Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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いつもより早く更新しても1ヶ月ちょいとかマジないわー(令和の蓮並感)

というわけで最新話どうぞ


46話 落ちる声

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……楽しそうな乗り物……」

 

「まだ言ってるよ……」

 

「俺のバイクへの反応で薄々感じてたけどスレイの乗り物好きってあそこまでだったのか」

 

奇妙な形の岩肌が露出する峡谷地帯。

 

その中の開けた場所で一同は焚き火を囲い、休憩を取っていた。

 

そんな中どんよりとしたオーラを漏らすスレイに他の面々は苦笑いや呆れた表情を向けていた。

 

「だって!楽しそうだったし!あんなの見たら乗ってみたいじゃないか!」

 

「いやそんな力説されましても……」

 

「流石にそこまでのテンションにはなりませんわ……」

 

スレイがなぜこうなったのか、順を追って説明していこう。

 

火、水、地の試練神殿を攻略した一同は最後の秘力を手に入れるべく、風の試練神殿を目指しウェストロンホルドの裂け谷へと足を踏み入れた。

 

その道中、報告を受けていた強力な力を持つ憑魔と交戦、無事に浄化を果たしたまでは良かったのだがその憑魔が問題だったのだ。

 

憑魔の名はゴブリンロード。

 

小鬼の様な外見をした小型のゴブリン種の憑魔であり、移動式砲台の様な乗り物を使用して戦う珍しいタイプの敵だった。

 

子分である通称ゴブスナイパーと呼ばれる同じく移動砲台を使用するゴブリン種の憑魔と共に四方八方からの砲撃攻撃を仕掛けてくるのは見た目に反して中々の強敵だった。

 

そんな強敵相手の戦いであったがそんな中でスレイはゴブリン達の乗る移動砲台に対して「楽しそうな乗り物!」とまさかの乗り物好きが発動し、「浄化したらあの乗り物残るかな!」と期待を胸に浄化したのだが……

 

「残らなかったな」

 

「あぁ、残らなかった」

 

「残らなかったねぇ」

 

「はぁ……」

 

無情な言葉にがっくしと項垂れ溜息を吐くスレイ。そんな彼をロゼは面倒そうにジト目で見つめる。

 

「あぁもう!さっきから溜息ばっかで面倒臭い!ハルト!」

 

「ん?なに?」

 

「いつまでもあの調子だと気が滅入る!バイクとかよくわからん乗り物持ってるんだし、それ以外にもなんか面白い乗り物の話とかあるっしょ!?それでスレイをあやして!」

 

そんなロゼの言葉に晴人は困惑した表情を浮かべる。

 

「いやいや……あやしてってそんな子供の読み聞かせみたいなので───」

 

「ハルトの世界の乗り物!?どんなのがあるんだ!?」

 

「食いついたよ……」

 

さっきまでの落ち込みようは何処へやら、子供のように目を輝かせて晴人に期待の眼差しを向けるスレイ。そんな彼に晴人はガクッとコントのような反応を見せる。

 

「と言ってもなぁ……前にバイク乗せた時に車の話は聞かせたろ?」

 

「うん!要は馬無しで動く四輪車なんだよね?」

 

実は以前、レディレイクでバイクに乗せた時の雑談で晴人はスレイに自分の故郷にはバイクの他に車という乗り物があること自体は聞かせていたりする。その時もスレイは乗ってみたいと目を輝かせてはいたが……

 

さて、どうしたもんかと晴人は記憶を探っていく。そして───

 

「面白い乗り物……面白い乗り物…………あっ、ロボットとかどうだ?」

 

ポンと手を打ち。そう告げた晴人に一同は首を傾げた。

 

「ろぼっと……?」

 

「なにそれ?」

 

「私も聞いたことがありませんわ」

 

当然ながら人間組は勿論、天族のライラですら意味が分からずキョトンとした表情を浮かべる。

 

「いやまぁ俺もそんなにちゃんと語れる訳でも無いけどさ。昔一緒に戦った奴の中に使ってる奴がいたんだよ。こっち基準だとなんて説明したらいいかな……絡繰仕掛けで動くデカイ人型の乗り物?みたいな?」

 

「大きい……」

 

「人型の……」

 

「絡繰……?」

 

想像力のキャパを超えているのか一同は頭の上に「???」と浮かびそうな表情で首を傾げる。

 

