に、クリス王女と話し始めた女王の顔を見つめていた。
髪の毛はクリス王女と同じくプラチナだが、
強い意志を秘めた目の光り、
聡明さが溢れる言葉づかい、
年齢を経てもますます知的な美しさを放つ顔立ち、
全身から放たれる光のオーラのような雰囲気、
そのすべてが、人の心を捉えて放さない魅力を放っている。
『すごいひと。銀河の中心になる人って、こういう人なのね。』
チアキはそう思った。
茉莉香とチアキの二人は緊張して、食事中に女王と打ち解けて話をすることが出来なかった。料理の味どころか、何を食べているのか、分からない有様だった。
食後の紅茶を飲んでいる時に、三人が着ている制服の話になった。
「なかなかキリッとして、エレガントな服だが、それは私服か、軍の制服か?」
「母上、まずはご覧になって下さい。」
クリス王女は立ち上がって、両手を広げて、上級大将の階級章をつけた自分の制服姿を女王に見せた。
さらに、くるりと、その場でひと回りして、後ろ姿も見せた。
「これは、帝国軍の制服があまりに古くさいので、コッキー・シャネルに何か良いデザインはないかと頼んで、作ってもらったものです。
三人おそろいで作ってもらいました。
いいでしょう。とても気に入ってます。」
王女は嬉しそうだった。
その姿を、女王は、目を細めて眺めていた。それは、娘の晴れ姿を心から喜んでいる母親の顔だった。
チアキは、そういう女王をうっとりと眺めていた。私もお母さんと出会えれば、同じように見てもらえるのだろうか・・・と。
「素敵だねえ、クリスティア。立派な司令官になったお前を見て、私は嬉しいよ。
フフフ・・・
しかし、帝国軍の風紀担当将校は、この制服について、なにか言ってきているのではないかな。」
女王が、側に控えた侍従の男性に聞いた。
「はい。確かに言ってまいりましたが、女官長が追い返したと聞いております。
女官長は
『三人だけ特別扱いが認められないなら、女性の制服をみんな同じように変更すれば良 いではないか』
と言ったそうです。」
やっと女性らしいファッションに目覚めた王女の心に水を差すような軍部の意見を、宮廷の女官達が受け入れるはずもなかった。門前払いされたようだった。
「ハハハ、この件は、彼女に任そうか。」
そして、女王が海賊狩りの話を、茉莉香とチアキに聞いた。
もちろん二人はクリス王女に遠慮して、話題にするのを避けていたのだが、これをきっかけに、茉莉香が「ブレイク」した。茉莉香はそれまでの緊張が限界を超えたようだった。
「そうですねえ。海賊の巣で初めてお会いした時の印象は・・・」
と、いつものように陽気で楽天的な茉莉香に戻り、堰を切ったように一気にこれまでのことを全部、話してしまった。
そして、最後にこう言った。
「グランドクロスからの脱出前に、王女様が私におっしゃったんです。
『茉莉香、広い宇宙(うみ)に出ておいで』って。
私は、そのお言葉で、自分が何をしたかったのか気がついたんです。
私は広い宇宙(うみ)に出てみたかったんだって。
だから、ここまで出て来ることができたんです。」
「ほう、クリスティアも良いことを言うねえ。
それで、白凰女学院での教師ぶりはどうだったのかい?」
と女王が聞いた。
続いて、チアキが話した。
「なかなか立派な教師でいらっしゃいましたよ。
まず、学校内でもコワモテのヨット部の上級生をあっという間に手なずけてしまわれました。そして、先生の優しさが分かるにつれて、生徒にも人気が出てきて、・・。
なかでも驚いたのは、
『白凰女学院に来る前には、ミニスカートをはいたことがない。
ダンスも踊ったことがない。
パーティも大嫌いで、行ったことがない』
とご自分でおっしゃっていたそうですが、
普段の授業ではさっそうとミニスカを着こなしておられました。
さらに、卒業記念ダンス発表会では、目の覚めるような綺麗な白いドレスを着て、お客様と華麗に踊っていらしたことですね。
