Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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気付いたら前回の更新から二ヶ月過ぎてる……おのれディケイド!
嘘です。遅れてすいません。

今年の更新スピードクソ雑魚過ぎたので来年は頑張りたいと思います……
あと、ウォータードラゴンさんジオウで他の連中は基本フォームなのに変身解除シーンに選ばれておめでとう。

では最新話どうぞ





38話 堕ちし修羅 中篇

 

 

 

 

 

『アァァァァァァァァァ……』

 

日が昇り始めた薄暗い早朝、朽ち果てた村の中で低く不気味な声が響く。

 

轟ッ!

 

薄暗い廃村を飛び交う灼火が照らし着弾した轟音が今は誰も住んではいないキルフ村の静寂を切り裂く。

 

「あっぶなぁ!?」

 

自身の真横を掠めていった天響術の炎弾にロゼは素っ頓狂な声で叫ぶ。

 

『ごちゃごちゃと大きな声で叫ぶな! 次来んぞ!』

 

「簡単に言うなってば! 三匹いるなんて聞いてないっつーの!」

 

『一匹しかいないなんて誰も言ってないだろうが!』

 

「あーもー! ああ言えばこう言う!」

 

風の神依を纏い融合状態で細かく指示を出してくるデゼルに文句を言いながらもロゼは村の中を飛び回る。

 

それを追撃する様に何発もの炎弾がロゼに向かって放たれるが、ロゼは風の神依の機動力を活かし回避し続ける。

 

その炎弾を放った敵、その姿はズタボロの赤黒いローブを纏い不気味に空中を漂い、ローブの中から出された不気味な人ならざる片腕が意味もなく前へと突き出され手招く様に揺れ動き、感情が感じられない骸骨を思わせる顔が無機質に獲物を追っていく。

 

「気をつけてください! アレは憑魔『ファントム』、死した者の怨念が穢れにより具現化した憑魔ですわ! 天響術に注意してください!」

 

「『ファントム』か……こりゃまた縁のある名前だな。しかも三体とは厄介だ」

 

 

飛び交う火の天響術を躱しながら気怠げに言う晴人の言葉道理、キルフ村の調査にやってきた一同を待ち構えていた憑魔『ファントム』は三体存在した。

 

一体ですら連発してくる天響術が厄介だと言うのに一定距離で陣形を取った三体からの波状攻撃は中々に手強く、一同は防戦を強いられていた。

 

「キルフ村は野盗により廃村となった村です。何名か被害者が出ていたと聞き及んでいます」

 

『穢れってのはたとえ宿主が死んでも浄化しない限りその場に残る。ありゃあ野盗に襲われた村人の恐怖や憎しみが怨念として具現化したって訳だ』

 

天響術をやり過ごす為に遮蔽物に身を隠しながらそう言ったアリーシャの言葉を、融合状態のザビーダが補足する。

 

「気をつけなさい。アイツの手招きに誘われて近づくとエラい目に合うわよ」

 

「わかってるって! 子供じゃあるまいし、そんな手招きに素直に釣られる訳……って、あれぇ!?」

 

ロゼは空中を飛び回りながらエドナの言葉に余裕余裕と強気に返答したが次の瞬間、間の抜けた声を漏らしながら手招きするファントムへと無防備に近づき始める。

 

『おい! 何してんだ!?』

 

「知らないよ! 身体が勝手に動いてるんだってば!」

 

突然の行動に神依で融合しているデゼルは叫ぶが当の本人であるロゼも事態が掴めずヤケクソ気味に反論する。

 

「だから言ってんでしょ……手招きに誘われて近づくとエラい目に合うって……」

 

「アレェ!? もしかしてマジでそういう能力持ってる系!? じゃあなんで気持ちの問題的な言い方してんの!? 対策の仕方間違えるじゃんか!? 」

 

「ほら言わんこっちゃない」とでも言いたげに呆れるエドナに全力で文句を言うロゼだが、一体のファントムに能力で引き寄せられ無防備な彼女に残りの二体が天響術の照準を合わせ魔法陣を展開する。

 

程なくして天響術が発動し放たれた火球がロゼに迫るが……

 

「「蒼穹の十二連!」」

 

重なる掛け声と共に放たれた複数の青い水の矢が手招きをするファントムへと殺到、着弾し怯ませる。

 

「っと! 助かったぁ!」

 

手招きが中断され引き寄せる力から解放されたロゼは素早く風の神衣の力で急上昇し迫る火球を回避する。

 

「ロゼ、大丈夫!?」

 

「おかげさまで! サンキュー、スレイ! ミクリオ!」

 

水の矢を放った神依を纏ったスレイにロゼは感謝の言葉を告げる。だが……

 

「うわっ!?」

 

