Wish -王女の願う夢‐   作:ARCHERN後輩

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前話との投稿間隔がだいぶ空いてしまいました٩( 'ω' )و

申し訳ないです……スピードを上げていきたいですね!

あとお気に入り数46いきました!ありがとうございます!


第2話

 

―視点:高町ゆず―

 

 ピピピピ……と妾の枕元で、目覚まし時計の鳴る音が部屋の中に小さく響く。妾は音を止めるボタンを押して断続的になり続ける音を停止させた。

 あまり大きな音が好きではないため、この時計は一年ほど前に母上にお願いして買って頂いた、音の小さいタイプの時計だ。母上は、時計くらい別にいいのに、とは言っていたが、買って頂いたのだからちゃんとお礼は言わなければならないと妾は思う。

 音を止めた後、妾はゆっくりと起き上がり、時計に示されている現在の時間を確認する。時刻は朝六時、ちょうど。外はまだ少し薄暗い。

 学校に出かけるまでは、まだまだ時間がある。このまま準備をしていけば、余裕を持って学校に向かうことが出来るだろう。

 さて、それまで何をしようか。母上のお手伝いでもいいだろうし、軽く家の周りを散歩しても……

 

「イッエーイ! グッドモーニーングでっすよー! いやいやー、実に気分のいい朝ですね! 空気も澄んでておいしいし、これだけでご飯三杯はいけちゃいますね! はむはむごくん! うん、んまい!」

 

 どこからともなく聞こえてくる突然の大音量ボイスに、妾は顔の筋肉を引き攣らせる。……ああ、心地よい目覚めが台無しだ。

 妾はその声がする方へ、うんざりしながらもゆっくりと顔を向ける。そこにいたのは、妾の学習机に座る一人の少女の姿。艶やかな金色の髪を持ち、黒を基調にしたゴシックロリィタ調の服を着ている少女は、いたずら小僧のようなやんちゃな笑顔を浮かべて、こちらの方を見つめている。

 

「……なんで勝手に出て来ておるのじゃ。普段は中に居ろと何回言えばお主は分かってくれるんじゃ? あ?」

 

「ちっちっちー、甘いです、甘々ですよ、我が王よ。いつから私が、人の言うことを聞くような、可憐な美少女に見えたというのやら、やれやれだぜですね、まったく!」

 

 額に青筋が浮かび上がる。おでこに一発お見舞いしてやろうかとも思ったが、殴ったところで効果がないのはすでに実証済み。ここは素直に折れておくのが、一番めんどうくさくならないだろう。朝の貴重な時間を、こやつの対応でつぶしたくはない。

 

「……そうじゃな、妾の認識が甘かったのは認めよう。許せ、ゼロ」

 

「ふははー、分かればいいのですよー! これからは考えを改めてくださいねー、『シトラス・ルーチェ陛下』!」

 

 ……またか。妾は目の前にいるゼロをじっと睨みつける。しかしゼロはそんな視線に全く動じることなく笑顔を絶やさずに、ニコニコと笑みを浮かべている。寧ろ、苛立ちを含んだその視線を楽しむように、妾の様子を見つめているようだった。

 

「……その名で呼ぶのはやめろと言っておるじゃろう。今の妾には、高町ゆずという名前があるのじゃから」

 

 そうだ。シトラス・ルーチェは今の名前ではない。

 その名前は、今よりもずっと前の時代に、別の次元で王を務めていた、すでに亡き凡王の名前だ。

 

「おっと、失礼致しました! 私、生み出されてからもう数百年という月日が経っておりまして~。脳味噌はボロボロ、記憶力は皆無なのですよ~、ふぉっふぉっふぉっ」

 

 胡散臭いゼロの口調に頭を痛くする。

 ……これ以上相手したら、頭の血管が切れてしまう。

 

「……はぁ……もういいから、はよう中に戻れ。妾は学校に行く準備で忙しいのじゃから」

 

「はいほい! 承知いたしました、ゆず! ではでは!」

 

 妾が不機嫌そうに言うと、人の形を成したゼロはその場から消える。そのかわり、机の上には一つの黒い宝石をつけたブレスレッドが自己を誇張するようにきらりと光っている。

 はぁ、と小さくため息を吐き、妾はそのブレスレッドを腕に装着した。

 

