Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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更新が遅れて申し訳ないです
更新が遅すぎて前回から更新する間に社長が死んでゼスティリアクロスは最終回を迎えそして社長が復活してしまった……

今回で三章エピローグにするつもりでしたが書いてて終わる気配が無いので分割しました

では最新話、三章のエピローグの前篇をどうぞ







31話 青空 前篇

『リュネット? どうしたの? ぼーっとして』

 

「(あぁ……またこの夢だ)」

 

まどろみの中で自身にかけられた声に枢機卿、リュネット・フォートンは心中で小さくそう呟いた。

 

リュネットが目を見開くと、そこは嘗て自分が枢機卿となる前に生活を送っていた自宅だった。そして行方不明となった筈である2人の姉が、心配そうな表情を浮かべながらリュネットを見つめている。

 

『どうしたの黙り込んじゃって? もしかして疲れてるの? 確かに最近のリュネットは教会でも偉くなったし仕事も増えてるけど……』

 

リュネットの体調を心配してか、長女であるエニドが声をかけ、それに次女であるロディーヌが続く。

 

『確かにリュネットは最近働き通しですものね。姉として貴方の事は鼻が高いですけど偶には身体を労った方がいいわ』

 

『そうね。リュネットって少し真面目過ぎる時があるし……そうだ! 明日ってみんな休みよね? 久しぶりに3人で出かけない?』

 

『それはいいですね。最近は忙しくて3人で過ごす時間も少なくなってましたし』

 

『そうでしょ。偶には姉妹水入らずといきましょうよ』

 

楽しそうに微笑みながらリュネットにそう告げる二人。

 

「姉さん……」

 

姉からの言葉にリュネットはぎこちなく笑みを浮かべる。

 

姉達からの言葉は嬉しい。だがリュネットは知っていた。この目の前に広がる理想の光景はただの夢に過ぎない事を……

 

この夢を見るのは今日が初めてでは無い。それこそ今まで、何度も何度も彼女はこの夢を見て来た。

 

そしてその度に姉達と休日を過ごす事を約束した後に、容赦無く夢は終わる。

 

終わって欲しく無いとどれだけ大きな声で叫んでも……

 

一人にしないでとどれだけ必死に願っても……

 

優しい夢から現実へと引き戻された彼女はその夢に引き摺られる様にやがて暴走していった。

 

民や兵を踏みつけにし、己の身を憑魔へと堕とし、全てを捧げて……

 

目の前に広がる暖かな家族との団欒、それを取り戻す為に……

 

だけれども……

 

___『過去ばっかり見て、現在(いま)を捨てるな』____

 

リュネットの脳裏に1つの言葉が過ぎる。

 

その言葉を思い出したリュネットは、自身の右手に視線を向ける。

 

そこには、琥珀色の輝きを放つ指輪が自身の指にはめられていた。

 

その指輪の輝きを見たリュネットは瞳を閉じ、指輪のはめられた手を自身の胸に添え、小さく深呼吸をする。

 

そして何かを決意したかの様に瞳を開き、静かに、それでいてハッキリと自身の答えを告げた。

 

「ごめんなさい姉さん。明日はどうしてもやらなくちゃいけない事があるの……だから姉さん達とは出かける事は出来ないです」

 

その言葉に二人の姉は驚きの表情を浮かべる。

 

『え……』

 

『リュネット……?』

 

「姉さん達の提案は嬉しいです。だけど、私は今どうしてもやらなくちゃいけない事ができたんです」

 

『それは……私達との約束よりも大切な事なの……?』

 

悲しそうに問いかける姉の言葉に、リュネットの心は締め付けられる。

 

けれども、彼女は……

 

「はい……」

 

その言葉を聞いたエニドは俯き、小さく溜息をこぼすと顔を上げ、リュネットへ視線を向ける。

 

『そっか……リュネットがそこまで言うなんてよっぽど大切な事なのね』

 

「はい……どうしても果たさなくちゃいけない事です」

 

『ならしょうがないわね』

 

『えぇ、残念だけどリュネットがそこまで言うなら姉として邪魔はできないわ』

 

『けど、無理はしちゃ駄目よ?』

 

優しくそう告げる二人の姉に、リュネットは笑みを浮かべ返答する。

 

「はい。あの……姉さん……」

 

『ん? どうかしたの?』

 

言い淀むリュネットにエニドがどうしたのかと問いかける。

 

「いつになるのはわからないですけど……いつか、私のやるべき事が終わったら……」

 

『終わったら……?』

 

「その時は今度こそ私と一緒に3人で出かける約束……してくれますか?」

 

その言葉に2人の姉は優しく微笑む。

 

『そんなの当たり前でしょ』

 

『その時を楽しみにしていますね』

 

その言葉に、リュネットは瞳に涙を溜めながらも満面の笑みを浮かべる。

 

「私も……楽しみにしています。ですから……今日はもうサヨナラです」

 

姉からの暖かな言葉を胸に笑顔で応え、リュネットは初めて自らの意思で優しい夢に別れを告げた。

 

 

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「で? つまりどう言うことなのよ?」

 

場所は変わり騎士団塔。

 

フォートンの浄化に成功した晴人達は白皇騎士団と協力し、フォートンと石にされた人々をコネクトの魔法を使い騎士団塔へと運び、騎士達に介抱を頼み状況の整理をしていた。

 

厄介事が増えたと言わんばかりに口を開いたエドナの問いかけに、アリーシャが返答する。

 

「可能性として考えられるのは先程のアンダーワールドでライラ様が私と一時的に同化していた事かと……」

 

