Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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祝 お気に入り1000件&総合評価2000越え!
自分の拙い作品を楽しんで頂けて嬉しいです。
これを励みにこれからも頑張っていくのでよろしくお願いします

では、アニメ版のドラゴン浄化にテンション上がって書き上げた最新話をどうぞ


30話 悪夢を止めて 後篇

「さてと……じゃ、ちょっと行ってくる」

 

エンゲージの指輪を使用した相手のアンダーワールドと現実世界を繋ぐ魔法陣へウィザードは歩き出す。

 

「待ってくれ! 1人で行くつもりなのか!?」

 

そう言って呼び止めたミクリオの声に反応し、ウィザードは振り返る。

 

「今回の魔法の使い方は本来の使い方とは違う。正直に言えば何が起こるかわからない……だから無理強いはできない」

 

エンゲージの魔法は本来、ゲートが絶望しアンダーワールドにファントムが生まれ絶命するまで一刻の猶予も無い事態に対して、ウィザードがアンダーワールドに突入し直接ファントムを倒すという、緊急用の救出手段だ。

 

だが、今回は状況が違う。穢れと精神が強く結びついてしまったフォートンを救う為の使用だ。

 

アンダーワールドはその人間にとって大切な記憶を元に作り出される精神世界。つまり、姉妹との約束への想いが穢れに結びついてしまったフォートンのアンダーワールドには、彼女の心を飲み込み憑魔化させる強い穢れが存在するという事だ。

 

それを浄化すれば、フォートンの穢れに飲まれた心を救い、憑魔化の再発を止める事ができる可能性はある。

 

しかし晴人にとっても今回の手段は未知の領域だ。不測の事態が起こらない保証などどこにも無い。

 

フォートンを救える可能性があるならどれだけ不利な賭けだろうと晴人は退く気など毛頭無いが、それにアリーシャやスレイ達を巻き込むかどうかは話が違う。

 

だからこそ彼は1人でアンダーワールドへ向かおうとするが。

 

「待ってくれ! オレも行く!」

 

「私も! 頼むハルト!」

 

スレイとアリーシャの2人がウィザードを呼び止める。

 

「……いいのか? これまで以上に安全の保証はないぜ?」

 

そう問いかけるウィザードだが、2人は迷いなく告げる。

 

「オレ、導師としてもっと人間ってものを知って行かなくちゃならない。だからこそ枢機卿が抱えている穢れから目を逸らしちゃいけないと思うんだ。だから頼む!」

 

「例え、枢機卿が個人的な理由でこれまでの事をしてきたのだとしても、彼女の願いは本物だった。私も1人の人間として枢機卿を助ける力になりたい」

 

そう真剣な表情で言い切る2人を見て、仮面の下で軽く微笑みながら、脱力する様に小さく息を吐く。

 

「ふっ……そっか、なら俺がとやかく言う事じゃないな」

 

2人とて正しく危険性は理解しているのだろう。それでも尚同行すると言った2人の覚悟は、間違いなく本物だ。だからこそ晴人もまた上から目線で覚悟を問う様な野暮な真似をする事はせず、2人の意思を受け止める。

 

「それで? 他のみんなはどうする?」

 

続き、晴人はライラ達へとそう問いかける。

 

「当然、ついていきますわ♪」

 

「そもそも、スレイに何かあったら私達も道連れだし」

 

「知らない所で無茶をされるくらいなら目の届く所にいた方がいい。スレイの場合は特にね」

 

「……あ! なんだよミクリオその言い方!」

 

「事実だろう? スレイは無茶だとわかった上で無茶をするからね」

 

「う……あまり否定はできないかも」

 

気心の知れた会話を繰り広げるミクリオとスレイ。続いてロゼが口を開く。

 

「ここまで来て仲間はずれは無しでしょ、あたしも行くって! 今ならナントオマケその②もセットで付いてきてお買い得だよ?」

 

「そのネタをいつまで引っ張るつもりだ……まぁいい、俺としてもアンダーワールドとやらには興味がある」

 

ロゼとデゼルも同行に了承する。そして一同の視線が最後の1人に向けられた。

 

 

「はぁ……わかった! わかった! そんな目で見んなよ。俺だって空気くらい読むさ」

 

そう言って、ザビーダは持っていたジークフリートをジーンズにねじ込み、ウィザードへと視線を向ける。

 

「そんじゃ、道案内は頼むぜハルト」

 

「りょーかい、みんな付いてきてくれ」

 

そう言ってウィザードは展開された魔法陣に飛び込む。

 

「よし! 俺たちも!」

 

スレイ達もウィザードに続き魔法陣へと飛び込んで行く。

 

「ムルジム様、暫し此処でお待ちください!」

 

「大人しくしててね猫さん!」

 

最後にアリーシャとロゼが残されたムルジムへと声をかけ、魔法陣へと飛び込む。

 

「彼女達は一体……」

 

残されたムルジムは、その光景をただ呆然と見送るしかなかった。

 

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「「うわぁ!?」」

 

「「きゃぁ!?」」

 

「……落ちるとか聞いてないんだけど」

 

「うぉっと!?」

 

「ちょっ?! 落ち……!!」

 

「……ッ!!」

 

魔法陣に駆け込んだ一同は直後、感じた浮遊感に驚きの声をあげた。

 

当然と言えば当然だろう。展開された魔法陣に駆け込んだと思った瞬間、その身が落下していたのだから。

 

一面が紫色の不気味な光景の中をいくつもの赤い魔法陣が落下するコースを示すように下へ下へと連なり配置され、一同はそれを潜る様に落下して行く。そして紫色の空間を抜け落下が終わり……

 

シュタ!

 

ドン!

 

ドコォン!!

 

華麗に着地する者、荒々しく着地する者、着地を盛大に失敗した者、それぞれが石造りの床で音を奏でる。

 

「痛ぁっ!? お尻ぶつけたぁ!?」

 

「び、びっくりしましたわ……」

 

「ちょっと……落ちるなら落ちるって事前に説明しておきなさいよ」

 

騒ぐ女性陣だが、一方の男性陣は興味深そうに辺りを見回す。

 

「ここがアンダーワールド?」

 

「見た限り、教会神殿の一般信者の為の礼拝堂の様だが……」

 

「だが、妙な感じだ。見た目は同じでも何かが違う」

 

一同が到着した場所は、教会神殿の最初の部屋である一般信者用の礼拝堂だった。ついさっき見た光景だけあり、一同は、ここが精神世界である事にイマイチ実感が持てない。

 

そんな中、アリーシャだけはこの場所に対して別の感想を持っていた。

 

「(この感覚……あの夢に似ている)」

 

どこか色が薄まった様な周りの景色を見渡しながらアリーシャは以前に見た晴人の夢を思い出し、既視感を覚えた。

 

「あ、あそこ! 誰かいる!」

 

ロゼが指差した先。そこには3人の少女らしき人物がいた。一同は少女達に歩み寄るが……

 

『うぅ……ぐす…………』

 

そこでは3人の少女の内の1人。もっとも幼く見える黒髪の少女が小さく呻く様に泣いてた。

 

「大丈夫? どうかしたの?」

 

少女を心配しスレイは声をかけるが、3人の少女は反応を示さない。

 

「……これって」

 

「スレイ、アンダーワールドはその人にとって大切な想いや記憶で作られてるって言ったろ? つまり、そこにいる女の子達はフォートンの記憶みたいなもんだ」

 

「そうか。オレたちは今、枢機卿の記憶を……だからこの子達は俺たちに反応しないのか」

 

「そういう事だ」

 

「(これも同じだ……あの夢の中の人物達も私には反応しなかった……)」

 

