宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 美人で、賢くて、大富豪のお嬢様。人もうらやむ恵まれた存在であるはずのサーシャには、人には決して言えない秘密がありました。
 しかし、公爵の反乱の際に、その一端が明らかになってきます。
 そして、サーシャは或る決意を秘めて、ヨット部のみんなに自分の秘密を語り始めます。それは、宇宙開拓の負の歴史を背負った、過酷な運命でした。・・・・。
 その話を聞いていたリリイやヨット部員は、サーシャの決意に気がついて、説得しようとします。「一緒に、海明星へ帰ろう」と。
 公爵の反乱も鎮圧され、長かった練習航海も、いよいよ終わります。
 しかも、反乱騒ぎの影響で、学校が休校になっており、試験はレポート提出でOK。さあ夏休みだと部員は喜びます。
しかし、海明星へ帰るオデット二世号に「密航」したクリスティア先生(王女)は、ヨット部員に言えなかった教師としての秘密を、最後に明かします。
 その秘密とは・・・。
 それを聞いて、茉莉香は「夏休みが・・・!」と悲鳴をあげます。


第八章 サーシャの秘密

8-1 機動空母グランドマザー船内

 

 こちらは、機動空母グランドマザーのブリッジ。

 30分ほど前に、ウルスラの乗ったグランド・クロス3号機が帰還したはずなのだが、なかなかウルスラがブリッジに現れないので、ヨット部員たちは心配し始めた。

「何か、あったのかしら。」

「艦長、ウルスラは無事に帰ってきたんでしょう?」

「そのはずだ。その後、私には、特に連絡はない。

 おい、3号機に連絡を取ってみろ。」ミッキー艦長が言った。

「承知しました。」

 通信士が連絡を取り始めたころ、一人の青年士官がブリッジに現れた。

「グランド・クロス3号機の機関士ブラウン少尉です。

 こちらに、サーシャ・ステープルさんはいらっしゃいますか。

 アブラモフ少尉がステープルさんにお会いしたいとおっしゃってるんですが。」

「え??」

「アブラモフ少尉って、誰?」

「もしかして、ウルスラのこと?」

「はぁ、少尉のお名前は、確かウルスラでしたね。3号機のパイロットをした女子高生です。」

「間違いない!ウルスラだ。」

「私がサーシャ・ステープルです。ウルスラは、今、どこにいるのですか?」

サーシャが聞いた。

「3号機の医務室で応急治療中です。精神的なショックと疲労で動けない状態です。」

「ええ~~~~!」

 この時、通信士が艦長に言った。

「艦長。3号機のブリッジと話しました。

 アブラモフ少尉の症状は、ブラウン少尉からお聞きの通りですが、医師の診察ではブラウン少尉もアブラモフ少尉も、絶対安静・面会禁止だそうです。

 ところが、ブラウン少尉がサーシャ・ステープルさんに会いたいというアブラモフ少尉の願いをきいて、医務室を脱走。サーシャさんを呼びにこちらに向かったということだそうです。

 なお、医師は、アブラモフ少尉とサーシャさんとの面会については、事情を良くご存じである艦長に、ご相談したいと言っているそうです。」

「私が電話に出る。医師に電話をつないでくれ。」

 ミッキー艦長は医師の話を聞いたあとに、こう答えた。

「・・・そういうことなら、私は、なおさら、サーシャ・ステイプル嬢と会わせるべきだと存じます。

 アブラモフ少尉は、サーシャ嬢のために無理を承知で出撃したのですから、彼女の心を落ち着かせるためには、ぜひ必要と考えます。

 はい。・・・とにかく、これから、サーシャ嬢を連れて、そちらにまいります。

 はい。もちろん、ブラウンの奴も、引っ捕まえて連れてまいります。」

 ミッキー艦長は船内電話を切って、サーシャに言った。

 

「サーシャ、ウルスラは『あの二人を死なせたのは自分のせいだ』と言って、自分を責めて、パニック状態になっているそうだ。

 一緒に行こう。」

 それを聞いて、サーシャの表情が一変した。

 サーシャと艦長、そしてヨット部員たちも急いでグランドクロスⅡの医務室に向かった。

 ブラウン少尉は、サーシャがウルスラに会いに行くと聞いて安心したのか、そのままブリッジで倒れてしまったので、クルーによってストレッチャーに乗せられて運ばれていった。

 

「ああーーー、みんな私のせいだ。二人を助けられなかった。

 私が余計なことをしたばかりに、二人を死なせてしまった。

 あの二人がサーシャにとって大切な人に違いないって、分かっていたのに。

 サーシャの大事な人たちを助けるため船に乗るって言ったのに、肝心な時に何もできなかった。

 もう取り返しがつかないよう。

 ああーーー、サーシャにすまない。

 私なんか、もう死んでしまいたい。・・・」

 