「スレイさん!?」

 

「ッ!」

 

気を抜く間も無くまた一体のファントムが手招きにより今度はスレイが身体の自由を奪われ引き寄せられていく。

 

今度はすぐさまウィザードがそれを阻止すべくウィザーソードガンで銃撃しようとするが……

 

「大丈夫! オレたちがアイツらを上手く纏めるから、みんなは攻撃の準備を!」

 

「ッ! わかった!」

 

その行動を遮るスレイの言葉を信じてウィザードは銃撃を中断する。

 

「ファントムには風の属性が有効です!」

 

「了解!」

 

「では私達が!」

 

「たっぷり、利子つけてお返ししてやろうじゃん!」

 

【ハリケーン! プリーズ! フー!フー!フーフー! フフー!】

 

ライラの言葉に風の力を纏うウィザード、アリーシャ、ロゼの3人が攻撃準備へと移る。

 

一方で無防備な状態で引き寄せられたスレイに残り二体のファントムは先程同様に魔法陣を展開するが……

 

 

「今だミクリオ!」

 

「あぁ!」

 

突如、水の神依が解除され、引き寄せる能力で拘束状態のスレイの頭上にミクリオが現れる。

 

「《双流放て! ツインフロウ!》」

 

空中で詠唱を終え、放たれた二対の水流が螺旋を描きながら手招きするファントムへと直撃し怯ませる。

 

そこに引き寄せられる力から解放されたスレイが勢いをそのままに怯んだファントムの懐へと飛び込む。

 

「蹴散らす! 旋狼牙!」

 

スレイは斬りおろしの一撃から飛び上がり回転しつつ踵落としと斬撃の連続技を叩き込み、更に風の霊応力を纏った剣で発生させた真空波で敵を斬りあげると最後に強烈な蹴りを見舞いファントムを吹き飛ばす。

 

勢いよく蹴り飛ばされたファントムは焼け落ちた民家に直撃し倒れこんだ。

 

「《氷刃断ち切れ! アイスシアーズ!》」

 

更にミクリオの詠唱により、残り二体のファントムの足元から生えた氷の刃が貫く。

 

「まだだ!」

 

しかしそれで終わりでは無い。貫いた氷の刃はまるでアクセルを踏み込んだ車の速度メーターの様に勢いよく振り動き、刺し貫かれたファントム達もまた勢いのまま吹き飛ぶと先程スレイが吹き飛ばしダウンしたファントムに直撃する。

 

「今だ、みんな!」

 

スレイの叫びと共に準備を終えた3人の攻撃が放たれる。

 

【ハリケーン! スラッシュストライク!】

 

「ハァァッ!」

 

「「《アベンジャーバイト!》」」

 

風の顎と刃がファントム達へと襲い掛かり、その叫びごと暴風が飲み込む。

 

だが……

 

「ッ! まだだ!」

 

一体は浄化できたものの、残り二体は大ダメージを負いながらも攻撃を耐えていた。

 

敗北を感じてかフラフラとそれぞれが別の方向へと逃亡を図る。

 

しかし逃げ道を塞ぐ様に炎と土の壁がその行く手を阻んだ。

 

「逃がしませんわ!」

 

「生憎とこっちは次が控えてんのよ」

 

逃亡を防いだライラとエドナ。そしてその隙を逃さず、決着をつけるべく霊応力を解放したスレイとミクリオがそれぞれファントムへと肉薄する。

 

「逃がしはしない!」

 

ミクリオが三発の水弾を放ちファントムを怯ませる。続けて得物である長杖に水の霊応力を収束させ青く輝く長杖を投槍の要領でファントムへと投擲する。

 

「クリアレスト・ロッド!」

 

長杖に貫かれファントムの姿は完全に搔き消える。

 

一方のスレイも得物である儀礼剣へ白い雷を纏わせファントムへと斬りかかる。

 

「刃よ吼えろ!」

 

連続斬りを叩き込み、トドメとばかりに剣を両手持ちで飛び上がりながらの斬りあげで真下からファントムを両断する。

 

「雷迅双豹牙!」

 

その一撃により決着はつき、キルフ村に響く怨嗟の声は止み、廃村は静けさを取り戻した。

 

 

 

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「いやぁ、順調! 順調! この調子なら水の試練も楽勝なんじゃない?」

 

「ふん……何言ってやがる。さっきの戦いで一番ピンチで喚いてただろうが」

 

「ちょっ!? 何さ何さ! 折角いい調子で勝てたんだから水差さないでよね!」

 

「むしろお前に関しては先が思いやられるよ。あの調子だとな」

 

