Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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い、いつもよりは早く更新できた筈(遅い)
気付けばビルドも完結。万丈がヒロインだったってはっきりわかんだね!
ジオウは555とフォーゼのクロスオーバー面白いからもっと色々混ぜてどうぞ
あと仁藤客演確定ヒャッホゥー!

では最新話です。どうぞ


37話 堕ちし修羅 前篇

「サイモン様……?」

 

「ありゃ、久しぶりだなサイモンちゃん」

 

突如かけられた声に振り返った二人はそこにいた人物、以前ペンドラゴで出会った天族であるサイモンの存在に驚いた様に目を丸くする。

 

その二人の反応がおかしかったのかサイモンはクスリと小さく笑った。

 

「どうやら驚かせてしまったらしい。いや、済まない、天族の身ともなると人間の知り合いは中々持てなくてな。久方ぶりにぬしらを見かけてつい声をかけてしまったわけだ。お邪魔だったかな?」

 

その言葉にアリーシャはとんでもないという様にクビを横に振り否定する。

 

「い、いえそんな! サイモン様が謝ることなんて!」

 

「あぁ、こっちとしてもまた会えて嬉しいよ。というか、ハイランド(こっち)に来てたんだな」

 

「ふっ、まぁ気の向くままというやつさ。しかし、ぬしらもこちらへ戻ってきているという事はローランスとの話し合いは、どうやら上手く言ったという事になるのか?」

 

軽く笑いながら、そう問いかけるサイモンにアリーシャは表情を明るくし肯定する。

 

「は、はい! 枢機卿は確かに憑魔となっていましたが無事浄化する事ができました。今は皇帝陛下と共に和平に向けて協力してくださっています」

 

その言葉にピクリとサイモンは一瞬だけ驚いた表情を浮かべる。

 

「ん? どうかしたのかサイモンちゃん?」

 

「……いやなに、枢機卿が憑魔だったという話に少し驚いてしまった。私自身が姫に注意しろとは言ったがやはり事実だと知るとな。しかしまさかそれを救って見せるとは……どうやら私の助言は要らぬ世話だったらしい」

 

そう言って自嘲する様に笑うサイモンに二人は思わず顔を見合わせる。前回の会話でも感じてはいたがどうやら彼女は何かと自身に対して自虐的な面が見受けられると感じたからだ。

 

「あぁ、いや済まない……そちらとしては反応に困るだろうな。それで? 和平へ向け一歩前進した訳だが今後はどうするのだ? この大陸に住まう天族としてはやはり気になるところではあるが……もしかしたら何か力になれるやもしれん……微力ではあるだろうが」

 

その言葉にアリーシャは少しばかり思案した後ゆっくりと口を開く。

 

「実は_____ 」

 

政治関連の詳細までは語れないが自分達の今後の行動目標である各地の憑魔被害への対応と秘力の習得についてアリーシャは説明する。

 

 

「成る程……災禍の顕主への対抗策として導師の力をか……それならば一つ面白い話を耳にしたぞ」

 

説明を聞き終えたサイモンは何かに思い当たりがあるのか彼女が口走ったその言葉に二人は反応する。

 

「え、マジで」

 

「そ、それはどのような!?」

 

「ふむ、確かこの国の名のある騎士……マルトランと言ったな? 」

 

彼女の口から出たのはアリーシャの師であるマルトランの名前。その事にアリーシャは強く反応する。

 

「っ!? マルトラン師匠がどうかなさったのですか!?」

 

「ほう、かの名高い蒼き戦乙女は姫の師であったか……世間とは狭いものだな。そのマルトランだが、最近は自身の部隊と共にレイクピロー高地へ派遣されているだろう?」

 

そう問いかけるサイモンの言葉をアリーシャは肯定する。

 

「はい、廃村の調査や遺跡を荒らす野盗への対応という名目で」

 

「俺が初めて出会った時もその任務に一区切りつけて戻ってきたときだったよな。まぁ、あの時は官僚派があの人をアリーシャから遠ざけておきたいってのがあったみたいだけど」

 

「それもあるのだろうが実際問題、最近は小さな村や遺跡を狙った野盗が増えて治安が悪化しているのも事実なんだ。特にレイクピロー高地には『ガラハド遺跡』を初めとした遺跡や未発見の遺跡も多い。それを発見して保護するのも騎士団の役割なんだ」

 

「成る程ねぇ、それじゃ尚のこと休めない訳だ」

 