 医務室に近づくと、廊下でもウルスラの騒ぐ声が聞こえた。

 医務室へは、サーシャと艦長が入り、ヨット部員は廊下で待つことになった。もちろん、「脱走者」のブラウン少尉もストレッチャーに乗せられて入っていった。

「ウルスラ、私だよ。サーシャだよ。」

 サーシャはウルスラを抱きしめた。

「ああ、サーシャ、サーシャ、ごめんなさい。

 みんな私が悪い。偉そうなこと言って出撃したのに、結局、私は何もできなかった。

 みんな私のせいだ。

 あの二人が死んだのは、私が重力砲でミサイルの軌道を狂わせたからでしょ。

 私がそんなことをしなければ、あの二人は大丈夫だったのに。

 死ぬことなかったのに。

 ごめんなさい。

 私なんか、何の価値もない。

 もう死んでしまいたい。・・・」

 ウルスラは、泣きながら、同じことを何度も言い続けた。

 

 サーシャは、そういうウルスラをじっと抱いていた。

 そして、言った。

「ありがとう、ウルスラ。

 私のお母さんとお父さんのために、こんなに泣いてくれて、ありがとう。

 本当にありがとう。

 私ね、本当のお母さんとお父さんが亡くなったのに、いままで泣けなかったんだよ。

 涙ひとつ流さない自分が、自分でも恐ろしかった。

 そのくらい、心が凍ってたのね。

 でも、あなたが泣いてくれたおかげで、私もお母さんとお父さんのために泣けそう。

 ほら、もうこんなに・・・・。」

 二人は、抱き合って泣き続けた。

 

 ずいぶん長い時間が経過した。

 そのうち、ウルスラの泣き声が聞こえなくなった。サーシャの腕の中で眠ってしまったようだった。

「やっと、鎮静剤の効き目が出てきたようですね。眠ってしまいました。

 もう大丈夫です。」

 医師が静かに言った。

「ありがとうございました。先生。」

 

 ブリッジに戻ったサーシャは、心配そうに見つめるヨット部員に向かって語り始めた。

「いったい、何から話そうかな。

 今回の練習航海では、私のために帝国の反乱にみんなを巻き込んで、危険な目に合わせて、本当に、本当に、ごめんなさい。」

「何を言うの。サーシャのせいだなんて・・。」

「みんなには事情を説明しないといけないわね。

 秘密にしていたことがいっぱいあったものね。

 大半は、女王様と私の話や、公爵様と茉莉香さんの話の中で分かったと思うけど、一番大事なことは言ってなかったものね。

 医務室でのウルスラとの話は、聞こえていたかしら。」

「詳しくは、聞いてないけど・・・。」

「あの狙撃事件で逃走した男女二人は、私の本当のお母さんとお父さんなの。

 間違いないと思う。

 逃げた宇宙船に乗っていたのも、たぶんそう。」

「そんな!」

「そうよ。間違いないと思う。

 それで、私を生んだ本当のお母さんの名前は、ロッテ・ケストナー、お父さんの名前は、レイ・コルレオーネ。

 そうよ、宇宙大学の伝説のカップルの姉夫婦の方よ。

 お父さんは宇宙大学ではブライトベリーという姓を名乗っていたそうよ。」

「大変失礼なのですが、コルレオーネ姓というと、いわゆる・・・。」

 ヒルデが聞いた。

「そうよ、いわゆる宇宙マフィアの大ボスよ。

 大ボスは世襲でね、お父さんはその大ボスの長男として生まれたの。

 私は、そのお父さんの三人目の子供として生まれたの。

 サーシャ・ケストナー・コルレオーネが、私が生まれた時の名前よ。

 それでね、お父さんは、宇宙マフィアの宿命から逃れるために、『時空トンネル』の研究をしようと、自分の身元が明らかになる危険も顧みず、宇宙大学へ入学したの。宇宙大学にある最新の研究データを手に入れるためにね。

 そこで例の4人が知り合ったの。

 それでも、結局、卒業直前に身元が分かってしまい、命を狙われたの。

 それで、お父さんは逃げるために、お母さんに別れを告げたの。

 しかし、お母さんは一緒に生きる道を選んだの。」

「やっぱり、愛だね。さすが、伝説のカップル。」

 

「フフフ、そうね。

 でも、その後は、苦難の連続だったの。

 公爵様にお味方して不法工作を行っていくうちに長男の兄が事故で死亡したの。

 次男の兄は、時空トンネルの試作機に乗ってテストをしているときに、試作機が爆発して死亡したの。

 その後、まだ子供だった私がパイロットとして試作機に乗って、開発を続けたの。

 そういう兄たちの貴重な犠牲のおかげで、実験は成功したのだけどね。」

「マフィアとはいえ、大ボスのお嬢様だったのでしょ。そんな危ないことしなくても。」

「いいえ。マフィアも、聖王家や宇宙海賊と同じよ。

 危ないことは率先して、ボスやその家族がやらないと誰もついてこないわよ。

 そういうものよ。」

 