「はぁあ!? そういう事言っちゃいますか!? そもそもアンタだってあたしと融合してたんだから連帯責任じゃん! アンタだってミクリオみたいに上手く対応できてた訳じゃ無いじゃんか!」

 

「…………チッ」

 

「あー! それよそれ! 都合悪くなると舌打ちとダンマリですか! そーですか!」

 

「まぁまぁ、お二人とも……」

 

緑溢れ空気の澄んだ青空の下、一同はレイクピロー高地を徒歩で進んでいた。

先程の廃村であるキルフ村での憑魔との戦いを終え次なる目的地であるモーガン大滝へと向かっているのである。

 

先程の憑魔ファントムとの戦いを振り返りポジティブな発言をしたロゼに対して苦言を呈したデゼル。その言葉に頬を膨らませ不満げに反論するロゼ。

 

大きな声で食ってかかるロゼだがその口調にはトゲは無くいつもの二人のじゃれあいの延長線上のものだと他の皆は苦笑いで様子を見守っていた。

 

「そうだ。キルフ村はこの後どうなるの?」

 

ふと疑問を覚えたのかスレイがアリーシャへと問いかける。

 

「浄化は完了したがキルフ村には折を見て、レディレイクから司祭を派遣して亡くなった者達へ祈りを捧げ、丁重に弔おうと思う」

 

「それが良いな。確かに穢れは祓ったかもしれないが、それでも亡くなった人達は人間のやり方でちゃんと弔ってあげないとな」

 

「あぁ、そして生き延びた村の者達がいつかキルフ村を再建できる様にこれからも尽力したいと思う」

 

アリーシャの言葉に同意する晴人に彼女もまた力強く頷く。

 

「でもまぁ、真面目な話も大切だけど、今日はこれからまだ一仕事ある訳だし、あんま肩に力入れすぎ無いようにね」

 

「お前はもう少し普段から肩に力をいれるべきだと思うがな」

 

「それまだ言う? ねちっこい姑かアンタは」

 

そんな二人にロゼが口を挟むがそれに対してデゼルが再び苦言を呈する。

 

そんな二人に一同は顔を見合わせ再び苦笑する。

 

「まぁ、でも危ない場面があったとは言え、特に怪我する事もなく上位憑魔に勝てたんだ。調子に乗るのは良くないが自信は持ってもいいんじゃないか?」

 

「あぁ、特にスレイとミクリオ殿の連携は見事だった。あの引き寄せる能力に見事に対応し勝機を作ったのだから」

 

「スレイを囮にして神衣を解除したミク坊の奇襲。確かにアレは上手い策だったよなぁ」

 

晴人、アリーシャ、ザビーダはファントムとの戦いで二人が見せた対応を思い出し賞賛する。

 

「天響術の使い方もお見事でしたわ。アイスシアーズは元々二本の氷の刃で対象を断ち切る術ですがあの様に使うとは」

 

「ま、ミボにしては中々なんじゃないの。今回は75点ってとこね」

 

「だからなんでエドナが偉そうなんだ……まぁ僕としても足手纏いになるつもりは無いからね。日々、色々と試行錯誤はしているつもりだよ」

 

そう言って少し自嘲した言葉を零すミクリオ。その言葉にアリーシャは首を傾げる。

 

「ミクリオ殿? 我々は別に足手纏いなどとは……」

 

「勿論それはわかっているよ。けど、ここにいる天族の中で僕が一番、経験も知識も足りていないのは事実だ。だからこそ研鑽は必要なんだ」

 

その言葉にこの場にいる面々にあまり詳しく無い晴人が反応する。

 

「へぇ、ミクリオってここにいる天族の中で一番歳下なのか」

 

天族組の中で外見の年齢で言えばエドナの次に若く見えるミクリオではあるが以前エドナの実年齢の話題が出た事もあり、外見はあてにならないと思っていた晴人は率直な感想を述べる。

 

「ミクリオはオレと同じで20歳だよ。オレとミクリオは赤ん坊の時、一緒に拾われて育ってきたからね」

 

「拾われた?」

 

スレイの言葉に引っかかりを覚えた晴人は思わず聞き返す。

 

「ジイジ……オレ達の故郷、イズチの長老でオレ達の育ての親なんだけど、ジイジが言うには20年前に赤ん坊のオレたちを里の近くで拾ったらしい」

 

その言葉に今度はロゼが反応する。

 

「へぇ、二人が仲の良い幼馴染なのは知ってたけど赤ん坊の頃から一緒だったんだ。でも、イズチってレイクピロー高地の先のマビノギオ山岳にあるんでしょ? あそこって、ただでさえ恐ろしい標高に加えて確か迷いの森を越えなきゃ行けないんじゃなかったっけ? そんな場所で赤ん坊が拾われるなんて事あるの?」

 

