Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

40 / 47
まだ今年更新2回目とかほんと情けない……

なおまだ水の試練編は終わらん模様

あとテイルズ据え置き新作ウレシイ……ウレシイ……

では遅くなりましたが最新話をどうぞ


40話 堕ちし修羅 後篇②

 

『ウオォォォォォォォ!!』

 

低い唸り声を上げ憑魔アシュラはスレイ達へと肉薄する。

 

ゴオォッ!と風を切り振り下ろされる一対の両腕に握られたハンマーを一同は左右へと飛び回避する。

 

「いきなりのご挨拶だな! 変身!」

 

【フレイム! プリーズ! ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!】

 

晴人は手早くドライバーを操作し指輪をかざし魔法陣を展開。フレイムスタイルへとその姿を変える。

 

【コネクト! プリーズ!】

 

「さぁ、ショータイってうぉ!?」

 

魔法陣からウィザーソードガンを取り出しながら、いつも通りに決め台詞を言おうとするも振るわれたら大剣の横一閃をウィザードは驚きながらもスウェーで紙一重で回避する。

 

『フゥゥン!!』

 

「ぐぅっ!?」

 

更に続くもう片方の大剣による縦一閃。それをウィザードは剣で受け止める。だが人を遥かに超える巨体が繰り出す大剣の一撃の重さにたえきれずウィザードは膝をつく。

 

更に残ったアシュラの腕に握られた二本のメイスがウィザードに向けて振り下ろされようとする。

 

「「蒼海の八連!」」

 

だがそこに神依を纏ったスレイが青く輝く水の霊力の矢を放つ。8本の青い矢は螺旋を描きながらアシュラへと殺到するが……

 

『フゥゥンッ!』

 

振り上げたメイスとは別のハンマーを持った腕を振るいアシュラは容易く放たれた矢を斬り払う。

 

だがその隙にウィザードは受け止めていた大剣の重量を横に逸らしその場から後方へ一気に跳躍し距離を取る。

 

「アリーシャ!」

 

「あぁ!」

 

【フレイム! スラッシュストライク!ヒー! ヒー! ヒー!】

 

ウィザードとアリーシャ。2人の得物が炎の魔力を纏う。

 

そこに黙って見ている筈も無いとアシュラが凄まじい勢いで接近するが……

 

『ぐぉぉお!?』

 

踏み込んだ足元が突如として輝き爆発しアシュラは思わず態勢を崩す。

 

「幻針・土竜。驚いたっしょ?」

 

『幻針・土竜』土の霊力を地面に打ち込む事により地雷の様な罠として用いる彼女の技であり、アシュラを怯ませ、してやったりとロゼは笑みを浮かべる。

 

ロゼにより生じた隙にウィザードとアリーシャはすかさず動く。

 

「魔王炎撃破!」

 

「ハァァァア!」

 

『グオォォォォォオ!?』

 

2人の炎の魔力を纏った一閃がアシュラに叩き込まれ。アシュラは叫びを上げ爆炎に包まれる。

 

だが……

 

『ウォォォォォォオ!!』

 

爆炎を振り払い以前健在のアシュラが現れる。

 

「うぇ!? 直撃だったでしょ!?」

 

「恐らくは火属性への耐性持ちだ。あの状態を見るにかなりのな」

 

油断なく弓を構えるスレイの中から状況を分析するミクリオの声が響く。

 

「となると、フレイムドラゴンもあまり相性は良くないか……」

 

「なら水の魔力で! 今、オレ達の中で天族は水の属性を持つミクリオだけだ! 下手に属性を分けずに水の属性による一点突破で!」

 

「ならあたしはフォローに徹するよ。水の神依ならあたしよりスレイの方が向いてるでしょ」

 

「りょーかい!」

 

【ウォーター!プリーズ! スイ~スイ~スイスイ~】

 

ウィザードはウォータースタイルへと姿を変えそれに共鳴しアリーシャの纏う魔力も水属性へと変化する。

 

「海龍旋!」

 

アリーシャは即座に槍へと水の魔力を収束させると回転しながら槍を振り上げ、発生させた渦巻く水流をアシュラへと放つ。

 

『フゥン!』

 

アシュラはハンマーを叩きつけ衝撃で水流を弾き飛ばす。そこにすかさずロゼが踏み込む。

 

「断ち切れ! 水芭蕉!」

 

水の霊力を纏った短剣での薙ぎ払い。だがそれも大剣で防がれる。

 