「先ほど、『宇宙マフィアの宿命』とおっしゃいましたけど、どういうことか、ご説明願えませんでしょうか。

 それから、あの、マフィアいう失礼な言葉を使いましたが、どうかお許しください。」 グリューエルが聞いた。

「ありがとう。グリューエルさんは、心遣いが素晴らしいわね。

 『宿命』か。

 そうね、グリューエルさんの故郷セレニティ星系へたどり着いた祖先の移民船は、奇跡の七つ星を見つけて、宇宙開拓に成功したでしょう。

 でも、宇宙移民、宇宙開拓は成功例ばかりじゃなかったことはご存じでしょ。

 その失敗した船団や開拓民は、その後どうなったのか、ご存じかしら。」

「ええ! そういうことなのですか?」

「そうよ。可住惑星探しに失敗し、あるいは開拓に失敗して、食料や資源が乏しくなった移民たちは、どうやって生き延びたのでしょうか。

 愛する家族や恋人を守るためには、どんなことでもしようという男たちが出てきても不思議ではないでしょ。

 口にするのもおぞましい、凄惨な事件が数多く起こったそうよ。」

「そうですね。本で読んだことがあります。」

「そうして、彼らは、本物の海賊になったの。

 その後、宇宙社会で行き場をなくした人たちを受け入れて、組織は大きくなり、やがて、一族の本隊は、大船団をつくって銀河系の辺境や外延部を、隠れて旅をするようになったの。

 そして、一部の人たちは、船団への資材や資源の補給を担当するために、銀河系の社会の中に身を隠して住むようになったのよ。

 こちらの方が、やがて宇宙マフィアとして知られる存在になっていったのよ。

 でも、一族の人にも家族がいて、子供たちが生まれる。

 生まれた子供たちは、いったいどういう立場になるか、分かるでしょ。

 もちろん、子供は一族の宝。子育ては一族のみんなが力を合わせて行っていったし、教育だってきちんと行った。

 でも、子供たちは、銀河帝国の国民登録がないから、この世に存在しないはずの人間なのよ。

 だから、普通に銀河系の社会の中で就職や生活ができないの。」

「え!? どうしてですか? 

 親は親、子供は子供でしょ?」

「だって、昔ではあるけど、凄惨な事件を起こした加害者・犯罪者の子孫なのよ。

 その子孫たちは、今も、その事件の被害者や遺族の子孫からの追及を恐れながら、宇宙をさまよっているの。

 初期のころには、辺境に自分達だけのコロニーを作って定住しようとしたこともあったらしいわ。でも、コロニーの存在が知られると、被害者の遺族の人たちが押しかけてきて、トラブルになったこともあったらしいわ。

 だから、今も、宇宙をさまよって、旅をしているのよ。」

「そうなんですか。」

「そうなのよ。

 その後、さらに生き延びるために非合法な活動を続けるから、いつまでも、その繰り返しから抜け出られない。

 だから、生まれた子供は、非合法な仕事につくしかないの。

 結局、生まれながら犯罪者になるしかないという宿命を背負わされているの。

 これが、『宇宙マフィアの宿命』よ。」

 

「子供たちから見れば、理不尽な話ですね。

 女王陛下がおっしゃる通りです。

 それで、一族の正式名称は、アマージーグ族というのですね。」

 グリューエルが聞いた。

 

「そうよ。それは、宋主星に古代から存在する、誇りある民族の名前なの。

 千年以上の間、異民族に支配され、バルバル人と呼ばれて蔑まれてきたにもかかわらず、決して誇りを失わなかった偉大な人たちなの。

 かれらは、自分たちを『アマージーグ』、高貴なる自由人という意味だそうだけど、そう呼んだそうよ。

 一族の初期のリーダーの一人にその民族の出身者がいて、アマージーグ族のように誇りを失わないで生きようと皆を励ましたそうよ。

 それが一族の名前になったの。」

「そうなんですか。名前というものは、とても大切なのですね。

 女王陛下がアマージーグ族という言葉をお使いになったことは、とても大きな意味があるのですね。」

「そうね。一族の人は涙を流して喜んでいたわ。

 私たちの気持ちを女王陛下が分かって下さったってね。」

 