「そうなんだよ。馬鹿でかい恐竜達が変形して合体してさ。なんかよくわかんないけど俺の操縦席もあったから勢いで乗り込んで一緒に操縦して戦うことに───」

 

「ハルト」

 

「ん?」

 

「すまない、君が何を言っているのかさっぱりわからない」

 

一同を気持ちを代表しアリーシャは真顔でそう言った。

 

「えぇっと……まずキョウリュウってなに?」

 

そんな素朴な疑問を漏らしたロゼにライラとエドナが答える。

 

「恐竜というのは古代に生息したと言われる巨大な生物の事ですわ」

 

「寒くて絶滅したとか語り継がれてるけどね」

 

「え?変形して合体しちゃう巨大な生き物がそんな昔にいたの?古代こわっ……」

 

「いえ、変形も合体もしませんわ」

 

「いるわけないでしょ、そんな生物」

 

容赦の無い2人からの言葉にロゼとアリーシャはジト目で晴人へ疑いの眼差しを向ける。

 

「ハルト?もしかして私たちを揶揄ってないか?」

 

「ハルトの故郷から見たらあたし達が田舎者だからって適当言ってない?」

 

「いやマジなんだけど」

 

「マジなわけあるか!変形合体する生き物がどこにいるのさ!」

 

「そんな事言われても俺のドラゴンも変形してるし」

 

「そういえばドラゴン殿は変形していたな……」

 

「え!?あのドラゴン変形すんの!?」

 

「エドナさん……私達の知識が間違っているんでしょうか?」

 

「自分を見失うんじゃないわよ。そんなわけないでしょ。というか嫌よそんな古代」

 

晴人の言葉に自分の中の常識がここにきて揺らぎ動揺する女性陣。そんな彼女達の反応に晴人もチョイスをミスったかと少しばかり反省する。

 

「俺の見てきた中でトップクラスに面白い乗り物だと思ったんだけど……」

 

「とばし過ぎだよ!もっとマイルドなやつないの!?」

 

「マイルドねぇ───」

 

ロゼの言葉に晴人は真面目に思案する素振りを見せ───

 

 

 

 

 

 

「一緒に戦った奴に馬鹿でかいスイカが変形するロボットに乗ってた奴が───」

 

その言葉を言い切る前にガシッとアリーシャが晴人の両肩を掴み───

 

「ハルト」

 

「ん?」

 

「君は……疲れているのか?」

 

本気で心配そうなトーンと表情でそう問いかけられた。

 

「スイカ?スイカってあの畑で取れるスイカ?」

 

「スイカが……変形?」

 

「ハルトさん?やはり私たちを揶揄ってるのでは?」

 

遂にはエドナとライラからも疑いの眼差しが向けられる。

 

「いやマジなんだけど」

 

「マジなわけあるか!? スイカが変形って何!? そもそも果物が変形するとか余計にさぱらんわ!」

 

「スイカは食品的には果物だが園芸的には野菜扱いだぞ」

 

「永遠に続く論争ってやつだな」

 

「今そこはどうでもいい!……ってデゼル?」

 

うがー!と頭を抱えるロゼだが、かけられた声に振り向くとそこには鍋掴みをはめて湯気が沸き立つ大鍋を手にしたデゼルとその横に木製の皿を抱えたザビーダの姿があった。

 

「俺様達に料理やらせてる間に随分と盛り上がってるじゃん」

 

「とりあえずそこまでにしておけ、食い終わったら休憩も終わりだ」

 

そう言って鍋を置いたデゼルは手早く器に鍋の中身、シチューを注いでいく。その脇でザビーダも切り揃えたパンを別の器に入れ、「ほらよ」と軽い調子で女性陣に渡していく。

 

「おい、そこの2人も止まれ」

 

そう言ってデゼルはスレイとミクリオへ声を飛ばす。

 

当の2人はというと───

 

「恐竜が変形、合体ってどういう事だと思うミクリオ?」

 

「あの言い方だと僕たちの思い描く恐竜ではなくハルトのドラゴンの様な特殊な存在なんじゃないだろうか」

 

「あぁ確かに、晴人のドラゴンも金属的な感じだもんな」

 

理解の範疇を越えた話に匙を投げていた女性陣と違い割と大真面目に晴人の発言について語り合って考察していた。

 

