Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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メリークリスマス!プリーズ!(滑り込み)

早く来年になってジオウOQの円盤で平成をキメたい今日この頃、今年最後の更新となります。
凸凹だらけのクソ遅い更新ですが最新話をどうぞ


42話 兄妹 前篇

 

 

青空が広がる見晴らしの良い開けた崖沿いの道。崖下のはるか下にはどこまでも広大な海が広がっており、潮風が吹き抜けていく。

 

これと言って目立つ物は無いがそれでも散策に来たらつい足を止めその雄大な景色を眺めてしまう事受け合いの場所。

 

だが、それはその場が安全であればの話で……

 

 

「うわぁっ!? なんかネバネバして動けないんですけどぉ!?」

 

「だからお前はなんでいつもそうやって!」

 

「うっさい!うっさい!こっちだって好きでこんな目にあってるんじゃないっつの!」

 

自身の手脚を絡みとり動きを封じた巨大な粘着質の糸に文句を叫ぶロゼにいつものようにデゼルも釣られて叫ぶ。

 

「《八つ裂け風刃!エアスラスト!》」

 

デゼルが放つ風の刃がロゼを拘束する糸を断ち切るとロゼはすぐさまその場を離脱する。

 

直後にその場に地属性の重力を操る天響術が着弾し地面を大きく陥没させる。

 

「うわぁ……危うく糸に巻かれてペチャンコにされるとこだったじゃん……」

 

冷や汗を流しながらロゼは術を放った敵へと視線を向ける。

 

そこには巨大な蜘蛛……否、蜘蛛の下半身と人間の女性の上半身を組み合わせた異形の怪物の姿があった。

 

「憑魔『スパイダーエリザベス』見ての通り、スパイダーの変異タイプだ。強烈な術と糸による拘束に気を付けろよ。ありゃ一度惚れたら離してくれないタイプだぜ」

 

「蜘蛛憑魔の女王……誰かれ構わず跪かせる圧迫感を持っていますわ……」

 

「物理的にね!何!?天族って解説の時になんかジョーク言わなきゃいけない縛りとかあるの!?」

 

憑魔への解説をするザビーダとライラに対してロゼのツッコミが飛ぶが重力操作の天響と糸による牽制で、一同は中々攻勢へと転じられない。

 

「厄介だな……試練神殿が控えてるとは言え出し惜しみしてる場合じゃないか……」

 

「うん! 一気にケリをつけよう!」

 

晴人とスレイはそれぞれドラゴンスタイルと神依の力を使用しようとするが……

 

「《頭が高い〜……土下座土下座〜……エアプレッシャ〜》」

 

ドゴォ!

 

『グギャァ!?』

 

直後、気の抜ける様な声ととてもつもなく適当な文言を並べた詠唱から放たれた重力の天響術がスパイダーエリザベスを襲い、その身体を深々と地面へとめり込ませる。

 

その術を放った張本人、エドナは重力で拘束されたスパイダーエリザベスへと日傘をさしながら悠々と歩いて近づき……

 

「這いずくばるのがお似合いね」

 

見下す様な低い声と共に軽く持ち上げた片足を地面へとトンっと振り下ろす。

 

『ゴガァッ!?』

 

次の瞬間地面が隆起し飛び出した巨大な岩がスパイダーエリザベスを上空へと打ち上げる。

 

エドナはつまらないものを見るように閉じた傘の先端を上空のターゲットへと向け……

 

「ヴェネレイト・マイン!」

 

収束された強力な霊弾が放たれ、着弾と同時にスパイダーエリザベスは断末魔すらあげられず爆発に飲み込まれ浄化された。

 

「ったく……手間取らせんなっつの」

 

再び日傘を広げ、つまらなそうに言い捨てるエドナ。

 

 

「「えぇ……」」

 

そんな彼女の独壇場に、置いてけぼりを食らった晴人とスレイのなんとも言えない声が重なり風に溶けていった。

 

─────────────────────

 

ローランス領の南部、外海に面した崖沿いの道『アイフリードの狩場』。水の試練を終えた後、正式に両国での導師としての活動が認められた一同はすぐさま残りの秘力を得る為に地と風の試練神殿へと赴くべくローランスへと向かった。

 