そんなロゼの疑問にスレイとミクリオは苦笑する。

 

「そこに関してはジイジははぐらかすんだよなぁ」

 

「少なくとも人間であるスレイには両親もいるはずなんだがジイジはあまりその事を話したがらないんだ」

 

「ふーん、気になったりしないわけ?」

 

「そりゃあ気になるか気にならないかで言えば気になるよ? でもジイジだって意地悪で秘密にしてる訳じゃ無いし、きっと理由があると思うんだ。だからオレはジイジが話してくれるまで待つつもりだよ」

 

そう言って笑うスレイの表情には自身の育ての親への絶対的な信頼があった。

 

「(両親か……まぁ本人がこう言っている以上、周りが変に湿っぽくなるのも違うよな)」

 

晴人もまたその話を聞いて『両親』の部分に思う所はあったがスレイ自身の言葉を聞いて同情的な反応はかえって失礼と思い、内心で言葉を飲み込む。

 

その時、今度はライラが懐かしむように口を開いた。

 

「それにしても、この場所を歩いているとスレイさん達と出会った頃を思い出しますわ」

 

その言葉に一同の視線がライラへと注がれる。

 

「あー、そう言えばレディレイクの加護を取り戻すために、前もここに来たもんね」

 

「懐かしいですね。まだそれほど経った訳でもないですが、とても昔の事に感じられます」

 

ライラの言葉に懐かしげに反応するスレイとアリーシャ。その言葉に晴人が問いかける。

 

「ん? 前にもここに来た事あるのか?」

 

「正確には今回目指しているモーガン大滝の更に高い場所にある『ガラハド遺跡』に用があったんだ。あの頃はレディレイクの加護を取り戻そうとしていたんだが、加護天族であるウーノ様に宿る器が無くてね」

 

「ですので水の天族であるウーノさんが器にできる清らかな水を求めて、清浄な水が祀られる『ガラハド遺跡』へとやってきたのですわ」

 

「あの頃に比べると大分状況も変わったなぁ……前は大臣達とも折り合い悪かったから目立たない様に行動しなくちゃいけなかったし」

 

「それが今や騎士団も協力的だからね。やはり支援を受けられると立ち回り易い」

 

独力で動いていた以前とは違い、今は評議会からも一定の支持を得られた事もあり、公然と活動できるようになった事は大きい。

 

実際、今もレイクピロー高地でモーガン大滝の近隣に駐屯していた部隊に馬を預け、キルフ村での報告も済ませスムーズに試練神殿へと向かえているのだ。

嫌がらせを受けていた以前に比べれば雲泥の差だろう。

 

「ふっふっふっ……でもアリーシャ的には少し残念なんじゃない?」

 

「ん? 残念とは……何が?」

 

ニヤニヤと笑いながらそう言ったロゼにアリーシャは首を傾げるが……

 

「だって前みたいにお忍びじゃ無くなってハルトのバイクに二人乗りできなくなっちゃったしぃ〜?」

 

その言葉にアリーシャの顔が赤く染まる。

 

「なぁ!? あ、アレは別にそんな意図は……」

 

「えぇ〜? でも前も馬車に乗らないで当然のように2人乗りしようとしてたじゃ〜ん」

 

「だからアレは、ついそれまでの慣れで……」

 

「つまり『ハルトの後ろは私のものだ!』……と?」

 

「言ってないだろうそんなこと!?」

 

顔を赤くしながら必死に反論するアリーシャをロゼは面白そうにのらりくらりと躱しながらも的確に言葉のカウンターを放ち更にアリーシャの顔を赤くさせていく。

 

明らかにからかわれているのだが相変わらずその手の話題に免疫のないアリーシャは完全に術中にハマっている。

 

そんな二人のやりとりを微笑ましそうに見つめながらライラが口を開く。

 

「フフ……以前訪れたときよりも少しばかり賑やかになりましたわね」

 

「騒がしいとも言うわね」

 

「そう言うなよエドナちゃん。旅は道連れ、賑やかな方がいいもんさ」

 

「ザビーダさんの言う通りですわ。前は3人でしたが、やはり賑やかな方が楽しいですし」

 

そう言ったライラの言葉に晴人が反応する。

 

「3人? 導師になった頃ならスレイとミクリオとライラとアリーシャで4人とかなんじゃないのか? さっきの言い方からして遺跡に行った時はアリーシャも一緒だったんだろ?」

 

その問いかけにアリーシャはなんとも言えない表情を浮かべる。

 

「いや、確かに私も同行はしていたが……」

 

「なんと言いますか……」

 

歯切れの悪いアリーシャとライラに当時を知らない他のメンバーは首を傾げる。そんな一同にスレイが苦笑いしながら口を開く。

 

