Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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いや、なんかもうホントすいません……

コロナやら何やらでプライベートが色々バタついていましたが漸く落ち着きました。
皆様も体調には気をつけて過ごしてください。
では最新話どうぞ


44話 兄妹 後篇

「そんな……エドナ様の兄上が……」

 

ザビーダの言葉にアリーシャは思わず声を詰まらせ、なんとか絞り出すように自身の心情を吐き出した。

 

親しい者が自我を失い怪物となり、そしてそれを救う術は現状存在しない。

 

家族は自身が幼い頃に既に亡くなっているアリーシャだが、それでも師であるマルトランや自分に仕えるアリシアが同じような事になったと考えるとその痛みと苦悩は想像できる範疇を大きく超えてしまう。

 

それが人の寿命を大きく超える歳月を生きた天族ならなおのことだ。

 

「さっき、遠くをほっつき歩いて、ある日突然帰ってきたって言ったよね? 一体なにがあったのさ? というか今更だけど天族の兄妹って……?」

 

ロゼも思うところがあるのか表情は険しいがそれを抑えながら事情を尋ねる。

 

「あぁ、そこか……まぁ、なんつったらいいかね。俺達天族は人間と違って子供を授かったりはしねぇ。人間から転生した奴らも居るがそれは珍しいパターンだ。多くの天族は清浄な霊力が収束する『地脈』の吹き出す場所で生を受ける」

 

「地脈……?」

 

聞き覚えの無い単語に晴人は眉を顰める。

 

「簡単に言えばこの大地の下を駆け巡ってる巨大な力の流れの事ですわ。人間にとっての血管のようなものだと思っていただければよろしいかと」

 

「その地脈が噴き出す地点で天族は生を受ける。アイゼンは霊峰レイフォルクの地脈で生まれた。そしてエドナちゃんもな」

 

「同じ地脈で生まれて一緒に過ごす中で家族になったって事か」

 

「まぁわからなくもないかな。あたしも血の繋がりは無いけどセキレイの羽のみんなを家族と思ってるし」

 

「うん!オレにとってのイズチのみんなもだ」

 

ロゼとスレイは共感してか大きく頷く。それを見てザビーダは愉快そうに笑いながらも表情を引き締めて話を続けた。

 

「だが、アイゼンはエドナちゃんの元を離れた。アイツは天族の中でもかなり難儀な加護を持っててな。それを解く方法を探すために旅に出たのさ」

 

「難儀な加護……ですか?」

 

「前にも言ったろ。加護ってのは必ずしも良い方向に転がるもんじゃないってな。アイツは、その最たる例だろうよ。アイゼンは『死神の呪い』を持っていたのさ」

 

加護という言葉とは正反対な物騒な言葉に一同は思わず驚いた表情を浮かべる。スレイ達もまたそこまでは知らなかったのが同様の反応を見せている。

 

「死神の呪いってのはまぁ言葉の通りだ。アイツの周りには不幸が起こる。ちょっとした不運から命に関わるものまで、より取り見取りだ。

アイツはそれがエドナちゃんに降りかかる事を恐れて旅に出たのさ」

 

その言葉を受けてアリーシャは思わずエドナへと視線を向けた。

 

エドナは俯き表情は定かではないが自身の首にチョーカーの様に巻かれた黒いリボンにつけられた白い鉱石の装飾を強く握りしめている。

 

エドナが何を思い出しているのか、アリーシャにはわからないが、それでも彼女にとって特別な思い出が込められてるであろう事は察する事ができた。

 

「アイゼンの奴は呪いを解く方法を探す為に異大陸を目指していたらしい。そこで当時の最新の技術で作られた外洋調査船を器にして異大陸を目指そうとしたんだが───」

 

「死神の呪いか……」

 

「ご明察、アイツの死神の呪いで船は不幸続き、終いにゃ呪いの船として廃棄されそうになったらしいが、そこにそんな曰く付きの船を、異海越えを狙って欲しがる物好きが現れた」

 

「物好き……?」

 

「海賊アイフリードさ」

 

その言葉にスレイとミクリオは大きく反応する。

 

「アイフリード!? じゃあその船って!?」

 