もっとも、私たちは、きっと、密かにグリューエル姫に習ったのではないかと、ウワサしてましたけど。」
「チアキ、何を言うか。
私も、・・・グリューエルと同じく、王女だからな。そのくらいのことはちゃんと出来るのだよ。その気になれば、な。
それに、私は、教師で大人だから、中学生のグリューエルに、
パーティのマナーとか、
ダンスのステップとか、
ドレスの着こなしとか、
ダンスパーティで『微妙な殿方』からダンスに誘われたときの断り方とか、
習ったりはしていないぞ。」
クリス王女の強がりに、女王は吹き出して大笑いした。
「あの日のダンスパーティだけど、生徒の中では、やっぱり最初に踊った茉莉香とグリューエルが一番素敵だったわね。
茉莉香、男の子みたいにカッコよかったものね。」
チアキが言った。
「いやいや・・・。最後の曲で、チアキちゃんとエドワードさんのペアが踊ったワルツは、素敵だったよねえ。
二人とも笑顔で見つめ合って、息がぴったり。
チアキちゃん、シンデレラ姫のようだったね。」
茉莉香が言った。
こうして、茉莉香が話すときはクリス王女とチアキが、
チアキが話すときは、クリス王女と茉莉香が、
自分の恥ずかしい話が出て顔を赤くしたり、言葉遣いに女王が怒らないかと心配して顔を青くしたりして、聞いていた。
しかし、女王は、終始笑顔を絶やさず、というより心の底から笑って話を聞いていた。
本当に嬉しそうだった。
「そうだ。
陛下、ダンスパーティの時の立体映像をご覧になりますか。今持っております。」
チアキはそう言うと、自分の軍用通信携帯を取り出した。
「私、写真が大好きですから、ここに自分のデータを入れて、持ち歩いております。」
そう言いながら、チアキは、沢山の写真の中から、ダンスパーティの最後に写したヨット部のメンバーとクリス先生達との集合立体写真を、取り出して投影した。
その集合写真をさらに拡大投影すると、テーブルの上の空間には、凛とした貴婦人の姿をした「クリス先生」が現れた。
「お、お~、お姫様。・・・」
感激した声をもらしたのは、後ろに控えていた一番年配の侍女だった。
「本当に、お前にも世話をかけたなぁ。礼を言う。」女王が侍女に言った。
「もったいないお言葉です。」侍女は涙ぐんでいた。
「チアキ、その携帯、ちょっと貸して欲しい。」
「ええ!?」
チアキが驚いているうちに、女王はチアキの携帯を手にすると、次々に立体映像を映し出した。
もちろん、その中には、クリス先生の映像もあった。
なかでも写真部のコからもらった、クリス先生とチアキの剣道練習中の写真は迫力があった。負けず嫌いの二人が、剣を交えて、必死の形相で向き合っている写真だった。
さらに、女王は、楽しそうに、どんどん写真のページをめくって、チアキの写真も写していった。チアキは、それぞれの写真について説明した。
ネビュラカップの優勝で表彰台に上った写真、
海森星で中学生だった頃の写真、
さらに、バルバルーサで暮らしていた子供の頃の写真、・・・
そして、赤ん坊の時のチアキの写真
にたどり着いた。
その写真では、父に抱かれた赤ん坊のチアキが、満面の笑顔を浮かべて、カメラの側に向かって、手をさしのべていた。まるで、抱っこをせがんでいるように。
「チアキは、ほんとうに可愛いなあ。抱きしめたくなる。」
女王はそういいながら、赤ん坊のチアキを眺めていた。
「はあ・・・、
私は母を知りません。母の写真もありません。
でも、この写真は大好きです。
この写真を見ていると、母に見守られている様な気がするんです。」
「そうか。きっとそうだろうね。
で、茉莉香の場合はどうなんだ。子供の頃は。」
「ええ、私ですかぁ?・・・えーっと・・・梨理香さんは、写真に興味が無くてえ・・・」
5-2 王宮の客屋(第二クリスタルパレス内)
四人のおしゃべりが遅くまで続いたため、結局、茉莉香とチアキは、その日の夜、王宮に宿泊することになった。