【ウォーター! シューティングストライク! スイ! スイ!】

 

「「《星よ散り逝け! 散りし六星!》」」

 

そこに水の魔力の弾丸と水の霊力の矢が殺到する。

 

『グォォ!?』

 

何発かは叩き落とすものの数発がその身体に命中しアシュラの身体が僅かに揺らめく。

 

浄化の力を持つ水の攻撃にアシュラは僅かに呻き、攻撃が命中した箇所には僅かに傷が生じた。

 

「よし!効いてる!」

 

「どうやら水の属性には耐性が無いしらしい」

 

「けどあの6本の腕が厄介だな」

 

「あぁ、攻防一体、中々に攻めきれない」

 

「ならさっきの村で戦った時のアレとかどうよ? 意表を突けるんじゃない?」

 

「オレもそう思ってたとこ!よし!いくよ!みんな!」

 

ロゼの言葉にスレイは力強く頷くと一同に向けて叫ぶ。

 

それに応える様にアシュラに向けて駆け出す一同。

 

「「ハァッ!」」

 

アリーシャとロゼは左右に分かれてアシュラを挟撃する。だがその攻撃はメイスを持つ両腕が防ぐ。

 

だがその隙を見逃さずにスレイとウィザードが正面からアシュラに肉薄する。それに対してアシュラはハンマーを持つ二本の腕を振り下ろすが……

 

「「今だ!」」

 

【リキッド! プリーズ!】

 

振り下ろされたハンマーをウィザードは液体化の魔法ですり抜けるとアシュラの頭上へと舞い上がる。

一方のスレイも神依を解除しミクリオと分離すると振り下ろされたハンマーを左右へと飛び回避しすかさず懐へと飛び込む。

 

【ウォーター! スラッシュストライク!】

 

「剣よ!吼えろ!」

 

空中でウィザーソードガンに水の魔力を収束させるウィザードと、アシュラの懐に飛び込みながら懐に飛び込みながら儀礼剣へと雷の霊力を収束させるスレイ。

 

だがアシュラにはまだ大剣を持つ二本の腕が残っていた。アシュラはすかさず残された腕で二人を迎撃しようとするが……

 

「《氷刃断ち切れ! アイスシアーズ!》」

 

ガギィッ!という軋む様な音ともに振るおうとしたふた振りの大剣が地面から生じた二本の氷の刃に阻まれ動きを止める。

 

「いけ!スレイ! ハルト!」

 

氷の刃を生み出したミクリオの叫びに応える様にスレイとウィザードの剣が振るわれる。

 

「ハァァァア!」

 

「雷神双豹牙!」

 

上空からの縦一閃と足元からの斬り上げがアシュラの身体を斬り裂く。

 

『グォォォォォォア!?』

 

アシュラは絶叫を上げ数歩後退ると天井を仰ぎ見るように大の字に倒れ込んだ。

 

_________________________________________

 

「なによ、思ったより楽勝そうね」

 

「……この調子で気を抜かんと良いんだかな」

 

スレイ達がアシュラと戦う様子を結界の外でエドナとデゼルは軽い調子の言葉、それでいてどこか安堵したように事態を見守っていた。

 

「お二人ともご心配でしたらもう少し素直にそう言えば宜しいのでは?」

 

「……は? 別に心配なんてしてないわよ」

 

「俺はロゼの奴が調子に乗って足を引っ張らないかと思っただけだ……」

 

かけられた言葉にすぐさまぶっきらぼうに返答する二人にライラは思わず苦笑する。

だがいつもならこういう状況で真っ先に軽口を叩きながらそれを指摘しそうなザビーダが静かな事にライラは違和感を覚えた。

 

「ザビーダさん? どうかされたのですか?」

 

口を閉ざしているザビーダにライラは声をかける。

 

「……妙じゃねぇか?」

 

ゆっくりと開かれた彼の口から発せられたのは普段のお喋りな彼とは違う短い言葉。

 

その意図が掴めず一同は首を傾げる。

 

「さっきの部屋……数百年前の導師の日記……アレには何の意味があった? このまま普通に勝って試練終了? どうにも引っかかるんだよなぁ……」

 

「……戦いの前にスレイの奴の動揺を誘うのが目的だったんじゃないのか?」

 

ザビーダの言葉にデゼルは少し考え込む素振りを見せた後そう問いかける。

 

