早い処背負いものを作ってあげたいと思います。
ガンプラバトルは、当然ながら作品の完成度で機体の性能が大きく変化する。
悪い例をあげれば、パーツの噛み合わせが悪かったり接着していないとバトル中に分解する事もあり得るし、銃口を開口していないとちゃんとビームが飛ばなかったりとかもある。最悪、変形に動作不良で失敗……なんていうトラブルにもみまわれたりする。ちなみに蛇足だが、差し替え変形の場合バトル中の変形は立体ホログラフを被せる形になるのだが、それでもやっぱり強度不足だと分解する。
トランザムやスーパーモードも、作り込みが甘ければ設定通りの出力を得られないのは言うまでもない。
だが逆に言えば、ちゃんと作り込めばスペック以上の性能を引き出す事だって、無理ではないのだ。丁寧に塗装しトップコートを吹いた装甲はビームコーティングとして機能するし、ポリキャップむき出しの間接にカバーを作ってやればマグネットコーティングとして機能する。武器も、エッジを磨いてやったりセンサー類をディティールアップすれば性能が向上するのだ。
その意味では、やはりまだまだコアバーニングガンダムは未熟な機体だ。最低限の装甲処理は行ったが、稼働部には手を出せていないし、完成度を高める以上の作り込みはほとんどしていない。
実質、素組に塗装だ。新造パーツの肩アーマーも、どうにも処理の甘さが目立つ。プラ板の重ねで厚みを出したが、どうも僅かに隙間があったのを見落としていたらしい。プラモデル用の塗料は皮膜が厚くなりにくいようにできているが、それは逆に不備があればカバーできないという事だ。そこをどうにかするためのサーフェイサーなのだが、どうもイマイチ量が足りなかったらしい。
だが、だからといって、機体が全く性能を発揮できないかというと、そんな事はない。
もう一つ。ガンプラバトルで性能を発揮するために、大事なものがある。
それは、思い入れだ。作品に対する愛だ。プラフスキー粒子は、不思議なことに、プラスチックの固まりからその精度以上のものを読みとる。
たとえ不格好で、たとえ不完全でも。作り手の情熱と信念を、あの不思議な粒子は形にしてくれる。
だからこそ、ガンプラバトルは老若男女を魅了し、彼らを熱狂させてやまないのだ。
完成したと思ったらパーツを忘れていたのに気がついてから、数日後。なんやかんやでほかの用事もあって、効率悪く時間をつぶした五十嵐は、馴染みの店に完成した機体を持ち込んでいた。
鞄の中には、衝撃で壊れないようバラして別々にティッシュでくるんだコアバーニングの姿。脚部のスラスターを市販パーツを増設して大出力化(ただしバランスは狂った)し、専用武装として市販のカスタムパーツから大型ビームサーベルを調達している。つま先は結局なにをどうやっても分解できなかったので部分塗装である。
が、実戦で動かさないとどうにもいえない。約束していた店員に断って店先でパーツを組み直すと、ツヤ消しトップコートでコーティングされた機体が鈍い輝きを放っている。少なくとも、素組よりは明らかに強そうである。素組よりは。
「……ん?」
ふと店先のショーケースに目をやると、見慣れない作例があった。のぞき込んでみると、それはどうやら新作の改造ガンプラらしい。
ベースは、おそらく試作一号機フルバーニアン。だが、腰まわりがZに差し替えられており、試作三号機のフレキシブルスラスターもついている。またそれとのかねあいか、ランドセルのスラスターは上向きについていた。空間戦闘に特化したモデル、ということか。可変機とはある意味真反対のコンセプトである。
それよりも、五十嵐には気になることがあった。このガンプラの塗装の質感。どことなく、にている。
あの、ビルドシャイニングガンダムに。
厨二乙というなかれ。エアスプレーではなく筆塗りをする以上、多少の筆ムラは避けられない。そして、手作業である以上、そこには個性が現れるのだ。
そして事実、五十嵐の直感は正しかった。
ショーウィンドウをガン見していた五十嵐に、店員が声をかける。
「ああ、気がつきましたか。それ、インフィニティーさんの新作ですよ」
「やっぱり。どことなくにてると思った……あれ? 前の機体は?」