試練神殿の場所はザビーダが把握していた為どちらに向かうか話し合われたが、最近になって、このアイフリードの狩場にて遺跡荒らしを取り締まっていたローランスの騎士団から上位の憑魔によるものと思われる被害報告が上がっていた。

 

それならばと一同はローランスへの協力も兼ねてアイフリードの狩場にある地の試練神殿へと向かう事にしたのである。

 

騎士団から報告された被害の原因と思われる憑魔、スパイダーエリザベスを浄化し目的の1つを遂行した一同は試練神殿へと向かう前に一度休息をとっていた。

 

「うわぁ!すっごい景色!」

 

高い崖の上から果てしなく広がる水平線を眺めてスレイは感嘆の声をあげる。

 

「確かにこれは凄いな。ハイランド領ではこう言った景色を見れる場所は無いから新鮮だ」

 

「ハイランドは国土の殆どが山地や高原だからね。僕たちも故郷は山の上だから同じ気持ちだよ」

 

「まぁ、レディレイクの湖もあれはあれで他所で見れるようなもんでもないけどな。普段見れないものが見れるってのは楽しいもんさ。そういう意味じゃあ俺が一番得してるかもな」

 

「流石は大海賊アイフリードの名を冠する場所なだけあって絶景だよね〜」

 

海を眺めながら吹き抜ける風に心地よさげにそう告げたロゼに晴人が首を傾げる。

 

「アイフリード……?」

 

そんな中毎度毎度この世界の固有名詞に弱い男、操真晴人は一人、聞き覚えの無い名前に首を傾げる。

 

もはや定番となりつつある流れに苦笑しつつアリーシャは補足する様に説明を開始する。

 

「アイフリードというのは1000年前にこの大陸で暴れ回った伝説の海賊の名なんだ。その活動はこの大陸の海だけには飽き足らず、この大海原を越えた先の別の大陸にまで及んだとされている」

 

「主にローランス側に言い伝えられてる伝説なんだけどアイフリードの冒険譚は御伽話やら絵本なんかにもされててね。この大陸に住んでて知らない人はいないんじゃない?」

 

アリーシャの説明をロゼが引き継ぐが、その言葉にミクリオは腕を組みながら少しばかり不満げに言葉を続ける。

 

「でも大昔のこと過ぎて、みんな好き勝手に脚色しているけどね。各地によって話が別物過ぎて何が真実なのか……」

 

「あはは……今語り継がれてるのは子供をワクワクさせる童話の側面が強いからなぁ。オレもミクリオも子供の頃は、いろんなアイフリードの話を読むのはワクワクして楽しかったし」

 

ミクリオの言葉に苦笑するスレイ。

 

「へぇ、そんなに色々なパターンがあるのか?」

 

「一番有名なのは逞しくて豪快で何ものも恐れず縛られない自由な海の男って感じだね」

 

「お約束な海賊像だな」

 

ロゼの説明を聞きながら世界が違っても共通な海賊像に晴人はどこか感心したように頷く。

 

だが続けるようにアリーシャの言葉に晴人は思わず固まる事になる。

 

「私が好きだった話はアイフリードが美しい黒髪の女海賊という話だな。子供心に強い同性の主人公というのは惹かれるものがあった」

 

「え、女海賊……?」

 

「あたしは人じゃなくてトカゲ男だったって話が好きだったかなぁ。なんか意外性あってさ」

 

「と、トカゲ男……?」

 

「困惑する気持ちはわかるよ。どこもかしこも話を面白くしようとしてるからか脚色されて、アイフリードの正体が女性だったり人の姿とは違う怪物だったり、なんなら王子だったなんて突拍子も無いパターンも沢山あるんだ」

 

困惑する晴人にミクリオは同意し、その隣でスレイはアイフリードの御伽話のパターンを指折りで数えながら説明し始める。

 

 

「ホント色々あるからなぁ。大きな剣を背負った剣士だったとか胡散臭い魔女だったとか……あとは不幸を運ぶ『死神』だったとか」

 

 

 

 

「……っ」

 

『死神』、スレイが最後に告げたその言葉に一瞬エドナの表情が僅かにぴくりと反応する。たが一同がそれに気がつく事はない。

 

「人間からしたら例え実在した人物だろうが自分の生きた時代と大きくかけ離れた過去の存在は絵本の中の架空の人物と大差無いという事だろう」

 

