Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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この小説の更新って醜くないか? 更新間隔も文字数もまるでバラバラだ(クォーツァー感)

遅くなってすいません
更新できない内に8月で平成は終わるし9月から令和は始まってるしで我ながら情けない。(ライダー脳)
ジオウOQで頭PARTYになったのが2ヶ月前とか時が経つのは早いもんです

まぁ続ける事が大事で七転び八起きという事で最新話をどうぞ


41話 夢を継ぐ者

 

 

「悪い夢は終わりにしよう」

 

青に染まったローブを翻し、静かにそう告げたウィザードは構えたウィザーソードガンのハンドオーサーを起動し右手の指輪をかざす。

 

【コピー! プリーズ!】

 

展開された魔法陣から複製されたウィザーソードガンを掴み取り二刀流で剣を構えたウィザードはアシュラへと向け駆け出す。

 

『シネェ!』

 

迎え撃つアシュラは両手の大剣の連撃を放つが……

 

「ッ!」

 

ウィザードは力任せに受け止めるのではなく両手の剣で受け流すように大剣の連撃を捌く。

だがアシュラにはまだ4本の腕に握られた得物が残されている。

 

すかさず二本のハンマーが上段よりウィザードへ向け振り下ろされる。

 

だがウィザードの横を駆け抜けるように飛び出したアリーシャがこれを迎え撃つ。

 

「翔破! 裂光閃!」

 

水の魔力を纏った槍の高速突きが振り下ろされるハンマーと衝突する。

 

「ぐぅっ!?」

 

『ヌゥッ!?』

 

人の数倍ある巨体が振り下ろした強烈な振り下ろしとの衝突。圧倒的な重量差からアリーシャの口から思わず苦悶の声が溢れる。

 

だがそれでも彼女の渾身の奥義はアシュラの攻撃を相殺しハンマーを持つアシュラの腕は上へと弾かれる。

 

その隙をロゼが見逃さない。

 

「ナイス!アリーシャ!」

 

ロゼは霊力を爆発させ高速でアシュラの足元を通りすぎると同時に左の一振りでアシュラの左脚を斬りつけ、更にアシュラの背後で即座にUターンで切り返すと交差した十字斬りを右足へと叩き込む。

 

「その隙いただき! 嵐月流・翡翠!」

 

ロゼの両脚への攻撃でアシュラの体勢が完全に崩れ、アシュラはその場へと膝をつく。

 

【ウォーター! スラッシュストライク! ザバザババシャーン!】

 

「ハァァッ!」

 

そこへ右手に持ったソードガンに水の魔力を収束させたウィザードが強烈な突きを放つ。

 

『グォォォォォ!?』

 

突き刺さるソードガンに苦悶の声をあげるアシュラだがウィザードはそのまま前蹴りを放ちながらその勢いで剣を引き抜き後方へと跳び退る。

 

跳び退った先では水の神依を纏い魔法陣を展開したスレイが待ち構えており、並び立った2人はそれぞれ弓と変形させた銃を構える。

 

【ウォーター! シューティングストライク! ザバザババシャーンザブンザブーン!】

 

【ウォーター! シューティングストライク! ザバザババシャーンザブンザブーン!】

 

「「《三星、結集! トリニティーアロー!》」」

 

2丁拳銃から放たれた強力な水の弾丸と弓から放たれた水の霊力の巨大な矢の三連射。それらがアシュラへと殺到しその巨体を壁へと吹き飛ばす。

 

 

『グゥゥオオオ!?』

 

苦悶の声をあげて倒れ臥すアシュラ。

 

だが……

 

『マダダァッ!』

 

攻撃が着弾した箇所である傷口が凄まじい勢いで塞がっていき怨嗟そのものの様に溢れ出す穢れがアシュラがゆっくりと立ち上がり始める。

 

「嘘でしょ……今のでも回復されんの?」

 

「決して軽い攻撃では無かった筈だが……それほどの憎しみがアシュラ殿の中にあるという事か……」

 

ロゼは驚きの声を漏らし、アリーシャはどこか悲しげにアシュラの姿を見つめる。

 

「生半可な攻撃は通じないか……」

 

「いや、策はある」

 

ミクリオから発せられたその言葉に一同の視線が集まる。

 

「別に難しい話じゃない。今より強力な攻撃を連続で叩き込んでやればいいってだけの話さ」

 

「え、ですが……」

 

「普通に戦ったんじゃ、この場に天族が僕1人しかいない以上、神依を使えるのは僕と融合する1人だけだ。だが神依化の特性を利用して一気に畳み掛ければ……」

 

「神依化の特性……?」

 

「これまでも何度か見せただろう? 融合と解除……その特性を使うんだ」

 

その言葉にスレイが反応する。

 

「そっか……人間と天族の間にある程度距離があっても神依化する時は一瞬でその距離を埋めて融合できる」

 

「そうだ。ロゼ、アリーシャ、スレイのそれぞれが大技を撃った直後に神依化を解除して別の相手と神依化する事で一気に畳み掛ける……」

 

そのミクリオの言葉にアリーシャが反応する。

 

「待ってくださいミクリオ殿! ロゼやスレイはともかく私と融合するとミクリオ殿は……」

 

以前のライラの一件からしてアリーシャと融合すればミクリオもまた霊応力を持たない者たちから視認される様になるだろう。

 

それは彼の今後の生き方に大きく影響してしまう事の筈だ。それを案じアリーシャはミクリオへと声をかけるが。

 