「回収するとかなんとかいってましたね。昨日だったかな……」
「そうですか」
となると、インフィニティーさんは今日はあらわれまい。改造する機体がある状態で、連日顔を出すほど暇ではないはず。
雪辱戦は、またの機会にお預けということだ。まあ、戦っても勝てるとは限らないが。
バトルスペースを見やると、それなりに人がいる。練習には、もってこいだろう。
「じゃあ、ちょっとバトルしてきます」
「あいあいさー」
対戦相手は、通りすがりの学生らしかった。使用ガンプラは、つい先日発売になったばかりのジャイオーン。おそらく素組だが、スミ入れとトップコートはすませてあるようだった。
相手としては不足はない。
機体を固定し、GPベースを固定する。一瞬、コアバーニングガンダムの間接が薄紫色に発光し、射出体制をとる。
「? 今の……あー。色合いがあれだし間接が延びるから、ゲテモノガンダムとしてシステムに認識されたか……」
紫色に光るなんて、完全に悪役のエフェクトである。機体のカラーリングそのものはニューガンダムを参考にしたから、やはり原因は腕だろう。
とはいえ、それは望むところだ。というか、ゲテモノガンダム作りたくて手を出したのだ。
「本望であーる!」
バトルフィールドが展開されていく。今回のフィールドは……ちょっと珍しいものだ。
真っ白な四角形のステージに、四隅にそそりたつ柱とそれをつなぐビームワイヤー。ステージの外側には、無数の観客がポリゴンで描写されている。
「……プロレスリング? ……ああ、もしかして、Gガン? 香港か?」
爆破か、磁石か、そのどれでもないのかはわからないが、ステージは五十嵐に味方したといえる。空間戦闘用に調整され、重力下でも十分な飛行能力が確認されているジャイオーンに対して、コアバーニングガンダムは飛行能力で劣る。脚部にスラスターを増設したが、バーニアの可動範囲を見誤って飛行には使えない結果に終わっている。
故に、完全な陸戦である今回のステージは願ったりかなったりだ。あとは、まともに戦って、勝利するだけだ。
「コアバーニングガンダム、でる!」
カタパルトで射出されハッチが粒子に溶けて消えていくのを背後に確認しながらステージに降り立つ。反対側で、ジャイオーンが背中のビッグアームユニットを展開しながら、ゆっくりと着地しているのが見えた。
さすがの大ボリュームである。巨大なビッグアームユニットを翼のように広げ、重力に逆らって降り立つ姿は大ボスの貫禄たっぷりだ。
その頭部、十字を模したセンサーディスプレイの相貌が、ぎょろぎょろと威嚇するようにうごめいた。
「これ、端から見たらゲテモノガンダム大決戦なんだろうなあ」
観客としても興味あるね、と軽口をたたきながら、左手に大型ビームサーベルの柄をもったまま、右手に構えたビームライフルの狙いをつける。同じくして、ジャイオーンもまた、唯一の手持ち武器であるライフルをかめていた。
開始を告げる号砲が鳴り響く。
さすがに距離もあって、互いの射撃は不発に終わった。ジャイオーンは余裕たっぷりにビッグアームユニットを閉じて防御し、コアバーニングガンダムはかがんでビームを回避すると、そのまま背中の3mm穴から炎を噴射して全力疾走に入った。モビルスーツらしからぬランニングスタイルから、牽制にビームを乱射する。
無論、狙いもへったくれもないその射撃が、そうそう当たるものではない。だが、それでも確かに飛んでくるビームを警戒してか、ジャイオーンは防御姿勢をとったまま、コアビルドバーニングとの距離を調整している。
予想通りだ。ジャイオーンのビッグアームユニットの防御は、こちらのちゃちなビームライフルが通らない程度にが頑丈だ。だが、全身を握り込むようにビッグアームを変形させるあの形態は、同時に身動きがとれない。正面に装甲板を持ってくる配置上、ビームライフルをふつうに構えることができないのだ。
そうなると、相手のとれる行動は決まりきっている。ジャイオーンに元々それに対応できる装備があるなら、なおさらだ。
ふいに、ビッグアームユニットがシルエットを変える。親指にあたる部分を防御に回したまま、残る三本一対の指を翼のように広げた。