女王の指示で、二人は、王族用の客屋に泊まることになった。
茉莉香は、部屋に入るなり、豪華な内装に溢れた部屋中を歩き回って、はしゃいでいた。
「うわー、チアキちゃん。この客室、広いねえ、部屋がいくつあるんだろう。」
「ねえねえ、これ見てよ。金ぴかの洗面台と猫足の家具だよ。」
「壁紙もかわいい~~。こんな部屋、初めて見たよ~~、チアキちゃん。」
「うお~~、チアキちゃん、天蓋付きのベッドだよ~~。私たち、お姫様みたいだよ~~~。」
茉莉香は、軍服のままベッドに横たわった。
「私、こんなベッドに寝るの初めてだよ~~。チアキちゃん。」
「うわーーー、チアキちゃん。お風呂のバスタブがこんなに大きくて綺麗だよ。壁のタイルもすごいよ。」
はしゃぎ回る茉莉香の話を聞きながら、チアキは鏡の前で髪をとかしていた。
すると、突然、茉莉香が近づいてきて、チアキを後ろから抱きしめた。
そして、唇を耳に近づけて、小さな声で言った。
「ねえー、チアキちゃん。一緒にお風呂、入ろうよ。」
「なによ、いきなり抱きついて。ビックリするじゃないの。
それに、子供じゃないんだから。一緒にお風呂なんて、恥ずかしいじゃないの。
今晩の茉莉香は、なんかヘンよ。」
チアキは抱きつかれたことで顔を真っ赤にして、さらに二人でバスタブに浸かっている姿を想像して、さらに顔を赤くした。
「ちぇー。良い考えだと思ったのになぁ。
それに、私、ヘンじゃないよ。チアキちゃんはカワイイから、みんな同じ事、考えると思うなあ。」
「そんなことより、着替えて、歯を磨く。茉莉香、聞いている。」
茉莉香は、さらに部屋中を見て回って、はしゃいでいたが、着替えてベッドに入ると、あっという間に眠ってしまった。
チアキも着替えて照明を消し、眠ろうとした。
しかし、今日のいろいろな出来事を思い出して、眠れなかった。
その時、眠っている筈の茉莉香が叫んだ。
「さぁー、海賊の時間だぁ!」
チアキは驚いたが、茉莉香の寝言と気がついて、苦笑した。
この時、茉莉香は夢を見ていた。
弁天丸で、いつものクルー達と、銀河のネックレスと呼ばれる壮大な空間を駆け抜けている夢だ。
『弁天丸、全速前進!。
ねえ、壮大な宇宙空間でしょ。銀河のネックレスっていうんだ。
私、ここに来たかったんだ。
そして、弁天丸のみんなといっしょに、この銀河の中心を飛び回りたかったんだ。』
夢の中で、弁天丸船長加藤茉莉香は、そう言っていた。
5-3 王宮の屋上庭園(第二クリスタルパレス内)
「まったく、茉莉香はいい性格しているよね。あっという間にぐっすり寝ちゃって・・。
それとも、茉莉香なりに緊張して疲れていたのかなあ。
でも、私は、まだまだ、眠れそうもない。・・・・
こういうときは、星空でも見に行こうかなあ。気持ちの落ち着く、いい場所があるって教えてもらったし・・・。」
チアキは、再び、帝国軍の制服に着替えて、星空を眺めるために、クリス王女に教わった王宮の屋上庭園に行った。
「うわー、星がいっぱい。」チアキは目を見張った。
屋上庭園は広大な空間だった。
薔薇などの背の低い木々や草花だけが植えられているため、見晴らしもよく、透明なドームの向こう、360度視線を遮る物のない空間には、満天の星空があった。
『これが何千億の星々からなる銀河系かあ。』
その時、チアキは、親父から聞いた話を思い出した。
小さいころの自分は、毎晩、星を眺めてお母さんの帰りを待っていたそうだ。
『この銀河の星々の中に、きっと、私のお母さんがいるんだよね。
どこにいるのかなあ。きっと会えるよね。
きっとチアキのところへ帰って来てくれるよね。
・・・・・・・・・
でも、実際にお母さんに会った時に、何を話したら良いのだろう。
いままでのことを何から話そうか・・・
そうだ、まず『お母さん』と呼びたいよねえ。 フフフ・・・』
チアキはそんなことを思いながら、
「お母さん! ・・・フフフ、とうとう言っちゃった。」