「ありがとうアリーシャ。けど大丈夫だ」

 

アリーシャの言葉の意図を察してかミクリオは小さく微笑みながらその言葉を遮る。

 

そしてアシュラへと視線を戻した彼の表情が引き締まりその目に鋭さが戻る。

 

「僕はこれから先もスレイの友として一緒に歩んで行く。喜びも悲しみも一緒にだ。姿が見えるようになるというのなら寧ろ好都合だよ。どのみち僕は逃げ出すつもりなんて毛頭ないからね」

 

「ミクリオ……」

 

静かに、それでいて瞳の奥に確かな決意の炎を灯しながらミクリオは結界の外に立つアウトルを一瞥すると力強く得物を握りしめ構える。

 

その言葉にスレイは少しばかり驚いた表情を浮かべるもすぐに表情を引き締め力強く頷く。

 

「覚悟完了って訳ね……」

 

「……わかりました。ミクリオ殿がそう仰るのなら……」

 

「なら、さっきみたいにロゼとアリーシャで仕掛けてくれ。最後に俺とスレイの同時攻撃で終わらせる」

 

「りょーかい! トドメは任せるよ! 行こうアリーシャ!」

 

「あぁ!」

 

力強い掛け声と共にアリーシャとロゼはアシュラへと向けて駆け出す。

 

「先ずはあたし! 『ルズローシヴ=レレイ(執行者ミクリオ)!』」

 

ロゼが真名を叫ぶとと共にスレイの傍らに立っていたミクリオが青い光となり搔き消え、瞬時にロゼの神依となる。

 

ロゼはすぐさま高く跳躍すると空中でアシュラへ向け弓を構える。

 

「「蒼穹の十二連!」」

 

叫びと共に放たれた12本の水の矢は拡散し四方八方から生き物の様にうねりながらアシュラへと殺到する。

 

『グゥゥゥ!?』

 

すかさずアシュラは六本の腕の得物でその攻撃を防ぐ。だがその行動によってできた隙をアリーシャが逃さない。

 

「よっしゃ! 行ってこいミクリオ!」

 

ロゼの声と共に神依が解除され青い光はアリーシャの身体へと吸い込まれる。

 

アリーシャの足元に青い魔法陣が展開され青く輝きを放ちアリーシャの服は青いロングコートとなり槍の刃は青い宝石がはめ込まれた曲刃へと形を変える。

 

そのままアリーシャは身体の内の霊力を爆発させ一気にアシュラへと肉薄する。

 

「絶氷の剣!」

 

「その身に刻め!」

 

槍の先へ強力な氷の魔力が収束し巨大なドラゴンの尾を象る氷の刃を形成する。

 

「「奥義!」」

 

2人の声が重なり氷の刃がアシュラへと振るわれる。

 

「「セルシウス! キャリバー!」」

 

上段から振り下ろされた氷の刃。

 

アシュラもその攻撃に危機を感じたのか全ての得物を上段へと構えて受け止めようとする。

 

だが……

 

『ナッ!? 』

 

アシュラの目が驚愕に見開かれる。

 

彼の振るう自慢の得物。その全てを氷の刃が氷結させガラス細工の様に砕け散らせ、アシュラの身に叩き込まれる。

 

『グォォォォァァァァァ!?』

 

苦しみの叫びをあげ膝をつくアシュラ。だがアリーシャは構うことなく叫ぶ。

 

「今です!ミクリオ殿! 」

 

「行くよミクリオ! 『ルズローシヴ=レレイ(執行者ミクリオ)!』」

 

スレイが真名を叫びアリーシャの姿がドラゴンの力を使っていない状態へと戻る。

 

そして……

 

「これで終わらせる!」

 

決着をつけるべく水の神依を纏ったスレイが自らの霊力を収束させ巨大な弓をアシュラへと向け構える。

 

それに応える様にウィザードは右手にはめた指輪をベルトにかざす。

 

【チョーイイネ! ブリザード! サイコー!】

 

『グォォ……ナ、ナニヲ……』

 

弓を構えたスレイの目の前にウィザードによって青い魔法陣が展開され、そこから放たれた冷気がアシュラを凍りつかせ動きを封じていく。

 

「撃て! スレイ! ミクリオ!」

 

「「わかった!」」

 

晴人の声に応えスレイは弓へと収束させた水の霊力を解放する。

 

「「《我が弓は蒼天! 蒼き渦に慙愧せよ!》」」

 

放たれた無数の水の矢はウィザードが展開された魔方陣を通過すると同時にその性質を氷の矢へと変え、生き物の様に全方位からアシュラへと殺到する。

 

氷の矢が次々と着弾しアシュラが形成された巨大な氷解の中へと完全に閉じ込められその動きを封じられると共にスレイは弓の先端部を槍状へと変化させる。

 

【チョーイイネ! スペシャル! サイコー!】

 

それと同時にウィザードは交換した指輪をベルトへとかざす。

 

青い魔法陣がウィザードの背後へと展開され、そこからウィザードラゴンの巨大な尾が現れる。

 

そして2人は巨大な氷塊へと突撃し……

 

「「アクアリムス!」」

 

「フィナーレだ!」

 

水の霊力を収束させた弓の刺突と巨大な龍の尾の一閃。

 

強力な2つの攻撃が氷塊へと叩き込まれる。

 

攻撃により細かく砕け散った氷の破片が部屋の青い輝きに照らされ幻想的な光景が生み出されたその中で……

 

『ァァ……』

 

