Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜 作:フジ
アリーシャサイドの話を書く都合上、今回は殆どオリジナルのシーンばかりになります。
ゼスティリア本篇では空気だった人間側の事情や描写の追加をしようというのが今回の話で力を入れた部分です。
では、どうぞ
「到着だハルト。ここが我がハイランドの最終防衛線であるグリフレット川だ」
太陽が頭上から少しずつ降り始める時間帯。修復作業中であるグリフレット橋へとたどり着いたアリーシャは晴人に、目的地への到着を知らせた。
「ありゃりゃ……確かに橋が派手に壊れてるねこれは……」
昨夜の野営から使い魔であるガルーダのおかげで危険なく眠る事の出来た二人は、まだ日が登らない早朝から野営地を出発しグリフレット橋を目指した。徒歩による長旅に慣れていない晴人にとって、半日程、歩き続けるという行為は中々にハードなものだったが、女の子であるアリーシャが文句の一つも言わず歩いているのに、自分がグチグチ言うのは情けないと、文句を漏らすことは無かった。
そんなこんなで最初の目的地であるグリフレット橋にたどり着いた晴人達だったが、晴人はそこに広がっていた光景に眉を顰めた。
「岩が川からせり上がって橋の代わりになってる……これが導師の力ってやつか……」
目の前に広がる巨大な川は、今も勢い良く流れており、泳いで渡るとなると、まず不可能だろう。もしこれが天候の変化で勢いを増せば確かに人の作った物などいとも容易く押し流してしまうだろう。現に、目の前に掛かっていたであろう橋は見事に破壊され、川の両端に橋の一部が残されるのみになっている。だが、その両端を繋ぐかのように川から不自然に岩がせり上がっており、そこに現在進行形で晴人の目の前で手を加えている職人達の手により、向こう岸へ渡る為の簡易的な道としての姿を取り戻していた。
「(魔力を込めた『ディフェンド』や『グラビティ』を応用すれば似たような事は、出来るだろうけど……こりゃ確かに伝承にもなるな……)」
一瞬でこんな事をしてのければ、確かに救世主のように言い伝えられる存在にもなるだろう……正体を隠しながら人知れず戦う『仮面ライダー』だって都市伝説になるのだ。ましてや、人目のつく場所で躊躇わずに力を振るえばその噂はあっという間に広がっていくに決まっている。
「ハルト? どうかしたのか?」
考え込んでいるハルトの様子が気になったのか、アリーシャが声をかける。
「あー、いや……こんな事ができる導師ってのは、確かに凄いなと思ってさ」
考え込んでいた事を誤魔化すように返答するハルト。その言葉にアリーシャは苦笑する。
「ふふ……私からすれば君の魔法も充分凄いと思うよ」
会話を交わす二人、そこに1人の男が声をかけた
「アリーシャ様!? ご無事だったんですね!」
「心配してくれて、ありがとう。この通り、怪我一つないよ」
「それは良かった……導師と共に行かれたとはいえ、マーリンドの置かれた現状が現状でしたので……」
アリーシャの身を案じる男性にアリーシャは嬉しそうに返答する。しかし、目の前の男性の事を知らない晴人は二人の会話についていけない、
「えーっと……アリーシャ? この人は?」
晴人の問いかけに対してアリーシャは彼を置き去りに 話を進めてしまったことに気づき慌てて、目の前の男性を紹介した。
「す、すまない、晴人。彼は橋の修復を行う職人の代表なんだ」
「へぇ……じゃあ、今は、この人が導師が作った岩場から橋を修復する指揮をとってるんだ」
「あぁ、スレイの力で地面を隆起させて橋の土台は作れたが、それでも導師であるスレイや従士だった私以外の人間では向こう岸に行くのは難しい状況でね、マーリンドに届ける薬を私達が先行して届けることになったんだ」
「なるほど「あの……アリーシャ様? 其方の彼は?」おっと、話の腰を折って悪いね、俺は操真晴人。アリーシャとは少し前に知り合って、今は訳あってレディレイクに一緒に向かう所なんだ」
アリーシャと話している晴人に戸惑い、彼が何者なのか問いかける男性に、晴人は改まって自己紹介をする。