天族の中でライラだけが、霊応力を持たない人々からも視認される様になった。その事から考えれば、やはり考えられる可能性として挙げられるのは先程の戦闘の事だろう。

 

「あぁ! そう言えばアリーシャもパワーアップしてたよね! なんかドラゴンの力を使った時のウィザードみたいに!」

 

「ドラゴン殿が仰るには、アレは晴人が取り戻した力に私の中の晴人の魔力が反応した結果らしい。晴人がドラゴン殿の力を使うと、私の中の魔力も火の属性が更に強まる様なんだ」

 

「なるほどね……だから風の天族の俺じゃ制御しきれずに弾き出された訳だ」

 

アリーシャの説明にザビーダは、メデューサとの戦いの際にアリーシャから弾き出された事を思い出し納得する。

 

「では、私がスレイさん達以外にも見える様になったのは?」

 

「多分だけど、ドラゴンの魔力が原因なんだろうな」

 

「けどよハルト。俺はアリーシャと同化しても周りの連中に見える様になったりはしてないぜ?」

 

「となると……ドラゴンの影響で火の力が強化されたアリーシャと同化したのが条件って事かな?」

 

「魔力と霊応力は感覚としてはとても似ています。おそらくは私と同化した際にハルトの魔力と、イグレインで取り戻したファントムの力を現実世界で使う力の2つが、同じ火の力を持つライラ様に混ざり合い影響を与えたのかと」

 

「そう言えば、神衣は普通の人には見えないけど、ウィザードの姿は普通の人にも見えるもんね」

 

神衣が一般人には認識できない事に対して、ウィザードの姿は普通の人間でも認識できる事を思い出しながらロゼが納得する。

 

「まぁ不明瞭な部分は多いが、あの時のアリーシャとの同化が原因なのは間違いないだろうな」

 

一同は仮説ではあるものの現状の判断材料からそう結論付ける。

 

「あの……ライラ様……」

 

「?……どうかなさいましたかアリーシャさん?」

 

どこか歯切れ悪く声をかけてきたアリーシャに、ライラはどうしたのかと首を傾げる。

 

「その……申し訳ありません」

 

「えーっと……何がでしょうか?」

 

突如アリーシャに謝罪を告げられたものの、ライラは謝られる理由に思い当たる節が無く、その意味を問う。

 

「それは……今回ライラ様に起きた変化はライラ様にとって重大な事の筈です……図らずともライラ様の意思に関わらずこの様な事態を引き起こしたのは私に原因が……」

 

ライラを始めこの場いる天族達は永い年月の間、一部の素養を持つ者以外の人間達からはその姿を視認される事なく過ごしてきた。

 

これまで天族が超常的な力を持ちながら人々からは目に見えない存在である事は、双方の関係性を片道の一方的なものとする一方で、種族の違いによる衝突や問題の発生が防がれていたとも言える。

 

人間から向けられる感情が純粋な友好や敬意、信仰等であるのならば良い。だが中には畏怖や、天族の存在を利用とする様な悪意を向ける人間もいるだろう。

 

現にアリーシャはこのペンドラゴに向かう道中であるラストンベルで、天族の名を利用した司祭により起きてしまった事件をその目で見ている。

 

故に、図らずともライラ本人の意思を無視したこの変化に対して、アリーシャは申し訳ないと頭を下げる。

 

「あー……ライラ? アリーシャに魔力を与えたのは元を辿れば俺なんだ。だから責任はどちらかと言えば俺にあるから、謝るとしたら俺の方だ」

 

そこに晴人が割って入る様に謝罪を告げるアリーシャを庇うが……

 

「いや、ハルト……君はあの時最善を尽くしただけだ。君が謝る事なんて無いだろう」

 

晴人の言葉をアリーシャが不服そうに否定する。

 

「いや、だけどあの時思い付きで魔力を与える事を提案したのは俺な訳だしさ……」

 

「だとしてもそれはあの場にいた兵士を救う為に最善を尽くそうとした結果だろう? 君に非はない」

 

「でも結果的に今回みたいな事になったのは俺に責任が……」

 

「違う。君が与えてくれた力の取り扱いを間違えた私に責任がある」

 

「いや、でもやっぱり俺が____ 」

 

「いいや、私が____ 」

 

「俺が____ 」

 

「私が_____」

 

お互い譲らずに自分が謝るべきだと主張し合う2人。揃って同じ様な事を言い合う2人を見たライラは、クスリと小さく笑みをこぼす。

 

「お二人とも。謝る必要などありませんよ?」

 

「「え?」」

 

柔らかい口調でそう告げるライラに口論をしていた2人が止まる。

 

「確かに、アリーシャさんが危惧する様に私が人々から見える様になった事で、これまでとは違う問題が生まれるかもしれません」

 

ライラは先程のアリーシャの言葉を肯定しつつ「ですが」と言葉を続ける。

 

「最後の導師がいなくなってスレイさんが現れるまで、私はレディレイクの聖堂で新たな導師を待ち続けていました。その中で天族の存在を利用する人々がいた事も目にしています……ですがそれ以上に、私自身の声が届かない無力さも嫌という程痛感してきました……」

 

憂いを秘めた表情でライラは言葉を続ける。

 

「導師とは孤独です。私達天族の言葉を私達を見えぬもの達へと伝える。それは私達が見えぬ人々からの期待や疑い、畏怖や悪意を1人で受け背負ってしまう。私が隣にいながら本来なら私に向けられ背負うべき感情ですら……」