「記録というものは編纂するものの価値観や主張によって形を変えてしまう事も珍しくはありません。その時代を生きた者と想像するしかない者とではやはり感じ方も違うのでしょう」

 

デゼルとライラは永い時を生きる天族としてそう評する。

 

「あぁ、確かになぁ。俺のいた場所でも昔の偉人を色々と脚色した作り話は沢山あるからなぁ」

 

自身のいた世界でも歴史上の偉人というのはドラマ、小説、漫画など様々な形で取り扱われる題材にされてることを思い出しながら晴人はデゼルの言葉に納得してしまうが……

 

「ふはは……!へぇ、アイフリードの奴の話はそこまでデカくなってんのか!アイツが黒髪の美女っ!くっはっはっ!」

 

楽しげに笑い声をあげるザビーダに一同は困惑する。

 

「ザビーダさん?どうかされたのですか?」

 

「なんだ?またエドナちゃんに笑いのツボでも押されたのか?」

 

「……人聞き悪い事言わないでくれる?あとエドナちゃん言うな」

 

「くくく……いや悪い悪い。アイツが黒髪の美女ってのがあまりにも笑えてなぁ」

 

余程ツボにハマったのか笑いが中々収まらないザビーダ。そんな彼にアリーシャは恐る恐る声をかける。

 

「あの……もしやザビーダ様は、アイフリードと面識があるのですか?」

 

「あぁ、そっか。天族なら1000年前の人間と面識あってもおかしくないもんね」

 

アリーシャの言葉にロゼは納得したようにポンと手を打つ。

 

「ご明察。確かに俺はアイフリードの野郎に会った事がある」

 

「野郎?って事はやっぱ男なのか」

 

「あぁ、さっき言ってたハルトが言うところの『お約束な海賊像』が正解だよ。豪快で自由な奴で話してて気持ちの良い野郎だったさ」

 

「へぇ、随分と高評価だな」

 

「アイツとの喧嘩は楽しかったからなぁ。今でも覚えてるよ」

 

「喧嘩……?海賊と喧嘩って昔のお前は何をしてたんだよ」

 

伝説の海賊と喧嘩などというどうにも物騒な言葉を晴人は訝しむ。

 

「お?聞きたい?喧嘩屋ザビーダ様の波乱万丈な───」

 

「いや、別にそこまでは」

 

「……少しは乗っかれよこの野郎」

 

素っ気なく返す晴人の言葉に肩を落とすザビーダだが───

 

「えぇ!?ザビーダって、あのアイフリードに会ったことあるの!?」

 

「これはかなり興味深いな。アイフリードの伝説は有名であると同時に多岐に渡った伝承で真実は謎に包まれている」

 

「ありゃりゃ、やっぱりこのコンビは食いついちゃうか」

 

歴史大好きコンビであるスレイとミクリオは当然の様に興味津々でザビーダに詰め寄る。

 

「と言ってもねぇ。どっちかというとアイフリードより俺が縁があったのは海賊団の方だからなぁ」

 

「ん?海賊団と縁があるなら船長にも縁があるもんなんじゃないのか?」

 

晴人の問いかけにザビーダはほんの一瞬、言葉を詰まらせるが、すぐにいつもの調子で言葉を紡ぎ始める。

 

「……まぁ色々あったのさ。アイツらは『バンエルティア号』っていう当時でも指折りなスゲェ船に乗っててなぁ。語り継がれてる様に異海を越えて異大陸まで股にかけた大海賊だったのさ」

 

楽しげに語りながらザビーダは腰にねじ込まれていたジークフリートを取り出す。

 

ジークフリート(こいつ)も元はと言えばアイフリードが異大陸から持ち帰ったもんの一つさ。紆余曲折あって俺のところに転がりこんだがな」

 

「その武器……かなり特殊な物だとはお見受けしていましたが、異大陸のものだったのですね」

 

「残弾による制限があるとは言え力を増幅させたり穢れとの繋がりを断ち切ったりと明らかに普通では無いとは思っていたが……」

 

アリーシャとミクリオはどこか納得したようにザビーダの言葉を受け止めるが、当のザビーダ本人は首を横に振る。

 

「確かにジークフリート(こいつ)は強力だが、俺が弾丸で使ってる力は本来のジークフリートの持つ力の一端でしかない」

 

「力の一端だと?アレで……?」

 

