Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜 作:フジ
今回はちょいとしたおふざけ回をやろうとしましたがクソ長いので分割なのである。では最新話どうぞ
「イェーイ! 終わってみれば全部上手くいって気分爽快大勝利!!」
会談から7日後、アリーシャの屋敷の来客用の大部屋でロゼの声が響き渡った。
「ははは……まぁそうなるのかな?」
「なになにアリーシャ? テンション低いぞ? めでたいんだからもっと盛り上がっていこうってば!」
「そ、そうかな?」
「そうだよ! めでたい時は素直に喜ばないと! はい、せーの!トロピカル☆やっほう!」
「と、とろぴか……?」
ハイテンションのロゼに戸惑うアリーシャ。
そんな2人を見ながら他のメンバーは苦笑する。
「なんであの娘が一番テンション高いのよ」
「まぁ、そこはロゼだし?」
「身も蓋も無いがそれが真理かもね」
「いいんじゃねぇの? 交渉、なんとか上手くいったんだろ?」
「まぁな、これもアリーシャの説得あってこそだ。喜んでもバチは当たらないさ」
そう、結果から言えばアリーシャの提案は評議会の者達から受け入れられたのだ。
「まぁ、あくまでおっかなびっくりな様子見って部分はあるんでしょうけどね」
「賛成した連中も半信半疑ではあるのは代わりない。油断はできんぞ」
エドナとデゼルからは厳しい意見が上がる。
強ちそれは間違いでも無いだろう。
憑魔や天族に関する問題に関してはまだ評議会の者達も半信半疑だ。あくまで自分達が知らない事柄が浮上した事から慎重になったが故の対応とも言えるだろう。
「それでもアリーシャの言葉に耳を傾けてくれるようになっただけでも進展はあったさ。少なくとも停戦に関しては前向きに話し合われてるんだろ?」
「あぁ、その方向で今も評議会では今後に関しての話し合いが行われているよ。あくまで評議会が主体で私は憑魔や天族に関しての知識の提供という形ではあるけどね」
会談から7日、評議会では毎日アリーシャを加えての話し合いが行われていた。天族や憑魔、浄化や加護に関しての知識の無い評議会に対してアリーシャが自身の経験やこれまで得た知識を説明しつつ今後について模索していたのだ。
「あくまでアリーシャ主体では無いんだね?」
「政治の経験は評議会の者達の方が私よりもずっと上手だからね。私自身話し合いの中で学べる事も多いよ。それに私が主体になってしまえば評議会の中には私が実権を得てしまった事への警戒が大きくなる者もいるだろう。私の意志に関わらず場合によっては私の発言が報復や脅しを示唆するものかと受け取ってしまう者もでてくるかもしれない。だからこそ私自身、立ち回りの距離感には注意が必要だと思う」
「ふん……アンタも優等生ね……元はと言えば仕返しされるような事に身に覚えのある真似したあの連中が悪いんじゃない……」
アリーシャの言葉にエドナは評議会に対しての嫌悪感を露わにする。その言葉にアリーシャは困ったように苦笑いを浮かべる。
「まぁまぁエドナちゃん……アリーシャがイジメられてたのに頭にきてるのはわかるけど本人が穏便にって言ってる訳だしさ」
「……は?」
「……え?」
「別に心配とかしてないわよチャラ男二号。私はただああ言う手合いが嫌いなだけだから余計な解説しないでくれる?」
「あー……うん、わかったそういう事にしておく」
ぷいと視線を外して顔を背けるエドナに晴人をはじめとした一同は苦笑いを浮かべる。
そんな時に別の人物から声が上がる。
「で? ランドンのおっさんはいつまで黙ってるつもりなんだ?」
一同が視線を向けた先にはランドンと木立の傭兵団団長のルーカスが立っている。
だがランドンはむっすりした表情のまま言葉を発しない。
「……師団長さんはどうかなさったんでしょうか? さっきから言葉を発しませんが」
「もしかして何か怒らせるような事しちゃったかな?」
「わ、わかりません。もしや私が何か……」
ライラ、スレイ、アリーシャが顔を寄せ合いどうしたものかも話し合う。そんな光景に晴人は苦笑いしながら口を開く。
「いや、多分あれはあの会談の時に『後は任せたぜ』的な感じでもう会えない覚悟で立ち去ったのに思いもよらずお咎め無しになってしまって、後になって顔合わせるのが気まずくなってきた的なやつだと思う」
そう、意外な事にランドンの処遇はマティアの口添えにより軽いものとなり今後も憑魔への対策に関して関わり続ける事となったのだ。
「おいやめろソーマハルト……」
ランドンから弱々しく声が発せられる。
「そんな事で恥ずかしがるなよ。あのマティアって大臣がこっちに賛同してくれたのはアンタの助力がデカいんだ。あんたが無事に済んだ事を喜んでも揶揄う奴なんて居やしないさ」
「その通りですわ師団長さん」
「……だが導師達からすれば私といるのはあまり良い気はしないだろう?」
何せ以前アリーシャを人質にしてスレイを脅す役割を実行したのはランドンなのだ。
その事に負い目があるのか険しい表情で言葉を零すランドンだが……