 

今の世では導師の存在は天族と人間という二つの種族を結びつける数少ない存在だ。だからこそ二つの種族の間に立つ導師には、人間と天族の間に生じる問題が一身に降り注ぐ。

 

天族に代わりその言葉を人々に届けても信じてもらえずに、心無い言葉をぶつけられる事も決して珍しい事で無い。

 

ライラはその事を嫌という程理解していた。

 

「ですから、正直に言えば少し嬉しいんです。人々から私の姿が見える様になった事で、嘗て背負う事のできなかった導師の重荷を、今度は私も共に背負う事が出来るようになった事が」

 

スレイへと視線を向けながらライラは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「ライラ……」

 

そんなライラの言葉にスレイもまた小さく微笑んだ。

 

「それに、手にした力をどうするかは自分次第。ハルトさんも試練の時にそう仰っていたでしょう? ですから私もこの変化を希望に繋げていきたい。そう思います」

 

「そっか……」

 

「ライラ様がそう仰るのでしたら……」

 

迷いなくそう言い切ったライラに、晴人とアリーシャもそれ以上何も言う事は出来なかった。

 

「ま、ライラの言う通り見える様になったもんはしょーがないんだし、前向きに行こうよ前向きに!」

 

会話を見守っていたロゼもいつもの様に明るい笑顔を浮かべると、場の空気を気遣いテンション高めに声をあげる。

 

「ふん、調子の良い奴だ」

 

「何さ、後ろ向きになるよりかは建設的でしょうよ。確かにアリーシャが触れれば霊応力の低い人にも天族を見せる事は出来たけど、それでも普通に全員から見える方が変な難癖つけられなくていいじゃんか」

 

「確かにね。あのバルトロとかいう大臣なんか、アリーシャが相手を脅して一芝居打ってるなんて言い掛かり付けてくるんじゃないの」

 

エドナがバルトロの事を指して毒づく。どうやら彼女はバルトロに対しての印象がかなり良くないらしい。

 

そこに突如声がかけられる。

 

「スレイ、少しいいだろうか?」

 

石化が解除された者達への対応にあたっていたセルゲイが晴人達のいる部屋へと戻って来たのだ。

 

「セルゲイ。弟さんや騎士の人達は大丈夫?」

 

「あぁ、石化していた者達は衰弱こそしているが命に別状は無い。弟のボリスもな。騎士団団長として、そして兄としても君達は恩人だ。礼を言わせてくれ」

 

そう告げてセルゲイは深々と頭を下げる。

 

「そんな畏る事ないだろ。俺たちは俺たちのやるべき事をやっただけさ。それに、誰も死なせずに助け出すって約束したろ?」

 

そう言いながら戯ける晴人。それを見たセルゲイも小さく笑みを浮かべる。

 

「そうか、やはり貴公らを信じたのは間違いでは無かったな」

 

「それで? 何か俺達に用があるのか?」

 

「む、そうだった。だが私が説明するより直接話した方が早いだろう」

 

セルゲイがそう告げると同時に部屋の扉が開く。

 

そこには……

 

「貴女は……」

 

先程救い出し意識を失ったリュネット・フォートンが、マシドラと共に部屋へと訪れた。

 

フォートンは服装は先程の法衣のままだが被り物はつけておらず、纏めてたであろう長い黒髪もストレートにおろされている。

 

表情は少し窶れており疲労の色が見えるが、対峙した時の様な冷たさは感じられなかった。

 

「あ、あの……」

 

おずおずとフォートンは口を開くが、何と言えば良いのか迷いがあるのか歯切れが悪い。

 

「あ、目が醒めたのか。身体の方は大丈夫なのか?」

 

そんな彼女に対して配慮したのか、晴人は自ら柔らかい口調で声をかける。

 

「あ、はい……これと言って身体の不調は感じません……あ……いえ、そうではなく! 先程は―――」

 

「もし謝ろうとしているのならその必要は無いぜ」

 

晴人はリュネットの言葉を遮る。

 

「え……で、ですが!」

 

「私達は自分のやるべき事をやっただけですわ。今回の事で貴女が申し訳なく思う必要はありません。もしも貴女が罪の意識を感じているのなら、謝罪の言葉は貴女が石化させた人達や長雨で苦しんだ人達に言ってあげてください」

 

申し訳無さそうに謝罪を口にしようしたリュネットに対して、ライラは柔らかい口調でそれを止める。

 

一同は、リュネットが自分達を利用しようとした事は、穢れによる感情の暴走が原因だという事を理解している。

 

憑魔を浄化するという使命を持つ導師達からすれば、そういった人間と相対するのは決して珍しい事ではない。

 

それ故に、浄化後に自らの行いを省みることの出来るリュネットに対しての恨み辛みなど、一同にあるはずもなかった。

 

だが、リュネットにより被害を受けた者達に関しては話が別だ。

 

加害者と被害者の間の感情に対して第三者の晴人達は、許す許さないの決定権など持ち得ない。

 

勿論、フォローはするつもりだがそこから先はリュネット自身で決着をつけなくてはならない問題なのだ。

 

「……わかりました。私の犯した罪に関してはしっかりと償うつもりです。先程目を覚まして、マシドラ教皇から詳しい話は聞きました。皆様の事も含めて今回の事を陛下に説明しようと考えています」

 

「っ!! という事は皇帝陛下への謁見に協力して頂けるのですか!?」

 

「えぇ。今回の事で私は多くの人間に対して迷惑をかけました。この程度の事で許されるとは思っていませんが、私にも協力させてください」

 

