魔導転生 ~大魔導士キョウスケ☆マギカ~ 作:新世界のおっさん
退院の翌日、食事を取った恭介は制服に着替えた後、昨日調べ使い方を熟知したスマートフォンでさやかに電話をかける。
さやかは携帯を持っていなかったため、自宅の電話にかけることになり、出たのは専業主婦らしい母親だった。
『はい、もしもし?』
「上条です、さやかさんと代わっていただけませんか?」
『あら、まあまあ……ちょっと待っててね♪』
そう言われ、しばらく待つとドタドタと足音がして、昨日聞いた快活な声が聞こえた。
しかし、その声は戸惑いに満ちていた。
『きょ、恭介!?』
「ああ、そうだよさやか……元気そうで何よりだね」
『病院は!?』
「退院したよ?完治したんだ」
『え、えぇ~!?』
驚きを隠せないさやかの様子を想像し、クスクスと笑う恭介は続けて本題に入った。
「それでね、今回さやかに電話したのは一緒に学校に行かないかって思ってね……ダメかい?」
そう、今回の目的は学校内での交友関係をより深くするため、まず手始めに面識のあるさやかと交流しようとしていた。
それに対してさやかは戸惑いながらも答えた。
『もちろん良いけど……他の子も一緒で問題ない?』
「うん、問題なんてあるわけないさ……僕は後から誘ったわけだしね」
さやかの答えを恭介は了解した。
実はさやかの答えについては予測済みであり、おそらく他の子とは昨日遭遇してかつ<上条恭介>の日記に記されていた<鹿目まどか>で、二人の仲が良い故に誘えば一緒に会えるだろうと踏んでいた。
「(これで確実に二人とは話が出来るだろう……だが他にも友人を誘ってる可能性もある……そこも考慮しておかないとな)」
『分かった、んじゃ学校前にある並木通りで待ち合わせね!遅れるなよ~?』
「大丈夫だよ、もういつでも出られるんだから……と言うか、もう出てるからね」
『あっ!そうか、恭介携帯なんだった!羨ましいなぁ、あたしは高校までお預けとか食らってるからさ!んじゃ出るから切るね!』
「了解、さやか」
電話を切り、ふぅ……と息を吐き出し空を見上げる。
風が吹き抜けていき、辺りに設置されている発電用の風車が回る。
「(確か隣町の風見野から入ってきた風が、見滝原を抜ける時にはそよ風になるんだっけ……だから見滝原は気持ちが良い気候なんだよな……)」
くすぐったい風が、恭介の頬を撫で、思わず口元が緩んでしまう。
そんな時、突然背中に衝撃が走る。
驚いた恭介が振り向くと、そこには自分同様銀髪だが、ずっと幼く見える少女が慌てた様子で彼を見ていた。
「あ……ごめんなさいなのです」
「ッ!……大丈夫だから急いでるなら行きなよ……気をつけて行きな」
「……はいなのです」
一礼した後、少女は走り去っていく。
その後ろ姿を眺めながら、恭介は呟いた。
「あの子から大きな魔力の流れを探知した……調べた限りではこの世界においての魔術は伝承のみで、存在はしていなかったはず……興味深いな」
恭介の口元が、今度は別の理由で大きく緩んだ。
恭介がさやかとの待ち合わせに従い並木通りに行くと、そこにはさやかでもまどかでもなく、緑色のウェーブがかったロングヘアの少女がこちらを不思議そうに見ていた。
「ごきげんよう、上条恭介くん……ですわよね?」
「そうだけど……君は……確か<志筑仁美>さんだったかな?」
「まあ!覚えていてくださったのですね!」
少女<志筑仁美>はとても嬉しそうに微笑む。
彼女とはクラスメイトであり、かつ互いの親が懇意にしていて仲が良かった……故にもっと縁があってしかるべきなのだが。
<上条恭介>は日記で仁美について触れていなく、あまり記憶に残っていなかった様であった。
「うん、ごめんね……交通事故で余計な心配をかけちゃったでしょ?」
「そんな……謝るような事はございません!上条くんは悪くありませんわっ」
「ははっ、そう言ってくれると嬉しいよ」
謝った自分を必死に励ます仁美の様子をみて、彼女は本当に良い子なんだろうなと認識した恭介。
そこへ走ってくる足音が聞こえたので、音が聞こえた方へ目を向けると、さやかとまどかの二人がこちらに向かってきていた。
「ごめんごめん!またせちゃった!?」
「ごきげんよう、さやかさん、まどかさん!まだ時間に余裕がありますから問題ございませんわ」