「そうですか……それにしても、何故アリーシャ姫は導師様と一緒では無いのですか? マーリンドは今、どういう状況なのでしょう? 橋がある程度修復され、通行が可能になり商人達やマーリンドの代表のネイフトさんも最近、竜巻の被害の多い東の道を避けた西側の山道からマーリンドへ向かわれたので気になってはいたのですが……」
「(竜巻ってのは、あの鳥の憑魔のことだよな?ってことは、商人達やネイフトって人は俺たちとは別の道を通って、入れ違いになったのか)」
商人の話を聞きながら、晴人は、道中で人に出会わなかった理由を察した。そんな晴人の横でアリーシャは男性に説明を始める。
「マーリンドの災厄は導師スレイにより祓われました。疫病も収まり、マーリンドは、元の学術の町として蘇るでしょう。私は……橋の修復状況の確認とマーリンドの現状を報告する為に……スレイ達と別れてここに……」
アリーシャ達はマーリンドに蔓延した疫病の原因である憑魔『ハウンドドッグ』と、町の穢れの原因であるドラゴンの幼体である憑魔『ドラゴンパピー』を浄化し、『ドラゴンパピー』へ憑魔化していたマーリンドの加護天族ロハンを救う事でマーリンドの加護復活に成功している。
そして、アリーシャがスレイ達に別れを切り出す原因となった従士契約の反動が判明したのは、その後、マーリンド近辺にあるボールス遺跡に潜み加護領域の復活を妨害していた変異憑魔『エビルプラント』との戦いでのことなるのだが、アリーシャは余分情報は省き、簡潔に説明する。しかし、内心はやはり複雑なのか表情は少し暗く、言葉の歯切れが悪い。しかし、吉報を聞いた橋の職人達は、その言葉を聞いて喜びの声を上げた。
「おぉ! やはり彼は伝承にある通りの存在なんですね! 」
「マジかよ! 俺はてっきりお伽話とばかりおもっていたぜ!」
「この前の水神様を鎮めた事や、岩場を一瞬で作った事といい、こりゃ、本当に救世主なのかもな!」
一人のの喜びの言葉を皮切りに、周りにいた職人達も、マーリンドが救われたという事を祝福する。
「導師様には改めて、礼を言わなくちゃな! この前は……なんというか……少し怖くなっちまって、碌に礼も言えなかったからな……」
「……そうだな。この流れが急なグリフレット川で怪我人の被害も出さずに短期間で、ある程度まで橋を修復することができたのは導師様のおかげなんだもんな……」
「導師様は俺たちを救おうとしてくれていたのに、俺たちは……」
スレイが土の神衣の力を使い岩場を隆起させた時、周囲の人々はその人知を超えた力にただ圧倒され、畏怖を感じ遠巻きに見つめるだけで、感謝の言葉を伝える事ができなかった。職人達はその事を思い出し、後悔の表情を浮かべ顔を俯かせる。そんな職人達にアリーシャは励ますように声をかける。
「そう思ってくれているなら、こんどはその感謝をスレイ達に会えた時にしっかりと伝えてあげてほしい。きっと彼は喜ぶ筈だ」
その言葉に職人達は、俯いていた顔をあげる。
「そうですね……感謝の言葉も言えなくなっちまったら人として終いです」
「アリーシャ姫も、ご助力ありがとうございます」
アリーシャにも感謝の言葉を告げる職人達。スレイだけでなく自分まで感謝されると思っていなかったアリーシャは、その言葉に目を丸くする。
「か、感謝など止してくれ! 私は大したことなどしていない、災厄を鎮めたのは導師であるスレイ達だ!」
自分はそんな言葉をかけて貰えるような事はしていないというアリーシャ。だが、職人達はその言葉を否定する。
「そんな事はないです。 ローランスとの戦争に、備えて、ハイランド軍は碌に救援も出してくれない中で、姫様は、導師様と共に、この橋の修復やマーリンドの救援を行ってくれたんでしょう? 俺たちは感謝しています」
その言葉でアリーシャの心は少しだけ軽くなった。
「……そうか、力になれたなら嬉しいよ」
微笑みながらそう告げるアリーシャの言葉を聞いた職人達は、その表情に釣られるように笑みを浮かべると仕事を再開するべく各自の持ち場へ戻って行く。その背中を見つめながらアリーシャは小さく言葉を漏らす。
「私なんかが、あんな風に感謝して貰えるなんて……」