「……行くかの」

 

『さあ、行きましょー!』

 

「うるさい!」

 

 こうして、ブレスレッドになった厄介者とともに、妾の朝は騒がしくスタートしたのであった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 魂というものが肉体に宿るということを、妾はあまり信じたことはなかった。

 天国という場所についても、あったらいいなという程度の期待しかしていなかった。 そりゃ、あればいいとは思っている。妾だって、死は怖い。死にたくない。自分の存在が無になるということはどういうことなのか、考えたくもない。

 けど、仮にあの世という皆の魂が集まる収束地点があるのなら、死に対する恐怖も間違いなく和らぐであろう。だから人は、天国やあの世という観測することのできない世界を思い描き、実際にあると確信するのだと妾は思っている。

 でも、現実はそんなに甘くないはずだった。人が魂と思っているものは、人間の脳味噌が勝手に考え出した、コピーすることのできない唯一無二の人格だと思っていたし、そう考えるのが現実的で科学的であろう。人は死ねば、そこで終わり。何も認識できなくなるし、考えることもできなくなる。そんなものだろうと、思っていた。

 

 

 そんな妾の常識が一変したのは、死んだ後だった。結果をいうと、妾は生き返った。

 もちろん、ベルカの凡王『シトラス・ルーチェ』は死んだ。名も知らぬ敵兵の一突きが心臓を貫き、あっけなく死んだ。歴史に名を刻むことのない無名の王の、妾にお似合いの死に方であろう。当時は、妾はこのまま誰にも知られることなく消えていくのだろうと思っていた。

 だが、死んだ妾を待っていたのは、何もなく先の見えない草原と一人の少女であった。そして、ここから先起こったことは妾の想像をはるかに超える予想だにしない出来事の連続だった。

 少女は名を『ゼロティス』と名乗り、自らをはるか昔に造られたロストロギアだと言った。ゼロティス曰く、私は優れた魔導師たちの生き様を記憶するロストロギアだと自らのことを紹介していた。

 ……ここまでは、なんとか頭が辛うじて理解していたような気がする。妾の一族に伝わるゼロティスはロストロギアで人格を保有していた。ゼロティスの目的は魔導師の記憶の収集で、観察対象者が死ぬと近くの者に憑依する。そして、妾はゼロティスの記憶対象であり、現在は奴の中に呼ばれ、目の前で話している。……ここまでは理解していた。

ゼロティスの話の通りなら、今まで通り次の対象を定め、新しい場所に腰を落ち着かせるのであろうと妾は考えていた。しかし、ゼロティスが言ったのは、全く関係もない、こんな言葉。

 

『見てみたいと思いませんか』

 

『あなたは、見てみたいと思いませんか? 今より少し先の未来、あなたの姿がどのように伝えられ、どのような活躍をしたと記されているのか。気になったりはしませんか?』

 

 今思えば、あまりにも唐突すぎる怪しい宗教セミナーへの勧誘みたいだ。こんな言葉を用意しといて、次に何も起こることはないだろうと高をくくっていた妾は、完全に甘かった。

 妾は、この言葉に肯定した。そりゃ、見てみたいだろう。今よりもずっと先の未来、自分はいいとして、妾が大好きだった人々がどのような人生を描き、未来を構築していったのか。気にならないはずがなかった。きっとあの四人なら、見る者を笑顔にさせてくれるような明るい未来を掴んでいるはずだから。そんな妾の望みを聞いたゼロティスは、道化師のような笑みを浮かべ、次の言葉を紡ぎだす。

 

 

 刹那、妾の意識は飛んだ。いきなり草原が消え、真っ暗な空間に放り出されていたのまでは覚えている。だが、その後の記憶は全く残っておらず、気を失ったようだった。ゼロティスに何かされたのであろうことは分かっているのだが、詳細なことはさっぱりだ。

 数秒、数分、数時間とも言えぬ時間の後、意識が覚醒し、妾が最初に確認したのは聞いたことのない人の声だった。しかし、眼に何かしら異常があるのか、そこに人がいるのではと確認できるが、どのような場所にいるかなどよくわからない。