以前、フォートンのアンダーワールド内での戦闘で逆転の切っ掛けにもなったジークフリートによる力の増幅。

 

一時的とは言え天族単体で神依をも上回る力を発揮したそれを知っているからこそ、デゼルは驚いた声を溢す。

 

「あぁ、俺が使ってる弾丸は本来ジークフリートに『込めるべき弾丸』じゃないのさ」

 

「込めるべき弾丸……?」

 

「どういう意味だよ?」

 

「……ま、気が向いたらその内話してやるよ」

 

「って、そこまで話しておいて言わんのかい!」

 

話を切り上げるザビーダに思わずツッコミを入れるロゼ。だがザビーダは何食わぬ顔で言葉を続ける。

 

「気軽に使えるもんでもないんでな。もしもの時はちゃんと話すさ」

 

「むぅ……何かはぐらかされてる気がする」

 

「まぁまぁロゼさん。ザビーダさんにも考えがあるのでしょうし」

 

「そういうことさ。で、どうだったよ少年少女諸君。ザビーダ様による昔話は」

 

その言葉を聞きロゼは残念そうに気が抜けた声を漏らす。

 

「あたし的にはアイフリードの伝説は他のパターンも面白くて好きだからワンチャンないかなぁとか思ってたんだけどなぁ」

 

「確かに……女海賊が明確に否定されたのは少し残念だ」

 

「いやいや、トカゲ男や女海賊は流石に無いんじゃないか?」

 

ロゼとアリーシャの言葉に苦笑するミクリオだが……

 

「いや、それはどうだろうねぇ」

 

ニヤニヤとザビーダは意味深な言葉を呟くと。

 

「どういう意味でしょうかザビーダ様?」

 

「別に?ただ、火の無いところに煙は立たないって話さ。デタラメに聞こえる御伽話も言うほど荒唐無稽って訳じゃない」

 

「つまりどういうこと?」

 

「そこら辺は生憎と天族のルールで話せねぇ。気になるなら調べてくれ。それに全部説明されてもつまんねぇだろ?」

 

「えぇ!?そこまで話されたら気になるんだけど!?別にあたしは自分で調べるのに楽しみとか感じないし。ねぇスレ───」

 

意味深に話を区切ったザビーダに不満を感じたのか、ロゼは抗議をしつつ同意を求めてスレイへと視線を向けるが……

 

「どういう事だと思うミクリオ?ザビーダの言い方だと女海賊やトカゲ男もアイフリードに何からしら関係があるのかな?」

 

「あの言い方だと王子やら死神という他の伝承も無関係では無いのかもしれない。だがどういう関係性が───」

 

既にノリノリで仮説を論じ始めている2人。その熱量にロゼの表情が引きつる。

 

「ま、いつも通りと言えばいつも通りだな」

 

「お約束ですわね」

 

「あー……やっぱあたしにはあの2人のテンションの上がり所はさぱらん」

 

呆れた様子のデゼルと微笑ましいと笑うライラ。ロゼは疲れた様に肩を落とす。

 

「ははは……ん?アレは?」

 

「エドナちゃん。どうしたんだ、あんなところで?」

 

そんな中、晴人とアリーシャは会話に混じらず、離れた場所で何かを見つめているエドナに気がつく。

 

2人は視線を合わせると、どうしたのかとエドナに歩み寄る。

 

エドナは背後から近づく2人に気がついていないのかこちらへと視線を向ける事は無い。

 

どうしたのかと2人はエドナの背後から彼女の視線の先にあるものを覗き込み……

 

「……花?」

 

エドナの視線の先、そこには老いて横倒れになった朽ちた大木があり、その大木の日陰、そこには周囲に生えてる花々とは違う赤い可憐な花が咲き誇っていた。

 

「……ッ!」

 

2人の存在にまったく気づいていなかったのか、背後から響いた声にエドナは驚いた様に振り返る。

 

「…………」

 

「あ、その……」

 

キッと細められた目と無言での圧力、何かまずい事をしてしまったのかと焦るアリーシャは思わずしどろもどろになる。そこに晴人が助け舟を出す様に問いかける。

 

「えぇっと、どうかしたのエドナちゃん?どこか調子が悪いとか疲れてるとか」

 

「…………別に」

 

素っ気なくエドナは踵を返すとスレイ達の元へと歩いていく。

 