「そうかな? 変って事は無いと思うけど? 」
自信なさ気に言葉を零すアリーシャに晴人は肯定的な意見を述べる。
「だが、問題を解決しているのは、スレイや天族の方達であって、私は……」
「アリーシャだって一緒に戦ったんだろ? なら、胸を張ればいいさ。自分を導師のオマケか何かみたいに言うもんじゃない」
励ます晴人だが、アリーシャの表情は、晴れない。
「(また、憂い顔になっちゃったか……)……しかし、アレだね。職人さん達の話を聞く限りその導師様は既にかなりの有名人みたいだな」
表情を暗くするアリーシャに配慮した晴人は話題を切り替える。
「あぁ、レディレイクで行われた聖剣祭で、大勢の人々の前で聖剣を抜いて、穢れを祓ってみせたからね。こんな時代だ……人々は希望を求めているんだよ……長い時間を天族の方達と共に過ごし、穢れの無い純粋さ持つ彼は、正しく希望と呼ぶに相応しい人間だと思う」
先程までの暗い表情を消し、誇らしそうにスレイについて、アリーシャは語り始める。
「『人々の希望』……ね。ま、確かに希望は大切だよ。たとえ、どんな苦しい状況でも希望があれば、人間は、困難に立ち向かえるからね……」
アリーシャの言った希望という言葉に、晴人は思う所があるのか、実感の籠った口調で同意する。
「しかし、アリーシャは随分、誇らしげに導師について語るね。出会ったばかりの俺がわかる位の高評価だ」
そんな晴人の指摘をアリーシャは、微笑みながら肯定する
「そうだね……ハイランドは今、戦乱と災厄により疲弊している。政治を支配して私腹を肥やす評議会や、苦しい生活により心の荒んでしまった民達……そんな中で現れた、穢れの無い純粋な彼は、正になるべくして導師になったんだろう」
「……なるべくして、なった……か」
明るく語るアリーシャの言葉に晴人は少しだけ複雑そうな表情を浮かべる。
「? どうかしたのか? 晴人?」
「いや、そのスレイっては大した奴だと思ってさ。世界を救うなんて大役に進んでなるなんて普通は出来ないだろ? 俺とは大違いだ」
おちゃらけた口調だが、どこか自嘲するような晴人。そんな晴人の様子に疑問を感じたアリーシャはその意味を問う。
「どういう意味だハルト? ハルトも魔法使いとして人々の為に戦っていたのだから、それは決して導師に劣らない事だと私は思うが?」
そんな彼女の言葉を晴人は首を横に振り否定した。
「昨日も言ったろ? 俺は世界を救う救世主なんて、大層なもんじゃない。 それに、俺は進んで導師になったスレイって奴と違って、なりたくて魔法使いになった訳じゃないから」
「? それは、どういう……?」
『なりたくて魔法使いになった訳じゃない』そう言った晴人の言葉の意味がわからず、どういうことなのかアリーシャは問おうとする。しかし、そこに横槍が入った。
「おぉ、アリーシャ殿下。こんな所で出会うとは」
声をかけた方へと向いた晴人の瞳に、男の姿が映る。男は背後に騎士服を着た兵士達や軍馬、馬車を従え、自身も彼らより装飾の多い青緑色の服を纏っており、屈強そうな体つきをしている。年齢は40前後といったところで、傷つき閉じている左目と騎士服の胸に見せつけるようににつけられた大量の勲章が、この男がそれなりの地位にいる人間だと晴人に予想させる。そんな晴人の考えを他所に、目の前の男は口を開く。
「疫病の街に送られたと聞きましたが、よくぞご無事で」
言葉自体は、先程のアリーシャの身を案じてくれた職人の男性の言葉と変わらないだろう。しかし、その言葉にはアリーシャの心配というよりは、皮肉のような意味合いが込められているように晴人には感じられた。
「ランドン師団長!? なぜ貴方がここに!?」
驚いた声をあげるアリーシャ。その言葉を受けた男、ランドンは、どこかアリーシャを馬鹿にしたような笑みを浮かべ、質問に、答える。
「バルトロ大臣、より勅命がありまして。所でアリーシャ殿下は何故ここに? マーリンドはどうなされた?」
「……マーリンドの疫病は、導師スレイにより解決した。私は、グリフレット橋の修復状況の、確認とレディレイクへのマーリンドの報告の為にここにいる」