「あのー、サーシャ先輩。私もお聞きしてもいいですか?」

 一年生のジェシカ・ブルボンが言った。

「いいわよ。どうぞ。」

「私、小さいころ、クリスタル・スターにあるステープル家の御屋敷にお邪魔したことがあるんです。

 サーシャさんのお見舞いに、親に連れられて行ったんです。

 もっとも、親は、お兄さん達に私を引き合わせることが狙いだったようですがね。

 あのーー、聞きにくいことを聞いて大変失礼ですが、今までのお話からすると、先輩は、あのサーシャさんじゃないですよね。

 確かにあの子が元気になって成長すれば、先輩みたいな美しい人になるのかなって言うくらい、似ていらっしゃるんですけど。」

「そう。あなた、やっぱり覚えていたのね。

 お母さんがあなたに気をつけなさいって、言っていた通りだわ。

さっきも言った通り、私はミーシャ・ケストナーとジョージ・ステープルの娘ではないの。

 あなたの会ったサーシャが、二人の子供。つまり、伝説のカップルの妹夫婦の娘よ。」

「やっぱり、入れ替わったんですね。

それで、あの、もっと聞きにくい話なのですが、ダンス発表会の時に、先輩のことをクローン人間と言ってるお客様がいたんですよ。

 『クローン人間でも、あれだけ美人なら許す』

なんて、ひどいこと言ってましたよ。

 これは嘘ですよね」

「そうね。そう噂されているのは知っているわ。

 私もステープル家の人たちも、噂を私の本当の身の上を隠すために利用してきたのだけどね。

 でも、それは、当初、ステープル家の人たちが望んだことなの。重い遺伝病にかかったステープル家のサーシャを遺伝子操作でも何でも手段を選ばず助けたいと願って。

 だから、宇宙大学の医学研究所に莫大な寄付をして、人間の遺伝子操作の研究を依頼したのよ。

 これは、宇宙大学にとっても好都合だったらしいわ。

 彼女の治療を大義名分に、人間の遺伝子操作に関する禁断の実験が、公然とできるわけだから。人間のクローン技術の研究は特に進んだらしいわ。

 でも、結局、ステープル家のサーシャにとって、研究は間に合わず、彼女は死んだの。

 世間の人は、娘が重い遺伝病で死んだのはステープル重工業が作った武器で死んだ人々の『呪い』だって、噂してたそうよ。

母さんは、泣き続けたそうよ。

 この子が生まれた時にどんなに嬉しかったか、

 遺伝病と知った時にせめて18歳までは生き延びさせてやりたかったと。

 18歳になったら、屋敷でデビュー・パーティを開いて、大勢のお客さんを呼んで、この子の成人を華やかに祝ってあげたかったとね。」

「それで、ダンス発表会の時に、お母様はあんなに喜んでいらしたのですね。」

「そうよ。

 この頃は、やっぱり、二人のサーシャは別々の人間とは思えないって、言ってるの。

 私と最初に会った時も、そう思ったそうだけど。」

 

「そんなに二人は似てるんですか?」

「外見だけじゃないのよ。

 私、ステープル家のサーシャが知っていたことは、ほとんど知ってるの。

 彼女だけが知っているはずの、使用人さんたちとの内緒の約束も、秘密の宝物箱の鍵の開け方も。

 だから、事情を知らない人は、それこそ、私がクローン人間である証拠だと思うほどよ。」

「ええ!本当ですか。」

「そうよ、たとえば、貴方がお見舞いに来てくれた時に何を頂いたか知ってるわよ。

 あなたは覚えてるかしら。」

「覚えてます。」

「チョコレートボンボンだったよね。あれを食べて、彼女は顔が熱いって言ったでしょ。

 でも彼女の一番のお気に入りは、その入れ物だったの。ロイス&ロールス社製の宝石箱に入っていたのよね。

 秘密の宝物箱として大切にしてたわ。

 今でも、海明星の屋敷の自分の部屋にあるわよ。」

「驚きました。どうしてそんなことを知っているんですか。」

「簡単なことよ。

 私たち、文通していたの。仮名で身元が分からないように、特別な方法で。

 きっかけは、サーシャの病気のことで悩んだお母さんが、失踪以来行方の知れないお姉さんに相談しようと、手紙を書いて、裏世界の人に託したことだそうよ。

 最初は、非合法でも何か良い薬とか、良い治療方法はないかという話だったそうだけど。

 それで、ある日、手紙の返事が来たそうよ。

 それで初めて姉さんにも、同じ年齢の、同じ名前の娘がいるってわかったの。

 それなら、文通で、その子、つまり私に、ステープル家のサーシャの友達になってほしいと、母さんは頼んだそうよ。

 だって、彼女は病気で学校にも行けず、外へ遊びにも行けず、いつも屋敷の部屋で暮らしていて、友達ができないわけだから。」

「そうだったんですか。

 でも、文通だなんて古代のやり方ですね。

 今は、TV電話が普通じゃないですか。」

「茉莉香さんやチアキちゃんのうちと違って、宇宙マフィアは、合法の海賊じゃないのよ。電話番号もないし、私的な通信は艦隊の現在地を知られるから絶対禁止よ。

 でも、文通は楽しかったなあ。

 お互いに、まったく暮らしが違っていて、驚きの連続だった。

 だから、私は、お屋敷の暮らしにあこがれ、彼女は宇宙船で旅をする私の暮らしにあこがれたの。

 お屋敷での華やかなパーティに、私も参加したくなったのよねえ。

 私も、書いて良いって言われる範囲で詳しく宇宙船の暮らしを教えたし、彼女もお屋敷での暮らしを詳しく教えてくれた。

 彼女は、

『私がもう少し元気になったら、みんなに気づかれないように、お互いに入れ替わって遊ぼう』

 って言ってた。文通は、その準備だってね。

 だから、なんでも知っているのよ。

 まさか、本当にそういう夢がかなう日が来るとは、その時は思っていなかったけど。」

 