皇帝への謁見で最後の壁だったリュネットの協力を得られ、漸く皇帝への謁見が実現した事に、一同から喜びの声が上がる。

 

「では、少しばかりお待ちください。此方で秘密裏に皇帝陛下を騎士団塔へお連れします」

 

「え!? そんな早く!? しかも向こうからここに来て貰うの? 流石にそれって失礼なんじゃ……」

 

「えぇ、こう言った場合我々が日を改めて出向くべきなのでは?」

 

リュネットのまさかの発言にスレイとアリーシャは疑問を覚えるが……

 

「それに関しては私も理解しています。ですが、マシドラ教皇とも話し合いましたが、今の陛下のお立場や話し合う内容を考えると、早急にそうするしか無い事情があるのです」

 

何か理由があるのだろうか、リュネットは2人の意見に首を横に振る。

 

「わかった。この国の政治に関わってたアンタや村長さんがそう言うのなら何か理由があるんだろ? ならアンタの判断を信じるさ」

 

そう返答した晴人に対してリュネットは小さく微笑むと、セルゲイへと視線を向ける。

 

「セルゲイ団長。陛下は白皇騎士団の視察を理由に此方へ連れて参ります。護衛の方は白皇騎士団に頼んでも宜しいでしょうか?」

 

「了解した。私も含め特に信用できる者達で行おう」

 

「感謝します。では……」

 

そう言って部屋を出たセルゲイに続きリュネットもその場を去ろうとするが……

 

「あ……あの、ハルト殿?」

 

振り向いたリュネットは晴人の下まで戻ってくると、おずおずと声をかける。

 

「ん? どうかしたか?」

 

「あの……この指輪……」

 

そう言ってリュネットは右手にはめられたエンゲージの魔法の指輪を晴人に見せる。

 

「あぁ、そう言えばアンタにつけてたまんまだったな。もしかして態々返しに戻って来てくれたのか?」

 

「え、あ……いやその……」

 

歯切れの悪いリュネット。

 

「?」

 

おかしな様子のリュネットに晴人は首を傾げるが、リュネットはやがて意を決して晴人に問いかける。

 

「あの! 図々しい願いとは承知なのですが……この指輪、宜しければ譲って貰えないでしょうか?」

 

「へ……?」

 

予想外の願い出に晴人は間の抜けた声を漏らす。

 

「も、勿論代金が必要なら払います! 勝手な事を言っているのは自分でもわかるのですが……」

 

「……理由を聞いてもいいか?」

 

リュネットに対して晴人は優しい声でその真意を問う。

 

その問いかけにリュネットは小さい声で答える。

 

「その……今回の事件で私は自分の心の弱さを思い知りました」

 

ポツポツとリュネットは言葉を続ける。

 

「私はこれから罪を償っていくと誓いました。ですがその中で私の心が負けて再び憑魔になってしまったらと思うと……だから今日という日に起きた事を忘れない様にしたいんです……もう二度と現在(いま)を捨てない様に……」

 

小さくそれでも決意を込めてリュネットは告げる。

 

「だから、私を救ってくれたこの指輪を自分への誓いとして持ち続けたいのです……勝手な言い分なのはわかっていますが____ 」

 

申し訳無さそうに晴人に頭を下げようとするリュネットだが……

 

「いいぜ。それならその指輪はアンタが持っていてくれ。それと代金はいらないから」

 

「え、ですが……」

 

「気にすんなって。その指輪が少しでもアンタが前に進み始める為の助けになるならアンタが持っているべきだ」

 

そう言って微笑む晴人。

 

「はい……感謝します」

 

リュネットはそう言って微笑むと一礼し今度こそその場を去っていった。

 

「良かったのか? あんな簡単に指輪を渡しちまって。どの道魔法使いのお前が持ってなきゃ使えない代物だろ?」

 

リュネットを見送った晴人にザビーダが声をかける。

 

「エンゲージの指輪は緊急用の魔法だからな。いざって時に手持ちが無いなんて事にならない様に手持ちには余裕があるんだよ。それに……」

 

「あ? それに……?」

 

「指輪の持つ力だけが魔法じゃない。他の人間から見ればなんて事の無い物だって本人にとっては絶望を乗り越える力になり得る時だってある。それだって立派な魔法さ」

 

微笑みながらそう告げる晴人に釣られてザビーダも笑みを浮かべる。

 

「ヒュー♪ キザったらしい事言いやがってコイツ」

 

「なんだよ、別にいいだろ?」

 

「お? その余裕。さてはお前、女に指輪を渡し慣れてるな?」

 

「おい、誤解を招く言い方はやめろ」

 

ザビーダの言葉に反論しようとする晴人だが……

 

「なぁ、ミクリオ。指輪を渡し慣れてるってどういう意味?」

 

「え? い、いやそれは何というか……」

 

「指輪を渡し慣れてる……マジで?」

 

「……ロゼ、今度からハルトから少し距離を置け」

 

「ハルトさん……意外と手の早い方でしたのね……」

 

「流石はチャラ男二号。技の二号と呼んであげるわ」

 

心なしか周りからの視線が冷たい。

 

「おい……何か話がめんどくさい方向に……」

 

笑顔が引き攣る晴人だが……

 

グイッ

 

「ん?」

 

突如服の袖を軽く引っ張られ、一体何だと其方に視線を向けると……

 

「あー……アリーシャ? どうかしたのか?」

 