その言葉にランドンはニヤリとさらに口元を歪ませた。
「導師……導師か。いや残念ですアリーシャ殿下、まさか貴方が本当に、あのような事をするとは」
ランドンの言葉の意味がわからずアリーシャは混乱しつつも、その意味を問う。
「あのような? ランドン師団長、貴方は何を言って「騎士団!この者を捕らえろ! 」…なっ!?」
問いかけを遮り、突如、アリーシャを捕らえろと兵に告げたランドンの言葉にアリーシャは絶句する。そんな彼女を捉えるべく槍を構えた騎士達が彼女と晴人を取り囲んだ。
「……これは何のつもりだ?」
ランドンを睨みつけながら問いかけるアリーシャ。だが、ランドンは笑みを崩さず、白々しい口調で告げる。
「どういうつもりというのは、こちらのセリフですアリーシャ殿下。貴方には導師を利用し評議会を貶める悪評の流布とローランス軍の進軍の手引きをした疑いがかかっています」
その言葉にアリーシャは怒りを露わにする。当然だ、全く身に覚えのない罪をなすりつけられたからだ。
「私は、そのような事は行っていない! 言い掛かりはやめていただこうか!」
だが、ランドンはその言葉を聞き流しながら言葉を続ける。
「釈明があるならレディレイクで行うことだ。 まさかアリーシャ殿下がこのような真似をするとは誠に、残念ですよ……連れて行け」
笑みを浮かべながら心では思ってもいないであろう言葉を吐いたランドンは、アリーシャを拘束し連れて行くように兵に命じる。そんな兵士達に橋の職人達から声がかかった。
「オイ! アリーシャ姫は、導師と共にマーリンドを救ったんだぞ! この仕打ちはあんまりだろう!」
「録に救助も送らなかった癖に、後から出てきていい加減な事を言うな!」
「録に民を助けないで、何が大臣の勅命だ!」
職人達は、あまりに横暴にアリーシャを擁護するべく騎士達に食ってかかる。しかし……
「職人風情が引っ込んでいろ! アリーシャ殿下を庇うなら貴様らも、国家反逆罪の容疑で捕らえるぞ!」
一方的に権力をふりかざすランドンの言葉に職人達は怯んでしまう。そこにアリーシャから声がかかった。
「皆、ありがとう。私は大丈夫だから気にしないでくれ。こういった扱いには慣れている。貴方達には、貴方達のやるべきことがある筈だ。」
「……アリーシャ姫」
職人達を巻き込むまいとアリーシャは彼らを説得する。当の本人言葉ということもあり職人達は、止むを得ず引き下がった。
「ふん、邪魔をしおって……殿下を馬車でレディレイクへ連れて行け。俺は手筈どおり此処に残る」
職人達を睨みながらランドンは兵士達にアリーシャの連行を命じる。
「師団長この男はどうしますか?」
アリーシャを拘束しようとする兵士が隣に佇む晴人をどうするかランドンに指示を仰ぐ。その言葉にランドンは晴人へと視線を向けて問いかける。
「貴様は、何者だ? 何故、アリーシャ殿下と一緒にいる?」
その言葉は晴人がアリーシャの関係者かどうかを問うものだ。冤罪によるアリーシャの身柄の確保が目的だったランドンにとって、晴人がアリーシャの協力者であるのなら、今の会話をアリーシャを救う為に、噂として広げられ評議会にとって不利な材料になりかねない。ならば、ここでアリーシャ共々、拘束してしまおうというのがランドンの思惑なのだ。その事を察したアリーシャは、晴人を巻き込むわけにはいかないと、彼が昨日知り合ったばかりの同行者でしかないと告げようとするが……。
「ランドン師団長! 彼は昨日「俺? 俺は晴人、アリーシャに協力する為に、一緒に行動させて貰ってる」…ハルト!?」
アリーシャの言葉を遮った晴人は自らをアリーシャの協力者だとランドンに言い切った。そのことにアリーシャは思わず戸惑う声をあげる。
「ほう、ならばアリーシャ殿下と共謀した疑いで共々、拘束させて貰う」
「ハルト!? 何故!?」
戸惑うアリーシャを他所にアリーシャとハルトは両手を拘束され馬車へと乗せられレディレイクへ向けて出発する。
ランドンはその光景をほくそ笑みながら見届けた後に、『勅命の本命』を待ち構える為に、向こう岸のマーリンドから続く道へと視線むけた。