「あぁ、その船はバンエルティア号と名付けられアイフリード海賊団の船になった。そしてアイゼンは海賊団の一員として死神の呪いを乗り越えて異大陸へと辿り着いたんだが……」

 

「呪いを解く方法は見つからなかったのですか……?」

 

言葉を止めたザビーダにアリーシャは問いかけるが───

 

「いや、アイツは呪いを解く方法を探さなかったらしい」

 

ザビーダから放たれたのは予期せぬ言葉だった。

 

「何故だ?それが目的で苦労して異大陸まで行ったんだろう?」

 

ミクリオは意味が理解できず問いかける。

 

「解く必要が無くなったからさ。アイツは居場所を見つけちまったんだよ」

 

「居場所……?」

 

「あぁ、死神の呪いも含めて海賊団の連中はアイゼンを仲間として受け入れた。元々海賊なんてやってる連中だ。長生きよりも太く短く自由に生きたいって奴らばかりだからな」

 

「待て、じゃあ語り継がれてるアイフリードの伝承の一つの死神ってのは……」

 

「アイゼンのことさ。アイツはアイフリード海賊団の副長になったからな」

 

その言葉に一同は目を丸くする。

 

「副長!? エドナ様の兄上がですか!?」

 

「そりゃまた数奇な運命というかなんというか……」

 

「……だが、それで本当に良かったのか? 死神の呪いなんてもんを抱えたままで」

 

死神の呪いに思うところがあるのかそう問いかけるデゼルだが……

 

「『自分の舵は自分で取る。それが俺達の流儀だ』」

 

「……その言葉は?」

 

「奴の信条さ。アイツは呪いに生き方を決められるよりも呪いを背負って自由に生きる道を選んだ。呪いも含めて自分なんだって受け入れたのさ」

 

「呪いも含めて自分……」

 

ザビーダの言葉を反芻しながらアリーシャは晴人へと視線を向ける。

 

別に何か意図があった訳ではない。ただその言葉を聞いた時、彼女の中で浮かんだのが晴人だったというだけの話だ。

 

「ん? どうかしたかアリーシャ?」

 

「あ、いやなんでもない!ただ凄いなと思ったんだ。自分の宿命を受け入れて、それでも前を向けるというのは。エドナ様のお兄様は心の強い方なのだなと」

 

首を傾げる彼に慌てながらもアリーシャは自身の思考を飲み込みながらもアイゼンの事をそう評した。

 

「それにしても人間と天族が一緒に海賊かぁ……」

 

「今では考えられないな」

 

一方、スレイとミクリオは天族と人間が共に協力し一つのチームとして活動していた事に興味を惹かれる。

 

双方の共存を目指す者としては参考にしたい事もあるのだろう。

 

「……まぁ実際は天族どころかもっとイロモノの集まりの闇鍋だったけどな」

 

その陰でボソリと呟いたザビーダだがその言葉は誰に届く事も無かった。

 

「それで? その後アイゼンはどうしたんだ?」

 

「ん? アイツは海賊団の連中と海賊稼業を続けてた訳だが……」

 

「寿命か……」

 

「まぁそういうこった。人間と天族(おれたち)は寿命が違う。だから当然アイツ以外の連中は先に死んじまう」

 

「そればかりは天族の宿命ですから……」

 

「…………」

 

「宿命か……」

 

ライラはどこか憂いを帯びた表情を浮かべ、デゼルは腕を組み黙り込む。

 

人よりも永き時間を生きる天族は人との別れを多く経験する事となる。その事に思う所もあるのだろう。

 

そして、今は若く別れの宿命を経験した事のないミクリオも傍に立つ親友へと視線を向け複雑そうな表情を浮かべた。

 

「海賊団が無くなってからアイゼンは海賊団の子孫を見守りながら人間の中で暮らしていた。まぁ隠居生活してる様な大人しい奴でも無かったし、俺や当時の仲間といろんな場所を冒険してバカやってたけどな」

 

そう言って子供の様に楽しげにザビーダは笑う。彼にとって親友との記憶がどういうものなのか一同が理解するのはそれだけで十分だった。

 

だがそんな彼の表情に影がさす。

 