 女性が三人、男性が二人、妾の傍にいる。五人の声色から敵意は感じられず、おそらく敵ではないことは分かる。だが、五人の話している言語は妾の知らない未知の言語であった。

 ここがどこであるのか、この者たちは何者なのか。こんな場所に連れてきた原因の大本であるゼロティスはどこへ行ったのか。妾が確認するべきことはたくさんあったであろう。だが、そんな事々をどうでもよくさせてしまうようなことが、その時の妾の身体にはあったのであった。

 しばらくして、視力が多少回復して、周りの様子の探ろうと身体を動かす。身体の方はろくに動かず、起き上がることさえ困難な状況だ。いろいろと混乱していた妾はまず手元にあるものの確認をしようとしていた。そして、胸ポケットを探ろうとしようとしたとき、気付いてしまったのだ。

 

(……え?)

 

 驚かないはずがなかった。最初は目の異常かと思っていた。目の前に鏡があった。それなりに大きくこの部屋にいる人であれば、全員映してしまうような大きな鏡だ。

 その鏡には、妾の周りにいるはずの五人が映っており、優しい笑顔を皆浮かべている。妾はそんな五人に囲まれていているはずなのだ。ルーチェ・シトラスの姿が、あるはずなのだ。

 しかし、そこにあったのは小さい赤ん坊の姿だった。生まれて間もない、いや、生まれたばかりの赤ん坊と言っていいだろう。髪もろくに生えておらず、身体はまるで人形のような大きさだ。

 鏡に映る赤ん坊と目を合わせると、ぴったり合わせてくる。目を外すと、同様に外れていく。妾が手をぶらぶら揺らすと、その赤ん坊は同じように手を振ってくる。

 ……認めたくはなかった。信じたくはなかった。

 でも、認めなくてはならない。信じなくてはならない。

 

 

 ……妾が、赤ん坊になっていたという事実を。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「母上、父上。おはようございます」

 

 家の外を出て、軽く散歩した後、妾は母上の待つリビングへと入っていた。

 そこにはいつものように、朝食の準備をする母上の姿と椅子に座り新聞を読む父上の姿があった。

 リビングの中は、コーヒーの香ばしい香りや朝食の匂いが空気に交じり、家庭的な雰囲気が漂っている。

 あなたはどんな匂いが好きか、と誰かに問われれば、間違いなくこの匂いを選ぶであろう。生を受けてからの六年間、ほぼ毎日吸い込んできた優しい匂いだ。

 

「あら、おはよーゆず。今日も早いわねぇ」

 

「おはよう、ゆず」

 

 母上と父上は、笑顔を妾の方に向けて朝の挨拶を返してくれる。毎朝、ちゃんと返事を返してくれる二人の優しい顔を見ることができる妾は幸せな娘だと実感する。

 些細なことだと思っているが、生前ではこんな些細なことすら経験できなかった。幸せは、家族から多く得られるということをこの六年間で深く実感した。

 

「……兄上と美由季姉上は道場でしょうか? 挨拶してこようかと」

 

「いや、今日は二人とも家の外に出て走っているよ。……さすがに、昨日の今日じゃ、ね」

 

 父上は新聞で顔を隠しながらチラリと台所に目を向ける。そこにいるのは、いつも通りの笑みを浮かべながら朝食の用意をしている母上の姿……の、はずだった。

 そこにあったのは、鬼の姿だった。もちろん、姿形、やわらかい笑顔を浮かべているあの女性は、間違いなく母上だ。しかし、その母上から発せられる雰囲気は、いつもの母上ではなく、まるで炎の中から現れた悪魔を彷彿とさせる禍々しさだ。この場にいる 妾、父上は威圧され、寒気すら感じている。

 そして、妾の脳内には、昨日母上から叱られた光景が鮮明に甦る。自分の非を認め必死に謝る妾、笑顔を浮かべたまま無言の圧力をかけ続ける母上、そのプレッシャーに耐えきれなくなり逃げ出すも壁際に追い詰められる妾、妾を追い詰めニコリと笑う母上、そして……

 

「……ゆ、ゆず、顔が青いけど大丈夫かい?」

 

「……はっ! い、いや、大丈夫! 大丈夫です、父上!」

 