ウィザードがスレイ達にアンダーワールドの事を説明していく中、アリーシャはまた1つ、今の光景と夢の光景の共通点を見つける。

 

そんな中、泣き続ける黒髪の少女に一番年上と思わしき赤茶色の髪の少女が声をかける。

 

『泣いちゃダメよリュネット』

 

『グス……でも、エニドねぇさん……わたしたち……捨てられたんでしょ?』

 

不安を隠さず問いかけるリュネット。だがエニドと呼ばれた少女は明るい笑顔で返答する。

 

『大丈夫! どんな場所だって、私達3人が居ればきっと乗り越えられるわ!』

 

リュネットを元気づけようとしてるのか気丈に振る舞うエニド。その言葉を亜麻色の髪をした少女が引き継ぐ。

 

『エニド姉さんの言う通りよ。安心してリュネット……私たちは絶対に貴女を1人にはしないわ』

 

少女は優しい声でそう告げながらリュネットの頭を優しく撫でる。

 

2人の少女の言葉を受け、リュネットは涙を拭い元気に微笑んでみせる。

 

『ロディーヌねぇさん……うん! わかった! わたし、がんばる! だからいつまでも_____ 』

 

 

 

 

次の瞬間、景色が切り替わる。

 

場所は先程と変わらず教会神殿内の礼拝堂だが、そこに立つのは少女では無く3人の女性だ。

 

『エニド姉さん……』

 

『ごめんなさい……ロディーヌ、リュネット……私……』

 

呼ばれた名前からして、3人の女性は先程の少女達が成長した姿の様だ。

 

俯いて暗い表情のエニドに、ロディーヌとリュネットは労わる様に声をかける。

 

『ごめんなさい……私……お姉ちゃんなのに妹の貴女達にまで迷惑かけて……』

 

『自分を責めないでくださいエニド姉さん。確かに姉さんのした事は修道女としては許されない事かもしれません……ですが、私は1人の家族として姉さんの味方です』

 

亜麻色の髪の女性、ロディーヌはそう言って優しくエニドの肩に手を置き、微笑む。

 

『エニド姉さん、今は身体を労ってください。もう姉さんだけの身体じゃないんですから』

 

黒髪の女性、リュネットもまたエニドに対して優しく声をかける。

 

『ロディーヌ、リュネット……そうよね……お腹の子供の為にも私がへこたれている訳にはいかないわよね……』

 

『その通りですよ姉さん』

 

『ホルサは厳しい土地だと聞きます……どうかお身体を大切にしてください』

 

『ありがとう、2人とも……いつか、貴女達にも子供を見せにペンドラゴに戻ってくるわ……だから……』

 

『はい、姉さんと再会できる日まで私も頑張ります』

 

『姉さんの子供に会える日を楽しみにしていますから……』

 

『ありがとう2人とも……いつかまた会いましょう……』

 

そう言って涙を浮かべながら、エニドはその場を後にした。

 

「今のは……」

 

「確か、枢機卿のお姉さんは司祭との間に不義の子を授かって、ホルサって村に追放されたって村長さんが言ってたね」

 

「では、今の光景はその時の……」

 

そして光景が再び切り替わる。

 

今度も場所は変わらず、リュネットとロディーヌの2人が会話を交わしていた。

 

『姉さん、プリズナーバック湿原の開拓に参加するというのは本当ですか?』

 

『えぇ、苦しむローランスの民の為にも私に出来ることをしたいの』

 

『ですが、プリズナーバック湿原の開拓は容易ではありません。姉さんの身に何かあったら……』

 

リュネットは不安を滲ませた表情で言葉を零す。当然と言えば当然だろう。

 

広大なプリズナーバック湿原の開拓計画は簡単なものでは無い。追放されたエニドに続きロディーヌにまで何かあって欲しく無いという彼女の気持ちが、表情から見て取れる。

 

『心配してくれてありがとう、リュネット。けど、今回の開拓計画が成功すればローランスが災厄を乗り越える為の大きな一歩になります。いつかエニド姉さんが帰ってくる場所を守る為にも、私は頑張りたいの』

 

『姉さん……わかりました。私も教会で国の為に尽力します。姉さんも頑張ってください』

 

『えぇ、貴方は私達姉妹の中で一番賢い子ですもの。きっと私よりもずっとローランスの力になれる筈よ。頑張ってねリュネット』

 

『はい、ロディーヌ姉さんもどうか無理をしないでくださいね』

 

『心配しないでリュネット、3人でまた暮らせる日まで私は何があってもいなくなったりしないから』

 

 

そして三度光景が切り替わる。

 

礼拝堂の中、晴人達の知る姿となったリュネット・フォートンは1人その場に立ち尽くしていた。

 

『嘘……嘘です……姉さん達はもう一度会おうって……いなくならないって……そう言ってくれたのに』

 

動揺し子供のように怯えるフォートン。恐らくはホルサ村の壊滅と開拓計画の失敗の報告を受けたのだろう。

 

自分の身体を抱きしめる様に腕を回し震えるフォートンだが、その声に突如変化が起こる。

 

『ふふふ……違う……姉さん達は帰ってくる……だって約束したもの……今はまだその時じゃ無いだけ……そうよ……この国に姉さん達が帰ってくるだけの価値が無いから……ローランスが災厄を乗り越えれば……きっと……』

 

不穏な言葉が溢れ、フォートンの身体から強い穢れが噴出し始める。

 

『ローランスを変えてみせる……私の手で……どんな手を使っても……どんなものを利用してでも……そうすれば……もう一度あの頃に……』

 

その瞳に狂気を宿し、フォートンは宣言する。

 

その光景をアリーシャは悲しそうな目で見つめていた。

 

「枢機卿の希望はこうして歪んでしまったのか……」

 

「家族ともう一度会いたい……ただそれだけだった筈なのに……」

 

ミクリオとスレイもまた、やりきれない表情でフォートンの記憶を見つめる。

 

「枢機卿にとっては家族との約束は最後の希望だった……だが、その言葉がいつしか彼女を縛る呪いになってしまったのだな」

 

_____『一人で何もかも抱え込んでいると、そのうち自分の中にある大切な物まで腐らせてしまう』_____

 

アリーシャの脳裏に、嘗て晴人が自分に言った言葉が過ぎる。

 

目の前のフォートンの状態は、アリーシャにとっても決して他人事とは言えない物だ。

 

もしも、何処かで歯車が狂っていたら。自分もまた道を踏み外し、目の前のフォートンの様に憑魔となりながら、ハイランドを救う夢の為に手段を問わず、多くの物を踏みつけにしていたのかもしれない。

 

アリーシャはそんな複雑な思いでフォートンの過去を見つめていたが……

 

 

 

「……っ! 来るぞ!」

 

何かに気がつき声をあげた晴人に、一同が反応する。

 

「え?」

 

「来るって……何の話よ?」

 

一同は意味が分からずに困惑するが、続く光景にその意味を理解する。

 

「……これは!?」

 

記憶の中のフォートンの身体……否、フォートンを中心とした空間そのものに亀裂が生じ始めたのだ。

 

バキバキと音を立て広がっていく亀裂。亀裂が空間を侵食していくその異様な光景に一同は警戒し後退する。

 

そして……

 

 

 

 

『キシャアアアアアアアア!!』

 

 

亀裂の入った空間がガラスの様に砕け散り、そこから巨大な生物の頭部が現れる。

 

「なっ!?」

 

「蛇……? ですが、この大きさは…… 」

 

息を飲むライラ。その視線の先には漆黒の体表に黄色い瞳を不気味に光らせた蛇が、空間の裂け目からその姿を現したのだ。

 