「だが、200年前……あの時、アイツは……」

 

「『デス・エイジ』ですわね……」

 

「あー……確か、導師が鎮めたとかなんとかってやつだっけ?記録があまり残ってないとかいう」

 

かつてランドン達とのやり取りの中で聞き覚えがあった言葉を記憶から引き出しながら晴人はスレイ達へと視線を投げる。

 

「うん、今から200年前、この大陸が異常な飢饉が発生したんだ」

 

「1000年前の地殻変動以降、様々な文化や技術が失われたが、そのトドメといえるのがこのデス・エイジと言われている」

 

「人間側の記録でも大陸の人口が半減するレベルの災厄に見舞われたと語られているが、比較的近代だと言うのに当時の資料が殆ど失われていて謎も多いんだ」

 

3人の言葉に晴人は引っかかりを感じる。

 

「前に聞いた時はそれどころじゃなかったから考える余裕無かったけど、それって、まるで今のグリンウッドみたいじゃ……導師が鎮めたって事は穢れが絡んでるんだろ?」

 

20年前から始まる災厄の時代と重なる状況に晴人は顔を顰めるが───

 

 

 

 

「そりゃそうだ。デス・エイジの原因は災禍の顕主だったからな」

 

そう言い放ったザビーダの言葉にスレイ達は目を丸くする。

 

「え、それって!?」

 

「言っておくがヘルダルフの事じゃねぇぞ。その先代だ」

 

「確かにそれなら大規模な災厄も説明はつくが……」

 

「当時はまだ導師も数を減らしていたとはいえ組織としての体を保てるくらいには数もいてな。災禍の顕主を迎え撃った訳だが奴が率いていた憑魔の数は圧倒的でな……多くの天族や導師が命を落とした。俺やアイゼンもその戦いに参加していたのさ」

 

「……それでどうなったんだ?」

 

結末を予期しながらも晴人はザビーダに問いかける。

 

「最終決戦で導師は全員やられちまった。奴の力は強力で浄化の力でも浄化しきれなかったんだ。こっちはほぼ壊滅状態、だからアイゼンは奥の手を使った……」

 

「奥の手……?」

 

「浄化しきれないなら同じ穢れの力で殺すしかない。だからアイツは穢れを取り込んで自らドラゴンになる事で災禍の顕主を食い殺したのさ」

 

『ッ……!?』

 

言い放たれた言葉。

その壮絶さにスレイ達は思わず絶句する。

 

「そんな……」

 

「アイツは結果として世界を救った。そして───」

 

 

 

 

 

 

ドラゴン(あんな姿)になってワタシの前に帰って来たのよ」

 

ザビーダの言葉を遮るようにエドナの言葉が放たれた。

 

「エドナ様……」

 

「穢れを生む人間と関わり続ければどうなるのかなんてわかりきってた筈なのに……それなのに……」

 

「エドナちゃん、アイゼンは───」

 

「それも受け入れてたって言うんでしょ……だからなんだっていうのよ……世界を救った?そんな言葉で納得できる訳ないじゃない」

 

静かに、だが力の籠もった声でエドナから放たれる言葉はどこまでも重い。

 

当然だ。それは彼女が長年溜め込んだ悲しみであり想いなのだから。

 

「こんな事なら止めておけば良かった。人間の尻拭いでお兄ちゃんがあんな事になるのなら……だからワタシはお兄ちゃんをあんな風にした人間達が嫌い……大嫌いよ。お兄ちゃんの事がなければスレイの旅にだって着いて来たりしなかったわ」

 

そう言ってエドナは再び黙り込んでしまう。

 

「スレイ、エドナ様は……」

 

「うん、オレ達がエドナに初めてレイフォルクで出会った時、ドラゴンになったアイゼンに襲われたんだ。オレ達はアイゼンをドラゴンから元に戻す方法を探す約束をしてエドナはその代わりにオレ達に協力してくれてるんだ」

 

アリーシャの問いかける様な視線の意味を察してスレイはエドナが旅に同行する理由を語る。

 

「あれ、でも離れて大丈夫なのそれ?ドラゴンって飛べるんでしょ?どこか飛んでって見失ったりしないの?」

 

