それから、三日後。
「ふむ。なんとか形にはなったかな?」
テーブルの上を見やる。
そこには、新造された右肩アーマーを装備したビルドバーニングガンダムの姿がある。
肩幅1.8mm、横幅3mmのその肩アーマーは、正面から見ると長方形を斜めに切り書いた台形に見える。メタなことをいうと、ガンダムヴァサーゴの肩アーマーから肉抜きを埋めて可能な限りデザインを平坦にしたというべきか。
ぶっちゃけ、デザイン的にも機能的にも見るところはない。ただの箱組である。バランスも散々である。基本的にシンプルなビルドバーニングに巨大な肩アーマー、さらにそこに仕込まれた折りたたみアームは明らかにミスマッチだ。
だが、五十嵐大輔にとっては人生初の箱組だった。
贔屓目というべきか、彼の目にはそんなに悪くは写っていない。それを悪いというべきではないだろう。誰だって、最初は自惚れとあこがれから始まるのだ。
「うん。塗装は肩とか最低限だし、正直ぶっちゃけアレだと思うけどうん。これが自分だけの、ガンプラかぁ……」
棚において、しげしげと眺める。
とはいえ、これからが本番である。
大輔は、GPベースにうちこんだプログラムが間違っていないかどうかを確認して、壊れないよう分解してビルドバーニングをケースに納めた。
模型店、店頭。
そこでは、今日も元気にガンプラバトルが行われていた。
プレイ料金は無料。破格に思えるが、バトルによってガンプラが傷つき補修用に客がキットを買っていくし、バトルをみて興味をもった子供がガンプラを買っていく事もあれば、負けたプレイヤーが強化のためにプラモデルを買っていく事もある。
結果、ガンプラバトルが起爆剤となりガンプラ業界は盛んに破壊と再生のサイクルを繰り返し大もうけしているのである。そしてもうけたからこそ、メーカーは今までにないほど機体のキット化に忙しい。先日探したガンダムベルフェゴールなんて、こうでもなければ立体化しなかっただろう。
ここもその輪廻からはずれておらず、ガンプラバトルコーナーの横には店員チョイスの強化パーツや補修用のプラ板がこれでもかと積み上げられ、みてる合間にも次々と減っていく様子が見て取れた。そして買った客は奥の改造コーナーにそれを持ち込み、黙々と作業している。
それを片目に、大輔は店に踏み込んだ。ちょうどレジで作業していた馴染みの店員に声をかける。
「こんにちわ」
「あ、大輔さんチーッス。今日はジャイオーンとジャスティマが発売してるっすよ。いや、こっちじゃGレコ放送してないんでどんな活躍したのか知らないですけど、ジャイオーン格好いいっすね。特にこのでっかい手! ジャスティマはなんかパットしないですけどね、ははっ」
「その腕登場した話で全部へし折られたけど」
「?!」
「あとジャスティマは無双してたね。Gセルフのシールドぶったぎってた」
「?!?!」
Orzとなる店員。よっぽどジャイオーンが気に入ってたらしい。
Gレコの傾向ってそんなもんだろうに、と哀れみの視線を向ける大輔。そのあたりのながれ、Gアルケインの時に予想できたはずである。そういえば、Gアルケインは変形機能を監督が忘れてたらしいが、最終回までに変形できるのだろうか。
たぶん無理である。
「あ、それとこないだ話してた腕延びるビルドバーニング、とりあえずできたよ」
「マジっすか!?」
ガバ、と食いついてくる店員さん。その勢いにちょっと後ずさりしながらも、大輔はガンプラをケースから取り出した。
「ほい」
「おーおーおー。よくできてるんじゃないですか? 最初、延長アームで手を延ばすって聞いて何の事かと思いましたが、こういう事ですかー」
「で、組み替えるとこうなる」
「ほうほうほう」
ファイヤードラゴンハング状態のガンプラを手にもっていじる店員。さすがにわかっているっぽく、手袋をはめて塗装面を傷つけないようにしている。
「……ふむ。まだトップコートは吹いてないんですね。あと新造パーツ以外、まだ塗装してない?」
「ああ、まあね。実はまだなんか手を加えようかと思って……」
「ふむ……。とりあえず、ちょっとガンプラバトルして様子をみてみようと?」
「まあ、そんな感じ」