「おい、飯の時間だ。無駄話は後にしてさっさと来い」

 

「うわぁ、なんかオカンちっく」

 

「うるせぇぞ」

 

デゼルとロゼがじゃれ合ういつもの光景を見ながら一同は焚き火を囲み食事を始める。

 

「そんじゃ、いただきます」

 

食事を前に一言を添えてシチューを食べ始める晴人。他の面々も後を追うように一言告げ食べ始める。

 

「……上手い」

 

シチュー口にした晴人は思わずそう零した。

 

料理に関しては男の一人暮らしレベルの最低限の知識と腕しかない晴人だがそんな彼でも違いを感じるレベルで今、口にしたシチューは美味しいと言える代物だった。

 

他の面々も同様なのか皆、心なしか良い表情でパンを食べる合間にシチューを掬っている。

 

「デゼルって料理得意なんだな」

 

「ふん……この程度は大したもんじゃない。それにお前の魔法のお陰で道具にも不便しないからな」

 

感心した様子でそう言った晴人の言葉にデゼルはなんて事のない様にそう答える。

 

彼の言う通り屋外での調理に使う器具などは一通り買い揃えた上で晴人がコネクトの魔法で都度取り出している。

 

そのおかげで運搬の苦労も無く野営で普通より凝ったものが作れるのは事実ではあるが言い方からしてデゼルなりの照れ隠しみたいなものなのだろう。

 

「おいおいハルト、俺も作るの手伝ってるんだぜ?」

 

そんな会話にザビーダが割り込む。その言葉に晴人は真顔で返す。

 

「お前に関してはホント意外だわ。なんか骨付き肉を丸焼きにして齧りついてそうな外見してんのに」

 

「ひでぇ言われようだな……」

 

「大体半裸なせいだと思う」

 

「ワイルドな外見のイメージが先行して調理を普通にできる姿に違和感しかもてない」

 

晴人に続きスレイとミクリオからも同じような意見が飛んできてザビーダは思わず苦笑する。

 

「まぁ確かに大昔は料理の作り方なんざよくわからなかったのは確かだよ。天族は飯食わなくても生きていけるし、なんか食いたければ買えば良いしな」

 

「へぇ、じゃあ何があって料理に興味持ったんだよ」

 

「……ずっと昔、憑魔に襲われて親を亡くしたガキどもを拾った事があってな……人間だから当然何かを食わないと生きていけないんだが当時の俺は料理の作り方なんざ全くわからなくてよ」

 

どこか懐かしむようにザビーダは言葉を紡ぐ。

 

「てなわけで、俺は風の力で探してみたのさ、ガキどもを満足させられような美味い料理を作れる人間をな。そしたら風に乗って美味そうな匂いが俺の元に届いたんだよ」

 

楽しげに語るザビーダの言葉に一同は何も言わずに耳を傾ける。

 

「こりゃ間違いねぇと匂いの元へ辿り着いたら屋台で料理売ってる夫婦を見つけてな、ちょうど良いと思って風を使って屋台ごとガキどものとこまで御同行してもらったのさ」

 

「……あの、それは誘拐では?」

 

ザビーダの言葉に生真面目なアリーシャはおずおずと問いかける。

 

「ハハッ!堅いこと言うなよアリーシャ、人助けの一環さ。その夫婦も理由を話したら協力してくれたさ」

 

だがザビーダは楽しげに笑いながらあっさりとそれを受け流した。

 

「拾った時は何語りかけても生きてるだけの抜け殻みたいに反応しなかったアイツらが2人の作った料理を口にしたら少しずつこっちの言葉にも反応するようになってくれてな……大したもんだと思ったよ。まるで魔法だ」

 

そう言ってザビーダは一度話を区切り手元のパンを頬張る。むしゃむしゃと咀嚼し飲み込みザビーダは再び口を開いた。

 

「最初の頃は飯食って元気が出たから口をきく様になったんだと思ってた。でも暫くしてそれだけじゃ無いって気がついた。あの夫婦の料理はきっとガキどもの傷を癒したんだ。俺の天響術じゃ癒せなかった見えない傷をな」

 

そう言って今度はシチュー口に運びザビーダは噛み締めるように味わう。

 

