夢幻転生   作:アルパカ度数38%

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その11:家族仲良し

 

 

 

 空は何時もの次元空間のうねうねした混沌ではなく、どこまでも続いている蒼穹。

太陽は発光ダイオードのように綺羅びやかに輝き、道に並ぶは住宅やら高層ビルやら、素材は様々で、まるでクレープをミキサーに突っ込んだみたいな有様だった。

匂いは潮の香り。

海を感じさせる町、それが此処海鳴の町であった。

 

「う~ん、なんだか久しぶりだなぁ」

 

 とぼくは呟くけれど、ぼくが時の庭園に攫われてからまだ10日しか経っていないのだ。

1ヶ月の3分の1、1年の36分の1しか過ぎていない。

枕に慣れるぐらいの長さであったのは確かだけれど、寝起きに今自分の居る場所が何処か未だに悩むぐらいの短さであった事も確かだ。

それにしても、こうやってある期間を一定の期間の割合で考えていると、数字の持つ不思議な力に驚かされる物であった。

例えばぼくの持っている千円札も、翠屋のシュークリーム換算で考えると驚く程高価に感じ、分厚い大学ノート換算で考えるといかにもしょっぱい物である。

なのでなるべく高価に感じるようにしたほうが気分がいいけれど、それはそれで時々自分が思っている程お金持ちじゃあないと気づくと傷つきそうだ。

ぼくは少し悩んだ後、靴を放り投げ、靴がぴたりとぼくのほうを向いて表裏は正しい位置になったので、ううむと唸った後、シュークリーム換算はやめる事にした。

 

 フェイトちゃんのジュエルシードは3つ目が手に入り、ぼくがすっかり消化してしまった物を含めると4つになった。

順調と言えば順調なのだが、先日そんなフェイトちゃんとなのちゃんとに時空管理局という組織の介入があったのだそうだ。

時空管理局は、簡単に言うと次元世界のお巡りさんみたいな物らしい。

ぼくはなんだかお巡りさんと聞くと犬のお巡りさんを想像してしまうので、アルフさんが婦警姿で歩きまわる所を想像してしまい、妙な気分になる。

アルフさんは、婦警にするにしては色気があり過ぎであった。

しかもその事で後でプレシアさんに頬をつねられたりと、踏んだり蹴ったりである。

頬をつねるぐらいならぼくは唇を差し出し、アヒル口にされてもいいぐらいだと言うのに。

 

 閑話休題、兎も角法的機関の介入があったため、プレシアさんは何かを心に決めたようである。

初対面の頃から何かに迷っているような瞳をしていたプレシアさんだったので、良いことではあるのだけれど、同時にその眼はなりふり構わずにジュエルシードを使うような眼にも見える。

そんなプレシアさんは、なにか思う所があったのだろう、ぼくに家族に一旦お別れを言ってらっしゃいと言った。

どういう風の吹き回しだろうと思ったけれど、ぼくはプレシアさんの声が伸びきったゴムのような調子だったので、切なくなって思わず頷いてしまったのだった。

 

 で、今居るのが此処海鳴。

遠くからフェイトちゃんがぼくを監視しているらしく、何か危険があれば必ず助けてくれるらしい。

まぁ、友達だしフェイトちゃんは助けに来てくれるだろう、と甘く考えていたのだけれども、その日からフェイトちゃんは決してぼくと視線を合わせないようにしていた。

まるで丸い大岩のような頑固さで、その頑固さは坂でもあればこっちを轢き殺そうとしてくるぐらいに強固であった。

これは期待できないな、と思いつつも、家族には会っておくべきだし、とぼくは海鳴にやってきたのであった。

 

 さて、ぼくは果たしてプレシアさんに協力すべきなのだろうか。

人道的に考えるなら、プレシアさんに協力すべきなのだろう。

何故ならぼくは、プレシアさんに愛されているのだ。

その勢いと言えば、会って然程経っていないと言うのに、数日前から毎日ぼくをベッドに連れ込むぐらいであった。

いくら賢い気がするぼくでも、今生では9歳で童貞を喪失するとは予想外である。

とは言えぼくは童貞を奪われたから協力するのではなく、その奪い方がとてもロマンティックだったから協力したいのだった。

誘い方も凄い緊張していて微笑ましいぐらいであり、更にまるで初恋の少女のように初な精神でありながら、テクニックは中々の物であった。

そんなギャップだらけのプレシアさんは、緑色と紫色のように意外な親和性を発揮し、それはそれで魅力的であったのだ。

その美しさは、まるで青空に白いルージュで引いた飛行機雲のようで、とても良く感じられたのであった。

 