「お喋りはもういいでしょ。早く行ってさっさと済ませるわよ」

 

未だに海賊の歴史考証トークで盛り上がるスレイとミクリオにエドナは淡々と話しかけて流れを止めた。

 

「少し待ってくれ。今いいところなんだ」

 

「ワタシは興味ないから」

 

「でも面白そうだし気にならない?1000年前の海賊の真相」

 

尚もスレイとミクリオは食い下がるが……

 

 

 

 

 

 

「ワタシ、海賊が大嫌いだから」

 

淡々と、冷たい声でそう言い放ちエドナは傘を開き歩き始める。

 

「エドナさん!?」

 

「ちょ、待ちなよエドナ!」

 

スレイ達は慌てて準備を整えエドナを追いかけ始める。

 

慌てて出発の用意をするアリーシャは気まずそうに隣に立つ晴人に声をかける。

 

「ハルト……私は何か不味い事をしてしまったんだろうか?」

 

「いや、俺にも何が何やら……」

 

そんな中、ザビーダは先頭を進んでいくエドナを見つめながら小さく溜息を溢す。

 

「繊細な所は案外似ているのかもな」

 

そう言ってザビーダはエドナが見つめていた日陰に咲く赤い花へと視線を向けた。

 

─────────────────────

 

 

「うわぁ……」

 

「これが地の試練神殿……」

 

「はい、地を司る五大神ウマシアの試練神殿、モルゴースですわ」

 

アイフリードの狩場の奥地、人里から遠く離れた海辺の最果て。そこには石造りの古代の神殿を思わせる巨大な遺跡が存在していた。

 

「なんか新鮮だね。これまでの試練神殿って鉱山とか滝の中に隠されてたし」

 

「確かにな。まぁ海辺側から大きく迂回して来ないといけない分、距離はあったけど」

 

これまでの試練神殿は滝や鉱山の内部にある都合上、縦長の設計となっていたが今回の遺跡は広大な土地に悠然と建てられており横に広がった神殿としてオーソドックスなデザインなためにまったく違った印象を受けたのか、スレイ達は感嘆の声を漏らす。

 

「なんでもいいわ。面倒だしさっさと終わらせるわよ」

 

しかしながらそんな事は知ったこっちゃ無いとエドナはズンズンと進んでいく。

 

「え、ちょ!?エドナ!?」

 

置いてけぼりを食う一同だがロゼはエドナを見ながら訝しむ表情を浮かべる。

 

「なーんか、エドナの様子おかしくない?試練が自分の番だから面倒臭がってるのかと思ってたけど、なんか少し余裕が無いっていうか……」

 

「ロゼも感じていたか……私もエドナ様が何かに焦っているように見える」

 

元々、毒舌な部分や捻くれた部分や天族と共に過ごしてきたスレイ以外の人間に対して壁を作る傾向のあるエドナではあるが、先程から妙に口数も少なくいつにも増して素っ気ない態度に、ロゼとアリーシャは違和感を感じていた。

 

「あー……それは……ごめん。オレからは勝手に話せないから……」

 

2人の言葉に対してスレイは歯切れ悪くて言葉を濁すが……

 

「たぶんエドナちゃんが旅をしてる理由と関係してるんだろ?事情知ってるからってそんな申し訳なさそうにしなくて良いさ。本人から口止めされてるんだろ?」

 

晴人は気にするなと笑いながらスレイへと語りかける。

 

「まぁそれ言っちゃうとあたしも人の事言えないけどさ」

 

「要は妙なことにならん様にこちらでフォローすればいいんだろ」

 

「デゼル殿のいう通りです。エドナ様を追いましょう」

 

ロゼとデゼルもまた気にした様子も無くアリーシャの言葉で一同はエドナの後を追う。

 

石造りの門を潜りエドナの姿を探すと、さして距離の離れていない場所にエドナが立ち止まっているのを発見する。

 

「エドナ、あまり1人で先に……どうかしたのか?」

 

苦言を呈しようとしたミクリオだがエドナが何かを見つめている事に気づきどうしたのかと問う。

 

エドナは畳んだ傘で正面を指す。

 

そこには───

 

『グゥゥゥ……』

 

「うぅむ……困った、困ったぞ……」

 

奥へと続く門をこちらに背を向けて塞ぐ巨大な憑魔、そしてそれを見つめながら唸る護法天族と思わしき天族がいた。

 