「確かに導師殿は甘ちゃんな部分はあるがな、だからって戦いの時はちゃんと切り替えていけるくらいにはしっかりしてるだろうよ。その程度で心の試練をやるとは思えねぇ」

 

「……回りくどいわね。つまり何が言いたいのよ?」

 

ザビーダの言葉にエドナはめんどうそうにジト目で問いかける。

 

「……おそらくだが、あのアシュラって憑魔は───」

 

少しばかり言葉を吐く事を躊躇いながらもザビーダが結論を出そうとしたその時───

 

「それはすぐにわかる」

 

背後からかけられた声に一同は素早く振り返る。

 

そこには白いローブに身を包み仮面を被った男。水の護法天族、アウトルが立っていた。

 

「……アウトル様? なぜここに……いえ、それよりも『すぐにわかる』とはどういう───」

 

困惑するライラ。その時───

 

『ミツケタアアアアアアアアアア!!!』

 

突如として響き渡った叫び声に一同は結界の中へと視線を戻した。

 

__________________________________________

 

 

「な、なんだ!?」

 

倒れたアシュラから突如放たれた叫び声にアリーシャは思わず動きを止める。

 

『ミツケタゾ! オレノ剣! カエセ! カエセ! カエセエエエエエエ!』

 

その直後、結界の内部がドス黒く塗り替わる。

 

「これは!? 穢れの領域!?」

 

「でもなんで急に!?」

 

辺りを包み込む重苦しい穢れにアリーシャとロゼは困惑する。だがこちらの事情など知った事では無いと言わんばかりにアシュラは叫び声を上げながら一気にスレイとミクリオに向けて肉薄する。

 

「ッ!? はや……!?」

 

先程を大きく上回る踏み込みに驚愕するが時すでに遅い薙ぎ払うように振るわれた両手の大剣がスレイとミクリオに迫り、二人は咄嗟にそれぞれの得物で防御するも圧倒的な怪力に吹き飛ばされる。

 

「ぐぅっ!?」

 

「がぁっ!?」

 

勢いよく壁に叩きつけられる苦悶の声を上げる二人。

尚も追撃をかけようとするアシュラだが……

 

「させるかよ!」

 

すかさずその前に立ちはだかるウィザード。

 

『剣!剣! 剣! オレノ剣!』

 

「ッ! こいつ……まさかッ!?」

 

アシュラの言葉に何かに気付いた様子を見せるウィザード。そこへすかさずアシュラの持つハンマーの一振りが叩きつけられる。

 

「チィッ!」

 

【リキッド! プリーズ!】

 

先程と同様に液体化の魔法でその攻撃をすり抜けるウィザード。そのまま液体化し周囲を素早く旋回しつつ背後で実体化し飛びかかりながら斬りつけるが……

 

「くぅっ!?」

 

ガギィッ!と鳴り響く金属音。背後からのウィザードの攻撃をもう一本の腕に持つ得物で背面で防ぐアシュラ。

 

思わず動きが止まったウィザードに振り向きながら振るわれたメイスが横腹に突き刺さる。

 

「ぐぁっ!?」

 

スレイ達と同様に吹き飛ばされ壁に叩きつけられるウィザード。

 

「ハルト!」

 

「あんにゃろ! なんで急に!?」

 

突如として狂気を増したアシュラにロゼは困惑の声を漏らす。

 

『カエセェェェェェッ!!!』

 

なおも怨嗟の叫び声をあげアシュラはウィザードへと接近して六本の得物をウィザードへと振るう。

 

【バインド! プリーズ!】

 

『ヌゥッ!?』

 

だが複数の青い魔法陣から現れた水の鎖がアシュラを拘束する。

 

「よっしゃ!ナイス、ハルト!」

 

「この隙に!」

 

拘束の隙を突き一同はアシュラへ攻撃を仕掛けようとするが!

