かつて、のちの人々によって『古代ベルカ』と呼ばれた次元世界が存在した。優れた魔法形態、優れた技術を持っており、その力は様々な次元世界に伝えられ、何百年後の世界においても大きな存在感を放っていた。
古代ベルカには、多くの王が地上を支配した時代が存在した。名前を挙げれば、他の世界の住民でも一度は歴史の授業の中で聞いたことがあるものばかりであろう。『雷帝』ダールグリュン、『冥王』イクスヴェリア、『覇王』イングヴァルト。どの王も数々の武勇伝を歴史に刻み付け、後世に名を遺した優れた王たちである。
その王の中においても、もっとも広く知られ力を持っていた王家、それを『聖王家』と呼んだ。聖王家は、膨大な力を待ってベルカの世界を支配していたことで後世に伝えられている。古代ベルカでは、これらの王が競い合い、自らの土地を広げる戦乱の時代であると多くの書物に書かれている。
だが、そんな優れた王の物語が語られる中でも、大きな歴史の陰に隠れてしまった王も多く存在する。いや、むしろ語られる王のほうが少ないだろう。彼らの多くは、あっけなく戦争に負けてしまった、無能であった、特別な力を持たないなど、あまり良い人生を送っていないもののほうが多いだろう。
そんな中、ある国に一人の王がいた。国の名を、ヒークリア王国といった。資源にも乏しく、土地も肥えることのない、他国に攻め込まれてしまえば、勝ち目などない、そのようにひ弱で小さな国の主だった。
その王は女性だった。努力し、何年もの間毎日欠かさず鍛錬に励み、それなりの力を手にすることはできたが、圧倒的というわけでもなく、武芸において歴史に名を残すほどでもなかった。
だが、彼女は努力した。国を、国民を守るため、何年もの間必死に戦い続けた。他国が攻め入ってきたときは、自ら戦場に赴き、傷つきながら国を守り、国民が貧困に喘いだときは、自らの食料ですら国民に分け与えた。
彼女は、あるものからこう聞かれた。
『なぜこんな国を必死に守るために、頑張り続けるのか』
はたから見れば、彼女の頑張りはひどく無駄なものに思えた。いつかは、必ず滅びてしまうであろうこの国を、全力で守る意味があるのかと。
彼女はそれを聞いて苦笑した。確かに、遅かれ早かれ、この国は亡びる。それはあまりにも残酷だが、確実に訪れる未来。自分のやっていることは、国の寿命を延命させているだけ。国の多くの人々、そして彼女さえもそう思っていた。
『……そうじゃな。確かに、妾のやっていることは無駄なのかもしれぬ。どんなに努力しても、この国は妾の代で滅びてしまうじゃろう。……じゃが』
彼女は強い意志の籠った目で、質問を投げかけたものにこう告げた。
『妾は、約束したんじゃ。この時代を、この戦乱の時代を皆で耐え抜こうと。今を耐え抜いて、皆で平和な時代を作っていこうと、約束したんじゃ』
幼い時の記憶、あの日、あの場所で誓った四人の約束を思い出す。
『……皆が笑顔になれる世界を』
優しく強く気高い四人の友がいたからこそ、今の自分がある。
四人に成長した自分を示すため、四人と交わした約束を守るため、彼女は生き続けなければならない。それは、彼女なりの恩返し。彼女の使命。
彼女は、最後まで、その理想を追い続けた。
灰色の空が人々の住まう大地を覆い尽くす。雲の隙間から射す日差しは乏しく、土地はひび割れ、根を張る植物はほとんど枯れてしまっている。
そんな荒野の片隅に一つの村があった。かつてはたくさんの人で活気に溢れていたであろうその村に、今は人の気配など全くない。いまあるのは、何者かによって火を放たれたのだろうか、ずいぶん前に燃えてしまったのであろう家。そして、主を失って餓死したのであろういくつかの家畜の骨だけだった。
まったくと言ってよいほど生気を感じることのない大地に、一人の女性の姿がある。おそらく身体を動かすことが多いと思われるような身体の引き締まり具合、しっかりした凹凸を持つ彼女の身体は、男性、女性でも、羨望の眼差しを送るであろう。髪は黒く、それほど長くもなく短くもない。しかし、美しく艶やかに光るその髪は、しっかりと手入れされていることを伺わせる。そんな彼女で最も印象的な特徴と言えば、その瞳だ。大きく、そして鋭く、凛々しさを感じさせるその瞳の色は、橙と紫。虹彩異色と呼ばれるものであり、両方の瞳の色が異なっていた。