「まぁそんなこともあってそれから俺なりに勉強してみたんだよ。なにせ寿命は長えからな。どうよ、中々のもんだろ?」

 

そう言ってニヤリと自慢げに笑うザビーダ。

 

「そうだな……人の心を救うのは案外そういうもんだ」

 

その言葉に晴人もまた薄く微笑むが───

 

「───まぁ、一番料理覚えて得したのは案外ナンパに便利な事なんだけどな!いやぁ、料理ができる男ってのは案外女ウケ良くてよぉ!」

 

数秒前までのイイハナシ風な空気はどこへやら、ガハハとばかりに笑うザビーダに一同がガクッとズッコケる。

 

「素直に良い話だと思ったのに……」

 

「ザビーダらしいと言えばザビーダらしいオチだが」

 

ジト目でザビーダを見つめるスレイとミクリオ。一方で何故かロゼは疑いの眼差しをデゼルへと向ける。

 

「……なんだ?」

 

その圧に気がついたのかデゼルが小さくため息をつくと面倒くさそうに問いかける。

 

「いや……アンタもナンパ目的で料理上手くなったのかなって」

 

「一緒にすんな!」

 

思わぬ風評被害発言に声を荒げるデゼル。そんな彼にロゼは笑みを浮かべる。

 

「ジョーダン!ジョーダンだって!……でもなんだろ……この味付け……」

 

「ん?どうかしたのかロゼ?」

 

シチューを見つめながらまるで喉に魚の骨でも引っかかった様な表情を浮かべるロゼにアリーシャはどうしたのか問いかける。

 

「いやね、なんかこのシチューの味付けがどことなく懐かしいような知ってるような……」

 

「デゼル様とザビーダ様が作った料理が……?」

 

「うん、おっかしいよね。2人の料理食べるのなんて初めての筈なのに」

 

そう言って首をかしげるロゼ。

 

「……ふん、あんなドーナッツを作る料理音痴のお前だ。気のせいだろ」

 

そこに以前のドーナッツ作りを引き合いに出したデゼルからの辛辣な言葉が飛ぶ。

 

「はぁ!?誰が料理音痴で味音痴じゃい!?あの時は偶々調子悪かっただけだし!別に料理できるし!あたしは女子力の塊だし!」

 

グサリと刺さった容赦の無い言葉にロゼが怒りの反論をぶつける。

 

「……料理音痴」

 

「あぁ!?アリーシャさんに流れ弾が!?」

 

「まぁなんだアリーシャ、初めてなんて誰も上手くやれないもんだから気にすんなって」

 

一方でデゼルの言葉が流れ弾となり派手にぶっ刺さり項垂れるアリーシャ。凹む彼女をライラと晴人が励ます。

 

ドタバタとし始めた一同。そんな中、黙々と料理を食べ進めている人物が1人。

 

 

「ごちそうさま」

 

手を合わせ、食事を終えたエドナの言葉は誰にも聞こえる事なく風に溶けていった。

 

 

─────────────────────

 

一悶着を終え再出発した一同、そんな中晴人は周囲を見回してふと何かに気がついた様に口を開いた。

 

「しかし、さっきから思ってたけど妙な形をした谷だな」

 

その言葉に釣られて一同も晴人の視線を追う。

 

「確かに変な形だよね」

 

「確かに……まるで何かに抉り取られたような……」

 

ウェストロンホルドの裂け谷。

 

晴人が見上げた聳り立つ崖はその中腹辺りからまるで穴空きチーズの様に何かで抉られた様な不自然な形状をしている。

 

それも偶然その箇所がというか訳では無い。辺りの崖の殆どが同様の共通点が見られるのだ。

 

「この谷の妙な形は大昔に風の天族の天響術で削り出して作られたものって言われてるらしいぜ。地形の影響もあって絶えず風が吹いて風の試練神殿を作るには相応しい場所ってわけだ」

 

そう語るザビーダにスレイとミクリオは目を輝かせる。

 

「削り出した!?この一帯全部!?」

 

「これは興味深いな、どの様な意図でそんな事をしたのか、調べ甲斐がある」

 

楽しそうに考察トークを始める2人のだがそれを見るロゼは心底どうでもよさそうに冷めた目をしていた。

 

「まーたやってる……」

 

「そういうお前は日に日に反応が薄くなっていくな」

 