 危うく昨日のトラウマが蘇りそうになるが父上に声をかけられ、無事妾の意識は生還する。このまま思い出してしまっていたら、昨日のように魂の抜けた状態で一日を過ごす羽目になっていたであろう。

 ふふふ、ゆずったら、と台所で笑う母上。眼が笑っていない。……今日明日しばらくは、この強烈なプレッシャーと戦わなければならないと思うと、肩が重い。まあ自業自得なのだが。

 

「そ、そうかい? ならいいんだけど……あ、そうだ。ゆず、ちょっと経ったらいつも通り、なのはを起こしてきてくれるかい?」

 

「え、ええ。もちろんです……ですが……その……」

 

 平穏な朝の時間、皆ゆっくり過ごしてはいるが、忙しくないという訳ではない。母上は朝食の準備、父上はたまに兄上や姉上の稽古をつけたり店の準備をしている。兄上姉上は毎朝稽古で忙しい。妾も兄上たちの稽古を見たり母上のお手伝いをすることもあるが、比較的手持ち無沙汰なことが多い。そのため、いつも寝坊しがちのなのは姉上を起こす係に任命されている。本来ならば、今から数分後にはなのは姉上のお部屋に行き、布団をひっくり返しているだろう。

 だが、そんななのは姉上と妾は、喧嘩してから全く会話をしていない。母上に叱られた後、しばらく妾の魂が抜けていたのもあるのだが、お互い気まずくてなかなか距離を詰めることが出来ないというのが現状である。学校から帰ってきた夕方に、妾が再び謝ろうと思って近づいても、猫のように素早く逃げてしまう。それの繰り返しであった。

 

「やっぱり、気まずいかい?」

 

 父上の問いかけに、こくりと首を動かす。元々、妾となのは姉上の間柄はかなり良好と言える。この六年間は喧嘩らしい喧嘩などまるでなかったほどだ。

 なので、姉妹喧嘩というものを今まで経験したことがない。オリヴィエ殿やクラウス殿は妾と兄弟のように接してくれたが、喧嘩まですることはなかった。だから、この先どうやって仲直りするのか、全く分からない。

 

「ん~、あんまり難しく考える必要はないんじゃないかな。さすがに昨日は、お互い顔を合わせづらかったかもしれないけどね。素直に謝ってそれで終わり、でいいと思うよ」

 

「……そんなものでしょうか」

 

「そうそう……ははは、ゆずは頭がいいから、少し難しく考えすぎちゃうのかもな。……ま、取りあえず、部屋に行ってきなさい」

 

「……わかりました。父上、ありがとうございます」

 

 ぺこり、と父上に頭を下げて、なのは姉上の部屋に向かうことにする。部屋から出て、姉上の部屋がある二階へと昇る。

 なのは姉上と会い、再び昨日と同じように気まずい空気が流れてしまうのか、父上の言った通り気にしなくともそのまま解決してしまうのか。妾には分からない。

 そんなことを考えている間に、なのは姉上の部屋の前に着いた

 

『……姉妹とは、なかなか難しいものですねぇ。やははは』

 

 途中でゼロにそう言われるも聞き流し、妾は姉上の部屋のドアを開けた。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 高町家の三女、高町ゆずとして生を受けてからは、妾にとって驚きの連続だった。

 文化や人種の違い、妾のいた世界とは全く違うものがこの世界には存在していたが、中でも一番の衝撃を受けたのは魔法技術が存在していないということだった。

 皆が魔法で空を飛ぶこともなく、魔法で戦争が起こることもない世界。質量兵器は存在しているようであったが、普段の生活ではまず見ることがないものであった。

 人が人を憎み合うことなく、皆が仲良く暮らすことのできる平和な世界。多少の争いはあるようだったが、妾のいた世界と比べればどうということはない。

 まさに、オリヴィエ殿やクラウス殿、そして妾が望み夢見ていた優しい世界がここにはあった。

 ……しかし同時に、この世界に魔法技術がないということは、妾にとって大きな問題でもある。魔法技術がないということ、それは魔法の存在するその他の世界とのつながりが断ち切られてしまったということでもあった。