「それでもその後アリーシャに協力してくれたのも師団長さんだよね? オレは感謝してるよ、アリーシャの力になってくれた事。だからアリーシャが気にしてないならオレはもう気にして無いよ」
そう言って笑みを浮かべるスレイにランドンは毒気を抜かれた様に目を丸くする。
「ははは相変わらずだなスレイ!」
そんな光景にルーカスは笑い声を漏らすが今度は逆にスレイがなんとも言えない表情を浮かべる、
それに対してルーカスは表情を引き締めると頭を深々と下げた。
「ルーカス!?」
その行動にスレイは驚くが……
「戦場では悪かった! 助けて貰ったってのに礼の1つも言わずにビビっちまって!」
「え……」
「ずっと言わなけりゃと思ってたんだよ。命の恩人に対してあんな真似しちまった事。あの時、お前の力を見て、俺は情けねぇ事に敵よりもお前にビビっちまった。本当にすまねぇ!」
「いや、でもそれは仕方な……」
「仕方なくねぇ!」
「ルーカス……」
「許して欲しいとは言わねぇさ。だがよ、ここで何もしないなんざ木立の傭兵団の名が廃る。これからは俺もランドンのおっさんと一緒にお前らに協力させてもらうぜ」
「ううん、そんな事ないよ。ありがとうルーカス、頼もしいよ。でも傭兵団はいいの?」
「心配すんな。今回正式に俺達はハイランド王国に雇われた。憑魔による被害の調査には人手が必要だからな。ランドンのおっさんもマティア大臣から『お前を遊ばせておく余裕は無い』って言われたとよ」
その言葉にロゼが反応する。
「そう言えば結局私達は今後どうする訳?」
その問いかけにランドンが口を開く。
「評議会では今後も憑魔への対策や停戦へ向けた話し合いが行われているが姫と導師には主に2つの役割が任されるだろう」
「その役割ってのは?」
「1つは各地で発生する憑魔の被害に対する対応。こればかりは浄化の力を持つものにしかできないからな。情報収集は我々が行うが要請があった場合は現場に向かって欲しい」
ランドンの言葉に続きアリーシャが説明を引き継ぐ
「そこに関してはローランスのライト陛下からも同様の事を言われています。なので我々は状況次第でハイランドとローランスを行き来する事になりますね」
「既にローランス、ハイランドで連絡を取り合い近いうちに導師スレイに国から正式に『導師』の称号を贈る事になった。そうなれば特別に両国での活動の許可が与えられる事になるだろう」
その言葉にスレイは困った様に頬をかく。
「うーん……俺は別にそういう称号とか無くても導師として働くよ?」
そんな彼にルーカスが口を開く。
「スレイ、面倒かもしれないが人間の世の中ってのはそういう役職やら手続きみたいな順序だてたやりとりが必要なんだよ」
「まぁ、一種の保証と契約の様なものだ。導師からすれば導師としての活動は善意からのものなのだろうが、そういう一方的で不確かなものは政治に関わる者達からすれば信用し辛いのだ。だからこそ正式に『導師』という役職と協力という形でそちらにメリットを与える事で安心を得たいのだろう」
一方的な無償の奉仕というものは時としてそれを受ける側が不安に感じるもこともある。メリット、デメリットを計算して生きている者の中には何かを与え対等となる事で安心できる者もいるのだ。
「まぁ商人してる身としては分からなくも無いけどね。美味しすぎる話しは逆に疑っちゃうわけさ。こっちも損得勘定で回ってる業界だしね?」
「そういうものかな?」
「そういうものなの。後はイメージ戦略じゃない? 導師と対立してる状態でスレイが活躍しちゃったらスレイの人気だけ上がっていく一方で邪魔する評議会の人気はますます落ちるでしょ? ならいっその事、活動をサポートする協力体制を組んで『私達は仲良しでーす!』ってアピールすればスレイの活躍で協力してる評議会のイメージも良くなるって寸法よ」
「なるほど、色々な見方があるんだね」
そんな人間達の思惑を聞かされても不快感を見せず勉強になったと頷くスレイ。そんな光景を見て晴人が口を開く。
「正式に国に認められて活動できるって事はこれまでみたいにコソコソして活動しなくていいし情報が集まりやすいのは便利だが色々気を遣う事になりそうだな」
「実際そうなると思う。何せローランスとハイランドの双方に気を配って立ち回らなくてはならないからね。どちらかを疎かにしてしまえば不信に繋がりかねない」
「状況によっては二手に分かれてとかもあり得るかもな、俺とアリーシャとザビーダなら別行動もできるだろうし」
「それも状態次第では必要ではあるがあまり多様するべきでは無いだろう。ハイランドとしてはやはり導師の動向にはかなり敏感になっている。それでも導師の行動に対して強く干渉して来なかったのは姫が導師と共に行動する事でパイプ役となってくれているという面が大きいからだろう。そういう事もあり今後も姫には導師と共に行動して欲しいという事だ」
そういうランドンの言葉に晴人は大きく溜息をつく。
「なかなか窮屈なもんだな。国のお抱えになるってのも」
「そういうハルトはどうだったの? 元いた場所でも魔法使いとして戦ってたんでしょ?」