アリーシャの説明に納得して頷く晴人だがサイモンは説明を続けていく。

 

「姫の話した通りマルトランは最近でもその任務を継続していた様だ。そして先日ある盗掘者を捕らえた際に未発見の大きな遺跡の情報を得たらしい。捕らえた盗掘者を都へと護送した兵士が酒場で酔って話していたよ」

 

「未発見の……それはどの様な?」

 

「『モーガン大滝』は知っているだろう? ハイランド王国の水源であるレイクピロー高地の中でも一際巨大な滝だ。なんとその滝の裏に見たことも無い遺跡への遺跡への入り口が発見されたのだよ。しかも盗掘者の証言によるとその遺跡で不思議な体験をしたらしい」

 

「不思議な体験……? それってどんな?」

 

「うむ、なんでも遺跡の奥へ行こうとしたところ、気付けば入り口に戻されていたらしい。何度繰り返しても遺跡の奥に行くことが出来ずに不気味に思った盗掘者は逃げ出したとの事だ」

 

その言葉に二人は大きく反応する。

 

「それってまさか……!」

 

「天響術を用いた大掛かりな仕掛け……導師の試練神殿!」

 

その言葉にサイモンは笑いながら頷く。

 

「その通りだ。それほどの手の込んだ仕掛けがある遺跡ならばぬしらの探している水の試練神殿である可能性は非常に高いかと思ってな。詳しい話は姫の師から直接聞けば良いだろう。ちょうど昨晩の遅くにレディレイクへと帰還したと耳にしたぞ」

 

そう言ったサイモンに二人は視線を合わせ小さく頷く。

 

「アリーシャ、取り敢えずは……」

 

「あぁ!早くマルトラン師匠に話を聞きに行こう」

 

そう言って二人はすぐさま行動を開始する。

 

「サイモン様、ご助力感謝致します! 申し訳ありませんが私達はこれから____」

 

「気にする事は無い、この大陸の為だ。寧ろ役に立てたのならば幸いだよ。早く行くといい」

 

この場を後にする事を伝えようとしたアリーシャを制してサイモンは彼女に早く行く様に伝える。

 

「はい! このご恩はいずれ!」

 

「まだレディレイクにはいるんだろ? 観光楽しんどいてくれ!」

 

そう言って駆け出した二人をサイモンは薄く笑いながら見送り______

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、人をノせるのが上手いもんだねぇ」

 

二人が走り去った直後に背後から声がかかった瞬間、彼女からは笑顔は消え、どこまでも感情を感じさせない冷たい表情を浮かべていた。

 

「不用意に現れるなと言った筈だが? 」

 

呆れた様な声を漏らしながら背後へと視線を向けるサイモン。

 

そこには……

 

「いいじゃねぇかよ。退屈でしょうがねぇんだからよ。というか随分と回りくどい真似をするねぇ……せっかく2人しかいなかったんだここで消しちまえば良かったんじゃないのかい?」

 

口角を吊り上げ不気味に笑う男。ルナールの姿があった。

 

「ふん……ペンドラゴで危うく返り討ちにされそうになった割には随分と強気なものだ」

 

だがサイモンは冷淡な態度のままルナールの言葉を皮肉混じりに一刀両断する。

その言葉にルナールの笑みが歪み怒りの感情かま露わになる。

 

「はっ! あの宝石頭は次はこの手できっちり粉々にしてやるさ……お前さんこそ随分と自信たっぷりじゃないか……連中に枢機卿は助けられないとかなんとか言っていた予想は外れたみたいだがなぁ?」

 

その言葉に無表情だったサイモンの顔が一瞬だけ苦虫を噛み潰した様に歪む。

 

「……大した問題では無い。どのみちあの姫が我らの主の掌の上で踊っている事には何ら変わりはないのだからな」

 

「わざわざアイツらを強くするヒントを与えるのがかい? よくわかんねぇなあの野郎の考える事は」

 

肩をすくめるルナールだがサイモンはそんな彼を強く睨みつける。

 

「口を慎め、主には主の考えがある。どのみちお前が知る必要も無いし理解する事もできはしない」

 

「別にわかりたいとも思わねぇよ。俺は俺の好きに殺らせて貰えるのならなんでも良いさ」

 

「ふん……心配せずとも、主の手によりもう少しでお前の願いも叶うだろう。人々があるがままに生きる災厄の世界はすぐそこだ」

 