「シ、シトラス陛下~!」
乾いた大地を颯爽と駆ける馬の姿がある。馬には、一人の男性が乗っており、荒野に佇む女性向かって声をかけている。
「……ノーデラか。そんなに慌ててどうしたのじゃ?」
ノーデラと呼ばれた白髪交じりの男性が、軽く息を弾ませながら馬から降りてくる。かなり慌てているようで、馬から降りて女性の近くに来るまで何回かこけそうになりながら走っている。
「ふむ。その慌てようから見るに……また妻が実家に帰ったのか? はぁ、これで何回目じゃ。何回これを言ったか覚えておらぬが、彼女は繊細なのじゃからもう少し優しく声をかけてやれと……」
「ち、違います! 最近はそれなりにうまくいってる……じゃない! いったい何を言わせる気なのですか! まったく、歳を取るたびに前国王に似てきちゃって……」
「ははは、すまぬすまぬ。こんな世の中じゃからの、冗談の一つや二つ言っておらんと気が滅入ってしまうわい」
にやりとしながら、ノーデラの肩をポンッと叩く。ノーデラはそんな彼女の様子にため息を吐く。しかし、ここに来た理由を思い出したのか、ノーデラは慌てて要件を話し出した。
「た、大変でございます! 密偵の情報によりますと、敵対諸国から多くの兵が派遣され、我がヒークリア王国に向けて進軍を開始したとのことです!」
彼女のか顔つきが、先ほどのじゃらけた表情から真剣なものへと変わる。
「……そうか。思っていたより、早かったのう」
慌てふためくノーデラに対し、まるで、いつかはこうなるであろうと予測していたように彼女は落ち着いていた。
「皆を城に集めよ。そこでまとめて、皆に話す。妾もすぐ行く」
「は、はっ! 早急に!」
ノーデラはそう告げられると、再び馬に乗り城のある方角へと駆け出していった。
再び、荒野に一人、彼女は取り残される。
「……行こうかの」
彼女は小さく呟いて、晴れることのない空の下で馬を走らせ、城に向かっていった。荒野に吹く風の匂いに、戦火のにおいを感じながら。
「陛下、今すぐ城を出て、他国に亡命すべきです!」
「いや、最後の最後まで戦うべきだ! 籠城すれば、少しは戦える!」
「我らが死んだとしても、クラウス王子の軍がきっと仇を……」
城の一角にある大広間。普段から多くの大臣や将軍、著名な学者が議論をする場であるが、この日はさらに多くの人が議論に参加している。
もちろん議論の対象は、国に近付きつつある敵国の侵略に関してで、多くのものが敗北を確信している。それほど軍力、すべてにおいて力の差は歴然で、皆は気丈に振る舞っているが、どことなく皆の顔は暗い。
「お、落ち着け、皆の衆! もうすぐ陛下がご到着される!」
ノーデラが部屋の皆に落ち着くよう呼びかけるが、一向に落ち着く気配を見せない。それもそのはず、近くにはこの国を破壊し、多くの命を奪うであろう脅威が目の先まで迫っている。多くのものが死の気配に恐怖し、正気を保つことが難しい状況になっていた。
「……ふむ。なかなか、混沌めいた状況になっておるのう」
そんな中、突如女性の声とともに、大広間の扉が音を立てる。扉が開かれ、中に入ってきたのは、ヒークリア王国現国王シトラス四世、その人であった。
混乱に満ち溢れていた場が一瞬で静寂に包まれると同時に、彼女視線に入れた家臣たちが、一斉に彼女に向かって頭を下げる。彼女は足早に自らの席へと向かい腰かける。
「ノーデラよ、何か新しい情報は入ってきておるか?」
彼女の言葉を聞いたノーデラは手元にある資料を急いで渡す。急いで作られたであろうあまり綺麗とは言えない資料に目を通し、彼女は小さく一息ため息を吐いた。
「……クラウス様は、やはり間に合わぬか」
「はっ……残念ながら。こちらに向かって進軍していると連絡は受けたのですが、今回の戦、敵国が何ヵ国も手を結んでいるらしく、かなりの妨害がされているとのことで……」