「俺はあくまで人知れずって感じだったからなぁ……国の組織に所属している仲間もいるけど俺自身はそうじゃなかったし、精々都市伝説やら噂話にされる程度だな……っと、話が脱線したな。で? もう1つの役割ってのは?」
その問いかけにランドンは口を開く。
「もう1つはやはり災禍の顕主に対してのものだ。出現した場合の対処は導師達にしかできんからな」
「はい……ですが……」
ランドンの言葉に言い澱むライラ。その意図を察してランドンは言葉を続ける。
「姫から聞いた話によると現状では太刀打ちできるか難しいのだったな。だが、導師の試練というものがあるのだろう? それが導師やソーマ・ハルトの戦力の強化に繋がるとも聞いている。可能ならばそちらを優先して災禍の顕主に対する備えとしたい」
「ま、それがベストだよな」
「現状ではヘルダルフの領域の中でまともに活動できるのはハルトだけだ。万全を期すにはやはりスレイの成長とハルトの失った力を取り戻すというのが今取れる最善の対策だと思う」
ランドンの言葉に晴人とアリーシャは頷く。
「ハルトが力を取り戻せばアリーシャも実質パワーアップだし一石三鳥だしね!」
「いやロゼ……それは……」
そう明るく言うロゼだがアリーシャはなんとも言えない表情を浮かべる。それを見てライラが口を開く。
「アリーシャさんは私と同様に他の天族の方達が人々に見える様になる事を心配なさっているのですね?」
「……はい。そういった事はやはり本人の意思を尊重すべきかと……」
そう言ってアリーシャは一瞬エドナへと視線を向ける。人間に対して複雑な感情を抱えてる彼女の様に人に視認される様になる事を望まない者がいるかもしれないと彼女は気遣ったのだろう。
それを察して晴人、ライラ、スレイが口を開く。
「ま、そこに関しては追い追い考えようぜ。まだ力だって取り戻しちゃいないんだしな」
「そうですわね。取らぬ狸のなんとやらと申しますし」
「えぇっと、残りの試練神殿の場所ってどこにあるんだっけ?」
その言葉を受けてアリーシャは過去のザビーダの言葉を思い出す。
「ザビーダ様が仰るには地の試練は『アイフリードの墓場』、風の試練は『ウェストロンホルドの裂け谷』にあり詳しい場所も把握しているとの事です」
その言葉にランドンは渋い顔をする
「どちらもローランス領か……すぐにでも向かわせたい所だが導師が自由に行き来できるまでにはまだ時間が掛かる。正式に両国に協力する立場となった以上、迂闊な真似はできん。悪いがもう少し待ってほしい……」
「となると残るは水の試練か……」
「ハイランド領のレイクピロー高地にあるというのはハッキリしているが……」
現状自由に活動可能なハイランド領に存在する試練神殿は水の試練だが正確な所在地がハッキリしていない事に一同は表情を険しくする。
「ザビーダ、何か知らないのか?」
「悪いが水の試練に関してはさっぱりだ」
「使えないわねロン毛。なんでよりにもよって一番欲しい情報を持ってないのよ」
お手上げポーズを決めるザビーダに毒を吐くエドナ。
「というかそもそもなんで風と地の試練の場所は知ってたのさ?」
「ん? まぁ、仮にも自分の使う属性と関わってるからな。ちょいと気になって調べてた時期があったのさ」
「ん? じゃあ地の試練は?」
「昔つるんでたダチが地の天族だったのさ。だからついでに調べてたんだよ」
「……ッ!」
さらっと告げたザビーダだがその言葉にエドナは一瞬表情を硬ばらせる。
「レイクピロー高地か……わかった。こちらでも調査を始めよう。情報は集まり次第伝える。来いルーカス」
一方でランドンはそう言って踵を返して出口へと向かう。
「え? それならオレたちも……」
そう言ってスレイは呼び止めようとするが
「先ほども言ったが情報集め程度ならこちらでもできる。無論そちらの行動を強制するつもりも無いが今日くらいは休んでおけ。連日の会議で姫も疲れている筈だ」
「そう言う事だ。これまで行ったり来たりで大変だったろ? 今日くらいは肩の力を抜いておきな」
そう言って2人は部屋から去って行った。
「気を遣わせてしまいましたわね」
「まぁいいんじゃないか? 確かにアリーシャはずっと評議会で会議に参加してたし俺達も評議会が俺達の扱いを決めるまでは下手に動けないからアリーシャの屋敷に篭りっぱなしだったからな。今日くらい羽を伸ばしても」
「そうですわね。それでしたら私は教会のブルーノ司祭に会ってこようかと思います」
ライラの口から出た名前に晴人は首を傾げる。
「えぇっと……誰だっけ?」
「そう言えばハルトは会ったこと無かったね。まだハルトとアリーシャが出会う前の話だし」
「ブルーノ司祭は教会の中でも信仰心の高い方でレディレイクの加護を蘇らせた際に加護天族のウーノ様を祀り信仰を集め加護を維持するのに協力してくれているんだ」
そう説明するアリーシャにライラは頷く。
「えぇ、ですから良い機会ですので一度お話してこようかと……天族への信仰と理解のある方ですし協力してくれたお礼も直接伝えたいので」
「なるほど……あれ? そう言えば結局、天族や憑魔に関しては街の人達にはどれくらい話される事になるんだ?」