そう言って強く歯噛みしたサイモンは忌々しげにアリーシャ達の走り去った道へと視線を向ける。

 

 

「そうだ……すぐにわかる。希望など、どこにもありはしない。現実から目を背ける為のただのまやかしだと! 目を背けてもがけばもがく程その先に待つ痛みは増すのだと……!」

 

 

__________________________________________

 

 

一方、サイモンと別れた2人は急ぎ足で騎士団のマルトラン隊の兵舎へとやって来ていた。

 

「そんで? 俺は騎士団の人達と面識無い訳なんだけどどうすんの?」

 

「師匠の執務室へ向かおう。師匠はハイランド王国の教導騎士であり軍顧問だ。おそらくは今はそこにいる筈だ」

 

そう言って早足に兵舎内を歩いて行く2人。

 

深夜に帰還した為に、既にマルトラン隊の部下達は解散し休息をとっているのか、一部の見張り以外とは顔を合わせる事なく2人は施設内を進んで行く。

 

「ありゃ? あれは?」

 

そんな時、晴人は通路の先、執務室と思わしき扉の前に2人の女性と思わしき人影があるのが目に映りアリーシャに問いかける。

アリーシャは遠目で見える2人を知っているのか晴人に返答した。

 

「あぁ、あれはシレルとイアンだな。2人はこの部隊で師匠の側近を務めている。シレルは剣技、イアンは弓術に長けていて騎士団の中でも腕利きなんだ」

 

「へぇ、この世界は強い女の子が多いんだな」

 

そんな会話を交えながら2人に近づいて行く晴人とアリーシャだが、その2人は余程扉の方へと集中しているのかこちらに気がつく気配は無い。

よく見れば聞き耳を立てているのか扉に体を傾けているのがわかり2人は思わず顔を見合わせる。

 

「なぁ、何やってるんだアレ?」

 

「さ、さぁ?」

 

傍目からみても明らかに挙動が怪しく若干引き気味の晴人と気まずくなるアリーシャ。

仕方なく歩み寄って行く2人だが……

 

「シレル、何言ってるか聞こえる……?」

 

「いや……だがこんな早朝からマティア大臣とランドン師団長が直接訪れるなど明らかに怪しい」

 

「やっぱりまた私達がアリーシャ様と関われない様に長期任務とか言い渡されてるのかな」

 

「あり得るわね。今回もアリーシャ様はランドン師団長と共に特務に当たっていると聞いたわ。一体どんな無理難題を……」

 

「姫様大丈夫かな?」

 

「大丈夫だと願う事しかできないわね……情けない話だけど」

 

なにやら2人の間で繰り広げられるシリアスな会話だが、背後で話題に挙げられている当人はなんとも言えない表情をしていたりする。

 

「しかし全然聞こえない……こうなったら少し扉を開けて……」

 

「ちょっとイアン、流石にそれは……」

「あぁ、私もそれは止めて置いた方がいいと思う」

 

そのアリーシャの言葉に2人は驚いた様に振り返るが……

 

「あ、アリーシャさ……え?」

 

黒髪のショートヘアーの女性、シレルは驚いた表情で固まり……

 

「え、アリーシャ様どうして此方に……ヘェア!?」

 

茶色の髪を青いリボンで後頭部で束ねた女性、イアンは素っ頓狂な声をあげる。

 

「ん? どうかしたのか2人とも」

 

2人のよくわからない反応にアリーシャは思わず首を傾げるが、イアンはプルプルと震える手でアリーシャとその横に立つ晴人を交互に指差しながら見比べる。

 

普通なら王族相手にその反応は褒められたものではないのだが、アリーシャは気にした様子もなく逆に2人を心配する。

 

「ほ、本当にどうしたんだ?」

 

戸惑うアリーシャ。

 

だが今のアリーシャの状況を考えてもみてほしい。

 

時間は早朝、男女の二人組、女性側は髪をおろし薄着の服装の上から明らかにサイズの合わない男性物の上着を羽織り逆に男性側は上着を貸して薄着の状態そんな状態が目に飛び込んで来て導き出される答えは……

 

「ひ、姫様が彼ジャケを着て朝帰ふごぉ!?」

 

「君はこんな場所でいきなり何を言いだすんだ!?」

 

朝っぱらの兵舎の通路で大声で恐ろしいセリフを口走ろうとしたイアンの口を、アリーシャは目にも止まらない速度で塞ぎながら顔を赤くして叫ぶ。

 

「え、違うのですか?」

 