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「豪勢なもんだなコイツは」
馬車に揺られて半日程、丁度真夜中になる頃、晴人とアリーシャは、無事、ハイランドの王都であるレディレイクへと到着した。
到着して録に体を休める暇もなくアリーシャと晴人は王宮の二階にある応接室のような部屋へと連行された。部屋に入ると両手の拘束が解かれ兵士達は部屋の外へと出て行ってしまう。おそらくはここで待っていろということなのだろう。
ならば、とりあえず時間でも潰すかと呑気に考えた晴人は部屋を見回し、その装飾の数々に、率直な感想を述べた。
「(王様の住む城が初めてなわけじゃないけど、『あっちのは』外見はかなり、未来的なデザインだったしなぁ)」
嘗て、迷い込んだ『魔法使いの国』での王様の城の事を思い出しながら、中世のヨーロッパを彷彿とさせる部屋を見つめる晴人。そこにアリーシャから声がかかった。
「……ハルト、私の事情に巻き込んでしまって済まない。だが、何故、自分から捕まるような事を? 」
そう問いかけるアリーシャに対して、晴人は飄々とした態度のまま返答する。
「いや、だって、このままだとアリーシャがヤバそうだったし。それに、どうせ行き先はレディレイクだったんだ。時間も体力も節約できたし、俺としては文句無いよ」
そんな彼の返答に、アリーシャは申し訳なさそうに表情を暗くする。
「そんな顔すんなって、俺が勝手に心配してついて来ただけなんだ。アリーシャが気に病むことじゃないよ。それより、あのランドンって奴に命令をだした大臣ってのは、どういうつもりなんだ? 」
いかに地位が低いとはいえ、王族であるアリーシャに対して、言い掛かりのような冤罪を擦りつけて拘束するなど妙だと感じた晴人は、その真意に疑問を覚える。
「いつものことだ。大臣をはじめとした評議会の者達が何かにつけて私に無理難題を言うのは……大方、マーリンドの件で私が命を落とすのを期待していた所に、スレイ達の活躍でマーリンドが救われた事を知って、腹いせのつもりなのだろう……導師の登場により、導師を支持する民から評議会への不満が増え始めたことも原因だと思う」
淡々と語るアリーシャだが、そんな彼女の言葉の内容に晴人は眉を顰める。昨日の晩に彼女が王族として立場が良いものではないことは聞いていたが、まさか、反逆罪を擦りつけられるレベルの物とは流石に考えてはいなかった。それなのにアリーシャは、そんな不当な扱いに慣れたものだと言い不満一つ言わない。心が強いといえば聞こえは良いだろうが、命を狙われるレベルの問題を1人で抱え込もうとしてしまう彼女のあり方に晴人は危うさを感じた。
「……なぁ、アリーシャ」
そんな彼女の身を案じて、晴人が声をかけた瞬間、応接室のドアが開き。武装した兵士を連れた身分の良さそうな服を着た白髪混じりの50代くらいの男性が現れる。
「……バルトロ大臣」
アリーシャが漏らした声に、晴人は目の前の男がハイランドの実権を握っている男だということを知る。
「元気そうで、何よりですアリーシャ姫」
「バルトロ大臣、師団長に命令を出したのは貴方だな? 何故、このような真似をしたのか説明していただきたい」
ランドンと同じく皮肉混じりの挨拶をするバルトロだが、アリーシャは慣れているのか気にも留めない。それが面白く無かったのかバルトロは詰まらなそうに鼻を鳴らした。
「ふん、まぁいい、ここなら話を聞かれる心配もない。察しの通り貴方への罪状はただの冤罪だ」
「……何故、そのような真似を?」
その言葉にバルトロの目つきが険しくなる。
「前にも言った筈だ。導師の出現により、ハイランドの民は王族への不満を強めた。導師とゆう曖昧な存在が安易な救済を行いそれにより希望の味を知ってしまったが為に、目先の事しか考えられん愚かな民は、自分達の現状に不満を訴え始めたのだよ」
「ハイランドの民が置かれている現状は決して良いものでは無い。より良い生活を望むのは当然の事の筈だ」
「それこそが、現状を理解できていない連中の言い草なのだ。民衆に政治の何がわかる? 奴らの言う通りにして今のハイランドが保つとでも本気で思っているのか」