「でも、サーシャさんが一族を離れたのは、お父様に追放されたからと、おっしゃってましたね。」

「そうよ。子供ながら、時空トンネル航法の宇宙船のパイロットとして実験を成功させたことで、一族の人が私を見る目が変わったの。

『この子には幸運の女神がついている。』

『いや、この子こそ、幸運の女神だ。』

『この子を軍団長、やがて次の族長にして、銀河帝国を打ち負かそう。』ってね。」

「恐ろしい事態ですね。

 王家の場合も、王を救世主のように国民が崇拝する事態が来た時が、実は王家にとって最大の危機だと教えられました。

 だって、期待されるような奇跡を起こすことは容易ではありませんから。」

 グリューエルが言った。

「そうよね。グリューエルさんは賢いね。そのとおりよ。

 私は、一族の人の期待に反して、戦争には絶対に反対だった。

 『資源に劣る我々一族があの銀河帝国と戦って勝てるはずがない』、

 『戦えば一族は必ず滅びる』

 と何度も父に言ったの。

 子供でもわかることが、どうして大人には分からないのかってね。

 

 だって、私は父に連れて行ってもらった小惑星帯で、銀河帝国宇宙軍の演習を見たのよ。満天の星のような数の帝国の軍艦が間近に通り過ぎていく様子や、クイーン・オブ・パイレーツが備えているビーム兵器の破壊力の恐ろしさを見たのよ。

 それを見た大人の人たちは、『銀河帝国の脅しには屈しない』って叫んで、興奮していたけど、そう叫ぶ人たちの方が私には怖かったのよ。」

「その気持ち、よくわかります。」

「ありがとう。

 それで、結局、私が意見を変えないことに困った父は、一族の人たちにけじめを示すために、私を追放したの。

 もっとも、追放するための方法として、私を妹夫婦の養子として送り出すことにしてくれたのだけど。

 身元を隠すため、私を孤児とし国民登録して、怪しげな孤児院によって違法に売り買いされて施設を転々と移っていった子供を、今のお父さんとお母さんが、ある孤児院で偶然に見出したように装ってね。」

「その時は、とてもつらかったでしょうね。

 でも、それは、ご両親が何よりも先輩の幸せを願っていたからですね。

 そして、お父様は、族長として、一族の戦争ムードを冷却することも狙っていたのでしょうね。

 私たちもセレニティの政争でそういう立場に立たされたことがあるので、先輩のお気持ちはよくわかります。」

 ヒルデが言った。

「そうですよね。

 今になると、よくわかります。

 でも、その時は本当に捨てられたと思ってつらかったし、身元がばれないようにと、周りを見回して警戒ばかりしていたから。

 ステープル家の父さんと母さんが帝都クリスタルスターから辺境の海明星に移り住んだのも、そういう事情があったのよ。」

 ・・・・・

 あまりの重苦しい話に、皆が沈黙してしまった。

 

「はい、はい、はい、グリューエルも、ヒルデも、難しい話はもうこの辺でやめなさいよ。

 サーシャも。あなたは王女様じゃないんだから、もっと気楽に女子高生やりなさいね。

 まだ、高校三年生は始まったばかりだよ。」

 リリイが両手をたたいて、元気よく言った。

 

 しかし、リリイは無理に明るく振る舞っているようにも見えた。

 そして、一瞬の沈黙の後、リリイは、サーシャを見つめて、言葉を継いだ。

「・・・だから、さあ、反乱騒動もおさまったことだし、

 サーシャも、私たちと一緒に海明星に帰るんだよね。

 ねえ、帰るんでしょ?

 そうだよね。・・・・」

「・・・・・・・」

リリイの期待に反して、サーシャは何も答えず、沈黙した。

 

「私たち、これからもずっと友達だよ。

 私はそう思っているよ。サーシャは大切な友達だよ。今までも、これからも。

 サーシャが白鳳女学院大学の医学部へ行っても、私たちとまた遊べるよね。

 楽しくやれるよね。

 また、これまでと同じように。ずっと、ずっと。」

「・・・・・・・・」

 やはりサーシャは何も答えなかった。

 

 ヨット部員たちもようやくサーシャの真意を悟って、顔が青ざめた。

「・・・まさか、・・・・まさか、

 あの人たちと一緒に、『ヒガン』とかいう遠いところへ行ってしまわないよね。

 今のサーシャの話を聞いていると、そんな気がしてきたんだ。

 ねえ、行かないよね。

 私たちと別れて、ひとりでどこかへ行ったりしないよね。・・・・」

 リリイは、しだいに涙声になっていた。

 

「・・・・・・・」

 リリイの期待に反して、サーシャは何も答えず、沈黙を続けた。

 

「先輩、一緒に帰りましょう。

 先輩は私にこう言って励ましてくれたじゃないですか。

 いっしょに医学部目指して頑張ろうって。」

 ランバートが言った。

「まだ、ダンス発表会もあるよ。

 私たち前回は男役だったから、まだ、一度もドレスで踊っていないんだよ。

 サーシャもあの白いドレスで踊るところを、お母さんに見てもらわないといけないよ。

 それが、お母さんの夢だったんでしょ。夢をかなえてあげようよ。」

 ハラマキが言った。

「お父様もお母様も、あの美しいお屋敷で先輩のお帰りを待っていらっしゃいますよ。

 サーシャさん。一緒に帰りましょう。」

 ジェシカが言った。

「あなたの強い意思で、あなたが望む運命、あなたが望む幸せをつかみましょう。

 あなたの亡くなられたお母様も、そうなさったのでしょう。サーシャさん。」

 グリューエルが言った。

 