「違うに決まっているだろう!?」

 

真顔で尋ねてくるシレルにすぐさま否定するアリーシャだがなおも追撃は続く。

 

「ですが、だとすればどういう経緯でその様な格好を……」

 

「え、あ……いや……それは……」

 

途端に声が小さくなり顔の赤さが更に増して行くアリーシャに2人はすぐさま肩を寄せ合い話し合う。

 

「え、なにこのマジ反応……」

 

「まさか姫様……」

 

「嘘でしょ……? だってあの姫様だよ? 騎士と政治に常に全力投球の姫様だよ? 縁談も浮いた話も全然無い姫様だよ? それが私より先に彼氏を!?」

 

「イアンこの前、告白してフラれたものね。『僕より強い女性はちょっと……』って」

 

「言わないでよ!? というかそんな軟弱な男なんてこっちから願い下げよ!? 別にフラれて無いから!?」

 

「ハイハイ……しかしそんな姫様が少し目を離した隙にこのような乙女な事に……これは一体」

 

 

つい先ほどまで真面目な空気を保っていた筈が気づけばガールズトークを始めた2人。

終いには「トキメキクライシス帝国の仕業よ」「何ですって? それは本当なの?」などと漫才じみたカオスなやりとりの応酬を繰り広げている。

 

そんな2人に何かに気が付いた晴人から声がかかる。

 

「あー……取り敢えず、そこのお二人さん」

 

「え? なんでしょうか?」

 

「やだ、よく見たら結構イケメンかも……」

 

片割れの反応がおかしいが晴人はあえてその事には触れずにこちらを向く2人の背後を指差す。

 

「まぁ、なんだ……早く謝った方がいいんじゃない?」

 

「「え?」」

 

その言葉の意味が分からず首を傾げる2人だが……

 

「ほぅ……私は部隊には解散して各自休息をとるように伝えた筈だが? こんな場所で大声で騒ぐとは、お前たちは余程元気が有り余っていると見える」

 

次の瞬間背後から聞こえたその声に2人はビクリと蛇に睨まれたカエルの様に固まり、恐る恐る錆びたロボットを思わせる動きでゆっくりと振り返る。

 

その視線の先には……

 

「「ま、マルトラン隊長……」」

 

鋭い目つきで此方を睨みつける蒼き戦乙女ことマルトランの姿がそこにあった。

 

「え、え〜っと……マルトラン隊長? これはですね……」

 

「あの……なんと言ったら言いか……」

 

凛としたマルトランの有無を言わせぬ圧にたじろぐ2人だがそこにアリーシャから助け舟が出される。

 

「あ、あのマルトラン師匠? その2人はその……私が師匠に尋ねたい事がありましてその……案内を……」

 

おそらくは自分やマルトランを心配して様子を伺っていたであろう2人を気遣ってか、おずおずとそうフォローするアリーシャ。マルトランはそんな彼女を一瞥し小さくため息を吐く。

 

「ハァ……姫様、その2人を甘やかし過ぎです」

 

アリーシャの見え見えな嘘に少しばかり呆れの感情を見せるマルトランだが、そこに晴人から声がかかる。

 

「いや、アリーシャの言う通り確かにその2人は案内してくれたぜ?」

 

アリーシャのフォローの言葉に乗っかった晴人の発言にマルトランは眉をひそめる。

 

「ソーマハルト……君は君で姫様を甘やかさないでくれ」

 

「と言ってもな……ほっとくとどんどん自分の責任だって言い始めるし俺が少し甘やかすくらいはバランスとれていいだろ?」

 

悪びれずにそう言って笑う晴人。その返しにマルトランもわずかに口元を緩める。

 

「ふっ……確かにそれは否定できんな」

 

「せ、師匠!?」

 

2人からの評価に恥ずかしそうに声を上げるアリーシャだがマルトランは表情を引き締めると会話を切り出す。

 

「まぁ丁度いいと言えば丁度いい。訪ねて来た要件は見当が付いている。どのみちこちらから伺うつもりだったのだがこの場で説明してしまった方が早いだろう。部屋に入ってくれ。マティア大臣やランドン師団長から説明がある。シレル、イアン、お前たちもだ」

 

その言葉にシレルとイアンの2人は目を丸くする。

 

「え、宜しいんですか? 私たちも参加して?」

 

「現場で指揮を担当する人間には伝える事だ。問題は無い。ただし先ほどのように騒ぐなよ」

 