走ってきたさやかとまどかに、令嬢らしく上品に微笑みかける仁美。
さやかはあまり息をきらせていなかったが、まどかはかなりお疲れな様子で息もきれきれだった。
「はぁ……はぁ……お母さん起こすの時間かかっちゃって、ごめんね仁美ちゃ……って上条君!?」
「やぁ<お姫様>、今日はバッチリ決めてるみたいだね……ポニーテールに黄色いシュシュ、悪くないよ」
「「<お姫様>!?」」
さやかと仁美が一斉に恭介に注目するが、彼はどこ吹く風で微笑みながらまどかを見ている。
「あ、ありがとう……じゃなくて!昨日も上条君そう呼んだけど<お姫様>は恥ずかしいよぉ!」
「おっと、それはすまない……なら、<まどか>って呼んじゃダメかい?」
「「呼び捨て!?」」
オーバーな二人の反応をこれまた恭介、華麗にスルー。
まどかは少し考えるそぶりをみせたあと、頷く。
「良いけど、どうして突然?」
突然呼び捨てにしたいと言われると、理由が気になったまどかは、恭介に問う。
恭介は迷うことなく答える。
「僕はこれまで脇目もふらず、バイオリン(魔術)に打ち込んできた……だがふとした事故で入院して、バイオリンが出来なくなって……そして思った、もし僕がバイオリンを出来なくなったら、僕にはさやかぐらいしかまともな友達いないんじゃないかって」
「ぐふっ!」
「ち、ちょっ!何言ってるのよ恭介!」
「…………」
仁美はダメージを受け、さやかは羞恥で頬を染め、まどかは真剣な表情で黙って聞いていた。
恭介は続ける。
「これからもバイオリン(魔術)を続けたい、でもそれだけじゃなくて……沢山の人に支えられてる自覚を持って、沢山の人と関わって仲良くしなきゃダメだなって考えた!一人じゃ出来る事は限られてるから……」
「恭介……」
「上条君……」
「…………」
恭介の言葉に三人は完全に耳を傾けている、彼の言葉に同調しているのだ。
「だから、まずはさやかと仲の良い鹿目さんと仲良くなりたくてさ……それで、呼び方をより親密に出来ないかなって」
「上条くん……ううん、恭介くん!私も貴方のバイオリン応援するよ!それから仲良くなりたいなぁって前から思ってたから、そう言って貰えて嬉しいよ!」
「ありがとう、まどか……改めてよろしく」
「うぃひひっ、こちらこそ!」
恭介の言葉を素直に受け入れ、笑顔で喜ぶまどか。
実際には<上条恭介>がそんな事を考えたわけではなく、恭介が周りと関わりを持つために、現在の状況を利用したわけなのだが、その事を三人は知らない。
「(むむぅ、何故かまどかと恭介が良い雰囲気に見える!いや、勘違いするなあたし……これはあくまで友達としてより仲良くなるだけだから……!)」
さやかは親友と幼馴染みの接近に、何か危機感を感じた……っと、不意に仁美が攻勢にでる。
「わ、わたくしも呼び捨てにしてはいただけませんか!わたくしも上条君と仲良くなりたいですもの!」
「ナヌッ!?」
「うん、わかったよ……仁美が良いって言うなら」
「あっ……」
仁美は名前を呼ばれた瞬間、顔が赤くなり、頬を両手で包み恥ずかしそうに身体をくねらせたあと、突然背を向けた。
「や、やっぱりダメですわ」
「え?」
「仁美ちゃん?」
「……仁美?」
様子が変な仁美に近づき、恭介は彼女の名前を呼びながら、肩に触れた。
するとビクッと震え、呻き声をだした後、ダッシュで学校に突進しつつ叫んだ。
「わたくしには!!刺激が強すぎますのよぉぉぉぉ!!!」
「あっ!ちょっ!仁美ィ!?」
「うわぁ……もうあんな所まで……」
「……見えなくなっちゃったね」
あまりの走力と、勢いに三人はおいてけぼりであった。
しばらく呆然としたあと、恭介はふぅ……とため息をつき、二人に言った。
「行こう、黙ってたら遅れちゃうよ」
「はっ、そうだ!行こう行こう!」
「あっ!待ってよさやかちゃん!」
「って、まだ遅刻ってわけじゃ……まぁ良いか、子供は元気な方が」
焦ったさやかが走りだし、まどか追いかける形で走り出す。
そんな様子を、恭介は楽しげに見守っていた。
市立見滝原中学校……見滝原市に存在する公立の中学校であり、見滝原市に住む中学生は私立を除けば、ほぼここに在籍している。
ガラス張りの特殊な教室から、外を眺めため息をつく恭介。