 妾はゼロに、オリヴィエ殿や皆が妾の死後、どのような人生を歩んだのか知りたい、ということを願いこの世に生を受けた。この世界には次元を移動するすべもないため、このままでは妾の目的を達成することはほぼ不可能になってしまうのである。

 ゼロによると、

 

『そうですね~、今から魔法・科学技術の急激な発展は望み薄でしょうねぇ。魔法技術と接触する可能性の一番高い策と言えば、私のような存在、つまりロストロギアを見つけて、それを回収する他次元の団体や組織とコンタクトを取ることでしょうね。まあそんな組織がこの時代に存在しているかどうかも分からないし、都合よくロストロギアが落ちているなんて展開は、ほぼ、ないと思いますが』

 

と言っていた。

 

 その後ゼロと話し合った結果、今できる策としては地道に自身の魔法技術を向上させつつ、近場に魔法に関わる痕跡がないか探していく方針になった。

 理由としては、今のうちに魔法技術を磨いていくことで、もし未知の魔法技術やロストロギアに接触しても対応できるようにすることがあげられる。どんなに可能性が低くても、決してあきらめずに今のうちに準備をしておくのは、大事なことであろう。小学生になり多少自由行動が出来るようになったため、学校が終わって家に帰った後、一人で人目がない場所に行き、魔法の練習をするようにもなった。

 ……その準備を急ごうとした結果、妾は母上によるきつい制裁を受けてしまったのだが。自業自得である。

 

 ゼロにより、もう妾の住んでいた時代より何百年以上経っているということは聞いているし、二人と直接会うことはもう叶わぬ願いだろう。だからこそ、オリヴィエ殿やクラウス殿、大切な人々の生き様を見たいという強い思いは今も変わらない。皆の生きた証を見ることができる世界があるのであれば、妾は迷わずにその世界に赴き、皆の記憶を探しに行くであろう。

 だが、この世界での生活はどうする。もしこの世界と魔法の存在する世界を行き来する方法が一方通行だった場合、妾はこの世界に戻って来られなくなる。妾はこの地球という星、世界に六年間存在した。優しい人々の手によって、妾は今を生きることが出来ている。そんな人々の前から突然消えたり、裏切りたくはない。

一方通行じゃなかったとしてもだ。妾は、自身が魔法を使えることを誰にも話していない。知っているのは、妾自身とゼロの二人のみである。家族に魔法の存在を話して、皆が魔法に関わってしまったら、多大な迷惑をかけることは避けられない。

 もし、妾がこの世界の家族や友人に突然、妾は魔法が使える、前世の記憶がある、魔法のある世界に行きたいと言ったらどうなるだろうか。この子は頭がおかしいのではないか、気味が悪い、と思われてしまうのは避けられないのではないか。

 もちろん、家族や友人が妾の話を一蹴するわけがないとは思っている。どんな非現実的な話でも親身になって話し合い、妾の力になってくれる優しい人ばかりだろう。……だけど、それも100%ではない。

 もし、魔法のことを話して、気味悪がられ嫌われてしまったら。前世のことを話して、距離を置かれてしまったら。軽蔑の言葉を投げかけられてしまったら。

 ……ぞっとした、寒気がした、吐き気がした。

 孤立や軽蔑、それは妾の心に残る消えない傷。妾の周りから誰もがいなくなった過去の記憶。その過去の孤立が誤解だとわかっていても、一度刺さったナイフは決して消えることなく、その経験は妾の心を抉ろうとする。あの恐ろしい感覚を、もう二度と経験したくない。

 

 妾の心が強ければ、すぐに魔法のことを家族に話し、様々な事情を伝え、理解してもらおうとしたはずだ。

 だが、妾はどうしようもないほど、弱い。どんなに精神年齢を重ねても、どんなに身体が大きくなっても、拒絶を嫌うこの弱さが変わることはないだろう。

 

 ……いつか、話さなければならない。妾のこと、すべてを。

 

 ……だけど、今じゃなくてもいい。妾の心が、少しでも強くなったその時に。

 

 ……様々な問題を後回しにしながら、妾は今を生きている。

 

 

 






もうちょっと長かったんですが、それだと一万文字超とえらく長くなってしまったので切のいいところで切っています。

残りは近いうちに投稿予定!(予定です)
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