「でもなぁ」

 

 しかし残念ながら、ぼくの考えは違った。

ぼくはプレシアさんに協力するつもりはあまり無かったのだ。

プレシアさんから簡単に教わったジュエルシードの危険性は高く、何個も連結暴走させれば次元断層とかいう凄い災害が起き、いくつもの次元世界が滅んでしまうのだと言う。

当然、地球もその中の一つになるのだそうだ。

そしてプレシアさんは、口に出さず表情でも隠しているが、そのジュエルシードで次元断層が起きそうなぐらい危険な何かをする事を決意している節がある。

 

 別に、世界を滅ぼそうとしている事自体はどうでもいい事だった。

どうせ世界なんて赤子の積み木みたいな物だし、それがハンバーグから滴る肉汁のように半透明な思想から来る物であれば、ぼくはそれを手伝ってさえいいと思う。

けれど、プレシアさんは明らかに世界を滅ぼす事そのものが目的ではなかった。

何かのついでに世界が滅ぶかもしれないけど、別にいいやって感じだったのだ。

ぼくは自分でもこの“別にいいや”をよくやるのだけれど、プレシアさんの“別にいいや”は天ぷらの盛り合わせが出てきた時に嫌いな野菜を避けても平然としている、あの“別にいいや”だった。

ぼくはその“別にいいや”に猛烈に腹が立つので、正直言ってその点についてはプレシアさんに共感できない。

と言う事で、ぼくは今のところ、あまり積極的にプレシアさんに協力するつもりは無いのだ。

 

 ならばどうすべきだろうか、とぼくが自分の墓穴を掘るもぐらよりも真剣に考えていた所、ぼくは家族と待ち合わせていたファミレスにたどり着く。

流石に高町家の隣の自宅に行ってしまえば、ぼくの存在が高町家にバレるのは目に見えているからだ。

以前その事はプレシアさんに話してあったので、そんな事をすればフェイトちゃんにビリリとやられていつの間にか時の庭園に戻っているに違いだろう。

ぼくは待ち合わせていた両親の所に行き、まずは謝り、それから一緒に食事を取った。

ぼくは赤いものを食べたい気分だったので、ナポリタンを頼んだ。

父はステーキを、母はグラタンを頼んだ。

 

 ぼくの転生後の家庭は、一人っ子の3人家族であった。

父はスポーツマンだ。

何のスポーツをやっていたかは知らないが、足元から首までどこも太く固くガッチリとした体型で、何時もスポーティーな格好をしている。

髪の毛は何時も短く、それを七三に分けていた。

耳は経験したスポーツが柔道なのか、はたまたラグビーなのか、なんだか擦り切れたような耳をしている。

 

 そして何より、父には顔が無かった。

父の顔は空洞だった。

頬骨の辺りから唇のすぐ下のラインを通り、額の中心辺りを通ってやや縦長の楕円形に父の顔はくり抜かれていた。

断面は綺麗な肌色で、皮膚が張っているのがよく分かる。

父はステーキを、顔の空洞に積み上げるようにした。

だって顔が無いのだ、そうやって食べる事しかできないに違いない。

勿論ぼくは、父の声を聞いたことだってなかった。

だって仕方のない事だもの、それで父を責めるのは障害者に対する差別に似ている。

勿論いつだかアリサちゃんに言ったように、父に甘える事が父を喜ばせる事も分かっていたが、ぼくはなぜだかそういった事をやる気になれなかった。

 

 母は編み物が得意な人だ。

家事全般も得意で、小さい頃から家事に携わってきた、家事のプロとも言える存在である。

服装はいつもゆったりした無地のワンピースで、髪の毛は耳が隠れる程度のショートカットだった。

 

 そして何より、母には顔が無かった。

母の顔は空洞だった。

父と同じラインをたどり、やや縦長の楕円形に母の顔はくり抜かれていた。

こちらも同じく断面は綺麗な肌色で、化粧っ気の無い肌が角度によっては見える。

母はグラタンを、顔の空洞に乗せるようにした。

けれど美味く沢山乗せる事ができず、沢山のグラタンをこぼしてしまう。

父はそんな母を見かねてナプキンで服なんかを拭いてやり、ぼくはお熱い事でと思いながらナポリタンをもきゅもきゅと食べていった。

ナポリタンはとても赤くて、ぼくは大満足だった。

 