「……」
その言葉にアリーシャは黙り込む。彼女は仮にも王族の身だ。政治のことも民衆より理解している。確かに、災厄の時代で国力も決して余裕の無い今のハイランドには民衆の言う事全てを実現することなどできない。
「仮に一部の連中を救い優遇すれば、それに対して救われない連中から不満がでるだろう。肝心なのは安定し管理された状況なのだ。それが例え低い水準のものだとしてもな」
「貴方の言うことにも一理はあるだろう。しかし、我々、貴族の民衆を歯牙にもかけない傲慢な生活や、ローランスとの無駄な小競り合いとて、民の不満に繋がっている筈だ!」
必死に民の想いを訴えるアリーシャだが、バルトロはそんな彼女の言葉を鼻で笑う。
「我々は、愚かな民衆を導く対価として、当然の生活を送っているだけだ。それの何が悪い? 」
「……ッ! それが傲慢だと言っているんだ! 我々が歩み寄らなけばハイランドは変わらない。民衆の希望もいつまでも叶う事はない!」
「必要無いだろう? 民衆の抱える愚かな希望など」
その言葉にアリーシャは怒りの表情を浮かべる。だが、そこに今まで黙り込んでいた晴人が口を開いた。
「希望は必要だよ、誰にだってな」
その言葉にバルトロが初めて晴人へ視線を向けた。
「貴様は……アリーシャ姫の協力者を名乗っているという男だったか? どこの馬の骨ともわからん輩が、知ったような口を叩かないで貰おうか」
辛辣な言い分のバルトロだが、晴人が黙ることは無い。
「仰るとおり、政治の事に関しては俺なんかが何か言える事でも無いんで黙っていたさ。けど、今のアンタの言葉は否定させてもらうぜ?」
「なんだ? 貴様も下らんちっぽけな希望などという物を抱いているクチか?」
「くだらなかろうが、ちっぽけだろうが、誰にだって希望を持つ権利はあるさ。それを否定する権利なんて誰にも無い。例えお偉い大臣様だろうとね」
その言葉にバルトロは顔を歪める。晴人を睨みつける。
「そんな、ちっぽけな物を守る為に、我々に働けと?」
そんなバルトロの言葉に晴人は怯まずに答える。
「ちっぽけだから、守らなくちゃいけないんだろ? 少なくとも俺はその為に戦っている」
さらりと言い切った晴人に対してバルトロは何処までも不愉快そうな表情をする。
「ふん、口先だけなら何とでも言える。こんな所で姫共々、無様に捕らえられている男に何ができるといのだ」
「なるほど……こりゃ手厳しい」
皮肉に対しても飄々とした態度を崩さない晴人にバルトロは舌打ちをすると、意味深な言葉を漏らした。
「チッ、折角、姫が取り入っていた目障りな導師を利用できると思えば、代わりに不愉快な得体の知れない男が現れるとはな」
その言葉にアリーシャが強く反応する。
「!? 今何と言った! バルトロ大臣 ! スレイを利用するとはどういう意味だ!」
その言葉にバルトロはニヤリと笑みを浮かべ答える。
「数日前、『グレイブガント盆地』に駐屯する部隊がローランス軍が進軍の用意をしている報せがあった。更に一昨日、我が軍はローランスの先鋒部隊に攻撃を受けた。よって我がハイランドはローランスに対して本格的な反抗に出る」
その言葉にアリーシャは嫌な予感が頭をよぎる。
「本格的にローランスとぶつかるというのか!? だが……それは、双方に甚大な被害が!」
人の負の感情により憑魔は発生する。その真実を知ったアリーシャは、戦場で起こるであろう事態は想像し冷や汗を流す。
「そうなるな、だが甚大な被害を、あたえられるのはローランスだけだ」
その言葉にアリーシャの心臓が凍りつく
「ま…さ…か……?」
「そうだ。先程、師団長より連絡があったよ。 姫の身の安全と引き換えに導師スレイが我がハイランドの力となってくれるそうだ。本日の正午より我がハイランド軍は導師と共に反撃を開始する。助かりましたよアリーシャ姫。貴方のお陰で我がハイランドの勝利は確約された」
「……そんな」
「ッ! アリーシャ!」
残酷に真実を告げるバルトロ。その言葉にアリーシャはその場で膝から崩れ落ち、隣にいた晴人がとっさに支える。その光景を見て満足したのかバルトロは扉へ向け歩き出した。