アシュラは断末魔すらあげる事なく浄化され、その姿が消えていく。

 

 

 

「──はぁ……」

 

その姿を見送りながら晴人はいつもの気の抜けた調子ではなくどこか弱々しく力を抜く様に息を吐き出した。

 

─────────────────────

 

 

 

 

『…………』

 

アシュラを無事に浄化し終えた一同。

試練を終え結界も解除され他の仲間たちとアウトルも部屋の中へと足を踏み入れる。

 

だが一同は言葉を発さず張り詰めた空気が場を支配する。

 

大半の面子はアウトルへ厳しい視線を向けており普段は天族に対して敬って接するアリーシャですらその目には非難の色が伺えた。

 

そんな沈黙を破るように一同を代表してスレイが口を開く。

 

「説明してください」

 

「……説明とは?」

 

スレイの単刀直入な言葉になおもどこか誤魔化すような口ぶりのアウトル。

 

それに対して我慢の限界だったのかロゼが口火を切る。

 

「はぁ!? こんな悪趣味な真似しといてしらばっくれるわけ!?」

 

「アウトル様、無礼を承知で言わせて頂きます。私としても先程の試練に関しては説明していただかなければ納得できません。アシュラ殿とアウトル様の関係、そしてこの試練の貴方の真意を」

 

アリーシャも冷静に努めながらもアウトルを問いただす。

 

「そこまでして聞きたい話だろうか? 元凶である私の口から言い訳じみた話を? 知ったところで何かが変わる訳でもないのに?」

 

「悪いがアナタが自分の発言をどう感じるかは興味なんて無い。僕たちは事実が知りたいだけだ」

 

どこか自嘲するような口調でそういうアウトルに対してミクリオは淡々と冷たく切って捨てる。

 

「貴方の言う通り知ったところで何かが変わる訳じゃないかもしれない。けどオレは導師としてこれから歩んでいくならアシュラの痛みを知っておかなきゃならないと思う。貴方とアシュラの関係がなぜこんな事になったのか。例え自己満足でしかなかったとしても」

 

「ケリを着けたのは俺達なんだ。だったら俺達はこれからその事実を背負って行かなきゃならない。きっちり背負っていくなら、先ずはきっちり事実を知らなきゃ話にならないんだよ」

 

スレイと晴人の2人はそう言ってアウトルをまっすぐ見据える。

 

その瞳に秘められた強い意志を感じてかアウトルは小さく息を吐くと言葉を紡ぎ始めた。

 

「……始まりは日記に書いてあった通りだ。今ほどでは無いにしろ導師の素養を持つ者は減る中で当時はまだ護法天族では無かった私はマオテラスの陪神の1人として導師の素養を持つ者を探す中でアシュラと出会った」

 

懐かしげな口調でアウトルは言葉を続ける。

 

「裏表の無い生真面目な男だった。愚直だが確かに他者を想える正義感を持っていた。彼ならば導師に相応しい。そう思い導師の道へと彼を誘った。見立て通り彼は自身の持つ正義感から導師となる事を了承した」

 

淡々とした言葉。だが先程までの真意の読めない言葉と違い今のアウトルの言葉はどこか柔らかい。

 

「最初は大変だった。感情を表に出すアシュラと表に出さない私は水と油。しょっちゅう意見は食い違うし事あるごとに衝突もしたよ。だが不思議なもので数年も経てばお互いの事も理解できてきて互いの不足してる部分を補い合える様な関係になれていた」

 

「友達になれた……ってこと?」

 

「……少なくとも当時の私達はそう評せる関係ではあったと思う。そしてアシュラは実力も一人前の導師となった。思えばそれが歯車が狂った切っ掛けだったのかもしれないな」

 

その言葉にアリーシャは訝しみながら問いかける。

 

「歯車が狂った……? 一人前の導師として成長したのにですか?」

 

「導師として成熟した。それは言い換えれば成長の伸び代が残っていないという事だ。誤解の無いように言っておくが、アシュラは導師としての腕は決して悪くは無かった。だが……」

 

「1人で全てを救う事なんて出来ない……か?」

 

晴人の言葉にアウトルはゆっくりと頷く。

 

「その通りだ。マオテラスの加護があった当時ですら導師の数は減る一方……そして人の心から穢れが生まれる事が終わる事は無い。憑魔による被害は抑え切る事は出来ず、一部の者は一時的に浄化できても深く穢れと繋がってしまった者は……」

 

その言葉に一同の頭にフォートンの姿が過ぎる。

 

結果的にアンダーワールドでの戦いで彼女を救う事が出来たとはいえ一歩間違えば彼女を止める手段は穢れが再発しきる前に介錯をせざるを得なかった事実は変わらない。

 

だからこそ一同にとってもアウトルの言葉は決して他人事ではないのだ。

 

「導師として実力が成熟してなお、救う事が出来ずに溢れ落ちていく命を見てアシュラは次第に変わり始めた。自身の非力を嘆いたアシュラは力を求め始めた」

 

「それでアシュラは剣を……?」

 

「あぁ、それがこの剣……『世界を断つ剣』だ」

 

そう言ってアウトルが足元に魔法陣を展開し一振りの剣が姿を現わす。

 

「ッ!? これは……」

 

「なるほど……確かにこりゃヤバそうだな」

 

その剣にデゼルは思わず息を飲み、ザビーダも表情を険しくする。

 