「・・・・・・・」

 サーシャは何も答えなかった。

 ヨット部員たちには、重苦しい時間が続いたように感じられた。

 

 やがて、サーシャが言った。

「みんな、ありがとう。そう言ってもらえて、うれしい。

 私、ほんとに良い友達に恵まれているんだね。

 わたしね、宇宙マフィアの大ボスの子供だという私の秘密が世間に明らかになってし まったら、あの屋敷から出ていかなければならないと、ずっと前から思ってた。

 そうしないと、お父さんにも、お母さんにも迷惑がかかると思ってた。

 だから、必死で秘密を守ろうとしていたのよ。

 いま、私の秘密を話しながら、今までの出来事を思い出してたの。

 これで、もうお別れだと思いながら・・。

 でも、同時に涙が出てこない自分に驚いてたの。また心が凍っているのかなと思って。」

「あなただって、本当は帰りたいんでしょ。」

 リリイが言った。

「・・・・そうだよ。本当は。

 だって、あの屋敷での暮らしは、私がずーっと憧れてたものだから。

 温かく輝く太陽、

 澄み切った青い空、

 かぐわしい大気、

 緑あふれる広い庭、

 遠くの青い山々、

 木々を揺らす風の音、

 明け方からの鳥の声、

 雨上がりでにおい立つ草木、

 緩やかだけど春夏秋冬の季節の移り変わりがあって・・・

 宇宙船で生まれ育った私が憧れた、美しい世界があるんだよ。

 

 とりわけ、毎年秋に、お気に入りのコートを着て、乾いた落ち葉をサクサクと踏みしめながら庭の並木道を散歩するのが、大好きだった。

 そのころは、遠くに見える大通りのプラタナスの葉だけが色づいて、緑の濃い大地に黄色いリボンをかけるんだよ。

 

 そういう時に、私、こんな美しい世界が永遠に続いてほしいから、空を見上げて、

『時間よ、止まれ!』

 て、つぶやくんだよ。

 

 それらすべてを失いたくなかったから。

 ずっと、ずっと、ここで暮らしたかったから。 ・・・・・」

 リリイはサーシャと抱き合って泣いていた。

 

「サーシャ、ずっといっしょだよ。」

「私、ここに居ていいのかなあ。いいのかなあ。」

「いいんだよ。」

「ありがとう。・・・・

 私、秘密を守ろうと必死になっているうちに、自分がひとりではないことを見失っていたんだね。

 みんなが、それを気づかせてくれたんだね。本当にありがとう。」

「いっしょに、海明星へ帰ろう。」

「うん。私も帰るよ、

 みんなといっしょに。お母さんの待っている海明星に帰るよ。

 なんたって、私のうちだもの。」

「そうだよ。いっしょに帰ろうよ。

 これから、嫌なことも起こるかもしれないけど、私たちがいるから、良いこともきっとたくさんあるよ。」

「ありがとう。そうだね。悪いことだけじゃないよね。

 悪いことが起きるからと言って、逃げちゃいけないよね。

 グリューエルさんに言われたように、大切なのは、強い意志だよね。

 やっぱり私は、帰ります。」

 

「うわー、よかった、よかった。」

「さあ、みんなで帰ろう。」

 ヨット部員たちは、喜んで、声を上げた。

 

「そういえば、茉莉香とチアキちゃんが遅いわねえ。

 もう、とっくに戦闘は終わってるはずでしょ。

 何をしてるのかしら。」

「艦長、茉莉香とチアキさんは、どうなされているのですか?」

 グリューエルが言った。

 

 ヨット部員のやり取りを黙って見つめていたミッキー艦長が言った。

「茉莉香は公爵の船に戻って、海賊しに行ったようだ。

 ちゃんと海賊しないで、お宝探しだけやるのは、けしからんと、公爵夫人に怒られたらしい。

 チアキは、化学兵器と生物兵器を浴びた防護服の除染がすんで、いま医師の診察をうけているそうだ。

 元気だそうだから、そのうち帰ってくるだろう。」

「なんですって!

 茉莉香、私たちに内緒で、海賊ショーをするの?」

「友達なのに、誘ってくれないなんて、問題じゃないかしら、ねえ。」

「私たちも、また、参加させてもらえませんでしたね。

 海賊のコスプレ、したかったです。」

 ヨット部員たちは、サーシャのことで安心したためか、一転して、加藤茉莉香と海賊ショーの話題で盛り上がっていた。

 

 

8-2 帝国軍総司令部(クイーン・オブ・パイレーツ船内)

 

 こちらは、クイーン・オブ・パイレーツの帝国軍総司令部。女王が医務将校から報告を受けていた。

「チアキ様におかれましては、化学兵器と生物兵器による影響はございません。

 ご安心ください。

 ただ、診察した医師の報告では、チアキ様は流行性のウイルス感染症に罹っているとのことです。」

「ウイルス感染症だと?

