ポケモン:バレンタイン・キッス(ミニ連載) 作:Sly Moon
「はぁ、もうすぐ引越しか……。」
俺はとても憂鬱な気分だった。
受験に成功してついにあの憧れのキンセツスクールに通うことができるのに。それというのも全ては一か月前の出来事が原因だ。
『大事な話があります。メールじゃなんだから、直接話しましょう。』
殺風景なメールには、有無を言わさぬ言い方でお別れの言葉が書いてあった。突然のことだったが俺はこのメールを受け取ってすぐに意味を理解し絶望した。ーーああ、フラれるんだな。
『いいですよ、じゃあ、いつものところで。待っててください。」
年上の彼女にはいつも敬語だった。このメール、たぶん最後になるであろうメールも敬語になった。
送信してすぐに支度した。家にいる母には本を返しに行くんだと言った。俺のジグちゃん……マッスグマも、まさかこんなダサいところを見られるわけにいかないので置いていくことにした。ボールの中に入れていても、ひょっとしたら会話が聞こえているんじゃないかと心配になるからだ。
ボロのじてんしゃで10分かけて待ち合わせ場所に着いた。
ここはカナズミの北、115ばんどうろの浜辺。人通りが少ないので密会には最適だ。
「あ、ども……こんにちは」
「ああ、うん、こんにちは。」
挨拶をするのすら気まずかった。彼女も落ち着いてはいないだろうが、俺よりましだ。世間話もしたくないらしく、彼女は言いたいことだけ伝えてさっさと帰ってしまった。置いてけぼりになった俺は、ただ一人ピーピーと鳴くキャモメたちを眺めてぼうっとしていた。
それから日が暮れてきたころに帰宅した。なぜだろう、なぜ俺はフられなくてはならなかったんだ?理由は端的に聞かされたが、納得いかない。急に腹が立ってきて、また外に飛び出した。
「くそっ!みんな!死んでしまえっ!」
人気のないフラワーショップ裏で、ジグちゃんに無理矢理な命令をしていくらかの木を破壊した。
気分は晴れなかった。こんな命令をするのは初めてでジグちゃんも戸惑っていたが、構わず木を殴らせた。
完全にあたりは暗くなってから家に帰った。ジグちゃんとは一緒にフロに入ったけれど無言だった。
ーーまた辛いことを思い出してしまった。別れたことでもうこの町には用はなくなったのに、やり残したことがあるような気がしてならない。失恋は俺の心を深く傷つけたようだ。
本来、カナズミからキンセツへはそれほど遠くはない。しかしカナズミトンネルは工事がなかなか進まないために開通が遅れ、北か南から迂回しなければ行けないようになっている。俺は北にいってりゅうせいのたきを見物し、それから砂漠を通ってキンセツに行くのがいいと父に言った。当然、このマッスグマだけしか持たない貧弱トレーナーには厳しい道のりだから父について来てもらうよう頼んだのだ。この選択は、何もかもめちゃくちゃになってしまえばいいという気持ちからきたのだろう。
母は少し反対ぎみだったが、父は一人暮らしするんだから辛い経験をさせてやるのもいいだろうと承諾してくれた。
「おおジグちゃん、どうした?」
「ぐるるぅぅうん……。」
深いため息をつく俺のことを、何があったか知らないが慰めてやろうという感じだろう。たぶんこいつは、ひと月前のあの日から俺が鬱気味なことも理解している。部屋に篭っていると、ときどきこうしてじゃれつきにくる。
「一緒について来てくれるか?ハジツゲと……キンセツまで。」
「わぐぅっ!」
元気よく了承してくれた。お腹を撫でてやると喜んだ。でもどうしよう。カイナでの一人暮らし、こいつがいてくれると心強いが……母さんは強いポケモンを持っていないから心配だ。
いよいよ出発の日が来た。すぅーーっ……はあーーっ……。緊張する。前日、いいキズぐすりやスーパーボールなどの、少し高めのどうぐをバッグにつめた。しばらくこの町ともお別れだ。清々しいはずなのに、名残惜しい。まだ俺は後ろ髪を引かれているようだ。
あともう一話書きます。
どうしても過去編があったほうが感情移入しやすい