 

「やめろ!」

 

『えっ……?』

 

ウィザードから発せられた静止の言葉。思わぬその発言に一同は困惑する。

 

『コザカシイッ!!』

 

その隙を突くようにアシュラは力任せに水の鎖の拘束から脱出する。

 

その隙にウィザードはアシュラから距離をとるが……

 

「ちょっとハルト!? なんで止めたのさ!?」

 

「あぁ、あの憑魔が凶暴化した事と何か関係があるのか?」

 

アシュラに警戒しながらもロゼとミクリオが問いかける。

 

「…………」

 

「……ハルト?」

 

だがハルトは言葉を発さず沈黙を貫く。その態度にアリーシャは違和感を覚える。

 

だがそんな沈黙を引き裂くようにアシュラが叫びをあげる。

 

『コザカシイ盗人ドモ! オレノ剣ヲカエシテモラオウカッ!』

 

「剣? もしかしてスレイやハルトが使ってる剣の事?」

 

「だが返せとはどういうことだ? スレイの儀礼剣もハルトの剣もアシュラから盗んだものなんかじゃ……」

 

「そこまでの判断がつかないのだろう。剣に何かしらの執着を持つ憑魔なのか?」

 

アシュラの言葉に困惑する一同だが……

 

「剣に執着って……まさか!?」

 

スレイはアシュラの正体に気が付いたのか動揺を露わにする。

 

「ハルト……まさかあの憑魔って……」

 

恐る恐る、絞り出すようにスレイはウィザードへと問いかける。

 

そして──

 

 

『オレノ創リアゲタ剣! 穢レヲ……スベテヲ断ツ剣ヲカエセェエ!』

 

 

「あぁ……あの日記を書いた導師。それがあのアシュラの正体だ」

 

怨嗟の叫びあげるアシュラを見つめながら苦々しげにハルトはそう結論づけた。

 

 

────────────────────

 

 

「アシュラの正体がさっきの日記の導師!?」

 

「確かに剣を奪われたとは記されていたが……」

 

「で、でもそれなら浄化して助ければ……」

 

ハルトとスレイの言葉に残りのアリーシャ達は驚きの声をあげる。

 

だがロゼはそれならば浄化すれば良いと言うが……

 

「……前にライラが言っていた。『何百年もの長い時を過ごした憑魔は元となった肉体が朽ち精神だけが穢れに結び付き続ける』ってな」

 

その言葉に一同の表情が凍りつく。

 

「じゃあアシュラは……ッ!?」

 

『ナニヲコソコソト喋ッテイルゥ!?』

 

一同の会話に業を煮やした様に怒りの声を上げたアシュラが迫り会話が遮られる。

 

振り下ろされる攻撃を一同はなんとか回避するが、そこから先ほどまでのように反撃へ移れない。

 

何故ならば──

 

「じゃあ何!? もしアシュラを浄化したらあの導師は……ライラ!」

 

「ッ!………」

 

結界の外にいるライラへと向けた答を求めるロゼの悲痛な叫び。

 

その言葉に対してライラは俯き無言のまま言葉を発さない。

それはつまりロゼの問いかけを肯定しているという事に他ならない。

 

アシュラの命は憑魔化によって繋がれている。

 

そして浄化によって穢れとの繋がりを断ち切られるという事、それはつまりアシュラの死を意味する。

 

その事実が一同の攻勢への意志を弱める。

 

「くっ!? このままでは……」

 

「けど、どうすれば……ッ!?」

 

激しさを増すアシュラの猛攻に防戦を強いられる一同。だが打開策は見出せない。

 

これまでスレイ達は様々な憑魔と戦ってきた。その中には水の試練を訪れる前の廃村で浄化したファントムの様に死した者の怨念や遺体から生み出されたアンデット系の憑魔も多数存在する。

 

今相対しているアシュラはそれらの死した者たちから生み出された憑魔達と条件だけを見比べれば似通ったものと言えるのかもしれない。

 

だが死した者達への弔いとして割り切れたこれまでの戦いとの決定的な違いがある。

 

どんな形であれアシュラは死ぬこと無くこれまで命を繋いできた。例えそれが憑魔としてであっても……

 

それを浄化するという事はどんな言葉で塗り固めようともアシュラの命の繋がりを断ち斬る事に他ならない。

 

そして何よりも一同は先ほど読んだ日記でアシュラの人生の一部に触れてしまった。

 

彼がどんな想いで導師となりどんな想いで剣を打ったのか……

 

その事実がスレイ達の動きを鈍くさせる。

 

「ハルト! 何か……何か手は……」

 

悲痛な声で縋るようにアリーシャは希望を求めてウィザードへと問いかける。

 

だが……

 

「…………」

 

「あ…………ッ! すまない……」

 

何も言えないウィザード。そんな彼にアリーシャはハッとした様に小さく謝罪する。

 

これまで、アリーシャは晴人と共に行動してきた。

そしてその中で彼の力が絶望的な状況を覆す瞬間を何度も見てきた。

 

