「次元覇王流……流星螺旋拳っ!!」
少年の叫びと共に、ビルドバーニングガンダムの右手首が激しく回転する。その拳はやがて炎を纏い、さながら流星のように炎の尾をひいて敵を打ち砕いた。
機体の放出する圧倒的なプラフスキー粒子によって、何もかもが真っ赤に染まる中、ビルドバーニングガンダムは勝ちどきを告げるように拳を天に振りかざし、雄々しく佇む。
それはまさに、英雄の姿だった。
そこで、映像が止まる。
「えっ」
慌ててリモコンを手にとる。何度かボタンを押しても、その続きは流れず……やがて、終了報告と共に画面は録画番組選択画面に戻ってしまった。
「あっちゃあ。途中で録画が切れてたのか」
なんたる失敗。そういえば、放送時間が少しずれていたのだった。
まあ、いい。今の世の中、ネットでドラマをみる事だって十分できる。幸いにして、ドラマ『ガンダムビルドファイターズトライ』は公式で放映日の夜八時からネット放映している。昨日放映した作品だから、もうネットで視聴できるはずだ。
とはいえ、それを見ている余裕はない。これから、就職支援センターにいかないといけないのだ。
「さって、出かける用意をしないとね」
椅子にかけてあったジャンパーを手に取る。中に財布が入っているのを確認する時、ある思いつきが頭をよぎった。
「……自分だけのガンプラ、ね」
視線の先には、電源をきったテレビの真っ黒な画面だけがあった。
プラフスキー粒子。
それは、プラスチックに反応する特殊な粒子である。そして世間では、これを用いたガンプラバトルと呼ばれる遊びが一大ムーブメントを起こしていた。
データではなく、実際に作った己のガンプラを戦わせるこの遊びは、老若男女を問わず人々を魅了し、熱狂の渦に巻き込んだ。
そして、それをモチーフにした実写ドラマ「ガンダムビルドファイターズトライ」もまた、大きな指示を得ていた。全作、「ガンダムビルドファイターズ」と世界観を同じくしながら、3対3のチームバトルや、合体、SDなど新しい要素を全面に押し出したその作品は、全作と比較されながらも多くの新たな客層を取り入れる事に成功していた。
そしてここにも、そんな取り込まれた男が一人。
五十嵐大輔。20代後半のフリーター。
そんな彼もまた、ガンプラバトルに魅了された一人だった。
だが、彼はいままで素組みでしかガンプラを作った経験がなく、またその作ったガンプラも実家に戻った際に荷物として処分してしまった。ガンプラバトルの経験もない。
故に、まず彼が始めるのは己の使うガンプラの選定と、組立及び改造用のパーツ収集だった。さらにいえば、改造用の工具も必要だ。
「うーーん……ヴァサーゴはないのか……。シェンロンもない、か」
困ったような顔で、棚を見て回る。
彼が探しているのは、当然お好みのキット。怪獣然とした機体に愛着を抱く彼は、ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクや、アルトロンガンダムといった伸縮自在のストライククローを装備した機体が特にお気に入りだった。当然、目当てはその機体だったのだが、しかしながらどちらも十年以上前に発売された旧キット。さすがに再販はされているものの、そうそう手に入るものではなかった。
ちなみにロボット魂のガンファムヴァサーゴ・チェストブレイクならおいてあった。あれは実にいいものである。しばしば箱呼ばわりされる胸の立体的造形が特にすばらしい。ストライクシューターまでついているあたり、こだわりを感じる。が、あれはガンプラバトルでは使えないので残念ながら却下。
ならばと妥協してのシェンロンガンダム、ヴァサーゴ、果てはガンダムベルフェゴールにドラゴンガンダムと探して回るが、しかし目当てのキットは見あたらなかった。
がっかりと肩を落とす。
「ううむ。プラ用のノコギリとかカッターとかはかったし、プラ板も買ったんだけどなあ。元になるキットなしに作れる訳ないし、ド素人で」
困りながら、商品を見渡す。
と、ふと目をひくものがあった。
新商品の棚に並ぶ、目新しいパッケージ。
数時間前、TVで見ていた機体だ。
「ビルドバーニングガンダム……ビルド、かぁ」
ふむ、と機体の解説面をしげしげと観察する。格闘機だけあって、広い可動範囲を誇っているのが見て取れた。
ふいに思い当たって、すでに購入済みのパーツ類を漁ってみる。その中に、一般のガンプラの半分程度の大きさの箱が入っている。
ビルダーズパーツと呼ばれる、いうなれば支援メカの単体キットだ。今回購入したそれは、ガンプラバトルアームアームズという、複数のアームと武器がセットになったものだ。特徴は、発想次第で無限に拡張性を広げる、大中小三つのジョイントアームである。
「……!」
ぴこーん、と大輔の頭の中で電球が煌めいた。
