夢幻転生   作:アルパカ度数38%

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前書きとして。
閑話は基本的にスルーしても、話が繋がる予定です。
題名からして何となく気付いた方もいらっしゃるでしょうが、閑話は何時も以上に(私が)好き勝手書く話なので、何時もよりアレな話になります。
それを承知の上でどうぞ。


閑話その1
その23:自動ドア殺人事件1


 

 

 陽光が煌めき、六角形の輝きを瞳に残していく。

木漏れ日の一つ一つが見せる輝きだから、それは木々の隙間が見せる形に違いない。

つまり、木々の隙間はあの蜂の巣と同じ六角形なのだ。

ぼくは木々の隙間に、木々の幼虫が潜んでいる所を想像した。

彼らは目に見えないのか、それとも光そのものなのか。

どちらかちょっと悩んで、それからぼくは光そのものなのだろうと結論づけた。

何故なら、木々は光を栄養とするからだ。

幼虫を栄養分にする成虫は、なんというか、美しい類のグロテスクさを思わせた。

 

「美しいね」

「え? 何が?」

「木々だよ。何処でも緑は美しいね」

「……うん、そうだねっ」

 

 なんだか弾んだ声を出すフェイトちゃんに、ぼくも同じように微笑んだ。

夏であった。

しかしミッドの街は海鳴に比べると幾分冷涼で、偶に暑そうながらも長袖の服を着ている人を見かけるぐらいだ。

リンディさんによると冬も温暖で、コート以外の秋の装いのまま冬を過ごす人も探せば居るぐらいだと言う。

要するに、四季の差がそれほど大きくないのだ。

代わりに強く照りつける太陽や吹雪いてくる雪なんかも無いそうだけれど。

 

 兎も角ぼくとフェイトちゃんは、ミッドで夏を過ごしていた。

ぼくは週に4~5回ある検査の時間以外は室内で自由に過ごし、フェイトちゃんも虜囚の身ながらある程度の自由は与えられていたようだ。

それでもお互い外出は中々できず、予定が空く時間だって中々重ならず、会う事は中々できなかった。

それを見て頑張りだしたのが、リンディさんである。

彼女はちょこちょことした裏技を使って、ぼくとフェイトちゃんが1日だけ遊べる時間を作ってくれたのだと言う。

そんな訳で、ぼくらは2人して夏のミッドを肩を並べて歩いていた。

アルフさんは残念ながら留守番で、恐らくはフェイトちゃんに対する人質になっているので、一緒には出てこれなかった。

けれどぼくの事を無視すると彼女は言っていたので、3人になれても妙な空気にしかなれなかっただろうことを考えると、これで良かったのかもしれない。

 

 閑話休題。

ぼくはミッドの街に出る事は殆ど無く、一人で学校の宿題をさっさと終わらせてミッドの様々な勉強をしていたので、ミッドに置いては世間知らずである。

そのレベルと言えば、アルトセイム地方から殆ど出たことがないというフェイトちゃんを超えるぐらいだ。

なのでぼくは、フェイトちゃんに様々な事を教わりながらミッドを歩いている。

幸い、フェイトちゃんはぼくに物を教えてくれるのが苦ではないようで、嬉々としてぼくに様々な事を教えてくれた。

例えば。

 

「フェイトちゃん、あれは何? 気分のいい三つ目だけど」

「地球で言う信号機、みたいなものかな。色は違うけど」

「フェイトちゃん、あれは何? 空に顔を向けた扇風機みたいだけど」

「くるくる回ってる自動ドアの変形だね。人が挟まれる事故があるのが難点かな?」

「フェイトちゃん、あれは何? 不思議なプラグが出ているけど、尻にでも挿して人間に充電するの?」

「自動車の燃料を充電する為の物だよ。無人型だし、結構新しい奴じゃないかな」

「フェイトちゃん、あれは何? 顔写真と、ミッド語でルカ・なんとかって名前が書いてあるけど」

「指名手配の紙だよ。って、これは分かってて聞いてない?」

「…………そんなことないよー」

「もう、Tってば……」

 

 とまぁ、こんな具合であった。

信号機は不思議な色だわ、自動ドアはくるくる回る亜種が誕生しているわ、ガソリンスタンドは無人化されているわ、ミッドは不思議な街である事この上ない。

ちなみに指名手配の紙は、本当に読めなかった。

変身魔法の使い手だと言う解説文の方は読めたのだけれど、指名手配を意味する単語はぼくのミッド語レベルでは無理であったのだ。

なんでも質量兵器主義者のテロリストらしいが、変身魔法の使い手の顔写真って何の意味があるのやら。

と思いつつも、ぼくは黒髪に赤目のその写真を一応記憶しておく。

 