長さ自体はスレイの儀礼剣やアリーシャの槍の刃の部分と同じ程であり装飾は少なく紫紺色の刀身に小さな宝石がはめ込まれ、鋭利な銀色の両刃が輝く比較的シンプルな造形の剣だ。

 

だがその剣から感じられる力は明らかに異質だった。

 

まるでアシュラの執念そのものが溢れ出ているかのように剣からはドス黒い闘気が溢れ出ている。

 

アウトルは軽く剣を握ると誰も立っていない場所へ向けて軽く剣を振るう。

 

「何を……えっ……」

 

虚空を斬るその動作にアリーシャは困惑するがその表情は次の瞬間驚愕に染まる。

 

「な、なにこれ……」

 

「空間そのものを斬った……?」

 

アウトルが剣を振るった何もない場所がまるでガラス細工のようにひび割れ、歪んだ空間の切れ目が一同の目の前に姿を現わす。

 

「全てを……世界を断つ剣……」

 

「執念が生み出した剣……名剣どころか最早、魔剣やら妖刀の類いね……」

 

空間の切れ目はまるで傷が癒えるように塞がっていき、最後には先ほどと変わらない状態へ戻る。

 

だが軽く振るってこれならば確かに全てを断つ剣というのも強ち間違いではないだろう。

 

「(空間そのものを切り裂くか……まるで『レギオン』みたいだな)」

 

そんな中、晴人もまた嘗て戦った強敵のファントムを思い起こしその剣の異質さに表情を険しくする。

 

「自身の導師としての限界を悟ったアシュラはそれを補う為に導師としての天族との繋がりを使ってありとあらゆる文献を探し、そして失われた技術に行き着いた」

 

「そして見つけた文献から嘗ての対魔士が用いた技法やミスリルの剣の製法の再現へと到達した訳か……」

 

「そうだ……だが永い月日の中でアシュラは変わってしまった。人を救う事では無く憑魔を倒す事に囚われ始めた…………」

 

「だから貴方はアシュラの剣を奪ったのか」

 

険しい瞳でそう問いかけるミクリオにアウトルは少しばかり言葉を詰まらせた後、ゆっくりと言葉を零し始める。

 

「剣さえ完成すればきっとまた昔のアイツに戻る。そんな想いが私の中にあった……剣が完成した日、アシュラはすぐに私を呼んで一番に剣を見せてくれたよ……そしてアシュラは嬉しそうに私に言った───」

 

これまで感情を抑えていたアウトルの声が僅かに震える……

 

「『これさえあれば全てを斬り伏せる事ができる! 憑魔も!穢れを生みだす者達も全て!俺とお前の夢が漸く叶うんだアウトル!』……とな」

 

その言葉に一同は悲痛な表情を浮かべる。

 

「アシュラはいつのまにか憑魔だけで無く強い穢れを生み出す人間すら断ち斬るべき存在として見るようになっていた」

 

「そんな精神状態でもアシュラ自身は穢れを生まなかったのか?」

 

デゼルの問いかけにアウトルは小さく頷く。

 

「君達も知っているだろう? 純粋な想いは穢れを生まない。それが例え狂気に染まったものだとしても……だが私は恐ろしかった。憑魔よりも、純粋な狂気に染まったアシュラが……」

 

「そして、アンタはアシュラとの契約を解除し剣を持ち去った」

 

「その通りだ」

 

話が一区切りし、アウトルは言葉を止めると一同へと視線を投げる。

 

「さて、これが私が語れる真実だ。若き水の天族よ。君はどう感じた?」

 

アウトルは先程から険しい表情を浮かべるミクリオに視線を止めると、その理由を問うように声をかける。

 

それに対してミクリオはゆっくりと口を開く。

 

「……何故」

 

「ん?」

 

「何故、そんな簡単にアシュラの前からいなくなれた? 掛け替えのない友だったんだろう? 最後まで支え合うのが友達じゃないのか……?」

 

「それが最善だと判断したからだ」

 

淡々とそう言ったアウトルにミクリオは声を荒げる。

 

「違う! もっともらしい理由を並べて、目を背けて諦めて逃げただけだろう!」

 

「ミクリオ殿……」

 

ミクリオの言葉にアリーシャは思わす息を飲む。

 

彼女は知っている。嘗てスレイが導師となった際、ミクリオは一度はスレイと別れて故郷のイズチに帰ろうとした。

 

導師の使命にミクリオを巻き込めない。

 

ミクリオには浄化の力が無い。

 

そんなもっともらしい理由を並べられ衝突し、喧嘩別れにも近い形でミクリオは一度はスレイと別れた。

 

だがそれでも彼は再びスレイの元へと現れた。

 

共に支え合い、共に笑い、共に傷つき、共に夢に向かって歩む為に。

 

だからこそ彼はアウトルの決断に納得できないのだろう。

 

それは悪い言い方をすれば八つ当たりに近い感情的な言葉だ。

 

自分に近い境遇の存在が自分が納得できない選択をしてしまった事に自分と重ねて怒りを覚える子供じみたものだと言ってもいい。

 

だが……

 

「逃げた……か。そうだな、その通りだ」

 

まるでそんな感情的な糾弾を望んでいたかの様にアウトルはどこか自嘲するように笑うと、その言葉を肯定した。

 

「アンタ……」

 

「君の言う通りだ。結局のところ私が一番恐ろしかったのは、私がアシュラを導師の道に誘ったが故に彼の人生を狂わせた。その事実だった。それから目を背けようとして私はもっともらしい理由を並べてアシュラの前から逃げ出した……それがアシュラを壊す最後の引き金になるなど考えもせずに」