「だってこれまで話聞いてきてこの世界の不思議要素の原因って殆ど天族か憑魔じゃん。もう全部『天族か憑魔の仕業だ!』でいいんじゃないかな的な」

 

「投げやりですわね」

 

「だって実際そうじゃん。きっと雨の日に店に買い物しに行って帰るときに置いておいた傘がパクられてたり、丸めてしまっておいたロープをいざ使おうと取り出そうとしたらめちゃくちゃこんがらがってたり、あたしがこの前ドーナッツ作りをミスったりしたのも実は天族か憑魔の仕業なんだよ」

 

「どさくさに紛れてしょーもない冤罪被せるのやめてもらえる?」

 

軽口を叩き合いながら歩んでいく一同。その時、歩む道の先に数名の人影を発見する。

 

「あれは……ローランス軍の人か?」

 

銀の鎧に赤の装飾が施された装備は見間違えるまでもなくローランス軍のものだ。王都からも離れた辺境の奥地になぜ彼らがいるのかと一同は訝しむ。

 

一方でローランス軍の者たちも晴人達の存在に気がつき此方へと歩み寄ってくる。

 

「おい!ここは立ち入り禁止だ。くだらない言い伝えで命を粗末にするんじゃ───」

 

怒りを滲ませた剣幕でそう言い放ってきた彼らに一同は思わず目を丸くするが彼方も何かに気がついたのか言葉を止めて一同の事を観察する。

 

「その服装……まさか導師スレイ殿とアリーシャ様!?」

 

「えっ、そうだけど」

 

「それがどうしたのでしょうか?」

 

困惑しながらもその言葉を肯定する2人に数秒前の剣幕はどこへやら兵士は顔を青くし、ものすごい勢いで頭を下げる。

 

「も、申し訳ありません!話は伺っています!天族の方や我が国のために尽力してくださる方々にご無礼を───」

 

そう言って再度深々と頭を下げようとする兵士たちを一同は慌てて止める。

 

「あの、オレ達は気にしてないから」

 

「貴方達は職務を全うしていただけですわ、あまり気になさらないでください」

 

スレイやライラの言葉に兵士は安堵したように胸を撫で下ろす。

 

「そう言っていただけると助かります」

 

「ですが、この様な場所で一体なにを? 今の言い方だと遺跡を荒らす盗賊への巡視隊というわけではないのですよね?」

 

────『くだらない言い伝えで命を粗末にするんじゃ───』────

 

先程兵士はそう言った。アリーシャはてっきりハイランドでも頻発している遺跡荒らしへの対抗措置としての任務を行なっているのかと思ったがどうやらそれだけでは無いらしい。

 

アリーシャのその問いかけに兵士は一瞬躊躇うも事情を説明し始めた。

 

「確かに遺跡の巡視も任務の一環ではありますが、このウェストロンホルドでは別の問題がありまして……」

 

「別の問題?」

 

兵士はそういうとある場所を指さす。

 

「あれを見てください」

 

「ん?なんだあれ?」

 

兵士が指さした先、そこには不揃いの大きな石が不自然に積み上げられた石柱がいくつもあった。その意図が分からず晴人は困惑する。

 

「何あれ?あれも大昔の天族が作った的なやつ?」

 

「いや、あのくらいの石を重ねるだけなら人間でも複数人いれば可能だろう」

 

「どう思うミクリオ?オレにはお墓とか慰霊碑みたいなものに見えるけど」

 

「僕も同感だ。この様な場所だからこそ辺りのものを使って簡易的な形で拵えたのだと思う」

 

スレイとミクリオの推察に兵士はゆっくりと頷く。

 

「その通りです。この地域には古くから『自身を捧げて地霊に祈祷する』という信仰があるのです。自身の罪を洗い流す、或いは願いを叶える為に救いを求め命を捧げる……」

 

「……要は生贄の風習ってわけね。気分の悪い話だわ」

 

エドナは嫌悪感を滲ませて吐き捨てる様に小さく言葉をこぼす。その言葉に兵士達も頷く。

 

「我々も同感です。最近ではそういった風習は廃れてきてはいるのですが、今の災厄の世においてはそういった信仰に縋る者が絶えないのも、また事実です。他者を生贄に捧げる者、或いは信仰の為に自身を捧げようと、このウェストロンホルドの奥にある『生贄の塔』を目指す者たちを見つけ止める事こそが私たちの任務なんです」