「……どういう状況だコレは」

 

「とりあえず困ってそうだから話を聞けばいいんじゃないかな……」

 

元はと言えば護法天族から秘力を授かりにきているのだから先ずはその本人に話を聞こうと一同は護法天族と思わしき人物に近づく。

 

「あの……」

 

スレイが代表して声を掛けようとした瞬間……

 

「ん?……おぉ!?ライラちゃん!」

 

シュバっとスレイを通り過ぎ、ライラの前に立つ天族。一同は目を丸くする中唯一ライラは苦笑いを浮かべる。

 

「お久しぶりです。パワント様」

 

「おぉ!おぉ!久しぶり!いやぁ!相変わらずライラちゃんは美人じゃなぁ!それにスタイルも……ぐふふ」

 

これまでの護法天族と違い腹回りが太り気味で声も中年寄り、そして仮面を被っていてもわかるライラの身体を下から上へとじっくり見たことがわかる視線の流れ。

 

初対面でありながら一部のピュアな者以外の心は一つになった。

 

『あ、こいつエロオヤジだ』と。

 

「相変わらず困った方ですわね……」

 

はぁ、と溜息をつくライラだがパワントは気にした様子も無くシュバっと別の方向へと視線を向ける。

 

その先には──

 

「ひぅっ!?」

 

「ヤバっ!?こっち見た!?」

 

アリーシャとロゼがいた。

 

思わずその勢いにビクつくアリーシャと露骨に警戒するロゼ。

 

そんな事も気にせずパワントは2人に近付く。

 

「おぉ!おぉ!導師の力を求めて来たんだな?試練だろう?そうだろう?」

 

「え、いや……その……」

 

「う、圧が凄い……」

 

何を勘違いしたのか物凄い勢いで2人に導師の試練について語り始めようとするパワント。

 

ついでに視線はアリーシャとロゼの太ももやら腰回りを泳いでおり2人は思わず表情を痙攣らせる。

 

「生憎と2人は導師じゃない」

 

「そっちの男が導師だ」

 

思わず晴人とデゼルが2人の前に立ちながらフォローを入れる。

 

そういう視線に耐性の無いアリーシャは助かったと安堵し晴人の上着の裾を掴み身体を隠し。ロゼも小さい声で「ナイス!デゼル!」と感謝の意を伝える。

 

2人の言葉を聞いたパワントはスレイへと視線を向ける。スレイは困った様に頭を掻いて苦笑いするが、パワントは露骨に肩を落とし残念そうな声を漏らす。

 

「なんじゃ、そっちの娘たちではないのか……」

 

そんな態度に晴人も若干引き気味でライラへと小さな声で話しかける。

 

「……おい、本当に大丈夫なのかこの人。ザビーダタイプじゃないか」

 

「まぁそこは否定できませんが……」

 

「おい待てハルト!俺様がアレと同じだってのか!?」

 

「おっさん臭さに差があるだけでお前もあっち側に片足突っ込んでるよ」

 

「確かにですわ」

 

「ちょおま!?俺はセクシーな感じの大人のお兄さんキャラだぞ!?」

 

「自分で言うな。そう思うならもう少しセクハラ発言抑えた方がいいぞ。ふとした油断でお前も完全に向こう側だ」

 

「マジか!?」

 

「マジですわ」

 

「マジだ」

 

ザビーダは2人の言葉に凹む一方、他の面々は目に見えてパワントを胡散臭い目で見るか純粋に引いている。

 

仕方なくライラはパワントをフォローすべく口を開いた。

 

「パワント様はまぁその……多少は癖のある方ですが、かつては1万以上の憑魔を鎮めた導師です。実力や経験は本物ですわ」

 

「へぇ!?1万!?このスケベなおっさんが!?」

 

「おい、言い方」

 

「ん?というか導師?天族なのに?」

 

晴人はライラの言葉に首を傾げる。そこにザビーダから声がかかる。

 

「忘れたのかハルト。天族にも色々あるって言ったろ?最初から天族として生まれてくる奴もいれば特殊な形で天族になる奴もいる。俺たちは『転生』って読んでるがな」

 

「その通り!死に方一つで種族を越える。げにこの世は愉快よなぁ!」

 

そう言ってからからと楽しげに笑うパワント。

 