「ふむ。完全に妾達の国を潰しにかかりに来ているということか。随分と用心なことじゃの」
これまで、ヒークリアに敵国が攻めてくるということは何度もあった。だが、それはごく小規模なものであったり、同盟国であるシュトゥラ王国がすぐ助けに入れるようなものばかりであった。
だが、今回は違う。シュトゥラ王国などによる援助を断ち切り、ヒークリアを完全に孤立させている。本気で、ヒークリア王国を滅ぼそうとしている。
場に再び沈黙が走る。先ほどのような沈黙ではなく、人が絶望したときに流れる静寂。他国からの支援がない、その言葉はヒークリア王国に対する事実上の死刑通告と言ってもよかった。
「……ふん。こんなもののために国を滅ぼそうとするとは、哀れなものじゃの」
「……陛下」
彼女は胸元のポケットから一つの小さな球体を取り出す。一般市民が見れば、それはただの黒い宝石にしか見えない。しかし、彼女はこの石がとてつもない魔力を持っていることを知っていた。その石は、代々シトラス家に伝わる家宝であり、こんな小さな国に、多くの国が攻めてくるのも、大半の原因がこの石のせいであった。名を『ゼロティス』と呼び、他の誰かの手に渡らぬよう、シトラスの王自身が守り続けてきた。
ゼロティスは、シトラスの血筋と共にないとその力を発揮しない。ゼロティスはシトラスの者がいれば、多大なる魔力を供給する今の技術では複製することのできないものであった。他国は、この宝石を戦争に利用するために、ゼロティスとシトラスの血縁を求めていた。
「そろそろ、腹を括らぬといかぬか。……皆のもの、よく聞けぃ!」
大広間に、彼女の凛とした大きな声が響く。この場に集まった全員が彼女に注目し耳を傾けた。
「皆の者よ、さっき言った通りじゃ。この国、この城に妾たちの国を確実に滅ぼす脅威が迫ってきておる。クラウス殿の軍もこちらに向かって来ておるらしいが、十中八九、間に合わないじゃろう」
王のその言葉を沈痛な面持ちで聞いている。多くのものが、愛する自国を、己の故郷を守れなかった、心から仕えると決めた目の前の王に報いることができなかった悔しさからか、声を押し殺し、大粒の涙を流していた。
「……お主たちは感謝しきれぬ。まだまだ若く未熟で弱い、こんな王に仕え励ましてくれた。妾だけじゃったら、この国はとっくに滅びておったじゃろう」
「何をおっしゃいますか、陛下! ここにいる皆は、あなたが優れたお人であったからこそ最後まで仕えようと決めたのですぞ」
「……そうか」
彼女はこんなに素晴らしい家臣に恵まれたことに本当に感謝した。彼等は、家族を持たない彼女にとって、本当の家族のような存在であった。彼女が、愛を感じ取れた数少ない居場所であった。
(……だからこそ、じゃ)
だからこそ、彼女は彼らに伝えるべきことがある。家族のように大切な存在だから、彼らを守りたいと思う。
「……皆のもの、これは妾からお主たちに対する最後の命令じゃ」
ここに残るすべてのものは、王とともに最後まで戦うつもりでいた。ここで自害しろと言われても、彼らは迷わず腹を切るつもりだった。
「……妾を城において、城下町の民と共に、ここから立ち去れ」
……城の中を、静寂が支配する。まるで人気がなく、明かりがついていなければ、廃墟ではないかと疑われてしまうかもしれない。
そんな中、とある一室に一人の女性の姿があった。彼女はこの城の主、名前を『ルーチェ』と呼んだ。
ルーチェは自室に飾ってある一枚の絵画を見た。その絵には、幼いころのルーチェであろう少女の他に、四人の人物が写っている。
(懐かしいのう。幼いころのクラウス殿に、エレミア殿。クロ殿に……オリヴィエ殿)
そこに写っていたのは、ルーチェの友人たちの姿だった。四人が笑顔で写っている中、ルーチェだけが恥ずかしそうに顔を背けるふうに書かれているのに、ルーチェは少し苦笑する。
(……絵師も、もう少し妾に気を使って描いてくれればよいのにのう。この絵が後世まで残ってしまったら、かなり恥ずかしいんじゃが)