だが、その大きさが普通では無い。

 

黒い蛇は頭部を持ち上げ、威嚇するコブラの様に上体を真上へと伸ばす。

 

全長から見れば1、2割程度だろうが、その頭部は数階建ての建物に匹敵する聖堂の天井ギリギリまで伸ばされ、残りの身体はとぐろを巻き、聖堂内を制圧していた。

 

明らかに全長は100mを超え、その口は一般的な家屋程度なら容易に一飲みにしてしまえる程巨大な漆黒の大蛇が、攻撃的な目でアリーシャ達を見下ろす。

 

「ま、マジ……?」

 

目の前の光景が流石に予想を超えていたのか、ロゼの口から乾いた笑いが溢れる。

 

「晴人……これは?」

 

「恐らくは、この蛇がフォートンの心に強く結びついた穢れそのものだ」

 

絶望したゲートのアンダーワールドにファントムが生まれると、ファントムはアンダーワールドで暴れ始め、まるで蛹を破る幼虫の様に現実に現れようとする。

 

本来であればエンゲージのリングはそんなゲートのアンダーワールドに突入し、アンダーワールド内でファントムを倒す事で絶望による死をギリギリの所で回避する為の魔法なのだ。

 

その経験則から、ウィザードは目の前の大蛇こそがフォートンの心に住み着く強い穢れだと目星をつける。

 

「つまり、こいつを浄化しちまえば……」

 

「枢機卿を助けられるかもしれない!」

 

「だが、この大きさは滅茶苦茶だぞ!? 聖堂内で戦うのは危険だ!」

 

「ミクリオの言う通りだ! みんな! 聖堂の外に出よう!」

 

スレイが叫び一同は建物の外へと飛び出す。

 

そして……

 

 

轟っ!!

 

振るわれた大蛇の尾が、聖堂の壁を容赦なく貫き、正面扉の方面の壁が崩れ去った。

 

「ちょ!? 冗談でしょ!?」

 

一撃で聖堂の壁一面が破壊されたその光景を見たロゼが驚きの声をあげる。

 

無理もないだろう。彼女が知る中でも明らかにスケールが違う巨大な敵なのだ。

 

そして、聖堂の崩壊した壁を潜り、漆黒の大蛇が屋外へと姿を見せる。

 

『シャアアアアアアアア!!』

 

大きな口を開け、巨大な二本の牙を見せつけながら大蛇がこちらを威嚇する。

 

「どうする?」

 

「あの巨体だ。全員で同じ場所に固まるのはマズイ。できるだけアイツの狙いを散らす様に動かないと」

 

「良い案だ導師殿。相手はあのデカブツだ。何組かに分かれて攻撃するのがベストだろうよ」

 

一箇所に固まればあの巨体による一撃で一掃されかねない事を危惧したスレイの案にザビーダが賛成する。

 

だが……

 

『シャア!!』

 

これ以上待つ必要は無いとでも言う様に、大蛇が巨大な尾を真上に持ち上げ、スレイ達目掛けて振り落とした。

 

ドゴオォオ!!

 

尾が振り落とされた石造りの地面が盛大に陥没し、周囲に衝撃と共に土煙が舞い上がる。

 

「くっ、なんて間合いだ!?」

 

左右に分かれてギリギリで回避した一同だが、大蛇は攻撃を続ける。

 

「来るぞ! 散れ!」

 

大蛇は地面を這いずりながら、その巨体とは不釣り合いな速度で一気に一同へと迫って来る。

 

デゼルの叫びに反応し一同は何組かに分かれるが……

 

「っ!? 狙いは私達か!」

 

その中でウィザードとアリーシャの2人に狙いを定めたのか、大蛇は地面を抉りながら大きな口を開き、一気に2人に迫る。

 

このまま走るだけでは確実に逃げきれず、容易くその巨大な口に2人は飲み込まれてしまうだろう。

 

【コネクト! プリーズ!】

 

「アリーシャ! 乗れ!」

 

「っ!! わかった!」

 

コネクトの魔法陣からマシンウィンガーを取り出したウィザードはすぐさま跨り、アリーシャもそれに続く。

 

ブォォォォォン!!

 

すぐさまバイクのエンジンをかけるとウィザードはマシンウィンガーを急発進させ、大蛇はそれを追撃する。

 

教会神殿から城教区域の通りを最低限の減速で駆け抜けるウィザード。

 

その背後には道そのものを塞いでしまい兼ねない大蛇が、大口を開きながら尚も追撃してくる。

 

「オイオイ、デカイ癖に随分と速いな」

 

城教区域を抜け、東部市街地へと差し掛かったにも関わらず、振り切れる気配の無い大蛇に晴人は呆れた様に声を漏らす。

 

「ハルト! 噴水広場だ! あそこの広場なら大蛇の巨体ではある程度動きが制限され、逆に私達には戦い易い広さの筈だ!」

 

「なるほどね、了解だアリーシャ!」

 

本来の街であるならば市民の被害を考えなくてはないが、精神世界であるならば多少の無理は利くと判断したアリーシャは、大蛇を噴水広場へと誘導する様に告げる。

 

ウィザードはその指示に従い大蛇を引き連れながら東部市街地を駆け抜け、噴水広場がある北部市街地へと到達する。

 

「見えた! 鬼ごっこは終わりだ! こっちも反撃と行こうか!」

 

反撃の意思を込めウィザードは叫ぶ。

 

「久しぶりの見せ場だ! 行くぜドラゴン!」

 

 

その言葉と同時にウィザードの体が一瞬燃え上がると、フレイムドラゴンスタイルが解除され通常のフレイムスタイルへと変化すると同時に、ウィザードの身体から赤く燃え盛る龍の幻影が上空へと舞い上がる。

 

『ゴァァァァァァァァア!!』

 

炎を振り払い咆哮をあげながら、現れるウィザードラゴン。

 

この世界に跳ばされてからの戦闘ではヘルダルフの領域を逆用した変則的な召喚しか行わなかったが、アンダーワールド内での召喚こそがウィザードラゴンの本来の召喚である。

 

「アリーシャ! 悪いが下ろしている暇は無い! このまま行くぞ!」

 

「え!? わ、わかった!」

 

アリーシャへと告げると同時にマシンウィンガーが上空のドラゴンへ向け変形しながら飛び上がり、展開された巨体な機械の翼がドラゴンの背に接続される。

 

「よし、捕まってろよアリーシャ!」

 

ウィザードとアリーシャを乗せたドラゴンは更に上昇し、旋回しながら噴水広場におびき出した大蛇へと向き直る。

 

『シャアアアアアアアア!!』

 

大蛇は上空のドラゴンへと向けて尻尾を振るう。

 

「チィッ!」

 

ウィザードはドラゴンを操り、振るわれた横薙ぎの一撃を下降し回避する。

 

『ゴァァァァァァァァア!!』

 

お返しとばかりにドラゴンは咆哮すると数発の火球を放つ。

 

『ギェェア!?』

 

火球は狙いを外さず全弾が大蛇の頭部へと着弾し爆発。大蛇は悲鳴をあげその身を怯ませる。

 

だが……

 

『ゴァァァァァァァァア!!』

 

皮膚を灼け爛れさせながらも爆煙を突き破り、ばね仕掛けの様な勢いでその巨大全身をはね上がらせた大蛇はドラゴンへと飛びかかる。

 

最大まで開かれたその口は、容赦なくドラゴンごとウィザード達を飲み込もうとする。

 

「ッ!」

 