「あははは……あの時はオレとミクリオ、喧嘩しちゃっててさ……」

 

「僕はそれで別行動していたんだ」

 

そう言った二人にロゼは意外そうな表情を浮かべた。

 

「へぇ、意外。二人って仲良しだし何かと熱中して議論になる事はあっても喧嘩とかするイメージ無かったけど」

 

「あの時は、スレイさんは導師となったばかりでミクリオさんを陪神とする事に……いえ、導師の使命に巻き込む事に悩んでいましたから」

 

「なるほどねぇ……そんで、ミク坊としてはそこで遠慮して気を遣われたのが逆に嫌でギクシャクして喧嘩になったって訳か」

 

「男の意地ってやつ? イマイチわからない世界よね……」

 

「そんな事ありませんわ。若さ故の衝突、まさに青春!」

 

「ライラ……なんか視点がおばさんっぽい」

 

「お、おばっ!?」

 

ロゼのツッコミに項垂れるライラ。それに苦笑しながらも晴人はアリーシャに問いかける。

 

「それで、喧嘩した結果、スレイとアリーシャとライラだけで遺跡に向かったって訳か。大丈夫だったのか? それって火の属性を持つライラしかいないって事だろ? 火に耐性のある憑魔が相手になったら厳しいんじゃないのか?」

 

今でこそ4つの属性を司る天族達が味方になっている為、相手に合わせて有利となる立ち回りができるが、それは逆に言えば4人揃うまでは苦戦を強いられる状況が生じ易いという事だ。

 

その問いかけにアリーシャも頷く。

 

「あぁ、遺跡には火に対して耐性を持つ憑魔が大量にいて苦戦を強いられた。だが……」

 

「そこに現れたミクリオさんとスレイさんが力を合わせて水の神依の力で憑魔を浄化してみせたという訳ですわ」

 

「なるほど、それで結果的に仲直りできたのか。雨降って地固まるというやつか」

 

「えぇ、初めての神依だとは思えないほど息が合っていて、やはり2人は親友なのだと感じました」

 

「いや、まぁあのくらいは……」

 

「長い付き合いだしね……」

 

過去を思い出しながらそう賞賛するアリーシャにスレイとミクリオは恥ずかしそうに笑いながら頬をかく。

 

「しかし神依を使ったという事はその時点で『神器』を持ってたって事か。意外だな、ライラは兎も角、ミク坊はそこら辺の事情には詳しく無いと思ってたが」

 

意外そうに言葉を漏らすザビーダに晴人は首を傾げる。

 

「『神器』? なんだそれ?」

 

「あぁ、そう言えばお前さんにはそこら辺説明した事無かったか。神依の時に使ってる武器があるだろ? 」

 

そう言われて晴人はスレイ達が使う神依の武器を思い出す。

 

「火は大剣、水は弓、土は籠手、風は……剣の羽みたいな感じだったよな?」

 

「あぁ、あれは元々、神器って言われる霊力を操作する術式が刻まれた特殊な武器が形を変えたものでな。その神器と神器に対応した属性の天族が揃う事で神器を元にした神依が完成する訳だ」

 

「へぇ、普通に変身してると思ってたけどそういうのが必要だったのか……俺にとってのドライバーと指輪みたいなもんか」

 

「アンタの喧しいベルトと一緒にされるのも中々複雑ね……」

 

ボソリと呟くエドナだがそんな彼女に苦笑しつつもスレイがザビーダの問いかけに返答する。

 

「いや、水の神器はガラハド遺跡に祀られてたんだ。そう考えると本当に運が良かったのかも」

 

「確かにね。清浄な水を祀る遺跡なのは知っていたが……」

 

「別にいいんじゃない? 結果的に仲直りの切っ掛けになって話が上手く纏まった訳でしょ? 儲け物と思っておきなよ」

 

「それはまぁ……お互い腹を割って話す切っ掛けになったのは事実だが……」

 

身も蓋も無いロゼの言葉にミクリオは面食らった表情を浮かべる。そこに続く様に晴人が口を開く。

 

「何にせよ仲直りできたのならそれに越した事は無いさ。仮に別々の道を行く事になったとしても友達と喧嘩別れなんてするもんじゃないからな。すれ違ったまま、それっきりになったら、それは心のどこかに引っかかり続ける事になるからさ」

 

「ま、言いたい事を言えず終いってのは嫌なもんだわな」

 

『…………』

 

どこか実感のこもった晴人の言葉にザビーダもまた短い言葉で同意し、ロゼ、デゼル、ライラ、エドナの四人もそれぞれ思い当たる事があるのか口を噤んだ。

 

そんな中でもスレイは明るく胸を張りながら返答する。

 