 

手に握った剣へと視線を移しアウトルは項垂れる。

 

「私がアシュラの元から去って程なくしてアシュラは姿を消した。彼を案じていた他の導師からその事を報告された私は、その時に彼の残した日記を受け取った。そしてそれ以降アシュラは行方不明のまま……私は護法天族としてこの水の試練神殿を受け持つ事となり永い月日が経過した。だが10年前……」

 

「アシュラは再びアンタの前に姿を現した……永い月日を憑魔となって生き延びて」

 

「あぁ……既にマオテラスが姿を消し、導師が失われた現状では私はアシュラをこの遺跡に封じる以上の手を持ち合わせていなかった」

 

「だったら最初から説明して素直に協力してくれって頼んで欲しかったんだけど?」

 

納得いかないと憮然とした表情でロゼが抗議を口にする。

 

「悪趣味だった事も私の尻拭いをさせた事も否定はしない。済まなかった。だが必要だった」

 

「……どういう意味よ」

 

「20年前、マオテラスと最後の導師が姿を消し、導師の古き掟は完全に形骸化した。そして時を経て導師スレイ、君が現れた」

 

アウトルから視線を向けられスレイの表情が引き締まる。

 

「導師や世界を取り巻く環境は大きく変わった。もはや古き掟など役には立たない」

 

「ライラからも似たような事を言われました。掟よりもオレが信じる導師としての在り方を大切にして欲しいって」

 

「そう、現に君はそこにいる姫を通して人間社会との繋がりを強く持ち。更に魔法使いという異例な存在とも協力し災厄に立ち向かっている。これは旧来の導師としてはあり得ない事だ。そして、だからこそ知って欲しかった。新たな時代の可能性を秘めた君に、私とアシュラの過ちを……」

 

「それがオレ達にアシュラの過去を見せて揺さぶった理由ですか?」

 

「そうだ。そして、君たちはしっかりとアシュラの痛みと向き合い悩み、そして背負おうとしてくれた。他者の痛みを忘れてしまったアシュラとも、そのアシュラを支える事を放棄してしまった私とも違う、強い生き方だ」

 

「それを確かめる事が今回の試練だったって訳?」

 

「そんな大層なものじゃ無い。ただ、君たちの可能性を見極めたかった。それに私の過ちの後始末と懺悔を組み込んだのは間違いなく私の打算だ。恨んでくれて良いし軽蔑してくれて構わない……」

 

「そういう風に開き直られるのって一番タチが悪いのよね……それならいっそ最後まで憎たらしくしててくんない?」

 

アウトルの言葉にエドナは皮肉を込めて辛辣な言葉を見舞うが……

 

 

 

 

 

「そう言ってやらないでくれ、お嬢ちゃん。こいつは昔から捻くれて素直に人にものを頼めない奴なんだ」

 

突如としてかけられた、一同の誰とも違う聞き覚えの無い声、その声に一同は素早く声がした方向へと視線を向ける。

 

そこには……

 

「え、誰?」

 

「その服……スレイと同じ導師の……」

 

見覚えの無い導師の衣装を纏った青年がそこに立っていた。

面識の無い突然の登場人物に一同は思わず困惑するが……

 

「あ、アシュラ……?」

 

ただ1人、震える声で信じられないというようにアウトルがその青年の名を口にした。

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

「えっ!?」

 

「アシュラって……」

 

「この方が……?」

 

アウトルの言葉に一同は驚きの声を上げる。

 

それも当然だ。数百年が経ち肉体が朽ちてしまっている憑魔を浄化するという事は、穢れによって繋ぎとめられた命を絶つという事。

 

だというのにアシュラを名乗る青年が目の前にいる事実に一同は困惑する。

 

「ええっと……なんかよくわかんないけど、もしかしてなんやかんやで上手く浄化できて助けられました!的な……?」

 

そんな中、ロゼは混乱しつつも精一杯のポジティブな解釈を口にするが……

 

「違う……」

 

「その通りだ。残念ながらそういうわけじゃない」

 

デゼルが静かにロゼの言葉を否定する。アシュラもまたそんなデゼルの言葉を肯定すると、それと同時にアシュラの身体が淡く輝き……

 

「ッ……! 身体が透けて……」

 

まるで陽炎の様に薄まり始めるアシュラの身体。それをみてアシュラは苦笑しながら言葉を発する。

 

「オレの身体は永い年月でとっくに朽ち果ててる。今の俺は浄化によって残された魂の残りカスみたいなもんさ。それもすぐに消えちまうだろうだろう」

 

自嘲的な笑いを浮かべながらアシュラはアウトルへと視線を向ける。

 

「よお、何百年経っても相変わらず胡散臭いままだなぁ、お前は……」

 

「アシュラ……私は……」

 

言葉を詰まらせながらもなんとか喋ろうとするアウトルに対してアシュラは首を横に振りそれを遮る。

 

「お前の言い分は聞こえてたよ。ったく……人を勝手に反面教師の教材にしやがって……」

 

「……それくらいしか私に語れる事など残っていなかったのでな」

 

「勝手なんだよ。いつもいつも頭の中で一人だけで答えを出しやがって……」

 

「あぁ、そうだな……その通りだ」

 

お互い歯切れの悪い言葉の応酬をしながらアシュラはなんとも言えない空気に耐えきれないのかスレイ達へと視線を向ける。

 

