ポケモン:バレンタイン・キッス(ミニ連載)   作:Sly Moon

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前回、第1話のラスト部に少し加筆をしました。
ストーリーに影響を与えるものではありませんが、
設定に関わる部分を書き忘れておりました。申し訳ございません。


2話 散歩

散歩のコースはいつも同じだ。俺の家はカイナにあって、そこから110ばんどうろに出る。

「サイクリングロード建設予定」とある看板のあたりには高い敷居がしてあって、中の様子をうかがい知ることはできない。

しかし、水辺の一本道の上にサイクリングロードができてしまう光景は想像できる。カイナの住民なら誰しもが完成イメージ図を見たことがあるからだ。

俺はこの一本の、水上を通る道がとても好きだ。朝はペラップが歌い、通る人を楽しませてくれる。俺が帰宅する頃は、ラクライの遠吠えと夕焼けとが見事にマッチして、その日の終わりをしみじみと感じることができる。

だから、そんな道にかげを作るようなものはできて欲しくなかった。もっとも観光客を増やすのには良いのだろうが。

 

2月ということもあって、落葉している木も見受けられる。とにかく寒い。真っ直ぐくるとカラクリ大王の家の前まで来た。ここには特に用がないが、例の一本道はここから東へとはじまる。

 

「むぅ!」

 

さあいこう、と声をかけてきた。俺がこの道を気に入っていることはムウマにも分かるのだ。そしてたぶんムウマもこの道が好きなのだろう。機嫌が良くなったのが、被っているニット帽の動きでわかる。

ムウマの頭の髪のようなところは、ジグザグマの尻尾と同じで感情を表す。ぴんと張っているときは威嚇や緊張をしているときで、上下に少し激しく波打たせているときは、楽しんでいるときだ。今は後者だ。

 

「今日はどこまで行く?」

歩きながらそう聞くと、

「ぽひょおおおん!」

と大きく鳴いた。

大きさとか距離とかの程度は、ムウマの鳴き声の長さ、大きさで判断できる。今日はキンセツまで行きたいらしい。いつもは半分くらいで折り返すが、まあたまにはいいか。

 

「そっかあ、ムウマも アレ あげたい人とかいるの?」

「む、むぅ!むうー。」

 

首を横に振って、少しいらだちを含むような声を出した。でも怒っているわけではない。ということは図星か。俺へのプレゼントを用意してくれるのかもしれないから、気をつかってそれ以上深くは聞かなかった。女子にチョコレートをもらったことがない男の淡い期待である。

 

ムウマの横顔を見ているととても癒される。

浮遊しているムウマのひらひらするからだは、風の通りが良さそうで、見ているだけでこちらもますます冷えてくるので、抱きしめて歩くことにした。

「むぅ。」

べつに疲れてないよ、といった感じだが、俺の腕の中が暖かくてきもちいいのか甘えるような声だった。

たまにはいいだろう。こんなふうにお互いの鼓動を感じながら歩くのも。

「出会った頃はよくこんなふうにして散歩したね。最初は、ゆうれいポケモンに触れられるなんて思わなかった。」

「むぅむ!」

おばけじゃないよ!と言っている。いつものやつだ。

学校でそう呼んでいるからつい間違えて言ってしまうが、彼女は俺に普通のポケモンと同じように接してほしいらしい。

俺はべつに特別視しているわけではないんだけどな。

「はいはい、ごめんね。」

「むーう」

拗ねたような顔にドキドキするのはなぜだろう。

 

それから俺たちは無言で道を進んだ。134ばんすいどうの方角からさす朝日がムウマの顔を照らす。明るくなってその瞳は輝きを増し、ますます可愛く見えた。そして彼女はふつうの人が思っているよりも暖かく、生を感じさせる。いつもと違って、ロマンチックだ。

 

俺はムウマにニックネームをつけていない。なぜならこの地方では珍しいポケモンだから、区別する必要もないからだ。新米トレーナーが多いカナズミでは、そこらじゅうで個性的なニックネームを聞くことができるだろう。ジグザグマやポチエナは多くのトレーナーがはじめに捕まえるポケモンだから、自分のを区別しないとややこしくなるからだ。

 

「む!」

 

おお、キンセツシティはもう目前だ。ムウマをはなしてやると、ふわぁと浮き上がってぺこりとお辞儀した。ニコ、と笑顔で返して、一緒に街に入った。

この時間帯は散歩しているトレーナーが多く、ジャージ姿でも浮くことはない。でも今日ばかりはまともな服装でくればよかったと思う。店はハートで飾り付けられ、歩く人も高そうなコートを着た女性が多い。会社や学校に行く前にチョコレートを買っていくのだろう。自分のポケモンと2人で散歩しに来るには、街は賑わいすぎている。

「どこに行きたいんだ?」

用事があるならはやく済まして帰ろう。

「むぅ!むぅ!」

「あ、ちょっと……!」

先に行ってしまった。その方向にある建物……見覚えがある。どうやらが彼女が俺を置いて向かったのは、マルイ という百貨店のようだ。




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