「大丈夫だって! オレとミクリオは世界中の遺跡を冒険するって同じ夢があるからさ! これからだって喧嘩する事はあってもずっと一緒だよ!」

 

そう言い切るスレイの表情には微塵の曇りもなく彼が自身とミクリオの友情に絶対的な信頼を持っている事を感じさせた。

 

だが……

 

「ずっと一緒……か」

 

「……? ミクリオ殿、どうかされたのですか?」

 

そんなスレイの言葉をミクリオはどこか上の空で憂いた様に反芻する。そんなミクリオの反応に疑問を持ったのかアリーシャがどうしたのかと問いかける。

その言葉にハッとした様にミクリオはすぐに表情を取り繕った。

 

「い、いや! これからもスレイの無茶に付き合わされると思ったら少し憂鬱になってね」

 

「あー! なんだよその言い方! オレだっていつまでもミクリオに迷惑かける様なことしないって!」

 

「だといいけどね。スレイの無茶が治るとは僕には思えないけど」

 

「なんだよ! オレだってミクリオを助けた事だってあるじゃないか!」

 

「スレイが一回僕を助けるまでに僕はスレイを何回も助けてると思うけどね」

 

 

いつのまにかギャーギャーと言い争いを始める二人。

 

「す、スレイ!? ミクリオ殿!?」

 

「はぁ……言ってるそばから喧嘩してるし……男ってホント……」

 

「じゃれ合いみたいなもんだ放っておけ」

 

言い合いを始めた二人にあわあわとするアリーシャ。エドナとデゼルは呆れながらも我関せずとスルーを決め込む。

 

「おーい、仲が良いのは結構だけどそろそろ目的地みたいだぞー」

 

そんな一同にロゼから声がかけられた。

会話を止めると確かに滝の流れ落ちる音が一同の耳に届く。

一同は表情を引き締めると歩みを早めた。

 

 

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「おぉ、これがモーガン大滝か……」

 

流れ落ちる巨大な滝。それを見た晴人は思わず感嘆の声を漏らした。

 

彼の住んでいた日本にも滝はあるがそれらと比較しても簡単にはお目にかかれないほどの巨大な滝は異国ならではの光景だろう。

 

「これだけの高さを誇る滝なら確かに裏側に遺跡があったとしてもおかしくはないか」

 

「まぁまだ試練神殿って決まった訳じゃないけど調べてみる価値はあるよね」

 

「いや、それに関してはほぼ確定と考えて良いと思うぜ」

 

スレイとミクリオの言葉に答えながら晴人は取り出した指輪、ウィザードリングを一同に見せる。

 

晴人の手のひらに乗せられた指輪は以前の火の試練神殿の時と同様に共鳴する様にチカチカと点滅を繰り返している。そして対応する指輪の持つ属性は青く輝く水の指輪だ。

 

「なるほどわかりやすいな」

 

「よっしゃ! 骨折り損にはならなそうだし気合い入ってきたかも!」

 

晴人の言葉にロゼはグッと拳を握り前向きな言葉を放つが……

 

「で? どうするんだ? 滝の裏側って事は泳ぐのか?」

 

「うっ……気合いが抜けてきたかも……」

 

「速いなオイ……」

 

目の前の巨大な滝は横から回り込める様な地形ではなく、その巨大さ故に滝壺も広く、深い。滝の裏側に向かうには普通に考えれば泳いでずぶ濡れになることは避けられないだろう。

その事実にロゼはゲンナリとした表情を浮かべる。

 

そこにミクリオが一歩前へでる。

 

「任せてくれ。これは僕の試練だからね」

 

そう言いながらミクリオは獲物の杖を構え集中すると足元に水色の魔法陣を展開する。

 

「ハァッ!」

 

展開された魔法陣より生じた氷の霊力を杖へと収束させ滝に向けて振るう。

 

すると……

 

「おぉ! 氷の道ができた!」

 

ミクリオが放った氷の霊力により滝へと一直線に水面が氷結し氷の道を作り出す。その光景にロゼは感嘆の声を零す。

 

「さっすがミクリオ! ……でも落ちてくる水で濡れちゃうな……あっ! ねぇ、エドナ? お願いが……」

 

「傘なら貸さないわよ。自前のフードで我慢なさい」

 

「えー……ケチー!」

 

「フフッ……貸さない……傘だけに……流石エドナさん、お上手ですわ!」

 

「ッ……ククッ」

 

「オイ、なんか意図してない所でオヤジギャグ愛好家2名がツボってんぞ」

 

「あ、あははは……」

 

子供の様なやり取りをを繰り広げる二人に対して何故か謎のスイッチが入って笑いを浮かべるライラとデゼル。

そんな光景をザビーダは若干引き気味に見守り、スレイは乾いた笑いを零した。

 