大輔の答えをきいて、何やら考え込む店員。ちらりと彼がバトルベースに目をむけたのにつれられて、大輔もそちらに目を向ける。
ちょうどそこでは一対一のシングルバトルが行われていた。
片方は、中学生ぐらいの男子で、操っている機体はおそらくアメイジングレッドウォーリアー。つい最近発売された新型のキットだ。装甲表面の光沢からして、おそらく素組だ。
対して戦っているのは、人目で分かる改造機だった。シャイニングガンダムの胴体と脚部に、ビルドバーニングの頭と腕。さらに腕にはシャイニングの手甲部分が移植されている。カラーリングも変更されており、素組とは明らかに完成度が違う。
どちらも高機動型に分類されるガンプラだ。レッドウォーリアーは後退しつつ、バズーカとライフル、ミサイルで猛烈な段幕を形成する。素組でも、元々のキットの完成度が高い故にその弾幕は分厚い。
その中を、ビルドシャイニングとでも呼ぶべき機体がまっすぐつっこんでいく。飛び交う弾幕をものともしていない。むろん、装甲で無力化している訳ではない。攻撃を無力化しているのは、前方に突き出されたビルドシャイニングの右手、そこから展開している光の膜だ。
おそらくは、シャイニングフィンガーの原理……特殊な溶解金属(ガンプラバトルにおいては当然プラフスキー粒子で代用しているが)を敵に噴出し破壊する仕組みを逆用して、噴水のようにそれを展開、バリアにして防御しているのだろう。こういう独自の使い方は、改造機体独特のものだ。
そして、レッドウォーリアーにおいついたビルドシャイニングが、温存していた左手を振りかぶる。そこから繰り出されたシャイニングフィンガーが、レッドウォーリアーを正面から捕らえ、粉砕した。
その一撃が決め手となり、バトルは終了した。バトルフィールドのホログラフィックが解除され、後には勝利のポーズでたたずむビルドシャイニングと、手足の間接がはずされ無惨な状態で転がるレッドウォーリアーの姿があった。
中学生の子供がちくしょー、と負け惜しみを叫んで愛機をひっつかみ走り去っていく。それを、対戦相手であった大学生ぐらいの青年は悠々と見送ると、バトルフィールドに取り残されていた部品の欠片に気がついて大慌てでその後おって走っていった。
「……あの人が何か?」
「いや、あの人インフィニティさんっていってうちの常連なんだけどね。どう、対戦してみない?」
「無理無理無理無理」
ぱたぱたと手をふって拒絶する大輔。いくらなんでも、ど素人のなんちゃって改造機体で、あんなガチ機と戦うなんて勘弁である。
「そう? でもインフィニティさんの機体、基本的にはミキシングビルドだし、あくまで。スクラッチしたお客さんの機体も、決してほど遠い訳ではないと思いますよ」
「ううーん……」
「あとインフィニティさん曰く、腕延ばすなんて無意味、サブアームでいいじゃんとかおっしゃってましたね、ちょっと話したら」
「その喧嘩買った」
サブアームでいいとは何事か。主腕が延びる事に意味があるのである。戦闘の中心であるメインアームが伸縮し、シルエットが変化するからこそのゲテモノ系なのである。
ジムカーディガンはゲテモノか? サンダーボルト仕様のフルアーマーガンダムはゲテモノか?
否。
つまりはそういう事である。
さすがにサブアームでいいなどという暴言は看過できない。
あとガンダムアシュタロンはサブアームが延びるが、あれはアームがあるからゲテモノなのではなくモノアイMAに変形するからゲテモノなのである。種の三馬鹿だって、同じようにモノアイMA形態だったり口からビームが色物なのであって、サブアームでゲテモノ認定されている訳ではない。そもそも、レイダーにサブアームがあって、あれがビームサーベルになったりそもそもつかんだ状態での使用を前提としているネタ武器である事をしっている人がどれほどいるのだろうか疑問である。
カラミティは? あれはふつうに格好いいので、ゲテモノではなく悪役である。
サイコザク? あれは設計思想がRーTYPEだからである。
腕が延びる。それは一種の美学。
それだけは五十嵐大輔には譲れない一線なのであった。
そうして、端から見るとどうでもよさそうな理由で、五十嵐大輔は人生初のガンプラバトルに挑む事になったのだった。