視線の先には片手で申し訳程度に袖を掴んだアリーシャが、上目遣いでムッとした様な少し不機嫌そうな表情で晴人を見ている。

 

珍しい彼女の表情に晴人は少々戸惑いながらも、どうしたのかと問いかける。

 

「……ハルト」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「……そうなのか?」

 

「な、何が?」

 

「……女性に指輪を渡し慣れているというのは本当なのか?」

 

むくれた様な表情を浮かべアリーシャは問いかける。

 

「ま、まぁ慣れてると言えば慣れてる……かな?」

 

静かな圧力に押されて晴人はついそう答える。

 

その答えは実際間違いでは無い。彼が過去に救ってきたゲートの中には、今回のリュネットの様にエンゲージの指輪をつけたままの者たちもいる。

 

「あーでもアレだぞアリーシャ。今回のフォートンと同じ様に人助けだからな? ザビーダが言った様なナンパな意味合いじゃ無いからね?」

 

「……それは、わかっている」

 

「お、おう……」

 

「それでも複数の女性に軽々しく指輪を渡すという行為は男性としてどうかと思う」

 

「あ、はい……なんかすいません……」

 

「そもそも君は―――」

 

わかっていると言いながらも依然、ご機嫌斜め30度なアリーシャ。

 

それから暫くの時間、晴人は訳もわからずそんな彼女の機嫌回復に全力を注ぐハメになった。

 

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その後、アリーシャの機嫌を何とか回復させた晴人は、リュネットからの呼び出しを待ちながら談笑を交わしていた。

 

 

「しっかし、まさか皇帝陛下の方から出向いて貰う事になるなんてな……」

 

「しかし本当にいいのだろうか? 両国の休戦の為の話し合いだと言うのに皇帝陛下自ら足を運んで貰うなど……」

 

極秘裏の会談とは言え、ハイランドを代表する立場であるアリーシャはやはり気持ちが落ち着かないのか、ソワソワと緊張した様子だ。

 

「落ち着けってアリーシャ。アリーシャだって王族なんだから変に畏まらなくてもいいだろ」

 

「ハルト……そうは言うが、即位している皇帝陛下と王位継承権から程遠い私とでは……」

 

「別に偉そうに踏ん反り返れって言う訳じゃないさ。けど、ハイランドを代表するのなら堂々としてるべきだろ?」

 

「む……まぁ確かにその通りかもしれないが」

 

アリーシャに肩の力を抜くように助言する晴人。そこにエドナから声がかかる。

 

「そういうアンタは逆に言葉遣いに注意した方がいいんじゃないの。いつもの軽い調子で話しかけて王様の機嫌を損ねるとかやめてよね」

 

「エドナがそれを言うのか……?」

 

「何か言ったかしらミボ?」

 

「い、いやなんでもない」

 

エドナの言葉にボソりと小さな声でツッコミを入れるミクリオだが、エドナが傘の素振りを始めながらの問いかけに冷や汗を流しながら押し黙る。

 

「あー、確かにそこを突かれると痛いなぁ。昔、王様に謁見した時にそれが原因で魔法をくらわされて派手に吹っ飛ばされたし、今回は気をつけないとな」

 

「……一体何してんのよアンタ」

 

エドナの軽い皮肉の言葉に対して調子を崩さずに返答する晴人。その内容にエドナは呆れた声を零す。

 

その時……

 

「少しいいかしら?」

 

突如かけられた綺麗な女性の声。

 

一同は辺りを見回すが、それらしい人影は見当たらない。

 

「どこを見ているの? 下よ下」

 

「あ! さっきの猫さん!」

 

一同が声に釣られて足元を見ると、そこには見覚えのある肥満気味の白猫がいた。

 

「よおムルジム、久しぶりだな」

 

「久しぶりねザビーダ。彼等は新しいお仲間?」

 

「まぁそんな所さ。そんで? 身体の方は大丈夫なのかい?」

 

「お陰様でね」

 

ザビーダとの会話もそこそこにムルジムはスレイ達へ向き直る。

 

「さて、貴方達との挨拶はまだだったわね。私はムルジム。このペンドラゴの加護天族を務めていたわ」

 

「スレイです。ライラと契約して導師をしてます」

 

その言葉にムルジムは一瞬だけ何かを思い出したかの様に表情を曇らせる。

 

「そう……貴方がライラの見つけた新しい導師なのね」

 

「?……あの、オレがどうかしました?」

 

ムルジムの妙な反応にスレイは首を傾げる。

 

「……いえ、なんでもないわ。改めてお礼を言わせて貰うわ導師スレイ。助けてくれてありがとう」

 

「いえ、みんなの力でやった事ですから」

 

「けど猫さんはどうして憑魔になってたの? ペンドラゴって天族への信仰には困ってなかったんでしょ?」

 

ロゼの問いかけにムルジムは苦笑しながら答える。

 

「そうね。このペンドラゴは天族信仰の総本山だけあって、教会神殿の碑文を器にして加護領域を展開する力を得るのに不便はなかったわ」

 

その言葉にアリーシャは表情を険しくする。

 

「となると原因は……」

 

「えぇ、憑魔化した枢機卿が操る憑魔に私は襲われたのよ。加護領域も彼女が発生させた穢れの領域で打ち消されてしまって、憑魔化して彼女に操られていたという訳」

 

「ッ……それは……」

 

予感が的中し、アリーシャの表情は更に曇る。枢機卿を責めるつもりなどアリーシャにはないが、それでも人間側の事情にムルジムを巻き込み憑魔化させたという事実に対して、アリーシャは複雑な心境になる。