評議会が天族や憑魔に関してある程度認めてくれた事からその情報がどれだけ開示されるのか疑問に思った晴人はアリーシャに問う。
「天族や憑魔に関しての詳細はまだ評議会や今後の対応にあたる一部の関係者にのみ伝えられる事に留まっている。ただでさえ天族や憑魔の持つ力というのは超常的なものだ。加えて目に見えない憑魔の脅威というのは恐怖や混乱を招く事になるだろう。下手をすれば情報が錯綜し民の間で疑心暗鬼による魔女狩りが起きる可能性もある」
「天族に関しても理解は薄いからねぇ……なんでも叶えてくれる神様かなんかみたいに誤解されようもんなら姿が見える様になったライラにそういう奴が殺到してきちまうかもしれねぇぜ? それに天族の中には人間に対して良い感情を持ってない奴も少なく無いんだよ」
アリーシャとザビーダの言葉に晴人はなるほどと納得する。
「だから情報を急に明かしたら混乱は避けられない、先ずはゆっくりと土台作りからってわけか」
「そういうこった。人間と天族の関係に関してはゆっくり進めていくしかないだろうさ」
「教会は? そこら辺の事、協力してもらえるのか?」
その言葉にアリーシャは頷く。
「現状ではナタエル大司教に関してはマティア大臣と同様に協力的な立場を取ってくれています」
「ま、当然よね。教会の信仰対象の天族が目の前に現れたのだもの。今までみたいに適当な事言って美味い汁だけ吸おうなんてライラ本人の前で仮にも教会関係者が大手を振ってやれる訳無いわ。ざまーみろってのよ」
「あ、あははは……まぁ、それでも協力してくれてる訳なんだし程々にねエドナ?」
毒を吐くエドナに苦笑いを浮かべるスレイだが一方でミクリオは表情を険しくしアリーシャに問いかける。
「アリーシャ、バルトロはどうなんだ?」
その言葉にアリーシャは表情を暗くした。
「最初の日以降、バルトロ大臣は会議には参加していません。体調が優れないとの事でシモン博士が会議での内容を伝えてくれています。今の所は停戦に関して反対したりはしていませんが……」
「口には出してこないが現状には不満タラタラってわけか……」
ザビーダがやれやれと言うように溜息を吐く。
「正面から文句を言ってこないって事は少なくとも理屈の上ではアリーシャの言い分の正当性は理解できてる筈だが……」
「それとは別にプライドの問題って事でしょ……理屈抜きにアリーシャに言い負かされたのが気に入らないのよあの手の手合いは」
「やはり私が原因なのでしょうか……」
責任を感じてか思いつめた表情を見せるアリーシャだがそれをみた晴人とロゼが口を開く。
「世の中いろんな奴がいるもんさ。何でもかんでも自分を責めるもんじゃない」
「同感、あの大臣だって頭を冷やせばその内出てくるでしょ。今はそっとしておきなって。こういう時は前向きに行かないと! あ! そういえば私の考えた演出どうだった?」
『演出?』
ロゼとライラを除く面々から疑問の声が溢れる。
「そ、評議会でライラが登場する時の演出考えたんだけど反応どうだった?ほら私は評議会に一緒に行かなかったじゃん?」
そう言えば評議会でライラが現れる際に炎を使ってやけに派手に登場したなと一同は思い出す。
「なんか派手に登場したと思ったけどアレ、ロゼの案だったんだ」
「商売もそうだけど何事も最初の掴みって大切じゃん? だから一発で天族だってわかりやすいようにしてみたんだけど」
「まぁ確かにあの登場はインパクトあったかもな。評議会の連中からも天族って事を疑う声が挙がらなかったし」
「でしょでしょ! いやー!苦労したんだからアレ考えるの! 神秘的な登場を演出したかったのに中々ライラが自分の案を曲げてくれなくて」
「ろ、ロゼさん!?」
急にあたふたし始めるライラに一同は興味本意でロゼに質問する。
「自分の案って……ライラは何を言ったの?」
「それがさぁ……『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃ〜ん』とかなんかそんな台詞ばっかりで……」
『…………』
その言葉に一同は黙り込む。まぁフレンドリーと言えばフレンドリーだろうが神秘性と説得力などカケラも残さず霧散するだろう。
「まぁ、なんというか……」
「ライラらしいと言えばらしいけど……」
「……センスが」
「ガーン!?」
「いや、だからライラ……そういうリアクションが古いんだってば」
「ふ、古っ!?」
いつぞやのやり取りのリプレイの様な一同からの言葉にショックを露わにするライラ。
「ら、ライラ様!? 私は悪く無いと思いますよ!? そ、その……親近感が持ち易いですし!」
床に手をつき凹むライラに対してアリーシャは慌ててフォローしようと声をかけるがその言葉を聞いたライラが突如目にも留まらぬ速さで両手でアリーシャの手を掴む。
ビクゥ!? と体を硬ばらせるアリーシャだがそんな彼女に俯いていたライラは顔を上げる。
「本当ですかアリーシャさん!」
「は、はい! ライラ様らしくて良いかと……」
目をキラキラと輝かせながら問いかけてくるライラにしどろもどろになりながらも答えるアリーシャ。
だが、その言葉が藪蛇だった……