戦争を止めるために城から逃げ出す時

 

戦場で自分に戦う力を与えてくれた時

 

戦場でのヘルダルフとの戦いの時

 

毒に侵されたマシドラを救った時

 

穢れとの強い繋がりを持ったフォートンを救った時

 

アリーシャの知る彼はどんな絶望的な状況でもそれを覆して人々を救ってきた。

だからこそ晴人の持つ力に対しての甘えの様なものがアリーシャの心のどこかにあったのかもしれない。

 

だがアリーシャは今のやりとりでそんな自分の考えに嫌悪を抱いた。

 

確かに彼の持つ力は時として天族ですら成し得ない奇跡を起こす。

 

だが彼は……操真晴人はけっして万能な神様では無いのだ。

 

どんな時でもピンチの時に都合よくそれを解決できる力を持っている訳では無い。

 

仮面に隠された晴人の表情をアリーシャは伺います知ることはできない。

 

しかし、彼女の問いかけに無言で何も言えないウィザードの仮面の下にアリーシャは晴人の自責と苦悩が見えた気がした。

 

 

─────────────────────

 

 

「……随分と悪趣味じゃない」

 

いつも通りの口調、だが瞳には明確な怒りを込めてエドナはアウトルを睨みつけた。

 

結界の外で戦いに参加できない天族達は先ほどから無言で事態を見守っていた。

だが纏っている空気は全く違う。ピリピリとした張り詰めた空気が場を支配していた。

 

「……悪趣味とは?」

 

だがそんな空気など素知らぬ素ぶりでアウトルは応じる。

 

「あの日記は……アイツらのアシュラへの同情を強める為のものか……」

 

「そうかもしれないな」

 

「……チッ」

 

デゼルの問いかけに対してもアウトルははぐらかす様にそう答える。

それに対してデゼルは不快そうな態度を隠そうともせずに大きく舌打ちをした。

 

「アウトル様……なぜこの様な……」

 

普段は温厚なライラですら口調こそ穏やかなものの、その声は小さく震えている。

 

「導師に必要な試練を与える。それが私の役割だからだ」

 

そんなライラの言葉にすら意に介さずアウトルは淡々と答える。

 

「……君は何も言わないのだな」

 

そんな中、一言も言葉を発さないザビーダにアウトルは何かを試すように問いかける。ザビーダはそれに対してゆっくりと口を開いた。

 

「まぁ……導師としてやっていく以上はこういう展開にもぶつかる事はあるだろうよ。それを乗り越える事が必要な試練であるっていうアンタの言い分もわからん訳じゃ無いさ」

 

意外にもザビーダは他の者達と異なりアウトルの言い分を肯定する。その言葉に一同は驚いた表情を浮かべるが……

 

「だがな……本当にそれだけなのか?」

 

目つきが細まり鋭い視線がアウトルへと向けられる。

 

「それだけ……とは?」

 

「都合が良すぎるだろうよ。あのアシュラって憑魔が護法天族であるアンタにこの地に封印されてるまでは理解はできる。だがな、あの日記はどうした? なんでそんなもんまで懇切丁寧にアンタが持っている?」

 

「何が言いたいのかね?」

 

「何百年も前に正気を失った憑魔がアンタにこの遺跡に封じれるまで律儀に日記なんてもんを持ち続けてるとは思えねぇ。あんな一度火がつけば暴れ始めちまう憑魔が日記なんて持ってたら瞬く間に散り散りの紙切れになっちまうだろうからな。つまりは誰かが奴が遺した日記を回収したって事だ」

 

平坦な声で淡々とそう告げるザビーダ。だがその瞳に込められた冷たさは言葉を発する度に増していく。

 

「あのアシュラがこの神殿に封じられたのが何時だったのかは知らねぇがな。アシュラを封じたアンタが偶然奴の日記を持っていたとは思えねぇ。だとすりゃあ答えは1つだ。アンタは憑魔になる前からアシュラと知り合いだった……違うかい?」

 

「遠回しな尋ね方だな。君の中ではとっくに結論は出ているんだろう?」

 

問いかけにそう答えたアウトルにザビーダは思わず小さく溜息を吐く。

 

「責めないのか? 私の事を……」

 

「他人に尻拭いを任せちまったって事に関しては俺もアンタの同類だよ。アンタを責める資格がある奴がいるんだとすりゃあ、それは俺じゃなくて今あそこで戦ってる連中だろうよ」