チアキは思いを口に出してみた。
ドームの透明な壁には、チアキの姿が映っていた。
チアキは、先刻のクリス王女のマネをして、両腕を左右に広げて、自分の制服姿を透明な壁に鏡のように写して、その向こうに母親がいるかのように話しかけた。
「ねえ、お母さん、私、今日、帝国の軍人になったよ。階級は中佐だよ。
見て、見て、この制服、素敵でしょ、コッキー・シャネルなんだよ。
すごいでしょう。」
しかし、そのとき、チアキは、透明な壁に写った自分の姿の背後に、女性の人影があるのに気がついた。
「あああ、・・・」
チアキは、自分の独り言を聞かれたことに驚き、さらにその人影が女王陛下その人であることに気がついて、更に驚いた。
そして、驚きのあまりに、何を言ったら良いか分からず、顔を真っ赤にして固まってしまった。
女王は少し硬い表情のまま、チアキに近づいてきた。
そして、後ろからチアキを抱きしめた。
女王は、顔をチアキの髪に近づけ、大きく息を吸った。
そのままの姿勢で、二人は息を止め、何も言わなかった。
沈黙の時間はとても長く感じられた。
やがて、チアキが言った。
「私、お母さんを探しているんです。」
「・・・
そうかい。
・・・」
女王はチアキを抱きしめた姿勢のまま、しばらく沈黙していた。
やがて、こう言った。
「チアキ、クリスティアの妹になってやってほしい。
海賊の姉妹のように、心と心でつながった妹になってやってほしい。
そして、どんなときも、クリスティアの側にいてやってほしい。
あの子はあれで結構、寂しがりやなんだ。」
「・・・・」
また、女王はしばらく沈黙したあとに、こう言った。
「そうだ、チアキ、人探しのコツを知っているかい。
自分であちこち探し回るよりも、自分のいるべき場所にいて、なすべき事をしているのが一番の近道なんだよ。
そうすれば、いつか、探している人のほうから近づいてくるんだよ。
だから、そうやって、お前がなすべき事をしていれば、いつか、母親のほうから、おまえの前に現れるんじゃないかなあ。
特に、ここは、銀河の中心だからね。」
「陛下は、父と同じ事をおっしゃるんですね。」
「そうかい。フフフ、船乗りの常識ってやつじゃないかなあ、・・・・。
チアキ、クリスティアのこと、くれぐれも頼んだよ。」
女王は、そう言うとチアキから離れ、微笑みを浮かべながら、去っていった。
「はあー。びっくりした。緊張したー。」
チアキは、何が起こったのか訳が分からなかったが、それまでの緊張が緩んで、ぐったりと疲れを感じた。
そして、チアキは屋上庭園のセキュリティゲートを抜けて、来た道をたどって、自分たちの部屋に帰っていった。
その後ろ姿を、クリスティア王女が見守っていたことには、気づかなかった。
庭園に控えていたガーデンキーパーの存在にも気づかなかった。
5-4 グランドマザー船内
翌日の朝、クリス王女と茉莉香、チアキの三人は、シャトルに乗ってグランドマザーに帰還した。
ヨット部員一行は、この日は、クリスタルスター随一の観光名所、「水晶の地下都市」を見学する予定だった。
「地下都市」といっても、自然にできた長大な洞窟に、美しく巨大な水晶の結晶が、都市の建物のように無数にあるというものだった。洞窟の大きさ、水晶の美しさ、大きさのため、開拓当初から銀河系内でも有名で、星の名前の由来にもなったものだ。
しかし、出発前にクリスが言った。
「悪いが、本日の予定は変更だ。ヨット部員に参加してもらう『海賊ショー』だが、予定が少し早まった。
今日は、船の中でリハーサルをして、本番の会場付近の空間へ移動、明日が本番ということになった。」
「先生、本番って、どこの船でやるんですか。豪華客船ですか?」
「違うよ。船の名は、パイレーツ・キャッスルだ。」
「ええ! それって、海賊船なんですかあ? 」
「まさか!? 海賊船に海賊しにいくんですかぁ。
冗談みたいですね、おもしろい~~。」