 

そんな表情からアリーシャの心境を汲み取ったのか、ムルジムは少し困った様に笑う。

 

「そんな顔をしなくても大丈夫よお嬢さん。少なくとも私は人間を恨んだりしてはいないし、ペンドラゴに加護を与えるのをやめるつもりもないわ」

 

「え?」

 

その言葉にアリーシャはポカンとした表情を浮かべる。

 

「私を憑魔にして意思を奪ったのが人間なら、私の意思を取り戻してくれたのもまた貴方達人間でしょう? それで十分なのよ、私が人を見限らない理由としてはね」

 

なんでもない事の様にそう言い切るムルジム。

 

そんな様子をみてザビーダが楽しそうに笑い声をあげる。

 

「くっはっはっ! さっすがはムルジム。良い女だねぇ! 猫の姿じゃ無けりゃ口説いてる所だ!」

 

「ありがとうザビーダ。でも残念だけど、私の好みは裏表の無いノミ取りの上手な男性よ」

 

その言葉を聞いた晴人が苦笑しながらザビーダへと視線を向ける。

 

「フラれたみたいだぜザビーダ?」

 

「らしいな。俺もまだまだ修行不足かね?」

 

笑いながら軽口を叩き合う二人。

 

そんな中、ムルジムはロゼへ視線を向け問いかける。

 

「所で赤毛のお嬢さん」

 

「え? アタシ?」

 

突如自分に声をかけられた事に驚くロゼ。

 

「貴女、さっきの枢機卿との戦いで使っていた剣術。アレは何処で習ったのか聞いてもいいかしら?」

 

「剣術? あぁ! 『嵐月流・翡翠』の事?」

 

「ランゲツ流……やっぱり間違いじゃなかったのね」

 

ロゼの言葉にムルジムは自身の予想が的中した事を確信する。

 

「あの剣術はブラ……じゃなくて、アタシに戦い方を教えてくれた師匠のご先祖が習った技らしいんだ」

 

「習った? それは誰から?」

 

「んーっとね。名前までは知らないんだけど昔、旅してる腕利きの武芸者がいてね? 師匠のご先祖様とソイツが酒の席で意気投合したらしくてさ。なんか気まぐれで技の幾つかを教えてくれたんだって。なんでも『心水』ってお酒が大好きだったみたいでさ、奢ったら上機嫌で教えてくれたって」

 

「そう……彼が……」

 

ロゼの語る謎の武芸者に心当たりがあるのか、ムルジムは複雑な感情を滲ませた声を零す。

 

「まぁ気まぐれだから教えてくれたのは本当に技の一部だけだったみたいだけどね。教えてくれた剣技も時代が進んでいく中で殆どは忘れられちゃったみたいで、アタシが師匠から教えて貰った技も片手で数えられるくらいしか受け継がれてなかったみたい。アタシの剣技も基本だけ習って殆どは我流だしね」

 

そう言って、ロゼは腰に納められた二本の短剣に手を添える。

 

「それで、結局その『ランゲツ流』ってのはなんなんだ?」

 

疑問を口にする晴人にムルジムが返答する。

 

「その昔、異大陸からこの大陸へやってきた剣士が使っていた剣術。それが『ランゲツ流』よ。1000年以上前、この大陸がグリンウッドと呼ばれるより以前に存在した『ミッドガンド王国』の大貴族に腕を買われて拾われた彼は、その恩義に報いる為に仕え続けたの。それ以来、ランゲツ家は代々その貴族の懐刀として重用されていたわ。赤毛のお嬢さんが使った技は『ランゲツ流』の『裏芸』ね」

 

「『裏芸』?」

 

「ランゲツ流は『表芸』と呼ばれる大太刀による一刀流と、小太刀の二刀流による『裏芸』があって、当主を継ぐ人間は『表芸』を、それ以外の人間は『裏芸』を伝授されるの」

 

「んー……よくわかんないんだけど、なんで二つに分けるの?」

 

「大太刀による戦いの弱点の問題かしら」

 

そのムルジムの言葉にアリーシャが反応する。

 

「得物が長く大振りな分、懐に飛び込まれると戦い辛い……という事でしょうか?」

 

自身も長物である槍を得物としているからかアリーシャはそう答える。

 

「正解よお姫様。その大太刀の弱点を当主が克服する為の修行相手として、ランゲツ流には小太刀二刀流の『裏芸』が存在するの」

 

「へー、私の習った剣技にそんな歴史がねぇ……でも猫さんはどうしてそのランゲツ流の事を態々アタシに聞きに来たの?」

 

ムルジムの説明に関心すると同時に、ロゼは何故ムルジムがランゲツ流の事を自分に聞いてきたのかと問う。

 

「そうね……もう見れなくなったと思っていたものがもう一度見れて気になったから……かしら?」

 

どこか懐かしそうなムルジムの声音に、アリーシャが問いかける。

 

「……ムルジム様はランゲツ流に何か御縁があったのですか?」

 

「剣術というよりかは、当主の人間の方にね……昔、助けて貰ったのよ」

 

「そうなのですか……きっと良い方だったのでしょうね」

 

アリーシャのその言葉にムルジムは苦笑する。

 

「貴女が想像している様な良い人とはお世辞にも言えなかったかしら。でもそうね……裏表の無い、楽しそうに笑う自由な人でね……私にとっては恩人だったわ」

 

昔を懐かしむかのように瞳を閉じるムルジム。

 