「嬉しいですわ! そう言ってくださるのはアリーシャさんだけです! は!? そうですわ! それでしたら私とアリーシャさんが融合した時の決めセリフを一緒に考えてみましょう!」
「…………へ?」
その言葉にアリーシャの笑顔が引き攣った。
「あ、あのライラ様? 何故そのような結論に?」
「私のセンスが古いというみなさんのイメージを払拭するチャンスです! これからは私とアリーシャさんも一心同体で戦っていく為にも気持ちを引き締める決め台詞が必要な筈ですわ!」
「な、成る程……」
「それに実は私、前々からハルトさんみたいな決めセリフというのをやってみたかったんです!」
その言葉に一同の視線が晴人向けられる。
「え……何? 俺?」
いきなり注目を浴び固まる晴人。
「そういやお前って決めセリフ毎回言ってるよな」
「『変身!』とか『ショータイムだ!』とか『フィナーレだ!』とか『俺が最後の希望だ』とかね」
「別にいいだろ。一種の宣誓というか気合い入れてる様なもんなんだから……というかみんなだって技の名前とか叫んでるだろ。それと似たようなもんだって」
「いや、俺たちのは詠唱だし」
「天響術以外の時も叫んでるだろ」
「そこはまぁ……伝統におけるお約束ってやつだよ」
「なんだよその伝統って……」
「男が細けぇ事をウダウダ言うなよハルト」
「いや、この話題振ってきたのお前だからな?!」
軽口とツッコミの応酬を繰り返す晴人とザビーダだがそんな2人にエドナが呆れた様に声をかける。
「別にどーでもいいけど……アレ止めなくていいわけ?」
その言葉に視線を戻すとその先では目を輝かせたライラに早口で色んな台詞案を出されて詰め寄られ、困った様に視線で晴人に助けを求めるアリーシャの姿があった。
「困ってるみたいだぜ? ここはひとつ助け舟をだしてやれよハルト先生?」
「丸投げかよ……というかあの話題に対して俺にどうしろと?」
「そこはまぁアレだ。決め台詞の先輩としてひとつふたつ案を出すとか?」
「なんだよ決め台詞の先輩って……」
「だから細けぇ事は気にすんなって、ほれ、早く止めないとアリーシャの奴は断りきれずに今出たライラ案の『月に代わってお仕置きよ』が採用されちまうぞ」
「この野郎……他人事だと思って……」
暴走し始めたライラを止めろと急かしてくるザビーダに晴人は呆れた様にため息を吐くが……
「ら、ライラ様!? やはりそういうのはいうのは慣れていない私達よりも言い慣れてるハルトから助言を貰うべきなのでは!?」
「たしかに一理ありますわね」
「え」
アリーシャが発した言葉にライラの矛先が変更された事に今度は晴人の表情は引き攣る。
アリーシャは申し訳なさそうにこちらを見ており責める気にはなれないのだがいきなり話題を振られれば晴人とてポンと決め台詞が出てくる様な人間という訳でも無い。
ライラから期待の視線を受けながらも言い淀む晴人。
「(決め台詞ねぇ……こうやっていざ振られてみると中々出てこないもんだな……あっ、そうだ)」
さてさてどうしたものかと悩んだ末、晴人は自分の知り合いである他の戦士達のものを参考にすれば良いのではという考え至る。
「(女の子の戦士で思いつくといえば真由ちゃんか……)」
『稲森真由』、晴人と同様に絶望を乗り越え魔法使いである『メイジ』として共に戦った者達の一人であり頼りになる仲間なのだが……
「(いや……でも真由ちゃんの決め台詞はアリーシャには似合わなそうだよなぁ……)」
___『さぁ、終わりの刻よ!』___
普通の高校生だった筈が魔法使いになり戻ってきてからはわりとノリノリでポーズを決め、キメ台詞を言うようになっていた彼女だがどうにもアリーシャがいう姿を想像するとしっくりこない。
というか賭けてもいいが確実に似合わない。
「(他に女の子は……『フォーゼ』の知り合いの『なでしこ』とか……)」
かつて強敵である『アクマイザー』との戦いで共闘した戦士『フォーゼ』の仲間の一人を思い出す晴人だが……
「(いや、そもそもアリーシャがアレ言ったら意味わかんないな)」
___『宇宙キター!』___
どうあがいてもアリーシャが宇宙と関わる事は無いだろうとこの案もボツにする晴人……
「(まずい……はやくも女の子の模範例が尽きそうだ……何かないか……何か……)」
記憶を強く探り何かないかと答えを手繰り寄せようとする晴人。
そして記憶から引き出された決め台詞は……
___『そうよ! 私が噂の魔法少女ビースト!(裏声)』___
「魔法少女……うっ……頭が……」
「なぁミクリオ……何かハルトが考え込みはじめたと思ったら苦しみ始めたけど大丈夫かな」
「わからない……魔法少女とは一体……」
戦友のとある珍場面が頭をよぎり頭を抑える晴人。それを見てスレイとミクリオが冷や汗を流す。
「(なんでアレを思い出した俺! いろんな意味でアレだけは無いだろ! というか女の子ですら無いじゃんか!)」
晴人は頭を振り再度思考の海へと意識を沈めていく。
「(集中しろ俺……余計な事は考えるな! 女の子だ!……決め台詞を言う女の子……)」