「この際、それは置いておくとしてとりあえず試練を……」

 

脱線し始めた会話を元に戻そうとミクリオはパワントに試練の事を訊ねようとするが……

 

「あれ、エドナ?」

 

スタスタと歩いてきたエドナがパワントの前に出る。そして……

 

「エドナにちょうだい♪ おじたまの♡ は〜や〜く〜♡」

 

甘ったるい猫撫で声で放たれたその台詞で場の空気が凍った。

 

「おぉ!可愛い娘じゃのお!エドナちゃんかぁ!」

 

「おじたま〜ん♡ワタシ我慢できないの〜♡♡」

 

見た目幼女がおっさんに割とアレな台詞を連発する日曜朝には放送でなさそうな絵面。

 

思わず一同の表情は引き攣りアリーシャに至っては顔を赤くして目をぐるぐるとしている為、晴人は彼女の精神衛生の為に耳を塞いだ。

 

「アイツが聞いたらあのおっさん錨に巻かれて海に沈められるな……」

 

エドナの台詞に遠い目をするザビーダだがパワントは困った様に腕を組む。

 

 

「おぉ?!だが試練じゃからの〜……まずは神殿の奥の祭壇まで行かねば……」

 

そこは流石に護法天族。試練を飛ばして合格は流石に認められないのか渋った様子を見せ──

 

 

 

「チッ……使えないエロオヤジね」

 

「え……」

 

先程までの猫撫で声は何処へやら。低い声で罵倒の台詞が飛び出し、パワントが固まる。

 

「そもそも気に入らないのよ。今更このワタシを試そうなんて」

 

「え、いや、試されるのは導師で……」

 

「とりあえず道を塞いでるあの憑魔を退けて奥の祭壇に行けばいいのね……」

 

「え、ちょ!?話を聞いて!?」

 

足早にズンズンと扉を塞ぐ憑魔へと歩いていくエドナ。

 

当然、憑魔も気配に気がつき振り返る。

 

巨大な神殿の門に対しても頭が接触しかねない高さを誇る巨体、人の身体に牛の頭部を持ち、手には小屋程度なら真っ二つにしてしまいそうなほどの戦斧が握られている。

 

「アレは、憑魔ミノタウロス!」

 

「エドナ様!1人では危険です」

 

すぐさま一同は援護すべく戦闘態勢に入ろうとするが───

 

「消えろ」

 

『ッ!?』

 

次の瞬間に放たれたドスの効いた声にミノタウロスの動きが蛇に睨まれた蛙の様に固まる。

 

「消・え・ろ」

 

『ブ!?ブモオオオ!?』

 

再度、先程の5割増しの迫力で放たれたエドナの声にミノタウロスは怯えた声を上げて逃走した。

 

『えぇ……』

 

 

一同からなんとも言えない声が溢れるがエドナは気にした様子も無い。

 

「これで後は奥の祭壇に行くだけね。さっさと終わらせましょう」

 

そう言って進もうとするエドナだが───

 

「いや……あのミノタウロスを浄化する事が今回の試練の一つなんだけど」

 

そう言ったパワントの言葉にエドナの動きがピシリと止まる。

 

「なんで言わないの?馬鹿なの?」

 

「いや、エドナがズルしようとしたり話を聞かなかったからだろ」

 

「喧しいわよ。チッ、こうなったらしょうがないからさっさと終わらせるわよ」

 

「いや、だから元はと言えば……」

 

「出発。発進。探検開始」

 

「おい話を……」

 

「出発。発進。探検開始」

 

聞く耳持たずエドナは神殿の奥へと足を進める。

 

「エドナさん……」

 

「やっぱりいつもと何か違うな」

 

「……何も起こらないと良いんだが」

 

どこか荒れている態度を見せるエドナを、一同は訝しみながらも後に続くが──

 

「む、ハルト、どうかしたのか?」

 

「少し聞きたい事があってな。なぁアンタ……」

 

そんな中、晴人は足を止め、それに気がついたアリーシャも彼に近づく。

晴人はエドナの言葉に凹んだのか壁の角でいじけるパワントに声をかけた。

 

「む、なんじゃ?」

 

「ミノタウロスを浄化する事が試練の一つって言ったよな?じゃあ他にも何か試練があるのか?」

 

「聞いてくれるか!?」

 

「お、おう」

 