 

どこか憂いのこもった表情でそう言ったザビーダは視線を結界の中で戦う一同へと戻した。

 

 

────────────────────

 

『《氷塊、凍テル、果テ逝クハ奈落! インブレイスエンド!》』

 

鳴り響く詠唱と共に巨大な氷塊が生み出され轟音を立てて砕け散る。

 

『うわぁぁぁぁッ!!』

 

直撃こそ免れたものの、その余波でスレイ達は吹き飛ばされ、倒れ臥す。

 

『カンネンシロ!イマイマシイ盗人ドモ! オレノ剣ヲカエセェェ!!』

 

「グッ…だ、だから……アンタの剣とか盗んでないし知らないっつーの……」

 

痛みを噛み殺しフラフラと立ち上がりながら息絶え絶えでロゼは反論する。

 

『マダシラヲキルツモリカ!』

 

「だから……僕達は本当に盗んでなど……!」

 

激昂するアシュラに思わず弁明するミクリオだが……

 

『ダマレェ! オレヲ裏切ッタアウトルノ手先ノ言ウコトナド信ジラレルカァ!』

 

更に憎悪を燃やし叫びをあげるアシュラ。だが一同はそんなアシュラの言葉に表情を変える。

 

「裏切った……? アウトル様が……? 」

 

「……ッ! まさか!?」

 

困惑するアリーシャ。一方ミクリオは何かに気がついたのかハッとした表情を浮かべる。

 

先ほどの日記に書かれていた内容。アシュラが自身への裏切りの憎しみを綴る事となった彼の剣を奪った『友』の存在。

 

そのピースがミクリオの中でカッチリとハマる。

 

「あの日記に書かれていたアシュラと契約した天族というのは……アウトルの事だったのか……?」

 

「「…………」」

 

「なっ!? まさかそんな!?」

 

「ちょっと!? 幾ら何でもそんなのって!?」

 

ミクリオの言葉に思わず声を上げるアリーシャとロゼだが一方でスレイと晴人は既に勘付いていたのか何も言葉を発することなく無言を貫く。

 

『ナニヲゴチャゴチャト! シネェ!!』

 

困惑する一同の思惑など知った事では無いと言わんばかりにアシュラは三対の手に持たれた得物を構えスレイ達へと向け突撃しようとする。

 

「ッ!」

 

それに対してウィザードは意を決した様に腰のホルダーに装着された青く点滅する指輪に手を伸ばし……

 

 

『──覚悟は決まったか? 操真晴人?』

 

轟ッ!

 

『グォォア!?』

 

突如として響いた声と共に晴人達の足元に青い魔法陣が展開され周囲を囲うように強力な水の奔流が床から天井へと湧き上がりまるで結界の様にアシュラを吹き飛ばす。

 

「これは!?」

 

「今度は何!?」

 

驚くアリーシャとロゼだが晴人は冷静にその声の主へと返答する。

 

「……何が言いたいんだ?ドラゴン?」

 

その問いかけと共に一同の頭上に青く揺らめくウィザードラゴンの幻影が現れる。

 

「ドラゴン殿……」

 

「この遺跡に封じられたハルトのドラゴンの力の一部か……」

 

水の力を宿したウィザードラゴンの力。以前の火の試練の際と同じようにそのドラゴンの力が意思を持ち一同に語りかける。

 

『いくら悩んだところで結論は変わらん。『アレ』は倒す以外に道は無い。それはお前もわかっている筈だろう?』

 

「…………」

 

ドラゴンの言葉に晴人は沈黙で返す。それはつまり、ドラゴンの言葉を認めざるを得ないという事だ。

 

「ドラゴン殿!それはッ!」

 

『小娘……あれを見ろ』

 

「えっ……」

 

ドラゴンの言葉に異を唱えようとするアリーシャだが、その言葉は結界の外へと視線を向けたドラゴンの言葉に遮られる。

 

一同はそれを追うようにドラゴンが示した方向へと視線を向ける。

 

「あれは……」

 

展開された水の結界の外。

そこに異変が生じていた。

 

『ウゥ……アァ』

 

「憑魔!?」

 

部屋のいたるとこで憑魔が呻き声をあげ動き始めていたのだ。

 

「なんで……さっきまでいなかったじゃん……」

 

「……そうか! アシュラの穢れの領域の影響でアシュラに殺された憑魔の死骸だった遺体や遺物がまた憑魔化したのか……」

 