これでフィナーレだと決意を改め記憶を探る晴人……そして彼はある人物を思い出す。
___『愛ある限り戦いましょう! 命燃え尽きるまで!』___
とある人物のアンダーワールドで出会った美少女ヒーロー。
可憐で可愛らしく文字通り『美少女』を自称しても差し支えない容姿であり現実世界での再会を約束した人物。
そして___
___『約束を破るなんてミッ○マングローブが許してもマツ○デラックスが許さないわよ!』___
帰還した現実で待ち構えていた『美少女戦士』の『衝撃の事実』を思い出して晴人は膝から崩れ落ちた。
『えぇ……』
トラウマによる精神ダメージにより突如膝から崩れ落ちた晴人に一同の若干引き気味で困惑の声が見事にハモる。
「『美少女戦士』……『ポワトリン』……うっ……頭が……」
「いやどんだけ頭痛くなるんだっつの」
「美少女戦士って言葉にトラウマでもあんのかアイツ」
「ちょっと、ライラ?チャラ男2号がトラウマ抉られてるわよ」
「えぇ!? 私のせいですか!?……でも美少女戦士……少し素敵な響き……」
「うっ……!」
「あぁ!嘘ですわハルトさん! すいません!この話は終わりにします! しゅーりょーですわ!」
苦しむ晴人にライラも罪悪感を覚えたのか決め台詞の話題を自ら打ち切る。
「あぁ……嫌なもん思い出した……」
「おやおやハルトォ……女にトラウマとはお前さんも割と遊んでる口か?」
「……女の子ならどれだけ良かったか」
「は?」
「いや、なんでも無い……」
「お、おう、そうか……」
げっそりした表情の晴人に揶揄う様に話しかけたザビーダだが弱々しい反応に流石に表情を痙攣らせる。そんな彼から視線を外した晴人だがその先には……
「…………むぅ」
「あー……アリーシャ? どうしたんだ?」
ジト目でむくれたアリーシャから向けられた視線が晴人を待ち構えていた。気のせいか他の女性陣からの視線もどこか冷たい。困惑しどうしたのかと問いかける晴人だが……
「……ハルトは魔法少女や美少女戦士なる女性達とどういう関係なんだ?」
「……はい?」
「ザビーダ様の言う通り実は結構遊んでいるのか?」
「…………」
その言葉を聞いた晴人の動きは速かった。
ザビーダの首に肩を組む様に手を回すと一同から距離をとり背を向け小さい声で語りかける。
「おい! どうすんだ!?俺の評価がお前の軽口で音を立てて崩れてるんだけど!?」
「悪い悪い……そうだよなぁ……ウチの女性陣はそういうジョーク通じなさそうだよなぁ……恋愛経験無さそうだし」
「どうすんだよこの居た堪れない空気!」
「あー……ワリィ流石に悪ノリが過ぎたか」
そんなやりとりをする繰り返す二人に背後から声がかかる。
ゆっくり振り返る晴人の視線の先にはやはり先ほどと同じようにむくれているアリーシャがいる。その視線に表情を引きつらせた晴人が下した決断は……
「……あー!そうだ!スレイ! この後暇か!?」
戦略的撤退だった。
「え? この後? 特に予定はないけど?」
突如話題を振られて困惑しながらもスレイは質問に素直に答える。
「なら丁度いいな。ほらこの前俺のバイクに乗ってみたいって言ってたろ?」
その言葉にスレイの目が子供の様に輝く。
「え!? もしかして!」
「おう、折角の貴重な自由時間だし乗り方教えてやるよ」
「やった!実はオレ楽しみにしてたんだ!ハルトのバイクに乗れるの!」
そう言って笑うスレイに晴人もそれが微笑ましいのか小さく笑みを浮かべる。
「なぁミクリオはどうする?」
「僕もあの乗り物には興味がある。参加してもいいだろうか?」
「あ、それなら俺も参加しようかねぇ。お前もどうだデゼルよお。なんかこの前興味ありそうだったろ」
「……いいのか?」
「遠慮しなくいいさ、賑やかなのは嫌いじゃない」
「そうか……」
晴人の言葉にデゼルは小さく微笑んだ。
「よし!そうと決まればとっとと行くとしようぜ! 何せ人数多いしな」
流石に先ほどの発言は悪かったと感じているのかザビーダは晴人をフォローする様にそそくさと男性陣を連れて外に出て向かう。
「じゃ、そういう訳だから夕食までには戻るから」
「ミク坊はフラついて事故んないように気をつけろよ」
「前にも言ったが足くらい地面に届く! そこまでチビじゃ無いと言ってるだろ!?」
ガヤガヤと騒ぎながらも男性陣は素早く扉を閉め去って行った。
「逃げたわね」
「逃げましたわ」
「逃げたね」
「逃げました」
そんな一連の流れを女性陣はジト目で見送る。
「あんな露骨な話題逸らしに気づかずに乗る辺りスレイの事が少し心配になってきたかも……」
「というかホントああいうの好きよね男共って……まったくガキなんだから……」
「まぁ男性の方は何歳になっても子供らしい所はあるといいますし」
呆れた様子の女性陣だが男性陣が去って行った今こちらも手持ち無沙汰なのか解散する空気となる。
「では私も教会に行ってまいりますわ」
「私は夕食までは部屋で休んでるわ。疲れるのは御免だし」
そう言ってライラとエドナもその場を去って行き残されたのはアリーシャとロゼのみとなる。
「さぁてあたしはどうしようかなぁ」
「ロゼはセキレイの羽の仕事は大丈夫なのか?