「天族として永く生きているとね……色々な物が忘れられて失われて行くのをみる事になるわ。それは寂しくて悲しい事よ。だけど……」

 

ムルジムはロゼに視線を向ける。

 

「どんな形であれ、人間は生み出した物を未来へと遺し繋いでいくわ。例え短い時しか生きる事が出来なくても人間はそうやって自分の生きた証を刻み付けていく。私はそれが守る価値のある素晴らしい物だと思うの」

 

その言葉と共にムルジムから輝きが放たれる。

 

「ペンドラゴの加護が……」

 

一同はペンドラゴに展開された加護領域の復活を感じ取る。

 

「貴女達が枢機卿の穢れを完全に浄化してくれて、教会に溜まっていた穢れも消失したわ。お陰で私はこれからも、このペンドラゴを見守っていける。本当に感謝するわ」

 

そう言い再び感謝を告げたムルジムにエドナが問いかける。

 

「いいのかしら? いくら天族への信仰が続いているペンドラゴでも、また何かの切っ掛けで今回みたいな事になるかもしれないわよ?」

 

そう問いかけたエドナにムルジムはそれでも迷わず告げる。

 

「関係ないわ……猫は気の向くまま自由に生きるものよ……だから私はこれからもこの街を見守っていくわ……大切な思い出を忘れないようにね……」

 

そう言ってムルジムは踵を返し出口へと向かい、最後にもう一度だけ振り返る。

 

「ありがとう赤毛のお嬢さん。貴女のお陰で久しぶりに『彼』の事を思い出したわ」

 

「えーっと……よくわかんないけど……どういたしまして?」

 

ムルジムの語る『彼』が誰の事なのかわからないロゼは、首を傾げながらもその言葉を受け止める。

 

それを見たムルジムは、どこかに嬉しそうに軽い足取りでその場を後にする。

 

スレイ達がそんなムルジムの後ろ姿を見送る中、少し離れた場所で壁に寄りかかっていたザビーダの隣に晴人が歩み寄る。

 

「なんか不思議な人……もとい不思議な猫だったな」

 

「ムルジムは昔に色々あったからなぁ……天族の中でも人間ってやつに結構思い入れがあんのさ」

 

「1000年前ねぇ……俺からしたら想像も出来ない話だ」

 

「ま、俺たちと同様、アイツにはアイツなりの流儀があるってことさ」

 

そう言って話を締めくくろうとするザビーダだが……

 

「……今回は悪かったな」

 

「あ?」

 

晴人の言葉にザビーダは顔を顰める。

 

「ジークフリートの弾丸……あの時使わせただろ?」

 

アンダーワールドでの戦いを思い出しながら晴人は問いかける。

 

「なんだよ急に?」

 

「ジークフリートの弾丸は残り少ないって前に言ってたろ」

 

「まぁ、そうだが……お前さん達からしたら寧ろ弾切れになってくれた方が都合が良かったんじゃねぇの? 俺がジークフリート(コイツ)で憑魔を殺すのはお前だって反対だったろ?」

 

「あぁ、けど……俺はお前がジークフリートでケリをつけなきゃならない『約束』ってのがなんなのか知らない。お前にとってその『約束』どれだけ重くて大切なのかも含めてな……何も知らないで頭ごなしに否定する事なんてできないだろ?」

 

「…………」

 

晴人の言葉をザビーダは黙って受け止める。

 

「だから謝っておく。どんな形であれ、俺の流儀に付き合わせてお前に弾丸を使わせた事はな……」

 

操真晴人は『死による救い』というものを否定しない……否、出来ない。

 

____『このまま、静かに眠らせて……それが私の……『希望』……!』____

 

彼の大切な人は、安らかな死によって救われたから。

 

そんな晴人の言葉をザビーダは険しい表情のまま無言で受け止め……

 

 

 

 

 

「くくく……!!」

 

いきなり笑い出した。

 

それを見た晴人は目を丸くする。

 

「クックックッ……お前って普段はおちゃらけてる割にそういうところ結構律儀だよなぁ」

 

「茶化すなよ。こっちは真面目に……」

 

「わかってるよ」

 

そう言ってザビーダは晴人を真っ直ぐに見据える。

 

「『殺す事で救われる奴もいる』。前にも言ったが、そこに関しちゃ俺も別に考えを変えた訳じゃない……だがな」

 

晴人はザビーダの視線から目を背けずにその言葉を受け止める。

 

「『生きる事を諦めない』その先で救われる奴もいる。あの時、お前を見ていて『もう一度』そう考えさせられちまった……だからあの時、俺はお前の言葉に賭けたんだ」

 

楽しげに笑いながらザビーダは言葉を続ける。

 

「そんで、お前らはきっちり枢機卿を救い出した。だからあの時の弾丸は無駄弾なんかじゃねえよ」

 

そう言ってザビーダは握りこぶしで軽く晴人の胸をトンと叩く。

 

「だからまぁアレだ……もしも俺が『約束』をしくじったら。そん時は頼りにさせて貰うぜ?『希望の魔法使い』さんよ」

 

その言葉を受け晴人もまた微笑み返答する。

 

「ふっ……わかった。お前が俺を信じてくれる時が来たなら、俺がお前の希望になるさ」

 

そう言って笑い合う2人。

 

 

「……何も知らない癖に」

 

「エドナ様?」

 

そんな2人の会話を見つめるエドナの口から溢れた小さな声。

 

偶然にその声を拾ってしまったアリーシャは、エドナに視線を向ける。

 