「腕が延びないなら、延びるようにすればいいじゃないか」
カリカリカリ、とPカッターで0.5mmのプラ板を削っていく。模型雑誌を読みあさって得たかりそめの知識だが、しかしそれはそれで使えないこともなかった。
彼が作っているのは、ガンプラの肩パーツだ。昔に熱をあげていた紙工作の要領で、プラ板を切り取り、重ねて、組み合わせていく。
あえて、形状は凝らない。自分の力量以上のものを求めても、中途半端に終わってしまうと彼は経験から学んだ。単純なコの字のパーツに、細くきったプラ板を貼り合わせて盛り上がりを作り、市販のパーツを表面に張り付けてディティールを作る。内部にサポーターつきの3mmランナーをはりつけて軸とし、外にビルドバーニングの肩から切り出してきた球状ジョイントを接着剤でくっつける。
それらの作業が終わったら、乾燥をまっている間にアームアームズのパーツをもってきて組み合わせ始める。
大のアームはさすがに大きすぎた。中と小を、可動ジョイントを組み合わせて折り畳み、その先にビルドバーニングの腕を差し込んでみる。ちょっと軸があまって不格好だった。
「……切り落とす? あ、いやいや」
思いついて、ジョイントパーツの一つをもってきて試してみる。本来、凹凸の組み合わせで可動ジョイントを作るパーツだが、凹側は使い方次第で直角に3mm棒を連結することができる。それを利用して、中型アームの先に、90度の角度をつけてビルドバーニングの腕を取り付けることができた。関節部分がむき出しでやや不格好だが、しかしこれはこれで悪くない。
のばしてみる。構造上、アームと腕のつなぎ目が不自然だ。だが、たたんでみた時に、これなら腕そのものは自由に動かせる。昔組んだヴァサーゴのキットは、延長アームと腕とのつなぎ目が壱軸しかなかった為に、腕をあげようとすると肩ごと動かさなければならなかった。これなら、多少不格好でも肩を動かさずに腕を自由に動かせる。
しかし、見た目がよろしくない。これでいいのだろうかと思った時、ドラマの戦闘シーンが思い出された。
ドラマで戦っていた機体は皆、リアル系統の作品であるガンダム本編に準じたものばかりではなかった。SDはいうまでもなく、リアルタイプでも不思議動力でパーツが一人で分離し、自動的に組み上がったりするシーンもあった。それは手抜きなのではなく、「そういうのもアリ」というガンプラの、ガンプラバトルの度量の広さゆえだ。
眼前のパーツに視線を戻す。
今の自分の実力で、これをどうにかできるか? 答えは否だ。そして、この形状は、理想にほど遠いか? その答えも、否だ。
なら、これで組んでみるのもありだろう。その上で、気に入らなかったらまた取り組んでみよう。
何事も最初が肝心だが、こだわりすぎて完成できなかったのでは意味がない。
大輔はなっとくして、パーツの組立作業に戻った。
翌日。パーツの乾燥を確認して、彼は機体の仮組を行った。
サーフェイサーすら吹いていない、素の状態のガンプラ。本来ならこの上からサーフェイサーを吹くのだろうが、そのあたり彼は詳しい作法をしらない。とりあえずパーツをバラバラに分解して、その上で塗装をするつもりだった。
第一印象としては、やっぱり肩が大きすぎる。シェンロンガンダムをイメージして右肩だけ延びるようにしたが、ちょっとアンバランスだ。バランスをとるために左手につけた大型シールドも、そのアンバランスさを加速させているように見える。
「……ふむ」
一端バラして、腕をのばしてみる。アームの連結によって、かのガンダムヴァサーゴよりも遙かに長いアームの先に、ビルドバーニングの腕がついている。
少々不格好だが、まあ元々伸びる腕そのものがヒロイックなかっこうよさをもっているわけではない。これはこれで、まあありだ。
いや、逆に考えよう。延長アームをのばしきった上で、接続部の自由をいかして腕を自由に動かせるのなら、それはほかにない個性になるかもしれない。
その腕の先に、シールドを取り付け、さらに炎のエフェクトを牙のようにとりつけてみる。
これは。
「悪くない。ふむ」
ガンプラバトルで、これをどう設定するか。
確か、ビルドバーニングは劇中、敵をぶん殴っているが、本来はプラフスキー粒子放出量に長けた万能機だったはずである。それは、キットにも反映されており実戦でも高い出力を発揮する、はずだ。
その出力の現れが、背中の炎エフェクトだが、これを腕につけた場合はどう見るべきだろう。
「……内蔵した超高圧のプラフスキー粒子を、炎の牙の形で放出。その熱量で、敵を捕縛した上で溶解させる。……これだ」
我ながら、なかなか悪くない発想のように思える。
大輔はうきうきしながら、塗装の続きを行うべく準備を始める。
そんな主人を、支えがなくなってぐったりとしたアームにひきずられる改造途中のビルドバーニングが見送っていた。