「ん? ヘーキヘーキ、あたしはここ数日アリーシャの屋敷にいたみんなと違って外で働いてたし今は特に仕事は無いよ」
その言葉にアリーシャは若干申し訳無さそうに表情を暗くする。それに気がついたロゼは苦笑した。
「そんな顔しなくてもいいって、評議会に従士契約の事を黙っていて欲しいって頼んだのはあたしなんだしアリーシャが気にすること無いんだからさぁ」
「それはわかっているんだが……やはり今回のローランスでの会談の成功したのはロゼの協力も大きかった。だからこそ仲間の一人として紹介したかったと言う気持ちはあるし国として何かしらの形で感謝の気持ちを表したかったんだ。押し付けがましい話なのは承知なのだが……」
そう、帰還した最初の評議会での会談の際にロゼが参加してなかった事には理由がある。それはロゼ自身が従士契約を結んだ事を内密にして欲しいと頼んだ事だ。
彼女はセキレイの羽根という商人ギルドとして活躍している。それが導師の力を分け与えられた従士である事が露見すれば彼女の率いるセキレイの羽根の仕事にも影響が出ると危惧したロゼは自ら会談への参加を辞退し自身が従士である事を伏せる様に一同に頼み、ここ数日はセキレイの羽根として別行動をとっていたのだ。
アリーシャもまた自身の立場や今まで評議会からの危険な妨害の数々を考慮しセキレイの羽根を巻き込むのは悪いとロゼの頼みを受け入れ評議会に対しては従士の事は伏せてあくまでロゼとは商人と贔屓の客の関係を装って接触している。
だがそれでも根が律儀なアリーシャは心のどこかでロゼの協力を公には無かった事にしてしまう事に申し訳なさを感じていたのだ。
「うーん……あたしはあたしの事情で協力してるだけだからその気持ちだけで十分なんだけ……いや待てよ? それなら感謝の気持ちとしてアリーシャにはひと肌脱いで貰おうかな」
「!? なんだろうか! 私にできる事ならなんでもしよう!」
ロゼへの感謝を何かしらの形で表したかったアリーシャはロゼの言葉に飛びつくように反応する。
「ん? いやほら、前にうちのマーボーカレーまんの味に対してのアリーシャのコメントを売るときに使っていいって聞いたじゃん? これからも偶に新商品持ってくるからそれについての評価を聞いてアリーシャが好評だった商品のコメントを売るときに使っても良い?」
「……そんな事でいいのか?」
ロゼの言葉に拍子抜けした表情を浮かべるアリーシャ。
「いやいや物を売るのには結構重要なんだよ? 『あの〇〇も絶賛!』的な謳い文句が生み出す高級感ってさ。……あ、安心して!言ってもいない事を勝手に言った事にしたり無許可でアリーシャの名前使ったりはしないから」
「……まぁ、ロゼがそれでいいと言うのなら私は構わないが」
「やったね! いやぁ、これは思わぬ収穫ですなぁ! ……あ、そう言えばさ、ハルトはどうなの?」
突如ロゼから投げかけられた質問にアリーシャは首を傾げる。
「どう、とは?」
「ほら、スレイは国から正式に導師の称号が与えられるしあたしは今の約束があるけど、ハルトはなんかあったりしないの? ハルトだって活躍したわけなんだし」
その言葉にアリーシャはなんとも言えない表情を浮かべる。
「正直に言えばハルトはかなり難しい立場なんだ」
「難しいって……?」
「彼は元々この国の……いや、この大陸の人間では無い。加えて導師であるスレイの様に第三者の立場でハイランドに協力するのではなく私個人に協力する形で今回のヘルダルフの件に関わっている」
「……やっぱり評議会的にはアリーシャに近い人間って事で警戒されちゃってる訳?」
アリーシャの言葉にロゼは察しがついたのか渋い表情を浮かべる。
「……残念ながらその通りなんだ。評議会としてはやはり私の発言権が必要以上に強まる事には警戒している。ハルトにも導師同様の待遇を与えれば協力して貰ってる私の立場も必然的に更に強まってしまう。だから複雑なんだ」
「まぁでも、ハルトは別にそういうのは欲しがらなそうだけどねぇ」
「私もそう思う。それに異大陸から迷い込んだ彼にこの国の役職を与えられたところで彼にとって迷惑になりかねないしね……」
「けど個人的には何かしらの形で感謝の気持ちは伝えたい……でしょ?」
「う……まぁ、その通りだが……」
「だったら今日がチャンスなんじゃない?スレイが導師の称号が送られたらまた忙しくなるよ」
見透かしたようにニヤニヤしながら問いかけてくるロゼに気恥ずかしさを感じながらもアリーシャは頷く。
少しずつ事態の解決に向け進展しているとは言え現状まだ問題は山積みだし何かが明確に解決しているわけではない。たが、だからと言って異大陸から迷い込んだ晴人が無償で協力し続けてくれてくれている事を当然の事だと思えるほどアリーシャの神経は太くない。
これから忙しくなりそうだからこそ、ここで一度感謝の気持ちを形にして伝えてもいいのではと彼女なりに考えていたのだ。
「で、どうすんの? お金だの高級品だのなんてハルトはプレゼントされても多分受け取らないでしょ」
「そう、それなんだ……」
実は以前アリーシャはそれとなくそういった話題を晴人にした事がある。結果は彼女の予想通り「必要ない」の一言が返ってきた。
「宿代や旅の費用は私の世話になってるからそれで十分だと言われてね……逆に世話になりっぱなしで済まないと謝られた……」
「ハルトらしいっちゃらしいけどねぇ」
