夢幻転生   作:アルパカ度数38%

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一週間ほど失踪していました。
というのは、朝執筆を試してみた為です。
睡眠時間をやや削り、早寝早起きにして書いてみた結果、何故か睡眠時間が増えるという謎現象が起きたのでした。


その41:ジギタリス

 

 

 

「ただいま〜、ティアっ」

「おかえりなさい」

 

 スバルが勢いよく自室に現れると、気のない返事が返ってきた。

視線をやると、ティアナはどうやらクロスミラージュの分解清掃を行っているらしい。

邪魔しないように、と気をつけつつスバルは両手で持つトレイを自分の机へと持って行く。

カチャカチャと、トレイとその上の皿が触れあう音。

ティアナが一瞬視線をトレイにやり、それから呟いた。

 

「今日の夜食はサンドイッチ?」

「うんっ! ティアも……」

 

 と言ってから、スバルは躊躇する。

躊躇してから、自分が何故躊躇したのだろうかと疑問詞が脳裏に踊った。

理由を探して視線を右往左往させるが、何を見ても何も思いつかず、スバルは直立する事しかできない。

代わりに、スバルは胸の中がいっぱいになるのを感じた。

何かが喉まで上ってきて、その何かをはき出したくなる。

スバルは頭を振り、代わりにどうにか口を開き、言った。

 

「た、食べる?」

「いいわよ、別に。っていうか、そんな顔してまで私を誘わなくても大丈夫だってば」

 

 あきれ気味のティアナにそう言われて、スバルはほっと胸をなで下ろした。

それにしても、どんな顔をしていたのだろう、と鏡を覗き込むも、いつもの顔のままである。

仕方なしに片付けてあるテーブルの上にトレイを置き、コップと水もトレイの上に。

ナカジマ家のしきたりとして、両手を合わせて小さな声で、いただきます。

それからスバルはサンドイッチを食べはじめた。

 

 スバル・ナカジマは戦闘機人である。

生まれる前から機械で体を置換する事を想定されて設計された、半人造の人間である。

故に燃費が著しく悪く、大食いな傾向にある。

なので夜の軽い自主トレーニングのあと、軽食をとるのが望ましい体だ。

だが、スバルが夜食をとる頃には食堂の営業時間は終わってしまっている。

故に。

 

「えへへ、やっぱりTさんの料理、美味しいなぁ」

「確か、Tさんに特別に作って貰っているのよね」

「うんっ!」

 

 満面の笑みで頷き、スバルは瞳に過去を映した。

機動六課の食堂におけるコック長であるTは、凄まじい腕前の料理人である。

スバルが今まで食べた料理の中でも一番美味しい料理を作り、なおかつ料金は控えめ設定という恐るべし人間なのだ。

至極当然の展開として、すぐにスバルはTのファンになってしまった。

特にはやての許可を得て、Tから夜食を作ってもらえるようになってからは、尚更である。

スバル専用に作られた夜食はスバルの好みに合うよう作られており、普段の食堂の料理よりも更に美味しい事が多い。

 

「えへへ……」

 

 思わずにやけつつ、スバルは次々にサンドイッチを平らげていく。

半分ほどにさしかかった所で、スバルは不意に視線を感じ、面を上げた。

一瞬ティアナと視線が合うも、自然さを装って視線を避けられる。

 

「…………」

「…………」

 

 無言。

再びスバルは視線をサンドイッチにやり、口元へと持って行く。

大きく口を開けたところで停止、視線をティアナに。

慌てて視線を逸らすティアナ。

 

「…………」

「…………もしかして、Tさんが恋しいの?」

「違うわよっ!」

 

 叫ぶティアナに必死さを感じ、スバルはパートナーの可愛らしさに口元を緩める。

素直になれないティアナは、見ているだけでいじらしくて素敵だ。

それが自分よりもだと言うのに、劣等感すら沸いてこないから不思議な物である。

くすくすと笑いながら、スバル。

 

「くす、会いに行けばTさんもきっちり時間作ってくれるよ」

「……だからよ」

「だから?」

 

 呟くティアナに、スバルは首をかしげた。

決してスバルと視線を合わせようとしないティアナは、視線をクロスミラージュにやったまま、頬を赤くし小さな声で言う。

 

「Tさんが立派にコックをやっているのに、私はまだ六課に来て大した戦果あげれていない。なのにわざわざ時間をとって貰うのが、嫌なのよ」

「初戦果はあげたけど」

「まぁ……そうだけどさ」

 

 俯くティアナに、わからないでもない、とスバルは思う。

ティアナは初戦果の多くを、新型デバイスのクロスミラージュの性能におんぶにだっこだったと思っている節がある。

スバルとてマッハキャリバーが無ければ、初任務を成功できたかは怪しい所だと思っているぐらいだ。

そんな中途半端な成功しかあげていない状態で、ティアナはTと出会うのが嫌なのだろう。

何せティアナは……。

 

「そっか。Tさんはティアの恩人なんだもんね」

「……うん」

 

 呟くティアナ。

彼女は唯一の肉親の兄を、数年前に亡くした。

ティアナの兄は犯罪者との戦いに敗れて命を落とし、葬式では上官がその兄を無能と罵ったと言う。

ティアナは悔しさのあまり泣きながらその場から逃げ出し、そこでTと出会ったのだとか。

 