あれから教室についた途端、かなり質問攻めにされ、授業もあまりついていけず、散々だった。
「(やはりバイオリンを持ってきておけば良かったな……想像以上に苦行だった……肝心な時に、<上条恭介>は出てきてはくれん)」
何度か語りかけたり、意識を弱めたりしてみたが出てくる気配がなかったため、恭介は<上条恭介>が意図的に出てこないのだと結論づけた。
「(今頃中で私が四苦八苦しているのを、眺めているのだろうか……良い趣味をしている、まあ同じ立場なら私もそうしたかもしれんから、文句はないがな)」
恭介としては文句はないが、若干拗ねていると、さやかが隣の席に据わり、彼の様子を伺いながら声をかけた。
「おーい恭介ェ……生きてるぅ?」
「……生きてるよ、この上なく疲れてはいるけど……」
「あはは……皆容赦なく質問攻めしてたもんね」
「ふふ……もう少し加減が欲しかったかな」
質問の後半は知っちゃかめっちゃかであり、あまりなんと聞かれたか覚えてはいなかった。
それだけ慕われていたのか、このクラスの好奇心が旺盛なのかは不明だったが、長い時を生きた大魔導士である恭介が戸惑う程であった。
「そんな、お疲れな恭介にプレゼント!」
「おっ?」
そう言ってさやかが取り出したのは、可愛いナプキンで包装された弁当箱だった。
恭介はそれを受け取り、首を傾ける。
「……これ、僕のために?」
「誘われたのギリギリだったから、お母さんが作ったのをささっと入れただけだけど……い、一緒に食べよ?な~んて……」
頭をかき、照れくさそうに笑うさやかが何となくいじらしかったので、恭介は思わず笑みがこぼれる。
こんな経験は彼には無かったため、新鮮で楽しそうだったのもあり、特に迷うことなく頷く。
「ふふっ……いいよ、一緒に食べようか」
「えっ、良いの?他にも誘ってくる人いるんじゃ……」
「幼馴染みが最優先だよ……せっかくだから、外の空気が吸える屋上で食べようか」
「なっ、ちょっ」
今日は両親が忙しく、昼食は買う予定だったため、さやかからの弁当だけ持ち、彼女の手をとり歩き出す恭介。
思ったのと違う対応をする彼に、どぎまぎするさやかは緊張しながらこう思った。
「(事故の後からの恭介……やっぱり変だぁ!)」
しかし、そう思いつつも心拍数の上昇は止まらなかった。
「は、離してくださいまどかさん!……わたくしがここで、指をくわえて見ているわけにはぁ!!」
「さやかちゃんが勇気だしたんだから、ここは黙って見送りなよぉ!」
「中沢君!貴方はわたくしがついていく行くべきだと思いますわよね!」
「ど、どっちでもよろしいかと」
尚うしろでは妙な騒ぎがあったとか、無かったとか。
一方もう一人のイレギュラー<暁美ほむら>は、まどかが契約するきっかけになりそうな魔女を積極的に狩っていた。
「(これで……とどめ!)」
完全に動きが止まっている魔女に対して、手榴弾を無数に投げ込んだ後、カシャリと言う音とともに、彼女が身に付けている盾の中央部に存在する砂時計が動き出す。
同時に止まっていた周囲の物が動きだし、魔女は爆発四散し、魔女の内包する卵<グリーフシード>が落ちてきた。
魔女が死んだことにより、禍々しい<結界>がなくなり、見滝原市にある繁華街の路地裏に戻ってきた。
髪をサッとかきあげ、グリーフシードを拾うほむらだったが、何かの気配を感じ、振り向く。
「あっ……」
「(この子……<魔法少女>ね、でも今までの時間遡行では遭遇したことがない……これは何かあるのかしら)」
振り向いた先には、恭介が今朝方遭遇した少女がいた。
服装が今朝とは変わっており、その手には<ラッパ>が握られている。
「……ごめんなさいね、貴女の獲物を横取りしてしまったみたいだわ」
「……ッ!……しかたない、なのです……」
ほむらの言葉に、苦虫を潰したような表情をしたあとボソリと呟き、少女は走り去ってしまった。
その様子を見て、ふぅ……とため息をつくほむら。
「……警戒させてしまったみたいね……ポーカーフェイスが板につきすぎてしまって困るわ……」
彼女の言葉は、路地裏の闇に吸い込まれ、誰の耳にも届く事はなかった。
銀髪の少女……一体何者なんだ……(棒)
と言うわけで大魔導士恭介は知識と絆を得つつ、少しずつこの世界で根を張っていきます。