そう嗜め執務室へと戻るマルトランに一同は続いた。

 

__________________________________________

 

 

「______以上がマルトラン隊が今回の任務で得た情報です。モーガン大滝で発見された遺跡の規模や不可思議な仕掛けの証言からしても導師の試練神殿の可能性は十分あるでしょう」

 

「それ以外にもレイクピロー高地の廃村となったキルフ村の調査でも不可解な現象が確認されている。こちらは憑魔の可能性が高い。姫様には導師らと共に対応にも当たって頂きたい。よろしいでしょうか?」

 

「了解しました。速やかに対応に当たります」

 

執務室にてアリーシャは既に待っていたマティアとランドンよりマルトラン隊の得た調査結果を伝えられた。

 

結果はサイモンの言っていた通り水の試練神殿らしき遺跡の発見がされており、それ以外にも上位種の憑魔らしき発見情報もありアリーシャはそれらの調査を依頼され了承する。

 

「馬の方はこちらで用意します。連絡や探索の為の兵は各地に配置しますが憑魔の特性上、一般の兵士達は安易に戦いには参加させられません。申し訳ありませんが……」

 

「いえ、支援が得られるだけでも心強いです。ご協力感謝します」

 

「……それが我々の職務ですので」

 

真っ直ぐに感謝の言葉を伝えるアリーシャにマティアはどこかやりづらそうにしながらもランドンを引き連れ部屋を立ち去ろうとするが扉の前で此方へと振り向く。

 

「……アリーシャ姫、もう一つ宜しいですか」

 

「は、はい? なんでしょうか?」

 

どこか険しい表情のマティアにアリーシャは戸惑いを見せるが……

 

 

「貴女も王族であり貴族の女性なのですから、あまりその様な姿で出歩くのは如何なものかと……では失礼します」

 

「……へ?」

 

ポカンと口を開けるアリーシャだがマティアは一言そう言い切ると部屋を後にしランドンは苦笑いをしつつも一礼しその後に続く。

 

部屋には固まったアリーシャと苦笑いする晴人達が残された。

 

「まぁ、そこに関してはマティア大臣の言うことは間違ってはいないだろう。もう少し慎み深くあるべきだアリーシャ」

 

「え……え?」

 

「多分アレだな。今までのアリーシャが真面目だった分、抑圧からの反動的なものを心配されたんだろうな」

 

「……もしかして、この格好をしている私は他の者達から見るとそういうふうに見えるのか?」

 

「「はい、とても」」

 

「う、うぅ……」

 

師であるマルトランの言葉から晴人、シレル、イアンの肯定にアリーシャは思わず羞恥に顔を赤く染める。

 

流石にその反応に同情したのか話を逸らすべくイアンが口を開いた。

 

「あー! それにしても驚きましたよ! 帰ってきたら大臣達の姫様への態度は変わってますし、憑魔とか天族とか色々な情報が山盛りですもん!……正直、急展開過ぎてあんまり信じられないというのが本音ですけど」

 

フォロー以外にも本心が混じっているのか、マティア達の説明の過程で現在のハイランドの方針、天族、憑魔の存在など大量の情報を伝えられたイアンは自分達がレディレイクを離れていた間の出来事の情報量に眉をひそめる。

 

「確かにイアンの言う通りですね。申し訳ありませんが、これまでの官僚派の姫様への行いを考えればわたし個人としては、まだ信じられないと言うのが本音です」

 

同様にシレルもまた険しい表情を浮かべて自身の内心を打ち明けた。

それも当然と言えば当然だろう。晴人と違い彼女らは長らくアリーシャがバルトロ達からどのような仕打ちを受けてきたかを知っている。

 

それらは簡単に覆せるものではないし信用するのもまた簡単な事では無いだろう。

そんな2人にアリーシャは苦笑しつつも表情を引き締めて語りかける。

 

「2人が私の身を案じてそう言ってくれる事は嬉しい。だが、今回の官僚派の説得にはマティア大臣とランドン師団長の存在は欠かせなかった。真実と向き合い、今ハイランドは少しずつ変わり始めている。形は違えど皆がこの国を想って行動している。その事を信じて2人にも力を貸して欲しい」

 

その言葉に二人は目を丸くし、毒気を抜かれたように険しかった表情が消える。

 

「……姫様がそう仰るのであれば」

 

「まぁ、官僚派からの妨害が無くなるのであれば我々も姫様にご助力できるようになる訳ですし……」

 