 そんなわけで街を闊歩してきたぼくら。

自然散歩はそこそこ長い時間に渡り、いくらミッドの夏が穏やかとは言え、汗でぼくらはベトベトになってきた。

とは言え、ぼくから冷房の効いた喫茶店にでも誘おうにも、ぼくは何故か現金もプリペイドカードもクレジットカードも渡されていない。

リンディさん曰く、貴方にお金を渡すとどんな使い方をするか想像がつかないもの、だそうだ。

ぼくは走るメロスの如く必死で抗議したのだが聞き入れてもらえず、財布の紐はフェイトちゃんに握られた。

ぼくが持って歩いてもいいと言われたのは、殺菌作用のある制汗スプレーぐらいである。

が、勿論ぼくも一応男の子なので、女の子を喫茶店に誘ってお金を払わせるのはちょっと恥ずかしい。

特に女の子の手が小銭のようなくすんだ金属に触れるのは、理由は良くわからないが、生理的にあまりよくない。

少なくともデートの最中は嫌で、ある程度は我慢するが、食事の後ぐらいはやめて欲しい物だ。

ミッドはプリペイドカードが主流なのでまだマシだったが、それでもぼくは習慣づいた感覚に従い、自分から喫茶店に誘うのを躊躇していた。

かといってフェイトちゃんもお金を使うのに遠慮があるようで、ちらちらと冷房の効いた喫茶店に視線をやっているが、ぼくに見られているのに気づくと、すぐに何も見ていませんよと言った態度を取る。

バレバレなのでその辺は愛嬌があっていいぐらいなのだが、結局ぼくらの汗と体温は解消されないままであった。

 

「あ、あれってもしかして……」

 

 そんな折である。

ぼくは視線の先に、見覚えのある施設を発見し、フェイトちゃんに問いかけた。

皆まで言うなと頷くフェイトちゃん。

 

「うん、地球で言うコンビニかな」

「よし、とりあえず店内に涼みに行かないかい?」

 

 言うと、数瞬迷ったフェイトちゃんは、それでも頷いた。

遠慮がちな彼女でも、さすがに時に殺人すら起こすあの夏の日差しには勝てなかったらしい。

というわけで、ぼくらはコンビニに入った。

ウィーン、と駆動音を鳴らして硝子製の自動ドアが開き、中から涼しさ成分いっぱいの風が吹き込んでくる。

中の店員さんらしき人が、何故かビックリしたのが遠目に見えた。

それはともかくとして、ぼくらは2人して、目を閉じて存分に涼しい風を味わった。

 

「生き返るね」

「そうだねー」

 

 間延びした声で言うと、ぼくらは足を動かす事を再開させ、店内に入り込む。

ぼくらは甘いものに惹かれるアリのように清涼飲料水コーナーに吸い込まれてゆき、気づけば2人して500mlのペットボトルを購入していた。

薄っすらと味付けされていたそれを3分の1ほど飲み干して、それからぼくはフェイトちゃんの美しい手をプリペイドカードに再び触らせてしまったことに気づき、少し凹んだ。

まぁ、夏の日差しがそれぐらいに強かったと言う事だろう。

ぼくは次なる小銭と女肌の接触を阻止すべく、拳を握り締めた。

不思議そうに、フェイトちゃん。

 

「T、何やってるの?」

「努力を誓っているのさ」

「何を努力するの?」

「それは決めていないけど、それ以外は一分の隙もない誓いだと思うよ?」

「駄目じゃない、それ……」

 

 呆れ顔のフェイトちゃんに、ぼくが思わず首を傾げた。

 

 さて、それは兎も角、せっかく涼ませてもらったのだから、飲み物以外にも何か買わせてもらうのが礼儀と言う物だろう。

ぼくはフェイトちゃんと相談してそう決め、心赴くままに菓子パンを一つ手にした。

メロンパンであった。

他のメロンパンとは存在感が明らかに違うそれは、より深い緑色をしており、白い粉が振りかけられたゴージャスな仕様となっている。

ぼくはそれが気に入って、それを手にした所で、隣でお菓子を見ていたフェイトちゃんが、妙な顔で言った。

 

「ねぇ、それカビてない?」

「え? これってメロン度が高いから濃い緑色なんじゃあないの?」

「え? メロンの中身ってそんなに濃い緑色だっけ?」

「あー、でも濃縮還元で100%を超えたという可能性が」

「あ、そうか、じゃあメロン度が高いからなのかな? でもこれだけ白い粉がついているのは?」

 