「それなら問題ねぇよ。アイゼンはエドナちゃんの力でレイフォルクに封じられてる。よほどの事がない限りあれを破るなんてできやしない」

 

ロゼの疑問にザビーダが答える。

 

「封じられてる?」

 

「あぁ、前に言った事があるだろ?マオテラスの力の残滓を使った特殊な力。地属性の力は穢れの封印。エドナちゃんはその力でアイゼンをレイフォルクに封じていたのさ」

 

その言葉を聞いてデゼルは合点がいったように小さく頷く。

 

「そして試練神殿の護法天族達にドラゴンを元に戻す方法とやらを聞いて回ってたのか。五大神に仕える天族なら普通の天族が知らないような情報も知っている可能性があると踏んだ訳だ」

 

「うん、だけど……」

 

スレイの表情が曇る。

 

───『ドラゴンになった人を助ける方法を知っていますか?』───

 

これまでの試練でエクセオやアウトルにスレイが尋ねた言葉。晴人達はその意味を図りかねていたがここに来てその真意を理解する。

 

そしてその質問に護法天族達が首を横に振った事実が何を意味するのかも……

 

「(エドナ様は兄であるアイゼン様を救うために藁にもすがる想いでこの旅に……)」

 

アリーシャはその事実に胸を痛めた。

 

ドラゴンは天族が巨大な穢れと強く結びつき至る姿であり、浄化の力を持ってしても元の姿に戻す事はできない。その事は彼女とて理解している。

 

決してその存在を軽んじていた訳では無い。だが彼女の中で成体と化したドラゴンの存在がどこか遠い存在であったのは彼女自身否定できなかった。

 

これまでに何度かドラゴンの幼体に属する憑魔と戦い、その浄化に成功した事はあるが、それでも『既にドラゴンと化した天族』の身内である者が自らの近くにいたなど考えもつかなかった。

 

「(私は……なんと言えばいいのだろうか)」

 

アリーシャはこれまでの旅の中でエドナが度々動揺する姿は目にしていた。

 

兄をドラゴンへと変えた穢れを生む人間の世界を見て、兄を救う術は見つからず、彼女はその胸に怒りや焦燥を感じながらもそれを胸の内で噛み殺していたのだろう。

 

今思い返せばそれらは彼女の兄に関わる事柄だったのだと理解する一方で、エドナと自身の間にある溝を明確に感じた。

 

天族と共に過ごしたスレイという例外を除けばエドナが人間に対してどこか一線を引いて接している事はアリーシャも理解していた。

 

だがその原因の根元に触れアリーシャはどこか掴み所の無いエドナの心の底に秘められた人間への拒絶の根の深さを知ってしまった。

 

だからこそ人間である自分が安易に力になりたいと言う資格があるのか。彼女はその一歩を踏み出すことに迷ってしまう。

 

その時───

 

 

 

「そっか、ならエドナちゃんのお兄さん。頑張って助け出さないとな」

 

あっさりと。

 

本当になんでもない事のように希望の魔法使いはその溝を飛び越えてそう言い放った。

 

「……アンタ、自分が何言ってるかわかってるの」

 

軽い調子でそう言い放った晴人に明確に、怒りを滲ませたエドナの視線が向けられる。

 

「それなりにはね」

 

「ワタシは人間が嫌いって今言ったわよね?」

 

「あぁ、聞いてた」

 

「アンタ達の事もまだ認めちゃいないわ」

 

「知ってる」

 

「ドラゴンを元に戻すなんて何千年の歴史の中でも誰も成し遂げた事は無いわ」

 

「らしいね」

 

「ッ!!だったら簡単にそんな言葉を口に───」

 

「でもさ───」

 

声を荒げそうになるエドナの言葉を晴人は小さな声で遮り───

 

 

 

 

 

「エドナちゃんはそれでも諦められないからここにいるんだろ?」

 

その言葉にエドナは思わず固まった。

 

「それがわかれば十分さ、エドナちゃんに嫌われてようが、認められてなかろうが、最後にエドナちゃんが報われて笑える為に協力するよ。なんたって俺はお節介な魔法使いなんでね」

 

そう言って希望の魔法使いは優しく微笑んだ。

 