ジャイオーンの象徴である、ビッグアームユニットの指。そこからビームサーベルを展開するのが、かの機体の最大の特徴であるが、しかし設定上、もう一つの特徴がある。
それは。
「! やはりとばしてきたか!」
稼働部分を持つ、ビッグアームユニットの指。その先端が分離し、六つの遠隔攻撃端末として飛来してくる。これが、ジャイオーンの最大の武器。
「ソードファンネル! ガンプラそのものには再現されていなくても、使ってくるのか!」
予想外のように叫ぶが、しかしある程度予想はしていた。さすがに、ギミックが再現されていないと使えない、となると素組のガンダムスローネツヴァイとかアルケーガンダムは勿論、キュベレイなんか特にどうしろと、という話になる。
勿論、作り込んだ方が性能は遙かに上だというのは違いない。
こちらを取り囲むように展開する念導操作剣の群。おそらく、一息に四方から串刺しにしようというのだろう。確かに、それは悪くない手段だ。
相手がこの、コアバーニングガンダム……いや、ゲテモノガンダム系統でなければ。
ガキン、という音をたてて、間接のロックが解除される。大型の肩アーマーにすら収まりきらないではみ出していたフレキシブルアームが、しなりながら展開。本来の腕の接続部になっているL字ジョイントが回転して、角度を調整した。
モード変化に反応して、機体各所のクリアパーツが深紅に変色、さらに背中からは仁王のごとき炎の輪が噴出する。本来なら雄壮なはずのその炎は、しかし異形の腕によって大きく印象が違っていた。
一瞬の変形。長大な腕をしならせた悪魔のごときガンダムが、突如としてバトルフィールドに権限した。モードチェンジによって真っ赤に染まったアイカメラが、ファンネルを見据えて鈍く光る。
「はは。そうだ。こうじゃないと」
メインアームが延びるからこそのこの異形。そして、それは決して視覚的効果だけではない。それを今から見せてやる、と五十嵐はアームレイカーを押し込んだ。
うなりをあげて振り回された拳が、軌道上にあったファンネル三つをまとめて粉砕する。さらに、反対側の手がふつうは曲がってはいけない方向に柔軟にしなり、残る三つを粉砕した。
同じ伸縮機構を持つガンダムのうち、ガンダムヴァサーゴチェストブレイクのストライククローは装甲を排除した事により、オールレンジ攻撃にたとえられるほどの柔軟性を得ていたという。このコアビルドバーニングはあれほど柔軟な構造ではないが、アームの長さそのものが長く、さらに可動範囲はさらに大きい。画一的な動きしかしないファンネルを、まとめてなぎはらうなど朝飯前だ。せめて高度をそれぞれ変えるなどしていれば、結果は逆だったろうが。
「世代ギャップという奴か。この肩を見ても、思い当たらないと言うのは」
おそらく肩パーツの形状に疑問を持ちつつも、その回答がでなかったが為にあんな単調なファンネル攻撃をしてきたのであろう対戦者。その事に一抹の寂しさを覚えながらも、戦いに決着をつけるべくジャイオーンと向かい合う。
相手は切り札のソードファンネルをすべて失った。だが、戦意は衰えていないようで、残った親指部分からビームサーベルを展開したまま、ビームライフルを構えてつっこんでくる。
その息やよし、と五十嵐もアームを畳んで、左手に握ったままだったビームサーベルを構える。ジャイオーンの牽制射撃をかいくぐって、その懐へ。対するジャイオーンも、ライフルを投げ捨てるとビッグアームユニットのサーベルにすべてを託した。
両者が激突する、まさにその瞬間。
コアビルドバーニングが、腕を延ばした。だが、その延び方はさきっと違う。腕をまっすぐに延ばすのではなく、サーベルを構えたその体勢のまま、腕が延長アームで押し出されるように延びてきたのだ。それはまさに、L字ジョイントで腕が独自の稼働間接をもっているのを生かした動きといえよう。
まるで、プロボクサーが放つ精密なジャブのように、予兆を見せずに腕だけが大きくなったかのような一撃に、ジャイオーンの操縦者は反応が遅れた。
直後、不可思議かつ気味の悪い線を描いて、コアビルドバーニングのビームサーベルがジャイオーンを切り捨てた。頭部のディスプレイセンサーが消失し真っ黒な能面のようになる。だが無貌の機体は、口惜しげにこちらを睨みつけているような気がした。