その動きにギリギリで反応したウィザードはドラゴンを操り、バレルロールでその巨大な口を紙一重で左へと避ける。

 

「ハァァァァァア!」

 

ドラゴンの真横を通過して行く大蛇に即座に反応したアリーシャは、炎を噴出させた槍の巨大な刃を大蛇の体表へと叩き込み、突き刺したままドラゴンの飛行能力に任せて突き進む。

 

「これなら!……なっ!?」

 

刃を突き刺したままドラゴンの勢いで数十m突き進み、離脱すると同時に槍を引き抜いたアリーシャは、すぐさま旋回したドラゴンに合わせて大蛇へと視線を向ける。

 

攻撃に確かに手応えを感じたアリーシャだが、その表情はすぐに驚きに染まる。

 

確かにアリーシャの槍が切り裂いた箇所は炎により焼き爛れていたが、その傷から穢れが噴き出すと同時に治癒されたのだ。

 

『シャアアアアアアアア!!』

 

着地した大蛇はすぐさま凄まじい勢いで地を這いこちらへと迫り来る。

 

今度は先程の聖堂の様に上体を地面から垂直に伸ばし、ウィザードラゴンへ向け連続して噛みつきを放ってくる。

 

ドラゴンは大蛇を中心に旋回しながら連続の噛みつきを紙一重で躱すが、遂にその一撃がドラゴンを捉えようとする。

 

【ビッグ! プリーズ!】

 

「ハァ!」

 

だが、大蛇の噛みつきに合わせてドラゴンの真横に巨大化の魔法陣を展開したウィザードは、魔法陣へと鋭い蹴りを放つ。

 

『グゥウ!?』

 

魔法陣から飛び出した巨大化したウィザードの蹴りが、カウンターの要領で大蛇の顔を捉え吹き飛ばす。

 

「《我が火は爆ぜる魔炎! バーンストライク!》」

 

『グオオオオオオ!!』

 

そこにアリーシャの天響術とドラゴンによる炎弾が追撃をかけ、大蛇が再び爆炎に飲み込まれて行く。

 

「やったか!?」

 

アリーシャは攻撃に手応えを感じ、上空から炎に飲まれた大蛇を見下ろす。

 

しかし……

 

『キシャアアアアアアアア!!』

 

爆炎を搔き消し現れる大蛇。焼き爛れた全身もゆっくりとだが回復していく。

 

「あれを受けて回復するのか……」

 

「フォートンの穢れの源ってだけはあるな……一筋縄とはいかなそうだ」

 

上空を旋回しながら大蛇を見据える2人。

 

その時、突如大蛇は大きく口を開き、上空のドラゴンへ向き直る。

 

「……なんだ?」

 

再び飛びかかるつもりなのかとウィザードは警戒するが……

 

「なっ!?」

 

突如、その口から驚きの声が溢れる。

 

大蛇の開いた口に天響術と思わしき魔法陣が展開されたのだ。

 

そして次の瞬間……

 

『キシャアアアアアアアア!!』

 

大蛇の叫びと共に、魔法陣から大量の岩の槍が発生し、雨の様にドラゴンへと射出された。

 

「くっ!」

 

【ディフェンド! プリーズ!】

 

ギリギリで反応したウィザードが赤い炎の防御魔法陣を展開し、岩の槍の雨を防ぐ。

 

「ぐっ……」

 

だが機関銃の様に射出され続ける岩の槍に、魔法陣による壁は徐々に押され始める。

 

しかし…

 

「通行止めです! 拍子舞!」

 

ウィザードの魔法陣に重なる様に、展開された紙葉が燃え上がり強力な炎の壁を形成し、岩の槍を食い止める。

 

「「詐欺師(フラウド)!」」

 

『グゥゥゥ!?』

 

続いて、地面から生えた大量の輝く鎖が大蛇の口を閉める様に巻きつき、絞めあげようとする。

 

それにより岩の槍の射出は止まる。大蛇は鎖を引き千切ろうとするが……

 

「危なっかしいもの吐き出してんじゃないわよ」

 

「同感! 大人しく閉じてろっての!」

 

『ギィア!?』

 

数階建ての家屋の屋根から大蛇の頭部の真上に跳躍した土の神衣を纏ったロゼが、両手の巨大化した籠手の一撃を落下しながら叩き込み、無理矢理口を閉じさせる。

 

「「蒼穹一閃!」」

 

更にそこへ巨大な水の矢が大蛇の頭部に横殴りに着弾し、その体勢を崩しダウンさせた。

 

「ごめん遅くなった!」

 

「まったく……誘導するのなら誘導するって言いなさいよね」

 

「こっちで援護するからアリーシャ達は攻撃に集中してくれ!」

 

ウィザード達に追いついたスレイ達がそう叫ぶが……

 

『キシャアアアアアア!!!!』

 

即座に体勢を立て直した大蛇は再び口を開き魔法陣を展開すると、大蛇を囲む様に散開した一同を薙ぎ払う様に、岩の槍を射出しながら首を横薙ぎに振るう。

 

「やばッ! 「霊脈の脈動!」」

 

「ッ! 蒼穹の十二連!」

 

「炎よ!」

 

「《焼き焦がせ! ディバイドヒート!》」

 

「《灼陣、熱波、焦がそうよ! ディバイドヒート!》」

 

反応した一同は、岩の壁、水の矢、炎の結界、熱波でそれぞれが岩の槍を相殺、防御する。

 

「このままじゃあ狙い撃ちにされる! デゼル!」

 

「フン……上等だ」

 

「「ルウィーユ=ユクム!(濁りなき瞳デゼル)」」

 

機動力の無い地上の面々では大蛇に狙い撃ちにされると判断したロゼは土の神衣を解除し、大蛇の狙いを頭上に向ける為の囮となるべく風の神衣を纏うと、ブレードを翼の様に展開して、空中へと舞い上がる。

 

「「裂きて旋風!」」

 

『ギィア!?』

 

背中の8枚のブレードを開き、旋風を纏い回転しながら弾丸の様に突撃したロゼは、風とブレードで大蛇の皮膚を通り過ぎ様に抉り切り裂いていく。

 

『シャア!!』

 

「くっ!?」

 

だが、大蛇はすぐに反撃に転じてその巨大な尾をロゼに向けて振るう。

 

間一髪でそれを回避するロゼだが、尾を回避した先に大蛇の開かれた口が迫っていた。

 

「ッ! マズ……」

 

『ゴァァァァァァァァア!!』

 

『ギィゥア!?』

 

だが次の瞬間、口を開いた大蛇の頭部にドラゴンが体当たりを叩き込み怯ませる。

 

「大丈夫かロゼ!」

 

「ありがとハルト! けど、1人で狙いを引き付けるのは少し難しいかもしんない!」

 

その言葉を受け、ウィザードは一瞬何かを考えると左手の指輪を交換する。

 

「ドラゴン! アリーシャは任せた」

 

「え? は、ハルト!?」

 

【ハリケーン! プリーズ! フー! フー! フーフーフーフー!】

 

アリーシャに一言言い残すとウィザードはハリケーンスタイルに姿を変えてドラゴンから飛び降り、風を纏い飛行しながら、ロゼと共に大蛇の攻撃を空へと向けさせるべく大蛇の注意を引こうとする。

 

ウィザードがスタイルチェンジした事により、アリーシャの纏う魔力も共鳴し、風属性に切り替わろうとするが……

 

「なっ!? なんだ!?」

 

一瞬だけ纏う魔力が風に切り替わったものの、すぐに火属性の魔力へと逆戻りし、アリーシャは困惑する。

 

「(これは、先程の枢機卿の時と同じ……一体何が……いや、今は後回しだ)」

 