「……別に褒めて欲しい訳では無かったけど……オヤジギャグに話題を持っていかれるのも辛いものがあるな……」

 

「だ、大丈夫ですよミクリオ殿! 日頃のミクリオ殿の修練の成果、素晴らしかったです!」

 

「あぁ、もっと自信持っていいからなそんなに凹むなって。お前はちゃんと凄いって」

 

自分の頑張りがしょーもないオヤジギャグに話題を持っていかれズーンと項垂れるミクリオ。晴人とアリーシャは慌ててフォローに回る。

 

「いいから凹んで無いでさっさと滝の水まで何とかしなさいミボ。このままじゃ、私が濡れるでしょ。そこまでできて及第点よ」

 

「くっ、なんで偉そうなんだ……わかっている。最初からそのつもりだったんだ」

 

ミクリオは気を取り直して再び杖を構え再び魔法陣を展開する。

 

「水よ……!」

 

霊力の収束した杖を今度は流れ落ちる滝へと向ける。すると流れ落ちる滝は氷の道を避けるように左右へと別れ滝の奥にある遺跡への入り口がその姿を現した。

 

「おお! ナイス、ミクリオ! これで濡れずに済む!」

 

「ハァ……俺様としては……」

 

「服を濡らした女性陣が見たかったって話ならもう聞き飽きたからな?」

 

「お? ハルト、中々俺の事がわかってきたじゃねぇか」

 

「悲しい事にな」

 

試練神殿を前にしても、あいも変わらないザビーダの軽口に晴人は小さく溜息を零した。

 

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「おぉ、なんというかこりゃまた凄いねぇ」

 

「あぁ、とても神秘的な光景だ……」

 

滝の裏にある入り口から奥へとたどり着いた一同。そこに広がる光景にロゼとアリーシャは思わず感嘆の言葉を漏らす。

 

遺跡の内部は巨大な空洞となっており、上を見上げると遥かに上まで空間が広がっていた。

 

晴人達が立つ場所から視認するのが難しい程の高さを至る箇所から水が流れ落ち、遺跡へと立ち入ったばかりの一同の足元を濡らしている。

 

薄暗い遺跡の中を僅かに水色の光源が照らしており、遺跡全体を幻想的な雰囲気が包み込んでいた。

 

「なんか水が色んな所から流れてるけど大丈夫なのこれ? 壁が壊れて水で溺れたりしない?」

 

「いや、遺跡の外壁を見る限り全く滝による侵食は見られない」

 

「これだけ古い遺跡なのに侵食を受けてないって事は天響術が使われてるって事かな?」

 

「だろうね。つまりこの遺跡もアヴァロスト時代の代物という事だ」

 

そう言いながら頭上を見上げたミクリオが小さく言葉を零す。

 

「どうやら今回は上を目指す事になりそうだね」

 

恐らくは一同が立つ場所は遺跡の中心部なのだろう。

頭上を見上げると、吹き抜けになっている空洞の壁の至るところから、石造りの道が更に高い位置を目指す様に伸びている。つまりは今いる空洞の外側には幾つもの部屋があり、頭上の道は部屋と部屋を繋いでいる複雑な構造ということだ。

 

となれば下を目指す事になった前回の火の試練とは逆に今回はひたすら上を目指していくということになる。

 

「うぇー……メッチャ高いじゃん。これ流れ的に一番上まで行かなきゃいけないやつだよね? 絶対大変じゃん」

 

「まぁ試練だしね」

 

予想される今後に早くも気怠げに項垂れるロゼ。アリーシャはそんな彼女の姿に苦笑する。

 

そんな時……

 

 

「ほう……導師がこの地に訪れるのは久しぶりだ」

 

突如、響いた聞きなれない声に一同が一斉に振り返る。するとそこには……

 

「貴方は……?」

 

以前の試練神殿で出会った火の護法天族エクセオと同じく白い法衣を纏い仮面で顔を隠した人物が立っていた。

 

「水の五大神アメノチ様に仕える護法天族、『アウトル』だ。水の試練神殿ルーフェイへよくぞ訪れた。新たなる導師」

 

「あ、導師のスレイです」

 

「主神のライラです」

 

アウトルの言葉に二人はすぐさま名乗り頭を下げる。

 

「へぇ、前のエクセオって人は憑魔に化けて出てきたけど今回はいきなりなんだ」

 

「ろ、ロゼっ!? 」

 

一方のロゼは前回との違いを率直に口に出すが、一方のアリーシャはあまりにも砕けすぎなロゼに焦った表情を浮かべる。

 

「ふっ……同じやり方では芸が無いからな。君達の事はエクセオから聞き及んでいる。導師と従士と天族、それ以外にも今回は特殊な者達がいるとな」

 