今のうちに妾の部分だけ切り抜いてしまい、なかったことにでもしてしまおうか。そんなことを考えながら、再び絵に写る四人の顔を見る。
「……皆さん、申し訳ない。どうやら、約束は守れそうにないみたいです」
誰もいない部屋で、ルーチェは絵に向かって謝罪の言葉を語りかける。もちろん、絵に写る四人はここにおらず、ルーチェの懺悔の言葉を聞く者さえいない。だがそれでも、彼女は謝らなくては気が済まなかった。それほどまでに五人で交わした約束の意味合いは大きく、彼女をここまで立ち直らせた一つの要因であるといってもいいだろう。
ルーチェが自分の家臣たちに国外に逃亡するよう言った後、もちろん、ほとんどの者から大反対された。自分も最後まで戦うと告げるものがほとんどだったが、ルーチェは最後まで考えを変えることなく、王の意向に賛同したノーデラその他数名と共に半ば無理やり城から追い出した。
『……これで、よかったのでしょうか』
多くの人々が避難しきった後、城の門の前でノーデラがルーチェに問いかけた。ノーデラ自身も、王の下した決断は絶対と思いつつも、王を守らなくてはという思いがせめぎ合っていた。ノーデラも城の人々が避難し終わった後、ルーチェを置いて逃亡しろと命令されていたのだった。
『いいんじゃよ。どうせ死ぬなら、死ぬのは少ないほうがいいじゃろ?』
『……皆、納得してはおりませぬぞ』
『妾が納得しておる。これで大丈夫じゃ! ハハハ!』
そう豪快に笑うルーチェをいつもなら呆れるようにため息を吐くノーデラだが、今回ばかりは表情を変えず、王を守ることができない悔しさからか頬に涙を流している。
『……クラウス殿に、民のことをよろしくお願いします、と伝えてくれ』
『……ッ!』
『あと、妻を大切にするのじゃぞ。今度喧嘩しよったら、化けて出てやるからの』
『……はいッ!』
『……では、さらばじゃ』
こうして、ノーデラやその他の家臣たち、城下に住む民の全員が軍の迫ってくる逆の方角へと逃げて行った。
今いる部屋から城の外を覗くと、段々と城から離れていく大軍が遠くに見える。それと同時に、反対側の窓を覗けば、城のほうに近づく敵の大軍がはっきりと見える。もう、終わりは近い。
彼女は戦に出るたびの準備をする。なるべく長く戦えるよう、鎧は慣れたものを着る。武器はエレミアに見繕ってもらった番いの双剣。彼女の持つお守りを模したその剣は、ルーチェの相棒ともいってもよいものであった。
準備を終え、いよいよ戦場に出ようとする前に、もう一度皆が写る絵を見つめた。
「……クラウス殿、あなたのそのまっすぐな心の強さ、本当に羨ましかったです。ヒークリアの民は、そちらに向かわせました。皆、妾にはもったかったほどの、気の良いものたちばかりです。……よろしくお願いします」
ルーチェにとってクラウスは兄のような存在だった。ルーチェが寂しがっていれば、すぐ優しく慰めてくれる。ルーチェは彼が大好きだった。
「……エレミア殿、会うたびに毎回稽古をつけてくださり、本当に感謝しています。これからの戦で、エレミアの誇りに傷をつけぬよう、努力いたします」
エレミアは、ルーチェが強く在れるように、戦場で生きるすべを教えてくれた。エレミアの技のおかげで、今まであった戦でも戦い抜くことができた。ルーチェは彼女が大好きだった。
「……クロ殿、天真爛漫な明るさが、妾の心の闇を光のように照らしてくれましたね。生来、暗かった妾が、ここまで明るくなれたのもクロ殿のおかげです。……ありがとうございました」
森の魔女であるクロゼルグは、王族であるルーチェと身分関係なく接し、あまり見ることのない数々の技でいつも皆を笑わせてくれた。ルーチェは彼女が大好きだった。
「……オリヴィエ殿。……オリヴィエ殿は……」
ルーチェは、絵の中で優しく微笑むオリヴィエを見つめ言葉を詰まらせる。それは、彼女との約束をこれから自分の手で破ってしまうという罪悪感からだろうか。次に続く言葉がなかなか出てこない。