 

そう言って、「しかし」と兵士は苦虫を噛み潰した様な表情を見せる。

 

「やはりどうしても人手不足が問題でして。この地が王都から離れた厳しい僻地なのもありますが完全にそういった者たちの侵入を防げていないのが現状です」

 

兵士は自身の力不足を嘆く様にそうこぼした。

 

─────────────────────

 

「…………」

 

兵士との会話を終え試練神殿へ向かうのを再開した一同、だがその表情は暗い。

 

「生贄か……」

 

「馬鹿げてる!生贄なんて捧げられて天族が喜ぶ筈が無いだろう!」

 

「頼まれても要らないわよ。人間の命なんて」

 

怒りを露わにするミクリオ、同様に嫌悪感を見せるエドナ。

 

前回の地の試練神殿での子供達を捨てる行為といい、そういった忌まわしい風習に思う所があるのだろう。

 

「ふん……捧げるだの救いだの言っているが、要は弱い奴の逃げ道だろう」

 

デゼルもまたそういった行為をバッサリと切り捨てる。

 

「死ぬ事が逃げ?」

 

その言葉にスレイが思わず聞き返す。

 

「死ぬ事より辛い現実なんて幾らでもある。この災厄の世なら尚更な」

 

「あたしには理解できないけどね。死んだら終わり、楽しい事も何もないって思っちゃうし……そりゃまぁ命を捧げて死んでいった人たちとあたしの人生は別もんだし簡単に比べられるもんじゃ無いけどさ」

 

デゼルの言葉にロゼはそう返す。その言葉はどこまでも前を向いた彼女らしい言葉だった。

 

「自らを顧みず犠牲にする事はある意味、穢れとは正反対の行為とも言えますが……」

 

ライラは複雑な表情で言葉をこぼす。

 

「はっ!生贄が純粋だとでも?逃げた弱い自分にそれらしい『理由』で上書きして何かを成し遂げた気になりたいだけだろ」

 

「勿論、私も正しいとは思いません。ですが───」

 

「ですが、デゼル様。だからといって全てを否定するのは違うと思います」

 

ライラの言葉を遮りアリーシャが口を開く。

 

「私も生贄というものは認められません。ですがそこに至ってしまう者達の心を『弱かった』の一言で済ませてしまうのはきっと違うと思うんです」

 

「何が言いたい?」

 

「弱いの一言で済ませてしまったら、何も変わらない。その上でどうすれば別の道を示せるのか、そこに踏み込まなくてはいけない。私はそう思います」

 

それは個人ではなく人の上に立つ施政者であるアリーシャだからの言葉だろう。その言葉にデゼルはどこか皮肉げに笑う。

 

「ふん、で?どうするんだ?お前がその連中に朝から晩まで付き添って慰めて面倒を見てやるとでも?」

 

「それは……」

 

言い淀むアリーシャ。彼女とてまだ道を模索する若輩者だ。明確に答えを持ち合わせている訳でない。

 

だが───

 

「別にアリーシャがずっと付き添う必要も無ければ一人でなんとかしなくちゃいけない訳でもないさ」

 

いつもと変わらぬ口調で晴人が言葉を引き受ける。

 

「さっきザビーダの昔話でもあっただろ。人の心を救う切っ掛けなんて些細なものなんだ。『この道しか無い』って思い詰めて、自分一人じゃ別の道が見えなくなってる時、ほんの僅かなきっかけで道を踏み外さずに済む事だってある。そこに特別なものなんて必要無い」

 

そう言って晴人は笑う。

 

「誰だって誰かの最後の希望になれるんだ。そうやって少しずつ変えていくところから始めればいい」

 

その言葉にデゼルは小さく舌打ちをする。

 

「生きたいの一言も言えずに自分の命を自分で捨てて逃げる様な奴らを態々救いあげてやるなんざお節介にも程がある。俺には理解できん」

 

「そうかな?俺はデゼルがそんな冷たい奴には見えないけど?」

 

「そう見えるなら節穴も良いところだ」

 

そう言い捨ててデゼルは歩き始める。

 

「あー、なんかごめんね。アイツなんか定期的に悪ぶって空気悪くする呪いにかかってるとこあるから」

 