「ッ! でもそれって……」

 

ミクリオの言葉にロゼは何かに気がついた様にハッとした表情を浮かべるが───

 

『ギャァァァォォ!?』

 

「ッ!?」

 

鳴り響いた断末魔。

 

すぐにその叫びの聞こえた方向へ視線向ける一同。そこには───

 

 

 

 

『穢ラワシイ憑魔ドモォ! シネェ!シネェ! シネェ! シネェ!』

 

六本の得物を叩きつけ、憑魔を虐殺するアシュラの姿がそこにあった。

 

『ゴッ!? ガァッ!? グゥッ…!ゴガァ!?』

 

『フハハハハハハハ! クルシイカ!? 穢ラワシイ憑魔ガァ! シネェ!シネェ! 導師デアルオレガ貴様ラヲスベテ斬リ殺シテヤル! クハハハハハハ!』

 

倒れ伏し瀕死となった憑魔へ執拗に攻撃を仕掛けるアシュラ。

 

殴打、斬撃。憑魔達の身はズタズタに引き裂かれすり潰されていく。

 

攻撃を受ける憑魔達はもはや叫ぶ事すら出来ず弱々しくなっていく叫びと共に再び絶命していく。

 

そして──

 

「ッ!穢れが……」

 

殺された憑魔の死体。そこに遺された穢れが黒い瘴気となりアシュラの身体へと吸収されていく。

 

『ハハハ!キエロ憑魔ドモォ! コノ世界カラキエ失セロォ! 穢レハスベテ導師デアルコノオレガ斬リサイテクレル! フハハハハハハハ』

 

それでもアシュラは憑魔の死骸を嬲り続けていた。

 

嗤いながら。

 

ひたすら、ひたすら、ひたすら。

 

己自身が憑魔となり憑魔を生み出し、そしてそれを殺しさらなる穢れをその身に取り込み更なる怪物へと変貌していく。

 

そんな事すら理解する事も出来ず、嗤いながらアシュラは憑魔達を斬り殺し、打ち殺し、嬲り続けている。

 

「……うっ!」

 

繰り返される負の螺旋。

 

アリーシャ、ロゼ、ミクリオはその光景を直視出来ずやりきれないように視線を逸らす。

 

そんな時、ウィザードドラゴンが静かに口を開く。

 

『奴は確かに高尚な願いを抱いて導師になったのだろう。だがな、あれは夢の残骸だ。既に終わってしまった者に他者がしてやれる事などたかが知れている。たとえそれが魔法使いであったとしてもだ……それはお前が誰よりも知っている事だろう? 操真晴人?』

 

静かに、それでいてハッキリとドラゴンは晴人に結論を問いかける。

 

「……あぁ、そうだな。俺が迷えば迷うほどアシュラを苦しめる」

 

そのドラゴンの言葉に晴人は小さく、だが明確な決意を込めた声で肯定する。

 

「たとえそれが罪なんだとしても……俺ができる事、してやれる事は……」

 

自身だけの手で決着をつける決意を秘めた瞳でウィザードは青く点滅する指輪を左手にはめようとし───

 

 

「俺もやるよハルト」

 

スレイからかけられたその声にウィザードは思わず動きを止める。

 

「スレイ? だけどこれは……」

 

「どんな理由があったとしてもアシュラを殺す事には変わらない……って事だよね?」

 

「……あぁそうだ。だからみんなは手を出さなくて良い。俺が──」

 

「それはダメだ」

 

晴人の言葉をスレイは静かに否定する。

 

「さっきアシュラを攻撃しようとしたのを止めた時、ハルトはオレたちにアシュラの命を奪わせない様に気を遣ってくれたんだよな? けど、だからってオレはハルト一人にそれを背負わせたく無い」

 

スレイは言葉を区切り結界の外で憑魔を嬲り殺すアシュラへと視線を向ける。

 

「オレさ……あの日記を読んだ時から頭のどこかで考えてた。『この人はどんな気持ちだったんだろう』って」

 

ポツポツと言葉をこぼすスレイ。その目に憂いを浮かべながら彼はアシュラを見つめる。

 

「アシュラは、みんなを助けたいと願って。自分の夢と友達との約束の為に頑張って。救えない自分の弱さを嘆いて。ひたすら力を求めて。……そして憑魔へと堕ちた」

 

「だけど……」と一区切りし、スレイはゆっくりと口を開く。

 