事態が飲み込めず戸惑うアリーシャだが、すぐに戦闘へ思考を切り替える。が……

 

 

 

 

 

 

「(……そういえば、ドラゴンとはどうやって操ればいいのだろう?)」

 

直後、アリーシャは大きな壁に直面した。

 

「(馬術なら心得ている……だが、どう考えてもドラゴン相手には役には……い、いったいどうすれば!?)」

 

内心でテンパり始めたアリーシャがあーでも無い、こーでも無いと考えていると……

 

『おい、小娘』

 

予想外に突如ドラゴンからアリーシャに声がかけられた。

 

「は、はい!?」

 

思わぬ相手に声をかけられて驚くアリーシャだが、ドラゴンはどこか不機嫌そうに言葉を続ける。

 

『チッ……あの男め、面倒なものを押し付ける……』

 

「す、すいません……」

 

『ハァ……まぁいい。小娘、お前が奴と同じ様に戦いながら俺を操れるとは思わん。お前は指示だけ出せ。後はこっちでやる』

 

不機嫌そうではあるものの晴人の指示は守るつもりなのか、ドラゴンはアリーシャに協力してくれるらしい。

 

「あ、ありがとうございますドラゴン殿!」

 

『……ドラゴン『殿』?』

 

アリーシャの呼び方にドラゴンが少しばかり驚いた様な声を出す。

 

「な、何かいけなかったでしょうか?」

 

『クッ……ククク……ドラゴン殿か……成る程、確かに奴が肩入れするだけあって面白い小娘だ』

 

先程の不機嫌さは何処へやら、何やら面白げに小さく笑うドラゴンにアリーシャは首を傾げるが、どうやら当のドラゴンは乗り気になったらしい。

 

「ドラゴン殿、我々は地上のスレイ達と同様に、ロゼとハルトが大蛇の注意を引いた隙を突いて仕掛けます。お願いできますか?」

 

『フン……いいだろう』

 

ドラゴンの返答を受け、アリーシャは改めて右手で槍を構え直し大蛇を見据える。

 

視線の先では、ウィザードとロゼが至近距離で大蛇に攻撃を仕掛けて、大蛇の注意を引き付けている。

 

【ハリケーン! シューティングストライク! フー! フー! フー!】

 

ウィザードは大蛇の噛みつきをギリギリで回避し続けながら、ウィザーソードガンから風の弾丸を連射する。

 

『ギィウ!? シャァア!!』

 

だが、風の弾丸は怯ませこそすれ、大きなダメージとはなり得ない。

 

「流石に半端な攻撃は通じないか……」

 

「「星よ散り逝け! 散りし六星!」」

 

地上からはスレイが家屋の屋根を移動しながら水の矢を連射、大蛇を牽制する。

 

「《赤土、目覚める! ロックランス!》」

 

続いて足元から複数の巨大な岩の槍が発生し、大蛇の身体に突き刺さる。

 

だが、岩槍も深くまでは貫けず、大蛇は意に介さず尾を振るい岩の槍を破壊すると同時に、身体から噴き出す穢れが瞬時に傷を塞ぐ。

 

「ッ! 硬いわね……」

 

効果が薄く渋い顔をするエドナ。

 

一方でザビーダも天響術の詠唱を開始する。

 

「だったら派手に焼いてやるよ! ライラ! 合わせろ!」

 

「はい! 任せてください!」

 

「《急襲、猛牙、噛み付くよ! アベンジャーバイト!》」

 

「《燃ゆる朱の月! ブラッドムーン!》」

 

ザビーダにより発生した巨大な風の顎。そこにライラが生み出した業火の塊が重なり、風により勢いを増した燃え上がる炎の牙となって大蛇の首へと噛み付く。

 

『グゥギィィィィア!?』

 

流石に効果があったのか、風の顎に貫かれた箇所が内部から焼き尽くされ、大蛇の首元が大きく焼け爛れる。

 

「あの反応、どうやら炎はある程度有効みたいだな」

 

先程のドラゴンとアリーシャの攻撃でも回復こそされたがある程度のダメージは与えていた事と、他の属性の攻撃よりも回復が遅かった事からウィザードはそう判断する。

 

「ロゼ、アリーシャ! 俺達も行くぞ! 」

 

「りょーかい! 行くよデゼル!」

 

「わかった! ドラゴン殿お願いします!」

 

苦しむ大蛇に向けて勝負を決するべく、3人が一斉に構える。

 

【ハリケーン! スラッシュストライク! フーフーフーフー!】

 

「「一薙ぎで刻む!」」

 

 

ウィザードは風を纏うウィザーソードガンを逆手持ちに持ち替え、ロゼは背中の8枚の大型ブレードを大きく開き展開する。

 

「ハァァァァァア!」

 

「「翔翼一閃!」」

 

ウィザードの強力な風の刃とロゼの無数の風の刃が大蛇へと放たれる。

 

「焼き尽くせ! 魔王炎撃破!」

 

そこに遅れて放たれたアリーシャの炎の刃が重なり、無数の燃え上がる風の刃が大蛇へと炸裂する。

 

『グゥギィィィィィィィィィィィア!?』

 

苦痛に絶叫する大蛇。

 

だがそれだけでは攻撃は終わらない。

 

『フン……終わりだ』

 

ダメ押しとばかりに大蛇の頭上からドラゴンが火炎放射を放ち、大蛇の全身を焼き尽くす。

 

『グァア………』

 

炎に飲み込まれた大蛇は徐々に動きが弱まり、やがて地面へと倒れ臥す。

 

 

「終わった」誰もがそう思った瞬間……

 

突如、世界そのものが黒く染まる。

 

 

「なっ!? 穢れの領域!? なんで!?」

 

空が紫色に染まり、一帯の空気も穢れへと染まり始める。

 

「違います! 領域ではありません! この世界そのものが穢れに染まろうとしています」

 

「ど、どういうこと!?」

 

「この世界は枢機卿の心そのものです! 恐らく、外の世界で枢機卿の憑魔化が進行してしまった事によって精神世界にも影響が出てしまっているんですわ!」

 

「時間をかけ過ぎたってのか……」

 

「でも穢れを生み出してる大蛇は倒して……」

 

「いや、まだだ!」

 

叫ぶウィザード。それと同時に、辺りに溢れた穢れが倒れ伏した大蛇へと収束して行く。

 

「冗談だろ……」

 

苦々しげな顔でスレイが見据える先には、完全に回復した大蛇が再び起き上がっていた。

 

「もう、しつこいな! こうなりゃもう一回……」

 

ロゼは迎撃するべく風の刃を大蛇へと放つが……

 

『キシャァァァァァァァァァア!!』

 

「なっ!?」

 

先程を更に上回る速度で大蛇は首を動かし攻撃を回避すると、ばね仕掛けの様に空中のロゼ達に向けて跳ね上がる。

 

「くっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「うっ!?」

 

3人はギリギリで回避するものの、大蛇の巨体はその勢いのまま地面へと爆音を立てて落下し、衝撃で家屋や石造りの床を吹き飛ばす。

 

「チッ……単純な能力が上がってやがる!」

 

大蛇の速度とパワーを見たザビーダが忌々しげに舌打ちをしながら、大蛇の落下先を見据えつつペンデュラムを構える。

 

他の面々も同じく得物を構えて警戒するが、煙が晴れた先には……

 

 

「ッ! いない!?」

 

大蛇の落下先にその巨体は存在していなかった。

 

困惑する一同。

 

その時、家屋の屋根上に立つライラの近くの地面に亀裂が疾る。

 

 

「ッ!? ライラ下だ!」

 

異変に気がついたスレイが叫ぶがもう遅い。盛り上がった地面が石造りの床を裂き、大蛇の巨体が飛び出してくる。

 

 

「きゃあ!?」

 

ライラは咄嗟に大量の紙葉をばら撒き結界を展開するものの、大蛇の体当たりはライラの足場であった家屋を容易く崩壊させ、衝撃でライラは空中高くに吹き飛ばされる。

 

「ライラ!」

 

予想外の攻撃に全員の反応が遅れた。

 

素早く体勢を立て直した大蛇は、空中に吹き飛ばされたライラを一飲みにしようとその口を大きく開く。

 

「ドラゴン殿! ライラ様を!」

 

『チィッ!!』

 

アリーシャの指示にドラゴンは素早く反応しライラへと向け一気に空を駆ける!