「Tさんはランスターの力を証明しようとする私を、諭そうとはしなかった。ただ、時々料理を作ってくれて、他愛ない……ちょっと変な話をしてくれるだけだった」

 

 言いつつ、ティアナの視線は窓の外へ。

星々の輝く夜空へと視線をやっている。

つられてスバルも視線を空にやり、ふと、なんだかTの目に似た光景だと思った。

夜空に浮かぶ星々のように、Tの瞳には生命の息吹を感じる何かが蠢いているかのようなのだ。

 

「でも、たったそれだけが、やたら嬉しくてね。兄さんの友達は全員管理局に入ろうとした私を引き留めたから、余計になのかな」

 

 呟くティアナは、スバルには見せないとても柔らかな笑みを浮かべている。

それを眺めていると、スバルはなんだかもやもやとした物が胸の中に生まれるのを感じた。

恐らく、パートナーであるティアナにこんな表情をさせるTに嫉妬しているのだろう。

スバルがそう結論づけたころ、ティアナはふと漏らした。

 

「そういえばスバル、あんたTさんの事、最初は苦手そうだったじゃない。あれって何でだったのかしら」

「へ? いやぁ、あれはその……」

 

 言われ、スバルは思わず身を小さくした。

スバルのTとの初対面は、陸士訓練校でティアナに差し入れに来たTとの鉢合わせである。

その時スバルはTに何とも得体の知れぬ恐怖を抱き、あわや不審者として通報しようとしたのであった。

恥ずかしさのあまり顔を赤く染めるスバルに、しかしティアナは何処か余裕なさげにスバルに視線をやるのみだ。

てっきりそこを追求されるかと思っていたスバルは、困惑しつつも口を開く。

 

「なんていうのかな、とても、とても怖かったのは覚えている。後で聞いたら、ギン姉も似たような感じを受けたって言ってたけど……」

 

 言いつつ、スバルは視線を己の機械仕掛けの拳へ。

あくまでもスバルの感覚によればだが、あの時Tに恐怖を感じ震えたのは、スバルの人間の部分よりも機械の部分の方が多かったかもしれない。

姉であるギンガも恐怖を覚えたという事から、その疑念は更に深まっている。

 

「でもね」

 

 ぎゅ、と拳を握りしめ、スバルは面を上げた。

ティアナに視線を、何故か小さく目を見開く彼女を見据え、言う。

 

「Tさん、なんていうか、とっても人のことを見通す力がある人じゃない」

 

 印象的なエピソードは、スバルが初めてTに夜食を作って貰った時の事だ。

スバルは、実は多少の好き嫌いのある人間である。

嫌いな食べ物も食べられるが、それでも内心顔をしかめながらの食事であり、あまり心地良い時間を過ごせる物ではない。

なのでスバルは、できる限り嫌いだと感じた食べ物は避けて食事をとる傾向にあった。

 

 そんなスバルに、Tはスバルの嫌いな羊肉を使った料理を出した。

当然、スバルは顔を引きつらせる事になる。

自身の体質を知るはやて課長の伝で用意してもらった夜食である、食べぬ選択肢はない。

よってスバルは、意を決してパクリと、ジンギスカンなる焼いた羊肉の薄切りを口にしたのだが。

 

「あれは美味しかったなぁ……」

 

 見事に臭みやクセを抑えられた羊肉はスバルの味覚にマッチしており、スバルは夢中になって夜食を平らげてしまった。

後にTの語る所によると、スバルが羊肉が苦手だったのは、偶々最初にクセの強すぎる羊肉を食べてしまった為、そのイメージを引きずっていたためなのだと言う。

事実、スバルはそれから羊肉に然程抵抗がなくなり余所で食べてみた所、普通に食べられるようになっていたのだ。

それを最初の数日スバルが食堂に通って注文するメニューから推測してしまったのだから、とんでもないコックである。

 

「それに好物だってすぐに見抜かれちゃうし」

 

 夜食に小さな手作りのアイスを付けられた時には、スバルは思わず感涙しかねないぐらいであった。

そうやってTの事を次々に喋っているうちに、スバルはふと思う。

スバルは自分を内気な人間だと思っていた。

自分の核心を中々人に話せない環境からか、スバルの幼女時代は内気を通り越して暗い性格であった。

恐がりで運動嫌いで消極的。

スバルはそんな性格を、なのはへの憧れでいくらか払拭できたと思っているが、それでも未だに残る部分はあると自覚している。

もし自分が明るい人間に見えるのだとすれば、その自覚がある故に克服しようと努力して明るくなろうと努めているからだ、と。

そんなスバルだから、もし口に出さずに自分を理解してもらえる事があると、嬉しくてたまらなくなってしまうのだ。

幼い頃の自分を認めてもらえたような気がして。

自分ですら肯定しきれていない自分を、肯定してもらえたような気がして。

 

「Tさん……」

 

 故に、スバルはぽつりとTの名を零した。

その声がどんな声だったのか、その自覚すら無く。

それを聞いたティアナがどんな目をしたのか、それを知る事すら無く。

えへへ、とスバルは笑みを浮かべ、残るサンドイッチを口に運び始めた。

 

 

 

 

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