ぞんざいな扱いを受けてショックだったのか、晴人の言葉に詰め寄るパワント。晴人は少し引きながらも小さく頷く。

 

「ふむ、あまり喋り過ぎると試練にはならんが、まぁ可愛い娘ちゃんもおるし少しヒントじゃ」

 

「ふぇ!?」

 

「おいコラ、それで良いのか護法天族」

 

思わず再び晴人の後ろに隠れるアリーシャ。晴人は思わずツッコミをいれる。

 

だがパワントは気にした様子もなく先ほどとは違う真面目な声で2人に語りかけて───

 

 

─────────────────────

 

 

そして時は経過し───

 

「だあああ何処へ行ったアイツゥ!」

 

怒りの声を上げるロゼ。

 

一同は逃げたミノタウロスを見つけ出せないでいた。

 

試練神殿モルゴースはこれまでの試練神殿と違いとにかく横に広大である。そして、中央部は天井の無い大きな広場のような作りとなっておりそれを囲むように神殿が建てられている。

 

当然ながらこれまでの様に神殿内部には憑魔が封じられている訳だが、戦いながら探索しても探索してもミノタウロスはエドナに怯えて警戒心が強まったのか発見できない。

 

魔法を使おうにもここは試練神殿である為に余計助太刀は出来ず、エドナの能力以外は下手に使うこともできない。

 

一同は埒が明かないと中央部の広場で話し合いをしていた。

 

「あの巨体で見つからないって何!? 童心を忘れないかくれんぼの達人かっつの!」

 

「お前は試練神殿に行くたびにツッコミのキレが増していくな」

 

「やかましいわ!」

 

「まぁまぁ落ち着いて……」

 

「しかしどうしたものでしょうか……」

 

「試練って事は何かしら突破口があるはずだけど……」

 

「…………」

 

考え込む一同。エドナに至っては口を開きすらしないため、余程イラついている様に見える。

 

「ハルト、先程パワント様が言っていた事は何か関係しているのだろうか?」

 

「え、何?あのエロオヤジが何か言ってたの?」

 

アリーシャの言葉にロゼが反応する。

 

「『虐げられし者達の魂を救う』それが真の試練だと」

 

「虐げられし者の魂?どういう意味だ?」

 

アリーシャの言葉に一同は戸惑う。

 

そんな中、休憩していた晴人は広場の片隅に何かが落ちている事に気がつく。

 

「アレは……?」

 

「ハルト?どうかしたの?」

 

立ち上がり歩き始めた晴人に一同は続く。

 

そして───

 

「これ……」

 

「木馬……?」

 

広場の片隅。そこには朽ち果てた木馬の玩具が打ち捨てられていた。

 

「これ、子供が遊ぶやつだよね?」

 

「なんでこんな所に?」

 

人里からは遠く離れた神殿に置かれた木馬の玩具。違和感のある存在にスレイ達は訝しむが───

 

「そんなのただの玩具でしょ。試練と関係あるわけ無いじゃない」

 

エドナは呆れた様に声を漏らす。

 

「だいたいこんなに朽ち果ててるなら、これはずっと昔の───」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

次の瞬間エドナの言葉を遮る様に一同では無い何者かの悲鳴が神殿に木霊した。

 

「え!?」

 

「今の声は!?」

 

「おいおい……なんで、こんな場所で俺達以外の誰かがいるんだよ!?」

 

響き渡ったのは憑魔のくぐもった叫びでは無く明らかに人間の叫び声。

 

その事実に一同は唖然とする。

 

「声はどっちからだ!?」

 

「神殿の南東の方だ!急ぐぞ!」

 

いち早く叫びの出所に気がついたデゼルが場所を告げる。

 

「あぁもう!本当に面倒なんだから!」

 

走り出した一同に少しばかり遅れエドナは苛立ちながらも駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 






ゼロワン予告「5番勝負!先ずは生け花だ!」
フジ「仮面ライダーカブトかな?(闇キッチン並感)」

ジオウで頭平成になった楽しい一年が終わろうとしていますが今年は更新が4話だけと個人的にマジで「この作品の更新って醜くないか」と言わざるを得ない状況でした
それでも完結に向けて七転び八起きスタイルで頑張りますので宜しければ来年も今作にお付き合いください

この作品完結するまで俺の平成が終わらない!

では良いお年を!

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