金銭面ではこの大陸で伝手の無い晴人はアリーシャに頼りきりになっている。だが彼自身は不必要な浪費はしないし仮に何か買ってきたにしてもラストンベルのマーボーカレーまんの時のように一緒にいる者たちの分も含めて買ってくる時くらいのものだ。
そもそも王族である彼女は自分の国の危機を救って貰うのに命がけで協力してくれる人間に対して旅費や宿泊は自腹を切れなどとは口が裂けても言えるような人間では無いのである。
アリーシャ自身人助けに対しては無償の奉仕の精神で行う類の人間ではあるのだが、いざ自分が手伝われる側に回るとなるとどうにも落ち着かない。
以前、ルーカスに金銭による保障の重要性を説かれてからは彼女自身、自分の価値観を見直す切っ掛けにもなっていた事もあり彼女なりに色々と考えてはいたのだが結局結論は出さず終いだった。
「むぅ……どうすれば……」
迷うアリーシャだが……
「要は感謝の気持ちが伝えたいってのが一番の目的な訳でしょ?ならそれを一番に考えればいいんじゃない? どのみち高級品は断られるだろうしプレゼントも値段よりも気持ち重視でいこうよ」
「気持ち……か」
「そうそう、なんか知らないの? ハルトが好きなもの」
「とは言っても……」
そう言葉を零したアリーシャの脳裏に晴人の言葉が蘇る。
「……プレーンシュガー」
「え?」
「ドーナッツのプレーンシュガーだ。ハルトが好きだと以前ペンドラゴで聞いたんだ」
「へぇー、ドーナッツねぇ……プレーンシュガーじゃなきゃダメなの?」
「アリシア……私の屋敷のメイドか言うにはプレーンシュガー以外には手はつけないらしい。理由はわからないが」
「なるほどねぇ、ならそれで決まりだね」
「だが流石に安上がりでは……」
「気持ちが大切って言ったっしょ? それに趣味の合わないもの渡されるより食べ物の方が良いって事もあるしね」
「そうか、そうなれば早速ドーナッツを買いに行こう。確か市街に話題になってる店が___」
そう言いながら出かける準備をしようとしたアリーシャだが……
「……は?」
「……え?」
「何言ってんだコイツ」と言わんばかりのロゼの反応にアリーシャが硬直する。
「マジで言ってるの?」
「……え?」
なんのことかわからないと言わんばかりのアリーシャの反応にロゼは大きく溜息をつきガシリと両手でアリーシャの両肩を掴む。その圧力にビクリと固まるアリーシャ。
「あのねぇアリーシャ……」
「な、なんだろうか……?」
そして___
「プレゼントは手造りに決まってるっしょ!!」
ロゼの叫びが部屋に響き渡った。
「て、手造り? ……私が?」
「そりゃアリーシャからのプレゼントだからアリーシャが作るに決まってるじゃん」
平然と言い放ったロゼだが、一方のアリーシャは処理が追いつかないのかイマイチ反応が鈍い。
「気持ち込めるならやっぱり手造りは一番でしょ。男はそういうのに弱いって言うし。ついでに女子力見せてアピールチャンスだよ」
「アピールチャンスとはなんだ……?」
「あ、そこら辺まだ無自覚なのね」
「ん? なんの話だ?」
「気にしないでコッチの話。まぁ兎に角よ、感謝の気持ちが伝えるなら手造りが一番って事よ」
ロゼの言葉に首をかしげるアリーシャにまたもやロゼは苦笑いを浮かべつつそう告げる。
だが言われたアリーシャの反応はあまり良くない。
「あー……ロゼ? 私はその………れないんだ」
「え、なんて?」
歯切れ悪くボソボソと話すアリーシャの言葉が聞き取れずロゼは問ひ返す。
「だ、だから私は……りが……れないんた」
「だから聞こえないって」
「料理が作れないんだ! 察してくれ!」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら自身の弱点を告白するアリーシャにロゼの目が点になる。
一応フォローしておくならばアリーシャはお姫様で貴族のお嬢様という点を考えればかなりしっかりしている。
幼い頃から勉学に勤しみ武術を習い、騎士団員としての活動もしており浪費癖やぶっ飛んだ金銭感覚も無く屋敷でこそ使用人達の世話になるが身の回りの整理など一人でも大抵はこなせる。
だがそんな彼女にも弱点は存在する。
それが料理だ。
アリーシャの屋敷には様々な事情から使用人は少なく本人も留守にすることが多いのだがその管理の大半を取り仕切っているのがメイドのアリシアだ。
彼女の仕事は食事にも及んでおりアリーシャが屋敷にいる際の食事は彼女が担当しており絶対に譲らない。
結果、料理、とりわけお菓子類に関してだけはアリーシャの経験値はほぼゼロなのである。
そんな状態でまともなドーナッツなど作れるのか、そもそもドーナッツというのは、どうやって作るのかすらアリーシャには見当がついていないのである。
だがそんなアリーシャに優しく声がかけられる。
「しょうがないなぁ……ここは一つ女子力の化身であるロゼさんが助けてしんぜよう」
かくしてお姫様のお料理珍道中の幕が上がったのであった。
あとがき
アマゾンズ完結編、アニゴジ、クウガ9巻、アマゾンズ外伝、風都探偵三巻、エグゼイド小説と特撮要素が溢れてる五月六月でテンション上がってる今日この頃です
とりあえずみんなクウガ9巻買おう!「振り向くな」でトラウマになったガリマ 姉さんがメインヒロインになってるよ!そして脚本家を見て今後の展開を察して仲良く聖なる泉を枯らそう!
あと、今週のげんとくん俺は好きです(鋼鉄化)