ロゼが毒を吐きつつもデゼルを庇う様に頭を下げる。だが晴人とアリーシャは気にした様子もなく笑って返す。

 

「気にしてはいないよ。デゼル様の言っている事だって間違ってはいない。むしろ国を背負う者として私が向き合わなければいけない問題なんだ」

 

「アイツの言い分だって別に的外れな訳じゃ無いしな」

 

そう返す二人にロゼが安堵した様に笑みを浮かべる。

 

「そっか、ありがと……こら!デゼル!勝手に一人で行くなっての!」

 

一言礼を言うとロゼはいつもの賑やかな調子に戻りデゼルの後を追う。

 

一同もその後に続く。

 

そして───

 

「うわぁ……」

 

「これまでも色々見てきたけどこいつ凄いな」

 

「うん、確かにこれなら信仰されるのもわかる」

 

裂け谷を越えた先、灰色の岸壁地帯を抜けたそこには純白の巨大な塔が待ち構えていた。

 

朽ちて色が褪せた印象を受けるこれまでの試練神殿と異なりまるで教会を思わせるような白塗り壁と壁の装飾は神聖な雰囲気を醸しており、太陽の光に照らされ聳え立つ神殿は一種の神々しさを放っている

 

「これが風の試練神殿、ギネヴィアか」

 

「たっか!どんだけあんのさこれ」

 

見上げると首を痛めそうな程に高い神殿にロゼが思わず顔を引き攣らせる。

 

「これを今から登るのかー……火の試練の時みたいに上下に動く床とかありますように」

 

「水の試練の時みたいな入り口に戻される罠があったりしてな」

 

「やめろー!思い出させるなー!」

 

水の神殿の罠を思い出してよっぽどトラウマなのか晴人の言葉にロゼが頭を抱えて叫ぶが

 

その時───

 

……ああ……あああ……ああ……

 

 

「……っ!何か来る!」

 

デゼルが何かに気がついた様に塔を見上げる。

 

呆気に取られる一同だが一瞬遅れてザビーダが反応する。

 

「やべぇ!人が落ちてきやがる!」

 

『なっ!?』

 

 

 

その言葉に驚愕する一同。頭上を見上げると───

 

 

「うわぁぁァァァ!」

 

一同の視界に声を上げ塔から落下してくる人間が飛び込んできた。

天へと聳え立つ巨大な塔。そこから身を投げた人間がどうなるのかなど議論する必要すら無い。

 

「ちぃっ!ザビーダ!合わせろ!」

 

「わかってるっての!ハルトォ!魔法だ!」

 

デゼルとザビーダは咄嗟に風を操り上空へと強風を吹かせる。

 

「きゃあ!?」

 

「ちょっと!?」

 

ライラとエドナがスカートが捲れ上がりそうになり咄嗟に抑えるがそれを気にしている余裕などない。

 

発生した上昇気流で落下する男性の勢いが減速する。

 

だが所詮は咄嗟に出した風だ。落下の勢いを殺し切る事は出来ずこのままいけば潰れたトマトがひしゃげたトマトに変わる程度の結果にしかならないだろう。

 

だが時間は稼げた。

 

指輪の魔法使いが魔法を発動する時間が。

 

【グラビティ!サイコー!】

 

地面に展開された黄色い魔法陣。

そこに落下した男性は地面と衝突する事なくまるで反発する磁石の様にふわふわとその身を浮かせ静止していた。

 

「あっぶねぇ……」

 

「危機一髪だな……」

 

安堵の息を漏らす晴人とザビーダ。

 

「大丈夫ですか!」

 

「怪我は!?」

 

「というか何、身投げなんてしてんの!」

 

心配と怒りを込めてスレイ、アリーシャ、ロゼが男性に駆け寄ろうとするが……

 

「ッ!止まれ!」

 

再度響くデゼルの叫び。

 

その瞬間、駆け寄るスレイ達と落ちてきた男の間に暴風が吹き荒れる。

 

「な、なんだ!?」

 

「強い穢れを感じます!」

 

吹き荒れた風が止む。

 

そこには───

 

「っ!憑魔!」

 

巨大な馬に跨った首無しの騎士が立っていた。







あと書き

今年はあと2回更新して風の試練神殿編終われる様に頑張ります。

セイバーの倫太郎と大秦寺さん面白い……面白くない?

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