「先生、それは、伝説の帝国海賊の本拠地である宇宙船の名前ですよね。
本物なんですか?やっぱり、ほんとに存在するのですね。」
「そうだ。みんなは、帝国海賊って言葉知っているか?」
「それって、『お伽噺』ってやつでしょ。」
「でも、お伽噺では、帝国海賊は宇宙のかなたに旅立ってしまったという話ですよね。
どこかに行ってた帝国海賊が、戻って来たのですか。」
「いいや。分かりやすく言うと、千年前の帝国海賊の末裔は、どこかに旅立ってしまったのではなく、姿を変えて、銀河帝国内部に潜んでいたのさ。
普通の船乗りとして家業を続けた者もいるが、帝国軍や王宮やさまざまな民間会社で、帝国海賊という正体を隠して暮らしていたのさ。
男も女もね。」
「では、今の女王陛下を王位につけるために決起した人たちの正体は、やはり帝国海賊の末裔の人々だったのですね。」
グリューエルが行った
「大半はそうだ。」
「でも、正体を隠して静かに暮らしていた人たちが、危険を冒して、どうして決起したんですか。自分の正体を明かせば、不利益を被ることも多いでしょうから。」
「そうだな。帝国海賊の末裔が正体を現して、そこまで母上に肩入れした理由は、もともとは、母上が小さな子供の頃からの話にさかのぼるそうだ。」
クリス王女が言った。
「母上は、小さな子供の頃から寝つきが悪くて、侍女たちを困らせていたそうだ。
侍女たちがいろいろな方法を試して苦労した結果、王宮の庭園で星空を見つつ、お伽噺を聞くと、気持ちが落ち着いて、その後よく眠れるとわかったそうだ。
それで、侍女たちが毎晩庭でお話を聞かせたのだが、困ったことが起きた。
小さな頃は同じ話を何度も聞きたがったが、母上は成長するにつれ、しだいに同じ話を何度も聞くのを嫌がるようになり、毎晩新しい話をしなければならなくなったそうだ。
それで、しだいに侍女たちには、毎晩、新しいお話をするのが重荷になっていったそうだ。
ある晩、
『また同じような話をした』
と母上の機嫌をそこねて侍女たちが困り果てていたそうだ。
そのとき、薔薇の木の向こうから、
『姫様にお聞かせする面白い話でしたら、私たちにお任せください』
と侍女に声がかかったそうだ。」
「それは、ガーデンキーパーの話ですね。帝国の伝説とばかり思っていましたが。」
ヒルデが言った。
「そうだ。ガーデンキーパーの正体は、帝国海賊の長老たち8人だ。
いつも庭に控えて、王の命令を受ける時を待っていたそうだ。
もちろん、最初に王がそこで命令を待てと言ったから、そうして待っていたのだ。
とはいっても、帝国も平和が続き、帝国海賊の力が必要な時代はなかなか訪れず、千年以上もの時が経過していったという。
しかし、海賊の末裔たちは王の命令を守って待ち続けていたのだ。
そうやって庭に控える彼らだから、侍女が幼い王女、つまり母上に『お話』を聞かせていた一部始終を承知していた。
お話のうち、王女が宇宙の神秘的な姿や海賊の冒険談などに興味を示していたこともわかっており、声をかける機会をうかがっていたそうだ。」
「それって、王宮のルール違反と言われませんか。」
グリューエルが言った。
「もちろんそうだ。
ガーデンキーパーは王宮内で一番地位が低い者とされ、王族に直接、面会したり、話をすることは許されないというのが当時のしきたりだったそうだ。海賊達は、表向き、ガーデンキーパーに過ぎないのだから。
当然、王宮の侍女たちは大反対だったそうだ。
しかし、王女が
『毎晩、同じような話ばかりで、退屈していたところだ。話を聞いてやろう。
しかし、面白くなかったら、死罪だ。
どうだ。それでも良いならば、やってみろ。』
と言ったそうだ。」
「ううーー、怖い。王女様って、残酷なことを平気で言いますね。」
リリイが言った。
「だから、王族たるものは、子供でも発言に気をつけるように言われてきました。」
グリューエルが言った。