「お前達も悪かったな……オレたちのいざこざの尻拭いなんてさせてしまって。導師の先達がこんな様で呆れてしまっただろ」

 

自虐しながら同意を求めるように薄く笑うアシュラ。

 

だが、誰も彼を笑いはしない。

 

笑える筈がない。

 

たとえ道を踏み外してしまったにしても確かに彼の始まりの夢は間違いでは無かった。

 

そんな男の最期に平然と唾を吐き捨てるような台詞を吐ける者など今この場には誰一人としていなかった。

 

そんな一同の反応にアシュラは思わず苦笑する。

 

「ははっ……オレの後輩はどうやら本当に優秀で優等生らしいな……お前らならオレと違ってなにもかも中途半端なままで自分のやってきた事を全部無駄にしちまうなんて事にはならないだろうさ」

 

そう自嘲するアシュラだが……

 

「無駄じゃないよ」

 

「……え?」

 

発せられたスレイの言葉にアシュラは思わず戸惑いの声を漏らす。

 

「貴方は確かに導師として間違ってしまったかもしれない。けど、貴方の夢も導師としてやってきた事も決して無駄なんかじゃないとオレは思う」

 

そう言ったスレイの言葉を継ぐようにアリーシャが口を開く。

 

「例え大勢の人間を守りきる事ができなかったとしてもアシュラ殿によって救われた人間はたしかに存在した筈です。ならそれだけで貴方が導師としてしてきたことには価値があるんじゃないでしょうか?」

 

優しくそう告げるアリーシャ。スレイはさらにそこから拳で胸を叩きながら明るい笑顔で告げる。

 

「もしそれでも心残りがあるのなら……オレがアシュラの夢を受け継ぐよ」

 

その言葉にアシュラは思わず目を丸くする。

 

「夢を……継ぐ……?」

 

「うん! 大勢の人々の笑顔を守りたい。それがアシュラとアウトルさんの夢だったんだよね? ならきっとそれはオレ達の夢と一緒だ。オレやアリーシャも人間も天族も大勢の人が手を取り合って笑顔で生きていける。そんな世の中を目指しているから。だからアシュラとアウトルさんの夢も一緒にオレ達が背負うよ」

 

笑顔でそう言い切るスレイ。そこに晴人が口を開く。

 

「夢ってのはさ、必ずしも叶えられる訳じゃない。進んでみた道の先が自分が嘗て思い描いてたものと全く違う時だってある。それでも託して繋げていけるものだってあるんだ」

 

晴人もまた様々なファントムとの戦いの中で希望が受け継がれていくのを見てきた。

 

そして彼自身もまた魔法使いに憧れながらも夢破れた仲間の夢を背負い魔法使いとして戦っている。

 

「何度躓いたって繋いで続けていく事が大事なんだ。そうすりゃいつかその夢は目指してた場所にだって辿り着ける」

 

そう言って微笑むスレイ達にアシュラは再度苦笑する。

 

「ったく……本当に良くできた後輩達だよ……」

 

その言葉と同時にアシュラ身体が淡く輝き更に薄まり始める。

 

「あっ……」

 

「どうやら時間みたいだな……」

 

とうにアシュラの肉体は消滅している。残された魂の残滓もまた後を追うのは当然だ。

その光景にスレイ達の表情は悲壮に染まる。

 

自分の消滅を悲しむスレイ達にそれでもアシュラはどこか嬉しそうに笑うとアウトルへと向き直る。

 

「よう、どうやらここまでらしい。最期に何か言っておきたい事とかあるか?」

 

先程よりどこか明るくそう問いかけるアシュラにアウトルは思わず言葉を詰まらせる。

 

「私は……」

 

言葉が詰まり出てこないアウトル。そんな彼をアシュラは何も言わずまっすぐに見つめる。

 

その視線を受けアウトルは小さく息を吐くと自身の仮面へと手をかける。

 

「許してもらえるとは思っていない。こんな事を言う資格すら本当は私には無いのだろう……」

 

仮面を外したアウトルの視線がまっすぐアシュラの視線とぶつかる。

 

「それでも言わせて欲しい…………」

 

意を決したようにアウトルの口から言葉が発せられた。

 

「君を正しく導けなかった」

 

後悔、悲しみ、懺悔、様々な感情を滲ませながらゆっくりとアウトルの言葉が紡がれる。

 

「友である君を支えられなかった」

 

身体が薄まっていくアシュラから目をそらさず言葉は続く。

 

「君との約束に背を向けて逃げ出した」

 

震える声で絞り出すようにアウトルは最後の言葉を告げる。

 

 

「……本当に……すまなかった」

 

その言葉を聞いたアシュラはその場で俯くとすぐにアウトルへと背を向けてしまう。

 

「正直お前には文句が山ほどある」

 

背を向けたままアシュラは言葉を続ける。

 

「オレ自身にも非があったことを差し引いても、お前がオレから逃げ出した事にオレは納得できちゃいない」

 

強い拒絶の色を滲ませた言葉。それをアウトルは甘んじて受ける。

 

だが……

 

「けどまぁ……もう時間も無いしな」

 

そう言ってアシュラはスレイ達へと視線を向ける。

 

「最期の最期でオレ達の夢を継いでくれると言ってくれた出来の良い後輩達との出会いに免じてここら辺で手打ちにしておくよ」

 

その顔にどこか満足気な笑みを浮かべアシュラは最期の言葉を遺す。

 

「スレイって言ったな。オレ達の夢お前に託す。それと──」

 

そしてアウトルへと振り向いたアシュラは──

 