「ありがとう。そう言ってもらえると心強いよ」

 

まだ半信半疑ではあるのか、歯切れの悪い言葉ではあるが、そう言ってくれた2人にアリーシャは微笑みながら感謝の言葉を伝える。

 

「なんだかんだ、ランドンにはかなり助けられたからなぁ。あの頃に官僚派達の目を搔い潜ってローランスへ向かえたのはランドンがいなけりゃできなかっただろうし」

 

「あぁ、自身の処分を覚悟の上で私の無茶な願いに協力してくれた」

 

当時を思い出し貴重な協力者であったランドンを賞賛する2人だが、その言葉にイアンが思い出した様に声をあげる。

 

「あ!そうですよ! ハルト殿が護衛してくれたと言っていましたが、話して頂ければ私達も同行できましたよ!?」

 

「え、あ……いや、あの時はまだ官僚派も私の行動を監視しようとしていてランドン師団長が率いている一部の部隊しか協力を得られていなかったから……」

 

「そうだとしても、たった2人でローランスの帝都に向かわれるのはあまりにも危険だったのでは? 憑魔との戦いでは役に立てないかもしれませんが、それでも護衛は何名か連れて行くべきだったかと」

 

「うっ……」

 

2人の言葉にたじろぐアリーシャ。立場に見合わない無茶をしたという自覚はあるだけに2人の言葉に彼女としても反論はできない。

 

「姫様、厳しい言い方ですが、如何に開戦による危機的状況を回避する為とはいえ、今回の件が自身のお立場を軽視した無謀なものだというのは私も2人に同意見です」

 

「せ、師匠……」

 

更にそこへ加えられたマルトランの言葉にアリーシャは俯き声を詰まらせる。

ましてや3人とも嫌がらせや皮肉ではなくアリーシャの身を案じて言っているのだ。それを無碍にできるはずもない。

 

だがマルトランの言葉はそれで終わりでは無かった。

 

「今回の件は一国の姫としては褒められた行動とは言えないでしょう。ですが____ 」

 

言葉が途切れ肩にポンと優しく手が置かれる感触に俯いていたアリーシャは顔をあげる。そこには優しく微笑む師の顔があった。

 

「民を守る為、己が出来ることに精一杯向き合って使命を果たした。よく頑張ったな、アリーシャ」

 

臣下としの言葉遣いでは無く砕けた口調で、1人の師としてそう言ったマルトランの言葉にアリーシャの瞳が揺れる。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

自分を労う尊敬する師の言葉に気持ちが緩んだのか、震える声で瞳を少し潤ませながらそう言ったアリーシャにマルトランはもう一度小さく口元を緩めると、晴人の方へと向き直る。

 

「ソーマハルト、君にも感謝する。ハイランドの為に戦ってくれた事、アリーシャを守ってくれた事、姫の師として、臣下として、ハイランドの1人の人間として礼を言わせて欲しい」

 

そう言って頭を下げるマルトランだが、晴人はいつもと変わらない戯けた様子で返答する。

 

「俺は俺の出来る事をしたまでさ。それにアンタとも約束しただろ? アリーシャの力になるってさ」

 

「それはそうだが……これほど尽力してくれるとはあの時は正直思ってもみなかったからな。しかも君はこの大陸の外から来た人間なのだろう?」

 

「そんなに気を遣う事じゃ無いさ。アリーシャが自分のやるべき事をやってる様に、俺も魔法使いとして自分のやるべき事をやっているだけだ。それにさっきアリーシャにも改めて頼まれたしな。『最後まで宜しく頼む』って。だから余所者が出しゃばって悪いけど、今回の件には最後まで首を突っ込ませてもらうよ」

 

そう言って「な?」と相槌を求める様にアリーシャに向けて笑う晴人。それを見ていたアリーシャは無意識に頬を緩めるが……

 

「ほほう……」

 

「これはこれは……」

 

ニヤニヤとしながらその光景を見ているイアンとシレルにアリーシャの表情が引き攣った。

 

「これはやっぱりあれかなシレル?」

 

「えぇ、間違い無いわよイアン」

 

謎の確信と共に生暖かい目を自分に向けてくる2人に、アリーシャは何故か恥ずかしげに頬を染めると焦った様に動き出す。

 

「せ、師匠! 私は屋敷に戻って準備に取り掛かります! では、お邪魔しました!」

 

「え? おいアリーシャ!?」

 