そのかわり、目元から熱い何かが流れ出しそうになる。もしルーチェが昔のように弱かったら、すぐにでも外に溢れ出たかもしれない。だが、ルーチェはそれを堪える。ルーチェはここで泣くことは許されなかった。ここで泣いたら自分の決めた道を後悔することになる。それだけは、できなかった。
ルーチェは溢れ出るものを必死に堪え、目の前にいるオリヴィエに思いを告げる。
「……オリヴィエ殿は、今も昔も、妾にとってあこがれの人でした。強く、優しく、美しく、可憐で……いつかあなたのような女性になりたい。そう思って、今まで過ごしてきました。……でも、妾は、最後の最後まであなたのような女性……あなたの友として相応しい女性になる夢は叶いそうにありません」
オリヴィエは、ルーチェのすべてだった。オリヴィエがルーチェに手を差し出したからこそ、今のルーチェがいる。オリヴィエがいたからこそ、今のルーチェという一人の王が存在できる。
「……今まで、ありがとうございました。」
だが、今日でそんな関係は終わりだ。なぜなら、今日以降、彼女の顔を見ることは二度となくなる。だからこそ、ルーチェは言わなくてはいけない。さよならの言葉を。
「……さようなら。本当に、愛していました、オリヴィア殿」
いつか伝えたかった言葉を一緒に告げて、ルーチェは絵に背を向け部屋の外へと出る。もう自分に思い残したことはない。迷わず前に進めるだろう。
「……よしっ!」
気分を切り替えるため、自分の頬をパチンッ!と叩く。廊下に乾いた気持ちの良い音が響く。そこにはもう暗かったお姫様はいない。今ここに立っているのは、ヒークリア王国の王、ルーチェ・シトラスだけだ。
「行こうか!」
ルーチェは駆け出す。目の前に迫る大軍に、自分の力のすべてをぶつけるため。愛する民を守るため。
ルーチェは二本の剣と『ゼロティス』と共に、戦場へと出て行った。
……ここに古ぼけた歴史書がある。この本は古代ベルカの細かい歴史が書かれているものであり、第1管理世界『ミッドチルダ』の無限書庫に保管されている。
著者の名前は『ポスト・ノーデラ』。古代ベルカのヒークリア王国の大臣を務めていた人物で、のちに優れた学者として現世まで伝わっている。
そんな彼が書いたこの本にはベルカに存在した王の武勇伝などが書かれているが、その中でもヒークリア王国最後の王『ルーチェ・シトラス』、俗にいわれる『双王』についてはとても細かく書かれている。
『民のことを思う、とても素晴らしい君主であった。最後は自分たちを守るため自らが犠牲になった』など、彼女をほめたたえる文がつらつらと書かれているが、彼女の死の部分についてはこう書かれていた。
【戦が終わった後、私たちはシトラス様が何か残したものはないかと、シトラス様と大軍がぶつかった場所をこと細かく調査した。クラウス様から聞いた話によると、シトラス様は大軍相手に一騎当千の活躍を見せたが無限に湧き出る兵の前に最後は力尽きた。だがその後、クラウス様の軍が到着し残りの兵を一人残らず一掃した。彼女の身体を回収する暇はなかったはずだ、と。なので、私はシトラス様の身体を埋葬するために数多くの遺体の中からシトラス様を探した。……だが、シトラス様の身体はどこにもなかった。身体どころか、シトラス様の持っていた剣、鎧、王家の秘宝『ゼロティス』さえも見つからなかった。その後、他国の情報からも、シトラス様の遺体を持っているという話や、ゼロティスを複製したという話を聞くことはない。一体、我が主はどこに行ってしまわれたのだろうか】
その後、約五百年たった今でも、ルーチェの遺体や身に着けていたものは見つかっていない。すでにベルカの世界自体が存在していないため、発見は困難であろう。
彼女の遺体はどこに行ったのか、実は生きていたのではないか、歴史マニアの中で彼女についての議論が途絶えることはない。
近年わかったことと言えば、彼女が見に着けていた宝石『ゼロティス』は、失われた技術『ロストロギア』だった可能性があるということだけだった。
―修正報告所―
2015/4/7:修正しました。JAM様、ご指摘ありがとうございました!