アリーシャの瞳に写ったエドナの表情。普段はどこか面倒そうな脱力した表情や相手を揶揄う様な笑みを浮かべている事の多い彼女の表情に、明らかな動揺が見えた。

 

「(あの表情……ドラゴンの事を話している時と同じ……)」

 

訝しむアリーシャだが、ザビーダが口を開いた事でその思考は遮られる。

 

「なぁ、導師殿。ひとつ提案があるんだけどよ」

 

「ザビーダ? どうかしたの?」

 

突如話しかけられたスレイは、どうしたのかとキョトンとしながらも問い返す。

 

「あー、まぁ大した事って訳でも無いんだがよ。陪神契約をする余裕はまだ残ってるかい?」

 

その問いかけにスレイ達は驚いた表情を浮かべる。

 

「随分と突然の提案だね。以前はスレイの陪神にはならないって言っていたじゃ無いか。一体どういう心境の変化だい?」

 

嘗てレイフォルクで言われた事を思い出し、訝しげに真意を問うミクリオ。

 

「別にそんなご大層なもんじゃ無いさ。ただ今回の枢機卿との戦いでここにいる連中は殺す以外の方法で事件を解決しただろ。甘ちゃんなりに結果出して筋は通したんだ。俺だってそこは認めるさ。それに……」

 

ザビーダはアリーシャへと視線を向ける。

 

「アリーシャが今後、枢機卿との戦いで見せた力を使うには現状、属性が一致してるライラがフォローする必要がある。となると俺様は手持ち無沙汰だ。そのままじゃあ浄化の力を持たない俺様はお荷物になっちまう。てな訳で正式に導師殿と契約したいって訳さ」

 

その言葉を受けてライラが反応する。

 

「スレイさんの導師としての資質は私が知る限りでもとても高い物です。陪神を受け入れるだけの余裕はまだありますが……」

 

そう言ってライラはスレイへ問う様に視線を向ける。

 

「……ザビーダはまだ『アイゼン』を殺すつもりでいる?」

 

静かにそれでいてハッキリとスレイは問いかける。

 

「ッ!!」

 

その言葉にアリーシャの隣に立つエドナが一瞬、ビクリと身体をを震わせる。

 

晴人、アリーシャ、ロゼ、デゼルの4人は事情がわからずに事態を見守る。

 

「……あぁ、そこに関しちゃ譲れないね。なんせ現状でアイツを救う方法はそれしか無いんだからな」

 

ハッキリとそう言い切ったザビーダに対して、スレイは視線を逸らさずに口を開く。

 

「わかった……今はそれでも構わない」

 

「ほう……物分かりが良くなったじゃねぇの、導師殿」

 

「けど、オレだって諦めない。必ずエドナとの約束を果たして殺す以外の方法で『アイゼン』を救ってみせる」

 

力強くそう言い切るスレイ。

 

それを受けザビーダは呆れた様に小さく笑う。

 

「そうかい、まぁ探すだけならお前さんの勝手だ。好きにすればいいさ」

 

「スレイさん、宜しいのですね?」

 

「うん、頼むよライラ」

 

スレイの言葉を受けライラが向かい合う両者の間に立つ。

 

ライラの口から契約の為の言葉が紡がれ、現れた魔法陣がザビーダとスレイを囲み輝きを増し、そして消えていく。

 

「これで、陪神契約は完了いたしました」

 

「そういう訳だ。そんじゃ改めて宜しく頼むぜ? 導師ど……いや、スレイ」

 

「わかった。宜しくザビーダ」

 

そう言って2人は握手を交わす。

 

「これで陪神の天族は4人か……随分と大所帯になったもんだ」

 

「そういうアンタは気合入れないとダメなんじゃない? 1人だけ属性が風でダブっちゃってるし、気を抜いたら補欠落ちだよ?」

 

「ハッ! 『ただの商人』に補欠落ちを心配されるとは俺もヤキが回ったな」

 

「あ!? 何さ! 人が地味に気にしているプロフィールの格差をズケズケと!!」

 

いつもの様に言い合いを始める2人。

 

「まーた始まった」

 

「ま、まぁアレがあの2人なりの距離感なんだと思う」

 

そんな2人を見守る晴人とアリーシャは苦笑するが……

 

「アリーシャ姫、導師スレイ。ライト陛下が参られました。部屋に案内致します」

 

訪れた白皇騎士団の騎士により会話が遮られる。アリーシャ達はその言葉に頷くと騎士の後に続く。

 

「セルゲイ団長。導師達をお連れしました」

 

「うむ、入ってくれ」

 

辿り着いた部屋の扉の向こうから返答があり騎士は扉を開く。

 

その先にはセルゲイを始めとする白皇騎士団とリュネット、マシドラが勢ぞろいしている。

 

そして……

 

「貴方達は……?」

 

年齢は十代の半ばと思わしき何処か気品のある出で立ちをした金髪の少年と、それに付き従う執事と思わしき初老の男性がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 




後書き
アマゾンズの所為でウォーターサーバーと耳鼻科と美容院に恐怖を覚える今日この頃皆様はいかがお過ごしでしたでしょうか

ゼスティリアクロスも無事に最終回を迎え、若干の尺不足は感じたものの面白かったですね。特にアリーシャ神衣の太ももが(ry

牛歩更新で申し訳ありません。次回はもう少し早く更新できる様に頑張りたいと思います。

PS さっきまで命だった物が辺り一面に転がる系ジュブナイル恋愛ストーリー『仮面ライダーアマゾンズ シーズン2』絶賛配信中なので面白のでみんな見てね(ダイマ)
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