「あ、あの!」

 

その姿に背を押されるようにアリーシャも口を開く。

 

「私も……私にもエドナ様の兄上を助ける手伝いをさせてください。私に何ができるのかわからないですけど……それでも!」

 

そう言ってまっすぐにアリーシャはエドナの瞳を見据える。

 

「……っ!何よそれ……意味わかんない」

 

二人の言葉が予想外だったのかエドナは困った様に視線を逸らす。

 

「あっはっはっ!そりゃやっぱこうなるよねぇ!」

 

そんな光景にロゼがどこか楽しげに笑う。

 

「笑うところか?」

 

「だって短い付き合いのあたしですら、あぁ言うだろうなと思ったら見事に予感的中だもん」

 

「……そう言うお前はどうするんだ?」

 

「あたし?そりゃ付き合えるなら付き合うけどあたしもまず自分の問題があるからねぇ……絶対手伝うって約束はできないかなぁ」

 

「……そうか」

 

珍しく歯切れの悪い返答をするロゼ。そんな彼女にデゼルは同じように言葉をどこか詰まらせた様に一言だけで返す。

 

その時───

 

「あ、あの……」

 

「アンタ……起きてたの?」

 

眠りについてたアミィがおずおずと口を開き、先ほどまでの会話を聞かれたことにエドナはバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「すいません……話し声で目が覚めたんですけど、言い出せなくて……」

 

「ま、さっきまでの空気じゃな」

 

申し訳なさそうにするアミィに対してザビーダが仕方がないとフォローする形で口を開く。

 

だがアミィはゆっくりと立ち上がりエドナの事をまっすぐ見つめる。

 

「……何よ」

 

「エドナさん… あの……!」

 

壁を作るようにどこか当たりの強い口調のエドナに対してアミィは何かを決意し口を開こうとするが───

 

 

 

『ウォォォォォォォォン!!』

 

 

『!?』

 

次の瞬間響き渡った獣の叫び声にアミィの言葉は遮られた。

 

 

「み、ミノタウロス!?」

 

「ちょ!? 散々探し回っても見つからなかったのになんでこんなタイミングで自分から仕掛けてくんのさ!?」

 

そこには神殿を探しまわっても見つからなかった巨体の憑魔、ミノタウロスが祭壇の入り口に仁王立ちで立ち塞がり血走って眼で一同を睨みつけていた。

 

「っ!今は相手にしていられない!先にこの娘を避難させないと!」

 

アミィを戦いに巻き込むわけにはいかないと一同はアミィを守る様に立ち塞がる。

 

だが、次の瞬間……

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

「これは!?」

 

「っ!?」

 

「こいつは転移の!?」

 

アミィ、ミクリオ、ライラ、デゼル、ザビーダの足元に突如として魔法陣が展開され次の瞬間、5人がその場から姿を消す、そして続く様に祭壇の間の出口を塞ぐ様に結界が展開された。

 

「これって試練の時の!?」

 

「上等!さっさと終わらせてやるっての!」

 

突然の展開にも一同は慌てず得物を構える。

 

「予想外ではあるが好機を逃すつもりはない!」

 

「同感だ。変身!」

 

【ランド!プリーズ!ドッドンッドドドドン!ドンドッドドン!】

 

アリーシャは魔力を纏い獲物を構え、晴人は魔法陣を展開しランドスタイルへと姿を変える。

 

「悪いけど、今は虫の居所が悪いの……運が悪かったわねアンタ」

 

そして不機嫌そうに傘の先端をミノタウロスへと向け、睨みつけながらエドナの言葉が開戦の狼煙となった。

 

─────────────────────

 

『グモォォォォォ!!』

 

叫び声を上げミノタウロスはその手に持った巨大な戦斧を振り下ろす。

 

振り下ろされた一撃はまるで遺跡そのものを揺らすかの様な轟音を立て床に大穴を開けるが一同はその攻撃を難なく躱す。

 

 

「いい加減パワー自慢の大型相手は慣れていてるんだっつの!」

 

ミノタウロスはフォートンのアンダーワールドでの戦いを除けばアシュラと同様のトップクラスの巨体の相手だがそれでも前回の6本の腕から繰り出される連撃に比べればその攻撃は単調だ。