「導師が、結果さえ出せば貴方は開放しよう。貴方に何かあれば導師が敵に回りかねない。こちらとしてそれは避けたいのでな」
そう言って部屋から兵士を連れ、バルトロは退室し、部屋には晴人とアリーシャが残された。
「私の所為で、またスレイが……私が……私がまた……」
アリーシャの心に絶望が渦巻く。スレイの力になれず、力不足を感じたからこそ、彼女は彼らの元から去った。だが、それが結果として、自分は冤罪で捕らえられ人質となり、導師を……あの純粋な青年を戦争という殺し合いの真っ只中に突き出すことになってしまった。だというのに、その原因を作ってしまった自分は……捕らえられたとは言え、身の安全は保障されている。戦争に参加したスレイは下手をすれば穢れが集中する戦場で心を蝕み憑魔になってしまう危険性もあるというのに……。
「私は……どうして……こんなに」
無力なんだ……その思いがアリーシャの心に暗い影を落とす。夢も何もかも諦めその影に思考を任せてしまおうとしたその瞬間……
「まだ、何も終わっちゃいないぜ、アリーシャ?」
優しい声と共に肩に乗せられ晴人の手の感触がアリーシャの意識を引き戻した。
「ハ…ル……ト?」
「絶望するにはまだ早いぜ? まだ出来ることは残ってるだろ? 」
「私に……出来ること?」
「というよりはやりたい事かな? このままでいいと思ってる訳じゃないだろ?」
その言葉にアリーシャの心が揺れる。
「私……私は、スレイを戦争の道具になんてさせたくない! 彼の夢をそんなもので穢したくない!」
その言葉を聞いた晴人は優しく微笑む。
「なら、やることは決まりだな。城を抜け出して、そのナントカ盆地を目指そうぜ。アリーシャの無事さえ確認できれば、導師様が戦争に参加する理由は無くなるんだろう?」
「あぁ、それに導師がいなくなれば、戦力の消耗を避けたいバルトロも大規模な戦闘は控えるだろう。だ、だが、一体どうやって? 城は見張りの兵士で一杯で簡単には抜け出せない。それにグレイブガント盆地へはどんなに速い馬でも2日はかかる。 既に半日も時間は……」
自分一人ではとてもそんなことは……そう考えるアリーシャに晴人が答える。
「そこをなんとかするのが、俺の仕事」
「……え? 手伝って……くれるのか」
意外そうに驚くアリーシャだが、その言葉に晴人は目を丸くする。
「いや……どう見ても俺も手伝う流れだったでしょ……まさか、自分一人で何とかしようとしていたんじゃないよな?」
「す、済まない……だがこれは私の問題だからハルトを巻き込む訳には「悪いけど、無理矢理にでも手伝うよ、俺は」……どうしてそこまでしてくれるんだ? 昨日出会ったばかりの、私に」
何故晴人が、自分の為にそこまでしてくれるのか、問いかけるアリーシャに晴人先程までの飄々とした表情を消し真剣な顔で告げる。
「『一人で何もかも抱え込んでいると、そのうち自分の中にある大切な物まで腐らせてしまう』」
「……その言葉は?」
「俺の先生が言っていた言葉だ。要するにさ、昨日出会ったばかりの俺でもわかるくらい、一人で抱え込んじゃうアリーシャの希望に、俺はなりたいって思ったんだ。それに言っただろ? もし、アリーシャが夢の途中で絶望しそうになった時は……」
アリーシャの脳裏に昨日の晴人の言葉がよぎる。
「『俺がお前の希望になってやるよ』ってな」
そう告げる晴人に小さな声でアリーシャは問いかける。
「いいのだろうか? 私なんかが……君を頼っても……もう一度夢に向けて歩き出しても…」
その問いかけを晴人は優しい声で肯定する。
「あぁ、良いに決まってる 。約束する、俺がお前の……」
そして彼は力強く告げる
「最後の希望だ」
ゼスティリア本篇では、モブのクズ率が高かったので、綺麗なモブの描写をしたかった結果が、前半部分の職人達だったりします。ご都合っぽいですが、こうゆう人達がいないと話が荒んでしょうがねぇ……
今後も、綺麗なモブは度々あらわれます。
あと、この作品では、度々、ウィザード以外のライダーのセリフを小ネタとして使ったりするので、良ければ探してみて下さい。今回はディケイドでのセリフを使っています。