「考えても、やっぱりオレにはアシュラの痛みを想像するだけで理解できなかった。辛かったんだと思うし憎かったんだと思うし、何より悲しかったんだと思う……それでもそれはオレの想像でしかない」

 

当然といえば当然だ。たとえ似たような境遇や経験があったとしても他者の痛みを本当の意味で理解する事など出来はしない。

 

その痛みはその傷を負った当人にしかわからない……

 

そして……

 

「だから、それと同じようにオレにはアシュラにとって『これが救いだ!』って断言できる答えが見つからなかった」

 

自身の左手のグローブに描かれた導師の紋章に目をやりスレイは強く拳を握りしめる。

 

「けど……やっぱりオレはアシュラを浄化しなくちゃいけないと思う。それが正しいとも救いだとも言いきる事なんて出来ないけど……」

 

『ヒャハハハハハハ! シネェ! シネェ!』

 

死体を嬲り続けるアシュラを見据えてスレイは静かに。しかし確固たる決意の元に決意する。

 

「オレはアシュラの夢の終わりがこんな形であって欲しくない。間違ってるのかもしれないし我儘な自己満足かもしれないけど、それがオレが導師としてやるべき事だと思うから 」

 

「……わかった」

 

スレイの瞳に込められた確かな決意に対して晴人もまたそれ以上余計な事を問う事なく短い言葉でその覚悟を受け止める。

 

「ちょいと、お二人さん? 勝手に2人で覚悟決めないでくんない? あたしは一応あんたの従士なんですけど?」

 

そんな空気を断ち切るようにロゼから声がかかる。

 

「ロゼ? だけど今回は……」

 

「どんな形であれアシュラを殺す事になるってんでしょ? そりゃいい気分なんかしないしできるならそんな事したくないけどさ。だからってそれをあんたら2人に押し付けて平気な顔してられる様な性分はしてないんだっつーの!」

 

そう言って勢い良く啖呵を切るロゼに続くようにアリーシャが口を開く。

 

「私も同感だ。ハルトとスレイだけに手を汚させる事なんてしたくない。2人が覚悟を決めたのなら私だって腹をくくる。だから……みんなで背負おう」

 

「アリーシャ……」

 

そう言ってアリーシャは指輪を握りしめるウィザードの右手に手を添える。

 

そして残る1人。ミクリオは……

 

「……つまらない事を聞いたら怒るぞ。僕は友達に1人で重荷を背負わせる気もなければ友達1人に手を汚されるつもりもないからな」

 

ミクリオは結界の外にいるアウトルを一瞥しながらはっきりとそう言い切った。

 

「ミクリオ……わかったよ」

 

『ふん……話は終わったか? ならばいくぞ』

 

「……あぁ!」

 

皆の決意、そしてドラゴンの言葉に背を押されウィザードはその左手に青く点滅する指輪をはめる。

 

そして青く輝いたウィザードラゴンの幻影が指輪へと注がれ同期するように周囲の水の結界が解除される。

 

『ヌゥ!? ヨウヤクアラワレタカァ!盗人ドモォ!』

 

その事に気がついたアシュラはすぐさま晴人達へと向き直ると怒りの声を上げる

 

それに対して一同も武器を構える。

 

誰1人としてその目に迷いは無い。

 

そしてウィザードは輝きを取り戻した青く輝く指輪をベルトにかざす。

 

【ウォーター ドラゴン! ザバザババシャーンザブンザブーン!】

 

展開された青い魔法陣から現れた水の龍の幻影がウィザードの周囲を旋回し水の繭がその姿を覆う。

 

そして水の繭を破るように現れた水の翼が一瞬で掻き消え、そこには青く染まったローブをはためかせ姿を変化させたウィザードが佇む。

 

変わり果てた夢の残骸。

 

そこにピリオドを打つべくウィザードは決意を込めて言い放つ。

 

「悪い夢は終わりにしよう」

 

 

 





あとがき

キバを知らない友人「ジオウキバ編見たけどキバってこんな感じなの?」
フジ「キバがこういう雰囲気かと聞かれれば大体こんな雰囲気ではあるよ(震え声)」

気づけばジオウも終盤。個人的にはかなり楽しめている作品でジオウ組は二期勢の中ではかなり好きなキャラだったりします。なんやかんや一年間楽しいですからねお祭作品は。

グランドジオウの変身には正直かなり感動しました。歳かな……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。