 

 

 

 

「じゃあな、戦友───」

 

そう告げながら淡い輝きが放たれアシュラの魂の残滓は完全にかき消えた。

 

 

─────────────────────

 

 

「こんな感じでいいかな……?」

 

「あぁ、悪くないんじゃないか?」

 

「その手の職人でも無いのにこの出来なら上々でしょ」

 

水の試練神殿。一同が最初にアウトルと会話した広間で一同は作業に没頭している。

 

「済まない……ここまで手伝って貰う事になって」

 

「気にしなくて良いさ。ここまできたらしっかり弔ってやりたいしな」

 

アウトルの言葉にそう答えた晴人の視線の先にあるのは小さな墓跡だった。

 

そこにはアシュラの名が刻まれている。

 

先程の戦いの後一同はこの神殿にアシュラを弔うための墓を作ったのだ。

 

「というか、元はと言えばワタシ達が試練を受けにきてるのに何でいつの間にかソイツのお悩み解決係になってんのよ……」

 

「素直じゃないねぇ。そう言いながら墓石作ったのはエドナちゃんじゃん」

 

「ワタシしか地の天族がいないからよ……勘違いしないで」

 

ブツブツと文句を言いながらも協力するエドナをザビーダが茶化す光景に一同は苦笑する。

 

そんな中アウトルは少しばりの逡巡の後、スレイ達へと向き直る

 

「今回の試練は合格だ。導師スレイ、これで君は水の秘力を得た。君達は想像通り、いや私の想像などずっと上回る程の強さを持っていた。私が教えられる事など最初から無かったのかもしれないな……」

 

自嘲するアウトル。だがスレイはその言葉を遮る様に否定する。

 

「オレはこの試練にこれて良かったと思ってます。導師としてアシュラと貴方の夢を継ぐ事ができたんだから」

 

その言葉にアウトルは驚いた様に目を丸くする。

 

「あ、でもできればもう少し時間があって二人がちゃんと仲直りできたらなって……せっかく最期に話し合えるチャンスだったのに」

 

そう言って表情を曇らせるスレイ。だがアウトルは小さく首を振る。

 

「いいんだ。私は許されてはならない。私自身もそれを認める事などできない。それに───」

 

微笑みながらアウトルは告げる。

 

「最期にもう一度、友と呼んでくれた……それだけでも私には充分過ぎる」

 

そう言ってアウトルはミクリオへと視線を向ける。

 

「君達の進む道がこれからも共にある事を願う」

 

その言葉にミクリオはどこか突き放す様に返答する。

 

「言われるまでもない。僕は貴方を軽蔑するし貴方の様にはならない」

 

「ちょ!ミクリオ!?」

 

冷たくそう言い放つミクリオにスレイは思わず止めようとするが……

 

「良いんだ。これから先も私を軽蔑できるほどまっすぐに歩んでくれ」

 

苦笑するようにそう返したアウトルの言葉が気に入らなかったのかミクリオは踵を返す。

 

「あっ! ちょっ!? ミクリオ!? まだ聞かなきゃいけない事があるだろ!?」

 

スレイの言葉にアウトルは思わず首をかしげる。

 

「む? まだ何か私に聞きたい事が……?」

 

「はい、実は……」

 

 

─────────────────────

 

試練を終えた一同は山岳地帯を降りハイランドの騎士団の駐屯地を目指している。

 

「…………」

 

そんな中、最後尾をどこか口数少なく何かを考え込む様にアリーシャ。

 

そこへ晴人から声がかけられる。

 

「どうしたんだ。さっきから表情が険しいぜ? あんな事の後に明るく騒ごうって気になる様な試練じゃ無かったのは確かだけどさ」

 

そんな晴人の言葉にアリーシャはどこか歯切れ悪く答える。

 

「なぁ、晴人。私達は……アシュラ殿とアウトル様は分かり合えたのだろうか?」

 

その言葉に晴人は言葉を詰まらせる。

 

これまでの戦いは全てが綺麗に解決したとは言えずとも知り合った者達とわかりあい、前へ進むために手を取り合えて来た。

 

だが今回の戦いはどこまで行こうと過去の精算だった。

 

明確に一人の男の歩んで来た道を終わらせる為の戦い。

 

確かにアシュラは最期に笑って夢を託してくれた。

 

だが、それでもやはりあの結末はお世辞にもハッピーエンドと言えるものでは無いだろう。

 

彼女はその結末に引っかかりを感じていたのだ。

 

「アシュラ達の為に自分が最善を尽くせたのか自信が持てないってことか?」

 

その言葉にアリーシャは小さく頷く。

 

「傲慢な事かもしれない。それでも……」

 

そう言いながら俯くアリーシャ。

 

そこに……

 

「え……?」

 

ぽん……とアリーシャの頭に晴人の手が優しく乗せられる。

 

「何が救いかなんて、本当の所、本人にしかわからない」

 

「それは……?」

 

「スレイも言ってただろ? そいつがどんな人生を歩んでどんな痛みや苦悩を背負ってたのかなんて結局のところ俺達は想像する事しかできないってさ。だから俺にもアシュラ達が分かり合えたとか救えたなんて胸を張って言い切ることはできないよ」

 

けど……と晴人は言葉を続ける。

 

「それでもあの時アシュラは笑ってた。そこに込められた想いは本人達にしかわからないけど、俺達はあの笑顔を信じなきゃいけないと思う」

 

「笑顔を……信じる……?」

 