 チアキは主要な生物兵器に対する抗体をすべて備えているはずであろう。

 ほかにどんなウイルスに罹るというのだ。」

「・・・兵器級の強毒性ウイルスに関しては、陛下のおっしゃる通りでございます。

 しかし、チアキ様の罹っているのは、流行性耳下腺炎です。帝国の母親の言葉でいいますと『ウサギ熱』でございます。『おたふく風邪』と呼ぶ星もあるようです。」

「なんだ、ウサギ熱か。

 ウイルス感染症というから、どんな大病かと心配したぞ。

 それにしても、17歳のチアキがどうしてそんな病気に罹るんだ。ふつう、小さい子供のころに罹る病気だろう。」

「とても大切に育てられたのでございましょう。

 ほかにも、いくつかの子供の病気に対する抗体がないと診断されています。」

「それで、どうするのだ。そろそろ、海明星に帰って、学校に戻る頃であろう。」

「大人がウサギ熱に罹りますと、まれに重症化する場合もございますので、厳重な健康管理が必要かと存じます。

 念のため、3週間ほど入院をお勧めします。」

「そうか。フフフ。

 では、第二王宮にある帝国軍病院のセイント・ローヤル・ルームへ入院させてやってくれ。

 チアキも頑張ったから、ご褒美だ。少し休むとよい。」

「承知いたしました。」

 

8-3 機動空母グランド・マザー

 

 機動空母グランド・マザーのブリッジに、クリスティア王女が戻ってきた。

「やあ、みんなにも心配かけてすまなかったね。先ほど、ウルスラを見舞いに行ってきたが、もう大丈夫だ。グランドマザーの船内病院に移されて、グーグー寝てるよ。

 さて、練習航海の予定が大幅に狂ってしまったが、そろそろ帰らないとね。

 この船で海明星まで送っていくから、安心してくれ。」

「はい。それで、先生、いや王女殿下におかれましても大勝利おめでとうございます。」

「ああ、ありがとう。」

「あのう、先生。」リリイが聞いた。

「先生は、先生として、もう白鳳女学院には戻られないのですよね。王女様としてのお仕事を始められるのですか?」

「ああ、そういうことになるかな。」

「残念です。もっといろいろ教えてほしかったです。」

「先生のおかげで、大冒険の練習航海になりましたしね。海賊王女の儀式は、貴重な経験でした。ありがとうございました。」

「そういってくれると、名残惜しいね。

 ・・・う~ん、やはり、私もこの船に乗って、海明星まで見送ろう。

 それまでの間、今までのように楽しくお前たちと過ごすことができるだろう。」

「わーい!」

「それじゃあ、まず、先生とみんなでお茶にしましょう。ね、みんな。」

 ハラマキが言った。

「私、おなかが空いてきました。モーレツに。」

「お茶と言えば、私、原田先輩の焼いたスコーンが食べたいです。」

一年生たちが言った。

「わかったよ。どーんと、任せといて。どーんと。」

「ははは・・・」笑い声が弾んだ。

 クリスティア王女とヨット部員は、ブリッジから、元の来客用の区画に帰って行った。

 

 クリスティア王女とヨット部員が、お茶を飲みながら、わいわいと練習航海中のエピソードで盛り上がっていると、茉莉香が帰ってきた。

「やあ、みんな、楽しそうだね。」

「茉莉香!聞いたよ。

 何よ。海賊ショーをやるなら、私たちを誘ってくれてもよかったじゃない。」

 リリイが言った。

「ええ?」

「海賊してたんでしょ。」

「ああー、あれねえ。へへへ、もう終わっちゃいました。」

 茉莉香はその話には触れたくないようだった。

「それより、チアキちゃんとウルスラは、どうしたの。」茉莉香が聞いた。

「ウルスラは、この船の病院で疲れ切って寝てる。

 チアキちゃんはまだ帰ってこないね。遅いね。」

「チアキは確かに遅い。聞いてみよう。」

クリスティア王女がブリッジに電話をかけて、様子を聞いた。

 

「フフフ・・・、遅い訳が分かった。

 チアキは、ウサギ熱に罹っているそうだ。

 念のため、病院に入院するので、既にそちらへ向かったそうだ。

 これでは、チアキは帰るのが遅れそうだなあ。」

「ええ?ウサギ熱ですって?」

「いやだぁ。キャハハハ・・・」

「ウサギ熱なんて、幼稚園児の罹る病気じゃないですか。」

「高三の女子高生が罹る病気じゃないですよ。」

 一年生たちが笑った。

 

 

8-4 たう星系宙域

 

「まもなく、たう星系軍の錨泊宙域付近の、通常空間に復帰します。」

 機動空母グランドマザーは、時空トンネルを出て、たう星系に到達した。

 付近の宙域では、銀河帝国の新空母が最新の時空トンネル航法で現れるところを見ようと、たう星系軍関係者が見守っていた。

「すごい。新航法は、まったくすごい。

 こんな大きな船が、レッド・クリスタル星系から数時間でここまで来ることができるのか。時空震やプレドライブ現象も想像以上に微弱で、スムーズだ。」

「やはり、新航法はもう完成段階だ。

 実戦で使用されたというのも、当然だ。」

「これで、帝国軍の機動力は、銀河系全体を自分の庭に変えてしまう程に向上したことになりますね。

 もう、銀河帝国と誰も戦争なんかできませんね。」

「まったくだ。それにしても、大きい母船だなあ。どれだけの軍艦を収納しているのだろうか。

 加えて、重力波砲とかいう大量破壊兵器も装備しているそうだ。」

「この船一隻で、我がたう星系軍の軍事力を上回るのは間違いないですね。」

 