「ごめん、ごめん。グリューエルのことを悪く言ったつもりはないはないんだけど、気に障ったら許してね。」
「はい、気にしてません。」
グリューエルが言った。
クリス王女が話を続けた
「それで、海賊の長老が語ったのは、『海賊王子』と言う物語だったそうだ。
ある国の王子様が、王宮の暮らしに退屈して、勝手にお城を抜け出し、街を歩いていると、自分そっくりの顔をした少年に出会った。
王子は興味を引かれ、その少年に話しかけて、どんな暮らしをしているのか事情を聞いた。
すると、母親が亡くなって父親に会うために街に出てきたという。
でも、なかなか父親に会えず、わずかなお金も無くなって宿も追い出されて、困っていたという。
そこで、王子はかって自分の家庭教師だった男の屋敷を訪ね、その少年を物置小屋に泊めて、食事を出してやるように頼んだ。
以来、王子はその小屋に通って、少年の話を聞いた。
最初、少年は母親との貧しい暮らしについては良く話したが、父親のことは話したがらなかった。
しかし、ある日、『父親と連絡がついた。もうじき迎えに来てくれるんだ。』といって、とてもうれしそうに、それまで黙っていた父親のことを、急に話し始めた。
少年の父親は『宇宙海賊』だった。
少年が母親から聞いていたところでは、母親も宇宙海賊だったが、少年を地上で育てるために船を下りたそうだ。
そして、母親から聞いた海賊の冒険話を語り始めた。」
「なんか、茉莉香の家の話と似ているよねえ。海賊ってみんなそうなの?」
「知らないよ。それに、似てません。・・・ぜんぜん、似てません!
梨理香さんはまだ生きているし、私は海賊の娘だってことを知らなかったし・・。」
「茉莉香、話を続けるぞ。」クリス王女が言った。
「王子は少年の話が大変気に入って、自分も退屈な王宮を抜け出して宇宙に行ってみたくなった。
そこで、王子は、少年に自分が王子であることを明かして、ひと航海だけでも良いから自分と代わってくれと頼んだ。
こうやって、王子は海賊たちと冒険の旅に出たそうだ。
その後、王子は、神秘的な宇宙の海を旅して、数多くの冒険をし、沢山の宝物を手にいれ、美しいお姫様を伴って、国に帰ってきたそうだ。
おとぎ話だからな、ハッピーエンドだ。
こうして、海賊たちは、国に帰ってくるまでの『王子の冒険物語』をひとつひとつ、語り始めたそうだ。
もちろん、母上はとても興味を持ち、
『続きは、また明晩に聞く』
といって眠りにつき、その晩、海賊たちは死刑を免れたそうだ。
その後も毎晩毎晩、話は続いたそうだ。
宝探しの大冒険や、
悪者との激しい戦闘、
美しいお姫様との出会いと恋、
ブラックホール、二重太陽、様々な星々の不思議な姿、
資源探査や惑星開発の様子、
宇宙船の操縦など、
実際に経験したような臨場感で、王女に話したそうだ。
その話の中でも、子供の頃の母上は、アンという自分の名前がついたアンドロメダ星雲が特にお気に入りだったそうだ。
もちろん、銀河に自分の名前がついているというのは、子供の頃の母上の思い込みなんだがね。
でも、母上は、
『いつか、あの星々まで行ってみたい』
と空のアンドロメダ星雲を指差して、何度も言っていたそうだ。
そういうおとぎ話のあいまに、母上が、宇宙船に関する最先端の科学知識や軍事技術、帝国や主要星系の政治・経済事情など、高度で専門的な問題について質問をしても、海賊たちは直ちに答えたという。
こうして、母上も侍女たちも、ガーデンキーパーの老人たちは、海賊といっても無教養な荒くれ者ではないと気づいていたようだ。若い時は帝国各分野の要職を経験した人々なのだろうと。
一方、海賊たちも、わがままな姫様が、次第に聡明な王女に育っていくので、行く末が楽しみになって、この姫を応援したい気分になっていったそうだ。」
「ええ~~それ自体、おとぎ話みたいですね。」
「それで、そのあと、どうなったと思うかい。」
クリス王女が言った。
「ああ~~、まさか?!