ズビュン!と効果音がつきそうな速度で立ち去っていったアリーシャに晴人はポカンとするがマルトランは小さく溜息をつくと2人に声をかける。

 

「はぁ、まったくお前達は……まぁいい、話は以上だ。我々の部隊にも休息の後、憑魔関連の調査の任が言い渡されるだろう。お前達も次の任務に備えて休息を取れ」

 

「「了解しました!」」

 

マルトランからそう言い渡された2人は表情を引き締め敬礼しながら応える。

 

「では、我々はこれで。ハルト殿……姫様の事、宜しくお願いします」

 

「憑魔への戦いでは我々は大した力にはなれないかもしれませんが、精一杯助力できるよう頑張りますので!」

 

「あぁ、任せてくれ。これでも魔法使いだからな。お姫様のエスコートくらいは頑張って努めるさ」

 

イアンとシレルもまた晴人の言葉を聞くと一礼するとその場を去っていく。

 

「済まないな、あの2人は基本的に優秀なのだが少しばかりお喋りというか姦しいというか……」

 

「年頃の女の子なんだ。むしろそれくらいで丁度良いと思うけどね」

 

呆れた様なマルトランに対して晴人は気にした様子もなく返答する。

 

違う世界からやってきた彼からすれば若い女性にそういう面がある事など当たり前の事であり目くじらをたてる様なものでも無い事だ。

 

「……ソーマハルト。少しばかり聴きたい事があるのだが」

 

「俺に?」

 

「あぁ、アリーシャの事だ」

 

あくまで師としての個人的な質問なのか砕けた口調でアリーシャを呼ぶマルトラン。どうしたのかと身構える晴人だが……

 

 

 

 

 

「アリーシャは君や導師達と共に戦っていく事になるが……アリーシャはその……その中で上手くやれているだろうか?」

 

そんなマルトランから問いかけられた内容は凛々しい彼女からは想像し辛い割と過保護な内容だった。

 

「くっ……」

 

思わず笑いそうになる晴人だがその反応にマルトランは怪訝な表情を浮かべる。

 

「む、なんだ? 私は何かおかしい事を言ったか?」

 

大真面目にそんな反応をするマルトランがどことなくアリーシャに重なって見え、2人が師弟である事を感じながら晴人は楽しそうに微笑みながら返答する。

 

「いや、悪い。そうだよな、確かにそれは気になるところだよな」

 

考えてみれば当たり前だ。協力者の大半が天族やら天族と共に過ごしていた導師やら外からやってきた魔法使いという謎だらけの面子なのだ。そこを心配するのも当然の事だろう。

 

「大丈夫だよ。気難しい娘もいるけどその娘も根は優しそうだし、他のみんなとも仲良くやってる。昨日なんかお菓子作りに挑戦したりしてたしな」

 

「お菓子作り? アリーシャが?」

 

晴人の話にマルトランは意外だったのか目を丸くする。

 

「あぁ、俺が協力したお礼にって事で作ろうとしてくれたらしい。味の方は少し残念だったけど嬉しかったよ」

 

「そうか……アリーシャがそんな年相応な事を……」

 

「やっぱり、今まではあまりそういう事はなかったのか?」

 

そう問いかける晴人にマルトランは表情を曇らせる。

 

「知っているとは思うがアリーシャは良くも悪くも真面目な子だ。決めた目標に対して直向きに努力し続ける」

 

「あぁ、自分の夢とアンタから習った騎士としての在り方。アリーシャはそれを大切に思っている」

 

「だからこそ時折心配になる。私に憧れてくれるのは嬉しいが私と同じ様な苦労をアリーシャにはして欲しくないとな」

 

『私と同じ様な』その言葉に晴人は引っかかりを覚える。

 

「って事はアンタも似たような経験を?」

 

「今でこそ戦乙女などと持て囃されてはいるが、私も昔、若くして家を継いでな。私なりに務めを果たそうと努力はしたが、なにぶん要領の良いタチでは無くてな。その過程で敵も多く作ってしまった……アリーシャにはそうなって欲しく無かったのだが……」

 

良くも悪くもアリーシャの様な真っ直ぐな生き方というものは好かれやすくもあり疎まれやすくもある。彼女に対して大きな影響を与えたマルトランからすればその点に負い目を感じる事もあるのだろう。

 

「だが、今日アリーシャを見て少し安心したよ」

 

表情を緩めながらそう言ったマルトランに晴人は首を傾げる。

 

「安心した?」

 