そう言ってアウトルは晴人とアリーシャを一瞥する。その言葉からして、どうやら護法天族は何かしらの手段で連絡を取り合えるようだ。

 

「こっちの事情を知ってるって事か。まぁ何回も説明する手間が省けるけどさ」

 

そう言って肩をすくめる晴人。そこにスレイがアウトルへと問いかける。

 

「あの、オレ達は水の秘力とハルトの力を探してここに来たんですけど、どうしたら秘力を授けて……」

 

貰えるのか? そう言おうとしたその時……

 

 

 

 

『オオオオオオオオオォォォォ!!!』

 

『ッ!?』

 

頭上より響いた激しい叫び声が遺跡の中を駆け巡った。

 

「な、なに今の!?」

 

「叫び声!? けどなんで!?」

 

「もしや、誰かが迷い込んで!?」

 

警戒しながらも一同は事態を把握しようとするが……

 

「安心していい。今の叫びはこの遺跡に封じられた憑魔のものだ」

 

なんて事も無いようにアウトルが静かな声でそう告げる。

 

「憑魔? 今のが?」

 

「あぁ、この遺跡の一番奥にある部屋に封印された憑魔……その名を『アシュラ』。君達にはその憑魔を浄化してもらいたい。それが秘力を授ける試練だ。言っておくが前回のエクセオの様にこちらが化けた偽物では無い。気を引き締めて臨む事だ」

 

そう告げたアウトルにライラ、ザビーダ、エドナは訝しげな表情を浮かべる。

 

「アシュラ……? 聞いたことの無い憑魔ですわ」

 

「恐らくは変異タイプか……気は抜けないぜ、こりゃ」

 

「まぁ、戦うのはワタシじゃなくてスレイとミボだし関係無いけどね」

 

「見事に他人事!」

 

傘を差してクルクルと回すドライなエドナにロゼとミクリオは呆れた視線を向けるが……

 

「いや、今回のアシュラとの戦いには2人の他に従士、そして魔法使いと姫にも参加してもらう」

 

アウトルの口から放たれた言葉に一同は驚いた表情を浮かべる。

 

「え? あたし達が参加していいの?」

 

「まぁ、手伝えるならこっちとしても望む所だけどさ」

 

ロゼと晴人は意外そうにそう言うが、一方のアリーシャはどこか不安そうな表情でアウトルに問いかける。

 

「あの……アウトル様、もしやハルトの事を何か疑っているのでしょうか?」

 

以前の火の試練でもエクセオはファントムを宿した晴人を試すべく力の試練に参加させた。結果としてエクセオは晴人の事を認めてくれたがだからと言ってアウトルもそうだとは限らない。

 

そんな不安で晴人の事を案じたアリーシャだが……

 

「そういう訳では無い。エクセオの判断は信用している。だからこそ君達が参加する必要があると判断した」

 

どこか含みを持たせた意味深なその言葉に一同は首を傾げる。

 

「力の試練はアシュラを浄化するって事ですよね? じゃあ心の試練は?」

 

そう問いかけるスレイだがアウトルは首をゆっくりと横に振る。

 

「それを言ってしまったら試練にはならない。

心の試練が何かはこの神殿を進めば自ずとわかる。では、導師よ。進むといい」

 

そう言ってアウトルは正面の扉へと視線を向ける。

 

「はい! 」

 

スレイは威勢よくそれに応え、一同は奥の部屋へと歩みを進めた。

 

一同がいなくなり一人残されたアウトル。

 

そこに再び叫び声が鳴り響く。

 

『何処だァ!? オレの剣ハ……オレノ剣ハドコダァァァ!?』

 

響き渡るその声にアウトルは頭上を見上げた。

 

 

 

「きっと……君は私を恨むのだろうな……」

 

そう小さく零したアウトルの手には一振りの剣が握られていた。

 

 

 

 

 




あとがき

ジオウ4話
フジ「イグアナを選ぶとかタイムジャッカーは不遇玩具の怨念でも司ってるのか?」
ジオウ10話
フジ「キャッスルドラン……これは不遇玩具の怨念ですね間違い無い」(注:キバは大好きです)
スウォルツさんはパワードイクサとアクセルガンナーとライドブースターが合体した戦隊ロボみたいなので出てこねぇかなぁ(期待)

ジオウのゴースト編がやりたい放題の破壊者と寺生まれのT殿といつも通り急に現れてキレるマコト兄ちゃんで面白過ぎる。今後も楽しみです

今年の更新は恐らくは今回が最後になると思います。どんより食らった様な更新速度で申し訳ありませんが。宜しければ来年も今作にお付き合いください

では、よいお年を

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