 星系軍関係者が呆れている間に、空母の中から弁天丸が現れ、出航して行った。

 さらに、白鳳女学院のオデットⅡ世号も空母の中から現れ、出航した。

 

 

8-5 オデットⅡ世号ブリッジ

 

 オデットⅡ世号船長の加藤茉莉香は、号令をかけた。

「さあ、中継ステーションに帰るよ。オデットⅡ世号、全マストを開いて、全速前進。」

「了解。」

「あー、帰ったら試験か。」

「私、このままでは、赤点で追試かなあ。それにしても、おなかすいた。」

 元気になったウルスラが、元気のないことを言った。

「追試なんか気にしない。大事なのは、夏休みだよ。」リリイが言った。

 

 その時、オデットⅡ世号の警報が鳴った。

「なに?何が起こったの?」

 

 茉莉香が驚いたが、どうも驚いているのは茉莉香だけだった。

「船長、密航者です。」

「ええー! どこにいるの。」

「船長室で紅茶をお飲みになっています。」ヒルデが言った。

「え? その言葉使いってことは、まさか、王女様?」

「フフフ、当たり・・・。」リリイが言った。

「えー! みんな知ってたの。それじゃあ、私だけ知らなかったの。それはないでしょ。ひどいよ。」

「フフフ、だって、船長さんまでご存じでしたら、密航になりませんでしょ。」

 グリューエルが言った。

「それより、帝国軍へ、グランドマザーへの連絡を急いで。王女様がこっちにいるって。」

「大丈夫ですよ。打ち合わせ済みです。」

「ええー? なにそれ。」

 茉莉香が少し怒っていると、クリスティア王女がブリッジに現れた。

「まあまあ、茉莉香、そんなに怒るな。

 この前、お茶を飲んでいるときに、グリューエルとヒルデから密航したときの話を聞いてねえー。スリル満点だそうだから、やってみたくなってね。」

「それはないでしょ、王女様。

『かくれんぼ』じゃないんですよ。立派な航海法違反です。」

 茉莉香はまだ怒っていた。

 

 その時、白鳳女学院のWEB掲示板を閲覧していたハラマキが言った。

「やったー! 帝国の反乱騒動で学校が休校になっている。

 だから、期末試験は、希望すればレポート提出に替えられることになってるよ。」

「やったー!試験なし。ラッキー。」

 ヨット部員全員が、歓声を上げた。

 その時、王女が言った。

「そのことだが、練習航海の出発前から校長先生に言われていたことがあってね。

 ヨット部員には出席日数に問題のある生徒が多いので、卒業や進級に支障のないように、全員、夏休みのほぼ全日にわたって、特別に補習授業を受けるようにと言われてた。

 その後に、試験も行うそうだ。

 だから、お前たちは、レポート提出は選択できない。 」

「ええ!? 夏休みがすべて補習に・・・・そんな。」

「もともと、お前たちにだけ特別に計らってくれたのだからね、校長先生によくお礼を言いなさい。

 特別補習授業は、このたびの休校措置と関係はなく行うそうだ。

 もっとも、校長先生の話だと、茉莉香やヒルデが補習授業を受けると聞いて、他の生徒の間でも、レポート提出ではなく、補習授業を希望する者が多いそうだ。

 もちろん、これで、茉莉香も出席日数の心配がなくなるぞ。」

「いやあ、それを言われると弱いなあ・・。」

 茉莉香が言った。

「あ、でも・・・

 まさか、先生、それを伝えるためにわざわざ密航してきたのですか。

 実は言い忘れていたのだったりして・・。」

 茉莉香がにらんだ。

「いや、そんなことはない。断じて、ない。

 練習航海中には、いつか言わなければならないと思っていたけど・・・。」

「何、言ってるんですか。もう練習航海は終わりじゃないですか。」

「いやー、みんな、練習航海を楽しんでいて、

 試験のことなんか心配していなかったし、

 夏休みが無くなると聞いてガッカリさせるのも気の毒で、

 なかなか言い出しにくくて・・・。

 アハハハ。」

「もう~~~、練習航海では秘密は無しだと、約束してたじゃないですか。」

「そんな約束はしていないぞ、茉莉香。

 秘密と言っても、これは、航海の安全にかかわる秘密ではないからなあ、

 アハハハ・・・。」

 

「ああ~~、やっぱり、夏休みが・・・。マミ、チアキちゃん、助けて~~~。」

 

 茉莉香の小さい悲鳴にもかかわらず、オデットⅡ世号は、無事、中継ステーションに到着し、波乱万丈の練習航海は終了した。

 

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