「あぁ、アリーシャは真面目な娘だ。だからこそ師である私に弱さを見せようとしない。どれだけ辛くとも私に迷惑をかけない様にな……」

 

マルトランの言葉には晴人も思い当たる節があった。アリーシャという少女は出会った頃から自分でなんとかしようと抱え込んでしまう悪癖がある。

晴人に対しても、最近になって漸く自分から力を貸して欲しいと言える様になってきた所だ。

 

「だが君と接しているアリーシャは、以前よりも肩の力が抜けている様に見える。評議会の態度が軟化した事も影響しているのだろうが、やはり一番の理由は仲間ができた事で心に余裕が生まれたことにあるのだろう。以前のアリーシャならあそこまで色んな表情を私の前で見せたりはしなかったからな」

 

確かにマルトランはアリーシャにとって憧れであり尊敬する師である。だが、師と弟子、姫と臣下という関係では踏み込めない事もある。

 

そういう意味では上下関係抜きに友人として接する事ができる晴人達との出会いはアリーシャには良い意味で変化を与えるものとなったのだろう。

 

「だからこそアリーシャが年相応の面を見せる相手ができたというのは私としては喜ばしい事だ。願わくばこれからもその繋がりを大切にしてほしいと思う」

 

それは臣下としてでは無く師としてのマルトランの願いなのだろう。

 

騎士として、姫として成長するアリーシャに喜びを感じながらも1人の少女としてあって欲しいという矛盾した複雑な想いがマルトランの中には存在するのだ。

 

「それ、俺じゃなくてアリーシャに直接言ってあげればいいと思うけど」

 

「……むぅ、そうは言うがな」

 

そう言って黙り込むマルトラン。その不器用さに晴人は小さく笑いをこぼす。

 

「む? なんだ? 先程といい、やはり何かおかしい事を言っているか? 」

 

「いや、やっぱりアリーシャはアンタに似てるなと思ってさ」

 

「私とアリーシャが? それは_____ 」

 

「師弟だからってのも勿論あるんだろうさ。けど、多分アンタとアリーシャは根っこの部分が似てるんだよ。だからこそアリーシャはアンタに憧れたんだと思う」

 

そう言い、一度言葉を切った晴人は真剣な顔でマルトランへ告げる。

 

「心配しなくて良いさ。アリーシャが一人で抱え込みすぎない様に、仲間としてこれからも力になるよ。なんたって俺は_____ 」

「『最後の希望』だから……か?」

 

「はは……まぁね」

 

最後の〆をマルトランに取られて晴人は苦笑する。

 

「ふっ……そうか、では改めて、私の弟子を頼む。最後の希望殿」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

そう言って力強く頷くと晴人はアリーシャの後を追うべく部屋を後にする。

 

「アリーシャが私に似ている……か」

 

閉じられた扉を見つめながらマルトランは静かに呟く。

 

「そうだな……確かにアリーシャは『昔の私』によく似ているよ……」

 

その呟きは誰の耳にも届く事なく空気に溶けていった。

 

 

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幻想的に青く輝く遺跡の最奥。

 

その幻想的で美しい場にそぐわない光景がそこには広がっていた。

 

『グギャアアアア!!』

 

鳴り響く断末魔。

 

強烈な剣の一振りにより断ち斬られた憑魔が叫び声をあげ崩れ落ちる。

 

『……違う……コノ剣もチガウ……何処だ……ドコダ……』

 

息絶えた憑魔の傍らに打ち捨てられた得物の剣を何者かが掴み取るが、直ぐにその剣を投げ捨てる。

 

その者の周りには断ち斬られ、引き千切られ、叩き潰された憑魔達の死体が散乱していた。

 

『ドコダ……何処だ……オレの剣は何処だぁぁぁァァァァァアア!!』

 

遺跡に木霊する怨嗟の慟哭。

 

次なる試練への挑戦は刻一刻と迫っていた。

 







あとがき
ジオウ4話にて
フジ「!?キャプテンゴーs」
友A「ゴーストのイグアナ!?」
友B「ゴーストのよくわかんないイグアナじゃん!?」
友C「リョウマ魂回で消えたイグアナ!?」
イグアナ君タイムジャッカーに再就職おめでとう!

今回の話ではゼスティリアクロスに登場したアニオリキャラが逆輸入方式で登場しています。アニメと違いマルトラン隊の所属です
だってゲーム版ゼスティリアってネームドキャラ少な(ry

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