 

「ライラ様!」

 

アリーシャは空中に投げ出されたライラへと手を伸ばしその身体を掴む。

 

だが、既に大蛇は大口を開け迫っていた。離脱するだけの余裕は無い。

 

その巨大な口が、アリーシャ達を一飲みにしようとするが……

 

 

【ビッグ! プリーズ!】

 

ガギィィ!!

 

鳴り響く金属音。

 

ギリギリで両者の間に割って入ったウィザードが、魔法陣で巨大化させたウィザーソードガンの刃で大蛇の口へ横薙ぎの一閃を叩き込もうとしたものの、大蛇は口を閉じ、その牙でウィザーソードガンを咥え受け止めてしまう。

 

「ぐぅ!?」

 

咄嗟の攻撃にすら反応し受け止められたウィザード。

 

大蛇は剣を咥えたまま、首を大きく横に振り回すと同時に刃を離す。

 

「ハルトッ!?」

 

凄まじい勢いで振り回されたウィザードはその勢いを殺すこともできずに広場の噴水に激突し、それでも勢いは死なず、その先の宿屋の壁を突き破り中へと姿を消す。

 

ウィザードの作った隙に離脱することのできたアリーシャは、その光景に思わずその名を叫ぶ。

 

『キシャァア!!』

 

その隙を突くように大蛇は再び地面へと、まるで水中に飛び込むかの様に潜って行く。

 

「あの巨体で地面に潜れるのか!?」

 

驚きの声をあげるスレイ。

 

「何それ!? 蛇が地面に潜んなっての!」

 

「いや、蛇の中には地面に潜る種も存在する。それに蛇は音の感知能力が非常に高い。奴の攻撃は蛇の生態としてはおかしくはない」

 

「そうなの!? ソレもっとどうでもいい時に知りたかったんだけど!?」

 

デゼルの解説に唖然とするロゼ。

 

一方、ザビーダは吹き飛んだウィザードを追いかけ崩壊した宿屋に飛び込む。

 

「おいハルト! 無事か!」

 

叫ぶザビーダの視線の先には倒れ伏したウィザードの姿が映る。

 

駆け寄るザビーダはすぐにウィザードへ回復術をかける。

 

それによりウィザードはふらつきながらも何とか立ち上がる。

 

「おい無茶すんな。完全には回復しちゃいないだろ」

 

「はぁ……はぁ……大丈夫だ……」

 

「本気かよ……あの大蛇を捉えんのは簡単じゃねぇぞ。それに、このまま時間をかけ過ぎりゃ枢機卿は憑魔化してこの世界そのものが穢れに飲み込まれる。そうなりゃ俺達も全滅だ」

 

「だったら、尚更だ。こんな所で悠長に寝てられないな。さっさとケリをつける」

 

ボロボロな身体で、それでもウィザードは軽い口調でそう告げる。

 

「強がってんなよ。無茶だっつってんだ」

 

だが、ザビーダにはわかった。晴人のその軽口が余裕の無さからくる強がりである事が。

 

しかし……

 

「無茶でもやらなきゃ誰も救えないだろ」

 

静かに、しかし力強くウィザードはそう告げる。その声には諦めの色など微塵も無い。

 

「ハルト、お前……」

 

「ゴールは目の前なんだよ。その為にできる事があるのなら無茶だろうがなんだろうが何だってやるさ……『あの時、ああしてたら』なんて、つまらない後悔なんて俺はしたくないからな」

 

そう言い歩き出そうとするウィザード。だがダメージは残っているのか、身体がグラつき倒れそうになるが……

 

「はぁ……お前も言い出したら聞かない奴だよな」

 

そんなウィザードを受け止め、肩を貸したザビーダは呆れた様に、それでいてどこか楽しそうに笑みを浮かべた。

 

肩を貸し外へと出た2人、そこでは他の面々が高速で地面から奇襲を仕掛けてくる大蛇に防戦を強いられていた。

 

それを見たザビーダは目つきを鋭くし、何かを決意した様な表情を浮かべる。

 

「ザビーダ?……ってうお!?」

 

そんな彼の様子に気が付き声をかけるウィザードだが、肩を貸していたザビーダが突如支えるのをやめ、体勢を崩しそうになる。

 

「痛っ! おまっ!いきなり離すなよ」

 

思わず文句を言うウィザードだが、ザビーダは不敵に笑う。

 

「しょうがねぇな……俺が奴の動きを止める。トドメは任せるぜ」

 

「は? 動きを止めるって……」

 

「お前の無茶に俺もノせられてやるって言ってんのさ。で、どうする? ノるか?」

 

笑いながらそう問いかけるザビーダ。

 

それを受け、晴人もまた仮面の下で笑みを浮かべた。

 

「できる事ならなんだってやる。そう言ったろ?」

 

「ハッ! 上等だよ!」

 

そう笑うとザビーダは小さな竜巻の様な風を纏い、街全体を見渡せる見張り台の上へと移動する。

 

それを見送るウィザードも再び風を纏い、空へと舞い上がった。

 

___________________________________

 

一方で、スレイ達は高速で地中からの奇襲を繰り返す大蛇に防戦一方になっていた。

 

「くっ! 早い!」

 

「反撃の隙がない……このままでは……!」

 

「天響術でなんとかつかまえられないの?!」

 

「無理だ。あの巨体が相手じゃあ動きを封じるには高位の天響術しかねえ。だが、高位の術は詠唱に時間がかかる上に、発動するのも下位の術より遅い。あの速度で地下から奇襲してくる蛇野郎相手に早撃ち勝負みたいな真似はできん」

 

苦虫を噛み潰した様な声を漏らすデゼルに、一同の表情が険しくなる。

 

「心の穢れがこの世界を覆い尽くそうとしている……このままでは……」

 

アリーシャと共にドラゴンの背に跨り、周囲を見渡すライラの表情にも焦りが浮かぶ。

 

だが……

 

「まだです!」

 

強くアリーシャがその言葉を否定する。

 

「アリーシャさん……?」

 

「まだ何も終わってなどいません! ハルトもスレイも! 諦めていない! 必ず突破口はあります!」

 

ライラにでは無く、折れそうな自身の心に言い聞かせるようにそう言い放つアリーシャ。

 

不安はあるのだろう。それでも諦めずに戦おうとする少女の姿に、ライラは険しい表情を緩める。

 

「えぇ! アリーシャさんの言う通りですわ! 共に力を合わせ必ず勝ちましょう!」

 

心に生じた不安を振り払い、力強く告げるライラ。

 

その時、まるでその言葉を待っていたと言うかの様にアリーシャに変化が起きた。

 

「えっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

アリーシャの纏う魔力が輝きを増したと同時に、ライラが光へと姿を変えアリーシャへと吸い込まれる。

 

「こ、これは?」

 