その言葉の意味を問う様にアリーシャは晴人へと視線を向ける。

 

「人の心なんて単純じゃない。押し殺してる想いだってきっと沢山あっただろうさ。それでもその上で、アシュラは最期に笑ってアウトルと誓った夢を託したんだ。託された俺達がその言葉を疑ったらあの笑顔を嘘にしちゃうだろ?」

 

その言葉にアリーシャは目を見開く。

 

「託された側の自己満足かもしれないけどさ、それでもきっと……」

 

そう言って微笑む晴人。その目は近くを見ているようでどこか遠く、ここにはいない誰かを見ているかの様で……

 

「ハルト……?」

 

どこか憂いを帯びた、これまで見た事の無いその表情にアリーシャは思わず晴人の名前を呼ぶが……

 

「なんてな♪」

 

「なっ!? 何をするんだ!?」

 

突如頭に乗せた手でわしゃわしゃと髪を乱され思わずアリーシャは抗議の声を上げる。

 

「いつまでも辛気臭い表情していたってしょうがないさ。ちゃんと背負って前を向いていこうぜ?」

 

そう言っていつものようにどこか軽い調子で笑う晴人にアリーシャは思わず呆気に取られる。

 

「ハルトー? どうかしたの?」

 

 そんな二人に、いつのまにか先を歩いていた一同が距離が開いている事に気付き声がかけられる。

 

「いや、なんでもない! さて、いこうぜアリーシャ」

 

「あ、あぁ……」

 

そう言って晴人は早足で歩き始める。

 

そんな彼の表情は先程見せたものと違い、いつも通りのどこか飄々とした軽い調子でそれでいて頼もしいアリーシャのよく知るいつもの操真晴人のものだ。

 

だけれども、アリーシャはなぜかその時始めてその表情に違和感を覚えた。

 

彼は今変身していない。だから当然その顔を覆い隠している仮面は存在しない。

 

その筈なのに。

 

アリーシャには何故か今の晴人の表情が何かを覆い隠した仮面のように思えた。

 

─────────────────────

─────────────────────

 

 

水の試練神殿。その中でアウトルはアシュラの墓と向き合いながらその手に一振りの剣を取り出した。

 

アシュラが生涯をかけて創り出した世界を断つ剣だ。

 

「この剣は返す。今更かもしれないが……今だからこそお前と一緒にここで眠るべきだ」

 

そう言ってアウトルはアシュラの墓の前に剣を突き刺し踵を返しその場から去ろうとする。

 

その時……

 

 

 

 

 

「馬鹿な事を言う。剣は振るわれてこその剣だろう」

 

「ッ!?」

 

突如として背後から響いた声にアウトルは素早く振り返る。

 

その視線の先には……

 

「ほう……これが世界を断つ剣……憑魔アシュラの執念が生んだ魔剣か……」

 

「………」

 

黒い外套に身を包みフードで顔を隠した二人の人物が立っていた。

 

小柄な方からはどこか楽しげな少女の声が聞こえるがもう一人の人物は一声も、発さずその性別すら明らかでは無い。

 

小柄な人物は剣を引き抜くと無言を貫くもう一人へとアシュラの剣を渡す。

 

「貴様ら……何者だ?」

 

警戒の色を滲ませながらアウトルは問う。

 

その言葉に小柄な人物は揶揄うように返答する。

 

「何者か……か? そうさな、人の世に仇なす者にして人をあるべき姿へと導く者。とでも言っておこうか」

 

「……まさか災禍の顕主の!」

 

「その通り。素晴らしい魔剣を腐らせるぬしの代わりに有効に使ってやろうと思い、馳せ参じたという訳だ……」

 

その言葉を言い終わる前に外套の二人を何重もの水の結界が覆う。

 

「ほお……流石は護法天族。この速さでこれほどの術を行使するとは」

 

「悪いがその剣を悪用させるつもりは微塵も無い。その剣で誰かが傷つけられる事だけは絶対に……言え!貴様らの目的は一体──!」

 

天響術を展開しながらアウトルは力強くそう言い放ち、目の前の二人を尋問しようとする。

 

だが……

 

 

「妙な事を言う。ぬしは自身の運命から背を向けて逃げ出し舞台からとうの昔に降りた存在だ。そんなぬしが今更、我が主の計画を止める事などできるはずがないだろう」

 

「何をっ!?」

 

更なる術を行使しようとするよりも早くもう一人の人物がその手に握られた魔剣を振るう。

 

「クッ!!」

 

一振りで紙切れの様に切り裂かれる水の結界。

 

その余波にアウトルは思わず態勢を崩す。

 

「ククク……その名の通り素晴らしい斬れ味だ」

 

楽しげに笑う少女はその光景に満足気に嗤う。

 

「まっ、待て!」

 

すかさずアウトルは水の天響術を放とうとするが……

 

「もう遅い。ぬしには何も止める事などできはしない」

 

 

魔剣がもう一度振られ空間がガラスの様にひび割れ砕け散る。

 

外套の二人はその亀裂の中へと歩を進め……

 

「素晴らしい収穫だ。姫には感謝せねばな」

 

その言葉と共に亀裂の走った空間が修復され二人の姿は忽然とその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 





とりあえず水の試練編完
次は地の神殿となりますが不破さんの変身が認証されるよりがは早く更新したいところです。ワンチャンずっと認証されなそうですけど。

あぁぁぁぁ早くOQの円盤発売されねぇかなぁぁぁ!!!!(平成欠乏症)

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