 やがて食事が終わると、父は顔を傾け、積み上げたステーキを皿に戻し、母も同じようにグラタンを皿に戻した。

何時も思う通りエコ精神あふれる行為であり、ぼくはその事でちょっぴり両親を誇りに思ったりする。

それからちょっと何時帰れるようになるか予定はわからないけど、必ず帰る事を両親に伝え、ファミレスを出た。

フェイトちゃんとの待ち合わせ場所である、人気のない場所として選んだマンションの屋上へとゆっくりと向かう。

 

 さて、多分ぼくが海鳴に来る事は、このまま時の庭園に戻ってしまえば二度と無いだろう。

ぼくの基本方針はプレシアさんを邪魔する方針なので、ぼくはこのチャンスを逃さずなのちゃん側の人間、恐らく時空管理局も含まれているだろう勢力と出会わねばならない。

しかし余り露骨に会おうとすれば、フェイトちゃんに気づかれビリビリされて時の庭園に戻される事になるだろう。

どうしようかなぁと首を傾げながら考えつつ、カタツムリのような速度で歩くだけでなく、ジュースの買い食いをやりながら、これって買い飲みって言うんじゃあないか、とか思いつつ、ぼくは歩いた。

気を抜けば太陽の眩しさに倒れそうになったり、塀の涼しさにへばりつきたくなったり、アスファルトの凸凹に糊を塗ってつるつるにしようとしたりしたくなるぼくである。

だがしかし、ぼくは全力を賭して様々な事を我慢し、真剣に考えながら歩みを進める事にする。

しかし、手持ちに糊が無くて本当に良かった、あったら危うい所だった。

 

 そんな風にしているうちに、ぼくはふとなんだか水色の光を感じて視線をあげた。

視線の先には、紺色の髪の毛をした、ぼくと同じぐらいの背丈の子供が歩いている。

服装はトレーナーにチノパンという普通の格好だが、何処かフェイトちゃんに近い感じがあり、氷の表面のような滑らかさをぼくは感じた。

それから気のせいだろうか、少し離れた所に金色の光と橙色の光も感じ取れる。

ぼくは一体どうしちゃったのだろう、全国普通コンテストがあれば間違い無くグランプリに輝けるぼくなのに、一体何故こんな光を感じるようになったのだろうか。

そんな風に考えながらぼくが目をこすっていると、目の前の少年が口を開く。

 

「ちょっといいかい」

 

 ぼくは辺りを見回したけど、彼の声に思わず足を止めたのはぼく一人だったらしく、それでいて彼は誰かを追いかけたりする様子は無かった。

 

「ぼくですか?」

 

 と聞き返すと、彼は頷く。

石像が倒れこむような頷き方で、ちょうど彼が倒れこんでくると足の小指をぶつけそうなので、ぼくはちょっと嫌な顔をしてしまった。

 

「君はもしかして、Tと言う名前じゃあないかい」

「そうですけど……」

 

 と訝しげに返すと、高町なのはの友達でいいかい、と聞いてきて、ぼくはうんと頷く。

 

「ぼくは時空管理局の者だ。同行を願えないだろうか」

 

 驚いたぼくだったけれど、探していた相手の方からこっちに来てくれた事に思わず嬉しくなり、ぼくは思わず笑みを浮かべてしまった。

多分満面の笑みを浮かべられたんじゃあないかとぼくは思う。

けれど彼はなんだか目を見開き、口を薄く開けて数歩下がった。

どうしたんだろうと思うぼくに、彼は懐から銀色のカードを取り出し、腰を低くする。

テニスプレイヤーが強い一打を放つ時みたいな腰の低さだった。

警戒させてしまったのかな、とぽりぽり頭をかきながら、ぼくが何か言おうとするのを遮って、彼は口を開く。

 

「君は……一体、何だ?」

「ぼくはTです」

 

 虹色のシャボンが空を覆った。

彼が光に包まれ、次の瞬間には肩のトゲが特徴的な黒服に、手には銀色の杖を持った姿に変わるのであった。


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