 

『グォォォォォォ!!』

 

攻撃が躱された事に怒ったのかミノタウロスは大きく吠えながら戦斧を振り回す。

 

「あっぶっ!?怖がって逃げたと思ったら今度は怒って暴れまわって駄々を捏ねる子供か!!」

 

ロゼの軽口の言う通り、まるで『大きな子供』の様に暴れ回るミノタウロス。

 

だがその力は当然子供とは比べ物にならないほど強力だ。

 

「だったらこいつで!」

 

【バインド!プリーズ!】

 

ミノタウロスの四方に展開された魔法陣から岩で作られた鎖が伸びる。

 

だがそれはいつもの様に敵の身体に巻き付ける様にではなく手や足に引っ掛ける蜘蛛の巣のように展開された。

 

「いい加減力自慢に引きちぎられるパターンにも慣れてきたんでね」

 

『グォォ!?』

 

攻撃の勢いのまま鎖に引っ掛かり勢いそのままにミノタウロスが前のめりに倒れ込む。

 

そこに──

 

《赤土目覚める!ロックランス!》

 

『ゴガァ!?』

 

倒れようとしたミノタウロスの真下の地面が隆起し突き出した岩槍が容赦なく腹部にぶち当たりミノタウロスの巨体を浮き上がらせる。

 

「炎よ燃え上がれ!熱波旋風陣!」

 

「夢双華!」

 

「剛魔神剣!」

 

すかさずスレイ、ロゼ、アリーシャの追撃が叩き込まれる。

 

『グォォォォォォ!?』

 

攻撃の衝撃に叫びを上げ後方へと倒れ込むミノタウロス。

 

「うっひゃ〜エドナえげつな……」

 

先程の倒れようとしたミノタウロスへの容赦のない一撃を思い出しロゼが引き攣った笑いを零す。

 

「虫の居処が悪いって言ったでしょ……」

 

そんなロゼの言葉にエドナは淡々と返す。

だが戦いは終わってはいない。

 

『ブモォォォォォォ!!』

 

怒りの叫びを上げミノタウロスが立ち上がる。

 

「やっぱり試練の相手はそう簡単にはいかないか」

 

「タフな奴ばっかりだからねぇ……」

 

「だが、攻撃はシンプルだ。パワーにさえ気を付ければ……」

 

ミノタウロスの動きを分析しながらアリーシャは警戒しつつ得物を構える。

 

「(だがおそらくミノタウロスのタフさは相当なものだ。可能なら一気に畳みかけて決着を付けたいところだが……)」

 

そう考えるアリーシャの脳裏に以前の水の試練での戦いが過ぎる。

 

天族の特性を活かした連続攻撃。あれが決まればミノタウロスもひとたまりも無いだろう。

 

だが───

 

「(エドナ様は私との融合は拒むだろう……)」

 

アリーシャと融合するという事は霊応力を持たない人間からもエドナが視認されるようになると言うことだ。

 

先程の話を聞く限り人間に対して遺恨を持つエドナがそれを了承するとも思えない。

 

別にそれを責めるつもりは無い。

今後の生き方に関わる重大な事だ。エドナの意思を尊重すべきだとアリーシャは考えている。

 

「(とにかくここは慎重に───)」

 

『グオオオオオオオオ!!』

 

その時、アリーシャの思考を遮るように響き渡ったミノタウロスの咆哮が神殿を揺らした。

 

「っ!なんだ!?」

 

様子を変えたミノタウロスに一同は驚き、そして次の瞬間───

 

「っ!穢れの領域か!」

 

「ここから本気ってわけね」

 

展開された穢れの領域、ミノタウロスがいよいよ本気になったと一同は警戒するが───

 

『グォォォォォォ!!!』

 

響き渡った複数(・・)の叫び声に一同の目が驚愕に見開かれる。

 

「なっ!?」

 

「……まずいな」

 

ミノタウロスの身体から漏れる穢れ。

 

その穢れが猪型の憑魔を作り出す。

 

それも一体や二体ではない。どんどんと数を増やし既に数十匹の猪型憑魔がミノタウロスの周りを守るように立ちはだかる。

 