輝きが収まった後に、ライラの姿は無く、代わりにアリーシャはその姿を変えていた。

 

白を基調に所々に赤い配色がなされていた服装は完全に赤く染まり、腰までの丈だった上着もロングコートの様に膝近くまで伸びている。

 

手に持った槍は元々大きかった刃が更に肥大化し、ウィザードラゴンの頭部の様な装飾と赤い宝石が埋め込まれた物へと変化していた。

 

戸惑うアリーシャ。

 

そこに自身の中から声が響く。

 

「これは一体……」

 

「ライラ様?」

 

自身の内から響いたライラの声に驚くアリーシャ。ライラもまた戸惑っている様だ。

 

『ほう……なるほどな』

 

混乱する2人に突如ドラゴンから声がかかる。

 

「ドラゴン殿、なるほどとはどういう?」

 

『なに、少しばかり驚いただけだ。まさか奴と同様にお前が俺の力を引き出すとは思わなかったからな』

 

「ドラゴンさんの力……ですの?」

 

『そうだ。その小娘はソーマハルトの魔力に共鳴し易い特性を持っている。恐らくは奴の魔力で戦い続けていた事と、試練で奴が俺の力の一部を取り戻した影響だろう』

 

「ですが、何故ライラ様が?」

 

『この前の試練で取り戻したのは俺の中にある火の力だ。恐らくはその影響でソーマハルトが俺の力を使う際にお前の魔力の中で火の属性だけが共鳴し増幅され、バランスが崩れて制御ができなくなったのだろう』

 

「そうか……ザビーダ様は風の天族だから、力を増した火の属性を制御するのは難しかったのか」

 

『そうだ。だがその女は火の扱いに長けている。その女がお前と同化する事で強化された火の力を完全に制御できたということだろう。強制的に同化したのは、恐らく強まった魔力にその女が引き寄せられたからだ。この世界に来た時に、俺の力の一部が試練の遺跡に引き寄せられたようにな』

 

その言葉をアリーシャは無言の内に肯定した。

 

己の中から湧き出る力が、以前のものを上回っている事を強く感じたからだ。

 

「この力なら……今度こそあの大蛇を完全に浄化できるかもしれない」

 

「ですが、それにはまずあの大蛇の動きをなんとかしなくては……」

 

いくら力が強化されたとはいえ、大技を使う以上、始動にそれなりの隙が生じる。

 

高速で奇襲をしかけてくる大蛇に対しては、まずそこをなんとかしなければならない。

 

「それならザビーダに考えがあるみたいだぜ」

 

そこに復帰したウィザードから声がかけられる。

 

「ハルト!? 無事だったのか!?」

 

「ご無事でよかったですわ。先程は申し訳ありません」

 

「気にすんなって、あの程度ならピンピンしてるから」

 

『フン……相も変わらず強がりを……』

 

「しかし、アリーシャとライラはどうしたんだそれ?」

 

「説明は後だ。今は……」

 

「ふっ……そうだな」

 

そう言ってウィザード達は考えがあると言ったザビーダへと視線を向ける。

 

視線の先では、高台へと移動したザビーダが街を見下ろしていた。

 

そして……

 

「さて、そんじゃあ派手にいくとするか!」

 

腰に捻じ込まれていたジークフリートを抜き放ち、その銃口を自身のこめかみへと押し当てたのだ。

 

「ザビーダ!?」

 

ジークフリートの弾丸を無駄遣いする気は無いと言っていたザビーダの行動に、ウィザードは思わず驚きの声を漏らす。

 

だが、ザビーダは迷わず引き金を引く。鳴り響く銃声と共にザビーダの霊力がブーストされ跳ね上がり、強力な力の奔流がザビーダから溢れ出す。

 

「スレイ! ミク坊! エドナ! 俺が蛇野郎を捕まえたらお前らもデカイ(やつ)をぶちかまして完全に動きを止めろ!」

 

「そうか……ジークフリートによる強化で詠唱と発動の隙を埋めれば……」

 

「地中からの奇襲にも対応できる!」

 

如何に実力者であるザビーダでも、上位の術を使う以上はある程度の詠唱の隙と発動のラグが生まれる。

 

だが、それはあくまで通常の状態の話だ。ジークフリートによるブーストでその隙をカバーする事で、地中からのタイミングの読めない奇襲に対応する。

それがザビーダの考えた作戦だった。

 

「わかった! 頼むザビーダ!」

 

「ヘマするんじゃないわよ」

 

ザビーダを信じ、スレイとエドナは足を止め上位の術の詠唱を始める。

 

「ハルトォ! 俺にジークフリート(こいつ)を使わせたんだ! 無駄弾にさせんじゃねぇぞ! 」

 

使わせたからには必ず救え。暗にそう言い放ったザビーダの言葉を受け、晴人は力強く返答する。

 

「あぁ、必ずだ! 」

 

そこにドラゴンへ近づいたロゼが声をかける。

 

「アリーシャは私に掴まって! 」

 

「わかった!」

 

アリーシャはドラゴンの背から飛び、飛行するロゼの手に掴まる。

 

入れ替わる様にフレイムスタイルへと姿を戻したウィザードがドラゴンの背に着地し、背に立ったまま事態を見守る。

 

そして……

 

 

バキバキバキバキ!

 

再び地面を疾る亀裂。

 

地を裂き現れた大蛇が大口を開き、勢いのまま詠唱の為に足を止めてしまっているスレイへと迫る。

 

スレイの詠唱は間に合わない。

 

だが、スレイは詠唱を中断する事なく迫り来る大蛇を見据える。

 

その瞳に恐怖は無い。

 

次の瞬間……

 

「《瞬迅、旋風、業嵐、来なよ! ホライゾンストーム!》」

 

突如、大蛇の真下に造られた巨大な魔法陣から凄まじい風の奔流が吹き荒れ、大蛇の巨体を吸い寄せ地面へと叩きつける。

 

 

『ギィィィィィイ!?』

 

事態が飲み込めないのか混乱した様に動こうとする大蛇だが、魔法陣から発生する風の力は尋常ではなく、なかなか逃れる事が出来ない。

 

更に……

 

「手間取らせた罰よ。《万有、儚く、膝下に! エアプレッシャー!》」

 

『ゴガァ!?』

 

ザビーダが捉えた大蛇に対し、詠唱を完成させたエドナの術が襲いかかる。

 

倒れ伏した大蛇の頭上に発生した黄色の陣が強力な重力場を発生させ、大蛇を更に地面へと縫い付ける。

 

しかし、追撃は止まらない。

 

「《旋海、轟沈! メイルシュトローム!》」

 

『グゥァァアアア!?』

 

押し潰された大蛇を中心に水による渦潮が発生し、完全に動きを封じる。

 

「ハルト!」

 

「あぁ! いくぜアリーシャ!」

 

完全に動きが封じられた大蛇に2人が動く。

 

「ドラゴン!」

 

背に立つウィザードが掲げたウィザーソードガンに首を後ろへと回したドラゴンは、自身の吐いた炎を纏わせる。

 

強力な火炎は炎の刃と化し、燃え盛る巨大な炎の剣をウィザードは構える。

 

一方でアリーシャの持つ槍にも強力な炎の魔力が収束していく。

 

「よし、いくよ2人とも!」

 

技の準備が完了した事を確認し、ロゼとドラゴンは一気に大蛇へと突っ込む。

 

2人が間合いに入ると同時に大蛇を拘束していた術が解除される。

 

なんとか身体を持ち上げた大蛇は回避は不可能だと判断したのか、再び岩の槍を吐き出し迎撃しようとするが……

 