 と話していた所、慌てた様子で黒い長髪に黒目の店員さんがこちらへ走ってきた。

何やらメロンパンを見せて欲しいと言うので見せてあげると、顔色を青くして頭を下げてくる。

申し訳ありませんと謝ってくる店員さんに、フェイトちゃんと視線を交わし、口を開くぼく。

 

「え? これカビてるんですか?」

「はい、今後このような事が無いように……」

「いやその、入っているメロンが濃いとかそういうのじゃなくて?」

「いえ、こちらの菓子パンにはメロンは入っておりませんので……」

「え?」

「へ?」

 

 と、ぼくとフェイトちゃんが、メロンパンにメロンが入っていないという驚愕の事実を知った、その瞬間である。

ぱりぃぃん、と。

硝子の割れる音。

瞬間フェイトちゃんが恐るべき速度でぼくと音との間に体を割りこませ、黄金の光と共に透明なバリアジャケットを身に纏った。

が、ぼくはもとよりフェイトちゃんにも衝撃は無い。

ぼくらが数瞬立ち尽くした後に音源に視線をやると、自動ドアが割れていた。

硝子片はコンビニの中に散らばっており、キラキラと陽光を身に受け輝いている。

その元々あったであろう場所からは、外の熱気がうねりながらコンビニの内部へと侵入してきていた。

それ以外の異常は一切ない。

パクパクと口を開け閉めしていた店員さんが、慌てて口を開く。

 

「お、お客様、お怪我はございませんか!?」

「はい、大丈夫です。Tも……」

「うん。大丈夫だけど……」

 

 と告げると、ほっとする店員さん。

けれどぼくは、視線を鋭くしたままに告げる。

 

「見て。自動ドアは内側に向けて割れている」

「うん、そうだけど?」

「で、何が投げ込まれたんだい?」

「石か何かじゃ……」

 

 と告げ、フェイトちゃんが口ごもる。

そう、何も無かった。

外から投げ込まれた物は、何も無かったのだ。

これが魔法なら何もないのは分かるが、今度は自動ドア以外の何物も傷ついていないという現状が不可解になる。

魔力弾なら床かフェイトちゃんに命中している筈で、それも誘導弾ならクリアできるが、そもそも魔力弾は魔力光に包まれており不可視にはできない。

故にコンビニには何も投げ込まれていない。

けれどコンビニの自動ドアは割れた。

不可解、不可解の極みである。

けれど、そこにぼくは直感した。

 

「……これは、事件だ」

「うん、確かに」

 

 と、フェイトちゃんの言葉があったので、ぼくは頷き続ける。

 

「名付けるなら、自動ドア殺人事件だよ」

「え?」

「あの、お客様?」

 

 首を傾げるフェイトちゃんにコンビニ店員。

フェイトちゃんは兎も角、店員は二十歳過ぎに見え、可愛い仕草がちょっと似合わない感じであった。

それはともかく、指差すぼく。

 

「見てくれ、この自動ドアの破片。なんだか、量が少ないと思わないかい?」

「あ、言われてみれば……」

「確かに……」

 

 と2人が言う通り、破片の量が明らかに少なかった。

と言うよりも。

 

「この破片、奇妙なことに、凄い綺麗な割れ口をしている硝子があるだろう? その切り口を繋いだらどうなる? いや、もっと言えば、自動ドアのタッチパネル部分が、どうなっている?」

「……これは」

 

 と、目を丸くしてフェイトちゃん。

頷き、ぼくは告げる。

 

「そう、この場から自動ドアの破片が消え去っている。くるっと丸く、正円形にね」

 

 事実であった。

正円形にくり抜かれた硝子がその後割れたように見えるけれど、ぼくらが入ってくる時にはコンビニの店内に熱気は欠片も無かったのだ。

つまり、ぼくらが店内に入ってから硝子が割れるまでに、自動ドアの硝子は正円形にくり抜かれた事になる。

そして。

 

「見れば分かると思うけれど、正円形にくり抜かれた部分は自動ドアを開ける時にタッチする、あのパネル部分を含んでいる。自動ドアを自動ドアたらしめている、心臓部分。それを無くしてしまえばただの硝子になってしまう、自動ドアのアイデンティティ」

「自動ドアの、命」

「そう。だから改めて言うけど、この事件に名付けるのだとすれば――」

 

 一拍。

ぼくは先程と同じように、鋭く声で告げる。

 

「自動ドア殺人事件だ」

 

 かくして夏のある一日、ぼくとフェイトちゃんはこの奇妙な事件に巻き込まれていく事になるのであった。

 

 

 

 

 


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