女王様が18歳で家出して、銀河の各地を放浪の旅に出たという『伝説』は、やっぱり本当だったのですね。
その真相が、おとぎ話の影響だったとは始めて知りました。
でも、18歳になって、子供の頃から許婚と決められていたアンドレア公爵様との結婚式が迫ったため、これを嫌って家出したというのが、王室ファンの常識なのですが。」
ヤヨイ・ヨシトミが言った。
「そういう見方もあるだろうね。
でも、その時には、母上の上には3人の兄王子がいた。だから、母上が帝国の王位継承者になる可能性は無いと考えられていたので、母上のような立場の女性は、政略結婚の道具に過ぎないと思われていたようだ。」
「いつの時代でも、王家やお金持ちの家に生まれた女性は政略結婚の道具にされそうになるのよ。ジェニー先輩だって、最初はそうだったでしょ。」
チアキが言った。
「そう言えば、サーシャの家もお金持ちだから、縁談がいっぱい来てるんじゃないの。」
「うん、みんな、気を悪くしないでね。正直言うと、この前のダンスパーティが終わってから、親戚や父さんの知り合いから、沢山来たらしいよ。
でも、私は、医者になるために当分、勉強を続けるからって、全部、断ってもらってるんだけど・・。」
「サーシャはしっかりしているよねえ。
でも、うらやましいなあ。私の場合は、
『もうじき18歳にもなるのに、お前のところには一つも縁談が来ない』
って、この間、母さんに嘆かれたよ。」
ウルスラが言った。
「茉莉香の場合は、どうなの。縁談。」
「ええ!? 梨理香さんからは何も聞いてないよ。弁天丸にもそんな通信、来ないし。」
「そういえば、弁天丸のブリッジは、男も女も、独身ばかりだよねえ。」
「それ、ヤバイねえ。茉莉香、弁天丸に乗ってると、一生、独身かも。」
「確かに、それヤバイ。アハハハ・・・。」
「もー。私のこと、ネタにして、遊ばないでよねえ。」
「縁談の話は、それくらいにしなさい。
しかし、母上の場合は、結婚のことだけが理由じゃないのだ。
銀河帝国や聖王家は、多くの星系を併合した統一戦争において、初期の圧倒的な勝利に酔い、次第に『諸人類の自由と平等のための銀河の統一』という本来の理念を見失っていったのだ。そして巨大な帝国の権力をめぐって内向きの抗争を繰り返していた。
母上はそういう聖王家の現状にも絶望していたという。
子供の頃からの母上の夢だった、アンドロメダ遠征というような壮大な目標を追い求める進取の気風も、もはや失われたと思ったそうだ。」
「銀河帝国が、各星系の自治権を尊重して、領土拡大政策を停止させた背景には、そういう政治情勢があったのですね。」
グリューエルが言った。
「そうだ。
母上としては、そんな希望の無い退屈な人生を送るくらいなら、若い時に一度でも良いから海賊王子のように自由な冒険航海に出てみたくなったと言っていた。
そこで、海賊たちに命じて、王宮を抜け出し、ひとりの女海賊として海賊船に乗って、辺境宇宙をめぐる旅に出たそうだ。」
「そうなんですか?ネットの裏情報では、女王様に婚約を無視されてメンツをつぶされたアンドレア公爵の怒りが、聖王家の内紛の直接の原因という説も有力ですが・・。」
「そんな愛憎劇が生まれるほどの濃厚な人間関係があるなら、苦労はないと母上から聞いたよ。もともと、双方ともうわべだけの政略結婚だと承知しているはずだから、遺恨の生まれるはずが無い。」
「やっぱり、女王陛下は、強いご意志でご自分の人生を切り開いた、すばらしい方ですね。
私たちも見習わないといけませんね。
王家の女性はそのような強い意思を持っていないと、政略結婚とか周りの思惑に、すぐに流されてしまいます。
私たちも、とんでもないことをするところでしたから。」
グリューエルが言った。
「そうだな。特に王女には、自分の人生を選ぶ強い意志が必要だと、私も思う。