『グオオオオオオオオ!!』

 

そしてミノタウロスが号令の如く叫ぶと同時に憑魔達はウィザード達に向けて殺到した。

 

 

─────────────────────

 

 

「オイ!どうなってやがる!」

 

目の前の光景にデゼルは思わず声を荒げた。

 

「ああいう能力を持つ憑魔なのか?ミノタウロスは?」

 

「分身や分裂する能力を持つ憑魔は確かに存在しますがアレは……」

 

「少なくともミノタウロスにはそんな能力は無いはずだぜ……変異型か?」

 

「まずいな……試練で味方が減っている状況で数で押されるのは……」

 

戦況に顔を顰める一同、そこにアミィから声がかかる。

 

「あの……エドナさん達は……」

 

ハラハラと不安そうに状況を見守るアミィ、それを見たライラは明るい表情を浮かべる様に努め、優しい声で安心させるように語りかける。

 

「大丈夫ですわ。皆さんお強いですから、すぐに終わらせてくれます」

 

そう言われ少しだけ表情を緩めたアミィは視線を元に戻そうとして───

 

「……あれ?」

 

「……どうかなさったのですか?」

 

何故か顔色を変えたアミィにライラは心配し問いかける。

 

「え……いや……なにこれ……」

 

「アミィさん!?」

 

怯える様にアミィが身体を震わせ、両手で耳を塞ぎ何かを振り払うかのように首を振るう。

 

その異常な光景にライラは思わずアミィを抱きしめる。

 

「おい、どうした!?」

 

「いったいなにが……」

 

「アミィさん!?しっかり!どうしたのですか!?」

 

異常に気がつき駆け寄る一同だがアミィはその声が聞こえていないのか錯乱し声をあげる。

 

「いや……いや……!なにこの声!?聞きたくない!?」

 

必死に耳を塞ぎ半狂乱で叫ぶアミィ。それを聞いたザビーダとデゼルは困惑する。

 

「声だと!? 妙なもんはなにも聞こえないぞ!?」

 

「異常は感じ無ぇ……どうなってやがる」

 

風の天族である二人は周囲の異常の察知に優れている。その二人がなにも感じないという事はアミィの状況が特殊なものが関係しているという事だ。

 

「……まさかあのミノタウロスと何か関係が?」

 

アミィに異常が現れたのはミノタウロスが猪型の憑魔を生み出してからだ。

 

嫌な予感を感じながらミクリオは視線を結界の中へと戻した───

 

 

─────────────────────

 

「ちょっ!?いくらなんでも多過ぎ!?」

 

「くっ……こうも矢継ぎ早に来られると……」

 

「っ!だったら!」

 

【ウォーター! ドラゴン! ザバザババシャーンザブンザブーン!】

 

雪崩の様に突撃してくる猪型の憑魔にウィザードは素早くウォータードラゴンスタイルへと姿を変える。

 

【チョーイイネ!ブリザード!サイコー!】

 

展開される青の魔法陣から冷気が放たれ憑魔の群れを一瞬で凍り付かせる。

 

『グゥッぅぅ!?』

 

その勢いのまま冷気はミノタウロスすら飲み込み全身を凍結させる。

 

「今だ!ハクディム=ユーバ(早咲きのエドナ)

 

すかさずスレイはエドナと融合し神依を纏い詠唱を始める。

 

《晶石点睛!クリスタルタワー!》

 

憑魔達の足元から複数の巨大な水晶が隆起し凍結した身体を粉々に粉砕する。

 

「よっしゃ!後はミノタウロスを倒すだけ!」

 

「凍結してる今が好機だ!」

 

ロゼとアリーシャはすかさずミノタウロスに肉薄し攻撃を叩き込もうとする。

 

だが───

 

バキッ───

 

「なっ!?」

 

「うっそ!?」

 

『グォォォォォォ!!』

 

自身を覆う氷を砕きミノタウロスは再び活動を再開する。アリーシャとロゼは慌てて距離を取りながら驚きの声を漏らす。

 

「水属性に耐性があるのか!?」

 

「あーもう!前回といい、そんなんばっかり!」

 

「けど、押してる!このまま頑張れば───」

 

