家庭教師ヒットマンREBORN-another 作:金剛石Mk2
「そうだ。伝統・格式・規模・勢力すべてにおいて別格といわれるイタリアの最大手マフィアグループ、ボンゴレファミリーのボスであるボンゴレⅨ世からの依頼だ」
「はあ、頭おかしいんじゃねーか?」
土屋皆守は、目の前の赤ん坊ーーリボーンのあまりに突拍子も現実味もない言葉に心底呆れた表情を浮かべた。ご丁寧に頭を指さしながらである。
最も、二等身の赤ん坊にしか見えないリボーンが流暢に言葉を話したり蹴りを叩き込み気絶させたり、挙げ句の果てに軽く倍以上の体格の土屋皆守を軽々と投げ飛ばした段階でもはや現実は地平の彼方へと吹き飛ばされたも当然であるが。
「まあ、とりあえず一発いっとくか?」
「のわぁあ!?」
そんな様子に腹を立てたのか、リボーンは構えたライフル銃の銃口を土屋皆守へと向ける。ジェスチャーを交えて頭の心配をしていた土屋皆守も、思わずその銃口の先から情けない声を上げて飛び退いた。今までの経験によってリボーンの人柄ーー主に荒っぽい行動を起こすことへの躊躇の無さは文字通り叩き込まれてしまっているからだ。
そして、まるで飛び退いた先を知っていたかのように銃口を合わせたリボーンは指を引き金にかけ。
「でも、いまじゃない」
そのまま引かれることはなかった。そのまま、銃口が天井を向いた。
―――――――――ぐるるるる。
リボーンの体躯にそぐわない大きな腹の虫の音が響き、土屋皆守は思わずびくっと反応する。だがそれに対して反応することなく、リボーンはそのまま土屋皆守に背を向けた。
「って、ちょっ!おい!!」
ガチャリと扉を開いたリボーンの背に、急展開に振り回されていた土屋皆守が怒鳴りつけるように声をかけるが特に反応は返らず。
パタンと、扉が閉まる音だけが土屋皆守に返ってきた。
「なんなんだよ、一体全体……」
心の底から絞り出されたような、かすれるような呟きが土屋皆守の心境を如実に表していた。
「なんて奴なんだ、まあ……でも次はないだろ。さすがの母さんもあんな奴に家庭教師をさせはしないだろうし……」
そういって、脳裏をよぎる鋭い蹴りの痛みを頭を振るって追い出し立ち上がる。
そのまま部屋を出て、玄関へと向かう。
「とっ君、ご飯はー?」
「いらないよ。そうだ、今日外で食べるから金……」
問いかけてきた母親の声に、土屋皆守が返す言葉が途中で途切れたのは、というよりも足を滑らしてそのまま音を立ててすっころんでしまったのは、そこにあるはずのないものを見たからだった。
「そうそう、リボーン君なんだけどね。とっ君の成績があがるまで住み込むって契約なのよ」
「か、母さんそいつがなにしたか見てたよな……?」
あるはずのないものーーーモグモグモグと、テーブルに出された食事を頬張っているリボーンを指差しながら、土屋皆守は一縷の望みをかけて母親に問いかけた。
「とっ君、お母さん決めたの。とっ君のために今日からお母さんは谷に我が子を落とすライオンになることを!!」
「な、な、な、なんじゃそりゃー!?」
残念ながら、ものの見事に希望は谷の底へと放り出され粉微塵となってしまったが。
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すたすたと街中を歩く学生服の男子ーーー土屋皆守、その後ろをトテトテとかポテポテみたいな音がしそうなスーツを着込んだ二等身の赤ん坊ーーーリボーンが歩く。
「なんでお前はついてくんだよ!?赤ん坊なら赤ん坊らしく保育園にでも行ってろよ!!」
「殺し屋は保育園になんていかねーぞ。それに俺の仕事はお前をマフィアのボスにすることだからな」
「あー、はいはい。殺し屋ね殺し屋。あと俺をマフィアのボスにすることと、俺のあとについてくるのは関係ないだろ」
後ろについてくるリボーンに怒鳴りつける土屋皆守だったが、相変わらずのリボーンの言動にげんなりとしながらもやる気のないツッコミを入れる。
ワケの分からないことが立て続けに起こった土屋皆守は、そのことを忘れるためにこれからどう遊ぶかを足元にいるリボーンの存在を思い出さないようにしながら曲がり角を曲がり。
「!!」
すぐさま引っ込んだ。
「? どうかしたか?」
「しっ、黙ってろ」
突然曲がり角こら身を翻した姿に疑問を投げかけたリボーンに、口に人差し指を当て黙るように土屋皆守は指示をした。
「あれー、つっちーくんじゃん。チョーきぐう」
その指示も虚しく、曲がり角を覗き込んだのはだらしなく学生服を着崩し髪を金髪に染めたいかにもな格好の不良だった。
「あ、う、うんそうだな」
それに対して土屋皆守は声を震わせて返事をした。
「いやー、ちょうど良かったわー。今から遊ぶとこだったんだけどさ、金がねーんだわ。ちょっち貸してくんない?」
そして不良はそういうとニヤニヤしながら土屋皆守の肩に手を置きながらそう言った。
「しょ、しょうがねーなあ、ほら」
そういって土屋皆守はポケットから財布を取り出す。言葉のやり取りだけならかろうじて友人同士のようだが、端から見たその光景はまさにカツアゲだ。
「おっ、サンキュー。そいじゃなー」
そのまま財布を土屋皆守の手から引ったくるように取った不良は中身ーーーお札を抜き取ると、財布を投げ捨てるように土屋皆守へと返した。
そのまま歩き去る不良の背中に、土屋皆守は様々な感情が織り込められた溜め息をついた。
「なあ、お前はそれでいいのか?」
「はあ?」
ちょうど足元からの、リボーンの言葉に土屋皆守は言葉を返す。
「そのまんまの意味だ。お前はあんな奴に金を取られたままでいいのか?」
「お前に関係ないだろ!?」
今のいままでリボーンの存在を忘れてーーー忘れようとしていたせいで自分がカツアゲされる情けない場面を見られたことに気がついた土屋皆守は、思わず怒鳴りつける。
「奪い返さなくていいのか?お前の金だろ?」
「そんなことする訳ないだろ。そんなのできる訳ないからな、するだけ無駄だ」
「すげー情けねぇな」
「ほっとけよ」
リボーンに言われ、その情けなさに思わず言い訳をしてしまい更に情けないことを言ってしまった土屋皆守は、半ば開き直っていた。
「やっとオレの出番ってとこか」
「はあ?」
リボーンの呟きに、振り向いて見るまでは。
「死ね」
「……は!?」
土屋皆守へと突きつけられた銃口。思わず血の気が引く。
「ど、どうせおもちゃだろ?」
「いっぺん死んでこい」
「い、いや、マジで意味わかんねーから。だいたいなんで殺されるんだよ」
突然の宣告に、震えた声が口を飛び出すがリボーンは動じない。
「死ねば分かる」
その言葉と共に、銃声が響く。土屋皆守の眉間に衝撃が走る。
マジで死ぬのか、この世からお別れか、こんな赤ん坊に情けないとこ見られて死ぬのか、こんな赤ん坊に良いようにやられたまま死ぬのか、あんな奴に金を取られたのが人生最期のことなのか、どうせ死ぬなら死ぬ気ででも金取り返したかったな。
死にゆく土屋皆守の脳裏を走った思考を単純に、一言でまとめれば。
それは死ぬほどの後悔だった。