『つまらん悪足掻きだ』

 

「同感! 大人しくしてろっての!」

 

ロゼの背中のブレードが射出された岩の槍を迎撃し、ドラゴンの炎弾が逆に大蛇を怯ませ攻撃を止める。

 

「いっけぇ!アリーシャ!」

 

その隙を突き、ロゼはアリーシャを風の力を操り大蛇へと向けて投げる。

 

アリーシャは空中で槍を両手で持ち構える。

 

「《浄化の炎よ! 彼の騎士に宿れ!》」

 

「全てを焼き尽くす轟爆の魔槍!」

 

ライラの詠唱と共にアリーシャの槍から赤いドラゴンの頭部の幻影が現れ、その口から巨大な炎の刃が生み出される。

 

「「インフェルノドライブ!」」

 

「フィナーレだ!」

 

ウィザードとアリーシャの2つの巨大な炎の刃が大蛇の頭部をX字に切り裂き、ウィザードはドラゴンを操り、落下するアリーシャをキャッチしその場を離脱する。

 

『ぎしゃ………………』

 

断末魔すらあげることすら叶わず大蛇の頭部は断ち切られ、凄まじい勢いの炎に飲み込まれる。

 

そして次の瞬間、炎が爆ぜ大蛇の身体が跡形も無く完全に消し飛んだ。

 

「や、やった……」

 

ウィザードに抱きかかえられたアリーシャは空中からその光景を目にし、思わずそう呟いた。

 

穢れの根源たる大蛇が浄化されたからか、アンダーワールドを包んでいた穢れもまた消滅していく。

 

「やったなアリーシャ」

 

変身を解除し、晴人は腕の中のアリーシャに微笑んだ。

 

「ハルト、これで枢機卿は……」

 

「大丈夫だと思うけど、何せ前例がないからな。急いで戻ろう」

 

そう言って晴人はドラゴンを操り、下に待つ一同の元へ向かった。

 

___________________________________

 

「セルゲイ団長、お待ちください!? 導師スレイ達は我々に待っているようにと仰って……」

 

「確かにそうだ。だが、やはり私には彼らに全てを押し付けるというのは納得できない。お前達は無理に付き合わなくてもいい。私の個人的な我儘に付き合う必要は無い」

 

「団長ひとりに行かせる事などできません。どうしてもと仰るなら我々も同行します!」

 

薄暗い、教会神殿の中の通路。

 

その中をセルゲイと数名の白皇騎士団の騎士達が進んでいる。

 

スレイや晴人達に騎士団塔に残っているように言われた彼らだが、部下を人質に取られ、さらにスレイ達が危険な目に遭う事に納得する事ができなかったセルゲイが部下の制止を振り切り1人教会神殿に乗り込もうとし、そんな彼の身を案じた部下もまた同行していた。

 

一同は教会関係者に出会わない事を訝しみながらも、教会神殿の最深部へと辿り着く。

 

「む、あれは!? フォートン枢機卿!?」

 

薄暗い部屋の中、倒れ伏した枢機卿を見つけ駆け寄る。

 

「フォートン枢機卿! 一体何があったというのだ?」

 

困惑するセルゲイだが、次の瞬間、魔法陣が現れ薄暗い部屋を赤い光が染め上げる。

 

「こ、これは!?」

 

驚きの声をあげるセルゲイ。

 

その時、魔法陣から晴人達が現れる。

 

「せ、セルゲイ? なんでここに?」

 

スレイは何故かこの場にいるセルゲイに驚くものの、すぐに倒れ伏したフォートンへと視線を向ける。

 

「フォートン枢機卿! 」

 

一同は急ぎ枢機卿に駆け寄るが……

 

「大丈夫だ。気を失っているが大きな異常は見られない」

 

そう告げるセルゲイ。

 

「穢れも完全に浄化されているようです。やりましたわね皆さん」

 

続いてライラがフォートンの身体を確認し、穢れが浄化された事を告げる。

 

その言葉を聞きスレイ達の顔に喜びの表情が浮かぶ。

 

「やった! ハルト! 俺たち枢機卿を助けられたんだ!」

 

「あぁ、どうやら賭けには勝てたみたいだな」

 

「かなりギリギリな感じだったけどね」

 

「だが、それでも助ける事が出来た」

 

安堵の表情を浮かべるアリーシャ。

 

その時、何かが強い輝きを放ち、一同は光が放たれた方向へと視線を向けると、その先には……

 

「石化していた人達が……」

 

メデューサによって石化していた人々。石像の様に固められていた人々の石化が解除され、倒れ伏した姿があった。

 

「枢機卿の穢れが完全に浄化された事で、メデューサの力も完全に失われたのでしょう。これがアンダーワールドでの完全な浄化なのですね」

 

ライラが微笑みながらそう告げた時……

 

「う、うわぁ!?」

 

突如響く叫び声。

 

一同が振り返ると、そこには騎士が憑魔に襲われる光景が飛び込んでくる。

 

「あれは、枢機卿に石化させられてた憑魔!?」

 

アリーシャへ放たれ、メデューサの石化に巻き込まれた憑魔が石化が解除された事により復活し、セルゲイの部下に襲いかかろうとしていたのだ。

 

「させませんわ!」

 

即座に反応したライラは紙葉を放ち、憑魔に着弾すると同時に発火させる。

 

『ギャアア!?』

 

ライラの浄化の炎により憑魔の穢れが祓われる。

 

「なんとか間に合いましたわね」

 

安堵の息を零すライラだが……

 

「かたじけない、部下を助けていただき感謝します」

 

「いえ、お気になさら……ず?」

 

セルゲイからかけられた感謝の言葉に返答しようとしたライラの言葉が止まる。

 

スレイ達もまた驚いた様にセルゲイを見つめていた。

 

「じ、自分の発言に何か問題があっただろうか?」

 

一同の視線を集めた事に困惑するセルゲイ。

 

 

「あ、あらあら?」

 

「えーっと……」

 

「これは……」

 

「一体……」

 

「どうなって……」

 

「いやがるんだ……?」

 

困惑する一同を代表しスレイが問いかける。

 

「えーっと……セルゲイ? もしかしてライラが見えるの?」

 

その問いかけにセルゲイはポカンとした表情で、質問の意味がわからないとでもいう様に戸惑いながら返答する。

 

「ライラとは其方の女性の事だろうか? 急にどうしたというのだ? 話しかけているのだから見えているに決まっているだろう?」

 

ライラが見えている事を肯定するセルゲイ。見れば彼の部下達もまたライラへと視線を向け「炎を操った?!」「まさかあれが天族なのか?」など言葉を零している。

 

アリーシャが触れていないにも関わらず、天族が視認できなかった騎士団の者達がライラを視認しているのだ。

 

「マジか……」

 

「マジで……?」

 

「マジだ……」

 

状況に追いつけず混乱しながらザビーダ、エドナ、晴人の3人がなんとか声を絞り出す。

 

そして……

 

 

 

『ええええええええええ!?』

 

 

一同の心の叫びが教会神殿に響き渡った。




後書き
Q ベルセリアでジークフリートの力を断つ憑魔を殺す弾丸は霊体結晶の特殊弾で増幅とは別のものだと判明しましたが今作と設定違っちゃってね?

A 今作の独自設定で、増幅と憑魔を殺す弾丸は同一のもので消費式という事でお願いします(震え声)

だってゲーム版ゼスティリアだとザビーダの自己強化で弾切れになったみたいな感じの描写だったんですもの(逆ギレ)


追伸 ブレイブスピンオフが「サバじゃねぇ! 3」で腹が捩れました
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