文句を言うロゼを励ましながらスレイは神依の手甲を構えるが───

 

 

 

 

 

 

 

「………なんだ?……声?」

 

その時ウィザードから困惑した様な声が漏れる。

 

「……?ハルト?どうかし──えっ?」

 

動きを止めたウィザードを訝しみ声をかけようとするアリーシャ。だがその彼女もすぐに同じように戸惑いの声を漏らす。

 

そしてそれは二人だけでは無く……

 

『……ァァァ』

 

「え、何?」

 

『……さん…ど…にいるの?』

 

「何か……聞こえる?」

 

スレイとロゼもまた異変を感じとる。

 

『ぐす……だよ……置いていかな……一人に……』

 

「子供の……泣き声……?」

 

エドナがポツリとそう溢した瞬間、堰を切ったようにそれは始まった───

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁん」

 

声が───

 

「おかぁぁさぁぁぁん」

 

誰もいなかった筈の遺跡に無数の声が───

 

「ぐす……ひぐ……こわいよぉ……」

 

「おいていかないでぇぇ!ひとりにしないでよぉ!」

 

「何よ……コレ……」

 

助けを求める子供の声が響き渡った───

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

「なんなんだコレは……」

 

「泣き声……パワント様の仰っていた虐げられし魂という言葉に何か関係が?」

 

「だがなんで急に?さっきまでこんな異変は全く……」

 

 

一方、結界の外の仲間たちもまたスレイ達と同様に異様な光景に困惑の声を溢していた。

 

その時、ライラは胸に抱くアミィの異変に気がつく。

 

「……あ、あぁ………」

 

「アミィさん……?」

 

「思い出した……私……あの時……」

 

「アミィさん!?どうしたんです!?」

 

先程までと違う反応を見せたアミィにライラは心配した様に声をかけるが……

 

「ダメ……やめてみんな!」

 

ライラの手を振り払いアミィは結界に向けて駆け出す。

 

「アミィさん!危ないですわ!」

 

彼女が結界へ衝突してしまうとライラは慌てて呼び止めようとするが……

 

「え!?」

 

ライラの声が驚愕に染まる。

 

試練の侵入者を阻む筈の結界。

 

ライラ達の実力を持ってしても破る事の難しい高度なその結界を……

 

「すり抜けた……?」

 

アミィはまるですり抜けるかのように突破してしまったのだ。

 

「どうなってる!?」

 

慌ててザビーダやミクリオが追おうとするがアミィと違い結界に侵入を阻まれる。

 

そして、その異変は結界の中で戦うスレイ達の視界に入る。

 

「アミィ!?」

 

「え!?なんで!?」

 

「バカ!戻りなさい!」

 

戦闘中の危険地帯に飛び出してきたアミィに一同はこちらに来ないように叫ぶがアミィは一心不乱にミノタウロスを見つめながら叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「やめてみんな!……っお兄ちゃん!」

 

 

 

「───え?」

 

その声に一同の動きが止まる。

 

 

『グォォォォォォ!!』

 

だがミノタウロスは咆哮をあげるとまたもや猪型の憑魔を大量に生み出す。

 

 

「くそ!こんな時に!?」

 

「アミィ!逃げるんだ!」

 

襲いくる憑魔の群れに対応し動きを止める一同を他所にミノタウロスはアミィへと一直線に襲いかかる。

 

「っ!スレイ!ここは任せるわよ!」

 

「エドナ!?」

 

その時、エドナが咄嗟に神依を解除し憑魔達の隙をついてアミィへと向けて駆け出す。

 

そして───

 

『グォォォォォォオオオオ!!!』

 

「ヒィッ!」

 

怯えて竦むアミィ、その前に───

 

 

 

 

 

 

「ホント……だから人間ってキライなのよ」

 

エドナは盾になる様に飛び出し……

 

「エドナ様!!」

 

無慈悲にミノタウロスの戦斧が振り下ろされた。

 

 

 

 

 




今年2回目の更新なのにゼロワンがもう終盤の時期とかすいません
完結目指して頑張って行きたいと思うので宜しければこんなつまらん普通の小説(唯阿並感)にお付き合いください

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