話を続けると、母上の家出を支援した帝国海賊たちの思惑は違っていたそうだ。海賊たちは、この機会に暗殺者の手から我らの姫を守ろうと思ったそうだ。
その頃、赤薔薇家では、アンドレア公爵の上の二人の兄が相次いで事故や病気で亡くなった。このため、アンドレア公爵が赤薔薇家を継いだ。海賊たちは、赤薔薇家の内情や公爵サイドの野心を知っており、聖王家の内紛が更に激しくなると予想したからだ。」
「聞きにくいことですが、先生が孤児として育った背景は、そういうことなんですか?」
「そうだ。女海賊としての母上の旅は、帝国海賊の連中がいつも見守っていたが、さすがに、母上が恋をするのは止められなかったそうだ。そして、私が生まれた。
そして、母上は、王に自分の結婚と私の存在を認めてもらおうとしたそうだ。
だが、逆にそれが赤薔薇家配下の暗殺者に手がかりを与え、追及を招くことになった。困った私の父は、母上と私を別々に、密かに帝国海賊達に託したそうだ。そして、親子三人を連れて逃げていると見せかけて、自分の乗っている船を暗殺者に狙わせたそうだ。それで、暗殺者は、宇宙船を撃沈し三人を殺したと思って、引き上げたそうだ。
母上は、帝国海賊の長老から、私も父も死んだと聞かされて、とても悲しみ、二度と王宮に帰らないと誓って、姿を隠したそうだ。
父も宇宙海賊だったそうだが、母上は今も名前を教えてくれない。
その間に、銀河帝国の内紛は激しさを増し、聖王家の本家である青薔薇家の3人の兄王子が、相次いで、病気や事故で亡くなったそうだ。
これを受けて、アンドレア公爵は、王に、青薔薇家に跡継ぎがないのだから、赤薔薇家の自分を皇位継承者に指名しろと迫ったそうだ。
王は、悩んだ結果、ついにガーデンキーパーの老人たちを呼んだ。そして
『私はまだアンが生きているような気がする。アンを探してほしい。』
と、アン王女を探すことを命じたそうだ。」
「それで、帝国の宇宙海賊は立ち上がったんですね。」
「そうだ。海賊たちには王女の居場所は分かっている。
問題は、王女がどうやって姿を現すか、その方法だ。
結論から言うと、海賊たちは、大艦隊を率いて、堂々と王女を出迎えに行く方法を選んだ。そうやって軍事力を示すことが、王女が王位につくために必要と思ったからだ。
最終的には千隻の軍艦が従って、帝都クリスタルスターまで、パイレーツ・キャッスルに乗船した王女を送り届けたそうだ。」
「その中には帝国軍の船もあったのでしょう。
帝国軍は政治的中立がモットーで、王位継承問題など聖王家の問題に介入しない軍規を厳しく守ってきたはずですが・・。」
と、グリューエルが言った。
「そうだな。その意味では、禁じ手を使ったことになる。
官僚組織として政治的中立を保っていたはずの帝国軍の中に、王に絶対忠誠を誓う、王の『私兵』のような存在が姿を現したのだからな。
だが、帝国軍内部に潜んでいた海賊の末裔は、軍規違反覚悟で王女様を迎えに飛び出した。王の命を受けた海賊たちは、王位継承問題について、力による解決を選んだ。
こうして、長い間帝国軍の中に潜んでいた海賊の末裔が、ついに正体を現し、その軍事力に守られ、母上が王位についた。
その反省から、その後、公爵側も、帝国軍の中に自分の支持者を作ってきたから、帝国軍の主力は政治的中立を守っていると言っても、帝国軍内の対立は深刻になっている。」
「すごい話ですね。
でも、どうして、その帝国海賊さんたちの前で、先生が、海賊ショーをやるのですか?」
「ハハハ、それは見てのお楽しみだ。
さあ、練習するぞ。衣装の用意もしてきたので、まずは、着替えて・・・。」
チアキは、母親を探そうと決意しますが、その結末は「第十二章 茉莉香とチアキ 十八歳の誕生日」をご覧下さい。
蛇足 作者は、花澤さんのファンですから、チアキの出番が自然と多くなってしまいました。こんなセリフを花澤さんに言ってもらいたいと・・・。
アニメ版の「ここ、ちょっと、いじろうかなぁ」は、忘れられません。